看護技術の学習過程に関する検討 : 臨床実習における学生の体験を手がかりとして
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(2) 甲南女子大学研究紀要第 4号. 看護学 ・リハ ビリテー シ ヨン学編 (2010年 3月. ). 拠 の重 要性 は強調 されては い る ものの ,看 護技術 の も. い し経験 の一 般化 を 目指す もので はない 。 む しろそ う. つ 対 人的特性 ,言 い換 える と技術提 供者 と受 け手 との. い った研 究 で は 明 らか に され に くい ,個 々の 人 間,特. 関 りの 中に立 ち現 れて くる実 践知 の解 明 はい まだに手. に看護 の 関係 的状 況 にお ける人間 の あ り方 を探 求す る. 薄 な状況 にあ る。. こ とに主 眼があ る。 したが って ,本 研究 にお け る方法. 技術教育 とい う言葉 は,い わゆる技術手順 の 習熟 の み に専 念 して きた従来 の教育 と混 同 されやす い き らい. の前提 となる看護観 ,看 護技術 の捉 え方 につい て述 べ る こ とを とお して ,デ ー タ解釈 の指針 と した い 。. はあ るが ,本 来 ,技 術教育 とは,知 識 の 活用 を可能 と. 1)看 護技術 の特性. す る学 生 の 人格 的能力 を育成す る こ とにあ る。 つ ま り. 技術研 究 ,い わゆる技術論 には多様 な立場 が あ り. 総合的 な実践 能力 の育成 を意味 して い るのであ る。. ,. そ の接 近方法 も多岐 に渡 ってい る。元来 ,物 に対す る. 学 生が 学 ばなければな らない基本 的技術が ,ひ とつ. 技術 (科 学技術 )は ,対 象 を (物 〉 (o切 ect=人 間 の 前. の情報 (知 識 )と して伝 え られ る こ とが技術教育 の 目. に投 げ出 された もの )と して捉 える ところか ら出発 し. 的 で はな い 。知識が理解 で きる とい う こ とは,そ れが. て い る。 そ の 意味 で は,人 間それ 自体 も,科 学技術 の. 正 しく使 い こなせ る よ うに伝 え られた時 なので あ る。. 対 象 となる ときは,物 と して (対 象化 )の 立場 を取 ら. 要す るに技術 の伝 え方の研究が求め られて い る とい う. ざるを得 な くな る。 人間 を見ず に臓器 を見 る とい う立. こ とであ る。. 場 もそ の一 例 で あ る。 しか しなが ら,看 護 とい う実践. 実際 ,看 護 に必要 だ と考 え られ る種 々の知識 を学生. にお い て は ,働 きか け の 受 け手 も共 に ,単 な る対 象. )で は な い 意 識 を持 った 人 間 で あ る とい う事 実. に詰 め込 んで ,そ れ を操作すれば問題解決が で きるで. (物. あ ろ う と考 えるの は,教 師側 の大 い なる錯覚 であ る。. に ,ま ず われ われ は注 目 しなけれ ば な らな い で あ ろ. 教 師が不活発 な知識 の注 入 にのみ終始 し,ま たそ うい. う。. った知識 の鋳型 に学生 をはめ込 んで しまう とい う こ と は,取 りも直 さず教育 の堕落 を意味 して い る。. なぜ な ら,看 護が本来看護 た りうる こ とを要求 され る よ うな臨床的状 況 とい うもの は,科 学 的知識や概念. 臨床場 面 で 学 生 が 遭 遇 す る人 間的事 象 とい う もの. モデルの適用以 上 の何 ものか なのであ る。 言 い換 える. は,そ れぞれ独 自の ニ ュ ア ンス を持 ってお り,出 来合. と,看 護 の実践 とい うもの は,あ る知識 をあ るケ ース. いの知識 や理論 で は解決 で きな い か らこそ ,ま さに問. に当てはめた らどうであった ,と い う よ うな問題 を扱. 題 になるのであ ろ う。学 生 は一 つ ひ とつ そ の解決 を自. ってい るのではない とい う こ とで あ る。看護 師 が臨床. 分 で 考 えなければな らないので あ る。 自分 で 考 えた り. 現場 で 日常 的 に直面 して い る世 界 は,一 人 ひ と りの人. 悩 んだ りす るこ と以 外 に,本 当 の 意味 での 問題解決 は. 間 が ぎ りぎ りの ところで ,人 間 で あ るための欲求 を実. あ り得 な い 。考 える こ との苦 しみ を学生が克服 して い. 現 しようと して い る世 界であ り,そ れゆえに苦悩 す る. け る よ うな支援 が教 師 に求め られて い る。学生 を理論. 世 界 で もあ るか らであ る。. 的操作 に追 い や り,考 える こ とか ら逃避 させ る こ とが. い うまで もな く,看 護 師 は人 々が健康 を維持 し,病. あれ ば,こ の 後 に続 く教育 は まった く薄 め られて しま. 気 か ら回復す るための手助 け となる諸知識 の枠組 み を. うであろ う。. 持 ってい る。 しか しなが ら,看 護 師が患者 を理解 しよ. 看護学実習 にお い て初 めて受 け持 ち患者 に看護 ケアを. う とす る仕方 は,そ れ らの諸知識 の枠組 みで患者 をみ て ,こ れはそれ なのだ,と い う よ うな一 方的 な決 め つ. 実践 した二 人の学生 の体験 を通 して ,学 生が看護技術. 1)は けが可能 な もので はない。A.ウ イー デ ンバ ック. を学習 して い く過程 を振 り返 る こ とに よつて ,看 護学. まず看 護 師 は患 者 とよ く知 り合 わ なけれ ば な らな い. 教育 にお ける技術 の伝 え方 の 問題 に い くつ かの示唆 を. し,そ のため には,自 分が持 ってい る相 手 に対す る既. 得 るこ とを 目的 と した。. 存 の枠組 み と,現 実 の患者 との 間 に横 たわ るギ ャ ップ. こ うい った問題 意識 に基 づ い て ,本 研究 で は,基 礎. ,. (不 一 致 )に 気 づ くこ とか ら始 め なけれ ば な らな い と. Ⅱ。 研 究 方 法. 述 べ て い る。 この よ うに看護 師 が 自己 と相手 との不 一 致 を見極 め. 1.方 法論的前提 本研究 は,看 護 の 実践学 的研究 の一 分野 となる臨床 実習 にお ける学習指導 の 考察 で あ る。 したが つて ,一 般 的 に 自然科学 的 な研 究が要請す る,経 験 の抽 象化 な. て い く能力 を,わ れわれは “ 観察力 "と 呼 んで い る。 この “ 観察力"は 物 を対 象 とす る 自然科学 的 な観 察 と は違 って ,看 護 師 と患 者 との 関係性 の上 に成 り立 つ技 術 であ るため ,た だ 見 る,た だ 聞 くとい った単純 な動.
(3) 吾妻知美. 他 :看 護技術 の学習過程 に関す る検討. 作 とは異な り,そ れ らの感覚 を心で感 じ取 り,さ らに. 学生は,自 分 自身が看護学生一般 であるかのような役. 思考する力 となって,患 者 を知覚す るとい う高次な人. 割意識 のみで振舞 っていることが多 い。. 間の能力 に関るものである とい える。 ちなみに J.ト. 学生は臨床 とい う現実 の中で,は じめて自覚的に自. ラベ ル ビー は看護 における観 察 につい て,「 病気 の兆. 分 自身を吟味せ ざるを得 ない ような状況 に気 づいてい. 候 を観察するのではな く,特 定の病気 の症状 を体験 し. くのである。患者 を一人のかけがえのない存在 として. つつ あるか もしれない. 引 き受けてい くためには,学 生 自身が人間であること. (あ. るいはそ うか もしれない). 様な病気 の人間を観察するのであ り,そ の人が こうむ. の根源的なあ り方,即 ち自らの内に他者 の 目を保持す. つている主観的体験 を. るとい う,相 互に身体的な関係性へ の開示が必要なの. Jと. 確認するのである」. (で. きるか ぎり病人 とともに). 述べ ている。. である。. 以上のことか ら言 える ことは,今 日一般的に行われ てい る,客 観的に妥当な手順 をつ くりあげることや. ,. 技術 の科学的根拠 を強調するのみでは,看 護実践 にお ける技術 の本質を追求することにはならず,そ こでの. 看護技術 は,「 看護師が働 きかけ,ま たは働 きかけ られる相 手 (患 者)の あ り方 を了解するとい う関係的 のなのである。 この の 状況か ら生 まれるもの」 時 看護師. 得ない。む しろアリス トテ レス (1977)"の 技術論 に遡 って言 えば,こ ういったただひとつ の仕方へ の決めつ. ,相 手に向か ってい くと同時に,相 手 の状況 を感 じ取 ることにおいて,看 護師の一方的な決 めつ けではな く,患 者 の状況に寄 り添 うような仕方 で 相手 を理解すること,患 者 との間に真 の コ ミュニケー. け としてあるものは,科 学的知 (違 った仕方では在 り. シ ョンを成立 させ るのである。. 技術 は物 のみ,手 段 のみに矮小化 されるといわざるを. うることがない もの)の 性質であ って,技 術知. の手. (身 体 )は. っ. このような患者 との相互身体的なかかわ りを学 ぶ こ. なぜか とい うと,い かに科学的原理 に基づいた手順. る〉 と同時に 〈 見 られる〉 もの として,看 護者 と して. に従 った として も,そ れが看護 の技術 と呼 ばれるとき. の 自分 自身の身体性 (世 界 と私 との関 りの場)を 確 か. には,そ の 目的に至 る道筋 は,決 して一通 りではない. な もの として実感 で きるように成長 して い くので あ. か らである。言 い換 えると,行 為者 のみではな く,受. る。. (も. と違 った仕方 であ りうるもの)の それではない。. とによって,学 生は患者のみならず,学 生 自身が 〈 見. けて も共に生 きた人間である看護技術の本質 は,看 護 師 と患者 との関 りとい う具体的な現実 の 中で,自 ・他 を発見 し,そ の関係 の 中で変化 し,関 係 の 中で相互に 了解 しあ うとい う人間 としての行為 の過程その ものに. 2.研 究参加者 『生活 デザ イ ン基礎 看 護学 実習 Ⅱ』 を行 った 2年 生. 2名 。. あると考えられるか らである。. 2)看 護技術 と身体性. 3.デ ー タ収集 時期 とデー タ収集方法. 先 にも述べ たように,学 生が知識 をただ知識 として 持 っているだけでは,到 底人を援助する技術 とはな り. 2009年 2月 16日 か ら 3月 13日 。 研 究参加者 の学 生 2名 は,基 礎看護学実習 にお い て. えない。知識が技術 となって行為化 されるためには. 患者 を受 け もつ こ とになった。 時期 は異 なるが ,同 じ′. それが学生によって内面化 され,自 分 の もの として使 いこなせ るようになることを意味 してい る。その根底. デ ー タは,実 習 にお い て学 生が共通 に使用す る記録用 紙 (行 動計画 ,日 々の評価 )と 実習終了後 の レポー ト. には,学 生が,自 分 自身や患者 を人間一般 としてでは. で あ る。 これ らの記録 を繰 りか え し通読 し,そ の 中か. な く,全 く個別的な独 自の存在 として認識するとい う. ら研 究 の 文脈 に沿 って学 生 の記録 を可 能 な限 り抽 出 し. 主体的な確信がなければならない。その 自覚 こそが. た。. ,. ,. 「ただ考 える」 とい うことではな く,看 護技術 とい う 身体 を通 して「考える」 ことと「す る」 ことが直に結 び合わされた行為の知 (実 践知)を 生む原動力なので ある。. 4.デ ー タ解釈 の透 明性 と信 憑性 本研究 にお い ては,科 学的研究. (量. 的)に お ける. 「信頼性」「妥当性」 に代 わる基 準 として,手 続 きの. 初期 の段階にい る学生の多 くは,患 者 に相対 しなが. 「透明性」 と解釈 の「信憑性」 を採用 した。「透明性」. ら,ほ とんど相手 を個別的な存在 として認識する こと. は,研 究参加者 の選択 ,デ ー タ収集方法 とその解釈. はで きない。 自分が相手に関わることによって相手に. を,読 み手 にわか るよ うに明 らかす る ことで確保 し. 及 ぼす影響 の重大 さにも気 づいてい ない。 このような. た。「信憑性」 は研 究参加者 に,解 釈 (結 果 )を 示.
(4) 甲南女子大学研 究紀要 第 4号. 看護学 ・ リハ ビ リテ ー シ ヨン学編 (2010年 3月. ). した ことが なか つた。今 回,受 け持 ちにな つた患者 さ. し,そ の 反応 に よ り整 合性 を確認 した。. んの よ うに コ ミュニ ケ ーシ ヨンをとるのが 難 しい患者 と接するのは初 めてだった。初めてその患者 さんに会. 5.倫 理 的配慮 学 生 に対 しては,本 研 究 の意 図 と概要 につ いて説 明 し,「 行動計画」「 日々の記録」 そ して 「実習終 了後 の レポー ト」 を研究資料 と して使用す るこ と。 そ の 際個 人が特定 され る こ とが な い よ う最大 限 の 努力 をす る こ と。 さらに,研 究 へ の協 力 は 自由 であ り,学 生 の 成績. った ときはほ とん ど話 しをされず ,言 葉 を発 して も何 を言 っているのか理解で きなか った。 ど うや つて生 活 者像 を知 っていった らいいの か,ど うや って ニー ドを 読 み取 っていった らいいの かが想像で きず不安 にな っ た。 話 しかけて も返答が ない こと も多 く,返 答が あ って. 評価 には一 切 関係 しな い こ と。投稿前 の最終 原稿 を学. も返事が l愛 味 であ り理解で きて い るのかが わか らなか. 生 に開示 し,そ の 際 に学生 か ら致 命的 な疑義が 出 され. ったが ,自 分 の存在 を意識 して もらい た くて手 を握 り なが ら話 しかけた。す る と手がす ご く冷た い ことや皮. た場合 には発 表 を中止す る旨,日 頭 と書面 で 説 明 し ,. 膚が乾燥 して い ることに気 づ き,会 話 だけでな く観察. 承諾書 の提 出 を もって 同意 を得 た。 なお ,研 究代表者 の所属機 関 で あ る 甲南女子大学 研 究倫理委員会 の 審査 を受 けて実施 した。. するとい うことで情報収集が で きる ことに気づいた。 学生. Aは ,挨 拶 を しなが ら. “自分 の こ と を知 っ て. も らい た い "と 手 で患 者 に触 れ て い る。 そ して ,そ の. Ⅲ 。 結 果 :看 護 技 術 の 学 習 過 程. 手 の 冷 た さや乾 燥 して い る こ とに気 づ くこ とで ,看 護 師佃1の 必 要 とす る援 助 よ りも,患 者 の 体 験 して い る事. 1.患 者 その人の理解 一 人の患者 にお い て ,何 が看護技術 の対 象 となるの で あ ろ うか。 一 般 的 に,患 者 に必要 な援助 を提 供す る ため には,患 者が必要 とす る援助 へ の ニー ドを知 る こ. 実 を先 行 させ る こ とで ,言 語 的 コ ミュ ニ ケ ー シ ョンに 頼 らな い で患 者 を理 解 す る可 能性 に気 づ い て い く。 さ らに学 生 は観 察 とい う方 法 で患 者 の 体験 して い る援 助 へ の ニ ー ドを探 る こ とを試 み は じめ るの で あ る。. とが強調 され る。 また看護過程 で は情報収集 の 方法 と して主観 的情報 と客観 的情報 か ら健康上 の 問題 点 を導. 患者 さん とお話 して い る ときにベ ッ ド柵 を もって. きだす訓練 が な され る。Io J。 オ ー ラ ン ドは,看 護技 術 にお い ては,常 に患者 と話 し合 って ,患 者 の ニ ー ドを. もぞ もぞ と動 き出 したので ,体 が痛 いの か と思 って看. ,. 護師 と共 に体位変換 して もらったが ,そ の ときに失禁. しか し. してい ることに気 づい た。 もぞ もぞ して い たのは体が. なが ら,学 内演習 で は,状 況設定 に限 界があ り,と も. 痛 いか らではな く,失 禁 して い る ことを伝 えた ようだ. 5。. 確 かめ る こ とが重要 で あ る と強調 して い る. す れば患者 との確 かめ合 いの プ ロセ スが除外 され て. ,. 羅列 的 なニ ー ドの追及 に終始す る こ とにな り易 い 。 それ で は ここで ,学 生 の体験 が示す ところ を見てみ よ う。. 叩 い て い たのでそれ に気 づ けば よか つた な,と 感 じ た。 しか し, この ことを体験 して, コ ミュニ ケ ー シ ヨ ンをとることが困難 な患者で もこの よ うにニー ドを読 み取 ることがで きる ことに気 づい た。. 初 めての臨 床実習 であ る基礎 看護学実習 にお いて. Aは. った。 もぞ もぞ して い る ときに一瞬手でお尻 をポ ンと. ,. 学生. Aは この 日が 受 け持 ち初 日で あ つ た ,自 分 で. 17年 前 の脳梗 塞 の 後遺症 で両下肢 に麻痺 が. 動 け な い ため 2時 間毎 の 体 位 変換 が 必 要 で あ る と説 明. あ り寝 た き り状態 で ,誤 哄性肺 炎 のため入 院中 であ る. を受 け て い た た め ,“ もそ もぞ "と 動 い た こ とか ら患. 言語 的 な コ ミュ ニ ケ ー シ ョンが 十分 に取 れ ない患者 を. 者 の 体 が 痛 い の で は な い か と推 測 した。 さ らに ,体 位. 受 け持 つ こ とになった。学生 は,こ れ まで経験 した こ との な い患者 の様子 に戸惑 い なが らも,患 者 の ニー ド. 変換 の必 要性 を判 断 し,看 護 師 を呼 び に行 き体 位 変換. を知 る こ とを第 一 の 目標 に して患 者 に向 か って い っ. とに気 づ き,臀 部 を叩 い て い た患 者 の ジ ェス チ ャ ー を. た。. 思 い 出 し,そ の 行 為 の 意 味 を理 解 した。 さ らに ,受 け. 学生. を行 った 。 しか し,こ こで さ らに ,失 禁 を して い る こ. 持 って 3日 目に患 者 の 行 動 か ら見 え る不 快 感 と,オ ム ツ を何 重 に も当 て られ て い る こ とか ら患 者 の 苦 痛 を慮. 受け持ち 1日 目の記録〕 〔 実習に行 く前 は患者のニー ドを提 えてそれに応える. って,オ ムツの量 を減 らせるように尿器 を使って排泄. とい うことを課題 に していた。 しか し,今 まではお し. の援助 をしたい と考 え始める。. ゃべ り好 きな人や色 々話 して くれる患者 さんとしか接. 患者 を受け持 って 5日 目に,学 生は行動計画で,受.
(5) 吾妻知美 他 :看 護技術 の学習過程 に関する検討. け持 ち患者 に尿器 を使用 した排泄援助の計画 を発表す. れていた。その行動 はその後 もみ られた。. る。患者 にとって尿器 を当てるとい う試 みは,入 院後 は じめてのことであったが,実 習指導者が この提案 を 支持 した ことか ら,さ っそ く計画が実施 されることに なった。 こういった学生の手探 りとで もい えるような患者 の 事実へ の気づ きの過程 はわれわれに何 を教 えてい るの. 受け持 ち 7日 日,実 習最終 日〕 〔 尿器へ の排尿 の援助 は成功 しなか ったが ,患 者が オ ムッが ぬ れた ことを教 えて くれる よ うにな った り,排 尿へ の意識 を高める ことがで きた と感 じた。 もっ とケ アプラ ンを訂正 した り追加 した りしなが ら患者 の排泄 の 自立へ の援助 をしたかった。. であろうか。 われわれは,時 として全体 (as a whole)と しての 患者その人の理解ではな く,〈 患者 のニー ド〉 の理解. 実習後 の レポー ト〕 〔. を看護計画の基盤である と考えがちである。 しか しな. とい うことを課題 に してい た。 しか し,今 まではお し. が ら,こ の学生の体験 が示 してい るように,〈 基本的. ゃべ り好 きな人や色 々話 して くれる患者 さん と しか接. ニー ド〉 の諸項 目か ら患者の満たされないニー ドを追 い求 めてい る間は,全 体 としての患者その人を捉 える こ とは 決 して な い 。 なぜ な ら,個 々 の 患 者 の ニ ー ド は ,そ の 患 者 が 体 験 しつ つ あ る世 界 (何 か との 関係 ). 実習 に行 く前 は患者の ニー ドを捉 えてそれに応 える. した ことが なか ったので,今 回受 け持 ちにな った患者 さんの よ うに コ ミュニ ケ ーシ ョンをとるのが 難 しい患 者 さん と接す るのは初 めてだった。 しか し,患 者 さん と接 して い くうちに患者が発す る行為 に合 図やサ イ ン がある ことや ニー ドは言葉 だけでな く顔色 ,バ イタル. と切 り離 され て あ る もの で は な い か らで あ る。何 が そ. サ イ ン,皮 膚 の状態 ,手 足 の冷 えな どを観察 してその. の 患 者 の 援 助 を要 す る ニ ー ドで あ るか とい う こ とは. 人になにが必要かを考える ことがで きた。. ,. 看 護 師が (基 本 的 ニ ー ド〉 の 枠 組 み を先 行 させ て 判 断. また,患 者 の 1日 の生 活行動や ベ ッ ド周 りの環境 を. で きる もの で は な く,患 者 の 事 実 を知 ろ う と して 関 る. 知 ることで患者 に何が必要か見 えて きた。患者 に共感. 看 護 師 の 態 度 に よって ,患 者 側 か ら明 らか に され て く. し,患 者 の立 場 に立 って,何 を してほ しいの か ,患 者. る もの と考 え られ るか らで あ る。 こ こで も う一 度 学 生. Aの 実 習 記 録 に戻 って ,〈 排 泄. の 援 助 〉 とい う援 助 技 術 を通 して患 者 と と もに変 容 し て い く学 生 の 姿 を見 て み よ う。. の生 きが い とは何か を考 えて援助 を行 なえるようにな った。 また,援 助 はまず ,ど の よ うな順番 で行 な うか 根拠 をもって考 える こと も重要である し,計 画 を立て て もその 日の患者 の状況 を見て計画 をその都度変 えて いかなければな らない。生活行動 を知 っていれば患者 がサ イ ンを出 した ときにイ 可が Zヽ 要か思 いつ くことがで. 受け持 ち 5日 目の記録〕 〔 「おむつが気持 ち悪 いで しょうか ら,こ れ (尿 器 )で お しつこしてみ ませんか ?や ってみて もいいですか ?」 とい う問 い に対 し「 うん」 とい う返事 を もらった。お むつ に排尿 後 は不快感があ り,足 をバ タバ タさせ る と. きるとい うことを実習 を通 して実感 した。 また,患 者 だけでな く,そ の家族 とのかかわ りも重 要 であつた。今 回 の実習 で様 々 なニー ドの捉 え方やそ の応 え方について学 ぶことがで きた。. きがある,お むつ に不快感があるようで よ くオ ムッの 中に手 をい れる,尿 意 はあ ま り感 じない よ うである。. 学生. Aは ,言 語 的 な コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンが 難 しい. 排尿 は 1日 に 6∼ 7回 ,4時 間に 1回 程度である。15時. 患 者 に対 し,自 分 と患 者 との 身体 を介 した観 察 に よっ. 30分 に時間を予測 して援助 を行 な ったがすでに排尿後. て コ ミュ ニ ケ ー シ ョンが で きる こ とを確 認 して い る。. であった。尿器 を使用 し患者 も力 む様 子が見 られるな. そ して ,そ の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョンか ら患 者 の 可 能 1生 を. ど協力的であ ったが排尿 はみ られなかった。. 発見 してい くのである。 この学生 は,(排 泄 の援助〉 とい う一つの看護技術 を実践 してい く過程において. ,. 受け持 ち 6目 の記録〕 〔 午前 と午後 2回 ,尿 器 での排尿 を試み るが排尿 はみ られなか った。 しか し,こ の 間おむつへ の排尿 を患者 さんが言葉で伝 えて くれた。 この ことか ら患者 さんの 排尿へ の意識が高 まったのではない か と感 じた。 ベ ッ ドサ イ ドで患 者 さん と話 を して い る と私 の手 をつ かん. 患者 との信頼関係が生 じたとい う実感 と,人 間の行為 としての看護技術 の力 を実感で きたのであろう。 こう いった学生の成長 と同時に,患 者 は学生の看護技術 を 通 して排泄の自立 とい う新 しい 自分 の存在 に気づいて い くのである。. でオムッの方へ 持 ってい くようないつ もは余 りしない 行動が見 られた。「おむつぬ れてい るのですか」 と聞 く と,患 者 さんは「 うん」 と答 えた。確 か におむつ が ぬ. 2.関 係 の理解 次に学生 Bの 体験 を見てみ よ う。学生 は,は か ら.
(6) 甲南女子大学研究紀要第 4号. 120. ず も学 生. 看護学. Aが 受 け持 っ た患 者 を継 続 して 受 け持 つ こ. Bは まず 実 習 指 導 者 と と もに患 者 に挨 拶 をす る。 そ の 後 ,一 人で患 者 の 元 へ 向 か って い とに な っ た 。 学 生. っ た。 そ の と きの 様 子 を以 下 に記 す 。. リハ ビリテー シヨン学編 (2010年 3月. ). 受け持ち 2日 目の記録〕 〔 今 日,行 動計画 でた くさん計画 をあげて しまって. ,. 実際今 日 1日 で全 部 で きるのか ?と 考 えた ら,患 者 さ んの負担 も大 きくなるので ,技 術 のみ を行 ない に患者 さん の ところ に行 く計画 になって しま った 。 あせ ら ず,患 者 さんに合わせた計画 を立てていこ うと思 った。. 受け持 ち 1日 目の記録〕 〔 午前 中受け持 ち患者 さんの ところに行 った ときに少 しお話 を した時 ,患 者 さんの手が冷 たか ったのでず っ と握 っていた ら患者 さんが寝 られた。 (中 略)睡 眠 をと るために起 こ さないほ うが良 いの か ,夜 眠れな くなる と昼夜逆転 して しまう可能性 もあるので起 こ したほ う が良 いのか迷って しまった。 午後 に口腔 ケアを勧めた とき,日 をあけて くれず拒 否 された。そ の 後 で ,看 護師 さんが来て もう 1度 すす めるとす ぐに口を開け られて口腔 ケアがで きたので. ,. 私が緊張 して い て固 まっていたので不安 を抱 かせ て し ま った と思 った 。 明 日か らはた とえ 緊張 して い て も. 寒 い とおっ しゃって手が冷たか ったので,手 浴 をす すめてみたが 「嫌」「寝 る」 とおっ しゃつたので,手 浴 をやめ手や身体 をさす っていたが ,手 浴 の他 に温 まる ことがで きる方法 を考えた らよかった と思った。 昨 日と同様 コ ミュニ ケ ー シ ョンを とる こ とが で き ず ,た だ手 をさす ることしかで きなか った。単語 で答 えられるような質問 を してみたが ,続 かず会話が終 わ って しまうことが 多かった。明 日か らは もう少 し話が 発展 で きるように努めた い。 また,言 葉以外 に動作 や 表情 か ら患者 さんが示 して い る合図に気 づ くことがで きるように頑張 りたい。. 堂 々とで きる態度ですす めてみ よ う と思 う。 自分 で食 事 を摂取 した り歯磨 きが で きる ことが わかったので口. これ まで の 学 生. Bの 記 録 か らは ,患 者 の 事 実 は 何. 腔 ケアは患者 さんの様子 を見なが ら,私 が行 な うか患. 一 つ 確 か め られず に ,「 こ うで は なか ろ うか」「 あ あ で. 者 自身が行 な うか決 め ようと思 う。 また,他 の ことで も自分でで きる ことはなるべ くして もらいで きない こ. は なか つたの か」 と,学 生 自身 の 推 測 に よる一 人合 点. とをサポー トしなが ら行お うと思 う。. 一 言 を患 者 に問 い か け て い た な らば ,そ して また ,こ. これ まで の 記 録 は す べ て 学 生 の学 生. Bの 反 省 で あ る。 こ. Bに 限 らず ほ とん どの 学 生 の 記 録 は 反 省 で埋. め られ て い る。 なぜ こ れ ほ ど まで に 反 省 を要 す る の 睡 眠 を とる た め に起 こ さ な か 。 答 え は 明 白 で あ る。 “ い ほ うが 良 い の か ,夜 眠 れ な くな る とい け な い の で起 こ した ほ うが 良 い の か "途 方 に くれ た ま ま何 も しなか った の で あ る。 午 後 も口腔 ケ アの 申 し出 を患 者 に拒 否 され 後 ,学 生. Bは ,患 者 が 拒 否 的 な態 度 を とる の は. 自分 の 緊張 や不 安 が患 者 に伝 わ るか らだ と考 え ,自 分. に 終 わ って い る。 も しも学 生. Bが ,「 なぜ. ?」. とい う. の一 点 に臨床 指 導 者 や教 師 の意識 が 向 い て い た な ら ば ,学 生. Bの 後 半 の 反 省 や 無 謀 な計 画 とは 無 縁 で あ. った はず で あ る。患 者 との 関係 を抜 きに した反 省 か ら は ,何 も生 まれ よ うが な い し,患 者 は どこか遠 い とこ ろ に置 き去 りに され て い る事 実 に 学 生. Bが 気 づ くた. め に は ,今 しば ら くの 時 を要 す るで あ ろ う。. 受 け持 ち 3日 目の記録〕 〔 午前 中患 者 さん は眠 そ うで ,う と う と と して い た け れ ど,声 をか け る と 目を開 けて返 答 して くれ ,少 しお. 自身 を責 め る一 方 で ,翌 日の 実 習 に は「堂 々 と した態. 話 が で きた。患 者 さんが 笑 顔 で 手 を タ ッチ して くれ た. 度 」 で 臨 む こ とを 目標 に挙 げて ,自. の で ,は じめ は 驚 い た けれ ど,実 習 に来 て は じめ て患. らを鼓 舞 し続 け る. 者 さんが 私 に笑 顔 を見せ て くれ た の か な と思 った。 な. の で あ る。 この よ うな不 毛 な学 生 の 精 神 的 な停 滞 は なぜ 起 こる. ぜ 今 日は コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン を と る こ とが で きた の. の で あ ろ うか 。 口腔 ケ アの必 要性 もわか って お り,看. か ?を 考 え る と,患 者 さん の 機 嫌 ・調 子 が よか つた こ. 護 師 が勧 め る と素 直 に応 じる患 者 が ,な ぜ 自分 の 申 し 出 を拒 否 した の か を ,患 者 自身 に問 い ,確 か め る とい う関係 づ けが な され なか ったか らで あ る。 そ の 結 果. ,. 次 の 日の 看 護 計 画 と して 「 バ イ タルサ イ ンの 測 定 」「2 時 間毎 の 体 位 変換 」「 お む つ 交換 ・確 認 」「 陰部 洗 浄 」 「 食事 介 助 」「 口腔 ケ ア 」「 手 浴 」「 洗 髪 」 を挙 げ る とい う患 者 が援 助 を必 要 とす る ニ ー ドの羅 列 に終 わ って し ま った の で あ ろ う。. と もあ り,私 自身 もカ ンフ ァ レンスで 話 した こ とで 気 持 ちが楽 に な って ,心 に少 しゆ と りが で きたか ら リラ ックス して ,患 者 さん に接 す る こ とが で きた の だ と思 ′ い 「 ど う しよ う」 とい う気 持 ちで 1布 」. う。 それ まで ,「. い っぱいで 病 室 に行 くのが 怖 くて ,パ ニ ック状 態 だ っ たので ,患 者 さん もそ うい う状 態 で 病 室 に こ られ る と 不安 になって構 えて しまうの だ と思 った。 患 者 さんの動 作 で ,パ ジ ヤマ ,ベ ッ ド柵 ,手 を ぎゅ っ と握 り締 め た り,頭 を ヨコに振 った り とい った 動 作 は何 度 も見 た けれ ど,そ れ が何 の 合 図 か ,何 を教 えて.
(7) 吾妻知美 他 :看 護技術 の学習過程 に関する検討 くれ て い るのか ,言 い たいのかが分 か らな くて,と て. り得 ない。言 い換 えると,わ れわれが患者の外か ら与. も悔 しい し,一 生 懸命伝 えようとして い るのに伝 わっ. えられる客観的事実,つ まり挙動 とか言葉 とか,行 為. てい ない ことは患者 さん も苦 しい と思 うので,少 しで. とかは,そ れのみでは極めて不完全 な人間的表象に過. も早 く気 づ くことがで きるよう観察 ,コ ミュニ ケ ー シ. ぎないか らである。学生が患者 の感 じてい る訴え を ,. ョンをとってい きたい。. 自分 自身の主観 にもた らし,患 者 の体験 してい る世界. わ れ わ れが 問題 とす る患 者 の 行 動 は ,患 者 が 断片 的 に表 現 して い る生 そ の もの の 表 象 と して捉 え られ な け れ ば な らな い 。言 い 換 え る と,あ り とあ らゆ る患 者 の 表象 (表 情 ,言 葉 ,沈 黙 ,行 為 )か ら,患 者 の 体 験 の 全 体 (世 界 )を 知 る こ とで あ る。 と き折 々 に与 え られ. (辛. さ,し ん どさ,だ るさなど)を 共有する ことが. ,. 相手 を真 に (了 解〉す る過程 とい えるのである。 そ して,学 生. Bの 実習記録 の締 め括 りは以下であ. った。 実習後 の レポー ト〕 〔. る患 者 の 表 象 は ,患 者 が体 験 しつ つ あ る もの ,す な わ. 口腔ケアは実習 4日 目まで断 られて い た。断 られて. ち患 者 が本 当 に体 験 して い る世 界 との 関連 にお い て し. い た間は私が行 な うのが不安 を感 じるのか,日 腔 ケア. か ,そ の全 容 は 明 らか に な らな い か らで あ る。. が嫌 い なのか ,今 はただや りた くないの か等理 由 を考. 学生. Bの 記 録 か らは ,患 者 が 表 現. し よ う と して い. るサ イ ン を読 み 取 れ な い 悔 しさで溢 れ て い る。 す れ違 い の 連 続 とは い え ,ま じめ で ,一 生 懸 命 さにあふ れ た 学 生 の 真 剣 な まな ざ しは ,身 動 き さえ ま まな らな い 苦. 悩 の真 っ只中にい る患者 にはどの ように映っていたの. え,ど うした らいい か分か らず葛藤 してい た。私 は私 が行 なうか ら不安 なのだろ う と患 者 さんの気持 ちを推 測 し自分 自身を責 めることばか りで ,視 野 を広 げて考 える ことがで きなか った。 しか し,日 腔 ケアをす る際 に も,食 後 1時 間 もた っていてか らだ と断 られたが. ,. 食後す ぐにすすめる と了解 を得 たので ,患 者 さんが行. だろ う。受け持ち 3日 目には患者の方か ら笑顔 を見せ. な って もいい タイ ミングを生活の中か らみ つ ける必要. なが ら手 を差 し伸 べ て くれ てい る。 この と きを逃 さ. があった。. Bが 自分の うれ しい感情 を素 直 に患 者 に表 現 で きていた ら,状 況 は一変 していたに違 いない。 し か し学生 Bは ここで もす ぐに自分 の殻 に逆戻 りして. とれず ,環 境整備 を しなが ら患者 さんの側 にい た。最. 最終 日は,1日 中眠 られていて コ ミュニ ケー シ ヨンが. ず,学 生. 反省 に終始 してい る姿がみて とれる。. 後 に挨拶 した ときに,私 の顔 を見 て,手 を握 って離 そ う としない姿 をみて,患 者 さんの側 にい て よか つた と 思 い,患 者 さんに とって も私が毎 日部屋 を訪室す るの は不JI央 な ときもあるが ,い て よか つた と思 う ときもあ. 受け持ち4日 目の記録〕 〔 前 までは患者 さんが 口腔 ケアを「嫌」 と言 った らそ れで終 わって,ど うしよ う と思 った けれ ど,今 日はや. っただろ う と考 える。私 はは じめの ころは 自分 の こと を中心 に考 えて い たが ,助 言や カ ンフ ァレ ンス を繰 り. らなかった ら感染 す る恐 れがあるか ら絶対や らない と. 返 し,少 しず つ患者 さんを中心 に考 える ことがで きき た。 これはメイヤ ロ フが “ 比較的長 い過程 を経 て発展. い けない と思 って行 う ことがで きた。その ときに患 者. ケアす してい くような他者 とのかかわ り方 "で あ り “. さんの抵抗が なか ったので本当に嫌 とい うわ けではな. る人 とケア される人に生 じる変化 とともに,成 長過程. かった。. をとげる関係 をさ して い る"と 述 べ て い るように,自 分 自身が成長 してい る。. 受け持 ち 5日 目の記録〕 〔 は じめ病室 に行 くとき,先 週 の よ うだった らどうし よ う と不安 な気持 ちで いっ ぱい だった け ど,患 者 さん の ところにい くと,患 者 さんは笑顔で手 をあ げ て迎 え 、 て くれた ので 内フ ほっ とした。 しか し振 りか えってみ と ると,私 は患 者 さんの笑顔 を見 る と安心す るけれ ど. 学生. Bに. とって ,こ の一 週 間 の 体 験 は どん な に か. 辛 い もの で あ ったか は想 像 に難 くな い 。何 回 とな く患 者 との 関係 を つ くる機 会 を惜 し く も逃 して い る こ と が ,記 録 か ら読 み取 れ る。 カ ンフ ァ レ ンス や指 導 者 か. ,. 患者 さんが安心 して もらって看護が で きて い るかな と. らの助 言 か ら意 識 と して何 を しな けれ ば な らな い か は. 思 った。. 頭 で理 解 して い る。 しか しなが ら も う一 歩 自分 自身 の 殻 を破 って ,患 者 の 気 持 ち に触 れ る とい う関係 が で き. 臨床実習 にお ける この よ うな体験 は,擬 似 的場面 を. て い た な らば ,日 々の 実 習 が も っ と生 き生 き と実 践 さ. 設定 しての学 内演 習 で は到底経験 す るこ とが 出来 ない. れ ,実 習 の 達 成 感 も違 った もの に な って い た に違 い な. もので あ る。臨床 にお ける体験 的 な認識 は,学 生が主. い。. 観 と して体験 しない 限 り,本 当 の意味 での認識 とはな. 野 島 は「学 生が患者 の現実 を見す えるの を妨 げる原.
(8) 甲南女子大学研究紀要第 4号. 122. 看護学 ・ リハ ビリテー シ ョン学編 (2010年 3月. ). 因 の一 つ は,学 生 自身 の 側 にあ る 自己 に拘泥す る傾 向 にあ る。 ・ ・・・患者 を診 る `私 'の 目は,常 に 自己. かない といけないことは,伝 えられる側, つ ま り学生. の価値観 と自己の好悪 の 感情 にのみ つ なが り,そ れ に. てい るとい うことである。現場 を知 らず臨床の全体が. 'の 目にせ っか く映 った事実 と して の患者. 見えてい ない学生が,い きな り技術 の手順書や,マ ニ. よって. `私. の知識や技術 を吸収 しようとする意欲に大 きく関係 し. の言動 は,何 か を表現 して い る,何 か を訴 えて い る. ュアル を見せ られて も,さ っぱ り理解 で きない し,無. す なわち看護者 との 関係 の 成立 を急 い で喚起 して い る. 理 に強い られた りす ると,苦 痛 を感 じて,後 に続 く学. 状態 とは認識 され な い で ,自 己 の 価値判 断 のみ に よつ. 習 まで無意識に拒否するようにまでなつて しまう。組. ,. 6と. て処理 されて しまう こ とになる。」. 織 における技術の伝 え方について論及 した畑村 は,受. 述 べ て い る。. しば しば学生 は,自 分 自身 の 未熟 さが患者 に拒否 的. け入れ側 の「動機 づ け」について,「 自ら望 んで知識. 態度 を取 らせ て い る と思 う我執 に とらわれて い る。 そ. を吸収する場合はその ような心配 はあ りません。それ. ヽ を うつ す 亡 う して い る間は,患 者 の 辛 さや ,哀 しみ に″. どころか理解 のためのテンプレー トがつ くりやす くな. だけの軟 らか い心 を どこか に置 き去 りに して い る よ う. ると考え られます。それは自発的に動 くとい うことで. に見受 け られ る。臨 床実習 にお ける教 師や指導者 の役. 『受け入れの素地』が 自然 につ くられる ことになるか らです。『受 け入 れの素地』 とい うの は ,頭 の 中が. 割 は,学 生 をケアす る もの と して成長 させ るため に. ,. 学 生 の この我執 にほんの小 さなほ ころび をつ くる こ と なのか もしれない 。. 『新 しい知識 を吸1又 で きる状態 になる』 とい うことで 7述 す。 」 べ てい る。 実際に看護 の技術教育 では,「 受け入れの素地」 を. Ⅳ。 考. 察. つ くりだす ためにどのような試みがなされてい るだろ うか。 まず,今 回の学生たちの場合 も 2年 次の基礎看. 看護学教育 はその 実践学 的性格 上 ,従 来 よ り座学 に よる学習 の 他 に演 習や実習 を通 して看護実践 を体験 し. 護学実習に先立 って 1年 次に,早 期体験実習 として臨 床 における患者 との コ ミュニケー シ ョンを 目的 とした. に対す る実 習 の 占め る割合 は,他 のいか なる専 門職教. 実習 を実施 し動機づ けの強化 を図ってい る。 これによ って一気 に学生の コ ミュニケー シ ョン・スキルが熟達. 育 に比 べ て も例が ない ほ どであ る。 したが って ,看 護. する とは考え られないが,自 分 たちが,こ れか ら学ぶ. 教育 に携 わ る者 で あれ ば臨 床実習や広 い 意味 での技術. ことが全体 の実習 の 中で どの ような役割 を呆たす こと. 教育 の重要性 を疑 うものはいない 。 しか も,教 師が実. になるのかを意識することによって,や は り「受け入. 習指導 に費やす時 間 は担 当授業 の それ とは到底比 べ も. れの素地」をつ くることに繋がるのではないか と考 え. の にな らな い 時間 にのぼる。 に もかかわ らず ,新 卒看. られる。学生たちは このような動機づ けや,模 擬患者. 護 師 の 看護 の 実践 能力 の低下 が 年 々大 きな問題 となっ. による看護の援助計画や実践 をとお して,自 ら考え. なが ら学 ばせ る とい う教授 方法 を重視 して きた。座学. ,. しみなが ら,本 格的な臨床実習に備えてい く. て い る。 高等教育 に関す る看護政策 と して も,さ まざ. 悩み,苦. まな角度か ら改善策が打 ち出 されて い る。 しか し,本. のである。. 研 究 の 目的 はそ うい った政策論 や ,実 践 能力低下 の要 これ まで述 べ て きた学生 の 臨床 にお けるほん の一 部. 2.看 護技術の 〈 相互身体的〉理解 の重要性 先に「技術教育 とは,知 識 の活用 を可能にする学生. の学習過程 を見ただけで も,技 術教育 の 難 しさが垣 間. の 人格的能力 を育成することである」 と述べ て きた。. 見 えたので はない だろ うか。 学 生 の学習過程 を辿 りな. ここでい う看護技術 とは,援 助 を必要 としてい る人と. が ら,こ こでは,看 護 の技術教育 の 方法 ,特 に臨床 に. の関 りを通 して,既 習 の知識や技術 を個人に添 った形. お ける技術 の伝 え方の問題 につい て考 えてみた い 。. で変化 させなが ら,そ の人の よ りよい状態 をつ くりあ. 因 を精査す る ところにはな い。. げる ことをい う。 したが って他 の人 との関係 によって. 1.臨 床 実習 にお ける学生 の素地 臨床実習 における学習 の 成果 は,言 うまで もな く学 生佃1の 「受 け入れ の素地」 と教 師 ,指 導者側 の「伝 え. 何かをつ くり出さない ものは看護技術 とは呼べ ない と い うことになる。 学生. Aの 体験か らわれわれが学 ぶ ことは,学 生が. る惧1の 素地」 に よって測 られ なければ な らない 。 まず. 言語的 コ ミュニケー シ ョンが取れない患者 の状態 に促. ここで は,「 伝 わる」「伝 わ らない」場 合 の受 け入 れ側. されるように差 し出 した手か ら関係が生み出された こ. の 問題 につ い て考 えてみ た い。 ここで 第 一 に考 えてお. とにある。看護技術 における「触れる」 ことの意義に.
(9) 吾妻知美 他 :看 護技術 の学習過程 に関する検討. 123. ついて,川 西 は研究結果か ら「看護技術 における 『触. な らな い こ とは ,教 え る側 の立 場 で 考 えた 「 教 授 方. れる』 とい う行為 は,言 語 を介 さな くて も,身 体 と身. 法」 を充実 させ る こ とで はな く,本 当 に大切 なの は. 体 を介 して看護技術 を提供する中で行 われる,『 触 れ. 伝 え られ る側 の学 生 の立 場 で考 えた「伝 わる状態」 を. る』 と同時に 『触れ られる』働 きがけを通 して,看 護 師か ら患者へ ,ま た患者か ら看護師へ の,身 体 を介 し. い か につ くるか なのであ る。臨床実習 とい う教育 の場. た コ ミュニ ケ ー シ ョンと しての意義 を有す る とい え. ない貴重 な場 で あ る し,そ の宝 庫 で あ る とい う認識 が. る。 この身体 を介 した コ ミュニケー シ ョンは,看 護師. 教 師佃1に 求 め られ る。. ,. は,そ の「伝 わる状態」 の創造 には欠かす こ との出来. と患者 の相互 の関係性 を深める ことに繋がると考え ら れた。 しか し,一 方では,看 護師の触れ方 によっては うと述 」 (中 略)関 係性が疎遠 になる ことも示唆 された。 べ てい る。. V。. お わ りに. 看護技術教育 は長 い歴 史 を持 ちなが らも,い まだに. 二人の学生の学習過程が示す とお り,看 護技術 の. 効果 的 な教育方法 を編 み 出す こ とがで きず混沌 と した. 相互身体的〉な本質への理解が技術を伝える側 (教 〈 師)の 資質 としてどれほど重要 であるかが理解 で き. 状況 にあ る。それ は,看 護技術 そ の ものの特 質や ,そ. る。. か った ことに起 因す る もの と考 え られ る。 学 生 の看護. 学生の閉ざされた意識が患者に開かれてい くために. れ を解 明 して い く独 自の 方法論 的吟味が な されて こ な 実践 能力 を育成す るため には,看 護基礎教育 全体 で. ,. は,あ くまで も教師自身が学生 との間で 〈 目互 身体的〉 本. 個 々の学 生 の体験 の なか に潜 んで い る事例 を積 み重 ね. な関係性 を築かなければならない。 ここか ら学生は患. なが ら,効 果 的 な教育方法 を見 出 して い くこ とが急 務. 者 との間で,単 なる知識によらない,自 分 自身の心 身. であ ろ う。. を通 して体得で きる関 りの豊か さに気 づ くのである。. 本研 究 は学生 の 実習記録 の一 部分 を取 り上 げ ての 考 察 に過 ぎず ,臨 床実習 にお け る教 師側 の指導方法 へ の. 3.教 える側 ,伝 える側の誤解. 参加観 察や イ ン タ ビユ ー を含 めた研 究 を重 ねて行 きた. 看護 の技術教育に携 わる教 師たちの多 くは,看 護技 術 の正 しい手順や行為 の模範 を示せば,学 生に伝 わる と信 じてい る。 しか しこれが大 きな誤解 なのである。. い。 今 回 ,研 究 の 趣 旨 を理 解 した 上 で 研 究 に協 力 して く れた. 2人 の 学 生 に深. 云える側が,い くら 畑村 は,伝 える側の問題 として「イ 『伝 える』 とい う動作 を必死 になって積み重ねた とこ ろで,結 果 として伝 わってい なければ,そ れは 『伝 え 労と述べ てい る。 た』 ことにならない」 看護 の技術教育 にとって もまった く同 じことが言 えると思 う。臨床実 習において学生が実践 で きないことを,学 生の能力 の せ い に して,で きない,で きない と学生 を追い詰 めて はないだろ うか。看護技術の一つ一つ は,患 者 と看護 師 との 関係性 の 中でめ ま ぐる しく変化す る もので あ る。教 師 はその只中で,学 生の出す手,引 く手に,教 師自身の手が寄 り添 わなければならないのである。先 に述べ た学生達が示 してい るように,患 者 とのかかわ りの行 き詰 ま り,手 技 自体 の未熟 さ,学 生はあ らゆる 手段 を用 いて SOSを 発 してい るのである。 日々の記 録物か らもい たるところに SOSが 読み取れる。短 い 実習時間や ,短 い患者 との出会 い を考 える と,そ の. く感 謝 い た し ます 。. 文. 1)ア ー ネ ス テ イ ン. 献. ウ イー デ ンバ ック.外 国王 子 ,池. 田明子訳 :臨 床看護 の本質. 患者援 助 の技 術 .改 訳 第. 版 ,現 代社 ,東 京 ,1984,69. 2)ジ ョイス トラベ ル ビー .長 谷 川 浩 ,藤 枝 知 子 訳 人間対 人間の看護 .医 学書 院 ,東 京 ,1974,141-142. 3)ア リス トテ レス .加 藤 信 朗 訳 :ニ コマ コス 倫 理 学 。 :. 岩波書 店 ,1977.. 4)池 川清 子. :看 護 にお け る技 術 教 育. 看 護 技 術 の意 味. をめ ぐって ,Quality Nursing 1995;1(9):28-31.. 5)稲 田八 重 子. :現 代 看 護 の 探 究者 た ち .ア イ ダ. オー. ラ ン ド 看護過程理論 一。 医学書 院 ,東 京 ,2009,126.. 6)野 島良子. :人 間看護 学序 説 。 医学 書 院 ,東 京 ,1976,. 133.. 7)畑 村 洋 太 郎 ;組 織 を強 くす る 技 術 の伝 え方 。 講 談 社現代新書 ,東 京 ,2006,67. 8)川 西 美佐 :看 護 技 術 にお け る「触 れ る」 こ との 意 義 整 形外 科 看 護 師 の生 活行 動 援 助 技 術 を身体 性 の 観 点. 時,今 ここでの教師の指導が何 よ りも重要 である こと. か ら探 求 して。 日本 赤 十字広 島看護 大学紀 要. は言 うまで もない。. 号 :11-19.. 教育方法,つ ま り伝 える側が最 も力 を注がなければ. 2. 9)前 掲書 7)51.. 2005:5.
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