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下顎骨に発生した大きなエナメル上皮腫の1例

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(1)

臨床報告 ( 東 女 医 大 誌 第5

5

巻 第

5

号)

4

7

1

-

4

7

5

昭 和

6

0

5

月 51

下顎骨に発生した大きなエナメル上皮腫の

1

東京女子医科大学歯科口腔外科(主任河西一秀教授〉 オギウチ ヒ デ キ アンドウ トモヒロ サングウ ヨシクニ

扇 内 秀 樹 ・ 安 藤 智 博 ・ 三 宮 慶 邦

ア ベ ヒロユキ カワニシ イツシユウ

阿 部 広 幸 ・ 河 西 一 秀

(受付 昭和6

0

2

月1

3

日〉 緒 言 エナメル上皮腫は胎生期のエナメル器に類似 し,実質が歯匪の上皮成分に由来した歯原性腫虜 で,しばしば大小の嚢胞を形成することを特徴と している. 最近,私達は右下顎骨に発生した充実性の大き なエナメル上皮腫に対し,可及的下顎骨を保存す る下顎下縁切除術を行い骨欠損部には新鮮腸骨稜 移植による即時再建を行い満足すべき結果を得た ので報告する. 症 患者:

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歳,男性. 伊j 初診:昭和

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日. 主訴:右頬部の腫脹. 家族歴:特記事項なし. 既往歴:分娩時に股関節脱臼を指摘され一時ギ ブス固定をしていた様で、あるが現在も左右足が不 均等である. 現病歴:約

7

年前に右頬部の腫脹に気づくも無 痛性のため放置していたが,徐々に増大傾向に あった.1年前に了百

l

ゥ蝕のため近医で抜歯され, その後急に増大傾向が著明になり当科を受診して いる 現 症 全身所見:栄養体格は中等度,本学整形外科で 左変形性股関節症,外科で、胤径ヘルニアで手術の 適応と診断されている. 顔貌所見:左右非対称で右頬部から下顎下縁部 にかけ手挙大の比較的境界明瞭な骨様硬の腫癌が あり,表面皮膚は健康色で,自発痛,圧痛はない, また下口唇麻癖は認められない(写真1). 口腔内所見:右側下顎第1小臼歯部より下顎枝 前縁にかけ,頬舌側に境界明瞭な骨様硬の腫癌が 認められる.表面粘膜は凹凸不正でやや赤色を帯 び一部角化部があり上方は岐合線上を越えてお り,上顎対合歯による潰蕩が認められる(写真

2

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正司は動揺もなく電気歯髄診断ではいずれも生 活歯であった.

X

線所見:下歯槽管上方で司根尖部より下顎 枝前縁にかけ境界明瞭な多房性の骨吸収像がみら れる〔写真

3

, 4).

CT

像では右下顎骨頬側に半 球状充実性の腫虜膨隆が認められ,骨は蜂寵状に 吸収している(写真

5)

.

臨床検査所見・特に異常は認められない. 臨床診断・エナメル上皮腫. 処置および経過:昭和

5

9

7

5

日,組織試験 切除によりエナメル上皮腫の診断を得た.

8月 1

GOF

全麻下にて右下顎下縁に約

15cm

の皮膚 切開を加え,下顎骨下縁より骨膜を鈍的に剥離, 周囲組織とは一部癒着があったが比較的容易に腫 虜を露出できた.腫蕩は頬側に比較的境界明瞭な 半球状骨様の膨隆をしており頬側骨はほとんど吸 収していた.舌側への膨隆は軽度で、あった(写真

6

).手術は可及的下顎骨を保存するように心がけ

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写真l 術前顔貌所見 写真2 口腔内所見 腫蕩辺縁部の骨をエアトームにて切除し腫虜を一 塊として摘出した.骨吸収が多房性のため残存骨 内面の腫蕩様組織は十分に掻胞し,顎骨補強と顎 堤形成のため腫蕩摘出部に新鮮腸骨移植を行な い,骨片はミニプレートで固定した(写真7).現 在術後

6

カ月であるが再発傾向もなく,顔貌はほ ぼ対称であり,移植骨の生着も良好で,顎堤もよ く形成されており機能的,審美的にも良好な結果 を得ている(写真

8

).しかし現在も右オトガイ神 経支配領域に軽度知覚麻癖があり経過観察中であ る. 摘出標本所見 :大きさ

6.5X4X3c

m

,卵円形,弾 性硬で表面は比較的滑沢で赤色から灰白色を呈 写真3

X

線所見 し,割面は充実性,帯黄白色である.肉眼的には 嚢胞様所見は認められない(写真

9

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.

病理組織学的所見 ・腫蕩実質は

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を呈し,間質は線維性組織で高円柱細胞が接 している.内方は星状細胞で,全体としてエナメ ル器に類似した構造を呈している.星状細胞部に は鯵質変性ないし角質変性を示す所も認められ る.また嚢胞形成も随所にみられ,上皮下付近の 胞巣は肩平上皮に類似し 一部で小さな頼粒細胞 -472

(3)

写真4 オノレソパントモグラム所見 写真5 CT像 巣も認められる (写真

1

0

,11). 病 理 組 織 学 的 診 断 :

Ameloblastoma

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WHO

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型 (石川). 考 察 エナメル上皮腫は顎骨内に発生し,発育は極め て緩慢な歯原性腫蕩である.欧米では口腔腫蕩の 約

1%

であるが,本邦では癌腫についで多いとい われ発現頻度は欧米に比べ高いようである1)-叫.

20-30

歳代に好発し,発生部位は圧倒的に下顎臼 歯部に多い.病理組織学的には良性腫蕩に属する がしばしば再発したり2)叫,まれに悪性化6)-9)する もの,さらに遠隔転移症例の報告10ト13)もみられ臨 床的には良性と悪性の中間の腫蕩と考えられてい るへ再発率は,

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例中

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例), -473 53 写真6 術 中 写真7 術中 (腸骨移植) 写真8 術後X線 所 見

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例中

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例),平出3)は

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例中

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8

例が再発症例であったと述べ,摘出や掻胞等の 姑 息 的 な 方 法 が 行 わ れ た 場 合 に は

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l6 )

(4)

写真9 摘出物所見 (右 割 菌 〕 写真10病理組織像H-E染色 (弱鉱大〕 写真11病理組織像H-E染色 (強拡大〉

29%

,品川ら

1η2%

Small

1

46%

と高頻度に再 発が起っているのに対し,顎切除が行なわれた場 合には

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と少ない. 本腫蕩は骨に対して浸潤性に増殖するものがあ り,また多房型が多いことから姑息的な手術が行 なわれた場合に腫蕩組織が残存しやすく,再発の 原因となると考えられている.本腫虜の大きさは, 一般に鶏卵大から鷲卵大であるが,巨大なものと して

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2

1)

に よ れ ば

Schmuziger(930

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の約

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に達した報告があると 述べ,本邦では増山ら山

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の大きさ

1

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1

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16cm

,充実性で

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のものが最大と思われる. 花田ら

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の小児頭大,木村

2

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8cm

重さ

3

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の報告がみられるが,近年では 以前のような巨大な症例に遭遇することは少な い.著者らの症例は自覚してから

7

年放置してお り手挙大に増大し,摘出腫蕩は

6.5X4X3cm

の比 較的大きな充実性エナメル上皮腫で、あった.充実 性エナメル上皮腫は嚢胞性に比べ少ないものとさ れており,

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は全体の

19.1%

Smalll

5)

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, 本 邦 で は , 清 水 吋

.1%

, 平 出 吋

3%

,寺 崎吋

3.8%

と報告している.充実性エナメル上皮 腫は石川ら1)の分類では1,

I

I

型に相当するもの が多く,また低分化型で,嚢胞形成が少なく間質 の量が多いことを指摘している.本症例でも凹型 に近い部分もみられるが間質の量も多く,実質胞 巣内部に小嚢胞形成はみられるが,大嚢胞の形成 は認められず

I

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型が主体であった.治療法として

(5)

は , 悪 性 腫 療 に 準 じ て 顎 骨 の 離 断 あ る い は 連 続 離 断 す る 根 治 療 法 と 腫 壌 を 含 め た 顎 骨 部 分 切 除 , 摘 出 あ る い は 開 窓 療 法 な ど の い わ ゆ る 姑 息 的 療 法 が ある.Skatkinら

1

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中村2川 主 悪 性 腫 療 に 準 じ て 根 治 的 処 置 を す べ き と 述 べ て い る が , 嚢 胞 性 で 鶏 卵 大 か ら 鷲 卵 大 の も の で は 姑 息 療 法 で も 完 全 治 癒 が 期 待 で き , 経 過 が 長 い こ と か ら 再 発 し て か ら 顎 切 除 を 行 な っ て も 遅 く は な い と 思 わ れ る . 寺 崎4)は 最 初 は で き る だ け 保 存 的 に 行 な う べ き で あ る と 述 べ,伊藤18)も 嚢 胞 性 エ ナ メ ル 上 皮 腫 で , 特 に 若 年 者 の 場 合 に 開 窓 術 を す す め て い る . 我 々 は , 年 齢 , 腫 虜 の 大 き さ , 種 類 , 再 発 例 な ど を 考 慮 し 術 式 を 決 定 し て い る . 本 症 例 の よ う に 比 較 的 大 き な 充 実 性 エ ナ メ ル 上 皮 腫 で 、 は 顎 切 除 の 根 治 的 療 法 を 考 え た が , 形 態 的 , 機 能 的 な 面 を 考 慮 し , 可 及 的 下 顎 下 縁 骨 を 残 す よ う 腫 虜 周 囲 の 健 康 骨 を 切 除 し , 腫 療 と 周 囲 骨 を 含 め ー 塊 と し て 摘 出 す る 下 顎 下 縁 切 除 術 を 行 な っ た . 大 き な 欠 損 腔 に は 腸 骨 移 植 に よ る即時再建術を施行した.顔貌はほぼ左右対称で, 歯 槽 堤 も 良 く 形 成 さ れ , 術 後 は 審 美 的 , 機 能 的 に 満 足 す べ き 結 果 を 得 た . 今 後 は , 長 期 に わ た り 経 過 観 察 を 行 な う 予 定 で あ る . 尚,本論文の要旨は第3回口腔腫蕩懇話会において 発表した.(別府市 1985年 1月19日〉 文 献 1)石川梧朗・秋吉正豊・口腔病理学 II.改 訂 版 永 末 書 庖 京 都 ( 1982)463頁 2)清水正嗣:北西ドイツ顎外科学教室におけるエナ メノレ上皮腫54例の臨床的および病理学的研究;第 1報.臨床統計的観察および X線学的所見につい て. 口病誌 30 122-126 (1963) 3)平出経布:エナメノレ上皮腫の臨床的ならびに病理 学的研究. 口外誌 4 214-228 (1958) 4)寺崎太郎・エナメノレ上皮腫に関する臨床病理学的 研究.阪大歯誌 4 1277(1959) 5)柴崎佐平.球部上皮腫の臨床的ならびに病理組織 -475 55 的研究.歯科学報 60 978-999 (1960) 6)宇治寿康 癌変性を伴へるエナメノレ上皮腫の l例 並 び に そ の 処 置 に つ い て . 口 外 誌 261-63 (1956) 7)関屋保憲・他.一部癌化せるエナメノレ上皮腫の1 例並びに下顎半側離断後の顎補綴.口科誌 5 245(1956) 8) Carr, R.F., et al.: MaJignant ameloblastoma from 1953 to 1966. Oral 5urg 26 514-522 (1968) 9)服部孝範・他 悪性エナメノレ上皮腫の一例.日口 外誌.16 41-43 (1970) 10)伊藤腎一・他:肺転移を伴った悪性エナメノレ上皮 腫の1剖検例.口病誌 29 167 -175 (1962) 11)杉村正仁・他:悪性化した下顎骨エナメノレ上皮腫 の脊椎転移例. 日癌治 3 326(1968) 12)宮崎 正・他・腰椎骨に転移した悪性エナメノレ上 皮腫の1例. 口科誌 17528-536 (1968) 13)手島貞一・他 著明な肺転移を伴った下顎の悪性 エナメノレ上皮腫の1例. 日口外誌 23 830-836 (1977) 14) Robinson, H.B.G.: Ameloblastoma: A study of 379 cases. Arch Path 23 664 (1937) 15) Small, I.A., Waldron, C.A.: Ameloblas.

tomas of the ]aws. 05 O M OP 8 281(1955) 16) Bernier, J.L.: The Management of Oral Disease. Mosby Co. 5t. Louis (1955) 985 17)品川 顕・逸見穣:アダマンチノームの34例に ついて.大日本歯科医学会々誌 32 54(1934) 18)伊藤 多:開窓療法を行なった下顎骨エナメノレ上 皮腫の1例.北勤医誌 3 55(1976) 19) Shatkin, S., et al.: Ameloblastoma: A rational approach to therapy. 05 O M OP 20 421 -435 (1965) 20) 中村平蔵:エナメノレ上皮腫について. 日歯医師会 10 335(1957) 21)Thoma

K.H.: The pathogenesis of the odontogenic tumors. 05 O M OP 4 1262(1951) 22)増山禰太郎・塩田研次:巨大な下顎エナメノレ上皮 腫. 口:外誌 24-6 (1956) 23)花田道成・他:巨大な Adamantionomaの 1例. 日口外誌 19 227 (1968) 24)木村邦武・巨大なエナメノレ上皮腫の 1例. 日口外 誌 14221(1968)

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