は じ め に 相続 税の 納税 義務 者は
、「 相 続に より 財産 を取 得し た個 人」
(相 続税 法一 条の 三) であ る。 この こと から 次の 二つ のこ と が いえ る。 すな わち
、相 続税 は財 産の 取得 に着 目し て課 され てい ると いう こと
、及 び、 納税 義務 者は 自然 人に 限ら れて い る とい うこ とで ある
。前 者に つい てい えば
、相 続税 の課 税方 式に 遺産 税方 式と 遺産 取得 税方 式と があ
で、 わが 国の 相 続 税は 基本 的に は遺 産取 得税 方式 に基 づい てい ると 考え るこ とが でき
後者 につ いて は、 法人 が相 続税 の納 税義 務者 か ら 除外 され てい るこ とが いえ る。 しか し、 相続 によ って
、あ るい は、 相続 税を 補完 す
与 税の 対象 であ る贈 与に よっ ても
、財 産を 取得 でき るの は、 自 然 人に 限ら れた こと では ない はず であ る。 法人 が法 律上 の権 利・ 義務 の主 体と して 認め られ てい る以 上、 法人 との 贈与 契 約 の締 結は 可能 であ る。 つま り、 法人 に対 する 無償 の財 産供 与は 法律 上何 ら問 題な く行 える ので ある
。ま た相 続に つい て も
、遺 贈と いう かた ちで 法人 に対 して 被相 続人 の財 産を 分配 する こと がで きる
。そ れに もか かわ らず 法人 は相 続税 の納 税 義 務者 では ない ので あ
( 1
る)
中
( 2
る)
。
( 3
る)
贈
( 4
る)
。
一
(
) 一
法 人 の 相 続 税 納 税 主 体 性 に つ い て
奥 谷 健
この 点に つい て、 遺産 取得 税方 式の 考え 方に よれ ば、 遺産 を取 得し た者 が納 税義 務者 とな るは ずで ある から
、法 人も 相 続 税の 納税 義 務者 にな り 得る はず で ある
。実 際に
、遺 産取 得税 方式 を 採用 し てい るド イ ツ相 続税 法(Erbschaft-Schenkung-
steuergeset
にお いて は、 法 人に 対す る納 税義 務が 認め られ てい る
(ド イツ 相続 税法 二条
、 二
〇条
)。 では
、 なぜ わが 国 の 相続 税法 は法 人を 納税 義務 者か ら除 外し てい るの だろ うか
。 これ につ いて
、こ れま では 法人 が被 相続 人に なり 得な いこ とを 根拠 に説 明さ れて きた と考 えら れる
。つ まり
、法 人と い う 存在 は法 律上 の擬 制で ある 以上
、そ の死 亡と いう こと は考 えら れず
、法 人に よる 相続 が発 生し ない こと が、 法人 に対 す る 相続 税の 課税 が生 じな い理 由と して 挙げ られ てき たの であ しか し、 被相 続人 に対 して 相続 税の 課税 関係 を考 える のは
、遺 産税 方式 の考 え方 であ る。 他方 で、 わが 国の 相続 税は 遺 産 税的 要素 を含 んだ 遺産 取得 税で ある とい われ てい
そう であ れば
、遺 産取 得税 方式 の考 え方 に基 づい て納 税義 務者 に つ いて 考え るこ とも 可能 なは ずで ある
。実 際に
、納 税義 務に つい ては 相続 によ る財 産の
「取 得」 に着 目す るこ とが 明記 さ れ てい る。 つま り、 わが 国の 相続 税は 基本 的に は遺 産取 得税 方式 に依 拠し てい るの であ るか ら、 被相 続人 に対 する 相続 課 税 を念 頭に おい た上 記の 説明 は、 遺産 取得 税方 式を 基礎 にお いた わが 国の 現行 相続 税の もと で法 人が 納税 義務 者か ら除 外 さ れる 理由 とし て不 充分 であ ると も考 えら れる ので ある
。 そし て、 上記 のと おり
、ド イツ では 遺産 取得 税の もと で法 人も 相続 税の 納税 義務 者と なっ てい るの であ る。 なぜ
、ド イ ツ では 法人 も相 続税 の納 税義 務者 とな るの であ ろう か。 その 根拠 につ いて みて みる こと で、 納税 義務 者と いう 観点 から
、 わ が国 の相 続税 法の あり 方、 ある いは
、法 人税
(場 合に よっ ては 所得 税も
)の あり 方を 考え る場 合に
、何 らか の示 唆を 得 ら れる かも しれ ない
。そ こで 以下 では
、ド イツ の相 続税 の納 税義 務者 をめ ぐる 議論 をみ るこ とで
、わ が国 の相 続税 の納 税
( 5
)
z
)
( 6
る)
。
( 7
る)
。
<
論 説
>
修 道 法 学 三 五 巻 一 号
二
(
) 二
義 務者 の問 題に つい て考 えて いく こと にし よう
。 一 ド イ ツ 相 続 税 法 に お け る 納 税 義 務 者 ドイ ツ の相 続税 法 二〇 条一 項 は、 取得 行 為(
=課 税対 象) との 関 連で
、租 税 債務 者(Steuerschuldner
)と いう 意味 で、 死 亡 によ る取 得
(一 条一 項一 号) の場 合に は財 産の 取得 者を 納税 主体
(Steuersubjekt
)と して 規定 して いる
。こ れに よっ て 法 人も 相続 税の 納税 義務 者と なる
。実 際に
、法 人で ある 物的 会社
(Kapitalgesellschaft
)は
、法 人 税に 関し ても 相続 税に 関 し ても
、そ の社 員と は区 別さ れた 独立 した 納税 主体 とし て評 価さ れて いる
。法 人に 対す る譲 渡(Zuwendung
)に おい て、 財 産の 取得 者は 法人 であ って
、そ の社 員で はな いと いう こと にな る。 そし てこ のこ とは
、譲 渡の 効果 とし て会 社持 分の 価 格 が増 加し ても 変わ らな いと 考え られ てい ただ し、 ド イツ 法に おい て法 人格 が認 めら れて いる のは
、物 的 会社 のみ であ り、 合 名会 社(OffeneHandelsgesellschaft:
OHG
)や 合 資会 社(Kommanditgesellschaft:KG
)、 パ ート ナー シッ プ(Partnerschaft
)、 民法 上 の会 社(BGB-Gesellschaft
) と いっ た人 的会 社(Personengesellschaft
)に 法 人格 は認 めら れて いな い。 その ため
、人 的社 団に つい ての 評価 は異 なっ て い る。 しか しこ れに つい ては
、 連邦 財政 裁判 所
(Bundesfinanzhof:BFH
) の判 例に おい て変 遷が みら れる
。す なわ ち、 後述 す る 商事 行為 にお ける 権利 能力 のよ うな 私法 上の 独立 性に かん がみ て、 取得 者、 納税 主体 にな り得 ると 考え られ た判
あ る が、 人的 会社 に生 じた 取得 は相 続税 にお いて は社 員に 帰属 する とい う判
ある ので ある
。さ らに
、相 続税 が広 義の 所 得 税と して 理 解さ れ る場 合、 人的 会社 は 法人 格が な いた め
、所 得 税と 同 様に い わゆ る導 管 理論 に よっ て、 そ の利 得(Berei-
( 8
る)
。
( 9
例)
も
(
)
例10
も 法
人 の 相 続 税 納 税 主 体 性 に つ い て
( 奥 谷
)
三
(
) 三
cherung
)は 社員 のも のと して 扱わ れる とも 考え られ てい この よう に、 ドイ ツに おい てB FH の判 例で も、 人的 会社 の相 続税 の納 税主 体性 につ いて は判 断が 分か れて いる
。そ こ で
、こ れら の代 表的 な判 決を みる こと で、 相続 税の 納税 主体 性を BF Hが どの よう に捉 えよ うと して いる のか
、確 認し て い くこ とに しよ う。 一・
一 人的 会社 の相 続税 納税 主体 性を めぐ る判 例の 状況 BF Hは 当初
、人 的会 社の 相続 税・ 贈与 税の 納税 主体 性を 否定 して いた
。こ れに つい て代 表的 に示 され るの は一 九六
〇 年 六月 二二 日判
あ
ま ずは
、こ れに つい てみ てみ よう
。 本件 の事 実の 概要 は次 のと おり であ る。 X合 名会 社は
(以 下で は単 に合 名会 社と いう
。)
、 一九 四八 年六 月に
、貨 幣制 度 改 革の 少し 前に 蜂蜜 輸入 の大 きな ポス トを 得る 可能 性を 有し てい た。 しか しそ の会 社自 身が 購入 価格 を自 己の 資金 から の み 調達 する 能力 があ った わけ では ない ため
、上 告人 を含 む多 くの 人に 蜂蜜 購入 の資 金を 提供 して もら う依 頼を した
。そ し て
、 上 告人 は 一九 四八 年 六月 一四
、 一 五日 に 合名 会社 に 一八
、〇
〇
〇R Mを 引 き渡 し た。 合 名会 社 はそ の引 き 渡さ れた 金 銭を 一九 四 九年 九 月二 二 日に 資金 提 供者 の 指示 に 基づ いて 一
〇: 七. 五 の比 率 でR Mか ら DM に 切り 換 えた
。 税務 署 はこ れに つい て 法的 な比 率( 一八
、
×
〇〇
〇 三
/四 DM-
一
、八
〇
〇D M
=) 一一
、七
〇〇 DM を 超え た金 額 を合 名会 社 の上 告 人 へ の贈 与と して 認め
、こ の金 額に よっ て贈 与税 を算 出し た。 これ に対 して 財政 裁判 所
(Finanzgericht:FG
) は上 告人 の主 張を 認め てい ない
。そ の前 提と して
、 税務 署と 同様 に、 合 名 会社 自体 と贈 与
評 価し てい る。
(
)
る11
。
(
)
決12
で
(
)
る13
。
(
)
者14
と
<
論 説
>
修 道 法 学 三 五 巻 一 号
四
(
) 四
それ に対 して BF Hは これ を不 当で ある と判 断し てい る。 そし て、 そ の根 拠と して ライ ヒ財 政裁 判所
(Reichsfinanzhof:
RFH
) の判 決を 示し てい る。 すな わち
、当 時適 用さ れた 一九 二五 年相 続税 法に 関す る一 九二 八年 六月 一二 日判 決に おい て、 合 名会 社の 名前 での 贈与 に関 して 会社 は贈 与者 と評 価さ れる ので はな く、 社員 が贈 与者 とし て評 価さ れて いる ので ある
。 そ して
、B FH は、 本件 で適 用さ れて いる 一九 五一 年相 続税 に関 して もこ のこ とを 認め てい る。 その 上で 事実 認定 にお いて
、B FH は交 換に おけ る利 益の 贈与 を認 めな かっ た。 その 結果
、結 論と して は上 告人 の主 張 が 認め られ るこ とに なっ た。 その 前提 とし てB FH は、 受け 取っ た金 銭に よる 蜂蜜 輸入 の収 益は 個々 の出 資者 の振 り込 ん だ 金額 に応 じて 当該 出資 者に その 処分 権が ある
、と 贈与 に関 する 合意 書に 記載 され てい るこ とを 認め てい る。 そし て、 合 名 会社 が金 銭に つい ての 出資 者の 持分 を認 識し てい るた め、 贈与 され た財 産は 出資 者に 帰属 する と判 断し てい る。 つま り、 合 名会 社に は法 人格 が認 めら れて おら ず、 会社 財産 は社 員に 帰属 する もの であ るた め、 贈与 され た財 産も 社員 に帰 属す る こ とに なり
、会 社自 体に は贈 与税 の納 税義 務は 生じ ない とい うこ とで ある
。こ の考 え方 によ れば
、法 人格
、あ るい は、 そ こ に現 れる 財産 権と いう 権利 に対 する 権利 能力 が相 続税 や贈 与税 の納 税義 務者 とな り得 るか の判 断基 準と なる と考 えら れ る
。 しか し、 一九 八八 年一 二月 七日 判
こ の判 断を 覆し てい る。 その 理由 はど うい った もの なの であ ろう か。 次に この 事 例 をみ てみ よう
。 本件 は次 のよ うな 事例 であ る。 一九 八〇 年に 亡く なっ たK
(被 相続 人) が指 定し て相 続人 とな った のは
、合 資会 社B に お ける 土地 管理 会社 X有 限責 任合 資会 社
(GmbH&Co.KG
、以 下単 に「 X社
」 とい う) のみ であ った
。そ して
、こ のX 社 は
、原 告が 社員 とし てそ の一 五分 の一 の持 分を 有し てい た。 また これ と同 時に 被相 続人 の遺 言に 基づ き、 原告 は他 の受 遺
(
)
決15
は 法
人 の 相 続 税 納 税 主 体 性 に つ い て
( 奥 谷
)
五
(
) 五