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日本郵政グループにおける経営の現状と経営改革 : 株式上場に向けての課題と展望 (小椋康宏教授 退任記念号) 利用統計を見る

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株式上場に向けての課題と展望 (小椋康宏教授 退

任記念号)

著者

石井 晴夫

雑誌名

経営論集

85

ページ

37-46

発行年

2015-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007106/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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日本郵政グループにおける経営の現状と経営改革

――株式上場に向けての課題と展望――

Management Challenges and Reforms of the Japan Post Group

: Challenges and Prospects Towards Initial Public Offering

石 井 晴 夫 はじめに 日本郵政グループは、持株会社である日本郵政(株)の下で、日本郵便(株)、(株) ゆうちょ銀行、(株)かんぽ生命保険の3つの事業会社が郵便・貯金・保険などの業務 を中心に行っている。本稿では、日本郵政グループの経営の現状並びに郵政事業を取 り巻く経営環境について、財務・事業・経営面から分析し、同グループの課題と展望 を明らかにすることを目的としている。さらに、2015 年秋に予定されている日本郵政 ㈱の株式上場に向けて、財政制度等審議会国有財産分科会答申を中心に主要な点を取 り上げ、今後必要とされる取組み方策や、日本郵政グループの企業価値向上策などに ついても考察することとする。 1. 法令に基づく日本郵政の制度改正 2007 年(平成 19 年)10 月 1 日、それまでの日本郵政公社は「郵政民営化関連法」 により、持株会社である日本郵政㈱とその傘下の4 つの事業会社(郵便事業、郵便局、 ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)に民営・分社化された。しかし民営化以降、日本郵 政グループ各社には分社化によるさまざまな問題点が顕在化したことから、その弊害 を軽減させるべく、国会で幾度かの関連法案の審議が行われた。その結果、民営・分 社化後約4 年半が経過した 2012 年(平成 24 年)4 月 27 日、第 180 回国会で「郵政 民営化法等の一部を改正する等の法律案」が可決・成立し、同年5 月 8 日に公布され た。これにより、2012 年 10 月 1 日から郵便事業㈱と郵便局㈱が統合され、日本郵政 グループはそれまでの5 社体制から 4 社体制へと再編されたのである(1)。図1 は、再 編後の日本郵政グループにおける全体像をみたものである。 同時に、ユニバーサルサービス(全国あまねく均一で公平なサービス)の範囲が拡 充され、今までの郵便サービスのみならず、貯金や保険における基礎的な金融サービ スについても郵便局で一体的に利用できる仕組みが確保されるよう改められた。さら に、持株会社である日本郵政㈱の株式については、2011(平成 23)年 11 月 30 日に 可決・成立した「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源 の確保に関する特別措置法」により、政府は、復興債の償還費用の財源を確保するた め、日本郵政㈱の経営状況や収益見通し、加えて、その他の事情等を勘案しつつ株式 処分のあり方を検討し、その結果に基づいて、発行株式総数の3 分の2 を限度として、 できる限り早期に処分することとされた(2)

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図1 日本郵政グループにおける全体像 出典)日本郵政グループ『日本郵政グループの概要』2014 年4 月14 日より抜粋。 2. 日本郵政グループ各社の経営状況 2014(平成 26 年)11 月 14 日、日本郵政グループの 2015 年(平成 27 年)3 月期 の中間決算が発表された。なお、2015 年 3 月期の中間決算には、日本郵政(株)及び 3事業会社を含む連結子会社16 社と関連会社3社が含まれている。 まず、全体的な内容についてみると、連結経常収益は7 兆 1,056 億円(前年中間期 比4,325 億円減)、連結経常利益は 5,187 億円(同期比 89 億円増)、連結中間純利益 は2,171 億円(同期比 26 億円減)であり、グループ全体としては減収であるが、利益 はほぼ横ばいで前期並みの数値を確保している。また、2015 年 3 月期の通期見通し は、連結経常利益8,200 億円、連結当期純利益 3,300 億円を見込んでいる。表 1 は、 日本郵政グループにおける2015 年 3 月期の中間決算の経営成績の概要をみたもので あり、表2 は、同グループの 2015 年 3 月期の通期見通しを示したものである。

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表1 日本郵政グループ 2015 年 3 月期 中間決算の経営成績 (単位:億円) 項目 日本郵政 グループ (連結) 日本郵政 (持株会社・単体) 日本郵便 (単体) ゆうちょ銀行 (単体) かんぽ生命保険 (単体) 経常収益 71,056 1,902 13,251 10,309 51,717 前中間期 (24/9)比 ▲4,325 (▲5.7%) ▲166 (▲8.1%) + 98 (+0.7%) ▲ 393 (▲ 3.6%) ▲4,224 (▲7.6%) 経常利益 5,187 1,359 ▲336 2,730 2,637 前中間期 (24/9)比 + 89 (+ 1.8%) ▲21 (▲1.5%) ▲339 (-) ▲276 (▲9.1%) + 636 (+ 31.8%) 中間純利益 2,171 1,405 ▲ 386 1,817 509 前中間期 (24/9)比 ▲26 (▲1.2%) ▲34 (▲2.4%) ▲349 (-) ▲83 (▲4.3%) + 313 (+160.4%) 注)億円未満の計数は切り捨ててある。また、連結合計額と、単体計数の合算値とは、他の連結処理があるため一 致しない。 出典)日本郵政グループ 『2015 年(平成27 年)3 月期 中間決算の概要』 2014 年11 月14 日による。 表2 2015 年 3 月期 通期見通し (単位:億円) 項目 日本郵政 グループ (連結) 日本郵政 (単体) 日本郵便 (単体) ゆうちょ銀行 (単体) かんぽ生命保険 (単体) 経常利益 8,200 1,160 60 3,900 4,100 当期純利益 3,300 1,270 ▲260 2,600 730 注)1.億円未満の計数は切り捨ててある。また、連結合計額と、単体計数の合算値とは、他の連結処理があるた め一致しない。 2.経営環境に関する前提条件の変化等に伴い、予想と異なる可能性がある。 出典)日本郵政グループ『2015 年(平成27 年)3 月期 中間決算の概要』2014 年11 月14 日による。 次に、日本郵政グループの各企業別の経営成績や財務状況について考察してみたい。 グループ会社を統括する日本郵政(株)は、純粋持株会社としての機能の他に病院事 業や宿泊事業、グループ共通事務の受託事業なども営んでいる。経常収益は前年中間 期比8.1%減の 1,902 億円、経常利益は同 1.5%減の 1,359 億円、中間純利益が同 2.4% 減の1,405 億円である。経常収益並びに経常利益ともに減少しているが、通期見通し では、経常利益1,160 億円、当期純利益 1,270 億円を予想している。

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一方、日本郵便(株)は、2012 年 10 月 1 日に郵便事業(株)と郵便局(株)が統 合してできた会社であり、同社の郵便物等の総取扱物数は95 億 3,500 万通(個)(前 年中間期比1.1%減)となっている。この内、郵便物は同 2.8%減少しているものの、 ゆうパックは同14.4%増、ゆうメール同 5.7%増と小口営業への取組み効果が現れて いる。しかし、郵便についてはインターネットや電子メールの普及等によって依然と して減少傾向にある(図2 参照)。日本郵便全体の経常収益は前年中間期比 0.7%増の 1 兆 3,251 億円、経常利益はマイナスの 336 億円、中間純利益はマイナスの 386 億円 である。収益性の高いゆうパックやゆうメールが増加したことによって、営業収益が 前年中間期比で187 億円増加したものの、人件費や集配委託費等の増加により、営業 費用が同期比で310 億円増加し、結果として郵便・物流事業のみの営業損失は 505 億 円となっている。しかし、同事業の経常収益は、年賀はがき等により下期の割合が高 く、日本郵便(株)の通期見通しでは、2015 年 3 月期の経常利益を 60 億円と予想し ている。 図2 日本郵便(郵便・物流事業)物数の推移 出典)日本郵政グループ 『2015 年(平成27 年)3 月期 中間決算の概要』 2014 年11 月14 日に よる。 さらに、ゆうちょ銀行の経営成績についてみてみると、同行の2015 年 3 月期中間 期末の貯金残高は、郵便局との営業推進体制の強化等により177 兆 9,465 億円とな り、他の銀行と比較すると伸び率は低いものの、貯金残高の微増傾向は維持できてい る(図3 参照)。ゆうちょ銀行では、国内金利が低位に留まる厳しい経営環境下で、資 金運用の利回りは減少傾向になっていることから収益源泉の多様化が必要とされてい る。ゆうちょ銀行は、経常収益が前年中間期比3.6%減の 1 兆 309 億円、経常利益が 同9.1%減の 2,730 億円、中間純利益が同 4.3%減の 1,817 億円であり、同行の通期見 8,551 8,101 8,015 7,934 7,715 1,240 1,332 1,479 1,505 1,591 148 189 183 201 230 9,939 9,622 9,677 9,640 9,535 5,000 10,000 2011/3期 中間 2012/3期 中間 2013/3期 中間 2014/3期 中間 2015/3期 中間 ゆうパック ゆうメール 郵便 (百万通)

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通しでは、経常利益3,900 億円、当期純利益 2,600 億円を予想している。ゆうちょ銀 行単体の自己資本比率(国内基準)は44.91%であり、国内業務のみを行う銀行の自己 資本比率の基準4%以上を大きく上回っている。これは、未だ運用資産(203 兆円) のうち57.4%が国債に依存しており、貸出金はわずか 2 兆 9,005 億円(運用資産全体 の1.4%)であることから計算上のリスクが総じて低く、このことが起因しているもの と考えられる。なお、ゆうちょ銀行では、金融再生法に基づく開示債権は該当がない としている。 図3 ゆうちょ銀行における貯金残高の推移 出典)日本郵政グループ『2015 年(平成27 年)3 月期 中間決算の概要』2014 年11 月14 日によ る。 かんぽ生命保険についても、改めて郵便局を核にした営業推進体制の強化や、2014 年4 月から発売した学資保険の好調な販売などにより、個人保険の新契約件数は 124 万件(前中間期比1.5 万件増)を確保している。しかし、簡易生命保険の保険契約を 含む保有契約総数は、前年期末比66 万件減の 3,420 万件となり厳しい状況が続いて いる(図4参照)。一方、基礎利益については、保有契約の減少に伴う費差益の減少が 進む中で、逆ざやとしての利差益の改善は進んでおり、前年中間期比 428 億円増の 2,680 億円である。また、同社の経常利益は、前年中間期比 636 億円増の 2,637 億円 であり、経常利益から特別損失や契約者配当準備金繰入額及び法人税等を差し引いた 中間純利益は、前年中間期比313 億円増の 509 億円と大幅に増加している。このよう な結果、危険準備金及び価格変動準備金を合計した内部留保額は3 兆 2,119 億円とな っている。生命保険会社の経営健全性の指標であるソルベンシー・マージン(solvency margin)比率は、1,631.5%と引き続き高い数値を示しており、経営上の健全性は維持 されていると思われる。 174.6  175.6  176.0  176.6  177.9  100.0 120.0 140.0 160.0 180.0 2011/3期 2012/3期 2013/3期 2014/3期 2015/3期 中間 (兆円)

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図4 かんぽ生命における保有契約の状況(保険) 出典)日本郵政グループ『2015 年(平成27 年)3 月期 中間決算の概要』2014 年11 月14 日によ る。 3. 日本郵政による中期経営計画の策定と経営改革 日本郵政グループは、2014 年 2 月に「日本郵政グループ中期経営計画-新郵政ネ ットワーク創造プラン2016-」を策定し、発表した。同計画は、2014 年から3ヵ年 に行うべき経営目標を具体的に提示しており、全体で3部構成になっている。第Ⅰ部 は、「グループ中期経営計画策定の環境認識と中期的なグループ経営方針(3つの柱)」 であり、第Ⅱ部は「事業別主要施策」、第Ⅲ部は「経営目標」である(3) 日本郵政は、同計画の中で「トータル生活サポート企業」への脱皮を図ることを表 明しており、中期的なグループ経営方針として、①主要三事業の収益力と経営基盤の 強化、②ユニバーサルサービスの責務遂行、③上場を見据えたグループ企業価値の向 上、の3本柱を基本コンセプトとしている。まず、主要3 事業の収益力と経営基盤の 強化策としては、郵便・物流事業、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の各3 事業共に安 定的な利益を確保するため、変化するマーケット(市場)への迅速な対応や営業力の アップ、手数料ビジネスの強化やサービス品質の向上策などを打ち出している。この 他、金融受託事業や物販事業、さらには不動産事業なども経営基盤を強化する重要な 柱として位置づけている。 次に、ユニバーサルサービスの責務遂行に関しては、「郵便局ブランド」を活かした 地域密着・生活サポートサービスの展開を推進することによって、地域・社会とJP グ ループの共生を実現することができるとしている。特に、「自治体等との連携」、「地域 密着型サービスの展開」、「CSR 活動の推進」を取り上げ、郵政事業における社会的要 請に対する対応を明確にしている。 さらに、上場を見据えたグループ企業価値の向上としては、第1 に、日本郵便、ゆう 5518 4031 3,550 3,102 2,693 2,320 2,155 434 618 802 987 1,167 1,266 5,518 4,465 4,168 3,904 3,681 3,486 3,420 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 民営化時 2010/3期 2011/3期 2012/3期 2013/3期 2014/3期 2015/3期 中間 かんぽ生命保険 簡易生命保険 (万件)

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ちょ銀行、かんぽ生命保険の一体的な営業体制の推進、第2 に、新規業務や新サービ スへの参入による収益ポートフォリオの改善策などを挙げている。もちろん株式上場 を見据えて、マネジメント体制の刷新や事業継続のための経営環境の整備、そして、 内部統制やコーポレート・ガバナンス(企業統治)などの強化は必須である。 中期経営計画で特に注目されるのは、経営基盤を確立するために、日本郵政グルー プ全体で総額1 兆 3,000 億円の投資を実施することを明らかにした点である。主な内 訳は、①郵便局などの施設・設備の老朽化対策や社員モチベーション向上のための施 設・設備投資、②サービス品質の向上、事務作業の効率化やネットワーク高度化など に向けたITシステムの開発・更新、さらには、③グループ保有不動産の資産価値向 上を目的とした不動産開発投資、④新サービスの展開や人材(財)育成を目指した各 種投資等、を行うとしている。以上のように、今後の日本郵政グループ各社において は、経営資源の「選択」と「集中」の経営戦略が鮮明に打ち出されており、この3 年 間で毎年約4,300 億円の投資を予定している。 表3 中期経営計画におけるグループ投資予定額(2014~2016 年度) 郵便局を中心とす る施設・設備投資 ITシステム投資 不動産開発投資 ネットワーク高度 化等に資する投資 総 額 5,500 億円 4,900 億円 1,000 億円 1,600 億円 1 兆3,000 億円 出典)日本郵政㈱資料による。 4. 日本郵政の株式上場に向けての施策 4.1 財政制度等審議会国有財産分科会答申 日本郵政(株)は日本郵政株式会社法、日本郵便(株)は日本郵便株式会社法に基 づいてそれぞれ設立された特殊会社である。他方、(株)ゆうちょ銀行と(株)かんぽ 生命保険は、銀行法及び保険業法によって事業を営んでいる一般会社である。また、 現時点で日本郵政グループは政府が全株を保有し、日本郵政(株)が日本郵便(株) と金融2 社の株式をそれぞれ 100%保有しているが、日本郵政グループでは 2015 年 秋を目標に日本郵政(株)の株式上場に向けて本格的な準備態勢に入っている(4) すでに述べたように、日本郵政(株)の株式については、東日本大震災に係る復興 債の償還財源に充てることが定められていることから、早期の上場と株式価値の最大 化が求められている。そのためには、コンプライアンス水準の向上や経営管理の高度 化などコーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化を図るとともに、既存三事業の 事業改革と戦略的な「選択と集中」に対する投資、さらには新規事業への進出等によ って新たな成長戦略を描くことが必要不可欠である。これらの施策や取り組みを通じ て、日本郵政グループは「投資家に評価される魅力的な企業グループ」を早期に構築 することが喫緊の課題となっている(5) 2014 年 6 月 5 日に財政制度等審議会国有財産分科会から出された『日本郵政株式 会社の株式の処分について』の答申では、郵政株式の売却実施に際しての留意すべき

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事項として、売却方法、売却価格、売却時期、売却規模、適切な投資勧誘、適切な情 報の開示及び保秘などを取り上げている(6)。日本郵政㈱のような民営化企業の株式処 分は、国有財産の処分としての手続きが取られることになるので、国としては日本郵 政グループの企業価値を高めつつ、できる限り高い売却収入を得られるよう制度設計 を行うことが基本とされている。従って、郵政株式の売却に際しては法令に基づく処 分手続きを行うとともに、日本郵政グループ各社の最適なマネジメントを如何に確保 するのかを考慮しなければならない。 答申では、まず日本郵政株式の売却方法を示している。日本郵政が上場を目指して いる東京証券取引所においては、新規公開に伴う公募等の手続きとして、「ブックビル ディング方式」及び「競争入札による公募等による方式」の2 つの方式を取り上げて いる。なお、株式の新規公開時のブックビルディング方式は、1997 年(平成 9 年)の 東京証券取引所の規則改正により採用された方式である(7) このブックビルディング方式とは、新規公開時並びに第二次以降の株式売却時にお いても、一般投資家からある程度大口の購入需要を有する機関投資家まで、広範な投 資家に対する需要状況の調査を通じて予測を行い、その結果に基づいて「売出価格」 を決定する方法であり、合理的な価格形成を行うことができるというものである。答 申が指摘しているように、これらの点を勘案すれば、日本郵政株式の売却方法として は、ブックビルディング方式により売出価格を決定し、証券会社が引受けを行うこと が適当であろう。 4.2 具体的な準備作業に向けて すでに述べたように、政府保有の日本郵政株式の売却方法については、「ブックビル ディング方式」により売出価格を決定し、証券会社が引受けを行うことが適当である としている。この売却に当たっては、その円滑な消化を図る観点から、第1 に、投資 需要の調査を綿密に行う等市場実勢を尊重した適正な売出条件の決定に努めること。 第2 に、日本郵政の企業規模に鑑み、国内の一般投資家からある程度大口の購入需要 を有する海外を含む機関投資家まで広範な投資家の参加を可能とすること。第3 に、 引受団は、以上の内容を反映し得る適正な編成とすること、などが主幹事証券会社の 選定の基本方針として明示された。 こうした状況を受けて、財務省は2014 年 10 月 1 日、日本郵政の株式の売出しなど を担う主幹事証券会社に11 社を選定した旨を発表している。その内訳は、国内大手 証券会社が5 社、外資系証券会社が 4 社、国内中堅証券会社が 2 社であり、今後、法 令に基づいて「株式売出目論見書」が作成されることになる(8) 財政制度等審議会国有財産分科会答申でも指摘されているように、日本郵政株式の 売却に当たっては、その「公平性・公正性」を担保することが極めて重要であるとし、 そのためには、売出人である財務省、株式の発行体である日本郵政や日本郵政グルー プ各社、主幹事証券会社、引受証券会社、その他の関係者は、それぞれにおいて守秘 義務に係る情報の管理の徹底を図ることが必要であると明記している。日本郵政株式 は、新規上場の中でも東証市場第一部に直接上場することになるので、さらに厳しい 要件を満たさなければならない。これからのプロセスとしては、有価証券上場規程の

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各条項に基づいて膨大な申請書類を作成した後、上場申請から東証による上場審査及 びヒアリング等を経て、上場承認までさまざまな検討が行われることになるのである。 5. 今後の展望 現在、日本郵政グループは、各社の企業価値を高めるために今まさにさまざまな施 策を展開している。特に、2014 年度は「中期経営計画」で示された 3 ヵ年の初年度に あたり、ここで具体的に結果を出さなければ将来の株式の売却に弾みはつかない。日 本郵政のケースでは、現状において今秋の株式市場の動向が掴めないのと同時に、日 本郵便㈱における郵便・物流部門の財務体質の強化、さらには金融2 社の成長シナリ オである新規業務への進出や限度額の規制緩和が一向に認められていないことが課題 である。特に、日本郵政グループ各社においては、事業の縛りがあまりにも多く、他 の民営化企業の株式売却とは事業・経営環境の整備面で大きく異なっているといえる。 従って、政府は、国民から真に喜ばれる“新たな郵政事業の創造”と“魅力ある郵政 株式の売却”に全力で取り組まなければならず、斬新な政策の導入が待たれている。 日本郵政グループにおける今後の展望としては、①自社を取り巻く内外の事業環境 について適切な分析を行っているか。②自社の経営戦略、成長性、株式価値、株主還 元等の総合的な分析や評価を行っているか。③自社や関連する業界に関する調査・分 析をバイアスなしで正確に行っているか、などの視点を常に有していなければならな いであろう。今日、多くの日本企業が海外株式市場に上場し、また海外投資家の日本 株買い増しの意欲も強まっている。こうしたことから、海外投資家に対して自社の魅 力が十分かつ正確に理解されるような「インベスター・リレーションズ(IR)」を行わ なければならず、その際、投資家への的確な情報提供や、適正な期待形成に資する効 果的な方策の提案も重要であると考える。 【注】 (1) 今回の会社統合は、民営化以降2 系統に分れていた指揮・命令系統を一本化し、トップマネジ メントの意思決定を迅速にするとともに、郵便局と郵便支店の統合によって年賀はがきやゆうパ ックなどの営業・販売を一体的に推進することを意図している。さらに、分社化によって重複し ている間接部門のスリム化を図るなど、組織の分断によって生じていた様々な問題を改善するこ とを目的としている。 (2) 詳しくは、石井晴夫、樋口徹(2014)『組織マネジメント入門』中央経済社、第5 章2 節を参 照されたい。 (3) 詳細については、日本郵政のURL を参照のこと。 https://www.japanpost.jp/financial/pdf/05_01.pdf (4) 日本郵政㈱の株式上場に関しては、同社の西室泰三社長の記者会見等の中でも詳しく述べられ ている。具体的には、2013 年 10 月 23 日の西室社長の記者会見等を参照されたい。 http://www.japanpost.jp/publication/2013/1023_001.html (5) 日本郵政グループは、2012 年 10 月 1 日の改正郵政民営化の実施に合わせて、「郵政グルー プ・ビジョン2021」を発表した。このビジョン2021 には、民営化以降初めてと言っていいほど 本格的な経営方針と施策が打ち出されており、詳細なビジョンが示されている。日本郵政ホーム

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ページ「郵政グループビジョン2021」http://www.japanpost.jp/group/pdf/04_01.pdf> を参照さ れたい。 (6) 財政制度等審議会国有財産分科会『日本郵政株式会社の株式の処分について』2014 年 6 月 5 日、p.3。(日本証券業協会「会員におけるブックビルディングのあり方等について」 2007 年 11 月 21 日)http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub- of_national_property/report/zaisana260605j.pdf (7) ブックビルディング方式は、新規公開時において一般投資家からある程度大口の購入需要を有 する機関投資家まで、広範な投資家に対する需要状況の調査を行い、それによって需要の積上げ を行いながら、その結果に基づいて「売出価格」(発行価格)を決定する方法である。従って、同 方式には合理的な価格形成を行うことができるというメリットがある。 (8) 日本郵政㈱の西室泰三社長は、2014 年12 月26 日の記者会見で、政府による日本郵政の株式 売出並びに上場に合わせ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険も同時に上場すると発表した。株式売 出の計画では、日本郵政と金融2 社の株式の1 割程度(総額約1 兆3,000 億円)を売却する予定 である。 【参考文献】 石井晴夫(1999)『交通ネットワークの公共政策(第2 版)』中央経済社 石井晴夫、武井孝介(2003)『郵政事業の新展開』郵研社 石井晴夫、金井昭典、石田直美(2008)『公民連携の経営学』中央経済社 石井晴夫、樋口徹(2014)『組織マネジメント入門』中央経済社 財政制度等審議会国有財産分科会(2014)『日本郵政株式会社の株式の処分について』2014年6月5日 東京証券取引所(2008)『2008 新規上場の手引き(市場第一部・市場第二部編)』 宮島英昭「企業統治改革の論点①リスクとれる経営促せ」『経済教室』日本経済新聞、2014 年 8 月 6 日朝刊 日本郵政㈱並びに関連するWebsite を参照 (2015 年 1 月 4 日受理)

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