GABAニューロンを蛍光 子で標識した
マウスを用いた神経科学研究
柳
川
右 千 夫
1.は じ め に 脳は興奮性と抑制性のニューロンから構成される神経 ネットワークの集まりからできている. 研究としては, 興奮性ニューロンと抑制性ニューロン両方ともに重要で ある. 興奮性ニューロンの研究に比較して抑制性ニュー ロンの研究は遅れていたが, 数年前から急激に進んでき た.ガンマアミノ酪酸 (GABA)を神経伝達物質として合 成・放出する GABA ニューロンが抑制性ニューロンの 代表であるが, 中枢神経系に散在し, 比較的少数なので, 生のスライス標本の中で同定するのは容易ではない. そ こで,GABA ニューロンの発生,電気生理学的特性,解剖 学的特徴を明らかにする目的で, GABA ニューロンを緑 色蛍光 子 GFPで標識したマウス, GAD67-GFPノッ クインマウスを作成した. この遺伝子改変マウスでは, 殆どの GABA ニューロンが蛍光顕微鏡下で簡単に同定 できることから, 国内と国外 (14カ国) で多くの研究者 が 用している. GAD67-GFPノックインマウスを利用 した乱用薬物の作用機序について最近の成果を紹介す る. 2.乱用薬物と GABAニューロン マリファナやアルコールは乱用薬物として知られてい るが, その作用機序は未だ不明な点が多い. これらの薬 物 の GABA ニューロ ン へ の 影 響 を 検 討 す る た め に GAD67-GFPノックインマウスが 用された. マリファナは乾燥した大麻の葉や花の一般名であり, 幻覚発現物質が含まれる. マリファナにある活性成 は カンナビノイド類であり, 脳の特定領域にあるカンナビ ノイド受容体 (CB1R)を介して作用する.また,カンナビ ノイド受容体に結合する天然リガンドのアナンダマイド と 2−アラキドノイルグリセロールが内因性カンナビノ イドとして発見されている. 中枢神経系の発達過程にお ける内因性カンナビノイドの役割について検討した. 最 初に, マウス胎児の大脳皮質において, CB R が GABA ニューロンの軸索成長円錐に豊富に存在することを観察 した. 次に, 培養細胞を用いた CB R アゴニストの投与 実験で, (1) GABA ニューロンに局在する CB R が神経 突 起 突 端 か ら 細 胞 内 部 へ 移 行 す る こ と, (2) GABA ニューロンの軸索成長円錐の退縮および神経突起の後退 を観察した.一方,in vivoの実験として GABA ニューロ ン特異的 CB R ノックアウトマウス大脳皮質を解析し た結果, GABA シナプス数の増加を観察した. これらの 結果 は, カ ン ナ ビ ノ イ ド を 介 し た 情 報 伝 達 が GABA ニューロンの軸索誘導やシナプス形成に関与することを 実証し, カンナビノイドが脳の発達過程でも重要な役割 を果たしていることを示唆した. 妊娠期のアルコール大量摂取は胎児の発達障害を引き 起こし, 胎児アルコール症候群がその典型例として知ら れている. 胎児アルコール症候群では大脳皮質の形態異 常が観察される. そこで, 妊娠させた GAD67-GFPノッ クインマウスを利用して, アルコール摂取の胎児 GABA ニューロンへの影響を検討した. GAD67-GFPノック 405 Kitakanto Med J 2008;58:405∼406 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科・遺伝発達行動学 野 平成20年10月14日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科・遺伝発達行動学 野 柳川右千夫インマウスでは, 容易に GABA ニューロンの大脳皮質 内の数や位置を計測できる利点がある. 実際に, 妊娠マ ウスにエタノールを投与すると, 非投与群に比較し胎児 大脳皮質 GABA ニューロンの数が増加していた. この GABA ニューロンの増加は, 大脳皮質のどの層でも観察 された. 大脳皮質内の GABA ニューロンは基底核原基 から接線方向に移動することが知られており, 興奮性 ニューロン (グルタミン酸ニューロン) とは起源が異な る. 他の遺伝子改変マウスも 用して検討したところ, 内側線条体原基に由来する GABA ニューロンの大脳皮 質への移動速度が増加することで, GABA ニューロンの 数が増加すると推測した. アルコールは妊娠中に摂取すると胎児の脳発達へ悪影 響を及ぼすことが知られていたが, その作用機序につい て部 的に明らかにすることができた. 一方, マリファ ナの脳発達への影響については知られていなかったが, 我々の研究成果は妊娠中のマリファナ摂取に警鐘を鳴ら した. これらの薬物の他に, ガンマヒドロキシ酪酸 (GHB) は多幸感をもたらす嗜癖薬物であるが, その作用 機序を明らかにするために GAD67-GFPノックインマ ウスが腹側被蓋野の電気生理実験に利用された. 3.今後の展開 GAD67-GFPノックインマウスは GABA ニューロン を理解するための様々な研究に 用されている. しかし, GAD67-GFPノックインマウスでは, GABA 合成酵素 をコードする GAD67遺伝子が破壊されているために, 特に幼若期の脳内 GABA 含量が減少する欠点がある. 下オリーブ核に由来する登上線維は小脳皮質プルキンエ 細胞と興奮性シナプスを形成する. 発達段階のマウス小 脳では 1つのプルキンエ細胞に数本の登上線維がシナプ スを作るが, 徐々にシナプスが除去されていく. そして, 約 3週齢で 1つのプルキンエ細胞に 1本の登上線維が対 応することで完成する. GAD67-GFPノックインマウス では野生型マウスに比較し, プルキンエ細胞における登 上線維の多重支配が残存し, シナプス除去の障害が観察 された. 従って, これらの生理学的研究には脳内 GABA 含量が野生型マウスと同等で, GABA ニューロンを蛍光 子で標識したトランスジェニックマウスが必要とな る. そ こ で, GABA ニューロ ン の マーカー, 小 胞 型 GABA トランスポーター (VGAT) 遺伝子をコードする 細菌人工染色体 (BAC) クローンに黄色蛍光 子をコー ドする Venus遺伝子を挿入したコンストラクトを用い てトランスジェニックマウス (VGAT-Venusマウス) を 作成した. 同様に作成したトランスジェニックラット (VGAT-Venusラット) は, 大脳皮質 GABA ニューロン の研究に既に利用されている. 今後はこれらのトランス ジェニック動物に加えて, GABA ニューロン特異的にカ ルシウムイメージング用のプローブなどを発現させた動 物を作成・解析することにより, GABA ニューロンの研 究が益々進 するに違いない. 文 献
1. Tamamaki, N., Yanagawa, Y., Tomioka, R. et al., Green fluorescent protein expression and colocalization with calretinin, parvalbumin, and somatostatin in the GAD 67-GFP knock-in mouse. J. Comp. Neurol. 2003; 467; 60-79.
2. Berghuis, P., Rajnicek, A. M., Morozov, Y. M. et al., Hardwiring the brain : Endocannabinoids shape neur-onal connectivity. Science 2007; 316; 1212-1216. 3. Cuzon,V.C.,Yeh,P.W.L.,Yanagawa,Y.et al.,Ethanol
consumption during early pregnancy alters the disposition of tangentially migrating GABAergic interneurons in the fetal cortex. J. Neurosci. 2008; 28; 1854-1864. 4. Labouebe, G., Lomazzi, M., Cruz H. G. et al., RGS2
modulates coupling between GABAB receptors and GIRK channels in dopamine neurons of the ventral teg-mental area. Nat. Neurosci. 2008; 10; 1559-1568. 5. Uematsu, M., Hirai, Y., Karube, F. et al., Quantitative
chemical composition of cortical GABAergic neurons revealed in transgenic Venus-expressing rats. Cereb. Cortex 2008; 18; 315-330.
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