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シンチロメータによる森林の乱流フラックス計測

*電力中央研究所 環境科学研究所

中 屋 耕†

Scintillometric Measurements of Turbulent Flux over a Forest Canopy

Ko NAKAYA,

Environmental Science Research Lab., Central Research Institute of Electric Power Industry

1 はじめに 1.1 乱流フラックスとは 大気と地表面との間でのエネルギーや物質の交換 は,主に大気乱流によって駆動される.森林の林冠 の場合,太陽から受け取った熱エネルギーの多くは 周囲の大気を直接暖める顕熱や,水を蒸発させる潜 熱として使われ,暖められた空気塊は水蒸気と共に 乱流によって素早く森林の外の大気と交換される. 水蒸気と同様に,生物の呼吸や光合成によって生じ た二酸化炭素や酸素などの気体も乱流によって輸送 される.このため,乱流運動を代表する風速の鉛直 成分変動と気温や様々な気体の密度変動の共分散 ( )を同時に測定することにより,森林と大気 間のエネルギーおよび物質の鉛直方向の交換速度を 求めることができる(u,v,w は,風向方向,横風 方向,鉛直方向の風速成分,c は温度等のスカラー を表す).この交換速度を単位面積あたりの値で示し たものをフラックスと呼び,顕熱フラックス H (Wm-2),潜熱フラックス lE (Wm-2) 等の形で表す. また,代表的なフラックス測定手法を渦相関(EC : eddy-covariance)法と呼ぶ. 周囲に均一な森林が広がっていれば,タワーなど を利用して森林上空にEC を適用することで,その 森林を代表するフラックスが得られると考えられて いる.つまり,風上から大小様々な乱流(渦)が次々 と測定装置を通過するため,均一な乱流場であれば, 適切な時間平均値を得ることで周囲の代表的な値を 把握可能であり,乱流情報の時間平均値を空間平均 値と同義とする凍結乱流仮説に基づいている. フラックス評価は,比較的短時間(数分~数時間) の変動を捉えることができることから,陸域生態系 における素過程の解明や地表面付近の大気乱流の実 態解明に活用されている.例えば,CO2フラックス の連続測定から森林に吸収(あるいは放出)された 正味の炭素量を見積もる生態系純交換量(NEE:net ecosystem exchange)評価が世界的に行われている1) これは,相互比較可能な品質のグラウンドトゥルー スを獲得することで陸域生態系の炭素循環モデルの 高度化等に寄与しようとする取り組みである. 一方,EC によるフラックス評価に加え,大気乱 流は浮力パラメータ,レイノルズ応力および顕熱フ ラックスの 3 つのパラメータで表されるとした Monin-Obukhov の相似則(MOST)の適用によって, 温度,比湿などのポテンシャルのプロファイル測定 から顕熱や潜熱フラックスが求められることが示さ れ,さまざまな乱流輸送モデルやフラックス測定手 法の実用化が進んだ 2).こうした理論および測定手 法は,安価で運用が容易な装置や,先進的だが時定 数の大きな計測装置の適用を可能とするため,様々 な地表面形態や新たなガスフラックス測定に適用さ れてきた. 1.2 乱流フラックス評価における問題 凍結乱流仮説が満たされれば一地点での測定によ って対象領域を代表する値が得られる.しかし,地 形や土地利用形態が不均一な場合や大気乱流の状態 に応じてしばしば乱流フラックス測定値に精度的な 問題が生じることがある.その場合,乱流フラック スが関わるエネルギー収支が不均衡となるインバラ ンスが生じる.エネルギー収支は,地表面に入力さ れる有効エネルギーである純放射量に対する伝熱 (顕熱)や水の蒸発潜熱として消費されるエネルギ ー,および土壌や植物体による貯熱変化量としての *〒270-1194 我孫子市我孫子 1646 †E-mail: [email protected] 〔特集〕センシング技術と気象研究 © 2013日本流体力学会

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エネルギーの釣り合いである.このうち乱流フラッ クスとして測定されるのは顕熱フラックスと潜熱フ ラックスで,貯熱量は日周期で放熱と吸熱を繰り返 すため,長期間積算値におけるエネルギー収支は顕 熱フラックスと潜熱フラックスおよび有効エネルギ ーとの比較となる.例えばFLUXNET では,有効エ ネルギーに対する熱フラックスの寄与がサイト間の 平均で 0.7-0.8 程度である負のインバランス傾向 (熱フラックスの過小評価)が問題となっている3) その原因として,タワー自体およびセンサが引き 起こす大気の局所的な擾乱や,物質交換に及ぼす局 所的な平均流の影響が考えられている.それに関連 して,同一地点における複数のフラックスタワー間 の比較観測やLES を用いた数値実験を通して EC を 任意の地点で実施した場合,測定値が過小評価傾向 となる確率が高いことなどが示された4).これらは, 単一のタワー観測で行われるフラックス評価に対す る精度的な問題を投げかけている. 2 シンチロメータによるフラックス評価 2.1 シンチロメータの概要 乱流測定センサは,ある広がりを持った風上領域 を起源とする信号を捉える.センサによってこの信 号の起源領域(ソースエリア)が異なれば,センサ 間で測定値の差異からフラックス測定が空間スケー ルに依存することを実証的に裏付けることができ, EC によるフラックス評価の不確定さの原因解明に 繋がると考えることができる. シンチロメータは,乱流による温度変動が引き起 こす大気の可視光域の屈折率変動を遠隔光源の受光 強度の変動,すなわち光のゆらぎ(シンチレーショ ン)として検出する装置で,光を発するトランスミ ッタと受光装置であるレシーバで構成され,装置間 の距離を光学的な測定パスとして0.05-数 km に設定 することができる(使用可能距離は装置によって異 なる)ことから乱流信号のソースエリアが従来のセ ンサに比べてより広域であると期待される. シンチレーションは,屈折率変動の構造関数定数 および内部スケール に変換され,MOST の適用 によって乱流運動量,顕熱および潜熱フラックスに 換算される(シンチレーション法).この手法は, Tatarskii5)による大気乱流と屈折率変動の理論に基 づいており,Hill et al.6)等で詳説されている. 現在一般的に利用されているシンチロメータは,2 種類に大分される.可視レーザーを光源とする小口 径 シン チロメ ータ(DBSAS: displaced-beam small

aperture scintillometer)は,測定パスの上限が 250m 程度と比較的短距離であるが,顕熱フラックスに加 えて大気運動量の指標である摩擦速度も評価できる. 一方,近赤外LED 等を光源とする大口径シンチロメ ータ(LAS: large aperture scintillometer)は,測定パ スを数km まで長距離化できる装置で顕熱フラック スを評価する.シンチレーション法の主な利点は, 感度分布はあるものの,光学パス全体における平均 値が得られること,短い平均化時間でフラックスが 計算可能であること,および装置による測定場の擾 乱がないことなどで,これらはフラックス評価の代 表性を高める要素である.一方,複数タワー等の設 置基盤のコストや,EC に比べてフラックス算出の ために用いる仮定が多いこと,霧や雨などによる光 路遮蔽から測定不能になることが主な不利点である. シンチレーション法のフラックス測定手法としての 妥当性は,主に EC との一致によって判断されてき た.測定パスを長距離化できるLAS は,大気不安定 状態において草丈の短い乾燥した地表面では EC の 結果とよく一致した 7).一方,パッチ状の土地利用 形 態 や 起伏 の あ る地 形 など 一 様 でな い 地 表面 に LAS を適用した例では,EC の結果より大きな値を 示す傾向が見られている8) 2.2 森林へのシンチロメータの適用 シンチレーション法は,運動エネルギーや温度変 動などの消散率からフラックスを算出する消散法と 呼ばれる理論を応用している.大気境界層では,乱 流の「生成」と「消散」が絶え間なく行われている. 消 散 率 は , 摩 擦 に よ る 乱 流 エ ネ ル ギ ー の 消 散 (dissipation)を表し,渦相関法によって得られる乱 流変動量からは生成(production)に関する情報が得 られる.そして,地面近くでは,乱流の生成と消散 が釣り合い,それ以外の輸送,浮力,圧力の変動が 無視できるとして,消散率から乱流変動量を算出す る 9).その過程で MOST を適用する必要があるが, 地表面の粗度や不均一さが増すほどその成立性の確 認は困難になる.そのため,森林へのシンチロメー タの適用性を確認した例はほとんどなかった.そこ で,筆者等は,EC センサからも導出できる乱流運 動の消散率を比較対象の一つとすることで,DBSAS を森林に適用した際の特性およびフラックス測定結 果の妥当性の評価を試みた10)11)12) 2.3 シンチレーション法の原理 シンチロメータによるフラックス算出では,まず 光強度変動の測定から屈折率変動の構造関数定数

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(m-2/3)および,DBSAS では内部スケール (mm) を決定する(算出の詳細は省く). からは次式によ り,乱流運動エネルギー(TKE)の消散率 が得られ る. 7.4 (1) ここで,ν (m2s-1)は空気の動粘性係数である.また, から温度変動の構造関数定数 (K2m-2/3)が求め られる. 0.78 ∙ 10 1 0.03 (2) ここで,T は平均気温 (K),P は大気圧 (Pa)で別途 測定した値を用いる.β はボーエン比(潜熱フラッ クスに対する顕熱フラックスの比)で,シンチロメ ータの水蒸気補正を表す. 次にMOST の適用により,顕熱フラックスを算出 する.Monin-Obukhov 長 LMO (m)は以下で表される. MO ∗ 3 p 0.61 (3) k=0.4,g=9.81 (ms-2)は重力加速度, (kgm-3) は空気 密度.cp (Jkg-1K-1)は空気の定圧比熱.摩擦速度 u* (m2s-2)および摩擦温度 T * (K)は,安定度パラメータ ( / MO) を変数とする TKE および温度変動の無 次元消散率 および を用いて TKE 消散率 および温度変動の構造関数定数と次のように関連づ けられる. ∗ (4) ∗ / 4 (5) ここで,z (m)は地表からの高さを表し,実際の測定 光路高 zmとゼロ面変位 d0により地表面粗度に応じ た実効高さ( m )として与えられる.温度変 動の構造関数定数と消散率 は, 4 / して関連づけられる. は,Obukov-Corrsin 定数 (=0.8). および については,観測結果 から求められたいくつかの関数形がそれぞれ安定お よび不安定条件に対して提案されており13),それら を(4),(5)式に適用して,繰り返し計算により,LMO, u*T*を求め,次式から顕熱フラックスを算出する. p ∗ ∗ (6) ただし,LAS は のみ出力するため,風速の多高度 観測等によりu*を別途評価する必要があり,その際 に観測される風速が, のソースエリアと対応しな い懸念がある.また,この手法では,安定度パラメ ータζの符号に対応して二種類の顕熱フラックスが 算出される.大気が不安定(ζ < 0)で加熱状態にあ るか,大気が安定(ζ > 0)で放熱状態にあるかを状 況に応じて判断し,H の符号を決定する必要がある. 2.4 EC センサによる消散率の算定 ここでは,EC センサによる測定値から消散率を 算定する方法について述べる.乱流信号からの消散 率算定には,スペクトルの慣性小領域における特性 を利用するため,スペクトルの実空間表現である構 造関数にもとづいて消散率の推定法を用いる.任意 の距離座標x における 2 次の構造関数 は次の ように定義される. ≡ ∆ ∆ , ∆ ≡ (7) ここでr は距離スケールであり,a と b はそれぞれ uT などを表す.Kolmogorov の理論によれば,r が 慣性小領域内にあるとき,u およびスカラーc に関す る2 次の構造関数と消散率は,以下のような比例関 係にある. 4 / / (8a) 4 / / / (8b) ここで は,Kolmogorov 定数(=0.55).構造関数 は,EC センサで測定されて時系列において, 平均風速と測定時間差を距離スケールr に変換する ことで得られる.凍結乱流仮説が成立すると,時系 列のデータ間の時間差τと平均風速は, の関 係にある.式(8)に示すように 2 次の構造関数が r2/3に比例していることから,慣性小領域に相当する 範囲で構造関数に r2/3の曲線をフィットさせる係数 として消散率を求める.超音波風速計のパス長d よ り小さい乱流変動は測定されず,測定高さよりも大 きい渦はその一部分しか測られないことから,浅 沼・工藤 9)は,十分に乱流変動測定が保障されるフ ィット範囲として2d<r<z/2 を示している. 3 シンチロメータの森林への適用 3.1 観測地点の概要 観測地(軽井沢サイト)は中部地方の浅間山東麓 (36°24′N,138°35′E,標高 1380m)に位置し, 火山堆積物の上に有機物層が発達した平坦な緩傾斜 地(南西から北東に向かって-3°)に,林齢約 50 年の 2 次林が成立している.地上高約 16-18m の

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林冠を構成するのは主にダケカンバ(Betula ermanii Cham.)等で,更に亜高木であるナナカマド(Sorbus commixta Hedl.)等が中層を占める.単位土地面積あ たりの葉面積(LAI)は約 5.7 (m2m-2)であった.着葉 期は5 月から 10 月の間で,12 月から 3 月の間は積 雪する.軽井沢測候所(999 m a. s. l.)における 1971 ~2000 年の平年値では,年平均気温 7.9℃,年降水 量1197.6mm であった.森林のフェッチは主風向に 対してそれぞれ約1km(N),600m(W)である12) 3.2 DBSAS および EC によるフラックス観測 DBSAS の測定パスは,東西に 86m の間隔で配置 した2 基の鋼製足場材組上げタワーの塔頂(地上高 28m)に設定した.DBSAS は SLS40A(Scintec AG, Germany)を用いた.シンチロメータのトランスミ ッタとレシーバをそれぞれ西側と東側に配置し(図 1 ), 付 属 の PC ソ フ ト ウ ェ ア ( SLSRUN , ver.2.23;Scintec AG)を用いて, および の算出に 必要な光強度変動を4kHz サンプリングで 1 分間ブ ロック平均値として収録した. EC によるフラックス測定は東側の塔頂(Tower-1) で行い,3-D 超音波風速計 USA-1(Metek GmbH, Germany),open-path 式 CO2/H2O 変動計 LI-7500 (Li-Cor Inc.,USA)を用いて 10Hz サンプリングで 運動量,顕熱,潜熱フラックスを測定した(図 1). 放射収支の測定には 4 成分式放射計 MR40(Eko, Japan)を用いた.EC の計算にはブロック平均化時 間として 30 分を用いた.解析の前処理として,(1) 超音波風速計による音仮温度に対する横風補正およ び水蒸気補正を行い,(2)Planar-fit によるセンサの傾 度補正を行った.また,open-path 式 CO2/H2O 変動 計には WPL 補正を施した.また,シンチロメータ との比較に用いるために,EC センサによる測定値 からTKE および温度変動の消散率を算定した.2002 年から 2005 年の間に取得した観測値を解析対象と した. 図1 軽井沢サイトの概観とフラックス測定装置の配置 11) 3.3 消散率の特性 DBSAS による温度変動および比湿変動の消散率 は,測定パスに直行する北風の際に EC を上回る傾 向があった.TKE に関しても,DBSAS は北風の際 にEC を顕著に上回る傾向が見られるが,それ以外 の風向ではEC より小さくなった.この関係は,平 均風速で標準化した鉛直風変動σ / (相対乱流強度) と関連が強い.σ / は平均風速に対する鉛直方向 の気流の乱れの強さを表し,平均風速が小さいほど 大きくなる傾向がある.DBSAS と EC の消散率比 / および / が,σ / の増加に対して漸 近的に減少する関係を図2 に示す.風速が大きく相 対乱流強度が小さい条件下でDBSAS による消散率 が EC による消散率を上回り,風速が小さく相対乱 流強度が大きい場合にはEC による消散率が DBSAS を上回る傾向があり,境界的なσ / の値は,約 0.3 -0.4 であった.この結果から,大気乱流の状況によ ってDBSAS および EC センサによって検出される信 号に差異が生じていることが分かる. 図2 DBSAS および EC センサ間の消散率比と相対乱流強 度の関係11)(A) TKE,(B) 温度変動. 3.4 無次元消散率の特性 森林上のMonin-Obukhov 普遍関数は,裸地や草地 などの地表面で得られた結果に比べて大きなばらつ きを持ち,その関数形も異なると言われており,無 次元消散率についても同様のことが予想された.EC セ ン サ によ る 測 定値 か ら算 出 し た無 次 元 消散 率 ( , )と大気安定度パラメータζとの関係を図 3 に示す. および は,これまでに経験的に求め られた主な関数モデルより値の大きな領域に分布し た.理論的には,消散率がモデルより大きくなると u*およびH の計算結果は小さくなる.本サイトでの 測定高は林冠の1.4-1.6 倍に相当し,林冠上に形成 される粗度層と呼ばれる境界層の影響を測定値が受 けていることが考えられる。このため,より高い位 置で測定することにより,これら無次元消散率の分 布がモデルに近づく可能性はある.

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3 不安定条件下での渦相関センサによる無次元消散率 と大気安定度パラメータの関係11)(A) TKE 無次元 消散率,(B) 温度変動無次元消散率,これまでに発 表された経験関数も示す. 図4 DBSAS および EC によるフラックスの比較11).着葉 期および落葉期のデータを区別して表示. 3.5 EC および DBSAS によるフラックスの比較 DBSAS および EC によって得られたフラックス 測定値を比較すると,摩擦速度u*は,約0.4ms-1より 大きい領域ではDBSAS が EC に比べて小さい値を 出力する傾向があった(図4A).同様の DBSAS を 草地に適用した例でも,同様の傾向が報告されてい るが,筆者らの結果はその傾向が顕著であった.こ の結果は,実際のTKE 無次元消散率 がモデルより 大きいとu*は小さく計算されること,およびDBSAS によるTKE 消散率 が小さい傾向を反映している. 一方,顕熱フラックスH は DBSAS による値が EC に よる値を常に上回る傾向があった(図4B).これは,(6)において u*が小さく入力されたことと, が EC に比べて大きい値を示す傾向を反映している. また,H および u*の分布は葉の有無で明らかに異な る傾向を示し,DBSAS の結果と EC の結果の差異は 着葉期においてより大きかった.これは,展葉と落 葉によって粗度が変化し,ゼロ面変位d0が変化した ためと考えられる. 3.6 フラックス測定のインバランス 熱収支の整合は,フラックス測定における妥当性 の一つの指標である.乱流フラックスベースのイン バランス率 IRh は,熱フラックスと純放射量 Rn (Wm-2)を用いて次のように書ける. h / (9) 上式には,植物体や地中および大気の貯熱項が含ま れていない.これらは森林内では値が小さく,最大 でも±数 10Wm-2程度であり,昼間の熱収支は放射 と熱フラックスが支配する.熱フラックスが入射エ ネルギーを下回ると, hが負の値を取るインバラン スが生じる.図5 に 2 基のタワーで同時計測した EC による平均インバランス率IRhとEC による消散率へ のDBSAS の消散率比を示す.シンチロメータと EC の計測値の差異が大きいほど,負のインバランスが 大きくなる傾向があり,それは風速が大きく相対乱 流強度が小さい条件で顕著であった.逆に風速が小 さく相対乱流強度が大きな条件では,熱収支が整合 に向かう傾向が見られた. 図5 大気不安定時の DBSAS と EC の温度変化の消散率比 とインバランス率の関係 12).2 つのタワーの平均値 から算出,回帰係数はp<0.0001 で有意. 3.7 ソースエリアの検討 センサの検出した乱流信号が起源とする領域の違 いを定量化するためにフットプリントモデルを用い る.フットプリントは,センサで検知する信号の風 上領域からの寄与を表す概念で,風向軸におけるフ ラックス測定への寄与の大きさを表す関数として定 義される.そして,フットプリントを2 次元的に表 現したのがソースエリアで,乱流信号に対して同一 の寄与率をもつ信号の起源領域を表す.ソースエリ アは,フットプリント関数に横風の分布を与えるこ

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とで描かれる等値線で囲まれた領域と定義される. ここでは Kormann and Meixner14)の解析的フットプ リントモデルF(x)を用いる.このモデルの入力変数 は,風向軸x における平均風速 u,摩擦速度 u*,安 定度パラメータζ,測定高さz である.F(x)と横風方y における風速変動σvの感度関数D(x, y)との積が 描く等値線に囲まれた領域がフラックス測定のソー スエリアとなる(図6). 6 EC および DBSAS による乱流フラックス測定のソー スエリア11)(a) フットプリントおよび (b) 90%寄与 率の等値線の例. 図7 ソースエリア比に対する DBSAS および EC 間の温度 変動の消散率比の関係11).大気不安定時(ζ < 0)と 安定時(ζ > 0)を示す. DBSAS に相当するフットプリントの等値線は,横 風感度関数D(x, y)に DBSAS のパス長をオフセット として与えることで計算する.それぞれの等値線を 積分することで,DBSAS のソースエリア ASASおよ び EC のソースエリア AEC が得られる.風向が DBSAS と直行する場合に ASASは大きくなり,風向 がDBSAS パスと平行な場合,ASASとAECは等しく なる. / の分布の上限線はASAS/AECに対応し て増加する傾向があった(図 7).しかしσ / が大 きい場合には,ASAS/AECに関わらず, / は小 さな値をとった.この結果から,DBSAS のソースエ リアが EC に比べて大きいほど,観測される消散率 が大きくなることが推察できる. 3.8 異なる測定パス長における DBSAS 同時測定 ソースエリアが異なると,検出される乱流信号も 異なり,温度変動の消散率 はソースエリアに応じ て 大 き くな る こ とが 分 かっ て き た. そ れ を同 じ DBSAS による測定によって確かめるために,2 つの DBSAS の測定光路(パス)を異なる長さで直交す るように配置し,昼間の大気不安定時を対象とした 同時測定を行った.第 3 のタワーとしてアーム長 28m の高所作業車を用いた.パスは L 字型に配置し, EC システムは L 字の頂点(Tower-1)に配置して同 時測定(2005 年の 7 月および 9 月において延べ 7 日 間の昼間に実施)を行った. 図 8 直交した異なるパス長の DBSAS 間における温度変 動の消散率の比較12) 測定期間中は霧が多く,解析に供するデータを豊 富に得ることができなかったことに加えてセンサの 動揺による低周波のエラーが散見された.そこで, DBSAS は EC に比べて時系列データの平均化時間 を短時間にすることができることに着目し 15), DBSAS の測定値からの消散率算定に用いる平均化 時間を5 分として再計算を行った.この処理により, 解析に用いるデータ数が増えると共に,エラーを含 んだデータを解析から除外できた.南北パス(150m)

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のDBSAS による温度変動の消散率 は,東西(86m) パスのDBSAS による値より大きな値をとる傾向が あった(図8).温度変動の消散率とソースエリアの 間に,有意な正の相関がある一方,TKE 消散率につ いては相関関係が見られなかった.DBSAS 間におい て TKE 消散率に明確な対応が見られなかった原因 について現時点では不明である.また,DBSAS によ る摩擦速度の過小評価傾向の原因についても不確定 である.しかしながら,直交パスDBSAS の同時測 定によってソースエリアへの依存性を明らかにする ことができたことは,DBSAS と EC センサを組み 合わせた解析が,林冠上の大気乱流輸送機構の解明 に有効であることを示している. 3.9 乱流変動項の空間的偏り 水平一様な地表面において,上下方向の定常流が ない状態では,時間平均および空間平均の乱流フラ ックスは風速の鉛直成分w とスカラーc によって次 のように記述される. (10a) (10b) ここに,( )および([ ])は,それぞれ時間および 空間平均を表し,添字(’)は平均値からの変動,添 字t と s は時間的および空間的変動を表す.式(10a) の右辺第1 項 は,ある地点でのローカルな鉛直 平均流に駆動される鉛直移流を表す.第 2 項 は,EC で測定される乱流変動項である.大局的に 上下方向の定常流がない状況( 0)においても, ある地点でのローカルな鉛直平均流 は値を持つ. 従って,ローカルな鉛直移流項を無視することはで きず 4),対流の卓越する大気不安定状態では,単一 タワーで測定される時系列に基づく熱フラックスは 系統的に過小評価となる可能性がある 16).対して, ある時点における空間平均フラックスは乱流変動項 のみを用いて表される(10b).領域を代表するフラッ クスは,式(10a)の空間平均 によって, あるいは,式(10b)の時間平均 によっ て得られる.式(10a)内のローカルな鉛直移流項は, 空間平均によっても完全に消えることはないがほと んど相殺される.その結果,乱流相関項の値が大き くなりインバランスが緩和される17).これらのこと から,フラックス測定値の領域代表性は複数タワー 観測やソースエリアの大きなセンサによる乱流変動 項あるいは消散率の測定によって向上すると言える. 上記の傍証として,2 基のタワーにおいて同期し て実施した同一システムのEC の出力を比較したと ころ,乱流信号に明らかな差異が見られた.風速の 水平成分には風上の地形の影響が見られて2 カ所の 測定値が異なったが,乱流輸送項には水平風とは別 の明確な空間的偏差があった.乱流輸送量の空間的 偏差は,大気の鉛直混合が相対的に小さいほど大き かった12).この結果からも,単一のタワーで測定さ れる時間平均フラックスには測定地点による空間的 な偏差が生じていることが分かる.これに対し,熱 収支の整合を指標とすると,ソースエリアが広い条 件の DBSAS は,より空間平均値に近い乱流信号を 検出すると考えられる. 4 シンチロメータ計測の問題点と展望 ここでは,シンチロメータの適用に際して注意す べきこと,解決すべきことを述べる.まず,シンチ ロメータ単体ではフラックス算出のために十分な情 報が得られない.DBSAS,LAS 共に式(2)のとおり, 気温と気圧を別途計測しなければならない.さらに, LAS は u*も風速測定から決定する必要がある.加え て,(2)式は,水蒸気量の変動が大きい場合,潜熱フ ラックスの測定結果による補正が必要であることも 示している.特にTKE 消散率は水蒸気フラックスへ の感度があり,水蒸気量の変動に応じて乾燥時の0.8 倍まで低下することが分かっている10).別途計測さ れるこれらの気象要素は,シンチロメータとはソー スエリアが異なることから,多点の平均値を用いる など空間平均値を得る工夫が必要であろう. フラックス算出に必要な MOST の成立について も注意を払う必要がある.平坦な草地や森林では十 分な測定高度を設定する一方,都市や複雑な地形に 適用する場合には,MOST の成立性や地表面粗度を 確認する必要がある. また,シンチロメータを上空に設置するためのイ ンフラ整備には大きなコストを要するが,高所作業 車を活用した集中観測によって,EC を補うデータ を短期に取得する運用も考えられる. 今後を展望すると,シンチロメータに2 波長の測 定光を用いることで,水蒸気変動の消散率ε および 温度変動の消散率 を同時に測定できるため18),温 度および湿度変動の空間的な偏差の理解が更に進む と期待される. シンチロメータは,これまで述べてきたローカル な乱流フラックス評価のみならず,リモートセンシ ング19)への活用も行われている.従来とは検出する 乱流信号のソースエリアが大きく異なる装置として, 乱流輸送過程の空間スケールについて,理論と実測 の橋渡しに役立つ可能性を秘めている.

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引 用 文 献

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図 3 不安定条件下での渦相関センサによる無次元消散率 と大気安定度パラメータの関係 11) . (A) TKE 無次元 消散率,(B)  温度変動無次元消散率,これまでに発 表された経験関数も示す. 図 4 DBSAS および EC  によるフラックスの比較 11) .着葉 期および落葉期のデータを区別して表示. 3.5  EC および DBSAS によるフラックスの比較  DBSAS  および EC によって得られたフラックス 測定値を比較すると,摩擦速度 u * は,約 0.4ms -1 より 大きい

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