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会計選択の多様性と制度

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(1)-�-. /、”’- --.、\ `『� \ヽ !, ’’’’. .��-1�1� t1 ニ ー� " � '—-"'">-'_,,,,--・,-ヽ,,,,_/ ----二• ―←. 商経学叢 第45巻第1号 1998年 7 月. 会計選択の多様性と制度. I .. は. 彦. 利. 毛. 敏. じ. め. に. ある会計対象に対し会計手続きや方法は決して一 つではない。 会計慣行は手続きや方法 に選択を認めているのである。 なぜ会計慣行には選択があり, また選択を認めているのであろうか。 このことについて, かつての会計学説には次のような考え方があった。 減価償却や棚卸資産の評価には絶対的 に正しい方法がない。 そこで会計処理としての幾つかの方法の中から選択するという手段 を講じているというのである。 選択に対するこうしたとらえ方は, 意識するにせよしない にせよずっと会計学者の考えにあったのではなかろうか。 そうであればこそ, これらの手 続き, 方法について, 性質や状況における優位性を論じたのである。 しかし, 考えを突き進めていけば幾つかの疑問が生じる。 もし絶対的に正しい方法が見 つからないのであれば, 選ばれた選択肢はどういう理由で選ばれたのであろうか。 選択肢 の間にはどういう関係があるのであろうか。 これらについて従来の研究は未だ十分に答え てはいない。 ひるがえって選択があるのは本当に絶対的な方法がないからであろうか。 根 本的な問題がある。 会計慣行の中に選択があるのは, 手続きや方法に絶対的なものがないからとはいえない のではないか。 むしろ, 選択があればこそ, 業務や企業の規模に会計のヴァリエ ー ション がある。 会計制度のヴァリエ ー ションは選択があればこそ生じているのである。 そのよう に考えてくると, 選択のもつ意味は決して従来の会計学が考えたものではないのである。 選択はなぜあるのか。 どういうル ー ルが選択を支えているのか。 そして選択はどのよう な会計制度のヴァリエ ー ションをもたらしているか。 これらの問題を以下で考えてみた し\. ゜. -105(105)-.

(2) 第45巻. II .. 第1号. 選択の意味. 会計における選択がどのような意味の選択かを考えることから出発しよう。 減価償却に ついて言えば, P: 減価償却をする。 -P: 減価償却をしない。 とする。 これを記号で書けば PV-P となる。 もしも, 会計選択の意味がこのようなものであれば, 減価償却をする企業としない企業 に分かれるであろう。 しかし, 減価償却をするかしないかということは, 会計慣行にいう 選択ではない。 実際に会計慣行は選択をこのような意味で用いていない。 なぜなら減価償却をすること はル ー ルとして既にそこにあるからである。 減価償却をするかしないかの中間をぬって, 減価償却方法をいくつか示し, その中から選ぶという考えを採っている。 そうすれば, 企 業活動の将来は不確定であり, そうした状況下にあっては必然性の選択ではなく, 余裕を もった可能性での選択の仕方を採用したのであろう。 ところが可能性のレベルで選択を考えると, 可能なだけの選択肢を数えあげなくてはな らなくなる。 極言をすれば, その可能性は多数あるであろう。 減価償却法を原価の配分と してみれば, いかなる配分の仕方でさえも可能なのである。 つ まり, 選択肢は際限なく考 えうるであろう。 そうすれば, そもそも可能性のレベルでの選択そのものが無意味になっ てしまう。 しかし, 実際の会計慣行における減価償却法の選択肢は限られている。 そこで, この選 択肢が何に依拠しているかを考え, 究明していくのが会計制度の分析の課題なのである。. m.. 会計選択と不確実性. 会計手続きや方法に選択を認めているということはどういうことであろうか。 かつて -106 (106)-.

(3) 会計選択の多様性と制度(毛利) Coase はこれを問題として提起し, 不確実性の存在がそのことに関係することを指摘し た。 不確実性がなければ選択という会計事象もないというのである。 不確実性と会計選択 がどのように関係するのか以下で考えてみよう。 そもそも選択とはどのようなことか, 論理で理解してみようIll。 先ず棚卸資産の評価に ついて次のような命題を掲げる。. A: 先入先出法をとらねばならない。 上記の命題の裏は,. E: 先入先出法をとってはならない。 Aと E は反対の関係にあるが, この場合には先入先出法をとるかとらないかの二つに一つ しかない。 つ まり, 会計上で言えば, 先入先出法をとらないなら棚卸資産評価の方法はな いのである。 つ まり先入先出法をとることを必然と考えれば, 先入先出法をとらない可能 性を排除するのである。 これは実際の会計慣行に合致しない。 そこで最初の命題を否定し てみよう。 すると 先入先出法をとらねばならないのではない。 になる。 いいかえれば「先入先出法をとらないことが可能である」となる。 これを命題0とする。 その反対は「先入先出法をとることが可能である」となる。 そこで最初の命題 「先入先出 法をとらねばならない」 を A として, その反対を E, 対偶を 0, その反対を I とする。 これを まとめて示せば次のようになる。. A: 先入先出法をとらねばならない E : 先入先出法をとってはならない I : 先入先出法をとることが可能である. o: 先入先出法をとらないことが可能である これを図示すれば図lのようになる。 先入先出法をとることが可能であるとすれば, 先人先出法をとらないことが可能である という命題を受容できる。 先入先出法をとる可能性は先入先出法をとらない可能性と同時 (1). 数理論理については, 前原(1966), 中谷(1967), Qine (1959), 山下(1985)を参照した。 とくに山下. 中谷に負うところが大きい。 -107 (107)-.

(4) 第45巻. E. A. に成立しうるのである1210. 第1号. 1><1゜ 図1. 将来が確実であれば, とりうる方法は一つであってよい。 この場合, 先入先出法一 つで 十分であろう。 選択がないことは論理的にはこの意味であった。 しかし, 実際には将来は 不確実である。 状況が変化しても先入先出法をとらなければならない。 論理的にみれば選 択肢がないというのは, 他の可能性を全て否定することになるのである。 実際には, 仕入 原価が下落することもあれば, 変わらないこともある。 そうした状況下にあって, 先入先 出法をとるのみでない可能性を残して置くことが大事である。 可能性こそ選択肢の意味に ほかならない。Coaseがかつて不確実性なくして選択はないと言ったのはこの意味であろ う。 未来は不確実である。 ここで, もし, Aをとれば選択肢がないことである。 未来は不 確実にも関わらず選択肢がないことは, 他の可能性を排除してしまうことになる。かくて, 会計選択とは可能性の立場での議論であることがわかる。 先入先出法をとる可能性は同時 に先入先出法や平均法をとることも可能となる。 この観点は会計慣行と一 致する。 それ故に, 選択をめぐっては可能な選択肢をできる限り集めることが大事なのである。 このようにみてくれば, 制度として選択がなぜあるかということも理解できる。 それぞ れの企業は株主, 経営者, 従業員からなる組織をもち, その関係がそれぞれ異なり資本構 成が異なり,契約も不完備である。それぞれの企業が組織,財務,契約を異にする中にあっ て不確実性下では, いつの会計方法のみを是とすることはかえって企業活動そのものを拘 束するであろう。 むしろいくつかの選択肢を容認した方がコントロ. ー. ルしやすいであろ. う。 制度としての選択もここに生じるものと考える。 既に述べたように, 減価償却の方法や棚卸資産の評価方法については, 正しい方法がわ からないので選択に委ねるのであるとの考えが古くからあった。 厳密に言えば, 選択とは 未来の不確実な状況に対して, 可能性のレベルで判断することだと定義できよう。 それは 決して正しい方法が見当たらないから幾つかの方法の中から選ぶというわけではない。 も ちろん, 減価償却費の計算方法や棚卸資産の評価方法が確定しなかったのも事実である。 そうであればこそ, 一つの方法に限定せず, 選択肢をおいて不確実な未来に対応しようと (2). この点は山下(1985)を参照した。 以下も同書による。 -108 (108)-.

(5) 会計選択の多様性と制度(毛利) したのであろう。 以上のことから, 制度としてなぜ選択があるのかという問に対して, 次のように答える ことができよう。 減価償却については, 固定資産の耐用年数は不確定である。 それは, 損 耗やさびなど物的な要因だけでなく, 経済的, 技術的陳腐化の危険があるからである。 ま た災害などの危険も生じる。 未来に対する不確実性の下では, 一つの方法に限定するので はなく, ゆるやかな方針に委ねるのが良かったのであろう。 定額法や定率法を減価償却の 方法として認めているのはそのためである。 これが減価償却法の選択である。 棚卸資産の評価方法については次のように考える。 いま同種, 同質の財があって, 在庫 が異なる仕入原価からなるとしよう。その中から財を払い出す場合,払出原価を計算する。 しかしその際, 当該財の仕入原価を識別するのは不合理なことが多い。 なぜなら, 同種, 同質の財であれば代替しうるからである。 払出原価は代替を考慮して決めればよい。 この ように考えると, 払出原価は一 つの方法だけで決めるのでなく, ゆるやかな方法がよい。 実際原価とは違って, 代替性を考慮した評価方法が可能性として考えられる。 こうして, 先人先出底後人先出法, 平均法などの評価方法がある。 棚卸資産の評価方法の選択はこ のようにして生じたといってよいであろう。 次に複数の企業を想定した際の会計選択の論理を考えてみよう1310 命題. A: すべての企業は先入先出法をとる。 この命題の否定は. o: ある企業は先入先出法をとらない。 になる。 命題 A の反対および命題 0 の反対はそれぞれ E, I であるから, 図示すれば以下 のようになる。 E. ,'A. I�! Q,'. 図2. (3) 以下は中谷(1967)に負うと ころが大である。 -109 (109)-.

(6) 第45 巻 第 1 号 これらの命題を記号で示せば次のようになる。 A: すべての企業は先入先出法をとる。. Vxp (x). E: すべての企業は先入先出法をとらない。. Vx-p (x). I : ある減価償却法は先入先出法をとる。. ヨxp (x). o:. ある減価償却法は先入先出法をとらない。 ヨx-p (x). すべての企業が先入先出法をとれば, 後入先出法も平均法も成立しないことになる14)。 そこで, Aを否定すると -Vxp (x)三ヨx-p (x) となるのである。 すべての企業は先入先出法をとることの否定は, 先入先出法を採らない 企業が 一 つはあることである。つまり0に等しい。企業が先入先出法以外の評価方法があ る場合にも, I と 0 はともに真である。実際の会計慣行をみても命題 A, E ではなく, 命題 IとOが成立している。 n個の企業Fの集合を考えよう。 F={f1 , f2, ···, f叶 \:/ xp (x)三p (f1 ) /\p Cf2) /\…/\ p (f砂 -Vxp (x)三-{p Cf1) /\ p Cf2) /\…/\ p (f砂 三-p (t i) V -p Cf2) V … v-p (f心 =ヨx-p (x) 企業F1 が選択する会計方法は{a 1 , a2, aa}から成り, 企業F2 の会計方法は{a 1 }か ら成るとすれば, 氏は{a2, aa}からなる。 F1 nF2={a 1 ; F1 ラa 1 カYつF2 三a i } となる。ところが. F2 n凡=</> である。 このように, 企業F1が選択していても, 企業F2, F3では選択していない方法がある。 (4). 中谷(1967) -110 (110)-.

(7) 会計選択の多様性と制度(毛利) また, 企業凡のように企業F1, 凡にはない方法を選択しているところもある。 かくして上記の命題は以下のようにも表現することができる。 S (x): Xは企業である, m (x)は先人先出法をとる。 A : v双s (x)→m (x)〕 E : -ヨx〔s (x)Am (x)〕三V双s (x)→ -m (x)〕 I : ヨx〔s (x)Am (x)〕 0 : -vx〔s (x)→m (x)〕三ヨ双s (x)/\ -m (x)〕. IV.. 選択のル ー ル. 選択とは不確実性の下で企業が可能性を模索することであることを明らかにした。 次に, 選択をル ー ルの観点からながめてみよう。 いま, ある対象の処理に際し, 二つ以上の会計手続き, 方法があるとする。 この時, 会 計担当者はいずれか一 方を選ぶことができる。 一方を p とし, 他方を q とすれば,. pVq である。 ところで, p, qについていま p : 先入先出法をとる q : 後入先出法をとる としよう。 この二つの方法をめぐるル ー ルには, 二つの性格がある。 先ず. pVq は, 先入先出法をとるか, 後人先出法をとるかいずれかである。 会計慣行は先入先出法をとるか, 後入先出法をとるかのいずれか, つまり選択である。 この意味を明らかにするために, これを否定- (pVq) するとどうなるであろうか。 これ もド. ・. モルガンの定理によって. - (pVq) =-p/\-q -111 (111)-.

(8) 第45巻. 第l号. となる。 この結果, 先人先出法をとらないし後入先出法をとらないことになる。 これは明 らかに現実の会計慣行に反する。 かくて.. ド. ・. モルガンの定理を用いれば. 会計選択の意. 味が浮彫になる。 選択をめぐるル ー ルは,. ド. ・. モルガンの定理を用いるといっそうはっき. りする。 ド. ・. モルガンの定理を用いると. 先入先出法をとらないか後入先出法をとらない. かは, 先入先出法も後入先出法もとらないに等しいのである。 ある対象を処理するのに. 先入先出法と後入先出法を同時に用いることはできない。 だ からそのことは, 先人先出法でないか後入先出法でないかである。 また論理的には. 先人先出法をとり後入先出法をとって p/\ q となることも可能である。 この場合には, 先入先出法と後入先出法のいずれも処理して結 果を出さなくてはならない。 実際上, こうした処理はしようとすれば必ずしも不可能なわ けではない。 ところが, これを否定し, 先入先出法と後入先出法をとることはないとすれば,. ド. ・. モ. ルガンの定理によって, - (p/\ q)三-pV-q となって, 先人先出法をとらないか, 後入先出法をとらないかに等しい。 つ まり先入先出 法をとり後人先出法をとることはないことは, 先人先出法でないか後人先出法でないかに 等しいのである。 ド. ・. モルガンの定理によって導いたこの式は重要である。 合接p/\ qは先入先出法も後. 入先出法もともにとることをいう。 つ まり, 選択を許さない。 しかし, 会計慣行はそうし た仕方をとっていない。 そこでこれを否定 - (p/\ q)すればどうか。 それは先入先出法を とらないか, 後人先出法をとらないかになって, 選択を許容する式になる。 まさしく. こ れは現実の会計慣行に合致する。 い ま述べたことを図にして示そう。 pVq. -pv-q. □三□[. -p/\-q. p /\q. 図3. -112 (112)-.

(9) 会計選択の多様性と制度(毛利) 現実の会計慣行は言う までもなく, 上方の左右の組合せからなる。 つ まり, pVq,. -pV - q. である。 会計選択は論理的明確に定義できるものである。 もちろん, 上記のことは命題の数を増していってもあてはまる。 例えば, p : 先入先出法をとる。 q : 後入先出法をとる。 r :平均法をとる。 pVqVr···. -pv-qv-r···. t><t. -(-pv-qv-r…). -(pVqVr .. ・). 図4. このようにすれば. 先入先出法. 後入先出法平均法のいずれかをとることの否定は - (pVqVr … )三 -p/\-q /\ -r … となって. どの方法もとらないことに等しい。 また, 先入先出法, 後入先出法. 平均法の どれもとることの否定はやはり ド . モルガンの定理によって -(p/\q/\r … )三-pV-qV-r … となって, 各方法のいずれかをとらないに等しい。 このことから, 論理的にみると選択がいかにゆるやかな会計担当者の判断を表すかが理 解できよう151。 ある対象の処理の仕方に複数の方法がある場合, の処理の結果をそれぞれ示しているわけではない。. 実際の会計報告では二つ. つの処理を選択して, 結果を出すの. 一. である。 このことを論理的にいえば, 選言であって連言を含意しないことなのである。 複数の可能な方法がある場合, 論理的にはそのどれをもで処理することもできるのであ る。 必ずしも一つを選択しなければならないわけではない。 しかし, 実際には選択により 処理する。 これは連言が選言を含意するからである。 後者は前者よりゆるやかである。 い ずれを選択しても可能であるとはこの意味なのである。 (5) 以下は山下(1985) に負う。 -113 (113)-.

(10) 第45巻. 第1号. この場合, 企業にとって極めて拘束性の強いル ー ルである。 企業の行動は後入先出法を 採るか採らないかのいずれかでしかない。 これでは先にみたように, 不確実性下の企薬の 行動として選択の余地はないのである。 それ故, ~しなければならない義務, ~しない義 務としてのル ー ルは, 強い拘束力をもつので会計選択とはあい容れないのである。 そこで 先人先出法をとることを権利として認めるとどうであろうか。 するとそれは企業にとって 大変ゆるやかな会計手続きになる。 もはや拘束性はない。 さて, このことを先の図でみてみよう。 左下は先入先出法をとる義務がある。 先人先出 法を義務とするル ー ルは先人先出法をとらない義務と反対の関係にある。 そして, 先入先 出法をとる義務ととらない義務の関係は, とる権利, とらない権利と明らかに対立する。 互いにあい容れないのである。 論理的にみて, 選択は~する義務や~しない義務とは相容 れないのである。 選択は明らかに権利であり, そこに行為の自由を含んでいるのである。 そこで, わ が国の企業会計原則を読むと, 棚卸資産の評価については, 個別法, 先人先 出法, 後入先出法, 平均原価法等の方法を適用して……と述べている。 また減価償却方法 については, 定額法, 定率法等の一定の減価償却の方法によって, その取得原価を各事業 年度に配分し……とある。 収益認識については, 売上高は, 実現主義の原則に従い, 商品 等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る, と述べる。 しかし注解において, 長期の請負工事の収益計上は工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを選択適用するこ とができる, としている。 割賦販売については, 商品等を引渡した日を収益実現の日とし ながら, 販売基準に代えて割賦金の回収期限の到来の日又は入金の日を収益実現の日とす ることも認められる, としている。 いずれも共通するのは, ~することができることである161。 それは権利であって義務で はない。 手続き, 方法は大変ゆるやかなル ー ルとなっている。 従って, 会計担当者は手続 き, 方法を選ぶ権利があるだけでなく, 変更する権利をも有するのである。 なぜなら, 採 用する会計手続き, 方法は義務ではないからである。 選択する権利は, 言い換えれば自由 に選択できることである。 実際にわ が国の企業会計原則において選択の自由があることは 既述の通りである。 事実, 企業会計原則の中で 「個別法, 先人先出法, 後人先出法, 平均原価法等の方法を適用して…… 」と述べている のは, 先人先出法を選択する権利と同時に, 先入先出法を選択しない権利も認めているこ とを意味する。 これが選択の自由なのである。 このようにみてくれば, 選択がル ー ルとし ては権利に見合うものであることがわかるであろう。 会計理論ではしばしば選択の自由と (6). 山下(1985). -114 (114)-.

(11) 会計選択の多様性と制度(毛利) いうことがいわれたが, このことは上記の説明によって裏付けることができたのである。 これはわが国の企業会計原則だけでなく, 欧米の会計ル ー ルにみることができる。 SHM会計原則では, 減価償却について, なんらかの合意が得られるまでは, 定額法か 定率法のいずれかを用いることが, 良き会計慣習と考えられるといい, 棚卸資産の評価に ついては先入先出法,後入先出法, 平均原価法, 基礎有高法を基礎にし会計担当者は原価 を計算できようとしている呪 ドイツの株式法は減価償却については設備の利用状況に応じて逓減的減価償却法か定額 法のいずれかを選択できるものと解釈されたし, 棚卸資産の評価についても先人先出法, 後入先出法, 平均原価法のいずれも許容されていると解されたのである18)。 選択をめぐるル ー ルは, 選択の自由といってきたが, それは論理的にも根拠を得るので ある。 このル ー ルを企業の自由な判断に委ねたものと経験的に受け容れてきたが, やはり それも経験に合致したものといえる。 選択はただ単に実際の手続き, 方法に関係するので はなく,会計基準といわれるル ー ルにも関わるのである。 選択がなぜあるのかをめぐって, 古くは会計処理そのものに帰する考えがあった。 例えば減価償却や棚卸資産の評価にはよ い方法が見当たらないので選択にするというのである。 しかし, 上記の説明からしてこの ような考えは必ずしも正しくないことがわかる。 会計対象について幾つかの処理がある場 合, 不確実性に対処するのに選択による ほうがよいのである。 従って, ル ー ルも選択に見 合う権利となる。 実際の会計処理が選択の権利としてある理由もこうして説明できるわけ である。 かくて, 会計の中心問題が手続きや方法の選択になると, そこにル ー ルが必要になる。 なぜなら, 選択の範囲を決めておかないと無制限になって, 逆にその意味を失うからであ る。 会計選択は対象をめぐる会計手続きや方法の選択に限るのではない。 明らかにそれは ル ー ルにも関わるのである。 もちろん, ル ー ルだけがあればよいというわけではない。 会 計処理とル ー ルとが合わさっていてこそ, 選択は会計制度とよぶことができるであろう。. V.. 継続性のル ー ル. 会計手続き, 方法の選択は権利であった。 しかし, 制度は権利のみによって成り立つわ けではない。 そこで, 前述の図を振り返る。 いままで, 選択のル ー ルのみに焦点をあてて (7) (8). Sanders, Hatfield, Moore (1938) Kropff (1965). -115(115)-.

(12) 第45巻 第 1 号 きた。 そこで今度は義務に 目 を向けてみよう。 そこで. 会計手続き, 先入先出法をと る 権利の対偶をみ る 。 このル ー ルと矛盾する のは, 会計手続き, 方法を変更できないことであ る 。 これは, 継続性のル ー ルに ほかならない。 継続性のル ー ルとはどのようなものか。 選択との関わりで分析す る ことにしたい。 会計方法の継続性は次のことをいう。 命題. p : 当期に先入先出法をと る 。 q : 次期に先入先出法をと る 。 当期に先入先出法をとれば, 次期にも先人先出法をと る 。 p →q この条件文は周 知のように, p →q三 - ( pA-q) であ る 。 意味は当期に先人先出法をとって, 次期に先入先出法をとらないということはな い, ことであ る 。 これは明らかに義務であ る 。 ここに論理からみた継続性の原則の一つの 意味があ る 。 ところが ド. ・. モルガンの法則を用い る と,. - ( p/\ -q)三 -p/\ q とな る 。 す る とこの意味は, 当期に先人先出法をとらないか, 次期に先入先出法をと る か, にな る 。 これは論理的に導いた継続性の原則のもう一 つの意味であ る 。 選択は個別の会計期間に関係す る のに対して, 継続性のル ー ルは相互の期間に関わ る こ とであ る 191。 これを図で対比してみよう。 恥 < t1 < t2 とす る 。 個別の会計期間では次のようにな る 。 p: 先入先出法をと る 。 q: 後入先出法をと る 。 (9) 中谷(1967)を参照し た。. - 1 1 6 ( 1 1 6 )-.

(13) 会計選択 の 多様性 と 制度 (毛利). p vq , -p v -q. i---t t。. ,.. p vq , -p v -q. r. '>. t2. tI. 図5 相互の会計期 間 で は p : 当 期 に 先入先出法 を と る 。 q : 次期 に 先入先出法を と る 。. - (p /\ -q) , -p Vq t。. tI. t,. 図6 実際 に わ が国の 企業会計原則注解 に は, 「企業会計上継続性が問題 と さ れ る の は, 一つ の 会計事実 に つ い て二つ以上 の 会計処理 の 原則分 は手続の 選択適用 が認め ら れ て い る 場合 で あ る 。 」 と し て, 選択 し た 方法を継続 し な い な ら ば期間比較 を 困難 に す る の で 「 い っ た ん採 用 し た 会計処理 の 原則 又 は手続は, 正 当 な 理 由 に よ り 変更 を 行 う 場合 を 除 き , 財務諸表を 作成す る 各時期を通 じ て継続 し て適用 し な け れ ば な ら な い 。 」 と 述べ る 。 こ の よ う に , 会計ル ー ル に み る 記述 の 仕方 は論理 に よ っ て う ま く 説明 で き る の で あ る 。 継続性 の ル ー ル に つ い て, 一方 で い っ た ん選択 し た 方法 を継続す る 意味で拘束性 が強い と の 印 象 を 持 っ て い る 。 他方で そ の変更 も 認 め て い る の で あ る 。 前 者 は 義務 で あ る し , 後 者 は権利を示す と い え よ う 。 継続性 に ま つ わ る 釈然 と し な い 事実 も 上記 の 理 由 に 由 来す る の で あ る 。 会計制度 を 支 え る ル ー ル は, 実 は 権利 と 義務 か ら な る 構造 を も つ こ と が わ か る 。 会計方法や手続 き の 選択 と 継続性 の ル ー ル は, 合 わ せ て セ ッ ト に な っ て い る の で あ る 。 選 択 し て は な ら な い 義務 と は, 会計ル ー ル に 言 い 換 え れ ば変更 し て は な ら な い 義務で あ る 。 こ の よ う に し て, 手続 き , 方法の選択 の 権利 と 継続性 の 義務が合 わ せ て 会 計 ル ー ル と な っ て い る。 わ が国 の 企業会計原 則 で, 変更 の 理 由 を 示 す こ と が義務 と し て あ る 。 「正当 な 理 由 に よ っ て , 会計処理 の 原則又 は 手続 に 重要 な 変更 を 加 え た と き は, こ れ を 当 該財務諸 表 に 注記 し な け れ ば な ら な い 。 」 SHM会計原則 も 減価償却 法 の適用 に つ い て , 用 い る 方法 を 明示す べ き こ と を 義務 づ け , 一貰 し て適用 す べ き と し て い る 110。. ド イ ツ の 株式. 法で も , 商人 は会計慣習 の 中 に あ る 減価償却法 を 自 由 に 選択で き る が, 選択 し た 方法を継 (10). Sanders, Hatfield, Moore (1938). -117 (117)-.

(14) 第 45 巻 第 1 号 続しなければならないと解釈されている(IJ)。 会計手続き, 方法の選択が利益操作を導くわけではないし, また利益操作の防止が継続 性を導くことにはならない。 利益操作の防止は, 選択や継続性の二つのル ー ルとは直接に は関係のないものである。 当期に採用 した方法を次期もとるという継続性のル ー ルは, 変 更してはならないと同義である。 それならば継続性の反対の継続してはならないという ル ー ルはあるであろうか。 直接にそういうル ー ルはみることができないが, 変更した際に はその事実を述べ示すというのは, そのル ー ルに該当するであろう。 従来の会計理論では, 継続性のル ー ルは選択による利益操作を防止するためにあると説 明してきた。 事実, 企業会計原則の注解にも利益の期間比較にふれている。 しかし, 利益 の操作性を防止することは選択を結 びつけることにはならない。 結果として, 期間比較が いえるだけなのである。 利益操作の防止は決して方法の選択から継続への橋渡しとはなら ない。 そこで, 選択と継続とを論理的に矛盾する概念としてとらえる。 すると, 選択する の対偶は, 選択してはならないことである。 前者は権利であり後者は義務である。 かくて, 選択と継続性のル ー ルは図によって論理的に説明することができた。 要するに 選択というのはル ー ルとしてみれば権利である。 その裏に継続性のル ー ルがあった。 継続 性のル ー ルは義務としての性格を有した。 会計制度は権利と義務のル ー ルの組合せからな る。. VI .. 選択のバ リ エ ー シ ョ ン. 論理的にみれば, 選択というのは排他性を有せず, ある命題の否定であってもゆるやか な反対であり, 他を受け容れるのである。 事実, 会計現象はこの論理によく合っているの である。 同業種であっても, 規模の大小により手続き, 方法に違いがあるし, 異業種であ ればいっそうその違いは大きい。 そうした違いを会計慣行は受け容れている。 この事実は, まさしく会計制度を支える軸が選択であることを裏付けている。 会計手続き, 方法の中に少なくとも一つでも共通のものがあれば, 選択公理は成り立つ。 このことを記号論理の演算を用いて説明してみよう。 企業. F1. と企業. F2. の会計手続きや方法をそれぞれ. m i , m2. としよう。 企業. 凡の会計手続きや方法が全く同 じ であると, 一意性の定理によって四 (11) Kropff (1 965) (12) 中谷 (1 967) -118 (118)-. F1. と企業.

(15) 会計選択の多様性と制度 ( 毛利) F 1 = F2 m 1 E F 1 → m戸 F2, m戸 F2→ m 1 E F 1 Cm 1 E F 1). 三. Cm2E F2). 一意性があれば, 会計選択は な い 。 従って, そこ に会計ル ー ルを決める必要性は生じ な い であろう。 実行可能 な 会計手続き, 方法の全ての集合を U としよう。 すると U = F けF凸 U = F 2 + Fl と な る。 このうち, 企菓 F 1 のみが用 い て い る方法は F 1 n Fl であり, 企業 F 2 の みが用 い て い る方法は F 1 c n F 2 である。 また,. 企業 F 1 も F2 もとも に 用 い て い る方法. は, F 1 n 凡 であり, 企業 F 1 と 凡 の い ずれでも用 い て い な い 方法は F 1 c n Fl である。 会計手続き, 方法の全体集合 U はこれらから成る叫 企業 E のみが採択する方法は, F 1 = (F 1 n F2) LJ (F 1 n F祈) と書 く ことができる。 企業 凡 のみが採用する方法は F 1 = ( F 1 n F 2) LJ (F t n F2) と書ける。 これ に 対し, 企業 F 1 も F2 とも に 採用する会計方法は, F 1 n F2 = {m. f. m E F 1 八 m E F2 }. と書 く ことができるのである。 逆 に 次のことも考えることができよう。 企業 F 1 と企菓 F 2 の会計手続き, 方法 に 共通 の部分が な い 場合である。 それは F , n F2 = </J と書ける。 上記 に よ っ て会計選択の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ンに は, 四つの型があることがわか っ た。 これ以外 に は な い 。 そこで, 会計選択を考える際 に はこれが出発点 に な る。 このよう にみて く ると, 会計選択と い うのはただ企業が採択して い る手 続き, 方法と い 113). 中谷 ( 1 967) -119 ( 119)-.

(16) 第45巻. 第1号. う漠然としたものではない。 会計選択のヴ ァ リ エ ー シ ョ ン とは手続き. 方法に関する集合 の演算なので ある。 選択によって. 企業の会計 シ ス テ ム は多様で あ るが, いかに多様で あ るといっても基本型は四つしかないので あ る。 繁雑に見える会計 シ ス テ ム も集合演算にす れば簡単なわけで あ る。 前述の四つの型のうち. ド. ・. モルガ ン の法則によって.. F ( , nF2 )c =Ft UF祈 このことは, 企業F1 と 凡に共通しない会計手続き, 方法は, いずれの企業にもない 方法だということを意味する。 このことは同時に, 企業F1 もF2 もともに選択していない方法を採用する企業が あ る ことを示唆する。 そして, そのことは, 企業F1 が選択しない方法と 凡が選択しない方 法に共通する。 ド. ・. モルガ ン の法則によって. F ( 1 UF2 )C =F1 c nF祈 なので あ る。 もしも, F1 n 凡= <p であ るならば, 会計手続き, 方法のル ー ルなどは必要ないで あ ろう。 なぜなら, 企業F1 と 凡に共通の方法がないので あ れば, ル ー ルを決める必要性がないからで あ る。 そこで, F1 nF2 "i' </> となることが大事で あ る。 会計のル ー ルというのは, 企業間において少な く とも一つは手続き, 方法に共通性が あ ることが必要なので あ る。 それ故, 制度というのは選択に共通のものが少な く とも一つあ ればよいので あ る。 共通の要素が少な く とも 一つだけあ ればよいというのが制度の成立の十分条件となる。 これは何も論理の世界にとど まらない。 会計慣行においても, 実際に幾つかの手続き, 方 法を適用していることが, 選択を可能にしたので あ る。 Watt and Zimmerman ( 1 990) がいうように叫 企業F1 と企業F2 の会計方法を要素とする集合が あ るとき, 少な く と (14). Watt, and Zimmeren (1990). - 1 20 ( 1 20 )-.

(17) 会計選択の多様性と制度(毛利) も一つ共通の要素があればよい。 もしも共通の要素が一つもないのであれば, 会計選択の 考えは成立しなかったであろう。 同時に会計制度はなかったであろう。 なぜならばそこに ル ー ルが必要ないからである。 共通の要素 (手続きや方法) があっては じ めてル ー ルを考 えることができるからである。 か く て, 選択がル ー ルをもたらすことによって, 制度とな る。 会計選択は まさに会計制度の核心なのである。 例えば後入先出法の歴史はこのような論理にあてはめて考えることができる。 1936年, rican Pe trole um Ins titute ) が最初に後入先出法を提唱した。 し ア メ リ カ 石油協会 (Ame. かし, 石油産業は当初, 後入先出法を用いる企業とはならなかった。 Congre s s は非鉄金 属産業に限って後入先出法の使用を認めたのである。 なぜであろうか。 その理由は, この 産業がもともと基礎在高法を採用しており, 選択が political であったことによる。 基礎 有高法が当時の実務の中に既にあって, それは後人先出法と多 く の点で共通性をもってい たのである。 実務の中にないものを提唱したわけではない。 従って, 企業の会計方法の中 に共通の方法があったのである。 後入先出法はといえども例外ではない。 最初に後入先出 法を提唱した石油産業ではな く , その方法を受け容れやすい産業から始まったことは興味 深い事実である。 この事実は上記の論理を裏づけている。 会計選択が手続きや方法に関する集合の演算だとすれば, そのためには規則, ル ー ルが 必要である。 このル ー ルが会計基準ないし原則といわれるものである。 会計手続きや方法 を行うにあたって様 々 な可能性がありうる。 ここにル ー ルを明確にした会計基準が成り立 つのである。 それは具体的には, 実行可能な会計手続きや方法からの選択に関係するル ー ルとなるであろう。 こうして制度が生 まれるのである。 会計手続きや方法に選択があれば, やはりル ー ルもそれに応 じ て多様性を有することとなる。 このことは, 会計制度それ自体 が多様性をもつことを意味するであろう。 実はこの点に選択を基礎とする会計制度分析の 基礎があるのである。 企業組織に応 じ て会計選択の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ンがある。 この会計選択の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ンを認めることを会計制度とよぶことにしよう。 従来, 会計制度といえば商法などの法制 度を指すことが多かった。 しかしここでいう制度は必ずしも法制度ではない。 規模, 業種 によって企業が採用する会計手続きや方法には違いがあるが, 会計慣行は企業組織の違い による選択を認めているのである。 企業組織によって会計選択には ヴ ァ リ エ ー シ ョ ンがあ るのである。 会計手続きや方法に種類があることは, それぞれの企業が判断によって, そ れらの中から選択していることである。 そのことが また会計制度の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ンを生 んでいる。 企業におけるこの選択の違いによる シ ス テ ム の特質こそ会計制度に ほかならな -121 (121 )-.

(18) 第45巻 し\. 第 1号. ゜ 会計は, 企業理論の一領域であるとの考えは, Coas e にさかのぼる。 なぜ, 会計選択が. 企業理論の 一領域となるのか, この点を述べよう。 企業 ごとに会計選択が共通の部分と異 なる部分とがある。 先に, 企業にと っ て将来の事象が不確定なるが故に会計選択があるこ とを述べた。 選択があることが, 企業組織にとり将来の不確実性に対処あるのに役立つで あろう。 つまり, 会計選択は企業組織のコ ー デ ィ ネ. ー. シ ョ ン の役割を果たすのである。 考. えを突き進めていけば, 不確実性の下での会計選択の果たす役割をこえて, 企業 ごとにな ぜ会計選択による組織のコ ー デ ィ ネ る。 企業組織によるコ. ー. ディ ネ. ー. ー. シ ョ ン の仕方が異なるかの分析に立ちいたるのであ. シ ョ ン の違い, ひ いては会計選択の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ン の. 違いになる。 企業の規模, 業種によ っ て, 会計選択に ヴ ァ リ エ ー シ ョ ン がなぜあるのか。 この問いに 答えることが会計の根本問題とな っ ていくのである。 それを問いつめていくと, 結局, 契 約の内容, 組織, 負債 / 資本比率な どによ っ て会計選択は影響する。 これ ら の要因が会計 選択に作用し, それが選択の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ン を生む。 会計選択の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ン を認 めると, 企業 ごとに異なる シ ス テ ム が生じる。 これは企業の性格による会計 シ ス テ ム の差 である。 明 ら かにそれは法規制とは異なる制度である。 こうして, 会計 シ ス テ ム はそれぞ れの企業が どの手続き, 方法を選択するかによ っ て決まるのである。 そこで, 会計手続き や方法を選択するル ー ルがなくてはな ら ない。 このル ー ルは必ずしも法による規制にと ど ま ら ない。 企業組織に応じた手続き, 方法の選択のル ー ルがあるのである。 こうした会計 選択のル ー ルを制度と呼ぶのである。 従 っ て, 会計制度という場合には認識また選択の ル ー ルを意味する。 制度とはかつては司法制度としての意味であ っ た。 しかし, いまや制度はそれぞれの企 業が採用するする会計手続きや方法の選択の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ン を統合するル ー ルをいうよ うにな っ てきた。 そのことは会計の中心課題がか っ てのように測定, ことに利益の測定で はなくな っ たのを意味する。 測定は単に会計事象を数値へ写すのが課題である。 ところが, 選択は記録や測定とは性格を異にすることが明 ら かになる。 選択は人間の行為であり, 積 極的にその意思が働くのである。 もちろん, 記録や測定といえ ども人間の行為には違いな い。 しかし, 選択は未来の不確定なる事象に対して 可能性のレベルで判断した結果なので ある。 さ ら に大事なことは, 選択の結果, それ以前と以 後とは企業組織, 財務, 契約に変 化が生じるのである。 また, そうした変化を意閑して選択は行うといえよう。 この点は記 録や測定が取引 を数値に表現することのみを課題とする意味で大いに異なるところであ. - 1 22 ( 1 2 2 )-.

(19) 会計選択の多様性と制度(毛利) る。 ー企業をとってみても, 定額法と定率法を種類の異なる固定資産 にそれぞれ適用するこ とがあるし, 定額法あるいは定率法のみを用いる企業もある。 また, 減価償却をしない固 定資産があるだろう。 それ故 に, 会計制度は会計手続きや方法の集合とル ー ルと言うこと ができる。 なぜなら, 企業会計は, 会計手続きや方法の要素の集まりであり, それらを選 択しているか, 否かによってはっきりと区画できるからである。 この意味で, 選択は会計 制度と不可分 に 結 びつくのである。 会計手続きや方法の選択は要素を含むか, 含まないか の集合の問題であるからである。 会計選択は, ある方法を共通に採用している ケ ー ス や共 通性のない方法が生 じ てくる。 それ故, 全てに共通の会計方法を採用している企業がむし ろ少ないであろう。 会計手続きや方法 に選択を認めるというのは, 実は企業の会計 シス テ ム のヴ ァ リ エ ー シ ョ ン があることなのである。 こうした会計 シス テ ム のヴァ リ エ ー シ ョ ン を統合するル ー ルを会計制度とよんだのである。 例えば会計学でしばしば用いる発生 (ac­ crue l) の原則は会計選択の統合 (aggre gation) である。. む. す. び. VII.. 本稿は会計手続き, 方法 に はなぜ選択があるかを主題 にして, 前半で学説をサ ー ベ イ を し, 後半で論理 に よって分析した。 その結果, 次のことが明らかに なった。 会計学上, 選択は不確実性の下での手続き, 方 法の対応であったことがわかる。 それが学説の出発点であった。 古典的学説は諸手続, 方 法の分析を通 じ てある状況の下での最適な方法を模索することに力を注いでいったのであ る。 古典的会計学説はなぜ選択があるかの究明を欠いていたとはいえ, それとして重要な 問題を提起した。 選択 に おける恣意性の指摘もその一つである。 会計選択は恣意性を伴う。 ところが, 会計報告は客観性や検証可能性を求めている。 に も拘わらず会計報告の中 に 恣 意性を伴う選択を許容するのはなぜなのか。 これが会計学の新しい課題となった。 この課 題 に 立ち向かうきっかけを与えたのは, Coaseの取引費用の概念であった。 取引費用が選 択に 作用し, それを最小化するよう に手続き, 方法が決まる。 このことを新しい学説は明 らか に した。 取引費用を会計学に導入したこと によって, 会計選択はそれまで にない展開をみた。 し かし, そこ に 一 つの限界があった。 それは, 取引費用はもともと企業の発生を説明しても, 企業の存続を説明する概念ではなかったことである。 そこで, 企業の存続を説明する新し -123 (123)-.

(20) 第45 巻. 第l号. い概念が必要であ っ た。 それが組織の費用である。 そして, 会計学説は組織の費用 の選択 を説明するものとして導入してきたのである。 選択はなぜあるか。 もし未来が確実に予測可能であれば, 選択は必要がない。 なぜなら, 予期した通りの結果しか生 まれないからである。 そればかりか未来が確実であればそもそ も企業そのものが存在しないであろう。 会計選択は まさしく企業活動の不確実性下で成り 立つのである。 この意味において, 会計選択は可能性を含んでいる。 それは不確実な未来 に対し, 企業がとりうる可能性である。 選択の結果として, 会計利益が増すことも, 減る こともありうるのである。 決して 一意性はない。 それ故, 会計選択は拘束性が弱く, 緩や かである。 ル ー ルとしてみれば, 権利を意味し, 決して義務ではなか っ た。 ル ー ルとして の選択が有するこうした側面は, 会計制度の性格を形成することとなった。 それは会計制 一. 度の多様性 (variation) に ほかならない。. つの企業は様 々 な会計手続き, 方法の組合せ. をも っ ている。 これは企業の規模, 業種によ っ てさらに拡大する。 このことを広く経済社 会からみれば, 会計制度は多様性をもつといえるのである。 この事実こそは, 会計制度が 社会的選択といわ れるゆえんであろう。. 参 Aoki, M. 1984.. 考. 文. 献. The economic analysis of the Japanese firm.. Aoki, M .. B Gustafsson and 0. E. Williamson. 1990. Arrow, K. J. 1963. Arrow, K. J. University Press. Coase, R. H. 1990.. North-Holland, Amsterdam.. The firm as a nexus of treaties. London.. Social Choice and individual values. 2nd edition.. yale. (長名寛明 『社会的選択と個人的評価」 日 本経済新聞社) .. Accounting and the theory of the firm.. Journal of Accounting &. Economics. (January) : 3-13. Coase, R. H. 1 994.. Essays on economics and economists.. Jensen, M. C. and W. H. Meckling. 1976. costs and ownership structure. Jensen,. M. C.. 1 983.. Organization. The University of Chicago Press.. Theory of the firm : Managerial behavior, agency. Journal of Financial Economics. (October) : 305-360. theory. and. methodology.. The. Accounting. Review.. (April) : 3 1 9- 339. Jensen, M. C. and W. H. Meckling. 1992. structure.. Specific and general knowledge, and organizational. Contract Economics, ed. L Werin and H. Wijkander, Oxford : 251-274.. Kaplan, R. S. 1 985.. Comments on Paul Healy : Evidence on the effect of bonus schemes on. accounting procedure and accrual decisions.. Journal of Accounting & Economics.. (April) : 1 09-113. Kropff, B. 1965. A ktiengesetz, Dilsseldorf 1965.. 前原昭二 (1966). 『数理論理学序説』 共立全書。. Medema S. G. 1 994.. Coase R. H. St. Martin's Press. - 1 24 ( 1 24 )-.

(21) 会計選択 の 多様性 と 制度 (毛利) 中 谷太郎 (1967). 『論理』 共立出版。. Paton and Littleman Paton, W. A. and A. C. Littleton, 1940. accounting standard.. New York : American Accounting Association.. Picot, A. and E. Schlicht. 1996. institutional. economics.. Quine, W. v. 0. 1 959.. An introduction to corporate. Firms, markets, and contracts : Contributions to neo­. Physica-Verlag Heidelberg.. Mehtods of logic : Revised edition.. New York, Henry Holt and Co.. ( 中村秀吉 大森荘蔵訳 『論理学の 方法』 岩波書店) . Sanders, T. H., H. R. Hatfield and U. Moore, 1 938.. A statement of accounting principles.. American Accounting Association. Stephen, F. H. 1984.. Firms, organization and labour : Approaches to economics of work. organization. New York. Watts, R. L. and J. L. Zimmerman. 1 990. tive.. Positive accounting theory : A ten year perspec­. The Accounting Review. (January) : 1 3 1 -156.. Watts, R. L. 1992.. Acconting choice theory and market-based research in accounting.. British Accounting Journal 24 : 235-267.. 山下正男 (1985). 『論理 的 に 考 え る こ と 』 岩波書店。. Zimmerman, J. L. 1979.. The costs and benefits of cost allocations.. The Accounting. Review. (July) : 504-52 1 . Zmijewski, M. and R. Hagerman. 1981.. An income strategy approach to the positive theory. of accounting standard setting/choice.. Journal of Accounting & Economics. (August) :. 129-1 49.. - 1 2 5 ( 1 2 5 )-.

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参照

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