内生的経済成長の類型と政策の効果
−家計の選択へ影響を及ぼす政策を分析するにあたって−
Types of Endogenous Growth and the Effect of Public Policy
−As the Framework of Analyzing the Policy which does Influence to
Individual Choice −
塚本 純
TSUKAMOTO Jun
1.はじめに 本稿の目的は、公債の発行や社会保障制度など、個人の選択に影響するような政策を分析する枠組 みとしての成長経済モデルの特徴を明らかにすることである。 経済成長マクロモデルの代表的なものは、新古典派的生産関数を仮定したモデルであった。しかし その場合には、定常状態では労働者一人あたりの資本存在量、そして賃金率が一定となる。このよう な新古典派的成長論において経済水準が成長するためには、人口成長を考慮するなど、外的要因の変 化を考えなければならない。これに対して、成長の原動力が何であるかということが、成長論の根本 的問いとして問題にされた。そして、内生的成長を可能とするモデルが数多く示されてきており、 Barro and Sala-I-Maratin (2004)や Jones (1998) などにまとめられている。そのような目的で経済成 長を扱っているこれらテキストの中心課題は、定常状態で一定となる経済成長率である。 上記のような成長論で提示されたモデルは、成長経済への政策的効果を考察する枠組みとして考え ることができる。各時点の賃金率はその時点の資本存在量に比例し、この両者は定常状態においてど ちらも同率で増加していく。それゆえ、定常状態であっても個人の生涯所得は世代ごとにその成長率 で増加していく。そして、個人の効用への効果もその増加の影響を受けることになるからである。 家計の選択、とくに世代間の問題に影響を及ぼす政策は、課税制度や公的年金などの社会保障制度、 また公債などの発行が考えられる。そのような政策の影響について、経済成長に関わる問題として、 また世代間の負担などに関わる問題として、内生的成長モデルにおいて考察してきた研究は、これまでに、Saint-Paul (1992)、 Uhlig and Yanagawa (1996)、Ihori (1997) など多数存在する。しかし、
それらは生産に関しては限定的な条件を仮定し、結局は単純なAK モデルの枠組みで分析を進めてい る。そのような限定により、扱われている経済の状況も限定的になる。政策の分析を現実問題として とらえるには、内生的な成長を可能にする枠組みを再度整理し直した上で、各種枠組みの特徴を示し ながら、その利点と限界を明らかにしておく必要がある。
の下にそれが可能となる経済モデルが提示されてきた。それらを、Barro and Sala-I-Maratin (2004) 第4章を参考に類型分けすると、以下のようになる。
(1)労働投入に関する外部性を仮定したモデル〔タイプ1:外部性モデル〕
Romer (1986) において示されたものである。内生的成長を可能とする枠組みの中では構造が単純 で、家計の側面に焦点を当てて政策を分析する研究においては、比較的多く用いられてきた。そのよ うな研究には、Saint-Paul (1992) や Uhlig and Yanagawa (1996)などがある。
(2)知識の生産を明示することにより技術進歩をとらえたモデル〔タイプ2:特化の経済性モデル〕 中間生産物のバラエティが増加することが生産性の増加をもたらすと考えて定式化している、技術 進歩が製品の種類の拡大という形で現れるようなモデルである。技術進歩のプロセスを内生化したも のであり、新たな産業の出現を模していると考えることも可能である。 そこには、新たな財の発見を生産する方式の違いに応じて、以下のような二種類の異なった定式化 が存在する。それぞれは、ストックとして計られる知識を生み出す技術的条件に応じて、様々な想定 が可能になる。 (2)−1.最終生産物が必要とされると考えるもの 効用関数に関して用いられていたアプローチを、Either (1982) や Romer (1987) が生産の問題に 適応したものであり、中間財の種類が増加(特化)することを生産性の上昇としてとらえている。こ れらは、開放体系に拡張した Grossman and Helpman (1991) の研究など、広範に応用されている。 (2)−2.労働投入が必要とされると考えるもの
Romer (1990) などにおいて示されているものである。Jones (1995, 1998) などは、知識の集積から もたらされる技術進歩による生産性の上昇としてとらえており、Romer の1解釈版として内生的技 術進歩の問題を展開している。
(3)ミクロ的基礎を持たないAK モデル〔タイプ3:単純AK モデル〕
Jones and Manuelli (1990) が示しているように、収穫が逓減しないという条件が満たされるならば、 内生的成長は可能となる。このようなもので十分であるとの主張にもとづき、収穫不変の生産関数を 用いた考察は、Rebelo (1991) などによって行われている。
(4)物的資本と人的資本の2種類の資本を含むモデル〔タイプ4:人的資本モデル〕
詳細については、Barro and Sala-I-Maratin (2004) の第4章 4. 2 に述べられているが、特定の条件
を与える場合には、集計的生産関数がAKtとなる。また、Ihori (1997) などは、利他性を含んだモデ
ルにおいて、政策の効果を分析している。
政策を分析する枠組みとしての特性を、以上の類型ごとに考察するのであるが、そのために、2. 節では、世代間の問題を含んだ家計の選択について定式化する。それぞれの技術条件において成立す る成長経済について示し、そこから導かれる定常的経済成長率を求めるのが、3.節である。4.節
では、特化の経済性モデルにおいて、技術的条件が変化した場合に均衡がどのように変わるのか、三 とおりのケースについて検討する。以上の検討にしたがって、内生的成長の枠組みをまとめ、限界に ついて述べるのが、5.節である。6.節では、家計の選択に影響を及ぼすような政策変更が経済に 与える影響について述べ、本稿のまとめとする。 2.家計の選択 家計の選択について、ひとつの定式化を提示する。生産と資本蓄積の問題と組み合わされ、そこに 政府が行う政策が具体化されることで、現実の政策を分析する一般均衡の枠組みが示されることにな る。 個人に関しては、二期間生存する個人が、重複世代構造を構成している経済を考える。毎期個人が 生まれてくるが、t 期に生まれる個人をt 世代と呼ぶことにする。各世代の人数をLtで表し、個人の 生存の第一期目は労働を供給する若年期、第二期目は退職後の老年期と名付ける。そして、個人の選 好は世代内でも世代間でも同質であることを仮定する。 t 期における労働賃金率を wtで、成長モデルの類型ごとに与えられる資産のt 期における収益率をrt と表すとき、個人の行動は、以下のようである。t 世代の個人は、若年期に初期保有として与えられ ている労働を非弾力的に1単位供給するとする。このことにより受け取る wtの賃金所得から、cyt (≧ 0) の消費とstの貯蓄を選択する。老年期にはその個人は労働を供給しないものとする。老年期の個人 の所得は、貯蓄からの収益と元本の合計額であり、それを消費cot+1 (≧0)にあてる。以上から、t 世代 の個人の予算制約式は、若年期と老年期それぞれに関して、以下のようになる。 cy t+st= wt (1) cot+1= (1+rt+1) st (2) t 世代の個人の効用水準Utは、若年期の消費cytと老年期の消費cot+1の関数として、 Ut=u(cyt, cot+1) (3) と与えられる。u(・,・)は、各要素について連続微分可能かつ厳密に単調増加な準凹関数であり、ま
た、それはホモセティック、かつcyt→ 0 のときu1→∽、cot+1→ 0のときu2→∽であると仮定する。
t 世代の個人は、(1)と(2)の予算制約式の下で、効用 u(cyt, cot+1) を最大化するように、(cyt, cot+1, st)を
選択する。この最適化問題の解は、効用関数(3)の下では、一階の条件および予算制約式(1)と(2)を解
くことによって求めることができる。このようにして求めた(cyt, cot+1, st)は、(rt+1, wt)の関数として与
えられる。
予算制約式(1)と(2)よりstを消去して整理すると、
となる。(4)において、1+rt+1 は割引要素(利子要素)であり、 Rt+1で表す。また、右辺の wt はt 世 代の個人の生涯所得を若年期の消費財で測った現在価値である。 そして、(3)で与えられる効用関数 u(cyt, cot+1) はホモセティックであると仮定されていたから、cyt について以下のように表すことができる。 cyt= C(Rt+1)wt (5) ここで、効用関数の条件から、C(Rt+1) は連続微分可能であり、また0<C(Rt+1)<1となっている。 ところで、(1)よりst= wt−cytである。これに労働期の消費関数(5)を代入して計算するとき、貯蓄は st= (1−C(Rt+1)) wt (6) となる。(6)で表される貯蓄が経済成長率を決定するのであるが、それは内生的成長を可能にする枠 組みごとに分けて分析する。 3.類型ごとに成立する成長経済の一般均衡と持続的成長率 本節では、1.節で述べた内生的成長を可能とする経済モデルの枠組みそれぞれごとに技術的な想 定を与え、家計の選択と合わせて一般均衡を示す。そこで成立する定常状態の成長率を求めるなど、 それぞれの均衡に関するいくつかの分析を行うが、家計にあわせて、離散時間型のモデルを考える。 生産関数は、現時点以降の各t 期ごとに与えられる。本稿では簡単化のために、すべての経済モデル において固定資本減耗の類は一切ないものと仮定する。 3−1.ミクロ的基礎を考慮しないケース 3−1−1.単純なAKモデル〔タイプ3〕 t 期の産出量 Yt が、t 期の資本ストックKt の関数となり、マクロ的な集計的生産関数が以下のよ うに与えられていると考えて、分析するものである。 Yt= AKt (7) Rebelo (1991) が主張するように、収穫が逓減しないという条件が満たされれば内生的成長は可能 であるから、収穫不変の生産関数を用いた分析は可能である。しかし、生産における資本と労働の限 界生産物が、それぞれ資本の収益率と賃金率と等しくならなければならないことから、 rt = A,wt= 0 となる。労働期の賃金を消費にまわすことを節約することによって貯蓄がもたらされる家計を想定し た、2.節のようなモデルにおいて、このような状態が成立する前提には、無理がある。 Yt= AKt+BKtαL t 1-α
のような、より複雑な関数であっても、(内生的成長をした)十分先の将来においては賃金率は小さ くなるので同様の困難がある。1) その意味で、何らかの追加的工夫が求められる。この点については、3−2.で詳しく述べる。2) 3−1−2.物的資本と人的資本の2種類の資本を含むモデル〔タイプ4〕 Htで人的資本を表し、集計的生産関数を以下のような一次同次関数で考える場合である。 Yt= F (Kt, Ht) (8) (8)式は一次同次関数であるから、 Yt=KtF (1, Ht/Kt) = Ktf (Ht/Kt) となる。ところが、物的資本と人的資本の収益率が同じときには、Ht/Kt が一定となることを示す ことができる。3)そのような条件が成立していると仮定するならば、(7)のようなAK tの関数を示す ことが可能になる。しかし、このように資本の概念を広げて考えてみても、家計の問題と合わせて考 えるとき、3−1−1.と同様の困難がある。ただし、教育を親からの遺産と考えることにより、利 他性のモデルに適応する余地はある。4) 3−2.ミクロ的基礎付けにより内生的成長が可能になり成長率が与えられるケース 3−2−1.労働投入に関する外部性を仮定したモデル〔タイプ1〕 ○生産について 労働投入に関する外部性を含み、内生的成長を可能とする生産関数を仮定する。すなわち、経済全 体では同一の技術を持つI個の個別的企業が存在しており、各個別的i 企業の t 期の産出量 Yi tが、 Yi t= (Ki t)α(AK tLi t) 1-α,0<α<1 (9) のような生産関数で与えられているとする。ここで、Ki tとLi tはそれぞれt 期の i 企業に固有の資本 ストックと労働の投入量であり、またKt =ΣKi tである。外部性を仮定し労働投入Li t にはAKtが乗じ られており、資本へのシェアが固定された数値α( 0<α<1)で与えられている。各企業は、資本 の収益率rtおよび賃金率wtを、それぞれの限界生産物と等しくしなければならないから、 rt = αYi t/Ki t (10) wt= (1−α)Yi t/Li t (11) となる。 t 期の労働供給は、Ltである。各企業の生産関数は同一であるから、Ki t/Li t はすべての企業で同 一比率となり、労働の需給一致を前提としてそれはKt/Lt と等しくなる。以上のような個別的生産 関数(9)と生産に関する条件から、Yt= ΣYi tを求めるとき、集計的生産関数が、
Yt= Σ(Ki t)α(AK tLi t) 1-α = (AK t) 1-αΣL i t(Ki t/Li t) α= A1-αK tLt 1-α (12) と求められる。(10)と(11)で表される資本の収益率および賃金率は、以下のようになる。5) rt = αYt/K t= αA 1-αL t 1-α (10)' wt= (1−α)Yt/Lt= (1−α)AKtLt-α (11)' ○一般均衡 2.節で与えられた家計の条件と、以上の生産の条件に加えて、資本蓄積に関する式を考慮すると モデルが完結する。資産の保有は、個人が選択する貯蓄によるものであるから、 st=Kt+1 (13) である。 個人の最適化問題、生産関数(12)、資本の収益率と賃金率の式(10)'と(11)'、および資本蓄積の条 件(13)によって経済の均衡が与えられる。 資本蓄積の式(13)に(6)のst= (1−C(Rt+1)) wt、賃金率の式(10)'と生産関数(12)を代入すると (1−C(Rt+1))(1−α)AKtLt-α= K t+1 となる。これを解くと以下のようになる。 Kt+1/Kt = (1−C(Rt+1))(1−α)A Lt -α= 1+g t+1 (14) 労働供給が一定である(Lt = L)ならば、(14)にしたがって、Ktは一定の率 g = (1−C(R))(1−α)A L-α−1 で成長する。また、Lt が一定であるから、資本の収益率rt も一定となっている。(12)よりYtも同率 で成長し、そのことによりwtも同率で成長するから、(cyt, cot)も同率で成長することになる。このよ うに、労働供給が一定であるならば、(14)を満たすように均斉成長経路が求められる。その成長率は、 貯蓄関数(1−C (R))と個別的企業の技術的条件に関するαとA の値によって決定される。 ここで、定常状態の成長率が求められるには、労働供給が一定である必要がある。また、労働投入 の外部性がKt の一次関数で与えられていることには注意する必要がある。外部性がKt に比例せずに 逓減するような場合には、後に4−3.で示す事例と同様に、異なった状況となる。 3−2−2.知識の生産を明示することにより技術進歩をとらえたモデル〔タイプ2〕 特化の経済性という概念でとらえられるもので、中間生産物のバラエティが増加することが生産性 増加をもたらすと考えている。新たな財の発見のために、1)最終生産物が必要とされると考える場 合と、2)労働投入が必要とされると考える場合がある。 1)研究企業の新たな財の発見のために最終生産物が投入されると考える場合〔基本モデル〕 基本形は Barro and Sala-I-Maratin (2004) にしたがって、以下のようにまとめられる。 ○最終財の生産企業
中間財Xij tを組み入れていることに特徴がある。同一の技術を持つI個の各個別的i 企業の t 期の 最終財産出量Yi t が、Xij tとLi t の投入から生産される。最終財はすべて同質で、種々の用途に完全 代替的に用いられるものとする。t 期のi 企業において、Li tは労働の投入量であり、Xij tは第j タイプ の特化された中間財の投入量である。あらたな知識が生産されることによってバラエティが増加し、 その累積によりストックとして増加する。t 期の中間財のバラエティをNt で表すと、この中間財の個 数の増加という形で、技術進歩が明示される。以上の前提から、個別的企業の生産関数は、 Yi t= ALi t1−α∫ 0 Nt(X ij t) αdj , 0<α<1 (15) となる。以下に示すように、労働は最終財の生産企業だけが需要するから、ΣLi t= L tである。 t 期における第 j 中間生産物の価格をPj t、賃金率をwt とするとき、各企業は、それらをそれぞれ の限界生産物と等しくしなければならないから、 Pj t = A α Li t1-αX ij t α-1 (16) wt= (1−α)Yi t/Li t (17) が成立する。(16)を書き換えると、以下の中間財の需要関数を求めることができる。 Xij t= Li t(Aα/Pj t)1/(1-α) (18) ○研究企業 jタイプのデザインの発明者は j 中間財の生産者であり、知識がひとたび発明されると、そのデザ インの発明者によって最終財1単位の投入で1単位の中間財を生産することができるものとする。こ のとき、j 企業の t 期の利潤πj tは、中間財の需要関数(18)とLt= ΣLi tを用いて、 πj t= (Pj t−1)ΣXij t= (Pj t−1)ΣLi t(Aα/Pj t) 1/(1-α)= (P j t−1)(Aα/Pj t) 1/(1-α)L t (19) となる。この利潤の最大化を考慮すると、 Pj t = 1/α >1 (20) が成立していなければならない。それゆえに、Pj t はすべての研究企業ごとに同一である。そして、 (18)で与えられるXij tは、中間財j ごとには同一の値、 Xij t = Li tA 1/(1-α)α2/(1-α) = Xi t (21) となる。同様に、(19)で表されるπj tは、以下のようにj には依存せず一定の値で与えられる。 πt = A1/(1-α)(1 −α)α2/(1-α)L t/α (22) 発明された知識は、それ以後の各期に最終財を中間財として転換してそれを最終財の生産企業に販 売させることにより、毎期(22)だけの利潤をもたらす。そのような資産が、市場で流通しているもの とする。t 期の収益率をrtとするとき、t 期に存在する j 中間財の将来収益Vj tは (23) であるから、t 期における資産の市場価格もVj tになる。πj s はj には依存しないから、(23)はすべて Vjt=
∑
t=1 s u=t ∞∏
(1+ru) πj sのj について同一の値となり、Vj t = Vt と表すことができる。この資産を、t 期から(t+1) 期まで保 有することによる収益は、(t+1) 期に受け取る配当(j 企業の利潤)とキャピタルゲインを加えたもので ある。その収益率はrt +1と等しくなるから、 rt +1= πt+1/Vt+(Vt+1−Vt)/Vt (24) が成立する。 以上に加えて、研究企業の知識を生産する構造が与えられると、生産部門についての定式化が完結 する。それについては、最も単純な想定として、知識生産の1単位あたり費用が一定の値ηとなるこ とを仮定する。このことは、最終財の投入Mt によってあらたな知識Mt/η が生み出されることを意 味している。知識生産の関数は Nt+1−Nt= Mt/η となる場合であり、投入Mtに関して収穫一定となっている。 あらたな知識を生み出す費用をVt が超える限り、知識産業にあらたな新規参入企業が存在するは ずであるから、新規参入が自由であることを仮定するならば、 Vt= η (25) が成立する。このことは、Vtが各期ごとに同一となるという点で、大きな意味を持つ。その条件が満 たされれば、(24)は、 rt+1= πt+1/η (26) となる。Ltが一定のときには、(22)で示されるように利潤は各期ごと同一であるから、(26)で与えら れる収益率も各期ごとに同一となる。 以上で、生産に関する条件をすべて与えた。さらに、家計の選択、資産保有の条件を考えると、経 済の均衡を定式化できるが、その前に生産部門総体としてのマクロ的な関係についてまとめておく。 ○生産部門総体としての集計的生産関数 最終財企業全体が需要する中間財j はΣXij tである。また、(21)より、Xij tはLi t A1/(1-α)α2/(1-α) であり 中間財j ごとには同一であるから、最終財企業が需要する中間財の総量を、 Xt=∫0 NtΣX ij tdj = NtΣLi tA 1/(1-α) α2/(1-α)= N tA 1/(1-α)α2/(1-α)L t と求めることができる。また、Xij tは中間財j ごとに同一となることから、∫0 Nt(X ij t) αdj = N t Xi t αとな っている。それゆえに、i 企業の生産関数 (15)は Yi t= ALi t 1-αN tXi t α= AL i t 1-α(N t Xi t) αN t 1-α (27) となる。(27)を合計して最終財の生産量Ytを求めるとき Yt= ΣYi t= ΣALi t 1-α NtXi t α= AN tΣLi t 1-α (Li tA 1/(1-α)α2/(1-α))α = A1/(1-α)α2α/(1-α) NtLt (28) となる。以上のように、最終財の生産Yt は (Nt, Lt) の関数となり、マクロ経済の集計的な生産関数 は、(28)のように与えられる。
また、Yi t/Li tはすべてのi 企業について同一だから、(17)は以下のように示すこともできる。 wt= (1−α)Yt/Lt (29) ○一般均衡 家計の条件と、生産の条件に加えて、資産保有についての式を考慮するとモデルが完結する。 家計は、t 期に資産を購入し、(t+1) 期首に保有しようとするが、その存在量はNt+1 であり、また、 その資産価格はVtとなる。その資産の保有は個人が選択する貯蓄によるものであるから、 Ltst=VtNt+1 (30) が成立する。 個人の最適化問題、生産関数(28)、資産の収益率と賃金率の式(26)と(29)、および資本蓄積の条件 (30)によって経済の均衡が与えられる。この均衡の性質を調べるために、成長率を求める。 知識企業の自由参入条件(25)より、資産保有の式(30)は Lt st= ηNt+1 (31) となる。家計の貯蓄を表す(6)、および(28)と(29)を代入すると、(31)は、 Lt(1−C(Rt+1))(1−α)A1/(1-α)α2α/(1-α)N tLt/Lt= ηNt+1 となるから、それを解いて、以下のN tに関する関係式を求めることができる。 Nt+1/N t= (1−C(Rt+1))(1−α)A1/(1-α)α2α/(1-α)L t/η = 1+gt+1 (32) (32)を満足するように、成長率 gt+1が決定されるのであるが、労働供給が一定である(Lt=L)なら ば、(32)にしたがって、Ntは一定の率 g = (1−C(R))(1−α)A1/(1-α)α2α/(1-α)L/η = 1 で成長する。それゆえ(28)よりYtも同率で成長し、そのことによりwtも同率で成長するから、(cyt, cot) も同率で成長することになる。この成長率は、貯蓄関数 (1−C(R)) と個別的企業の技術条件のαとA の値、それに加えてηによって決定される。(32)の右辺には、Ltの項が存在する。この枠組みにおい ても、労働供給が一定である条件が必要である。 2)研究企業における新たな財の発見のために労働が投入されると考える場合 労働投入は、最終財企業と知識企業の両方で投入され、1)とはこの点で異なる。その違いがもた らす結果について示すが、労働供給が一定であるという、1)の場合に必要とされた条件が満たされ ていることは前提とする。 ○最終財の生産企業 最終財の生産企業に関しては、1)と全く同様である。t 期の最終財生産 i 企業の労働投入量Litの 定義も全く同じなのであるが、知識の生産にも労働が投入されるから、最終財産業の労働投入の総計 をΣLi t= L Y tと表すとき、この総計LY tは労働供給Ltに等しくはならない。 ○研究企業
研究企業についても、利潤に関する(22)が、 πj t = (Pj t−1)ΣLi t(Aα/Pj t) 1/(1-α) = A1/(1-α) (1 −α)α2/(1-α) LY t/α (22)' となることと、知識の生産に関する点以外は同一である。 知識の生産については、労働1単位の投入で知識がNt/η単位生産できるものとする。ここで、労 働投入に関しては収穫一定であるが、知識Ntが蓄積されるにつれてより多くの知識が効率的に生産さ れることを仮定している。6)知識部門への労働の投入L Nt に対してあらたな知識LNt Nt/η が生み出 されるから、知識生産の関数は、 Nt+1−Nt= LN tNt/η となる。すなわち、知識1単位の生産にη /Nt 単位の労働が必要なのであり、最終財単位での費用 はwtη /Ntとなる。そして、自由参入条件は、以下のようになる。 V t= wtη /Nt (33) ○生産部門総体としての集計的生産関数 集計的な関係で変更されるのは、生産関数(28)と賃金率を決める(29)が、それぞれ Yt = A1/(1-α)α2α/(1-α)N tLY t (34) wt= (1−α)Yt/LY t (35) となり、また、労働の需給一致の条件が以下のとおりになることである。 LY t+LN t= Lt (36) (34)と(35)より、自由参入条件(33)は Vt= (1−α)A 1/(1-α) α2α/(1-α)N tLY tη /NtLY t= (1−α)A 1/(1-α)α2α/(1-α)η となり、Vtは各期ごとに同一となる。その条件および、(22)'、(34)と(35)より、収益率の式は、 rt+1 = πt+1/Vt= αLY t/η (37) で与えられる。また、労働供給が一定でありLt が定数であること、定常状態であることを前提とす るとき、LY t/Ltは一定となり、7)そして、収益率は各期ごとに同一となる。 ○一般均衡 資産保有の式は Ltst= wtηNt+1/Nt (38) となり、家計の条件と、生産関数(34)、資産の収益率と賃金率の式(37)と(35)に加えて、資産保有に ついての式(38)を考慮するとモデルが完結する。8) (6)、(34)と(35)を代入すると、(38)は、 Lt(1−C(Rt+1))wt = wtηNt+1/Nt となる。これを解くと Nt+1/Nt= (1−C(Rt+1))Lt/η = 1+gt+1 (39)
である。(39)を満足するように決定される成長率gt+1は、労働供給が一定ならば、定常的成長率にな る。Ytも(34)にしたがって同率で成長し、そのことによりwt も同率で成長するから、(cyt, cot) も同率 で成長する。その大きさを決定するのは、貯蓄関数 (1−C(R)) とηの値である。知識の生産において、 労働を投入すると考えたとしても、最終財を投入する場合と同様になる。 以上のように、特化の経済性モデルにおいても、特定の係数が与えられるならば内生的に成長する 経路を示すことが可能である。そのときに成立する持続的成長率は、上記のように具体的に求めるこ とができた。それらは貯蓄関数と生産部門で与えられる技術的な条件を示す係数によって与えられ る。 特徴的なことは、設定として与えられた条件により収益率rtが一定となっているということである。 そのような条件を満たす技術的条件が与えられていたのである。とくに、労働供給それゆえ労働人口 が一定であることは、条件としてすべてのケースにおいて必要であった。 特定の条件の下で求められた上記の結果は、その条件を変えることによって、異なったものになる 可能性がある。そのような柔軟性を特化の経済性モデルは持っているということもできるが、他方、 そのような条件が満たされる場合などに限定されて、内生的成長が可能になるということもできる。 次節では、条件の変更がどのような結果の違いをもたらすのかについて、比較し検討する。 4.特化の経済性モデルにおける研究企業の生産構造と持続的経済成長率 内生的成長の状況をより明らかにするために、3−2−2.で述べた基本的モデルの技術的条件を 変化させて、均衡の様子を調べる。基本的には同様の結論となるので、以下では、あらたな知識生産 に最終財を用いる場合に限定して分析する。 4−1.知識生産の費用が1単位あたりηL tで労働供給が一定の場合
これは、Barro and Sala-I-Maratin (2004) 6.1.7. において示されていた想定の変形である。以下で
示されるように、成長率に規模の効果がない一例となる。9)具体的には、最終財の投入M t により知 識がMt/ηLtだけ生み出され、 Nt+1−Nt= Mt/ηLt となることを仮定する。労働投入Lt が与えられているならばMtに関して収穫一定となるが、他方、 労働投入Ltに応じて生産性が変化し、知識生産の1単位あたりの費用ηLtもそれに応じて変化する。 自由参入条件は Vt= ηLt (40)
となり、労働投入Ltが一定のときにはVtも一定となる。このとき、(26)に(22)と(40)を代入して、 収益率は以下のように求めることができ、収益率r も各期ごとに同一になる。 rt+1= (1 −α)A 1/(1-α)α2/(1-α)/αη = r 資産保有の式(20)は、 Lt st= ηLtNt+1 となり、Ytを示す(28)とwtを示す(29)を代入して計算すると、 Nt+1/Nt= (1−C(R))(1−α)A1/(1-α)α2α/(1-α)L t/ηLt+1 (41) となる。(41)で、労働投入が一定であることを用いると、 Nt+1/Nt= (1−C(R))(1−α)A 1/(1-α)α2α/(1-α)/η = 1+g であり、成長率g を求めることができる。この成長率は、貯蓄関数 (1−C(R)) と個別的企業の技術 条件、α、A とηの値によって与えられる。特徴的なことは、成長率が労働力人口の水準とは無関係 に与えられている点である。Ytや (cyt, cot) も同率で成長することは、これまでと同様である。 4−2.知識生産の費用が1単位あたりηL tで労働がnの率で成長する場合 4−1.の結論より、知識生産の費用が1単位あたりηLt である場合には、人口の変化を考える 余地が出てくる。そこで、各世代の人口が成長率n (>0)で増加しており、それゆえ、労働供給もn の 率で成長する場合を考える。各期の労働供給は、 Lt= (1+n) t-1L 1 となっている。 あらたに変わるのは、Vt についてである。後に示されるように収益率r は一定となるが、それを 前提としてVtを求めると、 (42) となる。10)すなわち、(42)で与えられるV tは、労働供給の水準Ltやその増加率n に応じて変化する のであり、その両者が増えるとき、資産価格は上昇する。 そして、自由参入条件は、 (43) となる。(43)を解いて、収益率r は r = [(1 −α)A1/(1-α)α2/(1-α)/αη]+n (44) Vt=
∑
s=0 s−1 1−a ∞ (1+r) πt+s A 1 1−a a 2 a 1−a r−n 1 Lt ηLt=V
t= A1−a 1 1−a a 2 a 1−a r−n 1 Ltと求めることができる。(44)において、収益率は技術的な条件によって与えられ、各期ごとに一定と なっている。ただし、その値は労働供給の増加率n に依存し、その数値が上昇すれば上昇する。 人口成長率がn であることを用いれば、Ntの成長率を(41)から求めることができ、その率g は、 Nt+1/Nt= (1−C(R))(1−α)A 1/(1-α)α2α/(1-α) /(1+n)η = 1+g (45) を満たすように決まる。(28)を考慮するとき、Ytの成長率は g = [(1−C(R))(1−α)A1/(1-α)α2α/(1-α)/η]−1 である。他の集計的な量もこの率で上昇する(ここでR = 1+r = 1+ [(1 −α)A1/(1-α)α2/(1-α)/αη]+n)。 ただし、(29)よりwt はg の率で成長するから、一人あたり消費の (cyt, cot) も、(45)で与えられるg の率 で成長する。 最後に、人口成長率n の大きさがこの g の高さにどのような違いをもたらすのかについて検討する。 (45)に示されているように、n が大きい場合には、直接的には一人あたりの貯蓄を下げる。しかし、 そのことは収益率の上昇をもたらすのでその分だけ貯蓄を増加させ、総合した効果は定まらない。 それを求めるために、S(R) = (1−C(R))とおいて、d(1+g)/dn を計算すると (46) となる。(R/S(R))(dS(R)/dR) = ε は、貯蓄の利子要素弾力性である。(46)の括弧の中が符号を決定 する。 (1+r)/(1+n)<ε の場合には、人口成長率 n が高くなると g が高くなり、逆の場合には、人口成 長率n が高くなるとg は低くなる。このように、知識生産の費用が1単位あたりηLtである場合には、 人口の変化を考慮に入れた枠組みで政策の効果を考えることが可能になる。 4−3.知識生産の費用が1単位あたりηN t φとなる場合 最終財の投入Mtに対してあらたな知識Mt/ηNtφが生み出されると考え、 Nt+1−Nt= Mt/ηNt φ,η >0,φ >0 とする。このとき、知識を生産する費用は1単位あたりηNt φである。あらたな知識生産の生産性が、 知識の累積により逓減する一例である。 労働人口は一定であるとする。基本モデルと同様に、Y tは(28)で、wtは(29)で、πt は(22)で与えら れるが、自由参入条件は Vt= ηNtφ (47) となる。(47)は、VtがNtに依存することを意味しており、それを収益率の式に入れて考えるとき、 1−a (1+n)ηR (1−α)S(R) dS(R) S(R) R A 1 1−a α 2 dR =− 1+n1+r
d (1+g)
d n
−rt +1= πt+1/ηNtφ+(N t+1 φ−N t φ)/N t φ となる。収益率は一般的にはNtに依存することになり、各期ごとに変化するようになる。 ところで、資産保有の式に上記の条件を入れて計算するとき、 Nt+1/Nt= Lt(1−C(Rt+1))(1−α)A1/(1-α)α2α/(1-α)/ηN t φ (48) となる。これまでの考察の延長で、定常状態の成長経路に限定して考えることとするが、この場合に は、(48)の右辺が各期において一定となる必要がある。Nt>0 であることを前提にすれば、Ntも各期 において一定とならなければならない。すなわち、定常状態の成長率は、人口成長率と同じゼロにな るのである。11) これまでの事例と異なり、定常状態の成長率は貯蓄関数や個別的企業の技術条件には依存していな い。示すのはこの一例にとどめるが、同様のことは、3−2−1.の労働投入に関する外部性を仮定 した場合でも、3−2−2.2)の研究企業における新たな財の発見のために労働が投入されると考 える場合でも成立する。すなわち、内生的な成長を可能とする条件よりも、外部性による生産性の上 昇率が小さかったり、あらたな知識を生産するための生産性がNtの蓄積により逓減していくときに は、そのように条件が変わるだけで全く異なった状況になる。 5.内生的成長の枠組み(まとめと限界) 以上、内生的成長を可能とした状況を考えてきた。政策を分析するにあたっての枠組みとして、そ れぞれの位置付けを明らかにするために、内生的成長を可能とする条件をまとめながら、それぞれの 特性について整理する。 利子率すなわち資産の収益率r が一定となりうるかどうかが重要である。多くの場合において、労 働供給Ltが変化すると収益率が変化するから、労働供給は一定であると仮定する必要があった。 3−2−1.の労働投入に関する外部性を仮定したケースは、労働供給が一定であることと、労働 投入の外部性がKt の一次関数で与えられていることが必要であった。 3−2−2.のあらたな知識生産を明示することにより技術進歩をとらえたケースについては、特 定の係数についての条件が満たされた場合に、そのような状況となる。知識生産に最終財が用いられ る場合には収穫一定であることなど、労働が投入される場合には知識に関する規模の利益を仮定する ことなどの条件が必要であった。このように収益率が一定になる場合には、一定の条件が与えられる ときに持続的な成長が可能になり、その値を求めることができた。しかし、定常状態の成長率を求め ることができるためには、原則として労働投入が一定であるという条件が必要である。3−2−2. で示した事例は、そのような条件を満たすものである。 このように、多様な状況を考えることが可能になる特化の経済性モデルにおいては、労働供給とは
無関係に、収益率や成長率が求まる場合がある。そのような可能性の一例が、労働投入に応じて知識 生産の生産性が増加するような場合であり、4−1.で示された。4−2.では、人口の変化がある 成長経済を考察する可能性が示され、そのときの成長率が求められた。 しかし、技術的な条件が変われば、成長経路もそれに応じて変化する。求められる結果も、係数に 応じて変化することが通例である。そのような事例のひとつは、知識生産の生産性が知識の累積で逓 減する場合であり、4−3.で与えられた。そこで示されたように、Ntの増加により知識の生産性が 逓減するという条件への変更だけで、定常的成長率は人口成長率など限られた係数のみによって決定 されることになる。このような結果は、外部性を仮定したケースでも、研究企業における新たな財の 発見のために労働が投入される場合においても同様に成立する。12) 以上の結果は、内生的成長が可能になる場合とそうでない場合について、条件の違いはわずかであ りながら、与えられる均衡は両者間で大きく異なることを示している。政策変更の影響を考察する場 合には、全く異なった状況において分析しなければならなくなるのである。 6.家計の選択に影響を及ぼす政策の影響について 最後に、家計の選択に影響を及ぼすような政策変更が経済に与える影響について述べ、本稿のまと めとする。 課税制度や公的年金などの社会保障制度、また公債発行などの家計の選択へ影響を及ぼす政策は、 貯蓄など資産選択へ影響を与える政策である。それらの影響について考えるとき、5.節で示された 対照的な状況において、異なった扱いが必要になる。 第一の状況は、労働人口や係数に関する特定の条件を満たし、持続的成長が可能になる場合であっ た。資産の選択に影響を与える政策を行う場合には、一般的には資産の収益率を変化させる力が働く が、与えられた技術その他の条件により、ある固定した値に収益率が決まっている。同時にモデルの 構造で内生的成長が可能になっている。そのような状況における、貯蓄に影響を与えるような政策変 更は、収益率を変えることなく直接に成長率を変化させる。 以上の結論は、労働人口や技術の係数に関する特定の条件が満たされる場合に限定されるのであり、 それらの条件が満たされずに、収益率が変更しうる状況においては、異なった結論となる。これが第 二の状況である。4−3.で示されたように、そのような場合には、定常状態の成長率は人口成長率 などの限られた条件によって決定される。それゆえ、家計の選択へ影響を及ぼす政策変更があったと しても、定常状態の成長率には変化がない。政策変更により起きる貯蓄の変化は、資産の選択に影響 し、結果として収益率が変化する。このことが、さらなる貯蓄の調整をもたらし、調整の総合的結果 として成長率は変わらないことになっていると考えられる。このような場合には、定常状態における
成長率への影響は問題にならない。 しかし、定常状態の収益率は変化しているから、そのことにより、所得や消費の水準は、政策変更 以前のものとは異なっている。このような水準への効果は、各世代の個人の効用へ影響する。これは、 新古典派の生産関数を用いた、Diamond (1965) の分析と同様な問題であり、成長率の変化とは別な問 題である。 以上のように、ふたとおりの異なった成長の均衡において、考えられるべき問題そのものが異なっ てくる。長期的影響を考える場合に問われるべきことは、どちらの状況が現実的であるかということ になる。成長率を問題にしている成長論では、とくに内生的な持続的成長ができるための様々な工夫 を考慮している。しかし、そのような工夫については、Jones (1995, 1998) などの批判があり、その 批判にはある程度の妥当性がある。13)それを認めるならば、政策変更の効果は、水準への影響を主 に問題にすべきであるということになる。それに対し、政策の短期的影響を分析する場合には、水準 が変わる第二の状況において成立する移行過程を考察することが必要になってくる。 本稿では政策の分析を行うための枠組みを示すための予備的考察として、以上のことを示した。 注
1)Jones and Manuelli (1992) 参照。
2)他に、二部門モデルによって分析することなどが考えられる。Jones and Manuelli (1992) 参照。 3)Barro and Sala-I-Maratin (2004) 4. 2. 参照。
4)本稿においては、利他性については取り上げないが、この点については、Jones and Manuelli (1992) 参照。Ihori (1997) などは、そのような枠組みで政策の効果を考察している。
5)以上の結果において、労働力人口が通事的にも一定であり、労働供給が固定されていることが仮
定されていれば、Ltを1に基準化することができる。この場合には、(7)のような基本的なAKモデル
そのものとなる。Saint-Paul (1992) 他を参照。
6)このような設定が必要となる点については、Barro and Sala-I-Maratin (2004) 6. 3. 参照。 7)各期の選択が同様であるから、その比は同一であると考えられる。Barro and Sala-I-Maratin
(2004) 6. 3. でもそのように考えている。また、Jones (1995, 1998) では、(36)の関係よりLN t/Lt の 変化の累積は、最終的には不自然な状態になることを示し、研究開発者の増加は人口増加と同一にな らなければならないことが明示されている。 8)最終財投入Mtが、LN t に変えられており、それにともなって労働需給の条件も(36)のようになっ ている。集計的変数の数と条件式の数は、1)の研究企業における新たな財の発見のために最終財が 投入される場合と変わらない。
9)Barro and Sala-I-Maratin (2004) 6.1.7. では、1単位あたり費用をA1/(1-α)α2/(1-α)ηL tとしている。 このときには、1単位あたり費用が ηYt/Nt、自由参入条件が Vt= ηYt/Nt となる。そこから、持続的経済成長率が、比較的簡単な式として求められることになる。 10)r>n であることを前提としている。(44)で示されるように、この条件は結果としては成立してい る。
11)Barro and Sala-I-Maratin (2004) 6.1.8 では、連続型の同様な場合において、成長率が 0 に収斂 することが示されている。 12)とくに Jones (1995, 1998, 1999) は、成長論の問題として、この点に注意を向けるように主張して いる。Jones (1995, 1998) は、研究企業における新たな財の発見のために労働が投入されると考えて おり、本稿の表記では、3−2−2.2)の場合、すなわち、 Nt+1−Nt= ηLN tNt φ という枠組みで考察しているのであるが、現実的にはφ <1が成立することを主張している。そこで 示されているように、この場合には、持続的成長率は人口成長率とあらたな知識の生産に関する技術 的条件のみによって決まることになる。
持続的成長率は、Barro and Sala-I-Maratin (2004) などのように、人口成長率n になる場合と、
Jones (1995, 1998) などのように、知識生産の係数が入り、n そのものとはならない場合がある。 13)Barro and Sala-I-Maratin (2004) 参照。
文 献
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