146 （56） 氏名（生年月日） 本 籍
学位の種類
学位授与の番号 学位授与の日付 学位授与の要件学位論文題目
論文審査委員
ワタ渡
ナベ辺
スナ二面（
医学博士 乙第870号昭和63年1月22日
学位規則第5条第2項該当（博士の学位論文提出者）
外科的切開法が心房伝導に及ぼす影響に関する実験的研究 （主査）教授 小柳 仁 （副査）教授 高尾 篤良，教授 平田 幸正論 文 内 容 の 要 旨
目的 僧帽弁膜症，心房中隔欠損症，左房粘液腫症例など 心房に慢性的な負荷のかかった疾患では，心房切開法 が術後の上室性不整脈発生率に有意の影響を及ぼすこ とが認められている．心房伝導速度及び伝導様式に最 も影響の少ない切開法を知る目的で動物実験を行っ た． 実験方法 雑種成犬15頭を用いた．左房を含めた心房全体の伝 導様式を検討するのはin situでは困難であるため，摘 出した心臓に，人工心肺装置を用いて冠灌流を行い拍 動を維持するモデル（摘出拍動心標本）を用いた．冠 灌流量，灌流血温度，血液ガス所見，及び電解質内容 を生理的条件に保っておき，．心房表面及び：右房心内膜 面の近接電位を測定した．さらにこの測定値をもとに 興奮伝導等時間線図（isochrone map）を作図し，伝導 パターンを見た．測定は，①心摘出前，②摘出後心房 表面，③心房切開後心房表面及び二二心内膜面，につ き行った． 結果 ①阿房表面について摘出前と摘出後とで伝導時間及 びパターンを比較したが，両者間に有意の変化はな かった．②摘出心につき伝導を調べると，：右房表面で は洞結節を起点にして放射状に興奮が広がってゆく が，分界溝に沿った伝導が最も速かった，また左房表 面ではBachmann束に沿っていち早く上面に伝導し， しだれ柳状に下部に伝わっていった．③心房間溝に沿 う左房切開，及び房室間溝に沿う右房最：下端の切開を 施行しても上記の伝導パターンに有意の変化を認めな かった．一方，心房中央部に切開を加えると表面伝導 様式は大きく変化し，切開部を憾んで20～30msecの 伝導遅延を生じた．④右房心内膜面では後：方分界稜に 沿った筋束と中隔の前方の筋束の双方を伝って興奮が いち早く伝わり，洞結節より房室結節近傍まで36．0± 5．4msecを要した．⑤卵円窩切開により伝導パターン は変化しなかったが，切開線が前方筋束に及ぶと切開 部で20msec程度の遅延が生じ，更に切開線が後方分 界稜に加わるとパターンは著しく変わり，房室結節へ の伝導伝達も59．3±4．2msecと有意（p〈0．05）に遅れ た． 結論 右側左房切開が心房伝導に有意の影響を与えないの に対し右回，並びに中隔切開を施行すると伝導様式に 変化を生じ，更には結節間伝導の有意の遅延を起こす 場合があることがわかった．伝導障害を起こさないた めには，右房切開に際し房室間溝に沿って最下端で入 り，分界溝（稜）や中隔の前方の筋束に不要な侵襲を 加えないことが重要と考えられた． 一810一147
論 文 審 査 の 要 旨
開心術による心内修復において，心房切開法は心室中隔，心房中隔，房室弁への到達法として重要 である．また，ほとんどの開心術において静脈側脱血部位として心房が選ばれる．このような実態に 比べ，心房への侵襲についての系統的な研究は見られない．本研究は，近年きわめて進歩発達した電 気生理学的方法を用いて心房興奮伝導等時間線図を描き，心房における外科手技に理論的根拠を与え たもので，学問的価値がきわめて高いものと考える． 主論文公表誌 外科的切開法が心房伝導に及ぼす影響に関する実験 的研究日本胸部外科学会雑誌第35巻第6号
839～845頁（昭和62年6月10日発行） 副論文公表誌 1）冠状動脈バイパス術後の上室性頻脈性不整脈 一発生誘因の検討一 Coronary 2 （1） 121～127 （1985） 2）心表面および心内膜面マッピング法を用いた心 房性不整脈の研究一外科切開と心房性不整脈 との関連一 心臓ペーシソグ 2（3）298～299（1986）3）WPW症候群に対するKent束切断術一心外膜
アプローチ法の検討一 胸部外科 39（8）589～598（1986） 4）心房マッピングによるKent束の部位診断一実 験的検討一 呼吸と循環 35（6）639～645（1987） 5）心外膜アプローチ法による副伝導路切離術一左心型WPW症候群への適用一
胸部外科 40（11）892～896（1987）6）Cryosurgica互ablation of the Kent bundle from the epicardial side：Aclosed－heart technique for Wo｝ff－Parkinson－White syn－ drome（Kent束の心外膜側よりの凍結離断
術）
Proceed三ng of the free paper sessions of the International Synposium on Cardiac Arr－
hythmias 426～429（1987）
