「朝の女王と精霊たちの王ソリマンの物語」における旧約聖書的モチーフについて
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(2) 甲南女 チ大学 大学 院論 集創刊 号. 文学 ・文化研究編 (2003年 3月. ). 恵 の豊 か さ,広 さ,鋭 さは主か ら授 か った と しか言 い. よ リー 層 , ソ ロモ ンの卓越 した知恵 と繁栄 が浮 き彫 り. よ うの ない ものだ ったc聖 書 の 中 で 彼 の 名が冠せ られ. に され た と言 える。 一 方 ,ア ドニ ラムは ダ ビデの治世. て い る詩編 やそのす べ てが彼 自身 の作 で はな く,後 世. 末期 か ら「徴 用者 の長」. の作 に彼 の 名 を付 けた もの も多 い 歳言 ,伝 道 (ユ レヒ. ンの死 後 , イスラエ ルの分裂 に よる王 と民衆 の仲裁 の. ト)の 書 ,雅 歌 ,知 恵 の書 な どを見 て も彼 の卓 越 した. ため に派遣 され ,殺 される こ ととなった人物 で あ った. 知恵 と才能 は明 らかで あ るcま たその公正 な裁判 に よ. が ,そ れ以上 の記載 は見当 た らない 。 ところで ,ネ ル. って民衆 か らも信頼 を得 た とされ る一 方 で ,非 情 とも. ヴ ァルが 東 方旅 行 に携 行 した と され る 『東 方 紀 行 覚. 言 える程 ,次 々 に 自分 の 反対者 を殺 し,地 位 を安定 さ. 書』 の 中に 「 ソ ロモ ンの分 身 , ドウブ ル ,彼 の最 良 の. せ ,国 家的 な改 革 を進 め ,貿 易 の手腕 もふ るった と言. 部分 が もう一 方 (対 称 的存在 の 数 々)を 鼓舞 しようと. われ て い る。そ の 知恵 と 20年 の 歳 月 をか け た宮 殿 と. す る」. 神殿建設 とい う偉業 に よつて イス ラエ ル を繁栄 させ. ロモ ンとそ の 分 身 の物語 を想 定 して い た よ うだ。 しか. ,. 4と. 5と. して仕 えた とされ ,ソ ロモ. 記 されて い る ように,ネ ル ヴ ァルは始 め は ソ. 「ソロモ ンの 栄華」 とい う言葉 が あ る程 ,後 世 に名 を. し決 定稿 で は,ソ ロモ ン と分 身 との距離 を聖 書 や東洋. 馳 せ た人物 であ る。 シバ の女王 は,こ の遠 く東方 ,エ. の伝説 を用 い る こ とに よってはか り,オ リジナ ル な人. ジプ トに まで伝 わ った ソ ロモ ンの 名声 と知 恵 を 聞 い. 物 を作 り出 した と思 われる。 さらに物語 を語 るイ ス タ. て ,難 間 に よって彼 を試 み ようと,現 在 のサ ウジ ・ ア. ンブールの講談 師 たちを次 の よ うに設定 した。. ラ ビアの 中心部 にあたる シバ か ら二 千 キ ロ も離 れ たエ ルサ レムにや つて来 た。乳香 ,没 薬 ,肉 桂 な ど当時 の. (..。 )ils arrangent et d6veloppent un sttet trait6 dqa de. 人 々が欲 しが っていた 品 々の特 産地 ,ま た通商路 であ. divcrses maniё re.ou bnd6 sur d'anciennes 16gendes.(.…. った南 アラ ビア を支配 して い た シバ は,巨 大 な富 を有. Il s'agissait cette fois d'un roman destin6)peindre la gloire. して い た。 この 国 の女王が ソ ロモ ンを訪 問 したの は. de ces antiques associations ouvriёres auxquelles l'Orient a ,. 交易 の交渉が 目的 とされて い るが ,個 人的 な興味 もあ った とされて い るc聖 書 には. ). ,. donn6 naissance。. (p.671). これ に よ り,聖 書 や イ ス ラ ム ,そ の 他 の い ろ い ろ な伝. シバの女■1は ソロモ ンの うわさを聞 き,な ぞをつかっ て彼 を試そうと思 い,旅 に出た。香料 とL二 額 の黄金 宝石 をのせた数多い らくだを連れて,彼 女はエルサ レ ,. ムに着いた。げJi二 記 11 10.1-4). 説 伝 承 を 自由 に変 形 させ る こ とを可 能 に し,聖 書 の ソ ロ モ ン (salomon)は 「精 霊 達 の 」 prince des g6niesと い う形 容 詞 を つ け た ,魔 法 の 指 輪 に よ っ て 人 間 ,精 霊 ,自 然 を 自 由 に 扱 う ソ リ マ ン (SOliman)と な っ た 。 シ ェー フ ァー は ,こ の 固有 名詞 の 使 い 分 けで聖書. と記 されて い るが ,謎 を解 くこ とは,ア ラ ビア 人 の教 3そ. 養 の ひ とつ で もあ った. して ,女 王 は ソロモ ンの 知. 恵 と彼 の建 てた宮殿 の壮麗 さ,豪 華 な食事 ,列 座 の 家 来 たちの礼 儀作法 や ソ ロモ ンが 神殿 で捧 げた烙 祭 (供 え られ た動物 を祭壇 で全 部焼 いて神 に捧 げる こ と)の ヽ を奪 われ ,か つ てな い ほ ど 亡 厳 か さ,そ れ らす べ て に′ の金 と香料 と宝 石 をソ ロモ ンに贈 った とされて い る。 また,聖 書 には女王 の 名 は記 されて い な いが ,エ チ オ ピア にはエ チ オ ピァ王朝 の権威付 け のため に創作 され. の 人物 か ら ネ ル ヴ ァル 固有 の 人物 へ 転換 され た と述 べ て い る 。 そ して ア ドニ ラ ム は ,聖 書 通 りの 徴 用 者 の 長 と して の 人物 と聖 書 の 中 の 別 の 人物 が 合 成 され誕 生 し た 。 も う一 人 の 人物 は聖 書 で は 次 の よ う に記 され て い る。. ソロモ ンIは 人 をや って ヒラム をテ ィロか ら呼 んだ。 この 人は ネフタ リ族 の あるや もめの虐、 子 であ り,父 親 はテ ィロ′ 11ま れの青銅細 I師 であった。 ヒラムは知恵 も知 F哉 もす ぐれ,青 銅細 工 につい て も熟練 して い たの. た この物語 の エ チ オ ピア版があ る。女王 の 名 はマ ケ ド. で,ソ ロモ ンの もとに来て,注 文 を受 けた仕事 をや り. と言 い ソ ロモ ンの 子 を連 れ て 帰 った こ とに な って い. とげた。 (ダ J■ 1言 己上 7.13-14). る。 イ ス ラム教徒 の 中 に もアラ ビア版が あ り,名 はバ ルキス となって い るcい ずれ に して も,こ の物語 が 作. ヒラムは また青銅 を鋳 て 海 を造 った。 (列 王記 上 7.. 成 され る歴 史的背景 は実証 されて も,物 語 そ の ものは. 23). 歴 史的事 実 を述 べ た もの で は な い 。 しか し,後 世 の 人 々の好奇心 を刺激 し,ユ ダヤ教 ,キ リス ト教 ,イ ス. この 人物 は, ダ ビデの友 人であ ったテ イロの王 ヒ ラム. ラム教 とそれぞれの 世界 で独 自の 展 開が された こ とで. が神殿建設 の ため にソ ロモ ンに仕 え させ た王 と同名 の.
(3) 高橋. 典子. :「 朝 の女王 と精霊たちの王 ソ リマ ンの物語」 における旧約聖書的モチーフについて. 37. 青銅細 工 師 ,神 殿 の建築家 ヒ ラムで あ り,最 高 の賛辞. しか しネ ル ヴ ァルは聖 書 の記述 とは異 な った姿 を描 き. をお くられ た と され て い る。 こ う して 「徴 用者 の 長」. 出す。. であ るア ドニ ラムは高 い 能力 を持 った青銅細 工 師 に も な った。 またア ドニ ラムは フ リー メー ソ ンの 開祖 と考. Soliman interpr`ta sans broncher les trois 6nigmes, grace au. え られて い る人 物 で もあ る。 メ ー ソ ン団員 が 「親 方」. grand pretre sadoc, qui, la veille, en avait pay6 comptant la. の位 に就 く儀式 にお い て再現 され る「 ヒ ラム伝 説」 を. sdu● on au grand pretrc des sab6ens.い. 。682). ネル ヴ ァルはほぼ原型通 りに組み入れ て い る。 この結 社 の理想 的 な建築物 で あ るソ ロモ ンの宮殿 の建築者 で. 判 じもの を解 き,文 字遊 びを解 明す る才能 にかけては. ドニ ラム)の 伝. 誰 よ りもた け て い た ソ リマ ン も,今 は そ の よ うな こ と. 説 は メ ー ソ ン伝 説 の 中 で も象徴 的 な意 味 を持 って い. も諦 め な くてはな らなか った。 しか し王 としての体面. る。 こ う して少 しず つ ,聖 書 の世界 に さまざまな宗教. を保 たなければな らない ソリマ ンには,シ バ 人達 の大. あ り,悲 劇 的 な死 を とげ た ヒ ラム. (ア. の 要素 が加 え られて い く。 以上が聖書 の 中 の 人物像 で ある。 ソ ロモ ンは偉大 な 人物 で あ り,そ の王 国 に仕 えるア ドニ ラム,そ して ソ ロモ ンを訪 問 し,彼 の素晴 ら しい 世界 に圧 倒 され るシ バ の女王 とい う関係 となって い る こ とをお さえ,続 く. 2章 で はネル ヴ ァルが これ らの人物 を どの よ うな形 に 変化 させ描 い てい るか をみて い きた い と思 う。. 祭司 に答 の代 金 を支払 う とい う手段 しか残 って なか っ たのであろ う。彼 を取 り巻 く廷 臣達 につい て もネ ル ヴ ァルは大祭司ザ ドクか らベ ナヤ まで ほぼ ,旧 約聖書 に ・。 列挙 され て い る人 物 を同 じように取 り入 れ て い る しか しどの者 もみ な椰楡 され ,ベ ナヤ にい た っては ≪ presquc idio》. ,. (p.681)と 評 され て い る。そ して ア ド. ニ ラ ム が 女 王 の 望 み に よって 十 万 もの 職 人 を集 め た 時 ,は じめ て「民 衆 の 存 在 が ソ リマ ン に 明 らか に さ. 第. 2章. 無 力 な る ソ リマ ン. れ」 自分 には無 力 で きらびやか な僧侶 や廷 臣達 のお供 しか い ない ことに気付 く。そ して放心 した彼 は こ う自. ア ドニ ラムが 『東方紀行』 の数 々の挿話 の中で,唯. 問す るのであ る。. 一の成功者 として登場する一方,ソ リマ ンと名 を変え たソロモ ンはネル ヴァルの書 く主人公の中で と りわけ 負 の部分 を背負 っているように感 じられる。 まずその 風貌についてみていこう。. ≪Quel est dOnc,se demandait Soliman reveur,ce mortel qui soumet les holrlines coml■ e la reine conllnande aux habi―. tants dc l'air?... Un signc dc sa main fait naltrc dcs arII16cs; mon pcuple cst a lui, ct ma donlination sc voit r6duite a un nlis6rable troupeau dc courtisans et de pretres.. Solilnan 6tait alors au retour de l'age; mais le bonheur, en. Un mouvement dc ses sourcils le ferait roi d'Israё. gardant ses traits dans unc perp6tucne s6r6nit6, avait 61oign6. 699). l.》. (p。. de son visage les rides et les tristes cmpreintcs des passiOns. profondes;(p.680). 歳老 い た彼 か らは王の威厳 はもはや感 じられず ,そ れ どころか,全 身を金 で飾 り立て,威 厳 を作 ろ うとして も,逆 に滑稽 に しか見 えない。聖書 に記 されて い る 「賢者 ソロモ ン」 の名 に相応 しくかつ ては名 だたる聡 明さを持 っていたであろうソ リマ ンは,そ の風貌 にお いて も,中 身 において も衰える一方 であ り,あ るのは 虚栄心 の強 い俗人の姿 だけである。女王が彼 に出 した 謎について,聖 書 の 中では次 のように記 されてい る。. 人民 の存在 を見せ つ け られ ,ソ リマ ンは 自分 が全知 で あ る と信 じなが ら,人 民 の存在 に気付 か なか ったばか りか ,人 民 がみ なア ドニ ラム に仕 え,ア ドニ ラムが 少 し眉 を動 かせ ば ,自 分 の代 わ りにイス ラエ ルの王 とな り得 るこ とを悟 らされ ,自 分が孤独 で あ ることに気付 か され るのであ る。 そ して 自分 の教義 の 中で ,人 に働 つ くこ とを勧 め ,怠 け者 を非難す る一 方 で 『伝道 の書』 で は「 この世 の労苦 か ら人は どんな利益 を受 け るのだ ろ う」 と働 くこ とを否定 して い る こ との矛盾 をシバ の 女王 に突 かれて い る。 こ うい った一 連 の ソ リマ ンの教 義 につい て もネ ル ヴ ァルは聖 書 を引用 しなが ら例 えば. ソ ロモ ンの 前 に出 た彼 女 は,心 に抱 い て い たす べ て の こ とを 質 問 した。 ソ ロモ ンは彼 女 の 問 い にす べ て 答 え た。王 に 説 明 で きな か っ た 難 問 は 一 つ と して な か っ た。 (列 王記上 lo.2-3). 次 の よ うに手 を加 えて い る。 (下 線 は引用者 に よる) “ Jouissez de la vic avec les femmes pendant tous les jours de votre vie; car c'est la votre partage dans le travail",.
(4) 38. 甲 南女 子 大学 大学 院論 集 創 刊 号 ^. 文学 ・文化研究編 (2003年 3月. ). etc.Vous y revencz souvent,D'oむ j'ai conclu qu'il vOus. そ して ,ソ ロモ ンの 権 威 も失 墜 し,主 が 言 わ れ た 通. sicd dc mat6rialiser votrc pcuplc pour corllrnander plus sOrc―. り,彼 の死後王 国 は分裂 を始 め る。 この よ うな ソ ロモ. ment h dcs csclaves.(p.684). ンの姿 を次 の よ うな姿 で ソ リマ ンに投影 させ て い る。. これ は,『 伝道 の 書』 第 9章 9節 か ら引 用 され て い る. Avidc d'honncurs, de puissancc et de volupt6s, Soliman. 部分 だが ,聖 書 で は この ようにな って い る。 (下 線 部. 6pousa cinq cents femmes,(.…. は引用者 による). )L'anneau dc Salomon lui. soulllit les g6nies, les vents et tous les anirnauxo Rassasi6 de. pouvoir et de plaisirs, lc sagc anait r6p6tant:《 Jouissez de la宙 e avec laた mme que vous aimez,pendant tous les jours dc votre vic passagё. re, qui vous ont 6t6. ailnez,buvez; lc reste n'est qu'orgueil.》 Et, contradiction, 6trange: il n'6tait pas heureux! ce roi,. donn6s sous lc solcil pcndant tout ic tcmps dc votrc vanit6;. d6grad6 par la matiё rc,aspirait a devenir immortel。. car c'cst l)votrc partage dans la vic et le travail qui vous. 769-770。. excrcc sous le soleil。. Mangez,. … (pp.. ). 8. 下線 部 にあ る よ うに,「 女性 達」 で は な く,「 愛 す る 妻」 と楽 しく暮 らす ように と聖 書 は説 い て い る。 しか しネル ヴ ァルは ソ リマ ンが 人民 を物 質化 して ,奴 隷化 し,享 楽的 な生活 に浸 らせ るこ とに よって容 易 に人民 を支配す る こ とがで きるだろ う とい う ソ リマ ンの考 え を,バ ルキスの 口 を借 りて批判 して い る。民 を物 質化 す る こ とは機械 的 な生 を産み ,民 を命令 に従 うだけの 奴隷 とす る ことは ,結 局 は王 と しての孤 立の現 れ とな る。 さらに もう一 点 ,今 度 は聖書 の 中 の ソ リマ ンの 負 の部分 につ い ては次 の ように用 い て い る。聖書 の 中 で ソ ロモ ンは,エ ジプ ト王 ファラオの娘 を妻 に迎 えて い たが ,こ の他 に異 国 の女達 を多 く愛 した。後宮 の存在 は,当 時 の風習か らい って それ ほ ど悪 い こ とで はなか ったが ,異 邦 の女 た ち と共 に異 邦 の神 々,つ ま り偶像 が 入 って来 た こ とが 問題 であ った。. 彼 は死 を恐 れ るあ ま り,女 王 か ら与 え られた指輪 の力 を借 りてあ らゆる精霊 たちを支配 し,不 死 の力 を得 よ う と試 み る。 カフ山 に置 かれた王座 に腰 を降 ろ した彼 は ,こ こで 全宇宙 の精霊達 の力 を借 りようとす る。 し か し精 霊達 が 守 り続 けた の は ソ リマ ンの 身体 に過 ぎ ず ,永 遠 の 命 を創造 したわ け で は な い。 そ の 後 ,224 年 もの 間 ,髭 を伸 ば し,爪 を伸 ば し続 けた彼 は「死 の 中 の 眠 り」 に入 った と言 われ ,最 後 には こ な ダニ によ って そ の 身体 をむ しば まれ続 け ,つ い に王座 か ら くず れ 落 ちた。 ソ ロモ ンの死 につい て聖 書 で は「 ソ ロモ ン はエ ルサ レムで イス ラエ ル全土 を四十 年 にわたつて治 めた。 そ の後 ソ ロモ ンは先祖 とともに眠 り,父 ダ ビ ド の 町 に葬 られ た。虐、 」 子 の ロ ボ ア ム が 王位 を継 い だ。 (列 王記上. H.42-43)と だけ しか記 され て い な い。. この 晩年 の 姿 につ い て ,1851年 に作 品が 二 巻 本 で 出 版 された際 ,資 料 的 に巻末 に付 け られた補遺 の 中 では. ソロモン:11は ファラオの娘 のほかに異国の 女を多 く愛. 次 の ように述 べ られて い る。. した。モ アブ,ア ンモ ン,エ ドム,シ ドン,ヘ トの 女 たちであった。主はこの女たちについ て,「 お まえたち はこの女 たちに近 づ いては な らない。その 女たち もそ. Lc Coran attaquc ausssi fr6quemment l'orgucil et les irn― pi6t6s du roi Salomon dans la derniё. re partie de son rё gne。. 9). ば に こ させ て はな らな い」 とlrl]せ られ た こ とが あ つ. この一 文 は,ユ ダヤ教徒 の 中で 晩年 ソ ロモ ンが 多神教. た。その民 の 女たちであ った。「そ うしない と,お まえ たちは,そ の 女た ちの神 々 に心 を傾 ける ようにな る」. 徒 の妻 を要 った り,本 文 には出て こない が ,神 殿 に偶. と。それ なのに ソロモ ンはそ の 女たちに執心 した。 ソ. 像 を置 い た とされ る部分 が 否定 されて い る こ とを示 し. ロモ ンには七 百人の妃 と三 百人の そばめが いた。 この. て い る よ うに思 われ る。そ して ネ ル ヴ ァルは,聖 書 か. 女たちはIの 心 を惑 わ した。 (列 :li記 上. らで は な く,「 われわれが 彼 の 死 を定 め た とき,ジ ン. ‖.1-3). どもには,彼 の死 は教 え られ なか った。 ただ一 匹 の 虫 ソ ロ モ ンは 女 た ち の 歓心 を買 う ため に ,彼 女 達 の 言. が い て ,彼 の杖 を食べ た。 ソ ロモ ンが任1れ た とき,ジ. い な りに な り,シ ドン人 の 神 ミル コム ,モ ル ク,モ ア. ン どもは見 えない もの を見て い れ ば ,何 も恥 を しのん. ブ人 の 神 ケ モ ン等 々の そ れぞ れ の 拝 殿 を造 って や り. で 労 苦 に耐 え な くて もよか ったの に,と 思 った」nと. 自 ら も礼 拝 す る よ うに な つた 。 王 の この 態 度 に民 衆 た. 書 かれ て い る コー ラ ンの 34章 に ソ リマ ンの 晩年 の 姿. ちの 間 に も偶 像 崇 拝 が は び こ り,唯 一 の主 へ の 忠 誠 を. を写す るこ とに よって ,コ ー ラ ンの 中で予言者 か つ王. 立 国 の 精 神 と して い る イ ス ラ エ ルの 危 機 が始 ま った 。. として ,鳥 や動物 と話す超能力 を有 し,風 や ジ ンを操. ,.
(5) 高橋 典子 :「 朝の女王 と精霊たちの王ソリマンの物語」 における旧約聖書的モチーフについて. る叡智 を授か ったとす るスライマーン. (ソ. ロモ ン)も. 39. る。 ア ドニ ラム に とつての試練 とは,地 下 の 世界 に降. モデル に してい ることが伺 える。 これ らの ことか ら. りて行 き,そ こで 自分 の祖先 か ら啓示 を受 け る こ とで. ネルヴァルが ソロモ ンとい う聖書上の偉大な人物 を完. あ った。 この 試 練 は次 の よ うな段 階 を経 て 達 成 され. 全 に椰楡 し,卑 小 な人物 に変えて しまってい ることが. る。. ,. 見 て とれるだろ う。 ソロモ ンなる人物 は,そ の風貌. ,. 人格 ,能 力 において もすべ て魅力 の ない人物 とな り ,. まず ,ア ドニ ラムは幻 となって現 れた祖先 トバル=. 本来な らば彼 を讃 える存在 として登場するシバ の女王. カイ ン. (聖 書 の 中では鍛冶職人 であ り創世記 4.22で. の登場 によってます ます劣 った人物 となる。 この よう に「シバの女王 のエ ルサ レム訪問」 の話 自体 を変化 さ. は「青銅や鉄 のすべ ての刃物 を鍛 える者」 とされる に連れ られて「深 まりゆ く静寂 と闇の領域」へ と進ん. せ ることによってキリス ト教的な世界 をある部分 で否. で行 き,現 実世界 の東縛 か ら解放 され,次 のように感. 定 してい るのではないだろ うか, と考 える ことがで き る。ではア ドニ ラムの方 はどうであろうか。次 の 3章. じる。. ). Adoniram exhala un long et doux soupir: il lui semblait. でみてい きたい と思 う。. qu'un poids accablant,qui tottourS l'avait courb6 dans la. 第. 3章. vie,venait de s'6vanouir pour la premiё re fois.(p.719). 秘 義 入 門者 と して の ア ドニ ラ ム. ジルベール ・ルージュが 「正確 な題名はむ しろ 『朝 の女王 とア ドニ ラムの物語』 で あろ う」H)と 指摘す る ように,物 語 の正統な主人公 はア ドニ ラムと言える。 その人物像 は,次 のように描写 されてい る。 C'6tait un personnage sombre,myst6ricux。. (.… )son 6cla_. tant et audacieux g6nie le pla9ait au一 dessus des hommes,. て ソ ロモ ンの神殿建築 に専念 して い る。 そ のため寝 食 も忘 れ ,娯 楽 も宴会 の楽 しみ も放棄 して い る孤独 な職 人 と して描 かれて い る。そ して シオ ンの大地 に 「青銅 の 海」つ)と 呼 ばれ る 巨大 な水 盤 を鋳 造 しよ う と して い る。これ は,途 方 もない作業 で あ り《 un d6i du g6nic aux prqug6s hulmains,a la naturc, al'opinion des plus cx―. 7H)で あ り,ア. ,. 嫉妬深 い神 ア ドナ イの圧制 を逃 れて ,自 由 に暮 ら して い る世界 で あ る。 ここはア ドニ ラムが 現実 の仕事 か ら 解放 され ,自 分達 の祖先 と再会 し,自 分達 一 族 が不減 で あ る こ とを知 り,自 分達 が分 け合 っている運命 につ い て語 る こ とが出 来 る場所 である。 そ して ,次 にア ド ,. ア ドニ ラムは,夢 中 で想 をめ ぐら し,さ らに熱 中 し. (p。. ンとア ドニ ラムの共通 の先祖 で あ るカイ ンの一 族 が. ニ ラムは直接 カイ ンの 回か ら. qui ne se sentaient point ses frё res.(p.672). perts》. この地下 の世界 は「火 の聖域」 で あ り, トバ ル =カ イ. ドニ ラムの名 が 不朽 になる. か ,失 墜 させ る もの になるか は この仕事 の成否 にかか ってい る。青銅 の海 にそそがれ る溶銅 の流 れ を見 て シ バ の女王 は思 わず感 嘆 の声 をあげる。. (.… )Tu sais le reste;mais ce quc tu ignores,c'est que la r6probation d'AdonaT, mc condamnant a la st6rilit6, donnait pour 6pouse au jcunc Habel notre s∝ aim6。. (p。. ur Aclinia dont j'6tais. 724). と教 えられ,人 類 に知恵 を授 ける恩人であ りなが ら迫 害 を受けなければならないエ ブリス (サ タン)の 子 で あるカインの種族 と,無 能で高慢 なア ドナイの子孫 と の間に起 こった最愛 の女性 をめ ぐる争 いが,地 上で も 繰 り返 されることを知 る。 この地下世界 の住人達 とこ こで繰 り広げ られた最初 の争 い とは創世記 「カイ ンの アベ ル殺 し」 の挿話 を意味 してい る。兄弟が捧げ物 を. puissance du g6nic de ce mortel, qui soumet les 616mcnts et. した時,神 はアベ ルの供 え物 を心か ら受け入れ,カ イ ンの ものを顧みなか った。怒 ったカインは「弟 のアベ. dompte la nature!(… 。 )》 (p.715). ルにお そいかかつてアベ ルを殺 して しまった」 (創 世. 《Spectacle sublime! s'6crie la rcine de Sabao O grandeur! 6. 記 4.8)。 主は言われた。「何 を したのか。大地 か ら ,. を妨害 したため銅は鋳型か ら溢れだ し,工 事 は失敗す. 私 に向 か って叫 ぶお まえ の弟 の血 の音 が聞 こえる」 (創 世記 4.10)。 こ うして呪われる者 となった カイ ン. る。 ここか らネルヴァルは部下達 か らも見捨てられ. は「 じる し」 を付 けられて,エ デ ンか ら追放 され自分. 絶望 したア ドニ ラムに試練 を与 え「冥界下 り」 とい う 形 で火 の種族へ の秘義入門者 として登場 させるのであ. の子 の名前 をつ けたエ ノクの町で暮 らした。 この挿話 をネル ヴァルは地下世界 で再現 し,「 お前 の弟 アベ ル. ところが,工 事 の最後 の段階で三人の裏切 り者が作業. ,.
(6) 40. 甲南女子大学大学 院論 集創刊 号. 文学 。文化研究編 (2003年 3月. ). は どこにい るのか」 (創 世記 4.9)と い う主 の 問 い か. は ,自 らの 建 築 した 神 殿 に葬 られ ,残 され た他 の 職 人. Habel,mon ils,Habel,Habel!.… け の言葉 を 《. qu'as― tu. 、 の 親方達 は この殺害 の復讐 を′ に誓 う。 これは「死 と 亡. (p.724)と 養父 ア ダム に. 再生」 の真理 を秘 義伝授 に よって追求す る フ リー メー. fait de ton frё re. Habcl?._》. 語 らせ る一 方 ,≪ Lui aussi!(。. _)jam激 s. il m'a par―. ソンの伝説 そ の ものである。. donn6.― Jamais!。 …》 (p。 724)と い う神 と両親 に よる 不公平 と,最 愛 の妹 ア ク リニ ア を奪 われた こ とへ の嘆. 以上 の ように,ネ ル ヴ ァルは,聖 書 の 中 で は人物 と. きと,ア ベ ル殺 しの責 め苦 のため に大地 をのた うち ま. しては優れては い るが ,存 在 と しては決 して ソ ロモ ン. わるカイ ンの姿 を示 して い る。 そ して ,そ の子孫達 は. と対等 とは言 えない 「徴用者 の長」 で あ り,職 人であ. 神 に呪 われた種族 には違 い ない が ,地 下 の 世界 で は人. る ア ドニ ラ ム を カ イ ンの 裔 で は あ るが 罪 の 苦 さ の な. 類 に知 恵 を もた ら し,そ の 火 を守 り続 ける一 族. ラ. い ,自 らの運 命 を全 うす る秘 義 入門者 として描 い て い. デ ,メ ホヤ エ ル , レメク とい った)を 聖書 に出て くる. る こ とが 分 か る。 そ して地下の世 界 に聖 書 のモチ ー フ. 通 りに用 い なが ら描 いてい る。 こ う した地下で の争 い. を入れて い るが ,悪 としての 印象 はない 。 これ に よっ. は,才 能 にお い て勝 っていなが ら,地 上 で ア ドナ イの. て ネル ヴ ァルが ,単 にキ リス ト教 の否定 を して い る と. 無能 な僕 で ある ソ リマ ンに王 位 を譲 り,シ バ の女王 を. い う よ りは神秘主義 とい った異教 との混 合 に関心 を示. 奪 われ よ う として い るア ドニ ラム とソ リマ ンの 闘 い を. して い たので はないか と考 え られ るだろ う。 それで は. 意味 して い る。 そ して さらに トバ ル =カ イ ンは. 最後 にシバ の女王 バ ル キ ス につい て もみて い きた い と. (イ. 思 う。 (...)Les g6nies du feu viendront a ton aide; ose touti tu es r6serv6 a la perte de Soliman, ce fidё le serviteur d'AdonaT。. 第. 4章. 神 の暗示. (p.729). とア ドニ ラム に運 命 を成就 させ る よ うに励 ま し,一 本 の 槌 を与 え,そ れ に よ リア ドニ ラ ム は 失 敗 しか け た 「青銅 の 海」 を見 事 に完 成 させ る。 そ して ,同 じ「火 の子孫」 で あるシバ の女王 と結 ばれ る運 命 にあ る こ と を悟 り,次 の よ うに告 げる。 Balkis,cspnt dc lumiё rc,ma s∝ ur,mon 6pousc,cnin je. シバの女王 についても,聖 書 の中ではその容姿や人 柄 についてはあ ま り述べ られてい ない。 しか し,『 東 方紀行覚書』 の 中に「シバの女王が ソロモ ンの妃 とな るのが運命 の定 めだったのだ。 (最 も美 しい女性 と最 も賢い男 )」 日とあるように聖書 に出て くる「賢者 ソロ モ ン」 に相応 しい聡明で機知 に優 れた女性 として登場 する。聖書 の中では. vous ai trouv6e! Seuls sur la terre vous et moi, nous cornlnandons a ce messagcr ai16 dcs g6nies du feu dont nous. シバ の 女王 は ソロモ ンの知恵 ,そ の建 てた王 宮 ,そ の. sommes dcscendus。. 食卓 の料理 ,家 来 たちの住 まい,彼 らの奉仕 ,彼 らの. (p.741). 服装 ,給 仕 たち,主 の神殿 にささげる王の烙祭 を見 た. 対 す るバ ル キ ス も手 を差 し伸 べ なが ら ≪(.… )d'aprё s l'aFet du destin, il nc nl'est pas perΠ lis d'accucilir un. autre amour quc cdui d'Adoniram。 》 (p。 741)と 答 える. のだ。 こ う した試練 を経 て ,最 愛 の女性 を得 た入 門者 ア ドニ ラ ム も,最 後 の 試 練 を受 け な け れ ば な らな い。最 後 に,ア ドニ ラムは親方 の給与 を得 よ う と試 み た三 人 の 裏切 り者 に よって殺 されて しまうが ,種 族 としての永. 時,虐 、 絶えんばか りに驚 き,王 に言 った。「 (.… )あ な たの知恵 と繁栄 は私 の耳 に したこと以上の もので した (...)」. (列. 王記上 lo。 4-7). とこの よ うに女 王 は ソ ロモ ン を賞 賛 す る 。他 方 ,ネ ル ヴ ァル にお い て は ソ リマ ンの 優位 性 は消 え ,す で に一 章 で 示 した よ うに ,優 位 に立 ったの は シバ の 女 王 の 方 で あ った 。彼 女 は麻 の 織 物 と透 き通 った紗 に包 まれ た 自分 の 簡素 な服 装 を弁 解 す る上 で. 遠 の生 を受 ける こ とになる。 つ ま り,ア ドナ イに対す. 《La sirnplicit6 des vetements,dit一. る反逆者 としての運命 を成就 させ たア ドニ ラムは,命. et nc messied pas a la grandcur.(.… )》 (p.680). eHc,convient a l'opulence. を奪 われ る ことになるが ,バ ル キ ス との 間 に子供 を授 か る こ とに よって ,そ の精神 は彼女 と永遠 に結 ばれ種. とこの ような言葉 をかけ,王 冠 か ら足元 に至 る まで全. 族 の生 は保 たれ るのであ る。 そ して死 後 ,ア ドニ ラム. 身 を金で覆 った ソ リマ ンの姿 を皮 肉 ってい る。.
(7) 高橋 典子. :「. 朝の女王 と精霊 たちの王ソリマンの物語」 における旧約聖書的モチーフについて. そ して「南 の 国 の女王」 で ある と同時 に「朝 の 女 王」である彼女は この挿話 の中で大 きな役割 を担 って. de l'oubli, et fera luire sur ta maison l'aur6ole d'une gloire immortelle。. …. (pp。. 692-693.). い る。それは地下の世界 で,そ して地上の世界で繰 り 返 し行 われる種族間の争 い に差 し込む光 としての存在. 彼女 は ソ リマ ンの不敬虔 さを非難す る と同時 に受難 を. である。種族 と種族 の争 いの根本 は神 の不在が原因で. 受 け る こ とによつて救 い が あ る と述 べ て い る。 この救. ある と考 えられる。 トバル=カ イ ンによると,神 の創. い を与 え るの は,至 高 の 存在 と して の 神 の 存 在 で あ. 造 とは卑小 なものであ り,そ の力 の象徴 であるア ドナ. り,そ の 神 こそ キ リス トと言 え るの で は な い だ ろ う. イの太陽 も「卵 を焼 く力 もない欠陥のあるかまど」 で. か。不 減 の ,赦 しの 神 で あ る。 ま た ,「 ネ 申を試 した. ある。そ して地下で中心の火 を守 る神 に嫉妬 をし,人. り,神 の創造物 を修 正 した りしては い けない」 と言 う. 間及 び地球 の中心 と表面 の間 に殻 を作 り,火 の放射 を. ソ リマ ンに対 して ,女 王 は「 ソ リマ ンの信仰 に対 す る. 妨げ,熱 が地下か ら地球 の表面 ににじみ出て人を温め. 偏見 が ,科 学 の進歩 や才能 の飛翔 を妨 げ ,神 を卑小 化 口 し,神 を否 定 す る こ とになる」 と神 の 力 を 自分 の 権. ない ように試 みてい る。 さらに火の精霊たちを無視 し て泥 の人間を造 った。 トバル=カ イ ンは,自 分達火 の 一族が地底へ と追 いや られた屈辱 を思 い出 し,ア ドナ. 力 と し,神 を物 質化 mat6rialiserし よ う と して い る ソ. イを「狡猾 で嫉妬深 い」 と批判 し,熱 のない太陽 は 地上 のすべ てを照 らしてい る。 このア ドナイの神へ の. 彼女 の 日か ら出 るのは肯定的 な神 の姿 であ り,調 和 を. 怒 りが不調和 を生み出 してい る。そ して この神 は地上 を支配 し,地 下 の火の世界 の創造が地上へ と噴 き上が. で は この調和 は実現 され ることはなか った と言 える。 両種族 の 間 にい て ,調 和 を もた らす可能性 を秘 めて い. るのをつねに妨げてい る。 この地上 と地下の構図 は. た シバ の女王 も自らが火 の種族 で あ る こ とを知 り,真. 正 統 と異 端 とい う構 図 に もあて は まる。1844年 に. っ暗 な闇の中 をア ドニ ラムの元 へ 逃避行 を続 け るか ら. 「アルチス ト」誌 に掲載 された 『デ ィオラマ』 の記事. だ。 シバ の女王 の場合 ,人 物像 と しては聖書 に描 かれ. の 中で,ネ ル ヴ ァルは,エ ノクの 町 を「嫌悪す べ き. て い る姿 とあ ま り差 は見 られない 。 しか し完璧 に果 た. 町」 と表現 し,常 に Eloimsと 複数形 で表 されるエ ロ. され たわ け で は な い が ,聖 書 で は想 定 され て い な い. イムは「神 々の」 とい う多神教 の神 を示 し,ア ドナイ はそのエロイムの一人にしかす ぎない と述べ てい る。. 「神 を暗 示す る」 とい う役割 を与 え られて い る と考 え. ,. ,. ロモ ンの狭 い見方 を批判 し,警 告 して い る。 ここで も もた らす 神 とい えるだろ う。 しか し『東方紀行』 の 中. られ る。. そ して,教 会 はこの異端的な考えを認 めてはい ない。. お わ りに. としてい る。 ここにもネル ヴァルはキ リス ト教 に文 寸す る異端的な考 えを織 り交ぜてい る。 しか し,そ のよう なア ドナイの冷 たい太陽 とは反対 に自然 の太陽の光 を. 各章 にお い て登 場 人物が どの よ うに聖書 に描 かれて. シバ の女王 は持 っている。彼女 は太陽の出てい ない う. い るか をみて きたが ,こ の物語 の 中 で ソ リマ ン,ア ド. ルサ レム)へ 入 ることを拒 み,「 太陽 の. ニ ラム ,シ バ の女王 バ ルキスが どの よ うな関係 にあ る. 最初 の光 と共にエルサ レムの東門を越えた」 とされ その姿 はベ ノニの言葉 を借 りると「昇 って くる太陽を. のか ま とめてお きた い と思 う。 一 章 で は ソ ロモ ンは偉. ちに異邦. (エ. ,. 大 な人物 で あ り,そ の王 国 に仕 えるア ドニ ラム ,そ し. 垣間見 るよう」 とされてい る。彼女 はア ドニ ラム を賞 賛 した際,黄 金の三角 に縁取 られた太陽のペ ンダン ト. て ソ ロモ ンを訪 問 し,彼 の素晴 ら しい世界 に圧倒 され. を贈 り,ソ リマ ンには太陽の力で魔力 を発する指輪 を. ル ヴ ァルは,ま ず ア ドニ ラム を ヒー ロー とし,バ ルキ. 贈 っている。 シバ の女王 は,ま さに「太陽の光」 であ. ス を軸 に して対称 的 な存 在 と して ソ リマ ンを描 い て い. るとい える。そ して,ソ リマ ンとのや り取 りの 中で祭. る と言 える。 バ ルキス に出会 う こ とに よってア ドニ ラ. 壇 を置 くためにノアの残 した木 を切 って しまった彼 に. ムは栄光 と女王 との つ なが りとい う幸福 を得 ,ソ リマ. 対 し次 のように告げる。. ンは失恋 に よ り自ら破減 の道 を歩 む こ とになった とい. るシバ の女王 とい う関係 となって い る と述 べ たが ,ネ. える。. Et qucl scrait le succё s de ta sagcssc substitu6c a la volont6. そ して ,こ の物語 はネルヴ ァルの他 の作 品 に も影響 を及 ぼ して い る。 ア ドニ ラムの 「冥界下 り」 の エ ピソ. supremc?Prosterne一 toi devant lcs d6crets que nc peut p6n6-. ー ドはの ち 1853年 に発 表 され た 『オ ー レ リア』 の 中. trer ton esprit mat6riel: ce supplice sauvera seul ton nom. で再現 されて い る。主 人公 である「私」 は地下 の 世界. ― Inscns6! qui peut effacer ce qui est 6crit au livrc de E)icu?.
(8) 文学 。文化研究編 (2003年 3月. 42. を訪 問 し,自 分 が カインの末裔 であ り,同 じく神 か ら 呪 われ た一族 で あ る と語 って い るが ,『 オ ー レ リア』 の 中で は地 下 に隠れて 自分達 の財宝 を守 り,時 には隠 れ家 を出 て生 者 を脅 かす悪 の 化 身 と して描 か れ て い. 2)列 :I:記. の 「記 憶 す べ き こ と ど も」 にお い て「私」 の 傍 に現 れ ,秘 義 入門 の最後 の道程 を示 し,名 前 は 出 て来 な い が ,赦 しを与 える救世主 との仲介 をす る「 イエ ー メ ン. l1 3.5-9ま で の 記述。 以 下5.9-11に は 「神. は ソロモ ンに偉 大 な知 恵 と洞 察 力 を与 え られ ,海 辺 の 砂 浜 ほ どに も広 い 心 を 与 え られ た。そ れ ゆ え ソ ロモ ン の 知恵 は 束 の 国 の 了^ら す べ て の 知 恵 に ま さ り,エ ジ プ ト人 の す べ ての知 恵 を も越 えて い た。 ソ ロモ ンは誰 よ. る。 また シバ の 女王 に よる調和 の 兆 しも同 じ く,『 オ ー レ リア』 に よつて 達 成 され て い る。『 オ ー レ リア』. ). りも賢か った」 とい う記述が 見 られ る。. 3)聖 書 の 世 界 で は人 目 をな く印 象 的 な言 葉 や謎 の 熟練 した使 用 は 高 く評価 され た。. 4)列. I二. 記 11. 4.6に 「アブ ダの子 ア ドニ ラムは徴用者 の. 長」 とい う表現 があ る。 5)Le doublc de Soliman.Lcs meillcures parties de lui. の香 りの しみ つ い た髪 を宙 に浸 した」偉大 な女性 の友. all」 cnt animer l'autre。. と して聖母 マ リア,オ ー レ リアの像 と重 な って永遠 の. グ. 女神 イシス像 を形成す る一 要因 と して間接 的 に登 場 し. “ ct Jean Richcr, 6tabli, pr6scnt6 et annot6 par Albert B6guin. て い る と言 える。 そ して この シバ の 女 王 が ,1852年 に発 表 された 『ボヘ ミアの小 さな城 』 の 中で 当時 , ネ 、 ル ヴ ァルが ″ を占めて い た女性 と して回想 されて い る 亡. ?θ. `′. ′. 6′. (antipodes)(G6rard de Nerval,Cα. ′ヽ 49)ヽ α g``72 θ ri`′ 7ち. (正]タ. `∫. r`∫ θ ッ θ ρ′ 2′. “`′ tcxtc. Iム `s, `。. Gallimard,Bibliothё que dc la P16iade,1961,p.710。. ). 6)列 IE記 _L 4.I-6に 以 下 の 高 官 の リス トが あ る。「 ソ ロモ ン Eは イ ス ラエ ル 全 Lの 工 とな っ た。彼 の 高 官 は 次 の とお りで あ る,サ ドクの 子 アザ リア は 祭 司。 シ ア エ リホ レフ とア ヒア は書 記 官 ,ア ヒル ド. こ と。 また生前 には実 を結 ばなか ったが ,当 時憧 れの. ウ シ ャの. 女優 ジェニー・コロ ンを主 役 に した 『 シバ の女王』 と. の「 ^ヨ ザ フ ア トは儀典 官 ,エ ホヤ ダの 子 ベ ナヤ は 軍 隊 の 指揮 官。 サ ドク とエ ビア タル は祭 司。 ナ タ ンの 子 ア. 題 す るオペ ラの構想 に没 頭 して い た こ とを考 える と. ,. まさにシバ の女王 は ネ ル ヴ ァルに とっての理想 の女性. F^ら. ザ リア は総 監 の 長。 ナ タ ンの ザ ブ ドは祭 司 で王 の 近 「 臣。 ア ヒシ ヤル は侍 従 長。 ア ブ ダの 子 ア ドニ ラ ム は徴. の姿 で あ り,女 神 イシ スの イメー ジを持 っていた こ と. 用 者 の 長。 」 とな ってお り,本 文 で も名前 と役 職 は この. も付 け加 えてお きた い。. 記述通 りに用 い られてい る。. 7)伝 道 の書 1.3 8)レ′β た, 1'Ecc16siaste jわ. では,一 体 ネル ヴ ァルは 旧約聖書 をモチ ー フに して 書 い た この 物 語 の 中 で ,何 を意 図 して い たの だ ろ う か 。聖書 で偉大 だ とされて い る ソ ロモ ンは椰楡 され る こ とに よって ,反 キ リス ト教 的 な形 となって現 れ ,同 時 にア ドニ ラム を神秘 主 義 の秘義 入門者 とす る こ とに よつて ,キ リス ト教 とは違 う宗教 との共存 をはか って い る よ うに思 われ る。 そ してその両 者 の 間 で 仲 介的 な. yα g``″ θ 9)G6rard dc Ncrval,Iζ θ rj`′ ′ ,Aρ ρ グ. jθ. `κ. gピ 77グ ピグ ′ ご. ,藤 本勝次編集 『コー ラ ン』,中. 央公論社 , 1970。 11)《 Notons quc le titre corrcct serait plutOt rrs「 θ/RE. 存在 を暗 示 して いる。 そ うす る こ とに よって ,異 教 と. val, ■ g` `″ Q)ヽ α. キ リス ト教 の どち らも認 め よ う と した ので はないだろ. 1374。. j`72r, θ″. しとなって い る こ とを付 け加 えてお きた い。. (`. r`∫ ξ η θ′ 2セ s,′ ./, (G6rard de NervJ,Cθ rr`ψ θ ゐ ″cど ,α ′ν ρ′ “ 6dition publi6e sous la dircction de Jean Guillaume ct de. Claudc Pichois,GaHirnard,Bibliothё quc de la P16iade,1989. p。. 1410。. ). (la plus bcllc et le plus sagc)(G6rard ` 72θ. ′ θ″:ρ ′ ′ `s,′. .〃 ,. ′ ι ∫θ r νO)'α g` `77 θrj`44 αタ た ッ r`s. 1961,p.711.). 14)(._)En lc croyantjaloux,ce Dicu,vous limitez sa toute. ―puissance,vous. disposition ct libert6 d'esprit,ce serait dqふ un grand point.. `s,. de Ner―. ′ . Iム 1961, p.. 祭 司 た ち の 清 め の た め に用 い られ た とされ て い る 。. l'6pouse de Salomon。. (.… )Ce vOyqgc n'cOt― ilね it quc me remcttre en bonne. r`∫ θ ッ θ777p′ 2′. 13) Les dcstin6cs avaient fait que la reinc Saba devait etre. de Ncrval, C``r77`′ グ. 12月 24日 付 の 父 へ の 手 紙 の 中 の 一 文. 6Eタ. DE. 12)列 王記 11 7:23-26に 記 述 が あ る 。 こ の 水 盤 の 水 は. う。 そ して この願 い と葛藤 は 『 オ ー レリア』 へ の橋渡. 1)1843年. D'ADθ ゝmν 》(G6rard. ). れ故 に葛藤 して い たので はないか と結論付 けた い と思. )王. `, IV,助. GaHirnard,Bibliothё quc dc la P16iadc, 1984,p.837.. 10)『 コー ラン』第 34章. LD Rノ 4上 A″ EDυ 」 VE「 %4ア ん. て の信 仰 の 統 合 syncr6dsmeを ネ ル ヴ ァルは 願 い ,そ. tre de. ′ ル ηα″, CEタ ッ r`∫ ε θ ρ′ s, ′ ./ム 6dition publi6e 2′ θ `Sθ “ ct dc (〕 laudc Pichois, sous la direction dc Jcan Guillaume. 役割 を果 たす朝 の女王 バ ル キ スは調和 を もた らす 神 の. うか 。そ して両 者 は決 して対 立す る もので はな く,全. 9: 9,Traduction de Lelma↑. Sacy,Robcrt Laffont,1999.. d6iflez vos facult6s,ct vous mat6rialisez les. siennes.O roi!les prqug6s de votrc culte entraveront un jour le progrё s des sciences, 1'61an du g6nie, ct quand lcs hommcs scront rapctiss6s, ils rapctisscront IDicu a lcur taille, ct finiront par ic nicr. (pp。. 703-704。. ).
(9) 高橋. ※ テ クス トは 以 下の もの を使 用 し,ペ ー ジ 数 は 各 引 用 末. mard,Bibliothё que. G6rard Shaeffcr,L`ソ. 尾 に示 す 。 G6rard de Nerval, 6E況 ソ r`s θ θ ρ′ 夕′. `s,. ′ 。fr, 6dition publi6e. de la Pldade,1989。. θッag`θ ″ θrj`″ グ. `Ⅳ`″. Rossc Chambcrs, Gι. Gallilnard,Bibliothё que de la P16iadc, 1984.. JOs6 Corti, 1969.. κ αrrJグ θNe″α′ `′. ※旧 約 聖 書 か ら の 引 用 は 全 て フ ェ デ リ コ ・バ ル バ ロ 訳. 『聖書』からのもので引用末尾 にその箇所を示す。 フェ デリコ・バルバロ訳 『聖書』,講 談社,1980。 参考文献 ソ ″sθ ′ 2た s,′ .ム "Ψ “. 6d■ ion. publi6e sous. la direction de Jcan Guillaumc ct de Claudc Pichois,GJli―. αム La Bacon―. niё re, 1967。. “ sous la direction de Jcan Guillaume ct de Claudc Pichois,. G6rard de NeⅣ al,α. 43. 典 子 :「 朝 の女王 と精霊 たちの王 ソリマ ンの物語」 における旧約聖書的モチーフについて. 野崎. 歓 ,橋 本. ι αρθご′ ,9“. `グ “. ソ θyα g`,. 網 訳 『 ネ ル ヴ ア ル 全 集 』 Ⅲ (東 方 の. 幻),筑 摩書房,1998。 大濱 甫 『イシス幻想』,芸 立出版,1986。 篠田知和基 『ネルヴァルの生涯 と文学』,牧 神社,1977。 永井 明『聖書の人物』,中 央出版社,1977。 聖書大事典編集委員会『聖書大事典』,教 文館,1989。 藤本鈴恵 『列IE記 』,新 教出版社,1994。.
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