陣爆育繍
大学生における発達のイメージ
山名 裕子
The Images of Development in University Students
Yuko YAMANA
・This paper aims to reveal the various views of〔1evelopment hel(1by stu(lents enrolle(i in the class
of Life−span developmental psychology皿 that focuse(10n the period of preschoolers、The students were require(1to visually(1escribe the images of(1evelopment.The individual visual images were categorized into five types of developmental views in order to show what kinds of images the naive stu(1ents tende(l to have in advance.The emphasis was placed on how we shou1(110cate the perio(10f preschoolers,and how we should construct the syllabus for the course,so that the students might more easily comprehend the behavior of young children and kindergarten education.
Key words:1ife−span developmental psychology,view of development,kindergarten e(1ucation,
chil(lhoo(1
間題と目的
発達心理学(developmental psychology)とは,
「人間が生み出してきた諸科学の中で,人間精神 を価値を目指す時間的統一体という視点からとら え,時間的経過の中での精神の変化の様相を明ら かにする中で,その変化の人間的意味を問うとと もに,変化の法則を発見しようとする科学である」
と村井(1992)は定義している(p。6)。この定義 には「価値」が入っているので,何に価値をお くのか,つまり発達観によって人間のとらえ方 が変わる(村井,1992)。今までの発達心理学 は,子どもを中心に研究されてきていたが
(Butterworth&Harris,1994/1997;村田,1992),
最近では,幼児期や児童期だけではなく,青年期 や成人期,老年期,さらには胎生期や胎児期まで もすべて含む,受精してから死ぬまで,時系列と ともに変化する一生涯の発達を取り扱う学問とし て生涯発達心理学(life−spandevelopmenta1
psychology)と呼ばれるようになってきた・
しかし,単なる研究対象者の年齢や名称の変化 だけではなく,「生涯発達」という観点を用いる ことによって,発達心理学の根本的な見直しが必 要になってきている。つまり,人の一生をどうと
らえるか,まずそこの発達観が最初に問題提起さ れるからである(やまだ,2002)。
矢野(1992)は,Baltesの生涯発達心理学の要 因モデルの中で,発達段階的一般発達,歴史段階 的コホート(同期集団)特有性,非規範的個人特 有性の問題を取り上げ,それら3つを重なり合う 発達の三側面として提示している。これらの三側 面をそれぞれ独立のものとして考えてモデルを構 築していたものに重なりをもたせて,その重なり 方が変化していくと矢野(1992)は論じている。
時間軸や発達の段階(過程)の問題だけではなく,
そこに含まれる要因や重なり方が問題となってき ている。そこにも当然,発達をどのように捉える
かという発達観が現れている。
生涯発達のモデルとしては様々なものが提示さ れているが,やまだ(1995)は生涯発達心理学の モデルを6つの形で提示している(資料1参照)。
その6つとは,成長モデル,熟達モデル,成熟モ デル,両行モデル,過程モデル,円環モデルであ る。それぞれのモデルが想定している発達のゴー ルや重要な次元が異なっており,発達観がそれぞ れ違っている。
また,やまだ(2002)は大学生の発達観を探る ために,大学生に対して「あなたの人生を一枚の 地図に書いてください。説明を加えてください」
という教示で人生のイメージを描かせている。そ の結果,典型的な2つのモデルとして「進歩型モ デル」と「循環型モデル」を提示している。「進 歩型モデル」とは人生を「階段」と置き換えて,
時問とともにその階段をのぼっていくイメージの ものである。対して「循環型モデル」とは,人生 を「植物の一生(やまだ(2002)ではリンゴがと りあげられている)」と置き換えており,1本の木 が種から成長していき,その途中の過程で1つの
リンゴがなり(これがそのイメージを描いた本 人),やがてそのリンゴが大きくなって熟して木 から落ちる。そして土にもどり,最初の1本の木 にまた戻るというモデルを描いている。この2つ のモデルは違う人生観から描かれていることがわ かるだろう。やまだ(2002)は,一つずつ階段を のぼっていくモデルでは,進歩・上昇のプロセス しか問題にされていないために,下降や衰退がマ イナスの過程としてとらえるのではないかという 問題提起や,循環型からは個人の人生サイクルを 超えた世代循環などの視点から生涯発達を見つめ る重要さなどを議論している。
このように個々がもっている様々な価値観を,
特に講義を受ける学生がどのような発達観をもっ ているのかを把握することによって,講義での目 的や生涯発達の中での幼児期の位置づけなども変 わってくると考えられる。
本論文の目的は,教養基礎科目のひとつ「生涯 発達心理学皿一幼児期一」の受講生を対象に,発 達心理学に関する話を聴く前に,一般の大学生が どのような「発達」のイメージをもっているかを 調べるとともに,生涯発達の中での幼児期の位置 づけを明らかにすることである。また科目「生涯
発達心理学皿一幼児期一」の受講生に理解されや すいより良いシラバスを構築するための資料を収 集することも,本論文のもうひとつの目的である。
具体的には,「発達」について大学生がどのよ うなイメージを抱いているのか,最初の授業でイ メージを視覚的に自由に描かせることにより,絵 に現れている発達観や子ども観を,先行研究の複 数のモデルなどをもとに分析するとともに,生涯 発達における幼児期のとらえ方について考察する。
方 法
調査対象者 「生涯発達心理学皿一幼児期一」
を受講する教育文化学部の学生40名。学校教育課 程2年生20名,3年生7名,4年生2名,人間環 境課程2年生2名,3年生1名,国際言語文化課 程2年生7名,3年生1名であった。調査の実施 時はこの科目の授業の最初の時間であるために,
生涯発達についての発達モデルに関する情報は,
少なくとも,この講義時間には聴いていない受講
● 生である。
調査材料A4版1枚(縦置き横書き)の上方
の1行に「発達のイメージを絵で書いてください」
という教示が印刷されたもの。その他の部分は,
白紙で罫線は入っていないものが使用された。
調査手続き 「生涯発達心理学皿一幼児期一」
の最初の授業時間(2005年4月11日,5・6限目)
において,受講生一人ひとりに上記のA4版の1 枚の用紙を配布した後,「発達のイメージを絵で 書いてください」という教示を行い,細かな制約 をつけずに自由に描かせた。各自が提出する内容 については,単位取得に関する評価の対象にはな らないことも伝達していた。授業内の比較的最初 の時間帯を使用して回答を求めた。回収するまで の所要時間はおよそ20分〜30分であった。
結果と考察
本論文では,やまだ(1995)の6つのモデル
(資料1)を参考にしながら,大学生のイメージ をTable1のように大きく分けて5つに分類し,
それぞれの発達観を考察した。5つの分類とは,
①能力モデル,②成長モデル,③一生涯の段階モ デル,④体制化モデル,⑤その他であった。また 各モデルに分類された大学生の人数もTable1に
示す。
Table1 5つの発達イメージのモデル別の人数
モデルのタイプ 人数
①能力モデル シンプル(幼児期)
(児童期)
(ある特定の一時期)
複雑
17
6
3(人とのかかわり1)
4
4(人とのかかわり1)
②成長モデル 体の成長 体と心の成長 動物・植物モデル
1632
も,しかし複雑な要因を想定している。
一生涯の初期の頃,特に幼児期ぐらいまでは,
確かに「できることができるようになる」という イメージがあることも理解できるし,今までの発 達心理学でもそういうことを前提に研究が進めら れてきた。かつ,この講義のタイトルの副題に
「幼児期」とあるので,幼児期に限定してイメー ジを描いたのかもしれない。
③一生涯の段階モデル 個人の段階 人とのかかわり
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④体制化モデル 1
⑤その他
人とのかかわり 重なり その他
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①能カモデル
発達とは,「できなかったことができるように なるイメージ」としてとらえているモデルである。
たとえば,歩くことができるようになる,箸を使 って食事ができるようになる,ということを「発 達のイメージ」としてあげている。このようなイ メージをもっている大学生は17名(42.5%)いた。
さらにこのモデルはシンプルなモデルと複雑なモ デルにわかれている。シンプルなモデルは上記で 述べたように,できなかったことができていき,
それが一つひとつ獲得されていくようなものをイ メージしているように思われた。それに対して,
複雑なモデルというのは,Figure1に示されてい るようなイメージである。Figure1の(1)は,
小さいときから変わらない能力もあれば,単調に 増加するものあったり,あるいは年齢とともにで きなくなったり,様々な発達の過程をイメージし ているものである。Figure1の(2)はできるこ とを様々な円の大きさで示し,それを時間の流れ や人とのかかわりとともにイメージしている。円 の大きさが様々であったり,時間の流れが一直線 ではなかったり,そしてそれぞれが人とのかかわ りの中に位置づけようとしていたり,できる,で きないという能力を基本的にはイメージしながら
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(1)複数の能力を想定したモデル
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(2)能力だけでなく,人との関係なども表しているモ デル
Figure1 能力モデルのうち,複雑なモデルの具 体例
しかし,その「できるようになる」までの過程 をどのようにとらえるかによって,たとえそれが 幼児期に限定されていても,その人がもつ発達観 は大きく異なるように思われる。村井(1992)が 定義しているように,発達観には,その人がどの ようなことに価値をおいているのかで決まる。ま た「何歳ではこういうことができるようになる」
という記述が,どのような実験や研究を経て,ど のような結果からそういう考察がなされているの かという観点も,同然必要になってくるのではな いだろうか。
②成長モデル
このモデルは,たとえば体が大きくなる,とい うような発達というよりは,むしろ「成長」に近 いイメージのものである(11名,約27.5%)。①の
能力モデルとは異なり,体が大きくなる,感情が 増えるというような量に重点をおいて考えている モデルである(Figure2の(1)参照)。Figure 2の(1)は体の大きさに加え,感情の多さも表 しているが,体の成長を考慮にいれると,成人期 以降の段階をあまり考慮していないように考えら れる。同様にFigure2の(2)や(3)のように植 物や動物を想定しているモデルも,大きくなると
ころまでしか考えられていない。やまだ(2002)
での人生のイメージでは,同じような植物モデル であっても,最後は「土に帰ってまた芽がでる」
というように「循環するモデル」というものが考 えられていたが,今回の調査ではそのようなイメ ージは見られなかった。もしかすると,「発達」
と聞かれた場合と「人生」と聞かれた場合のイメ ージの違いが反映されているのかもしれない。
「生涯発達」という言葉自体のわかりにくさも関 係しているかもしれないが(小嶋,2002),発達 と成長の違いも含めて,受講生に対しての十分な 説明が必要なのかもしれない。
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(1)体と感情の成長モデル
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(2)植物の成長モデル
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神て又一シllずレきこhて聴c1ビ1咳。
(3)動物の成長モデル Figure2 成長モデルの具体例
①の能力モデルにもみられたことであるが,
「大きくなること」のように「発達」には「成長」
と似たようなイメージを抱く大学生が多い。ただ
「成長」という言葉を使用した場合,どうしても
量が増えることばかりに注目し,質が変化する,
という視点がとりにくくなる。
前述したように,発達には停滞時期や行動レベ ルでは後退(あるいは衰退)というような時期も 含まれる。これは何も成人期や老年期の問題だけ ではなく,幼児期や児童期にもみられることであ る。たとえば,幼児期における行動レベルと表象 レベルの書き換えモデルのように(Karmiloff−
Smith,1992/1997;資料2参照),たとえ表象のレ ベルで変化があったとしても,行動として目に見 えるレベルでは,一時的に落ち込んだり,今まで できていたことができなくなったりすることも,
よく見られることである。そのときに,どのよう に教師として対処していくのか,発達をどのよう に捉えるかによって,子どもへの関わり方がかわ るのではないだろうか。
③一生涯の段階モデル
このモデルは,Figure3の(1)のように,一 生涯をいくつかの段階にわけて描いているイメー ジが典型例となる(7名,17.5%)。各段階に分け て描いているということは,明確に記述はしてい ないが,何らかの質的な変化も考えて描いている ように考えられる。しかし,この段階モデルと共 通するところの多い「階段モデル」についてやま だ(2002)が述べているように,このイメージに は人との関わりがはいってこない。対照的に Figure3の(2).では,「身近な人間関係」と書い ているように,生まれてから,次の世代の誕生ま でを,人との関係からおおざっぱにではあるがと
騨継善、濃一
一一一
1擁(1)典型的な一生涯を示したモデル
更㌘し脚一・鍵鷲論
麟 (二〉1 〃μ
矯 ・わ篇/瑚周知
(2)人間関係に重点をおいた一生涯のモデル Figure3 一生涯の段階モデルの具体例
らえたモデルもある。こちらは明確に段階を分け ているわけではないが,rそれぞれの段階での特徴 的な人間関係を描いている。
④体制化モデル
このモデルに近いものとして,Weinert&
Weinert(1998)が紹介している「差異一階層化 モデル」がある(資料3参照)。このモデルは,
年齢とともに,何かしらまとまっていたものがだ んだん分化していく過程を示している。Figure 4に描かれているイメージも,時間軸は入ってい ないが,基本的には同じようなことを示している
(このようなモデルを描いた学生は1名であっ た)。もともとは未分化で,あるいは雑然とある ものが,年齢とともに分化されてきたり,整理さ れたりしていく過程を示しているのであろう。
Figure4ではある一時期のことを示しているのか もしれないが,資料3のように一生涯の発達を考 えた上でもあてはまるかもしれない。
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Figure4 体制化モデルの具体例
⑤その他
その他に分類されたイメージは上記のどれにも 分類されない,描かれているイメージなどが理解
しにくいものであった(4名,10%)。たとえば,
子どもと大人が手をつないでいるところだけを描 いているもの,同心円状にいくつか丸が描かれて いるだけものなどであった。このような学生は,
イメージを絵で描くことに何かしらの抵抗があっ たのかもしれないし,あるいは「発達」というイ メージがわきにくかったのかもしれない。逆にそ のようなイメージがわきにくいからこそ,一生涯 のとらえ方,特に発達心理学的視点でとらえると いうことを,どれだけ学生に伝えられるかが間わ れるのかもしれない。
おわりに
本論文では,大学生の最初の授業における「発 達のイメージ」を分析してきたが,講義では,生 涯発達の視点をもちつつ,かつ幼児期の子どもを 理解する上で必要な発達観,特に能力のとらえ方 や,能力という言葉では語れない様々な点を強調 する必要がある。多くの大学生が描いている「単 一の単調増加的な発達観」ではない生涯発達の視 点を十分に組み込むことが必要になってくる。大 学生のイメージを踏まえた上で講義を組み立て直 し,具体的な事例などを入れて,多面的に授業を 設計してくことが,実践者として専門家として子 どもと関わるときに,子どもを捉える様々な視点 を育成することにつながるであろう。
資料1 生涯発達の6つのモデル やまだ(1995)は生涯発達の6つのモデルを提 示している。それぞれのモデルが想定している発 達のゴールや重要な次元が異なっており,発達観 がそれぞれ違っている。
モヂル名 イメージ 価値 モデルの特徴 発達の ール
重要な
元 おもな理論家 子どもからお おとな 身体 ピアジェ
A成長
三陰. 25硯 70歳
考える
となになるま の獲得,成 を考える。
人発達の可 均衡化
得 知能
動 フロイト
ェルナー ロン
〔年齢} 塑性を考えな
以前の機能が 熟達 有能さ パルテス
B熟遠!【二 考える
基礎になり,
涯通して発 しつづける 定性と一貫
安定 力内的作業
モデル ボウルピイ
25歳 70歳 性を重視する
C成熟
lr≦
考える 複数の機能を時に考えるが成熟するる機能を爽し,別の機 成熟恵統合 有能さ バルテスヴィンソンリクソン25歳 70歳
と考える
複数の機能を 待定でき 両価値 (ユング)
9ラ
同時に考える ない 変化プロセ
い両行
スv 闘 25歳 70歳( マ 吃、.正ミ、 ノ7
\一 /
考える
ある親点から るとプラス あり別の観 からみると イナスとみ
﹇叢!
ス 味
r 隔
一一ロ甲一層う なす
人生行路(コ 考えない エイジン ハヴィガースト 一ス)や役割 グ エルダー
F;肝4 一一25歳 7D炭 考えない や経歴(キャや出来事による変化過程をア)の年齢 社会的役人生イベン割ト 考える
F円環 考えない
回帰や折り返 を考える。
とへもどる,
還による完
「無」に どる 成
意味 帰
100
80
60
40
20
3 4 5 6 7 8 9 10 年 齢
行動レベルの変化(回)と表象レベルの変化(◆)
資料2 表象書き換えモデル
行動レベルと表象レベルの書き換えモデル
(Karmilof卜Smith,1992/1997)。このモデルでは3 つの質的に異なる相を仮定している。行動のレベ ルとしては高いが表象のレベルが低い相,行動の レベルが以前より落ち込み,表象のレベルの方が 高くなる相,そして表象のレベルに行動のレベル が近づく相である。
課に\ミぐムeK八ホ旭八口 o宅
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ロ ロ 。魂。 。。。
魂縣麟義
畠/
引用文献
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年齢
資料3 差異一階層化モデル
この図は,Weinert&Weinert(1998)の差 異一階層化モデルを示したものである。このモデ ルは,年齢とともに,何かしらまとまっていたもの がだんだん分化していく過程を示している。