1.はじめに
本稿の目的は、現在あるいは将来の時点で財政政策が変更されることによる短期的影響を、内生的 成長を可能とする有限期間生存モデルにおいて考察することである。 ところで、財政政策が経済に与える影響を扱った分析の多くは、長期均衡の比較を行っていた。そ れに対して Judd (1985, 1987) は、政策変更による数量の変化を明示しながら短期的分析を行った。 Judd (1985) は、財政政策の短期的変更が現時点の投資へ与える影響について考察したものである。同 様の手法を用いて、Judd (1987) は、様々な課税の変更が厚生損失へ与える効果について分析している。 これらの研究は、政策の短期的影響を求める手法を提示した点で有意義なものである。ただし、無限 期間生存する代表的個人が選択を行う完全予見モデルを用いた分析であること、また、モデルの構造 から、分析に用いられる割引率が考察対象によって異なり、政府の予算制制約への考慮が不十分な分 析であることなど、いくつかの課題が残されている。 他方、多期間のライフサイクルモデルとして操作が比較的容易なものに、Blanchard (1985) などが 定式化した重複世代モデルがある。このような有限期間生存個人のライフサイクルモデルについても、 財政政策の分析が数多くなされてきた。そのうち内生的成長を可能にする経済を対象とした研究に 限っても、Saint-Paul (1992)、Bertola (1996) などが、政府債発行の効果や租税制度の違いなどの影響 について、様々な分析を行い成果を上げてきている。新古典派的生産関数を仮定するものや他のライ フサイクルモデルの類型などを含めると、財政政策に関するマクロ的研究の蓄積は多数になる。ただ し、政策が経済へ与える効果に関してライフサイクルモデルを用いて行われた研究の多くは、上記の ものも含めて長期的分析から結論を導いたものである。 これに対して、Zou (1994) は、Blanchard (1985) のような有限期間生存個人が選択を行う開放経済 小国モデルにおいて Judd (1985, 1987) の手法を用い、現在あるいは将来の非資産所得、政府支出、一 括固定税による税収が外生的ショックとして微少に変更されたときの、現時点での消費水準と経常収 支への影響を求めていた。生産の構造が考慮されていないかわりに対外資産を含んだモデルであり、 このことから資産の収益率が外生的に与えられ、結論がより具体的に求められている。政府支出と税 の両方が政府の予算制約を満たすように変更される場合の総合的な効果についても分析を進め、税変 更による効果よりも、政府支出変更による効果の方が大きくなっていることが併せて示されていた。 さらに経常収支への効果について考察し、消費水準には影響しない現時点での政府支出の増加が経常 支出に影響を与えること、その効果は経常収支を悪化させるものであること、将来時点の政府支出の 増加は逆に経常収支を改善することなどが示されている。また、塚本 (2011) では、Zou (1994) が示し内生的成長有限期間生存モデルにおける
財政政策の短期的分析
Short-Run Analysis of Fiscal Policy
in an Endogenous Growth and Finite Horizon Model
塚本 純
TSUKAMOTO Jun
た一括固定税の分析を、労働所得税と資産所得税を明示することで拡張し、これらの租税制度が存在 する場合について、政策変更の短期的影響を考察した。 本稿は、生産を考慮した Judd (1985) などの分析と、有限期間生存モデルにおける Zou (1994) など の分析を融合し、内生的な成長を行う経済モデルへ拡張するものである。このことにより、これまで の研究で取り上げられていなかった点、不十分であった点を示すことを意図している。とくに、政策 変更の効果を分析するときに必要である政府の予算制約を明示し、これまでの分析結果との相違を明 らかにする。なお、本稿では内生的成長経済の特異性を示すことを目的とするために、政府は債券を 発行するがその他には労働所得税のみを課税するものとする。 2節では、そのような連続時間型の有限期間生存個人を仮定し、かつ内生的成長が可能となる生産 構造を有する経済を、モデルとして定式化する。3節では、与えたモデルにおける定常均衡を示しな がら、そこで成立するいくつかの性質を示しながら、条件式を求める。政策の変更が定常均衡へ与え る影響を概観するのが、4節である。具体的には、政府支出、労働所得税の税率といった政策変数の 変更がもたらす現在消費および資本蓄積に対する短期的効果を示す関係式を求める。その上で、5節 では、いくつかの具体的政策手段のパターンごとに、政策変更が経済にもたらす短期的影響について 結果を示す。最後の6節は、まとめである。
2.モデル
モデルの基本構造は、Blanchard (1985) らにより用いられた有限期間生存個人の連続時間重複世代 経済に、内生的成長が可能となる生産関数を組み入れたモデルである。1種類だけの財が存在するも のとして、それが実物資本として生産において使用されるか、個人によって消費される。また政府は 債券を発行するので、個人は実物資産と政府債の間で資産の選択を行う。与えられた所得の下で個人 によりなされる消費と資産の選択、生産の決定および市場の条件で、モデルが定式化される。 生産に関しては、Romer (1986) のような、労働投入に関する外部性を含み、内生的成長を可能とす る生産関数を仮定する。具体的には、 Uhlig and Yanagawa (1996) と同様な生産関数を用いることとす る。これに関しては周知のことであり、本稿においてはその結果を用いるのみであるので、概略を記 すにとどめるが、以下のとおりである。 ρ(0 < ρ < 1)によって資本へのシェアを表し、また、簡単化のために、資本は減耗しないものと仮 定する。Y(t)、K(t) によって、t 時点における総生産と資本存在量を表すとき、各期の労働供給が以下 に示すように1に基準化されることから、 Y(t) = AK(t) (1) のような集計的生産関数として求めることができるのである。1)ここで、A( > 0) は資本のシェアと労 働投入に関する外部性によって決定される定数である。 r(t) と w(t) で、それぞれ t 時点における資本の収益率と労働賃金率を表す。利潤を最大化する各企業 は、要素価格と限界生産物が等しくなる量まで各生産要素を使用するから、 r(t) = ρY(t) / K(t) = ρA = r (2) w(t) = (1 − ρ)Y(t) = (1 − ρ)AK(t) (3) となっている。以上のように、t 時点において、利子率は時間からは独立に一定の値で、他方賃金率 はその時点における資本の量に依存して与えられることになる。 個人については、Blanchard (1985) らにより用いられた連続時間重複世代を考える。連続時間の中で個人が誕生するものとし、s 時点で誕生する個人を s 個人と呼ぶ。その個人は p(0 < p < 1)の確率 で死亡するものとし、また、ある時点で誕生する個人の数を1に基準化して考える。それゆえ、 t 時 点で生存している s 個人の数は e − p(t − s)で表され、総人口の大きさは 1/p となる。個人は各時点で労 働を供給するのであるが、個人が誕生の時点で与えられる労働量は p + β であり、その供給量は誕生 以後 β(0 < β < 1)の率で下落していくものとする。以上の結果として、経済全体の総労働量はどの時 点であっても1に基準化されていることになる。 t 時点における s 個人の消費を c(t, s) によって表す。s 個人の効用 U(s) は、その消費列の関数として、 dt e s t c E s U s s t
³
flog (, ) () ) ( T (4) と表されているものとする。ここで、期待値は生存確率に関してとられるから、効用関数 (4) は、次 のように表記することができる。 dt e s t c s U s s t p³
flog (, ) ( )() ) ( T (5) 予算制約にしたがい (2) の効用を最大にするように消費と資産保有の列を決定する個人の選択にお いて、政府債と実物資産は完全に代替的であるものと仮定する。それゆえ、資産選択の場合の収益率 は、t 時点において r で与えられることになる。さらに、死亡時に個人が保有している金融資産につい て、死亡時点において個人の金融資産を支払う(支払われる)ことの対価として、個人は各時点で年 金手数料を保険会社により支払ってもらえる(支払わされる)という、Blanchard (1985) と同様な保険 機構が存在しているものとする。それゆえ、金融資産からの収益率は、もともとの資産の収益率にさ らに保険会社によって支払われるプレミアを加えて、合計 r + p となる。 さらに個人は、課税ベースがその期の労働所得である税を、政府によって徴収されるものとする。 それぞれの t 時点における税率を τ(t) で表し、さらに y(t, s) で s 個人の t 時点における労働供給による所 得を表すとき、s 個人は t 時点に、τ(t)y(t, s) だけの税を政府に徴収されることになる。 以上のことから、t 時点における s 個人の動学的予算制約式を求めることができる。v(t, s) で s 個人 の t 時点における金融資産の保有量を表すとき、それは v4(t, s) = (1 − τ(t))y(t, s) + r v(t, s) − c(t, s) (6) となる。一般的に用いられているように、v4(t, s) は v(t, s) の時間 t による微分を表しており、他の変数 についても、同様な表記で時間による微分を表すこととする。個人の選択における一般的手法を用い て、(6) を積分した上で Blanchard (1985) と同様に計算すると、個人の消費関数は c(t, s) = (p + θ){v(t, s) + w(t, s)} (7) のように求めることができる。ここで、w(t, s) は将来労働所得から計算される s 個人の t 時点におけ る人的資産であり、以下のように与えられる。 du e e p u w t s t w r p ut t s u ) ( )( ) ( ) ( ) ( )) ( 1 ( ) , (³
f W E E さらに、t 時点における経済全体の集計された消費、金融資産、人的資産を、それぞれ C(t)、V(t)、 W(t) と表すとき、以上で示した個人の選択を集計し、経済全体の関係をマクロ変数間の関係として表 すことができる。集計された消費関数は、個人の消費関数 (7) を各時点ごとに生存している個人で集 計することにより、 C(t) = (p + θ){V(t) + W(t)} (8)となる。ただし
³
³
f f t t u p r t pt s du e u w t ds e s t w t t W() (1 W()) (, ) ( ) (1 W()) ( ) ( E)( ) (9) であり、t 時点における個人全体の人的資産の総額を表している。(9) は、微分した形で W4(t) = (r + p + β)W(t) − (1 −τ(t))w(t) (10) と表すことも可能である。(8) で示されるように、t 時点における集計的な消費は、その時点で個人が 保有する金融資産と人的資産の合計額に係数 (p + θ) を乗ずることで与えられる。 また、個人が保有する金融資産に関する集計された関係式は、計算の結果 V4(t) = rV(t) + (1 −τ(t))w(t) − C(t) (11) のようになる。2)(11) は、金融資産と労働から得られる所得の合計から経済全体の消費を除いた大き さが、全個人の金融資産の増加となることを表している。 政府は各時点において、その活動のために経常的に支出するものとし、他方その経費は既に述べた 労働所得税の徴収と、また必要に応じてなされる政府債の発行でまかなうものとする。t 時点におけ る労働所得税の税収は、τ(t) w(t) である。G(t) と B(t) で、t 時点における経常的支出と政府債残高を表 すとき、政府の予算制約式は、 B4(t) = G(t) + rB(t) − τ (t)w(t) (12) となる。また個人の資産保有は実物資産と政府債よりなるから、以下の式が成立している。 V(t) = K(t) + B(t) (13) 以上のように定式化した、個人の選択、生産の構造と資産市場の均衡を示すマクロ的な条件式、(1) ∼ (3)、(8)、(10) ∼ (13) によって、経済の均衡が与えられる。3.定常状態の均衡解とその性質
前節で定式化した経済における定常状態の解を、政策変数が所定の値に与えられられるときについ て考える。この場合の定常状態は、資産の収益率 r が一定となるのに対し、マクロ的経済変数 C(t)、 K(t)、Y(t)、W(t)、V(t)、B(t) が、ともに同じ率 g で変化している状態である。一単位あたりの労働所得 w(t) も同率で変化する。政策変数については、定常成長を乱さない必要を満たすために、労働所得税 率 τ(t) は一定の値に、政府支出 G(t) は各期の総生産に比例するように、政府が決定すると仮定する。3) 以上のような定常成長経路が存在するものとして考察を進めるが、本稿のような有限期間生存モデ ルでは、Saint-Paul (1992) に示されているように、資本の収益率と定常状態の成長率との間には特定 な関係は定まらず、与えられる前提条件によって、r > g も逆に r < g も成り立ちうるのである。さ らに、以下に示すようないくつかの条件式が成立している。 t 時点における経済全体の人的資産価値を示す (9) は、W(t) が有界な数値として求められるため、 r + p + β − g > 0 が成立することを前提とするとき、具体的に解くことができて、 W(t) = (1 − τ)(1 − ρ)AK(t) / (r + p + β − g) (14) となっている。 また、政府の予算制約式 (12) は、(3) を代入して整理すると、 B4(t) = G + rB(t) − τ (1 − ρ)AK(t) (15) と表すことができる。さらに、(13) の関係を考慮しながら V(t) を t について微分し、(2)、(3)、(11) と (12) を用いて整理するとK4(t) = AK(t) − C(t) − G(t) (16) となる。(16) は、資本存在量の変化を示す式である。生産された財から個人の消費と政府の経常支出を 引くと、その分だけ資本が変化することを表している。最後に、(8)で与えられるC(t)をtについて微分し、 (8)、(10)、(11)と(14)を用いて整理すると、消費水準の変化を表す式が以下のように与えられる。 C4(t) = (r − p − θ)C(t) + (p + β)(p + θ)(1 − τ)(1 − ρ)AK(t) / (r + p + β − g) (17) 以上で示したように、(15)、(16) と (17) により C(t)、B(t) と K(t) の列が決定されることで、マクロ的 経済状態が与えられる。次節では、本節で示した条件や性質をもとに、政策の変更が経済に与える短 期的効果について考察する。
4.財政政策の変更が引き起こす短期的効果(概観)
本節では、Judd (1985) のアプロ−チにしたがい、政策の変化が引き起こす短期的効果を示す関係 式を求める。現時点すなわち t = 0 のときに、前節で与えた定常状態の水準にあるものとし、そこで 政策的に決定され外生変数である政府支出 G(t) および労働所得税率 τ(t) が微少に変更されたとき、こ の変更が政府債および資本財存在量や、消費の水準へもたらす影響を示すものである。 なお、政府支出と労働所得税率を変更させる場合には、政府は支出と収入を予算の制約を満すよう に決定する必要があるが、その制約は通時的関係として成立していればよい。政府支出変更の時点と 課税の時点は異なることも可能であり、むしろその方が自然なことである。このとき、各時点の収入 と支出の差は、政府債の増減によって調整される。そのような政策変更として、Judd (1987) や Zou (1994) のような変化を考える。具体的には、パラメータの ε を用いて、 G'(t) = G(t) + εhG(t) (18a) τ'(t) = τ(t) + εhτ(t) (18b) と与えられる外生的なショックである。ここで hG(t) と hτ(t) は、それぞれ各時点ごとの政府支出、労 働所得税率の変更を示しており、hG(t) は、t1< t < t2で hG(t) = 1、他は hG(t) = 0 となる関数である。4) また、hτ(t) についても同様な関数とする。 (18a) と (18a) で示される G'(t)、τ'(t) に置き換えることにより、(17)、(15)、(16) はそれぞれ C4(t) = (r − p − θ)C(t) + (p + β)(p + θ){1 − (τ + εhτ(t))}(1 − ρ)AK(t) / (r + p + β − g) (19a) B4(t) = (G + εhG(t)) + rB(t) − (τ + εhτ(t))(1 − ρ)AK(t) (19b) K4(t) = AK(t) − C(t) − (G(t) + εhG(t)) (19c) となる。政策変更の影響は、(19a)、(19b) と (19c) により求められる C(t)、B(t) および K(t) の時間経路の 変化により示される。ところで、(19a)、(19b) と (19c) の解は、時間の変数 t とともにパラメータ ε にも 依存している。これらの条件を満たす解を C(t, ε)、B(t, ε)、K(t, ε) と表すとき、これらは ε で微分可能 であるから、5)ε で微分して、ε = 0 のときの値を求める。表記の簡単化のために、 ∂C(t, 0) / ∂ε = Cε(t)、∂[∂C(t, 0) / ∂t] / ∂ε = C 4 ε(t)、 ∂B(t, 0) / ∂ε = Bε(t)、∂[∂B(t, 0) / ∂t] / ∂ε = B 4 ε(t)、 ∂K(t, 0) / ∂ε = Kε(t)、∂[∂K(t, 0) / ∂t] / ∂ε = K 4 ε(t)、 とすると、以下の式が成立する。 C4ε(t) = (r − p − θ)Cε(t) − (p + β)(p + θ)(1 − ρ)AK(t)hτ(t) / (r + p + β − g) (20a) + (p + β)(p + θ)(1 − τ)(1 − ρ)AKε(t) / (r + p + β − g) B4ε(t) = hG(t) + rBε(t) − τ(1 − ρ)AKε(t) − (1 − ρ)AK(t)hτ(t) (20b)K4ε(t) = AKε(t) − Cε(t) − hG(t) (20c) (20a)、(20b) および (20c) の関係式を解くことにより、財政政策変更の短期的効果について分析でき るのである。これまでの短期的分析では、ここで、政府の予算制約を考慮せず個々の政策が変更され たときの直接的効果を第1段階として分析した後に、第2段階で政府の予算制約を考察していた。上 式の例では、はじめに (20a) と (20c) を用いて C(t, ε) と K(t, ε) の変化を求め、その後に (20b) の条件を利 用して政府の予算制約が満たされる場合の総合的な効果を分析するというものである。そのうちで、 生産を含ない開放経済で資産の収益率が一定であった Zou (1994) の場合には、短期的効果を分析する 場合に用いられる正の固有値も利子率と同一となっており、また、政府の予算制約を示す関係式は他 と分離することが可能であったから、そのような手続きを踏むことは自然なことである。短期的な影 響も、直接的効果および総合的効果それぞれについて具体的な数値として求められており、明確な結 論を得ていた。 他方で、このような手法を導入した Judd (1985) においては、新古典派的な集計的生産関数により 生産構造が与えられており、政策変更の影響により資産の収益率も変化することになっていた。それ にもかかわらず、Judd も政府の予算制約を分離した2段階の考察を進めている。短期的な効果を分 析するときの割引率は、資本の収益率とは異なった正の固有値であり、かつその値は政府の予算制約 における割引率とは異なっていた。その結果、政府における予算制約式の意味づけおよび解析の関連 性が曖昧なものとなっていたのである。 本稿のモデルにおいても、内生的成長を可能にするものではあるが、生産構造が組み込まれている。 そのことによって、(20b) に示されているように、B4(t) の変化が K(t) から影響を受けることになってい る。このような関連の中で分析を進める必要があり、政府の予算制約を示す条件式 (20b) を、(20a) お よび (20c) から分離して考察することは不可能になる。それゆえ、政策変更の直接的効果を求めた後 で政府の予算制約を考慮するというような、2段階に分けた分析ではなく、初めから政府の予算制約 を示す条件をもあわせて考慮し、その制約を満足しながらの総合的な効果を直接に分析することが必 要になる。 政策変更がもたらす外生的ショックによる B(t)、K(t) および C(t) への効果を、総合的に分析するた めに用いられるのは、(20a)、(20b) と (20c) である。X = (p + β)(p + θ)(1 − τ)(1 − ρ)A / (r + p + β − g)、 Z = (p + β)(p + θ)(1 − ρ)A / (r + p + β − g) と表すとき、分析に用いられる関係式は行列表示で以下の ようになる。 ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ) ( ) ( ) ( ) 1 ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( 0 1 ) 1 ( 0 0 ) ( ) ( ) ( t h t h t AK t h t h t ZK t K t B t C A A r X p r t K t B t C G G W W H H H H H H
U
U
W
T
(21) ところで、(21) で示される行列式の固有値は、 (r − p − θ − x)(r − x)(A − x) + (r − x) X = 0 により求 められる。それゆえ r が固有値のひとつであり、他は (r − p − θ − x)(A − x) + X = 0 を満たすふたつの 解である。Judd (1985) や Zou (1994) などと同様に、後者で与えられるふたつの解のうちひとつは負 となるものと仮定し、6)後者の固有値のうち負となるものを λ で、正となるものを μ で表すこととする。 このように負となる固有値が存在するときには、Zou (1994) と同様な議論から当初の均衡が安定と なっている。7) 本モデルにおける特徴は、(21) における行列式の固有値のひとつが、資産の収益率(r)と等しくなっていることである。また、モデルの前提から、その収益率は政策変更にかかわらず一定となっている。 このことにより、政策変更がもたらす効果に関する以下の議論において、いくつかの明確な結論を導 くことができる。8) ここで、Judd (1985) と同様に、f (t) (t > 0) から、
³
f 0 () ) (s f t e dt F st によりあらたな関数 F(s) を定義して、ラプラス変換を行う。ただし、Hτ(s) についてはとくに³
f 0 () () ) (s K tht e dt H st W とする。HCε(s)、HBε(s)、HKε(s)、HG(s)、Hτ(s) で、それぞれ Cε(t)、Bε(t)、Kε(t)、hG(t)、hτ(t) のラプラ ス変換を表すとき、(21) は、 ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ © § x x x ) ( ) ( ) 1 ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( 0 1 ) 1 ( 0 0 ) ( ) ( ) ( s H s AH t H s ZH t HK t HB t HC A A r X p r s HK s HB s HC G G W W H H H H H HU
U
W
T
となる。 これを解くと、 ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ) ( ) ( ) 1 ( ) ( ) 0 ( ) ( 0 1 ) 1 ( 0 0 ) ( ) ( ) ( 1 s H s AH s H C s ZH A s A r s X p r s s HK s HB s HC G G W H W H H HU
U
W
T
(22) である。(22) に表れてくる Cε(0) は、外生的な政策変更により引き起こされる初期時点における消費 水準の変化を示しており、財政政策の変更による短期的な影響がここに表れている。また、(22) にあ る逆行列を計算すると、 ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ¸ ¸ ¸ ¹ · ¨ ¨ ¨ © § ) )( ( 0 ) ( ) 1 ( ) ( ) )( ( ) 1 ( ) ( 0 ) )( ( 1 0 1 ) 1 ( 0 0 1 r s p r s r s A p r s X A s p r s A X r s A s r s J A s A r s X p r s T U W T T U W U W T (23) となっている。ただし、|J| = (s − r)(s − λ)(s − μ) である。 ところで、本モデルにおいてはサドルポイントが存在し、当初に存在することを前提とした定常均 衡は安定的であった。それゆえ、B(t, ε) の変化について考えるとき、どのような ε であったとしても 均衡は長期的に定常状態に収束することとなる。そして、どのような s についても HBε(s) は有界とな るのであり、とくに s = r のときでも同様である。ところが、s = r のときには |J|= 0 であり、上記 (23) の逆行列は特異となっている。この特異性を解除するためには、(23) 右辺の行列の第2行と列ベクト ルとの積が 0 となる必要がある。9)すなわち、τ(1−ρ)A{−ZHτ(r)+Cε(0)}+{(p+θ)(r−A)+X}{HG(r)−(1−ρ)AHτ(r)}+(p+θ)τ(1−ρ)AHG(r) = 0 (24)
が満たされていなければならない。
へ与える短期的な影響について考察することができる。初期時点における消費水準の変化は、(24)にX、 Y の値を代入して Cε(0) について解くことで、以下のように求められる。 ) ( ) ( ) ( ) 1 )( ( ) ( ) ( ) )( 1 )( ( ) 0 ( H r g p r g r A p r H g p r g r p CH G W E W U T E W W T (25) (25) において、政府支出変更の影響および労働所得税変更の影響が、それぞれ HG(r) および Hτ(r) の 項として明示されている。ラプラス変換に用いられた数値(r)は、固有値のひとつではあるが資本の 収益率に等しいので、HG(r) および Hτ(r) は、それぞれ将来における政策変更全体の割引現在価値を示 している。ここで特徴的なことは、将来の政策変数のみが現時点での消費に影響することであり、現 時点での労働所得税率や政府支出の変更(それぞれ hτ(0) や hG(0))単体では、経済へは影響を与えない ことである。 また、(25) を (20c) に代入し、Kε(0) = 0 を考慮することにより、現時点での資本蓄積への短期的効果 を ) 0 ( ) ( ) ( ) ( ) 1 )( ( ) ( ) ( ) )( 1 )( ( ) 0 ( G H r hG g p r g r A p r H g p r g r p K W T WE WT UE W (26) と求めることができる。(26) では、HG(r) および Hτ(r) に加えて、hG(0) も影響を与える項となっている。 現時点での政府支出変更により影響を受ける点が、資本蓄積への短期的効果の特徴となっている。 このようにして政策変更による現時点での消費水準および資本蓄積への短期的影響を示す関係式を 求めることができた。次節では、政策の手段を限定して、いくつかのパターンごとに具体的な考察を 行う。
5.政策手段の類型
予算制約を満たす HG(r) と Hτ(r) の政策変更は、各時点で (20b) を満足している必要があり、その条 件下で政策変更の効果を求めたのが、(25)および(26)であった。HG(r) と Hτ(r) 相互の間で満たすべき 通時的条件を明示するために、前節で行ったラプラス変換と同じ割引現在価値を求める積分を (20b) について行い、B(0) = 0 などを用いて計算を進めると、 HG(r) = (1 − ρ)AHτ(r) + τ(1 − ρ)AHKε(r) (27) となる。 政策変更の効果を求めた (25) と (26) では、HG(r) および Hτ(r) で表される変更があったときの影響が 示されていたのであるが、この HG(r) と Hτ(r) との間には、政府の通時的予算制約として (27) の関係が 成立しているのである。このように、短期的効果を示す式と政府の予算制約は、同一の変数 HG(r) お よび Hτ(r) によって統一的にとらえられることになる。ただし、政府の予算制約式は通時的に(27)を満 たしていれば十分である。政策変更の具体策、HG(r) と Hτ(r) の間に一意の関係が定まるわけではなく、 この点で、Zou (1994) とは異なっている。10)(27) には HKε(r) の項が存在しており、様々な状況に応じ て各時点での資本蓄積(K(t))や政府債残高(B(t))が変動し、そのことをとおして調整がなされる余地 がある。以下では、HG(r) および Hτ(r) について、いくつかの特殊な状況を取り上げて考察する。 (1)将来の政府支出のみが増加する場合:HG(r) > 0、Hτ(r) = 0 労働所得税率は不変として将来の政府支出だけを独立に変化させる政策変更であり、政府の予算制約の調整は、政府債残高によってなされる。ところで、政府支出の変更は、変更開始の時点を t1とし て、(18a) のように与えていた。t2 = t1+ Δt とし、かつ Δt が十分小さいものとすると、政府支出変更の 影響 HG(r) は、
t
e
dt
e
dt
e
t
h
r
H
t t rt t rt rt G G'
' 1 1 1 0(
)
)
(
f³
³
ѳ
(28) となっている。 (28) を考慮すると、(25) に表れている将来政府支出増加の短期的効果は、 t e g p r g r p rt' E W W T 1 ) ( ) )( 1 )( ( となる。将来の政府支出増加による現時点の消費水準への効果は、資産の収益率と経済成長率との関 係に依存している。当初の定常状態において、r > g の場合は、政府支出増加によって現時点での消 費水準は増加する。逆に、r < g の場合には減少する。 他方で、政府支出増加による資本蓄積への効果は、(26) から同様に求めることができて、 t e g p r g r p rt' E W W T 1 ) ( ) )( 1 )( ( となる。当初の定常状態において、r > g の場合は、将来の政府支出増加によって現時点での資本蓄 積は減少する。逆に、r < g の場合には増加する。 ただし、(26) に示されているように、資本蓄積に対しては、現時点での 4 4 4 4 4 政府支出の影響がある。現 時点での消費水準が影響を受けないという結果が得られていたから、その前提で現時点での政府支出 が増加するときにはその分だけ財が使用されることとなり、資本蓄積を短期的に減少させる。 (2)将来の労働所得税率のみが増加する場合:HG(r) = 0、Hτ(r) > 0 政府支出は不変として労働所得税率を独立に変化させ、政府債残高が政府の予算制約を満足するよ うに変化する場合である。労働所得税率の変更は (18b) のように与えていたから、税率変化開始時点 を t3とすると、そこからの微少期間(Δt)における労働所得税率変更の影響 Hτ(r) は、t
e
K
dt
e
K
dt
e
t
h
t
K
r
H
t t g rt t t r g rt ''
W W 3 3 3 ) ( ) ( 0(
)
(
)
(
0
)
(
0
)
)
(
³
f³
ѳ
(29) となっている。 (29) を代入すると、(25) に表れている将来時点の労働所得税率上昇の短期的効果は、 t e K g p r g r A p g rt' E W U T (0) ( )3 ) ( ) ( ) 1 )( ( となる。労働所得税率増加による現時点の消費水準への効果も、定常状態における資産の収益率と経 済成長率との関係に依存している。当初の定常状態において、r > g の場合は、将来時点の労働所得 税率の上昇によって現時点での消費水準は減少する。逆に、r < g の場合には増加する。 労働所得税の税率増加による現時点での資本蓄積への効果は、 t e K g p r g r A p grt' E W U T ( )3 1 ) 0 ( ) ( ) ( ) 1 )( ( である。当初の定常状態において、r > g の場合は、労働所得税率の上昇によって現時点での資本蓄積 は増加する。逆に、r< g の場合には減少する。資本蓄積に対しては、現時点での政府支出の影響があり、 現時点での政府支出の増加が、資本蓄積を短期的に減少させることは、(1)の場合と同様である。(3)通時的均衡予算を維持しながら変更する場合:HG(r) = (1 − ρ)AHτ(r) 政府が、将来における支出の増加と増税両方を行うときで、かつ政府支出増加と増税の現在価値が 一致する場合である。予算の制約は通時的関係として成立していればよいので、政府支出増加の時点 と課税の時点は異なることも可能であり、むしろその方が自然である。各時点の収入と支出の差は、 政府債の増減によって調整される。はじめに政府債発行により政府支出を増加し、その後増税により 償還されることが、現実的に想定される事例である。そのような政策のアナウンスが、経済へもたら す影響についての考察である。ここでは、資本蓄積に関する制約が通時的条件とし存在し、HKε(r) = 0 となっていなければならない。その条件を満たすように、各時点での資本蓄積(K(t))や政府債残高 (B(t))は調整され、変化している。 現時点での消費水準への効果を見るために、(25)および(26)に均衡予算の条件を代入すると、 ) ( ) )( ( )} ( ) 1 ( ) ( ) 1 {( ) ( ) )( ( ) 0 ( H r g p r g r p r H r H g p r g r p C G G
E
T
U
W
E
W
T
W H (30) となる。(30) は、政府支出増加と増税が現在価値において一致するような通時的予算制約を維持しな がら政策変更を行った場合の、現時点における消費水準への短期的効果を表している。それらも、資 産の収益率と経済成長率との関係に依存することになる。当初の定常状態において、r > g の場合は、 将来の政府支出増加と労働所得税増加によって、現時点での消費水準は減少する。この場合には、消 費を減らし貯蓄を増加させるのである。逆に、r < g の場合には、将来の政府支出増加と労働所得税 増加によって、現時点での消費水準は増加する。この場合には、消費を増加させ貯蓄を減少させる。 Hτ(r) および HG(r) が独立に変更される場合の結果と比較することからわかるように、増税の効果が強 く表れる結果となっている。 資本蓄積への効果を考察するために、(26)に均衡予算の条件を代入すると ) 0 ( ) ( ) )( ( ) 0 ( )} ( ) 1 ( ) ( ) 1 ( { ) ( ) )( ( ) 0 ( G G r p g HG r hG g r p h r AH r H g p r g r p K E T U W E W T W (31) となる。(31) は、政府支出の増加と増税が現在価値において一致する通時的均衡予算を維持しながら 政策変更を行った場合の、現時点における資本蓄積への短期的効果を現している。この結果は、資産 の収益率と経済成長率との関係に依存し、他と同様に現時点での消費への効果の逆になっている。当 初の定常状態において、r > g の場合は、将来の政府支出増加と労働所得税増加によって、現時点で は消費を減らし貯蓄を増加させるから資本蓄積は増加する。r < g の場合には、将来の政府支出増加 と労働所得税増加によって消費を増加させ貯蓄を減少させるから、現時点での資本蓄積は減少する。 現時点での政府支出の増加が資本蓄積を短期的に減少させることは、他の場合と同様である。6.まとめ
本稿では、現在あるいは将来の政府支出や労働所得税率の微少変更が現時点での経済変数に与える 影響を、内生的成長が可能な経済において、政府の予算制約を考慮しながら考察した。まず第一に、 そのような財政政策の変更が引き起こす短期的効果を示す関係式を求めた。個人に関しては有限期間 生存モデルを想定していることから、資産の収益率と経済成長率の間に固定された関係は存在してお らず、求めた関係式に示される政策変更の効果は、個人や生産のパラメータの他に、資産の収益率と 経済成長率に対応して与えられる結果となっていた。 求めた関係式を用いて中心的に考察したのは、内生的成長経済の場合においてどのような点が見えてくるのかについてである。とくに、政府債残高の変更、それに応じた資本蓄積の変化が多様であり 得るので、政府の予算制約を満たす政策の変更は一意に定まらないから、政府支出増加と税額変化の 現在価値の間に単純な関係性が存在するいくつかの場合を取り上げ、現在あるいは将来時点での政策 変更により、現時点での消費水準に与える影響について結果を求めた。さらに、資本蓄積への影響に ついても求めたが、そこでは現時点での政府支出も影響をあたえる要因となっていた。 それらの結果は5節で述べたとおりであり、政策変更以前の定常状態において成立する資産の収益 率と経済成長率との間の関係をもとに整理されていた。将来における政府支出の増加と増税を、それ らの現在価値が一致するようにアナウンスする場合においても、当初の定常状態において r > g の場 合は、将来の政府支出増加と労働所得税増加によって、現時点での消費は減少し資本蓄積は増加する、 逆に、r < g の場合には、将来の政府支出増加と労働所得税増加によって、現時点での消費は増加し 資本蓄積は減少するという結果を導いた。増税の効果が強く表れる結果となっている。 本稿では、内生的成長が可能となる経済モデルの特徴を明らかにするために、税制は労働所得税の みの場合について考察してきた。得られた結論は、資産の収益率と成長率との関係に対応して、比較 的単純な形で求められたが、それは生産について与えられた条件や、税制に依存している。資産所得 税その他の税が存在する場合には、新たな状況が存在することになる。また、政府が選択する政策パ ターンのうち、たとえば政府債残高を一定水準に維持するなど、政府債残高の変化をより明示した考 察を行えば、より現実的な政策的命題を導くことになる。これらの点については、今後の課題とする。 注
1 ) Romer (1986)、Uhlig and Yanagawa (1996)、塚本 (1999) p. 18 参照。
2 ) 各時点における経済全体の労働供給量は、1に基準化されていたから、(11) において経済全体の 労働所得は、単位あたりの労働所得 w(t) になっている。
3 ) とくに政府支出に関する仮定については、Uhlig and Yanagawa (1996) p. 1528 注9参照。 4 ) Judd (1987) p. 684、Zou (1994) p. 351 参照。 5 ) Judd (1985) p. 307、Zou (1994) p. 351 参照。 6 ) たとえば r < p + θ であることを前提とした場合には、それに加えて g < r + p + β − (p + β)(p + θ)(1 − τ)(1 − ρ) / (p + θ − r) が満たされるときには成立している。 7 ) Blanchard (1985) pp. 230-231 および Zou (1994) pp. 351-352 参照。 8 ) Judd (1985) では、政策の短期的分析のために行うラプラス変換において、μ に対応する正の固有 値を用いることとなっていた。 9 ) Zou (1994) p. 351 参照。 10 ) Zou (1994) の (18) 式、あるいは 塚本 (2011) の (24) 式では、与えられた条件により政府の通時的 予算制約を満足するときには、HG(r) と Hτ(r) の間には確定的な関係が成立していた。 参 考 文 献
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