長距離母体・新生児搬送された家族の負担に関する検討
丸 山 憲 一, 小 泉 武 宣
要 旨 【背 景】 新生児医療施設での収容困難なため, 地域医療圏を越えて長距離の母体・新生児搬送をせざるを えない状態が生じている. 【対象と方法】 県外へ母体・新生児搬送され,その後,当科へ逆搬送もしくは当科 外来へ紹介された患児 18名, 17家族に対して, 児が他県の医療施設に入院したために生じた家族の生活上の 問題, 経済的負担等についてアンケート調査を行った. 【結 果】 10症例 (在胎期間 24∼34週, 出生体重 552∼1,478g), 9 家族から回答を得た. 搬送先までの距離は 50∼100kmが 2名で, 8名は 100km以上であった. 家族に生活上支障が生じたのは 7名, 6家族, 経済的負担については 5万円未満が 1名, 5∼10万円が 3名, 10 ∼20万円が 1名, 20∼50万円が 4名, 3家族, 100万円以上が 1名であった. 【結 語】 今後, 地域医療圏内 の周産期医療体制の整備や地域医療圏を越えた周産期情報システムの確立ならびに家族に対して何らかの補 助をすることなどが必要と思われる.(Kitakanto Med J 2008;58:371∼376) キーワード:母体搬送, 新生児搬送, 極低出生体重児, 経済的問題 緒 言 新生児医療施設での収容困難なため, 地域医療圏を越 えて母体・新生児搬送をせざるを得ない状態が生じてい る. 長時間の新生児搬送は児の予後に影響するといった 報告もあり, 以前我々が行った県外へ新生児救急搬送さ れた児に関する検討でも長距離搬送が児の転帰に悪影響 を与えたと えられる症例がみられた. また, 児が遠隔 地にいることで家族に様々な問題が生じることを示唆す る報告もある. 今回,我々は長距離母体・新生児搬送され た家族の負担を明らかにする目的でアンケート調査を 行ったので報告する. 対象および方法 2000年 7月 1日から 2006年 9 月 30日までの当院新 生児科外来の予約記録および 2000年 1月 1日から 2006 年 9 月 30までの当院新生児科入院台帳から抽出しえた 県外へ母体もしくは新生児搬送され, その後, 当院新生 児科へ外来受診もしくは入院した患児 18名, 17家族を 対象にアンケート調査を行い, 同時に診療録から患児の 臨床的背景について調べた. アンケートの対象となった 患児の在胎期間は 23∼34週 (中央値 26週), 出生体重は 521∼1,478g (中央値 894g) であった. アンケートの調査内容は, 母親の産科退院までの日数, 搬送された病院までの 通手段および距離, 時間, 両親 の面会の頻度, 搬送先での母乳栄養の有無, 自宅に退院 した時の栄養法, 搬送先での面会のための宿泊施設の利 用の有無, 患児が遠隔地に入院したことで生じた家族の 生活上, 康上の問題, 経済的負担とした (図 1). 搬送先 までの距離が不明とされていた患児についてはナビゲー ション 合サイト NAVITIME (www.Navitime.co.jp)で 自宅から搬送先までの距離を調べた. 結 果 10症例 9 家族から回答を得た. 回答を得た症例の在胎 期 間 は 24∼34週 (中 央 値 26週), 出 生 体 重 は 552 ∼1,478g (中央値 843.5g) で, 超低出生体重児が 7名で あった. 出生後の合併症として呼吸窮迫症候群が明らか になっているものが 5名おり, 人工換気を要したことが 明らかになっているものは 7名であった. 搬送先での入 院期間は 18∼163日で, 5名は 50日未満であったが, 残 りの 5名は 100日以上であった (表 1). 1 群馬県渋川市北橘町下箱田779 群馬県立小児医療センター新生児科 平成20年6月6日 受付 論文別刷請求先 〒377-8577 群馬県渋川市北橘町下箱田779 群馬県立小児医療センター新生児科 丸山憲一母体搬送, 新生児搬送の別をみると, 母体搬送が 8名, 新生児搬送が 2名であった. 母親の患児 後の産科入 院期間は, 母体搬送された児では 7日以下が 2名, 8∼14 日が 6名で, 新生児搬送された児では 7日以下, 8∼14 日がそれぞれ 1名であった. 面会に用いた 通手段につ いては, 回答のあった患児すべてで自家用車となってお り, 1名でバスと電車も 用していた. 搬送先までの距離 は 50∼100kmが 2名, 100∼150kmが 4名, 150∼200km が 2名, 200km以上が 2名であった. 自宅から搬送先ま で行くのに要した時間は 1∼ 2時間が 2名, 2∼ 3時間 が 5名, 3時間以上が 3名であった (表 2). 両親の面会の頻度は, 生後 1週以内は母親の場合, 毎 日が 7名, 2∼ 3日に 1回が 2名, 4∼ 7日に 1回が 1名 で, 親の場合は毎日が 1名, 2∼ 3日に 1回が 7名, 4 図1 アンケートの調査項目
∼ 7日に 1回が 2名であった. 生後 1週以降については 症例 5の母親が毎日, 親が 7日に 1回未満, 症例 9 の 母親が 2∼ 3日に 1回, 親が 7日に 1回未満以外は 親, 母親とも同様で 2∼ 3日に 1回が 3名, 4∼ 7日に 1 回が 4名, 7日に 1回未満が 1名であった. 宿泊施設の利 用については症例 5でアパート・マンション, 症例 6-1, 6-2ではホテルおよび病院の宿泊施設を利用したとされ ていた. 母乳の投与については, 全例で搬送先で母乳が 投与されており, 自宅への退院時も 1名が母乳栄養, 5名 が混合栄養で, 人工栄養は 4名であった. (表 3). 患児が遠隔地に入院したことで生じた家族の生活上, 康上の問題, 経済的負担などについては, 生活上何ら かの支障が生じたとされていたのが 7名, 6家族, 家族の 康上の問題を生じたとされていたのが 4名, 4家族で あった. 経済的負担については 5万円未満が 1名, 1家 族, 5∼10万円が 3名, 3家族, 10∼20万円が 1名, 1家 族, 20∼50万円が 4名, 3家族, 100万円以上が 1名, 1家 族であった (表 4). フリーコメントとしては, 経済的, 精神的にも負担が 大きかった.経済的な補助が欲しい.」「急に遠くへの母体 搬送の話が出て困った. 県内で受け入れてほしかった.」 といったものがあった. 察 近年, ハイリスク新生児の出生数が増加し, 地域医療 圏で母体搬送, 新生児搬送に対応しきれず, 地域外の施 設に搬送されることが少なくない. 1998∼1999 年に関東 地方で, 救急母体搬送のうち県外に搬送された割合は, 最も低い栃木県で 916件中 11件 (1.2%), 続いて東京都 5,775件 中 192件 (3.32%), 群 馬 県 524件 中 29 件 (5.53%), 神奈川県 2,185件中 140件 (6.4%), 茨城県 1,424件 中 100件 (7.0%), 千 葉 県 2,622件 中 322件 (12.28%) で, 最も高い埼玉 県 で は 1,519 件 中 288件 (19.0%) であった. また, 神奈川県では平成 17年度の救 急母体搬送のうち 9.5%が県外に収容を依頼したとの報 告もある. 県の境界が生活圏の境界と一致しないことも 表1 患児の臨床像 症例 主な診断 搬送先でのおもな合併症, 人工換気, 入院期間 合併症 人工換気 入院期間 (日) 1 VLBW 新生児高ビリルビン血症 0日 28 2 VLBW 反復性無呼吸 26日 48 3 ELBW PDA 30日 39
4 ELBW RDS, CLD, PDA, ROP 41日 41
5 ELBW RDS, CLD, PDA 77日 127
6-1 ELBW RDS 84日 155
6-2 ELBW RDS, PDA, NEC, IVH, 出血後水頭症 109 日 155
7 VLBW 新生児一過性多呼吸 0日 19
8 ELBW CLD, PDA, ROP 不明 164
9 ELBW RDS, 緊張性気胸, IVH, 出血後水頭症, ROP あり (期間不明) 130
6-1と 6-2は双胎. VLBW : 超低出生体重児を除いた極低出生体重児, ELBW : 超低出生体重児, PDA : 動脈管開存症, RDS : 呼吸窮迫症候群, CLD : 慢性肺疾患, ROP: 未熟児網膜症, NEC : 新生児壊死性腸炎, IVH : 脳室内出血.
表2 母体/新生児搬送の別, 面会に用いた 通手段, 搬送先までの距離および時間 症例 母体/新生児搬送 産科入院日数後の母親 面会に用いた 通手段 搬送先までの距離(km) 搬送先までの時間(時間) 1 母体搬送 8∼14 100∼150 ≧ 3 2 新生児搬送 ≦ 7 自家用車, バスと電車 100∼150 2∼ 3 3 新生児搬送 8∼14 自家用車 100∼150 2∼ 3 4 母体搬送 ≦ 7 自家用車 50∼100 1∼ 2 5 母体搬送 ≦ 7 自家用車 150∼200 2∼ 3 6-1 6-2 母体搬送 8∼14 ≧200 ≧ 3 7 母体搬送 8∼14 自家用車 50∼100 1∼ 2 8 母体搬送 8∼14 100∼150 2∼ 3 9 母体搬送 (児は出生後, 母体搬送 先近くの病院へ搬送) 8∼14 自家用車 150∼200 2∼ 3
あるため, 一概に県外への搬送が遠距離とは限らないが, 地方では県外への搬送は長距離となることが少なくない ため, 長距離母体搬送を要することは決して稀でないと えられる. 新生児の地域医療圏を越えた長距離搬送の 頻度に関しては十 明らかになっていないが, 近年, 長 距離のためヘリコプター搬送などを要した症例に関する 報告などが散見される. 児が遠隔地に入院した場合, 家族に生じる問題として, 川畑ら は身体的疲労, 心理的不安, 経済的負担があると 述べている.今回の検討では 10名,9 家族中,搬送先まで の距離が 100km以上が 8名, 7家族で, 家族の生活に支 障があったのが 7名, 6家族, 康上の問題がみられたの が 4名, 4家族, 経済的負担に関しては 10万円以上が 6 名, 5家族となっていた. 面会の頻度は生後 1週間以内で は 親もしくは母親のどちらかが全例 2∼ 3日に 1回以 上で, 生後 1週以降も半数で 親もしくは母親のどちら かが 2∼ 3日 1回以上面会に訪れており,10名中 9 名 (9 家族中 8家族) が最低 1週間に 1回以上面会に訪れてい た. 母乳も搬送先で全例に投与されており, 自宅への退 院時も 6名が母乳を与えられていた. しかし, 面会のた めにアパート・マンション, ホテルを利用していた家族 もあり, 家族の負担の大きさがうかがわれた. 今回の検討で, 出生体重と搬送先までの距離, 搬送先 での人工換気, 入院日数, 家族の経済的負担との関係に ついてみると, 出生体重 1,000g 以上 1,500g 未満の児で は搬送先までの距離が 50∼100kmが 1名, 100∼150km が 2名だったのに対し, 出生体重 1,000g 未満の児では 50∼100kmが 1名 100∼150kmが 2名 で 残 り の 4名 は 150km以上であり, 搬送先までの距離は出生体重 1,000g 未満の児のほうが長い傾向がみられた. また, 搬送先で の人工換気は出生体重 1,000g 以上 1,500g 未満の児では 1名で 26日間行われていただけだったのに対し, 出生体 重 1,000g 未満の児では 6名で施行されていたことが判 明しており, 施行期間のわかった 5名すべてで 30日以 上となっていた. 搬送先での入院日数も出生体重 1,000g 以上 1,500g 未満の児は 19∼48日 (中央値 28日) だった のに対し, 出生体重 1,000g 未満の児では 39∼164日 (中 央値 130日) と, 出生体重 1,000g 未満の児の方が長かっ た. 経済的負担ついてみても出生体重 1,000g 以上 1,500g 未満の児では 5万円未満が 1名, 5∼10万円が 2名だっ たのに対し, 出生体重 1,000g 未満の児では 5∼10万円 が 1名でその他は 10万円以上となっており, 重症児ほ ど搬送先までの距離が長く, 入院期間も長期となり, 経 済的負担が大きくなることが えられた. 表3 搬送先入院中の両親の面会の頻度, 宿泊施設の利用および母乳の投与の有無 症例 生後 1週以内の面会の頻度 母親 親 生後 1週以降の面会の頻度 母親 親 宿泊施設の利用 搬送先での 母乳の投与 自宅へ退院時の栄養法 1 毎日 1回/2∼ 3日 1回/2∼ 3日 1回/2∼ 3日 なし あり 混合 2 1回/2∼ 3日 1回/2∼ 3日 1回/2∼ 3日 1回/2∼ 3日 なし あり 混合 3 1回/4∼ 7日 1回/2∼ 3日 <1回/7日 <1回/7日 なし あり 混合 4 毎日 1回/2∼ 3日 1回/4∼ 7日 1回/4∼ 7日 なし あり 人工 5 毎日 1回/2∼ 3日 毎日 <1回/7日 アパート・マンション (16週間) あり 母乳 6-1 6-2 毎日 1回/4∼ 7日 1回/4∼ 7日 1回/4∼ 7日 ホテル (3泊) 病院の宿泊施設 (1泊) あり 人工 7 毎日 1回/2∼ 3日 1回/4∼ 7日 1回/4∼ 7日 なし あり 混合 8 毎日 1回/2∼ 3日 1回/2∼ 3日 1回/2∼ 3日 なし あり 混合 9 1回/2∼ 3日 毎日 1回/2∼ 3日 <1回/7日 なし あり 人工 表4 県外へ搬送されたことによる家族の負担 症例 生活の支障 康上の問題 経済的負担 (円) 1 家族の仕事, 同胞の生活に支障あり 面会に多くの時間がかかった 面会に通うのに時間がかかり疲労がたまった 5万 2 家族の仕事, 同胞の生活に支障あり 精神的に疲れた 5∼10万 3 なし なし 10∼20万 4 経済的負担 なし 5∼10万 5 家族の仕事に支障あり 母親が体調を崩した ≧100万 6-1 6-2 同胞, 祖 母の生活に支障あり なし 20∼50万 7 家族の仕事に支障あり 母親が児に頻繁にあえず悩んだ 5∼10万 8 なし なし 20∼50万 9 なし なし 20∼50万
今後の対策としては, 地域医療圏で症例を収容できる ように設備, 人員を確保することが最も重要である. し かし, 周産期医療に携わる医師の充足や施設の整備には 時間や費用がかかるため, 限られた医療資源を有効に活 用するには搬送距離をできるだけ短くし, 児の状態が安 定したら早期に逆搬送できるように, 地域医療圏を越え た周産期情報システムの整備が必要であると思われる. また, 長距離搬送せざるをえない場合には, 家族に対し て何らかの補助をすることなどが望まれる. 文 献
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Effects of Long-distance M aternal or
Neonatal Transport on Infant Families
Kenichi Maruyama
and Takenobu Koizumi
1 Department of Neonatology, Gunma Childrens Medical Center
Background: A lack of neonatal intensive-care beds has resulted in increasing number of emergency maternal and neonatal patients being transported to distant hospitals. M ethods: We sent question-naires to 17 families(18 infants)experiencing long-distance maternal or neonatal transport to determine the effects of transport on families. Results: We obtained replies from 9 families(10 infants). Infant gestational age was 24-34 weeks and birth weight 552-1,478g. The distance from home to the hospital where infants were sent was 50-100 km for two infants and ≧100 km for eight. During the distant hospital stay,six families found problems in daily life. Additional cost were<50,000 yen in one family, 50,000-100,000 yen in three, 100,000-200,000 yen in one, 200,000-500,000 yen in three (four infants), and ≧1,000,000 yen in one. Conclusions: More neonatal intensive-care beds, a broader network of neonatal intensive-care units,and support are needed for the families of infants sent to distant hospitals.
(Kitakanto Med J 2008;58:371∼376)
Key Words: maternal transport, neonatal transport, very low-birth-weight infant, eco-nomic problem