エジプト -- スィースィー政権の描く将来像 (特集
中東地域の現実と将来展望 -- 「アラブの春」を越
えて)
著者
土屋 一樹
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
256
ページ
10-11
発行年
2017-01
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00048550
アジ研ワールド・トレンド No.256(2017. 2)
10
現 在 の エ ジ プ ト の 政 治 体 制 は、 二 〇 一 三 年 の「 六 月 三 〇 日 革 命 」 で形成された。 「六月三〇日革命」 とは、ムルスィー政権を排除した 政変で、軍が再び統治に深く関与 する契機となった。 軍によって管理された二度目の 政治移行期のなか、二〇一四年の 大統領選挙で軍トップだったスィ ー ス ィ ー が 当 選 し た。 そ の 結 果、 ムバーラク政権の崩壊(エジプト 版「 ア ラ ブ の 春 」) か ら 三 年 半 を 経て、再び軍を基盤とする政権が 誕生した。 スィースィー政権の成立によっ てエジプトの政治情勢は安定した。 その後実施された議会選挙でもス ィ ー ス ィ ー 支 持 派 が 大 勢 を 占 め、 現在まで順調な政権運営が続いて いる。その一方で、治安はいまだ 安定せず、経済は回復していない。 スィースィー政権はどのような統 治を行い、いかなる開発ビジョン を描いているのか。現政権の統治 と開発方針を考える。●
権
威
主
義
の
復
活
「 ア ラ ブ の 春 」 後 の 選 挙 に 勝 っ たのは、イスラーム主義を標ぼう するムスリム同胞団だった。議会 選挙で第一党となり、さらに大統 領選挙でもムスリム同胞団出身の ムルスィーが接戦を制した。ムル スィー政権は、エジプトで初の自 由で民主的な選挙によって選ばれ た政権として成立した。 しかし、政権発足の半年後には、 ムルスィー大統領の独断的な統治 と経済低迷に対する抗議行動が活 発化し、ムルスィー大統領の就任 一年となる二〇一三年六月三〇日 に全国的な抗議デモが実行された。 反 政 権 デ モ の 大 規 模 化 を 受 け、 スィースィー率いる軍はムルスィ ー大統領を排除し、統治体制を刷 新した。その後、大統領選挙を圧 勝したスィースィー政権を担うこ ととなった。 ス ィ ー ス ィ ー 政 権 は、 「 安 定 と 成長」の実現を掲げ、強権的な手 法 で 秩 序 回 復 に 取 り 組 ん で い る。 デ モ 規 制 法 や 反 テ ロ 法 を 制 定 し、 反政府活動を取り締まった。また、 ムスリム同胞団や青年組織「四月 六日運動」を非合法化し、摘発の 対象にした。スィースィー政権は、 政 治 運 動 と 表 現 の 自 由 を 規 制 し、 反政府運動を一掃することで社会 秩序を回復させようとしている。 自由よりも秩序を優先させる権 威主義的な統治は、多くの国民か ら支持を得る一方で、反政府活動 の過激化をもたらした。カイロな どの都市部において、政権に不満 を持つ勢力による爆発・銃撃事件 がたびたび発生するようになった土
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将来像︱
のである。その多くは、警察や治 安部隊を狙った攻撃で、ムスリム 同胞団とのつながりも指摘されて いる。政権による反政府運動の徹 底的な抑圧で表面的な政情不安は 取り除かれたものの、それに反発 する勢力の過激化を煽る結果とな り、シナイ半島以外でも治安の不 安は解消されていない。●
経
済
改
革
の
進
展
スィースィー政権のもう一つの 課題は、経済の再建と成長である。 エジプト経済は「アラブの春」に よる政治混乱を機に減速し、現在 まで不安定な経済状況が続いてい る( 図 1) 。 経 済 再 建 は 国 民 の 最 大の関心であり、政権にとっても 明確な成果を求められる重要課題 図 1 GDP 成長率と一人あたり GDP 成長率(出所)Ministry of Finance, Financial Monthly, various issues.
-5.0 -3.0 -1.0 1.0 3.0 5.0 7.0 201 1.1-3 201 1.4-6 201 1.7-9 201 1.10-12 2012.1-3 2012.4-6 2012.7-9 2012.10-12 2013.1-3 2013.4-6 2013.7-9 2013.10-12 2014.1-3 2014.4-6 2014.7-9 2014.10-12 2015.1-3 2015.4-6 2015.7-9 2015.10-12 2016.1-3 GDP 成長率 一人あたり GDP 成長率