遠心ポンプ型補助人工心臓の臨床使用に求められる
特性に関する研究
著者
北野 智哉
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第18810号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00127272
東北大学大学院医工学研究科
博 士 論 文
博士(医工学)
遠心ポンプ型補助人工心臓の
臨床使用に求められる特性に関する研究
北 野 智 哉
2019 年 3 月
- i -
Abstract
Currently a therapy with an implantable left ventricular assist device (LVAD) has become common. As the patient can not only be discharged but return to the working world, the requirement for a LVAD is changing.
In this study, first, the reliability of the LVAD for prolonged waiting duration for heart transplant was evaluated. The test equipment which was newly developed generated physiological pulsatile flow and drove the blood pump. The result showed that the reliability in 2 years was higher than the requirement of the guideline. After the 8.6-years operation, no performance degradation or
catastrophic failure, which made support circulation impossible, or symptom was observed. In clinical use, no blood pump stop or critical failure that caused low support circulation occurred.
Second, we evaluated the impact of the difference in blood pump performance on the circulation dynamics. By conducting an acute animal study, the comparison between with and without blood pump support, the difference in pump
performance curve, and the difference in PI control coefficient were evaluated. The result showed that the difference in blood pump performance had an impact on the pulsatility of the blood flow rate and on the impedance of the blood vessel.
Regarding the design of a LVAD, it is meaningful to reduce the potential failure mode by simplifying the blood pump configuration to improve reliability.
Considering a blood pump performance, reduction of the internal resistance of blood pump is expected to generate the physiological pulsatility of flow. In the future, new requirement or problem from clinical will come up and it is important to analyze and handle them appropriately.
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概 要
従来の治療法では救命,延命の期待が持てない心不全に対しては,心臓移植が適応と なる.長期にわたる移植待機期間を安定した血液循環を維持することが必要な場合は, 植込み型補助人工心臓が使用される. 現在の治療において植込み型補助人工心臓に求められるニーズは,主に次の通りであ る. 1) 補助循環に必要な流量性能や,長期化する移植待機期間に対応する耐久性 2) 合併症の低減 3) QOL の向上,コントローラの携帯性 4) 術後デバイス管理の簡便性,医療従事者サポートの低減 筆者らは,これまで遠心ポンプ型補助人工心臓の開発と実用化を行ってきた.本研究 ではこの遠心ポンプ型補助人工心臓を対象に,最も重要なニーズである信頼性を評価す るため試験方法と装置を開発し,長期耐久性試験を実施した.生理学的に妥当な拍動流 を駆出する装置を開発し,血液ポンプを接続して連続運転を実施した. その結果2 年では重大な故障は発生せず,88%の確からしさで 90%以上の信頼性が あることが示された.また,その後寿命や故障の兆候を確かめるため,累積駆動時間は 8.6 年まで評価を行ったが,基本的なポンプ特性などの低下は見られず,重篤な故障や その兆候は見られなかった. 遠心ポンプ型補助人工心臓の市販後の臨床使用で実際に発生した不具合は多くが血 液に関連する事象であり,また血液ポンプの停止や補助循環不能に至る致命的な故障は 発生していない.耐久性試験で臨床におけるすべての故障モードを再現することはでき ないが,その制約の中で致命的な事象のリスクを評価することができたと考えられる. 次に,遠心ポンプ型補助人工心臓の血液ポンプのポンプ性能の違いが循環動態に与え る影響を評価した.血液ポンプのポンプ性能の違いは,流量の拍動性に影響を与え,ま た末梢臓器のインピーダンスにも影響を与える. まず,血液ポンプが補助しているときは,非補助時に比べて腎動脈に脈圧が現れた. これは,左心室を十分にアンロードしたため,左心室の動きが大きくなったためと考え られる.また,ポンプの見かけの内部抵抗が小さいと自己心による拍動成分を維持され, ポンプ流量が拍動流になる傾向が見られた.また血液ポンプの回転数の目標値追従性を 変えて比較を行ったところ,ポンプ流量の最大値に差が見られたが,全体的な圧力,流 量の波形には大きな影響は与えなかった. 遠心ポンプ型補助人工心臓の血液ポンプの設計において,体内部をシンプルな構成に して潜在的な故障モードが考えられる構成要素を検証することは,求められる信頼性を- iii - 実現するために有効である.また,現在補助人工心臓の血液ポンプの設計は小型化を目 指す潮流があるが,血液流路を広く取り,内部抵抗を下げることは一定の効果が期待で きると考える.今後植込み型左心補助人工心臓が広く浸透するに伴い,新たな臨床から のニーズが生じると考えられる.さらなる改良を行いニーズに的確に応えていくために は,臨床で発生した事象に対して真摯に解析と対応を行う仕組みを作る必要がある.
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目
次
第
1 章 緒論 ... 1
心不全と補助人工心臓 ... 2 補助人工心臓の開発の経緯 ... 6 黎明期の補助人工心臓の開発の目的 ... 7 第一世代の植込み型補助人工心臓の開発の目的 ... 7 第二世代以降の植込み型補助人工心臓の開発の目的 ... 8 ニーズの変化 ... 11 定常流ポンプのポンプ特性 軸流型と遠心型... 12 EVAHEART LVAS ... 19 開発の経緯 ... 19 体内システム ... 20 体外システム ... 24 クールシールシステム ... 24 流量性能 ... 26 臨床実績 ... 26 本研究の構成 ... 28第
2 章 補助人工心臓 EVAHEART の耐久性評価に関する研究 ...29
緒言 ... 30 目的 ... 30 試験の概要 ... 31 非定型試験の選択 ... 31 目標とする信頼性 ... 32 信頼性の数値 ... 32 試験サンプル ... 33 EVAHEART LVAS7),8)のリスク分析結果 ... 33 被験物 ... 36 試験装置 ... 36 拍動負荷試験装置 ... 36 試験方法 ... 40 拍動負荷試験装置の設定... 40 故障の定義33) ... 44- v - 測定方法 ... 44 メンテナンス ... 45 流量性能試験 ... 46 シール性能試験 ... 48 その他の試験後の評価 ... 50 2 年の駆動結果 ... 50 ポンプ連続運転の結果 ... 50 ポンプ性能の変化 ... 52 メカニカルシール漏れ量 ... 54 摩耗 ... 56 寿命試験の駆動結果 ... 60 故障の記録 ... 60 ポンプ性能 ... 64 メカニカルシール漏れ量 ... 66 摩耗 ... 68 考察 ... 73 2 年の信頼性 ... 73 血液ポンプの故障の兆候 ... 73 試験実施の難しさ(動作流体の変更) ... 74 試験実施の難しさ(試験期間の長さ) ... 74 結言 ... 75
第
3 章 血液ポンプのポンプ性能の変化が生体に与える影響に関する実験 ...77
緒言 ... 78 目的 ... 78 EVAHEART の血液ポンプ ... 78 HQ カーブの傾きの変更 ... 81 モータ制御の変更 ... 84 急性動物実験 ... 86 結果 ... 88 血液ポンプ補助時と非補助時の比較 ... 88 モータの制御方法の変更; 追従性の良い制御, 追従性の低い制御 ... 92 見かけの内部抵抗の違い(HQ カーブの傾き)の比較 ... 98 本研究におけるLimitation ... 103 結言 ... 103第
4 章 考察 ... 105
- vi - 耐久性試験の結果と臨床試験との結果比較に関する考察 ... 106 ISO13485 の中での位置づけ ... 110 市販後改良におけるIn Vitro 試験結果の重要性 ... 112 血液ポンプの補助が腎臓に与える影響 ... 113
第
5 章 結論 ... 115
参考文献
... 117
謝 辞
... 122
研究業績
... 124
- 1 -
- 2 -
心不全と補助人工心臓
心臓は,左心房,左心室,右心房,右心室の4 つの部屋から構成される.これらの 4 つの部屋が24 時間休むことなく収縮,拡張を繰り返し,全身や肺に血液を送っている (図 1.1).心臓は血液の逆流を防止するため 4 つの弁を持っている.弁は右心房と右 心室を分ける三尖弁,右心室と肺動脈の間の肺動脈弁,左心房と左心室を分ける僧帽弁, 左心室と大動脈の間の大動脈弁がある. 心臓は全身に血液を拍出し,回収するポンプの働きをしている.肺で酸素を取り込み, 酸素化された動脈血が肺から肺静脈を通って左心房に戻る.この動脈血が左心房から僧 帽弁を通過して左心室へと流れ込み,左心室の強力な収縮によって大動脈弁から大動脈 を通って送り出される.酸素を多く含む動脈血が各臓器や組織まで酸素を届け,代わり に酸素が少なくなった静脈血が再び上大静脈や下大静脈を通って右心房に戻される.全 身から戻った静脈血は右心房から三尖弁を通過して右心室に入り,肺動脈弁から肺動脈 を通って肺へと送られる.2) 心臓が十分なポンプ機能を果たせなくなる疾患を総じて心不全と呼ぶ.日本循環器学 会のガイドラインによれば,心不全とはなんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器 質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼 吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群と定義さ れる3).心不全の要因は,心外膜や心筋,心内膜疾患,弁膜症,冠動脈疾患,大動脈疾 患,不整脈,内分泌異常など,さまざまな疾病により引き起こされるものである. 心不全は臨床症候群であり,進行性がある疾患である.その心不全の程度や病状の進 行具合重症度や運動耐用能などの観点から,分類基準が多数存在する.日本循環器学会 の急性・慢性心不全診療ガイドラインでは,表1.1 のような分類を定めている3).主に ステージA,B は危険因子のコントロールや心不全発症予防が目的の治療が行われ,ス テージC,D は症状のコントロールから QOL 改善,入院・再入院予防や終末期ケアが 行われる. また,運動耐容能を示す指標であるNYHA 心機能分類も頻用されている.NYHA 分 類は,循環器学会の区分のステージC,D に相当する心不全に該当する.NYHA 心 機能 分 類 と は ニューヨーク 心 臓 協 会(New York Heart Association)が作成し,
身体活動による自覚症状の程度により心疾 患の重症度を分類したもので,心不全にお
ける重症度分類として広く 用いられている.II 度はさらに IIs 度:身体活動に軽度制
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図 1.1 心臓の模式図1)
心臓は肺から戻ってきた血液が入る左心房,全身へ血液を送る左心室,全身から戻る 血液が入る右心房,肺へ血液を送る右心室がある.
- 4 - 表1.1 急性・慢性心不全診療ガイドラインの心不全ステージ分類 ステージA 器質的心疾患のないリ スクステージ 心不全症候のない患者 ステージB 器質的心疾患のあるリ スクステージ 器質的心疾患を有するが,心不全症候 のない患者 ステージC 心不全ステージ 器質的心疾患を有し,心不全症候を有 する患者 既往も含む ステージD 治療抵抗性心不全ステ ージ おおむね年間 2 回以上の心不全入院を 繰り返し,有効性が確 立しているすべて の薬物治療・非薬物治療について治療な いしは治療が考慮されたにもかかわらず NYHA 心機能分類 III 度より改善しない 患者 表1.2 NYHA 心機能分類 Ⅰ度 心疾患はあるが身体活動に制限はない. 日常的な身体活動では著しい疲労,動悸,呼吸困難あるいは 狭心痛を生じない. Ⅱ度 軽度ないし中等度の身体活動の制限がある. 安静時には無症状.日常的な身体活動で疲労,動悸,呼吸困 難あるいは狭心痛を生じる. Ⅲ度 高度な身体活動の制限がある.安静時には無症状. 日常的な身体活動以下の労作で疲労,動悸,呼吸困難あるい は狭心痛を生じる. Ⅳ度 心疾患のためいかなる身体活動も制限される. 心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する.わずかな労作 でこれらの症状は増悪する
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表1.3 INTERMACS のプロファイル分類と J-MACS 分類
Profi le
INTERMACS J-MACS INTERMACS の
ニックネーム VAD 適応決定ま での時間 1 Critical cardiogenic shock 重度の心原性ショ ック Crash and burn Hours (時間単位) 2 Progressive decline 進行性の衰弱 Sliding fast Days
(日単位) 3 Stable but inotrope dependent 安定した強心薬依 存 Dependent stability Few weeks (週単位) 4 Resting symptoms 安静時症状 Frequent flyer Months
(月単位) 5 Extertion intolerant 運動不耐容 House-bound ― 6 Exertion limited 軽労作可能状態 Walking
wounded
―
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従来の治療法では,救命,延命の期待が持てない重症な心不全に対しては,心臓移植 の適応となる.心臓移植適応ありと判断されたのち,長期にわたる移植待機期間を安定 した血液循環を維持することが必要で,補助人工心臓の適応があると判断された患者に 対して,植込み型左心補助人工心臓(Left Ventricular Assist System; LVAS)が使用さ れる.植込み型補助人工心臓が適応される疾病としては,拡張型心筋症,肥大型心筋症, 心サルコイドーシスやアドリアマイシン心筋症,ウイルス心筋炎などの二次性心筋症, 虚血性心筋症などがある. 心不全の重症度がNYHA クラスⅣに相当する重症心不全は,植込み型補助人工心臓 の適応となる.表1.3 に示す INTERMACS のプロファイル分類ではさらに細かい分類 があり,日本ではINTERMACS と同等に規定した J-MACS モデルがある.原則とし てProfile1 は体外設置型補助人工心臓の適応で,Profile2,3 は植込み型補助人工心臓 の適応で,Profile 4 は薬物治療が困難な不整脈や,強心薬に対するアレルギーなど特殊 な理由がある症例に限り,植込み型補助人工心臓の適応とされている4). 現 在 国 内 で は , 植 込 み 型 の 補 助 人 工 心 臓 が 心 臓 移 植 ま で の つ な ぎ (Bridge to Transplant;BTT)として広く使用されている.国内で心臓移植を受けた患者は移植直 前の医学的状態の緊急度が非常に高いStatusⅠで,265 人のうち 246 人(92.8%)に LVAS が装着されていた5).また補助人工心臓の装着期間は,長期化する移植待機期間 のほとんどを占め,その長期耐久性や装着期間の患者の生活の質(Quality of Life; QOL),有害事象の少なさが重要となって来ている.国内で心臓移植を受けた人の待機 期間は平均977 日(29~3,838 日)で,機械的補助期間(LVAD の装着期間)は平均 940 日(21~1,738 日)であった5).
補助人工心臓の開発の経緯
従来は体外設置型の拍動型補助人工心臓が主流であり,国内においては,1980 年代 から東洋紡製の補助人工心臓(現ニプロVAD)や,日本ゼオン製のゼオン VAD などが 使用されていたが,1997 年に臓器移植法が成立するまでは患者は心臓移植の希望もな く病院内で療養するのみであった.2005 年にサンメディカル技術研究所が植込み型補 助人工心臓EVAHEART LVAS の治験を開始し,2011 年に製造販売承認を得てからは 体内植込み型が主流となった6).植え込み型の補助人工心臓はコントローラが小型で携 帯性に優れ,ポンプ性能や耐久性の向上により有害事象が減少し,さらに患者の退院や 社会復帰が可能となったため,待機期間中のQOL が大幅に向上した.また海外では,LVAD が移植を前提としない永続的な治療(Destination Therapy ;DT)
として使用されている.今後国内においても,LVAS の DT 使用が承認されていくもの
- 7 -
黎明期の補助人工心臓の開発の目的
補助人工心臓の黎明期の開発は,海外において主に行われた.1960 年代,DeBakey
らは左室補助人工心臓(Left Ventricular Assist Device, LVAD)のコンセプトを考案し, 開発を進めた.1963 年に Baylor College of Medicine において,LVAD の最初の臨床 応用が行われた.最初の患者は大動脈弁修復術の術後心停止に至った患者に体外設置型 のLVAD が使用され,最初は左心機能の改善も見られたが,4 日目に患者は脳イベント のため死亡した. ここから,多くの機械的補助装置の開発が始まった.その目的は究極的には重症心不 全患者の長期補助と完全な循環補助であったが,当初は体外設置型補助人工心臓による 一時的な循環補助が目的であった. しかし,その開発と臨床使用の過程において,血液適合性や制御技術,コントローラ や電源のサイズに問題があることが解った.臨床成績が望ましいものではなく,法外な コストと開胸術の必要性が課題になり,人工心臓の植え込みは広まらなかった7) .
第一世代の植込み型補助人工心臓の開発の目的
1982 年に Kolff らによって開発された完全人工心臓 Jarvik7 が,DeVries と Joyce らによってUniversity of Utah で植え込みが行われ,112 日間の生存を実現し植込み型
人工心臓の長期使用が現実化した8).
1984 年には Thoratec PVAD,Novacor LVAS が初めて臨床使用され,これを機に拍 動型の植込み型補助人工心臓の使用が加速し,臨床成績も向上した.
Novacor LVAS はカナダの World Heart 社により開発された補助人工心臓である.
電磁駆動式のプッシャープレートを備え,2 つのチャンバを交互に押して圧力を加える
ことにより拍動流を駆出する.マイクロプロセッサと充電式バッテリを備えたコントロ ーラが,自己心の拍動との同期を実現するLVAD である.1984 年に Stanford University
にて最初の臨床使用が行われた.Jarvik7 とは異なり,自己心は残したまま横隔膜の直 下に植え込まれた.9) 当初はコントローラは大型であったが,1993 年にベルトに装着 する小型コントローラおよびバッテリが導入された.患者が退院し,社会生活を送れる ようになった画期的なコントローラである 10) .1993 年までの臨床使用結果をまとめ た報告によれば,768 例に埋め込まれ,平均補助期間が 85 日であった.この Novacor の臨床使用により,補助循環の使用目的として心臓移植までのつなぎ(Bridge to Transplant;BTT)という考え方が確立した.11)
Thoratec PVAD は重症心不全患者に対し,左心室補助(LVAD),右心室補助(RVAD), 両心補助(BiVAD)が可能である.FDA は 1995 年に BTT として,また 1998 年に心
- 8 - 血液ポンプは 65mL の血液チャンバと 2 つの機械弁を持つ拍動型である.ポリウレ タンを主成分とするThoralon という安定性に優れた素材が用いられている 13) .コン ソールまたは携帯型コントローラから陽圧と陰圧の空気圧を交互に与えることにより ポンプのダイアフラムを動かし,臨床学的に妥当な 40-110bpm の拍動数で 1.3-7.2L/min の流量を拍出する.血液ポンプを体外に設置することから,体表面積 0.73m2 と小柄の患者にも使用できる.3つのモードがあり, (1)asynchronous mode:固定拍動数, (2)synchronous mode:患者の自己心の心拍数に合せる, (3) volume mode 左心室への還流量に合せて変動する から選択することができる.臨床の結果は,1982 年から 2010 年まで 260 施設で 4477 例に使用された.このうちBTT 用途は 2928 例であり,BiVAD 用途が 62% ,LVAD 用 途が31%,RVAD が 6%であった.平均補助期間は 33 日であった.14) 患者の全身循環補助を行うためにより生理学的な拍動流を目指し,また左心補助のみ ならず右心補助,両心補助を実現した.携帯型のコンソールを提供し,患者が退院する ことも実現した. HeartMate IP は植込みが可能な空気圧駆動式血液ポンプである.チタン合金製で, 570g の重量である.ブタの生体弁を持ち,血液室と空気室から構成される.ポリウレ タンのダイアフラムが血液室と空気室を分ける.ストロークボリュームは83mL で,最 大 140BPM が可能であった.最大 12L/min の流量を拍出すすることができる.1991 年からUS で臨床試験が開始され,1994 年に FDA に BTT 適用で認可を受けたが,コ ントローラのサイズが大きく患者は退院することができなかった. 血液ポンプの血液室の設計はそのまま変えずに駆動方式をモーター式に変えた Heart Mate VE は長期耐久性が向上した.さらに,軸受を改良した HeartMate XVE
はさらなる耐久性向上が目指されたが,2 年目になると故障が多いという結果が示され
た.15)
1996 年から REMATCH(Randomized Evaluation of Mechanical Assistance for the Treatment of Congestive Heart Failure, E, Rose principal Investigator)が Heart Mate VE を対象に開始され,1 年後の死亡率が薬物療法と比較して 50%低減するとい う結果が2002 年に報告された 16) .補助人工心臓を使用した治療方法の有効性を示し た画期的なStudy であった.
第二世代以降の植込み型補助人工心臓の開発の目的
拍動型の補助人工心臓は生理学的な拍動流を駆出できるという利点があるものの,拍 動させるための機械的機構と,弁における抗血栓性に問題があるため,耐久性に難があ った.心臓移植の慢性的なドナー不足と移植待機期間の長期化から,より補助人工心臓- 9 - による補助期間の長期化が求められるようになった.このため,弁を持たない定常流型 補助人工心臓の開発が進められてきた.モータで羽根車を回転し,流れを作る定常流ポ ンプであれば産業で使用された一般技術が応用でき,耐久性向上に関する技術も応用で きると考えられた. HeartMate II は,植込み型の定常流ポンプとして最も世界に普及した機種であり, これまでに全世界で 26000 例以上に使用されている.17)血液ポンプは小型軸流ポンプ であり,一定回転数制御で駆動される.拍動型補助人工心臓に比較するとコントローラ, バッテリのサイズが小型軽量であり,ホルスター型のバッテリケースやコントローラの ベルト装着によりウエアラブルを実現し,患者の Quality of Life(QOL)を向上させ た. HeartMate II は FDA から 2008 年に BTT の承認を得て,2010 年には移植を前提と しない永続的な使用(DT)としての使用も承認された.初期の BTT trial 133 例の結果 は,Miller によって報告され,その後アップデートした結果が Pagani によって報告さ
れた.市販後の結果はINTERMACS(Interagency Registry for Mechanically Assisted Circulatory Systems)に登録され,169 例の結果が Starling によって報告された.これ らの結果を表1.4 に示す.
しかしながら,長期間の使用においては,様々な合併症が報告された 18).特に
HeartMate II に特有の事例としては,ポンプ内に血栓が形成されるためにポンプ交換
を要する症例が2 年で 12.3%と報告された19).また,消化管出血が高率で発生し,特
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表1.4 HeartMate II の主な臨床報告 Reference Study Enrollment
Period N 30day operative mortality % Transplantation, Recovery, or ongoing device support at 180 days % Kaplan -Meier Survival at 1 yr % Miller et al HM II pivotal trial 3/05-5/06 133 11 79 68 Pagani et al 3/05-3/07 281 8 84 74 Starling et al Post approval Intermacs registry study 4/08-8/08 169 4 91 85
- 11 - 初期の血液ポンプは複雑な構造や摩耗する摺動部品があるために,長期間の使用がで きないと言われてきた.さらに耐久性を延ばすために,摺動部分を無くし,羽根車を浮 上させながら回転させるという考えが広まった.マグネットカップリングを使った磁気 浮上型ポンプや,流体軸受を羽根車に持たせた流体浮上ポンプは,第 3 世代と呼ばれ た. HeartWare は第 3 世代補助人工心臓の中でも,最も臨床の症例数が多いポンプで, 2018 年 2 月までに 15000 例に使用された.小型で信頼性が高く,低侵襲で植え込むこ とができることを特徴とした遠心ポンプである.21) インフローカニューレがポンプハウジングと一体となっており,ポンプ本体が左心室 直下に配置するためポンプポケットを形成する必要がない.また,インペラは(1)回転 制御のための永久磁石(モーターロータ),(2)軸方向位置制御のための永久磁石,(3) 動圧軸受を持ち,完全に非接触で回転するため,摩耗する部分がない.遠心ポンプであ るため最大10L/min 以上の大流量を駆出することが可能である.22) 初期のBTT 臨床試験はヨーロッパで行われ,360 日で 91%の生存率を得ることがで きた.アメリカで実施されたBTT ピボタル試験は 2010 年にエンロールが終わり,140 例が参加した.
ニーズの変化
上記で見てきたように,補助人工心臓の当初の目的は,数日から数か月の循環補助に より重症心不全患者の生命維持を行うことであった.このため第1 世代と呼ばれる拍動 流ポンプが開発され,臨床応用され,生理学的な拍動流を実現して数か月の補助を実現 し,当初の目的を達成するに至った. しかしその臨床応用の中でもニーズが変わり,患者が院外で生活するようになると,日常生活における患者の生活の質の向上(Quality of Life; QOL)が求められるように
なった.それを受けて各社とも機器の改良,設計変更を実施した.第1 世代の補助人工
心臓の中でも最も完成度の高い拍動型補助人工心臓のNovacor や HeartMate XVE は
植込み型であり,BTT 用途で広く使われたが,慢性的なドナー不足から長期化する移 植待機期間を補助し続ける耐久性がなかった.さらに,拍動する機構や機械弁に血栓が 形成されることがあり,患者の健康被害やポンプ交換につながった.すなわち,第1 世 代は当初の目標を達成したが,臨床使用の中でBTT を実現するための耐久性や抗血栓 性,さらには患者のQOL 向上という新たなニーズが見つかり,拍動機構と機械弁が必 要な拍動流ポンプはこれらのニーズに対して限界があった.そこで第2 世代と呼ばれる 定常流型ポンプでは,産業界で実績のある定常流型ポンプの構造を採用し,長期の補助 循環を実現した.現在は第3 世代と呼ばれる補助人工心臓も含め,定常流型の補助人工
- 12 - 心臓が広く普及している.
2017 年の INTERMACS レジストリでは,50%の患者が DT, 26 %が BTT, 23%が bridge to candidacy と DT が最多であった.また VAD 全体の 1 年生存率は 81%,2 年
生存率は70%であった. 一方,さらに補助期間が長期化するに伴い,新たな課題も出てきた.感染症(ドライ ブライン感染,ポケット感染,敗血症),心不全,装置故障,デバイス血栓,多臓器不 全(腎臓,肝臓,肺等),脳神経障害(脳梗塞,脳出血)など,従来のVAD 関連合併症 の他,消化管出血,大動脈弁逆流など,連続流型LVAD の合併症も問題となった.18) また,患者が社会生活に復帰することが可能になるなどQOL が向上するに伴い,コ ントローラの携帯性の悪さやアラームの発生などが患者の日常生活を妨げる要因とな り,新たなクレームとなった.必ずしも機器の運転を妨げるような重大なアラームでな くても,アラームを鳴らすことで患者や臨床工学技士はその対応を迫られ,問題となっ た. これまでのニーズの変化から,現在の補助人工心臓のニーズは以下の4 点に集約され る. 1) 植込み型補助人工心臓としての基本的な機能の達成 補助循環に必要な流量を吐出する流量性能や,5 年程度の耐久性,ポンプ内血栓を発 生させない抗血栓性などは必須機能である. 2) 合併症の低減 前述のような合併症は患者に著しい健康被害を与える.場合によっては致命的な合併 症もあり,極力避ける必要がある. 3) QOL の向上,コントローラの携帯性 日常生活に復帰した患者は,健常者と変わらない生活を送るために,コントローラや バッテリの携帯性や操作性が必要になる. 4) 術後デバイス管理の簡便性,医療従事者サポートの低減 術後管理やメンテナンスの少ないデバイスが好まれる.退院するためには患者にある 程度操作や緊急時の応対方法を教育するが,その処置が容易な方が好まれる.また,細 かい異常までアラームが鳴るよう設定すると対応する頻度が上がるため,致命的なもの や重大なもの以外はアラームを鳴らさない方が好まれる. 現在,臨床で使用される補助人工心臓は1)はほぼ実現しており,2),3),4)について 向上すべく開発を続けている.
定常流ポンプのポンプ特性 軸流型と遠心型
植込み型補助人工心臓は,そのポンプの形式から拍動型と定常流型に大別されるが,- 13 - 前述の通り現在は第2 世代または第 3 世代と呼ばれる定常流型補助人工心臓が多く使 用されている.定常流型補助人工心臓は,さらに軸流ポンプと遠心ポンプに分類される. 軸流ポンプは小型軽量で,高回転数で運転する.一方で遠心ポンプは流体力学的に高効 率で,比較的高流量を拍出できるという特徴がある.植込み手術をする上では小型の軸 流ポンプの方が解剖学的に侵襲が小さいとされている. 一般的にポンプの特性は,横軸に吐出する流量,縦軸に揚程(ポンプの入口と出口の 圧力較差)をプロットしたポンプ特性線図で表される23).ポンプが一定回転数で駆動し ているときに圧力負荷が変わると流量が変わり,グラフ上で軌跡が描かれる.この軌跡 がポンプ特性を示すが,ポンプ特性線図あるいはHQ カーブと呼ばれる. 軸流ポンプと遠心ポンプは,HQ カーブに大きな違いがある.補助人工心臓に用いら
れる典型的な軸流ポンプ(Jarvik 2000,HeartMate II,Micromed DeBakey,Modified DeBakey) の HQ カーブを図 1.2 に,典型的な遠心ポンプ(Duraheart,EVAHEART) のHQ カーブを図 1.3 に示す.
軸流ポンプのHQ カーブは,機種に依らずに大きな差はない.実使用における回転数
範囲は 7000-12000rpm で駆動する.締切揚程 100mmHg を駆出する回転数では,
Jarvik2000,Heart Mate II では最大 4.0-5.0L/min 程度の流量を出すことができる.
遠心ポンプのHQ カーブは,一般的に軸流ポンプに対して傾きが小さい特徴がある.
実使用における回転数範囲は1600-2400 rpm で駆動する.締切揚程 100mmHg を駆出 する回転数では,Duraheart は最大 8.0L/min,EVAHEART では 15.0L/min 以上と高 い流量を出すことができる. 血液ポンプは左心室から血液を吸込み,大動脈に吐出するので,入口側圧力は左心室 圧力,出口側圧力は大動脈圧力となり,左心室圧力と大動脈圧力の較差が揚程に相当す る.図1.4 に自己心の一心拍中の大動脈圧と左心室圧の較差と,血液ポンプの動作点の 関係を示す模式図を示す.拡張期は左心室内圧力は 0mmHg に近くなるが大動脈圧力 は高いまま維持されるため,圧力較差は大きくなる.一方で収縮期は左心室圧力が上が り,大動脈弁が解放されるため大動脈圧力とほぼ同じとなるため,圧力較差はほとんど 無くなる. 血液ポンプの HQ カーブ上で考えると,拡張期は揚程が大きいため動作点は HQ カ ーブの左側に位置する.一方で収縮期は揚程が小さくなり,動作点はHQ カーブの右側 に移動する.横軸で見るとこの動作点が移動する幅が大きいほど,血液ポンプから拍出 される流量の差が大きくなる. 図1.5 には,典型的な軸流ポンプと遠心ポンプの HQ カーブの模式図を示す.軸流ポ ンプと遠心ポンプのポンプ性能を比較すると,軸流ポンプの方が HQ カーブの右肩下 がりの傾きが大きく,遠心ポンプの方が傾きが小さい.拡張期と収縮期の流量の差は, 軸流ポンプよりも遠心ポンプの方が大きくなる.すなわち,遠心ポンプの方が一心拍中
- 14 - の流量の最大値,最小値の差が大きく,流量の拍動性が大きくなる. 臨床でも遠心ポンプ型補助人工心臓は拍動流が出ることが確認されている.遠心ポン プ型の血液ポンプを持つEVAHEART LVAS は,臨床で回転数一定制御で運転している ときに,自己心の拍動に同期してポンプ流量が6-9L/min の間で変化した.44) 軸流ポンプと遠心ポンプのポンプ性能については様々な議論がある.前述の通り脈圧 が小さいほうが消化管出血が高率で発生するという報告がある 16)が,臨床上でその優 劣を議論した報告はまだなく,現在は軸流ポンプ,遠心ポンプの両方が広く臨床で使用 されている.
- 15 -
図 1.2 軸流ポンプの HQ カーブ:Jarvik 2000,HeartMate II,Micromed DeBakey, Modified Micromed 24)
軸流ポンプのポンプ性能は,締切揚程が100mmHg の回転数では,低揚程時の最大
流量が5~7L/min となり、ポンプ性能曲線は右下がりの傾きが大きい.
- 16 - (a) Duraheart25) (b) EVAHEART 26) 図1.3 遠心ポンプの HQ カーブ 遠心ポンプのポンプ性能は,締切揚程が100mmHg の回転数では,低揚程時に 8L/min 以上吐出される.特にEVAHEART では最大 20L/min 以上となり,流量が大きい. また,通常運転の動作範囲の回転数は2000rpm 前後と軸流ポンプに比べて小さい回 転数で運転される.
- 17 - 図1.4 一心拍中の血圧の変動と血液ポンプ特性線図上の動作点の変化 拡張期は左心室内圧力と大動脈圧力の圧力較差は大きくなる.一方で収縮期は左心室 圧力と大動脈圧力の圧力較差はほとんど無くなる. 血液ポンプの HQ カーブ上で考えると,拡張期は揚程が大きいため動作点は HQ カ ーブの左側に位置する.一方で収縮期は揚程が小さくなり,動作点はHQ カーブの右側 に移動する.横軸で見るとこの動作点が移動する幅が大きいほど,一心拍中に血液ポン プから拍出される流量の変化量が大きくなる.
- 18 - 図1.5 血液ポンプ特性線図 遠心ポンプと軸流ポンプの比較 軸流ポンプと遠心ポンプのポンプ性能を比較すると,軸流ポンプの方がHQ カーブ の傾きが大きく,遠心ポンプの方が傾きが小さい.締切揚程が同じであれば,拡張期 と収縮期の流量の差は,軸流ポンプよりも遠心ポンプの方が大きくなる.すなわち, 遠心ポンプの方が一心拍中の流量の最大値,最小値の差が大きく,流量の拍動性が大 きくなる.
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EVAHEART LVAS
開発の経緯
植込み型補助人工心臓システムEVAHEART は,著者が所属した(株)サンメディカ ル技術研究所によって開発された国産唯一のLVAD である. 1980 年代に米国を中心に拍動流型血液ポンプが広く使われていた第 1 世代のポンプ は,抗血栓性や耐久性の限界が報告され,その問題を解決するために定常流型血液ポン プへの開発が行われるようになった. 定常流型血液ポンプの開発において,不可避な大きな問題が一つ存在した.定常流型 ポンプは回転するインペラを支持するため回転軸が必要である.その回転軸は,モータ と血液室で回転するインペラを接続するため,血液が回転する軸を伝わってモータ側に 進入することを防ぐための機構が必要であり,これが一つの大きな技術的な課題であっ た.通常の回転機械ではシールが使用されるが,これには潤滑液が必要となる.軸受や シールは,回転体と固定体の間に1μm 以下の潤滑膜を形成し,流体潤滑状態に保つこ とで摩擦係数を下げ,機械の耐摩耗性や駆動安定性を向上させる流体機械である.この 潤滑膜に血液タンパクが進入すると,タンパク質堆積や血栓形成を招き,駆動を不安定 化させるという問題があった.この問題を解決するため,1991 年に山崎健二医師によ りシール機構を主体としたクールシールシステムが考案された.27) サンメディカル技 術研究所はそのアイデアを実現するために設立され,定常流型血液ポンプの開発を進め た. 2001 年に遠心ポンプの最終試作機の設計を決定すると,日本人工臓器学会に所属す る多くの研究機関や,メカニカルシールのトップメーカー,部品供給メーカーなど多く の協力を得ながら非臨床試験を実施した.非臨床試験はFDA が要求する品質システム (21CFR820)および国内の QMS 省令のルールに基づいて行い,ISO14971 に定めら れたリスクマネジメントの手法を用いて安全性を証明した.この結果をもって2004 年 に国産では初となる植込み型補助人工心臓の治験申請を独立行政法人医薬品医療機器 総合機構(PMDA)に行った. 2005 年から国内で治験を開始し,パイロットスタディ 3 例,ピボタルスタディ 15 例 の合計18 例で評価した.安全性と有効性が十分であることが証明され,2011 年に製造 販売承認を得て上市し,2018 年 10 月までに約 180 例に植え込まれている. また,2013 年には小型化コントローラ C02 システムを,2014 年にはチタンメッシ ュインフローカニューレを一部変更により導入した.これらの変更はいずれも,治験を 開始した後に新たに判明したニーズに基づき実施した設計変更である. 小型化コントローラ C02 は,体外システムの小型軽量化を目指したとともに,ヒュ- 20 - ーマンファクターの観点からリスクを低減した.患者や介護者,医療従事者のミスによ る有害事象や故障の発生を極力抑える設計とした.内蔵非常用バッテリなどの安全機能 は維持しつつ,血液ポンプ駆動回路の2 重化など長期化する在宅医療に対応した設計と した. チタンメッシュインフローカニューレは,以前のスムースサーフェイスインフローカ
ニューレでWedge Thrombus の形成が多くみられ,このため TIA,CVA の発症率が高
いという問題があった.インフローカニューレ外壁と左心室心壁の間に血液が滞留し, 血栓が形成され,さらにその血栓がインフローカニューレの短軸側から吸い込まれるた めと考察されていた.チタンメッシュインフローカニューレは,形成した Wedge Thrombus がメッシュにアンカリングし,血流中に脱落しないため塞栓症のリスクが低 い.さらに,血栓が器質化し,表面に内皮細胞を誘導するため,左心室内の抗血栓性に 優れる. さらに,2017 年には,血液ポンプの血液室・インペラの設計はそのままにポンプの 小型化を実施した改良ポンプの一部変更申請承認を得ている.28)
体内システム
体内には,(1)血液ポンプ,(2)インフローカニューレ,(3)アウトフローグラフト の3 つのコンポーネントが植え込まれる.血液ポンプは左季肋部に植え込まれ,右側腹 部からドライブラインを体外へ貫通させる.インフローカニューレは左心室に差し込ま れ,アウトフローグラフトは上行大動脈に吻合される.血液ポンプを含む左心室―大動 脈バイパスを形成し,自己心を補助する. 血液ポンプは,純チタン製の遠心ポンプと経皮貫通ドライブラインから構成される. 遠心ポンプは主にインペラ,ポンプチャンバとモータから構成される.遠心ポンプは重 量が420g で容量が 132mL である(図 1.6,血液ポンプ写真).オープンベーンタイプ のインペラが血液チャンバの中で一定回転で回転する.モータの回転をシャフトがイン ペラに伝達し,そのシャフトはジャーナル軸受で支持される.シャフトに沿って血液チ ャンバからモータ側へ血液が漏れるのを防ぐために,メカニカルシールが装備されてい る. 体外のコントローラから経皮貫通ドライブラインを通してモータへ電力が供給され る.経皮貫通ドライブラインには電線の他に2 つのチューブが内蔵され,クールシール 液の循環経路を構成している.図1.7 に全体図を示す.- 21 - 図1.6 EVAHEART 血液ポンプ 純チタン製で,血液ポンプは420g.吸込み口,吐出し口は直径 16 ㎜と同種の血液 ポンプ中最大である. 図1.7 EVAHEART C02 システム 患者が行動しやすくするため開発した小型コントローラ.臨床のニーズを踏まえて 開発した.
- 22 - 表1.5 体内システムの主な寸法 ユニット 寸法 血液ポンプ 420g,132mL 外径58 ㎜ インフローカニューレ 長さ110 ㎜,内径 16 ㎜ アウトフローグラフト 長さ400 ㎜,内径 16 ㎜ 表1.6 体外システムの主な寸法 ユニット 寸法 コントローラ 241×304×81 ㎜ 1.97kg(クールシールユニット,電源除く) AC/DC アダプタ,外部モニタ接続端子 外部バッテリ 78×44×172 ㎜ 810g 1 本あたり 4-5 時間補助 非常用バッテリ 104×80×22 ㎜ 225g 30 分補助 コントローラ内に1 個内蔵,交換可能 クールシールユニット 145×80×22 ㎜ 1.1kg コントローラ内に内蔵,交換可能
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図1.8 体外システムの概要
体外システムは,コントローラ,バッテリ,クールシールユニット(コントローラ内
に内蔵),AC/DC アダプタ,バックアップコントローラ,外部モニタ,充電器から構成
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体外システム
体外システムは,コントローラと電源,および付属品から構成される.コントローラ はEVAHEART の血液ポンプへの電力供給と制御を司り,基板,内蔵非常用バッテリ, 純水循環を行うクールシールユニットから構成される.外部電源としては,外部バッテ リ 2 個と商用電源に接続する AC/DC アダプタがコントローラに直接接続可能である. コントローラの液晶ディスプレイには血液ポンプの回転数,消費電力,操作記録やア ラームを示すイベントコードが表示される.また,LED ランプがバッテリ残量や AC/DC アダプタ接続有無など外部電源の状態を示す. システムアラームとして,ポンプアラーム(血液ポンプの自動再起動など),純水循 環アラーム(圧力異常など),コントローラアラーム(バッテリ消費など)が設定され ている.外部モニタはコントローラに接続し,コントローラが計測する回転数,消費電 力,推定流量,純水循環の圧力をグラフ表示することができ,またコントローラ内に記 録されたトレンドデータ,イベントデータをダウンロードすることが出来る.クールシールシステム
EVAHEART の最大の特徴として,クールシールシステムが挙げられる.EVAHEART はモータの回転を回転軸を介してインペラに伝達している.血液室の血液が回転軸に沿 ってモータに漏洩しないように密封装置(メカニカルシール,図1.9)を備えている. このメカニカルシールは摺動する2 平面をもつシールリング,シートリングという部品 から構成されるが,この摺動面間に潤滑液(注射用水)を強制的に供給している.血液 ではなく注射用水を潤滑液にすることにより良好な潤滑状態が保たれ,低摩擦係数,低 摩耗,長期安定運転が実現している.また回転軸を支持するジャーナル軸受にも,同じ 注射用水が潤滑液として供給される.ジャーナル軸受は回転側軸受と固定側軸受の隙間 が片側5μm であり,この間に注射用水が満たされる. この注射用水はコントローラに内蔵されるクールシールユニットからドライブライ ンを介して血液ポンプに供給され,ジャーナル軸受,メカニカルシールを通った後に, 再びドライブラインを介してクールシールユニットに戻る.この注射用水の循環システ ムをクールシールシステムと呼ぶ.- 25 - 図1.9 メカニカルシールの構成 メカニカルシールは血液ポンプの軸周りの血液の漏洩を防ぐ.回転するシールリン グの摺動面と,固定するシートリングの摺動面の間に潤滑液(クールシール液)を強 制的に供給することで良好な潤滑状態を保ち,血液の侵入を防ぐ.シールリングの SiC とシートリングの焼成カーボンの組合せは一般産業用途で実績があり,低摩耗か つ生体適合性に優れた材料である.
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流量性能
定常流ポンプの流量は,回転数と揚程(ポンプ入口と出口の圧力較差)により決定 する.ポンプ性能は一般的に,流量と揚程の関係(HQ カーブ)で示される. EVAHEART の血液ポンプの流量性能を図 1.3(b)に示す.HQ カーブは非常にフラ ットであり,10-30mmHg の低揚程域においては 20L/min 以上の流量を駆出すること が出来る.収縮期に左心室内圧力と大動脈圧力の差が小さい時期において大きい流量が 駆出され,拡張期に左心室内圧力と大動脈圧力の差が大きい時期において流量が最小と なり,そのポンプ性能からその流量差が大きくなる. このフラットなHQ カーブの特性は,一心周期内において流量の変化が大きく,拡 張期と収縮期に同期した拍動流が駆出されることである.臨床実績
臨床試験の18 例を含め,2014 年 12 月までに国内で 131 例で使用されている.対 象患者は移植適格のある患者で,NYHAⅢまたはⅣの心不全患者である.この結果は 1 年生存率が89.2%,2 年生存率が 83.5%,3 年生存率が 76.6%,4 年生存率が 67.0%, 5 年生存率が 67.0%である.INTERMACS の報告と比較すると,生存率が上回ってい る.- 27 - 図1.10 EVAHEART LVAS の生存率 EVAHEART の装着患者は,装着後 1 年生存率 89.2%,2 年生存率 83.5%,5 年生存 率67.0%である.臨床成績は国内のみの数値である. 0 1 2 3 4 5 0 20 40 60 80 100 補助期間 生 存 率 131 100% 110 93.6% 98 89.2% 67 83.5% 15 76.6% 4 67.0% 3 6 Remaining at Risk 生存率
*1:「Sixth INTERMACSannualreport:A10,000-patient database」 The Journal of Heart and Lung Transplantation, Vol 33, No 6, June 2014
*1
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本研究の構成
本研究においては,まず,植込み型補助人工心臓に求められるニーズとして,最も基 本的な機能である耐久性に着目する. 株式会社サンメディカル技術研究所にて開発された遠心ポンプ型補助人工心臓 EVAHEART について,臨床使用に対して十分な耐久性があることを確認する.本研究 において実施した耐久試験は,補助人工心臓 EVAHEART が臨床使用を開始する前に 開始した試験であり,前臨床試験として実施した. 耐久性試験の第一の目的は,補助人工心臓 EVAHEART が,生物学的に妥当な拍動 流や圧力の条件下で,確からしさ90%において,2 年の運転期間で 80%以上の信頼性 を持つことを証明することである.このため,拍動負荷を再現する試験装置に接続して EVAHEART の長期連続運転を行い,故障が発生する確率を確認する.耐久性試験の第 二の目的は,補助人工心臓EVAHEART の長期連続運転を行い,発現する故障モード, あるいはその兆候を確認することである. この試験を通じて,初めて臨床に応用する植込み型補助人工心臓について長期間使用 した場合の機器の挙動や劣化の徴候などを確認することで,その後の臨床使用をより安 全に実施することが出来るよう知見を積むことが出来ると考えられる. 本研究の次の目的は,第2 世代,第3世代の補助人工心臓として多く使用された軸流 ポンプ,遠心ポンプなどの定常流ポンプのポンプ性能が,末梢循環にどのような影響を 与えるかを確認するため,腎動脈の流量に着目して動物実験を行う. 補助人工心臓に用いられる血液ポンプの流量特性は,いわゆる圧流量曲線(HQ カー ブ)で表現される.血液ポンプの翼形状やケーシングの形状,直径やポンプ前後の管路 の内径など,いくつかの重要な設計要素がこのHQ カーブを特定する.本研究では,血 液ポンプの内部抵抗を変えることを模擬し,一つの血液ポンプを使用しながら異なるポ ンプ性能を変えることを実現し,異なるポンプ性能が動物の循環に与える影響を確認し た. また、理論的には血液ポンプの動作点はHQ カーブの上を動くが,実際は血液ポンプ の動作点はHQ カーブの周囲でループを描く.このループは,血液ポンプの流体力学的 な負荷に対する血液ポンプの制御の仕様やモータの特性によって異なる.本研究では, モータの制御仕様を変えることによりこのループを意図的に変更することを実現した. 本研究では,この動作点の挙動が血行動態に与える影響を急性動物実験で確認する.- 29 -
第
2章 補助人工心臓 EVAHEART の耐
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緒言
植込み型左室補助人工心臓(Left Ventricular Assist System: LVAS)は,長期の移植待 機を想定した Bridge to Transplant(BTT),また移植を前提としない Destination Therapy(DT)を適用として使用される. 最近のLVAS の技術革新により LVAS の安全性・有効性は向上し,BTT を目的とし た使用では,移植前にLVAS を装着した患者の死亡率は,VAD を装着しなかった患者 の死亡率と比較して差は無く,1 年生存率は,移植した患者の 1 年生存率に迫っている. 29) また最近は,移植適格の有無を判断する前にLVAS を植込み,植え込んだ後に移植も 含めて治療方法を考えるBridge to Decision(BTD)という治療戦略も普及した.より 長期で多様な治療方法が普及してきた背景には,デバイスの信頼性が向上し,また臨床 現場で広く認められてきたためと考えられる.30) LVAS は患者の血流を維持する機能を担うため,LVAS が故障で運転停止することは 患者の重大な健康被害に直結する. 特に体内に植え込まれるコンポーネントは修理や交換に手術を伴うため,2,3年間 の連続駆動で故障することは許されない.前臨床試験の段階で,LVAS は in vitro で十 分な耐久性があることを確認する必要がある31)32).従来,デバイスの耐久性試験は,前 臨床試験として特定の期間,信頼性,故障の発生しない確率を求めてきた.
National Clinical Trial Initiative Subcommittee の recommendation では,移植を 前提としない恒久使用(Destination therapy:DT)の臨床試験を開始する前に,1 年 間で信頼性(Reliability) 0.8,確からしさ(confidence level)が 0.6 が妥当であると
述べている33).しかしながら,1 年間の耐久性試験では不十分で,過去の第一世代の試 験では2 年目に故障が多発するという例も見られた(HeartMate XVE).前臨床試験で は,なるべく実使用に近い負荷をデバイスはこの信頼性を確保し,証明することは必須 である.34) 現在,多くのデバイスが前臨床試験を終えて臨床で使用されるステージに移り,長期 間使用される中で,耐久性試験の目的としては信頼性の数値を証明するという目的のみ ならず,どのようなデバイス故障が起きるのか,その兆候がどのようなものであるのか を知ることが重要となる.
目的
本研究の第一の目的は,補助人工心臓EVAHEART が,確からしさ 90%で,生物学 的に妥当な拍動流や圧力の条件下で,2 年の運転期間を完遂する信頼性が 80%以上であ- 31 - ることを証明することである. 拍動負荷を再現する試験装置に接続して EVAHEART の長期連続運転を行い,故障 が発生する確率を確認する. 本研究の第二の目的は,補助人工心臓 EVAHEART の長期連続運転を行い,発現す る故障モード,あるいはその兆候を確認することである.
試験の概要
非定型試験の選択
補助人工心臓の血液ポンプは体内に植え込まれ,生命維持装置として常時補助循環を 行うことを目的としたデバイスである.故障による停止は許されず,メンテナンスのた めにポンプを一時停止したり,植え替えたりすることは事実上不可能である.血液ポン プが運転停止することを許容しない,連続運転を前提とした耐久試験とすることが必要 である.ただし,血液ポンプを駆動制御する外部システムについては,臨床使用と同じ メンテナンスを行う. 一般の機械部品や電子部品の場合など,主要な故障モードが明らかになっており,そ の故障モードを惹起する負荷の種類が明らかな場合は,その負荷のみに着目した信頼性 試験ができる.また,その負荷が実使用で加えられるレベルとその影響が解っている場 合は,過酷な条件を設定し,時間や負荷の条件を変えた加速試験ができる.今回, EVAHEART の血液ポンプについては試験開始時には臨床使用は行われておらず,故障 の実績がなかった.新規性が高い製品や,フィールド情報が少なく故障モードや故障メ カニズムが明確でない製品,構成要素間の相互作用や波及故障が問題になる機械系のよ うな製品,さらには故障の発生確率が低いうえに複合故障が問題になる製品については, 実際の条件をシミュレートした非定形の耐久性試験が行われる.35) EVAHEART の血液ポンプは,例えばメカニカルシールでは回転数が大きい方が潤滑 膜に生じる圧力が大きくなり,摩擦が少なくなる一方で消費電力が高くなり,発熱など が生じて他に影響を与えうる.さらに,メカニカルシールのかじりや焼き付きという偶 発故障については,回転数がどのように影響するかは分からない.よって,一つの要素 に着目した過酷条件を設定するのではなく,システム全体の負荷を考えて実際の条件を 模擬するのが妥当と判断した. 非定形の耐久性試験は,実際の駆動状態をシミュレートする装置が難しい,加速しな いため実働と同じ時間をかける必要がある,試験の実施や維持管理の工数が掛かるなど の問題がある.しかしながら本試験は,生命維持装置である補助人工心臓の血液ポンプ が試験対象であり,実際の仕様で故障が起きた場合に患者の生死に影響をするため,今- 32 -
回の耐久試験は実際の条件を再現した連続運転試験とした.
目標とする信頼性
植 込 み 型の デ バイス の 信 頼性 の 目標と し て ,National Clinical Trial Initiative Subcommittee の recommendation では,移植を前提としない恒久使用(Destination therapy:DT)の臨床試験を開始する前に,確からしさ(confidence level)が 60%で, 1 年間で信頼性(Reliability) 80%以上あることが妥当であると述べている 33).国内
のガイドラインとしては,平成19 年の経済産業省から発出された体内埋め込み型能動
型機器分野(高機能人工心臓システム) 開発ガイドライン 200734)によれば,「耐久性
試験の試験条件と期間については,最低限 80% reliability, 60% confidence level で 6
ヶ月 の試験が必要であるが,国際ハーモナイゼーションの観点も勘案し,80%
reliability, 80% confidence level で6ケ月以上の試験について検討することを推奨す
る.」との記載がある.
日本での移植待機期間が長いことから,運転期間を2 年とし,国際的なガイドライン
に目標を定めて確からしさ(confidence level)が 60%で,2 年間で信頼性(Reliability) 80%以上あることを目指し、これを上回る確からしさ 80%で信頼性 90%を目標とした.
信頼性の数値
これらのガイドラインは共通して,ある期間中に発生する故障の分布が二項分布 (binomial distribution)であることを仮定している.二項分布によるデータ解析は, サンプル数が少なくまた故障数が少ないことが予想される場合に用いられる. 信頼性の統計解析において,信頼性(reliability)とはアイテムが与えられた条件の 下で,与えられた期間,故障せずに,要求できる遂行できる能力のことと定義される. 36) また,確からしさ(confidence level)は信頼水準のことであり,同じ母集団からサン プルを繰り返し抽出する場合に母数が含まれる区間のパーセントを表す. 二項分布は,信頼性がp の製品に対して,サンプル数 n でこの試験を実施し,f 個の 不合格と(n-f)個の合格を結果として得る確率を表す.確からしさを C とすると,以 下の式が成り立つ.31),37), 38) 1 − C= �𝑘𝑘! (𝑛𝑛 − 𝑘𝑘)! (1 − 𝑝𝑝)𝑛𝑛! 𝑘𝑘𝑝𝑝(𝑛𝑛ーk) 𝑓𝑓 𝑘𝑘=0 C:試験の確からしさ(confidence level) p : 信頼性(reliability) (2.1)- 33 - f:故障数 n: 試験のサンプル数 例えば,サンプル数を8 として 1 年の信頼性試験を行い,試験プロトコルが定める故 障がなかったと仮定する.上記の式でn=8,f=0 を入れ,また製品の信頼性を 80%と仮 定すると, 1− C = 𝑝𝑝𝑛𝑛 = 0.88 = 0.167 C = 0.83 となる. 本試験では,80%の確からしさで 90%以上の信頼性があることを証明することが目 的である.1 台の故障を許容する場合は,式(1)に p=0.9,f=1 を代入して C が 0.8 より も大きくなるn を求めると,18 以上のサンプル数が必要となる.表 2.1 にサンプル数 18 の場合について故障数を変え,確からしさを計算した結果を示す.
試験サンプル
EVAHEART LVAS
7),8)のリスク分析結果
EVAHEART LVAS の機器説明は,前章に記載した通りである. 前述の通り,血液ポンプの内部は血液ポンプ室とモータに分かれる.血液ポンプ室に はインペラが配置され,モータから延びる回転軸に接続されている.回転軸とポンプの 基部の間には,血液用メカニカルシールが配置され,血液がモータへ漏れることを防い でいる. また,コントローラにはクールシールユニットと呼ばれるコンポーネントが内蔵され る.このクールシールユニットから経皮貫通ドライブラインを通じて血液ポンプに純水 を循環させている. 純水は血液ポンプ内のメカニカルシール,軸受に潤滑液として供給され,これらの機 械部品の駆動を安定させている.EVAHEART の血液ポンプのメカニカルシールは,良 好なトライボロジー特性をもつセラミックスの水潤滑を用いている 39 ).想定される動 作範囲内では流体潤滑が保たれるよう設計しており,故障の発生頻度は極めて低いと考 えられる. しかしながら ISO14971 リスクマネジメントの手法に基づきリスク分析を実施した 結果,この血液ポンプの構造において,壊滅的な故障モード(Catastrophic Failure Mode)として類推されるのが,メカニカルシールの密封性能低下,異常摩耗などである- 34 - (表2.2).
材料は非常に良好な潤滑性能と耐久性を持つものとして一般的に知られているが,実 際の使用環境を模擬した負荷を与えて耐久性を確認する必要がある.
- 35 - 表2.1 サンプル数 18 の場合の確からしさ サンプル数 n 故障数 f 信頼性 80% 信頼性 90% 信頼性 95% 18 0 0.914 0.880 0.847 18 1 0.843 0.801 0.762 18 2 0.777 0.731 0.690 表2.2 リスク分析による重大な潜在的故障 部位 故障モード 影響 発生リスク メカニカルシ ール 摩耗による密封異常 血液ポンプ交換 重大 焼き付き・かじり 血液ポンプ停止 重大 割れ 血液ポンプ停止 重大 面荒れ 予定外のメンテナンス・頻 度向上 重大 軸受 割れ 血液ポンプ停止 重大 人工血管 連続的な体動による開孔 出血 重大 接続部漏れ(O リング劣 化) 出血 重大 モータ 浸水による腐食 血液ポンプ停止 重大 O リング 劣化 出血・血液ポンプ交換 重大 ドライブライ ン 断線 血液ポンプ停止 重大 劣化 血液ポンプ交換 重大
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被験物
本試験において使用される血液ポンプは,管理された製造工程を通して臨床用と同様 に製造されたものとする. 製造工程では,部品受入検査の一つとしてメカニカルシール摺動面の表面粗さ測定, 出荷前検査の一つとして血液ポンプの流量性能検査,メカニカルシール密封性能検査が 行われる. 試験開始当初は,前述の通り試験数は18 とし,1 台故障したとしても目標の信頼性 が得られる数とした.また,試験開始後2 年経過した時点で故障の兆候が見られなかっ た場合,6 台を継続して運転することとした. また,試験対象は血液ポンプとし,コントローラなど駆動装置は含めない. コントローラ,バッテリなどは,温度環境や電気的負荷などを最悪条件に設定できな いため試験対象としなかった.これらはそれぞれのコンポーネントごとに最悪条件を設 定し,別に試験を実施し,耐久性を確認した.試験装置
拍動負荷試験装置
試験装置は,主に左心室と大動脈を模擬したメインループと,血液ポンプを含むバイ パスループから構成される. メインループは,左心室を模擬したLV チャンバ,大動脈を模擬したコンプライアン スチューブ,左心房を模擬したLA チャンバから構成される. LV チャンバには往復動モータにより駆動されるピストンと 2 つの弁が取付けられ, 拍動流を吐出する. 前負荷はLA チャンバの水頭圧によって与えられ,また後負荷は装置自体の高さによ る水頭圧とバルブによる管路抵抗によって与えられる. コンプライアンスチューブにはシリコンチューブを3 本配置し,大動脈のコンプライ アンスを模擬している. LA チャンバには,ヒーターが付設され,動作流体の温度を保っている. バイパスループは,人工血管を模擬した管路で左心室から血液ポンプ,大動脈へと 接続する.血液ポンプは37℃に保たれた生理食塩水に常時浸漬される. またこのループにおいて,ポンプ流量(PF),メインループの流量(TF),左心室圧力 (LVP),大動脈圧力(AoP)を計測する. 血液ポンプは,経皮貫通ドライブラインを介してコントローラに接続される. コントローラは,10 分ごとに回転数,電流値の最大値,最小値,また 10 分毎の時点- 37 - での計測値を記録する. 記録されたデータは,コントローラに接続されたPC に定期的にダウンロードし,記 録される. リニアモータは専用のコントローラに,外部入力信号を入れることで駆動制御を行い, ストロークボリューム,拍動数,Systol %を制御することが出来る.外部入力信号は, LabVIEW で作られた専用のソフトウエアから入力される. それぞれのモックループには,流量計,圧力計が備えられている.流量計はスイッチ 基板を解して流量計本体に信号を送り,流量計本体は専用ソフトウエアにデータを送る. 流量計は,各モックループともに1 日に 3 回,30 分ずつ測定を行う. 動作流体のLAチャンバと,胸腔チャンバの中に熱交換機と温度計が取り付けられる. 熱交換器は電磁弁を備えた温水配管で,温水タンクから常時 45℃に加温された水が循 環されている. EVAHEART のコントローラから収集されたデータ,流量・圧力のデータは,サーバ に保存される.
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図2.1 耐久試験装置図
18 台の試験装置を 1 室に配置した.装置から自動的に取得されたデータは,別室の サーバに保存される.
- 39 - 図2.2 耐久性試験装置概略図 試験装置は,主に左心室と大動脈を模擬したメインループと,血液ポンプを含むバイ パスループから構成される. メインループのLV チャンバには往復動モータにより駆動されるピストンと 2 つの弁 が取付けられ,拍動流を吐出する. LV チャンバ底面にバイパスループが接続し,血液ポンプを通じて大動脈弁の直後ま でループが続く.血液ポンプは拍動負荷を受けながら,流れを駆出する.