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日本福祉教育・ボランティア学習学会研究紀要vol31事例4

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1 .貧困における生活の困難  2000年に入り、 貧困の再発見が話題となっ た。 不安定層の増大による所得格差と学力問 題、そこから生まれる社会的排除に目が向けら れた。貧困をベースとする虐待など新しい課題 が見られるようになり、2006年前後には「子ど もの貧困」という枠組みによる課題提示や研究 が行われるようになった。また、学校現場にお ける貧困による不利の顕在化、深刻化は政策的 関心となった。  2013年 1 月の社会保障審議会「生活困窮者の 生活支援の在り方に関する特別部会報告書」に は、「貧困の連鎖を防止するためには、義務教 育段階から、生活保護世帯を含む貧困家庭の子 どもに対する学習支援等を行っていく必要があ る」と記された。また、2013年 6 月に成立した 「子どもの貧困対策の推進に関する法律」第 1 条と第 2 条において、子どもの将来がその生ま れ育った環境によって左右されないようにする との理念を確認している。また、第 8 条の規定 に基づき「子供の貧困対策に関する大綱」 が 2014年 8 月29日に閣議決定された。  貧困の概念は物質的次元を越え、社会的排除 の考え方と重ねて捉え直しが試みられている。 しかしながら、地域住民が貧困を理解するには 課題も多い。岩田(2010,p.17)が指摘するよ うに、「地域の中に隠された貧困には目が向け られにくい」ためである。  見田(2008)は、貧困とは生活の物質的な水 準の問題だけではなく、社会の中で、人々の誇 りを挫き、未来を解体し、考える気持ちを奪い、 人と人との関係を解体し、感情を枯渇させ、人 としての存在そのものを認めないような総体性 であると、貧困を捉える視点を示している。  また、R. リスター(2011,p.21)は、物質的 な面と共に、非物質的な面での貧困の現れを問 題とし、「貧困は不利で不安定な経済の状態と してだけでなく、屈辱的で人々を蝕むような社 会関係としても」理解されなければならないと 述べ、「『〈声〉の欠如』、軽視、屈辱、尊厳・自

問題の所在と本研究の目的

Case study in a place for children to belong at night with food

−Consideration of spinning change in social relations−

■特集 事例研究④

食をともなう子どもの夜の居場所の

ケース・スタディ

野尻 紀恵 

日本福祉大学

─社会関係の紡ぎ直しの検討─

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己評価への攻撃、恥辱やスティグマ、無力さ、 人権の否定とシチズンシップの縮小など、貧困 の非物質的な側面」 を強調した。 さらに岩田 (2017,p.326-327)は「貧困の責任を個人が引 き受け、貧困を不可視化する市場や企業の日本 的な仕組みを変えていくのは困難な道程であろ うが、そのような転換なしには、重なり合った 貧困はますます社会から遠ざかろうとして、そ の『かたち』すら明確には見出せなくなるかも しれない」と述べ、「『かたち』が曖昧な貧困の 放置は、この社会の不安と分断を不気味に拡大 させていくことになるだろう」 と示唆してい る。  つまり、貧困とは、資本主義経済の構造と関 連しながら、階層の連鎖の中で生み出されてい くものであり、社会の問題である。一方でその 社会の中において物質的に生活の困窮を抱えて いる貧困の当事者が存在する。 貧困の当事者 は、差別や偏見、現実の生活格差をともなって 社会的に排除される。しかし、排除されるだけ ではなく、貧困の当事者自身が、社会の中で人 として存在するために必要な他者との関係性を 断ち切り、考えたり感じたりすることを停止さ せ、 先の見通しも立たず、 ただ毎日の生活を 送っている状況に自らを置いてしまう。その積 み重ねは貧困の文化となって、社会参加を困難 にしていくのである。 2 .貧困の世代間継承の経路と子どもの貧困  子どもの貧困は特に見えにくく、これに対し て支援を展開していくためには、制度・サービ スにつなげる物質的な側面とともに貧困の非物 質的な側面に注目し社会関係の再構築を図る必 要がある。阿部(2016)は、貧困世帯に育つ子 どもが、学力、健康、家庭環境、非行、虐待な ど多くの側面で、 不利な立場にあることを、 データで示した。一方、15歳時の生活状況とそ の後の生活水準の関連についての調査研究を紹 介したことで、貧困の世代間継承が話題となっ たが、道中(2007)の調査では、貧困の世代間 継承を数値で明らかにした。道中(2007)は、 大阪府堺市の生活保護を受給している世帯の貧 困の世代間継承を示した。生活保護を受給して いる390世帯のうち、25%が親の世代も生活保 護受給家庭であることが明らかになった。なか でも、母子世帯の親の世代は41%が生活保護受 給家庭であったという調査結果であった。  阿部(2016,p18-28) は、 貧困の世代間継 承の経路を 6 つ示した。 1 つ目は、金銭的経路 であり、内容は教育投資・家計の逼迫・資産で ある。2 つ目は、家庭環境を介した経路であり、 内容は親のストレス・親の病気・親との時間・ 文化資本説・育児スキルやしつけスタイル・親 の孤立である。 3 つ目は、遺伝子を介した経路 であり、内容は知的能力・身体的特徴や性格な どである。4 つ目は、職業を介した経路であり、 内容は職業の伝承である。 5 つ目は、健康を介 した経路である。 6 つ目は、意識を介した経路 であり、意欲・自尊心・自己肯定感・福祉文化 説である。その他に考えられる経路として、地 域・近隣・学校環境・ロールモデルの欠如・早 い離家・帰る家の欠如なども挙げられている。  一方、菅原(2016)は、家庭の経済的困窮が、 どのような経路をたどって子どもの健康や発達 に影響を及ぼすのかを示した(図 1 )。 菅原 (2016)は、経済状況の悪化が引き起こす不利 のなかで、養育者の心理的ストレスと子どもの 知的発達を促進する教育財の購入や環境整備の 2 つの要因は特に大きいと指摘している。養育 者の心理的ストレスは「家族ストレスプロセ ス」と呼ばれ、知的発達を促進する教育財の購 入や環境整備は「家族投資プロセス」と呼ばれ ている。「家族ストレスプロセス」では、経済 状況の悪化→親の経済的困窮感や心理的ストレ スの増加→養育の劣化(虐待的養育も含む)→ 子どもの発達へのネガティブな影響、という養

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育者のストレスの経由が考えられる。また、「家 族投資プロセス」では、経済的状況の悪化→家 庭の教育投資額の低下や居住環境の劣化→子ど もの発達へのネガティブな影響、という家庭の 物的環境の経由が考えられる。菅原(2012)ら が、この 2 つのプロセスにあてはめて解釈した ところ、どちらのプロセスも、すべてのパスが 統計学的に有意なレベルで関連性をもつことが 確かめられた。菅原(2016)は、貧困や低所得 の子どもの発達に対する影響は直接的なもので はないことを示した。それは間接的なものであ り、第 1 の経路として親の心理的状態や養育態 度、第 2 の経路として家庭の近隣環境を経由す ることを示した。すなわち、経済的困窮家庭の 親の心のケアを行うことで、親が子どもへの接 し方がより穏やかで心のこもったものに戻れる のであれば、第 1 経路をたどるネガティブな影 響は防ぐことができることになる。また、第 2 経路である子どもの環境整備を整えることも効 果的であることがわかる。  山野(2017)によれば、貧困というものは、 世帯構成やサポートの少なさなど他の社会的な 不利の状況とシンクロすれば、共振的、加速度 的に問題が悪化する。つまり、貧困の中で育つ 子どもは屈辱的な生活と共に、社会関係を結び にくい状況により、加速度的に状態が悪化する ことでパワーレスになり、自尊感情の低下につ ながると考えることができる。 子どもの貧困 は、剥奪と社会的不利、地域からの排除の構造 により、深刻さを増し、貧困の世代間継承へと 繋がる構造が生まれる。  よって、ユニセフ(https://www.unicef.or.jp/ about_unicef/about_rig.html) が、「子ども達 が経験する貧困の特殊さにかんがみ、子どもの 貧困とは単にお金がないということだけでな く、国連子どもの権利条約に明記されているす べての権利の否定と考えられる」と、極めて重 要な認識を示しているのである。また、これら 図 1 :貧困とアウトカムをつなぐ「経路」 出所 :菅原ますみ(2016)「子どもの発達と貧困 低所得層の家族・成育環境と子どもへの影響」 秋田喜代美・小西祐馬・菅原ますみ(2016)『貧困と保育 社会と福祉につなぎ、希望をつむ ぐ』かもがわ出版 p.208より、小項目を除いて筆者作成

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があいまって、「子ども達の精神的、 肉体的、 情緒的な発達に計り知れない影響を及ぼしてい る」ともユニセフは指摘している。 3 .貧困家庭に育つ子どもが見せる課題  家庭の貧困は、子どもが非行に陥る確率も高 めるといわれている。岩田美香(2008)は、高 校への進学が制限されると、学生でいられる期 間が短く、失敗する余裕がない子育ちのプロセ スを歩むことになると指摘している。岩田の調 査によれば、少年院生は、夕食を家族そろって 食べた経験の率が極端に低く、ひとりで食べた り家族以外の人と食べることが多いという。家 族に暴力を振るわれることも多く、将来の職業 の希望は持ちにくい。  OECD の「生徒の学力到達度調査」1)では、 子どもが学校生活をどのように感じているか (調査では学校への所属感と捉えている)も調 べている。2003年調査では「学校ではよそ者だ と感じている」や「学校は気後れして居心地が 悪い」といった設問に対して、日本の子ども達 の多くが、「とてもそうだと感じている」「そう だと感じている」と答えている。多くの子ども が学校で、疎外感を感じているということであ る。さらに、2012年調査の結果は、これらの学 校への所属感はさらに低下していることがわ かった。親の職業と学歴から社会経済階層別に 集計された結果をみると、社会経済階層が低い ほど上述のような疎外感を感じていることがわ かる。  学校は、子どもの生活の中で中心的な位置づ けの場である。そのような学校生活において、 子ども達が感じる疎外感があるということは、 格差の深刻さとともに、子どもが育っていくプ ロセスに課題が生じる恐れが高いことも予測す ることができる。  T. リッジ(Tess Ridge)(2010,pp.253-289) は、子どもの貧困がどのように子ども達の生活 に影響を及ぼすことになるのか、子ども若者へ の聞き取り調査によって、明らかにした。 子 ども達の生活に影響を及ぼすことになる問題領 域は、以下の 8 点が示されている。「子ども若 者が自律的に管理できる経済的資源、特に小遣 いという資源へのアクセスの有無」「働くこと の意味」「安価な移動手段が利用できるかどう か」「友人関係」「服装」「学校での社交や学業 への参加」「社会活動や余暇活動」「家族内でど のように欲求を充足しているか」である。これ ら 8 点の 1 つでも充足されない場合、子どもの 毎日の生活が制限されていることが明らかにさ れている。さらに、 1 つだけではなく、複数の 問題領域、もしくは 8 点全ての問題領域が、子 ども達に充足されない状況があり、その場合は さらに生活の制限は大きくなる。特に多くの子 ども達は、貧困によって「友人関係が損なわれ たと感じており、 友人たちと会うことができ ず、通常の社会的イベントにも一緒に参加でき ないため、 排除される危険があると感じてい た」と報告されている。また一方で、「貧しい と見られること、他人と違っていると見られる ことで、社会的制裁を受けるのではないかと恐 れる者もいた」とも述べられており、子ども達 が自らの貧困を隠そうとする姿が容易に想像で きる。そして、多くの貧困の子どもが、様々な 不安を抱えていることも報告されている。例え ば、自分の親の状況、親の健康、借金について、 お金のやりくりについて、 将来の人生につい て、大人になった時にうまく生活できるかどう か、社会に溶け込めないのではないか、という ように、その不安は様々であることがわかる。 4 .学習支援や子ども食堂  「子供の貧困対策に関する大綱」等では、貧 困の世代間継承を2)断ち切るための学習支援は 極めて重要であるとされ、生活困窮者自立支援 法の制定および生活保護法一部改正により地方

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自治体が予算を組んで取り組まれるようになっ た。中学生に進学の道を拓くなど一定の効果が みられるが、貧困の状況は多様であり、対象を 限定した形での学習支援だけでは十分ではない という現実もある。自己責任論により子ども自 身の努力が求められ、 その結果、 より一層パ ワーレスに陥る場合もある。 パワーレスに陥 り、学習に向かう意欲が持てない子どもへは支 援が届かない恐れもあるだろう。  このような流れの中、全国各地でもう 1 つの 草の根活動として、「子ども食堂」などの取り 組みが行われるようになっている。食を通した 活動では地域の潜在的な資源が活用され、多く の人たちが集い、力を発揮している。これに関 しても、そこに権利主体として子どもを捉える 視点がなければ、 救済型支援に終わってしま う。また、スティグマを生じさせる恐れもある。  荻野(2018,p.200)は、「食事は生活の一部 です。生活の全体と切り離した食事だけの支援 というのは成り立ちません。食事の支援が必要 な子どもは、多くが、食事以外の生活のあれこ れへの支援を必要としています」 と述べてい る。実際、筆者が参加、観察させていただいた 「子ども食堂」や「食をともなう居場所」では、 単に「食」の提供があるというだけではない実 践が成されていた。そして「生活のあれこれ」 への寄り添いや支援の効果が生み出されている と感じられるシーンに出会うことがあった。  アマルティア・セン(2011)は、ケイパビリ ティ・アプローチという考え方を導入した。ケ イパビリティ(潜在能力)とは、ある人が価値 を見出し選択できる「機能」の集合のことであ り、その人に何ができるかという可能性を表し ている。「食をともなう居場所」づくりにとっ て重要な考え方であると言える。また、レイヴ &ヴェンガー(1933,p.10-12) は居場所で当 事者とスタッフが状況を共有することは、「社 会的環境の中にある共同体で行われている社会 的実践のために必要な場」 であると述べてい る。このような状況を共有することによって、 スタッフは当事者性を深めていくことが理解で きる。このような出来事を辻(2017,p.13)は、 「身の回りの人が理解することが一番大事なこ とだ」と述べている。  子どもはそこに集う多様な大人から生活を学 び価値観を見つけ出すかもしれない。そこに集 う大人は支援者でもあり、貧困に育つ子どもか ら社会の矛盾や課題を学ばせてもらう学習者と なる場合もあるだろう。このような相互関係が 存在することにこのような「場」の持つ意義が ある。「学習支援」や「子ども食堂」が、学び の相互作用が生み出される場となる時、その広 がりは、子どもへの包摂的支援の面に発展する 可能性が期待できる。 5 .本研究の目的  本稿では、食を伴う子どもの夜の居場所のひ とつをケース・スタディすることにより、この 居場所を開催することになったいきさつ、そこ で何が起こっているのか、なぜ起こっているの か、そのことによってその場に参加する人、関 わる人々がどのように変容していったのかを示 す。そして、食を通じてつながることで起こる 人の変容は「貧困の非物質的な側面」に働きか け、「屈辱的で人々を蝕むような社会関係」を 紡ぎ直すことを可能にするのか、検討すること を目的とする。 1 .研究対象

 Sunny Side Standard

   大阪府南部に位置する太子町で実施されて いる子どもの夜の居場所支援の場 太子町 の人口は13,846人(男:6,821人、女:7,025

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人)、世帯数は5,411世帯(2016年 1 月 1 日 現在)。生活保護率8.5‰(2012年 1 月現在、 大阪府全体33.9‰、全国16.4‰)で平均よ り低い。高齢化率は25.1%(2015年 3 月現 在)。太子町には小学校 2 校、中学校が 1 校ある。 2 .研究方法

 Sunny Side Standard への参与観察と聞き取 り調査 3 .倫理的配慮  本研究は、国立大学法人埼玉大学におけるヒ トを対象とする研究に関する倫理規則第16条の 規定に基づく審査で承認を得て実施した(受付 番号 H27-26)。参与観察、聞き取り調査に際し ては、調査対象の場に参加している方々に説明 書にて調査の説明を行った。具体的には、研究 の目的・具体的な調査方法・対象とする調査参 加者・調査担当者・調査の任意性・調査への参 加に伴う不利益及び危険の可能性とそれに対す る配慮について(不利益を被ることはなく、個 人の情報については厳重に管理し、分析の段階 から研究成果を公表する段階まで個人が特定で きないようにすること)・研究成果の公表につ いて(平成30年秋に出版予定の当学会の研究紀 要に研究の成果として報告すること)・個人情 報の取り扱いについて説明し、同意書にチェッ ク・署名をいただいた。なお、同意撤回書も同 時に手渡している。 4 .分析方法

 Sunny Side Standard の調査を分析するため に、 ソーシャルワーク実践評価の方法である ケース・スタディを使用する。ロバート K. イ ン(Robert K. Yin)(2014,p.1)によると、ケー ス・スタディが望ましい戦略であるのは、「『ど のように』あるいは『なぜ』という問題が提示 されている場合、研究者が事象をほとんど制御 できない場合、そして現実の文脈における現在 の現象に焦点がある場合」 である。Sunny Side Standard で起こっている事象は研究者が 制御できるものではない。また、そこで「どの ように」「なぜ」起こるのかという現在の現象 に焦点をあてた観察調査である。 よって、 Sunny Side Standard の調査分析を、ケース・ スタディによって行うことは妥当だと考える。  具体的な調査設計としては、シングル・シス テム・デザインであると言える。シングル・シ ステム・デザインとは、単一のクライエント/ システム(単数の個人、または複数の人々から 構成される一家族、一グループ、一組織、一地 域)を対象として使用される調査方法、または 評価方法である。シングル・システム・デザイ ンは、実際の介入(社会・心理的治療、社会福 祉サービス、教育プログラム等の総称)が行わ れる時に、介入が導入される前の一定期間、介 入が実際に行われている期間、介入終結後の期 間、という 3 つの期間を継続的、組織的に観察 する方法である。よって、Sunny Side Standard の取り組みは介入が終結した訳ではないが、一 定期間の継続的な介入プログラムを実施した観 察当時の結果としての様相を分析することがで きるため、本方法は適当であると考える。  また、Sunny Side Standard という単一のク ライエント/システムを調査分析する意義は、 シングル・システム・デザインによる調査方法 がもつ以下の意義で説明できる。平山(2002, p.29)によれば、シングル・システム・デザイ ンを実践評価に使用することにより、「①クラ イエントの問題と、クライエントの潜在的能力 の認知、②クライエントが望む目標の認知、③ 目標達成のための介入方法の選択」の理解が明 確にできるようになると述べられている。つま り、シングル・システム・デザインは、Sunny Side Standard という居場所が、この場を利用

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する人々が望む方向に変容する介入を提供して いるのかどうか、また効果があるとすれば、そ れはどのような方法やあり方が効果を生み出し ているのか、を理解できる可能性をもたらす調 査対象であると考えられる。  次に、具体的な分析方法として、ここでは時 系列分析を採用する。ロバート K. イン(2014, p.181) は一般的な分析方法の一つとして時系 列分析をあげ、「多くの複雑なパターンを追跡 することができ」、「パターンが複雑にそして正 確になればなるほど、 時系列分析はまたケー ス・スタディの結論に確固とした基礎を築くよ うになるだろう」と述べている。時系列では従 属変数あるいは独立変数が一つしか存在しない こともある。単純だともいえるが、ある意味複 雑である。つまり、「この 1 つの変数が経時的 にさまざまに変化し、その出発点あるいは終着 点が明確でないかもしれない」からであり、こ のような問題にもかかわらず、「経時的に変化 を追及することができる点がケース・スタディ の大きな強みである」こと、「ケース・スタディ 分析でいくつかの他の技法も用いられるとして も、経時的な事象が詳細かつ正確に追跡される なら、何らかのタイプの時系列分析はつねに可 能であろう」とロバート K. イン(2014,p.181) は述べている。

 以上より、本研究は Sunny Side Standard の ケース・スタディを、シングル・システム・デ ザインの調査設計を援用し、時系列分析する方 法をとる。

1 .Sunny Side Standard の実践が始まる 前∼プレ調査(2015年10月)から  大阪府にある太子町教育委員会には、スクー ルソーシャルワーカーが雇用されている。その スクールソーシャルワーカー(以降、SSWer と略す) は、 2 年前 A さんの支援を開始して いた。A さんは要保護児童対策地域協議会に 登録されている要保護児童の中学 1 年生であっ た。SSWer は、学校内で A さんを支援するた めのケース会議を 1 学期に開催した。そのケー ス会議には学校内で A さんに関わっている教 員だけではなく、 生活保護のケースワーカー や、 主任児童委員なども参加してもらってい た。  当時、A さんは不登校傾向にあったが、 教 員の熱心な関わりもあり、徐々に不登校傾向は 改善に向かい、 勉強にも興味を持ち始めてい た。A さんの家庭ではご両親の養育態度が悪 く、ネグレクトの状況が続いていた。特に母親 は掃除・洗濯・食事の準備などの家事に取り組 んでいない様子が見られ、A さんが学校に継 続的に通い続けようにも、困難な状態が見受け られた。また、勉強に興味を持ち始めたものの、 家庭内には勉強ができる場所も雰囲気もない様 子で、A さんのモチベーションを維持するの は難しい状態であった。 このような A さんと A さんを取り巻く環境についての情報を関係 者で共有し、どのように支援していくかを話し 合うケース会議であった。  ケース会議に出席することで、主任児童委員 の B さんは、 この町内でこんなに生活状態が 困難な子どもがいたのだと気付き、心を揺さぶ られたと発言している。B さんは、自分に何か できないのだろうか、という思いが募ったそう だ。その思いを SSWer と共有することで、夏 休みの子どもの居場所と食を支える取り組みと して、試行的に「調理実習」を 3 回開催するこ とになった。調理実習には A さんや A さんの きょうだい達はもちろん、同じように家庭の課 題を抱えた子どもも含めて、地域の子ども達が 参加した。調理実習の最終回、子ども達から「も う終わり?」「もうやらないの?」「もっとやり

Sunny Side Standardの

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たい」という声があがった。その声に背中を押 され、 主任児童委員 B さんは、 お寺の本堂で 子どもの夜の居場所支援を実施することになっ た。 お寺にはお供えのお菓子やジュースがあ る、そのような何でもないような物も子どもを つなげるツールになるかもしれない、そう考え た主任児童委員と SSWer は、お寺における子 どもの夜の居場所支援のボランティアを集めて いった。集まったボランティアは、主任児童委 員仲間や町役場の若者たち等、多様であった。

2 .Sunny Side Standard の実践∼観察調査(2016年 1 月)

《事象の時系列記録抜粋》 2016年 1 月28日16時半頃

 太子町役場に着く。大阪中心部から車で40分ほど。郊外の静 かな町である。町役場から本日の目的地までは徒歩で10分。板 塀で囲まれた細長い坂道を登り切ると Sunny Side Standard の 活動舞台となっているお寺はあった。Sunny Side Standard は、 ひとりぼっちにならず、夢と希望をもって、陽の当たる場所に 当たり前にずっと立っていられる子どもを育てる場所、という 意味をもっているという。  お寺の掲示板には、第 7 回 竹内街道“灯路祭り”のポスター が貼ってあった。竹内街道にぎわいづくり協議会の主催、太子 町が共催したイベントで、2015年10月17日(土)に行われた。 竹内街道を灯ろうで照らし、 時代行列や古民家でのコンサー ト、軒下ギャラリーなど、町内の各所で地域住民手づくりのイ ベントが展開された。このお寺は「境内ギャラリー」の会場と なり、本堂にインドネシアのバッティックを展示した。幻想的 な中アロマやネイルサロン、境内ではスーパーボールすくい、 てのひらランプ作り、雑貨やみたらし団子が販売され、コン サートも随時開催されたという。 みたらし団子は、Sunny Side Standard 利用の子ども達とボランティアが販売したそう だ。  その後、子ども達が現れるまで本堂で車座になりながら、普 段の様子について話を聞いていると C 姉 A 弟が扉をそーっと 開け、中をうかがうようにしながら本堂へ入ってきた C 姉の 方は、「帰りたい」と繰り返し口にしていたが、女性スタッフ が対応していた。その様子からは、個々の思いや性格に沿った 対応がなされていることが伺われた。その間に高 3 の男の子が 現れ本堂の隅で全体の様子をうかがいながら過ごしていた。 《分析》 お寺には檀家がある。 檀家の 方々に子ども達への夜の居場所 支援をしていることに対しての ご理解をいただかなければなら ないと考えている。「私らの寺 の本堂」で「何をやっているの か」わからない状況では、新た な排除を生みかねない。子ども 支援の必要性や、子どもの居場 所の必要性を伝えていくために も、子ども達と共に地域貢献活 動に取り組むことが大切だ。 子どもの様子に伴走しているボ ランティアの姿

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 SSWer が到着。挨拶をしている間に、スタッフや子ども達 が続々と顔を出してきていた。町役場の X さんはカメラを提 げて現れる。D さん 3 兄弟着。長男は、カバンから勉強道具を 取り出し、テーブルに向かう。次男、三男は、台所で調理の手 伝いに向かう。C 姉に対しては、女性スタッフから M さんに 対応が変わっていた。 17:15から  カレーとナンの仕込み、野菜サラダと差し入れの果物の調理 が始まった。D さんが台所に案内してくれて、D さんは「今日 はカレーとナンを作るんです。 ナンの発酵に時間がかかるの で、 少し早めにきて下準備してるんです」 と説明し、SSWer と Y さんはもう少し後で来ると話していた。D さんはスマー トフォンでレシピを見ながら、薄力粉、強力粉、ベーキングパ ウダー、塩、砂糖、油を計量してボールに入れて「これをこね てください」と観察者にテキパキと指示を出し、「助かります、 たくさん作らなければいけないので」と言っていた。D さんは 「子ども達は小麦粉をコネコネすることなんてないだろうから、 その経験をさせてあげたいんです」と話していた。今日は家に 帰る」とごね続けた C さん。X さんや Y さんは、「自分にかまっ てほしいのだろう」「弟と距離を置き、家で一人になる時間が ほしいだろう」「何かと干渉する親から距離を置きたいのだろ う」などと C さんを分析する。結局、C さんは最後まで参加し、 リンゴを切って皿に盛りつけた。リンゴを細かく刻む作業内容 に疑問を感じるところはあったが、周囲が温かく見守っていた のが印象的だった。実は歯の弱いメンバーを気遣っての「刻み リンゴ」だったらしい。  ほかの子どもが来ると、D さんが机と椅子を出して宿題をす るスペースを作っていた。D さんの小 6 息子は、宿題(算数の ドリル、単元は単位の換算)を始めた。E くんはその周りをく るくると回りながら、「これ、俺できる」とか「これ簡単だよ」 とか言って見ていた。D さんの小 6 息子は特にそれをうるさい という感じではなく、すべて終わらせて丸付けをし × がつい たところを直していると、E くんも一緒に考え始め、2 人で「 0 の数が 6 個だから…いや、10個になるから10億かな?」と話し ていた。この様子をみて、SSWer は「学校に行けない E くん にしてみれば、学習習慣はなくても学校でやっていることには とても興味があるし、ここでは学習方法を知るための貴重な機 会になっている。」という。 一人一人への細かい配慮を自然 に役割分担して行う大人の存 在。 D さんは、「正確な指示を出す」 →「感謝する(ほめる)」 とい う一連の流れをスムーズに自然 にしていた。生活経験が少ない 子ども達に楽しんで経験を積ん でもらうため、 工夫されてい る。子ども達への大人からの配 慮。

Sunny Side Standard には、親 子・兄弟姉妹でやってくるケー スが少なくないが、そのことが 利点となり障害ともなっている ようだ。 スタッフは、依存と自立欲求を ない交ぜにした思春期特有の子 どもの発達課題を的確に分析し て、冷静かつ余裕を持った対応 をしていた。 「食べること」 が正しい人との 関わりを経験することにつなが る、という共通認識が理念とし て存在する。準備や後片付けま でを含めた「調理」が、大きな 位置づけにあることがうかがえ る。 知恵や技術の獲得

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 台所では、高 3 の男の子が鍋をかき混ぜながらスタッフたち と話をしていた。奥の方では、スタッフと別の高 3 の子と男の 子 2 人が「玉ねぎで目が痛い」等と口にしながらホットプレー トでナンを焼いていた。D さんの小 1 の息子が観察者とならん で生地を捏ねていた。 18:30頃  本堂でも野菜やフルーツをカットしており、そのテーブルか ら少し離れて一人でその様子を見ていた母親と話した。C 姉 A 弟の母とのことであった。毎週は来ることはできていないが、 来ることができる時は来ている。ここへ来て、いろいろな人と 話をしたりすることで気持ちが楽になっているところもあると のこと。少し水を向けると、話があふれ出てくるようになり、 話を聞いてもらいたいという母親自身の思いも感じられた。ま た、かなり離れた位置で娘である C 姉を見ており、子どもと の関係に難しさを抱えているようであった。 19:00頃 本堂で食事。正面に D さんの小 1 の息子、スタッフ、 D さんの小 6 の息子、隣に観察者という風に座り、テーブルの 中央に座っているスタッフが子ども達に声をかけながら食事が 進んだ。スタッフは、両側の子ども達どちらにも細やかに声を かけていた。スタッフは、子どもがポツンと過ごすことがない ように目を向けていた。そのような対応によって、足を運んで いる人たちが居心地のよさを感じられるように配慮しているこ とを感じる場面であった。 夕食の片づけ では、観察者の一人が台所で洗い物。その背後 のテーブルには、本堂から戻ってきた食器やお盆が並んでいた ので、洗い終わった食器がおけるように整理をしながら、食器 を拭いて棚に戻している高 3 の子と学校の様子、将来に向けた 話を聞く。登校には 1 時間ほどかかるので、いつも 6 時には起 床。今週は、水曜まで毎日遅刻してしまったが、今日から試験 が始まったので、遅れずに通っていること。あまり勉強ができ ていないので、朝 3 時50分に起きて試験勉強をしている。明日 もその時間に起きる予定。試験が終われば、 2 月に卒業。その 前に学校の教師と裁判所へ見学に行く予定。進路は、 1 年制の 職業訓練校に進む。その後の進路は未定。姉弟ではなく、兄妹 とよく間違えられるとのこと。最初は、あまり話をしなかった が、片づけを一緒に行いながら、いろいろな話が出てきた。洗 い終わった食器は、C 姉の母親が拭いていた。  トランプグループの傍に C 姉の母親が行く。自分の子ども 子ども達が生活体験 子ども達が生活体験 母親にとってもこの場所が居場 所となっていることが明確にわ かる発言。 居場所に来た子ども達がここで 孤立しないように気配りをして いることがわかる。このような 大人の存在が子どもに安心感や ここにいていいのだという承認 を得られた感じをもたらしてい ると思われる。 高校生の進路の問題にも丁寧に 取り組もうとしていることが感 じられる。 C 姉の母親が大人の場で作業が できるようになっている。母親 の居場所・体験の場にもなって いる

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達が参加しているわけではないが、C 姉の母親がそれぞれの手 札について「○○持ってる」「点数が低い」と口に出しながら 見ていた。これに対して、その様子を煩がる子どももおらず、 そういった形でも一緒に参加していると認めているようにも感 じられた。  E くんが少なくとも 2 年間学校に行けたり行けなかったりし ているという話を聞いた。X さんに E くんがあまり緊張して いないのではないかと聞くと、「A くんは 2 年前この活動を始 めてからずっといて、はじめは緊張していたが、今はそんなこ とはないし、いろいろな人が出入りするから慣れたのかも」と 言っていた。子ども達の様子を X さんにきくと、「E くんがくっ ついてきて、おんぶしたり、抱っこしたりもよくするんですよ」 と言う。こうしたやり取りがとても楽しくて同僚を誘ってきて いると話していた。 終了時間  子ども達が帰る際には、境内まで出てスタッフが見送ってい るようにも見えたが、それぞれの自宅まで送ったとのこと。ど の子が保護者と一緒なのか、お迎えがあるのかということを 踏まえて、子どもだけのところを中心として行っていたのか、 保護者のいる世帯も一緒に話をしながら送っていたのかは、わ からなかったが、男性スタッフは全員、子ども達を自宅まで 送って行っていた。  その後、話を伺うと、太子町の子ども達を対象にしているが、 必要に応じて柔軟に、臨機応変にメンバーを構成し、ネット ワークを形成しようとしていることが理解できた。いつ、誰が、 どのように、構成メンバーの追加更新やネットワークづくりの 可否を判断するのか尋ねたところ。D さんは「外部とのやりと りはシニアのみなさんがやってくれる。」SSWer は「役場への 申請書や保護者への同意書などは、協力してくれる弁護士に頼 んでいる。」また、D さんは「ボランティアを始めてまだ 2 ヶ 月なんです。」と答え、Y さんは「D さんは食事のメニューや 活動内容を色々と工夫して提案してくれる。その中から『今は まだできない』は除き、今できそうなことを選び出していく。」 との回答であった。 行政の支援の隙間の課題に対し てのエンパワメントアプローチ スタッフの役割分担と相互の影 響関係が興味深い。 シニアは、 ボランティアスタッフの年齢、 立場、任務、性別、特技・性格 を把握して、役割分担や活動内 容の選択を決めていく。結果と して、地域貢献する若者が居場 所から育っている。 様々な資格や立場の大人や地域 のボランティア、地域住民等が 必要に応じてメンバーを構成 し、必要に応じてネットワーク を形成していくことができる可 能性。 スタッフも充実感を積み重ねて いる。

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3 .Sunny Side Standard の実践における A さんをめぐる事象  A さんおよび A さんの家族を取り巻く環境 を視野にいれつつ、夜の居場所を親子にとって 居心地の良いものに創り上げていることがス タッフの言葉の端々から伺える。そして、「食」 を体験することが親子にとって生活体験を積む ことにつながっていく。「食」 の準備、 調理、 食事、片付け、という言わば当たり前の日常動 作は、当たり前にできるようになるわけではな い。しかし、今できないからといって、この後 もずっとできないわけではない。親子は温かい 場で包み込まれ、非難されることなく生活体験 を積むことができており、人と人の関わりが親 子の生活への取り組み姿勢を変容させていった と言える。 1 .利用者 A さんの変容

 A さんは、Sunny Side Standard に参加する までは、貧困という家族の中の閉じられた関係 性の中で暮らしていた。A さんは生活体験が 少ない暮らしの中で、学校にも家庭にも溶け込 むことのできない、ある種の居心地悪さを感じ ていたのではないだろうか。さらに不登校気味 という状態のなかで学校という社会的資源から 遠ざかりつつあり、そのために社会的資産とし ての友人関係やそこから紡ぎだされる社会的 ネットワークが構築されにくく、生きづらさを 感じていた。しかし、Sunny Side Standard に 参加することにより、A さんの閉じられた関 係性に小さな穴が開いた。  T. リッジ(2010)は、子どもの貧困の課題 として、「仲間に溶け込むこと」「仲間と参加す ること」をあげている。「仲間に溶け込むこと」 には、友人に対する価値、いじめから身を守る こと、友人関係によってもたらされる幅広い社 会的ネットワーク、友人関係の維持の難しさを 指摘しており、子どもの貧困はこの友人関係か ら広がる社会関係を断ち切る恐れがあると述べ ている。 また、「仲間と参加すること」 では、 学校をどのように感じるのか、制服をどのよう にとらえるのか、遠足や修学旅行にどのように 価値を置くのか、費用を工面することの困難に より遠足や修学旅行に行かないことの意味など から、貧困を抱える子どもが、自らを学校や仲 間から排除していく構造になっていると指摘し ているのである。このような構造は親のもつ友 人関係や学校に対する価値観にも大きく左右さ れ、価値観が再生産されていると言える。  A さんは、T. リッジの言う、「子ども中心の 社会的排除」に身を置いていたのではないかと 考えられる。このような中では、A さんがもっ ている力は発揮されにくく、パワーレスの状況 に陥っていく。しかし、Sunny Side Standard に参加することにより生活体験を積み重ね、A さんの内なる力が徐々に表にあらわれてくる (エンパワメント)3)ようになった。

 では、 具体的に、A さんがエンパワメント されていった、Sunny Side Standard での実践 はどのような理論で説明できるであろうか。ア マルティア・セン(2011)の『正義のアイデア』 理論を用いて考察を試みる。アマルティア・セ ン(2011)は、「対立する主張を扱う場合、『あ なたはあなたのコミュニティの中では正しく、 私は私のコミュニティの中では正しい』とする 怠惰な解決に満足するような『無関心な寛容 さ』を求めるのではなく、理にかなった議論を 自分自身そして他者とかわす必要がある」と述 べている。そのうえで、「正義のアプローチは、 人々の暮らしではなく、制度に対して過度に集 中すること(人々の行動は、それに適切に従う ことが仮定されている)は、極めて不適切であ

考 察

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る」と、アマルティア・セン(2011)は論じる。 アマルティア・セン(2011)によれば、「正義 の評価において実際の暮らしに焦点を合わせる ことは、正義のアイデアの性質と範囲にとって 非常に広範な多くの合意をもっている」とし、 ケイパビリティ・アプローチという考え方を導 入した。ケイパビリティ(潜在能力)とは、あ る人が価値を見出し選択できる「機能」の集合 のことであり、その人に何ができるかという可 能性を表している。ケイパビリティは「各人が 実現しうる暮らしや自由によって正義を理解す るという考え方に直接的に適合している」とア マルティア・セン(2011)は説明し、「暮らし」 「自由」「資源」「幸福」「福祉」「平等」 とケイ パビリティについて論じているのである。  A さん家族という環境を「しかたないから」 「支援してあげないと成り立たない家庭だから」 とサービスをつなげても、 それは A さんのパ ワーレスに伴走する支援にはならなかっただろ う。サービスや制度は一見「寛容」に見える支 援であるが、実はそこには「人」がつながるこ とはなく、「無関心」の中で「寛容」なサービ スが展開されるだけであったととらえることが できるからだ。

 一方で、Sunny Side Standard の取り組みは、 まず A さん自身にとって居心地のいい場を提 供するという姿勢で A さんに近づいた。A さ んが「人」 と出会った瞬間だったと言える。 「人」と出会うということは「無関心」からの 脱却であり、A さんの存在が一気に陽に当た る瞬間だったのだと思われる。そのような中、 A さ ん が Sunny Side Standard と い う 場 で、 体験を積むことにより、内にある可能性をうっ すらと感じることができたり、その場に関わる 人々に支えられる安心感のなかで、自身の中に ある「価値」のある能力に少し光があたり始め たのではないだろうか。 このようにとらえる と、Sunny Side Standard では、まさにケイパ

ビリティ・アプローチが個々の子どもあるいは その保護者に届けられている実践なのだと考え られる。

2 .スタッフの変容

 Sunny Side Standard のスタッフは、子ども を真ん中に置きながら、寄り添い、伴走や配慮 など様々に考えて活動していた。ケース会議か ら発見された生きづらい子どもの存在に心を揺 さぶられ、放っておけないという気持ちが沸き 起こったのである。しかしながら、参加する子 ども達の笑顔や変容によって、スタッフ自身が 参加者を「支援対象者としての子ども」 から 「輝き力のある子ども」へと捉え直しをしてい た。よって、Sunny Side Standard のスタッフ 自身もそこに参加することで、安心したり、く つろいだり、元気になることができる。  つまり支えたり、支えられたりが相互に起こ る場であるといえる。言い換えれば、ともに理 解し合い、認め合える場なのである。支援者と して集ったスタッフが、Sunny Side Standard に参加する子どもやその家族、つまり当事者と の関わりの中で当事者の立場になって問題を考 え行動しようとしていたのではないだろうか。 そうすることによって、スタッフは当事者と状 況を共有することになる。 ここでいう状況と は、 レイヴ&ヴェンガー(1933,p.10-12) が 述べている「社会的環境の中にある共同体で行 われている社会的実践のために必要な場」であ る。このような状況を共有することによって、 スタッフは当事者性を深めていったといえる。 スタッフはボランティアであることから、この 場でボランティア学習が成り立っていることが 理解できる。  このような出来事を端的に表現したのが、辻 (2017,p.13) である。 辻は滋賀の縁創造セン ター開催の「この子らを世の光に∼子ども食堂 全国交流会 in 滋賀」のセッションで、「身の回

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りの人が理解することが一番大事なことだ」と 述べ、「その人を理解して、ともに生きるとい う目を持っている人がまわりにいることが、ま るで空気のように必要なんです。それと同じよ うに、生きづらいお子さんのことを理解して、 見守っているという目が空気のように大切なも のなんです」と表現している。  辻(2017,p.4)によれば、「自覚者は責任者」 は糸賀一雄の語である。何かの課題に気が付い たとき、気が付いた人間がやるのが、気が付い た人間の責任だ、ということである。地域に生 きづらい子どもがいるということを、地域住民 が発見した。十分な食事をしていないというこ とに対応し、一緒に温かいものを食べることか ら始まったのが「子ども食堂」である。しかし、 それは単に食事の提供に留まらない活動となっ ている。なぜなら、食事には暖かい場や、会話 や、気遣いが伴うからだ。つまり、「食をとも なう」ということは、そこに「場」がつくられ るということになる。その「場」においては、 暖かさや、会話や、気遣いが行われ、子どもに 対する見方、接し方、捉え方をもっと大事にし ていきたいという思いが醸成されると考えられ る。  地域での食事会は、 古典的な活動実践であ る。地域の独居高齢者の食事会などに例が見ら れる。毎日食事をしている高齢者にとって、月 1 回の食事会の意義は何か。それは、食事会を 通して地域の人が独居高齢者に声をかけること ができるということだった。生きづらい高齢者 も、生きづらくない高齢者もたくさんいる。み んなに来てもらって、 お互いの生活を地域の 人々とともに考える機会だったのである。地域 住民が独居高齢者という問題に気付いていくこ とだった。つまりそのプロセスで、地域住民が 一人一人、自覚者になっていくということであ る。  食をともなう子どもの居場所も同様である。 その子どもが持っている個性、持ち味を生かす という意味において、まったく普遍的な課題を 持っている。その子どもならではの力を、いか に発揮できるようにしていくのか。それには、 地域の人々が、この問題に気付いていくという ことが非常に大きな意味があり、「食」を通し て学ぶということに他ならない。  食を伴う子どもの夜の居場所のひとつをケー ス・ スタディすることにより、 そこで何が起 こっているのか、なぜ起こっているのか、その ことによってその場に参加する人、関わる人々 がどのように変容していったのかを示した。結 果、食を通じてつながることで起こる人の変容 は「貧困の非物質的な側面」に働きかけ、「屈 辱的で人々を蝕むような社会関係」を紡ぎ直す ことを可能にするのではないかということが示 唆された。 本研究は文部科学省科学研究費(16K13446) (「子どもの貧困の連鎖を断ち切る「食でつなが るコミュニティ」創出の研究」研究代表:野尻 紀恵) の助成の一部を用いて行いました。 Sunny Side Standard に関わる方々のご理解を いただき、観察調査にご協力いただけたことに 心より感謝申し上げます。

【注】

1 ) OECD が進めている PISA(Programme for Inter-national Student Assessment) と呼ばれる国際的 な学習到達度に関する調査に、 日本も参加してい る。PISA 調査では15歳児を対象に読解力、数学的 リテラシー、科学的リテラシーの 3 分野について、 3 年ごとに本調査を実施している。また、「生徒質 問調査」も同時に行われる。この調査では親の学 歴、職業、家庭の所有物、本の冊数や、生活満足度、 協働作業への態度、学校への所属感、学校での学 習が尋ねられている。

総 括

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2 ) 「子どもの貧困対策に関する大綱」では「連鎖」と 記されているが、 ここではより生活文化や生活環 境による影響を示す言葉として「世代間継承」 を 使用する。 3 ) エンパワメントは、パウロ・フレイレの提唱によ り用いられるようになった概念である。 先住民運 動や女性運動、 市民運動などの場面で用いられ、 実践されている。エンパワメントは、個人や集団 の自立を促すのではなく、 人間の潜在能力の発揮 を可能にするよう平等で公平な社会を実現しよう とする概念である。 【引用・参考文献】 阿部彩(2016)子どもの貧困─日本の不公平を考える, 岩波新書 アマルティア・セン 池本幸生訳(2011)正義のアイ ディア,明石書房 岩田正美編著(2010) リーディングス日本の社会福祉  貧困と社会福祉,日本図書センター,p.17 岩田正美(2017) 貧困の戦後史 貧困の「かたち」 は どう変わったのか,筑摩書房,p.326-327 岩田美香(2008)貧困家庭と子育て支援,季刊社会保 障研究第43巻第 3 号 東京大学出版会 荻野悦子(2018)貧困を乗り越える力をはぐくむ,貧 困・ 格差の現場から 誰も置き去りにしない社会 へ,新日本出版社,p.200 滋賀の縁創造実践センター(2017)「この子らを世の光 に」と「子ども食堂」,滋賀の縁創造実践センター 菅原ますみ編(2012) 格差センシティブな人間発達科 学の創成 1 巻 お茶の水大学グローバル COE プロ グラム 子ども期の養育環境と QOL,金子書房 菅原ますみ(2016) 子どもの発達と貧困 低所得層の 家族・成育環境と子どもへの影響, 秋田喜代美・小西祐馬・菅原ますみ(2016)貧困と保 育 社会と福祉につなぎ、希望をつむぐ,かもが わ出版,p.196-220 辻浩(2017)現代教育福祉論 子ども・若者の自立所 支援と地域づくり,ミネルヴァ書房 テス・リッジ著・渡辺雅男監訳(2010)子どもの貧困 と社会的排除,櫻井書店 平山尚・武田丈・藤井美和(2002)ソーシャルワーク 実践の評価方法 シングル・システム・デザイン による理論と技術,中央法規 見田宗介(2008)まなざしの地獄:尽きなく生きるこ との社会学,河出書房新社 道中隆(2015) 貧困の世代間継承─社会的不利益の連 鎖を断つ,晃洋書房 レイヴ&ヴェンガー著・佐伯胖訳(1933)状況に埋め 込まれた学習,産業図書,p.10-12 R. リスター著・松本伊智朗監訳(2011)貧困とは何か ─概念・言説・ポリスティクス─,明石書店 ロバート K. イン(Robert K. Yin) 著・ 近藤公彦訳 (2014)新装版ケース・スタディの方法第 2 版,千 倉書房 山野良一(2017)「子どもの貧困対策を斬る」『現代思想』 青土社 4 月

参照

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