福祉行政の給付過程と手続的公正
一資源の有限性とサービス割当ての問題をめぐって一
秋 元 美 世
1 はじめに 大きなグループを排除する様々な種類の法律上 の資格条項(eligible clauses);潜在的利用者 福祉行政の過程というのは,いってみれば,社 の支払い能力を超えるようなサービスに対する 会サービスとして提供される諸給付を,要保障状 負担金や料金(acharge or fee)の賦課;ス 態にある国民に結びつけていく一連の手続きの過 ティグマという脅しを通じての申請の抑制;ど 程のことである。したがって福祉の権利というこ んなサービスが利用可能なのかについての大衆 とを考えるにあたっても,給付内容に対する実体 の無知;申請手続の複雑さ;サービス提供者自 的な権利の問題とともに,そうした一連の手続過 身の個人的な先入的偏愛(predilection);潜在 程を,福祉に対する権利保障にふさわしい形でい 的クライエントを他の機関へ振り向けること;
かに進めることができるか,という手続的な側面 アクセスの容易な場所に地区事務所を配置しな の問題もまた重要な意味を持ってくると言えるの いとか,事務所がどこにあるかを示す看板を外 である。ところで,このような手続過程のあり方 に置かないといったような,アクセスに対する を考えていくにあたって,ひとつ大きく問題となっ 物理的障壁の設定,などである。これらや他の てくるのが,提供可能なサービスの資源には限り 多くの手法のそれぞれが,サービスを求める要 があるということである。つまり仮に資源の有限 求の数を対応可能なレベルにまで減らすために 性ということを理由に,需要の抑制ないしコント 利用されているのである。そして,潜在的な要 ロールという観点が突出することになると,権利 求が大きくなればなるほど,そうした割当ての 保障という点で手続過程の本来有すべき意義が背 テクニックが一層はっきりと表れてくる傾向が 後に追いやられ,手続きのあり方として疑問を抱 あるように見える。
かざるを得ないような様々な手法が,そこに介在 多くの行政部局は,以上のようなやり方での してくることが予想されるからである。こうした サービスへのアクセスの制限に加えて,あるい 問題との関連で興味を引くのが,イギリスのある はそうしたやり方の代替策として,水増し(di一 研究者による次のような指摘である1)。すなわち, 1ution)一すなわち,その有限な資源を薄く
「社会サービス機関は,利用可能な限られた 広く行き渡らせること一による割当ても行っ 資源の範囲を大きく超える要求に常に直面して ている。普通これには,提供されるサービスの いる。(こうした状況の中で)これらの有限な 中身の削減および,またはサービス水準の低下 資源を,申し立てられた多くの要求の間でいか が,関係してくる。水増しという手法は,誰が に配分すべきかを決めるため,何らかの形での いかなるサービスを受けるべきかを決定すると 割当て(rationing)を行わざるを得なくなっ いう困難な問題を,可能な限り少なくする。し ている。……サービスに対する要求は,次の かしそれは,(サービス内容が薄まってしまう ような手法によって制限を受けるかも知れない。 ため)そのニーズに適したサービスを受けるこ サービスの範暉から,潜在的なクライアントの とになるのはきわめて少数の者に限られてしま
うかも知れないという理由で,浪費的であるこ なってくるのが,資源の有限性という制約のある とも多い。」 中での福祉に対する権利保障にふさわしい公正な わが国の場合,このように,サービスの「割当 手続きのあり方の検討である(たとえば,いろい て」2)に関する様々な手法を,需要の抑制やコン うなサービス割当ての手法に内在する問題点や不
トロールの問題と意識的にかかわらせながら取り 合理さの摘出とか,サービスを利用しようとする 上げるというのは,あまり一般的な問題設定とは 者に対する影響の検討といったことが重要となろ 言えないのかも知れないが,それでも同じような う)。本稿では,この後者の対応に関する問題に 課題をわが国も抱えていることは,疑いのないと ついて,考察を加えてみることにしたい。ただ先 ころであろう。たとえば,福祉サービスについて に「サービス割当ての様々な手法を,需要の抑制 住民に周知させるための努力がどれほどなされて やコントロールの問題と意識的にかかわらせなが いるであろうか。むしろ,「本当に困っていれば, ら取り上げるというのは,あまり一般的な問題設 積極的に知らせなくとも住民の方から何とかして 定とは言えないのかも知れない」と述べたことか やって来るはず」という姿勢がとられることも, らも伺えるように,日本においてはこの種の問題 稀なことではないようにも見える。このような姿 についての議論の蓄積があまりない。そこで以下 勢の背後には,「積極的に知らせると,要望が増 の論述では,主としてイギリスでの議論を参考に え対応できなくなる」という気持ちが,意識的に しながら検討を進めていくことにしたい。
ではないまでも,働いているのではないのだろう か。あるいは,窓口での対応の冷たさが,生活保
護を受給したいとする気持ちを萎えさせていると H 福祉行政と手続的公正 いうのは,よく指摘される問題だが,これなどは,
スティグマを通じての申請抑制の一つの例とも言 まず,議論の前提として,手続的公正(proce一 えよう。その他,老人保健法による老人医療費の dural fairness)ということについて多少言及し 有料化やその後の一部負担金の値上げなども,需 ておくことにしよう。
要の抑制やコントロールにかかわる問題として, 一般に,行政の様々な行為における手続的公正 論じることのできる事柄であろう。 の問題は,英米法でいうところの「自然的正義 それでは,こうした福祉行政の給付過程に見ら (natural justice)」や「デュー・プロセス(due れる問題に対して,どのような対応を考えること process)」といった法原理に由来する諸原則と ができるであろうか。まず追求されるべきことは, のかかわりで,議論されることが多い。福祉行政 言うまでもなく利用可能な資源そのものを増やし も,行政活動の一環として実施されている以上,
ていくことであろう。これにより,需要の抑制や 当然こうした手続的公正に関する諸原則の適用を コントロールを求める圧力自体を減らすことがで 受けることになると言える。ここではそうした諸 きれば,公正な手続きとして疑問を抱かざるをえ 原則のうち,福祉行政におけるサービス割当ての ないような手法をわざわざとる必要もなくなって あり方を考える上で,とくに重要となると思われ
くるからである。ただし,これで問題が完全に解 るものを取り上げておくことにしたい3)。
決するわけではない。利用可能な資源が増えれば, 第1に,「事案に合理的関連性のない(irrele一 問題が量的にも質的にもかなりの程度緩和される vant)事柄を考慮してはならない」という原則 ことになるのは確かだが,資源の有限性という, である(他事考慮の禁止)。つまりサービスの給 問題そのものを生み出す前提となっている基本的 付決定にあたって,決定権限を有する者は,考慮 枠組み自体が,解消されるわけではないからであ すべき(あるいは,考慮できる)事項として定め る。そこで,資源を増やす努力とならんで重要に られていることのみに基づいて,決定をしなけれ
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ばならないということである。たとえばイギリス 複雑性を思えばこうしたことも十分考えられると では,福祉サービスの割当てに際して,クライア 言えよう)。公平性の原則においては,たとえば
ントが「非難される点がないという意味でまとも そのような問題も射程距離に入るのである。
か,それとも無気力でダメか」( decent or ところで一般に「自然的正義」というのは,決 feckless )というようなことを,地方当局のワー 定に服する者に対する偏見とか決定者自身の利害 カーが考慮に入れることがあり,アンフェアだと 関係などといった「バイアスの排除(absence of いった指摘がかねてからなされ続けてきたという。 bias)」と,充足すべき基準や立証されるべき事 こうしたやり方の不当性については,救貧法の時 実について事前に知らされるべきことや,証拠や 代とは異なり今日の福祉システムの下では,いわ 主張を提出する機会が与えられるべきことなどを
ゆる救済に値しない貧困者(undeserving poor) 内容とする「告知と聴聞(notice and hθaring)」
に対しても給付すべきことになっているといった, という,2つの基軸となる原理から成り立つとさ いわば実体的な(あるいは実体法上の)理由をもっ れている4)。上記の第1および第2の原則は,こ て主張することも可能であるが,同様に,決定権 のうち前者の「バイアスの排除」をサービス割当 者が,権限内の事項として認められていない事由 ての場面において具体化するものとして,とらえ を考慮に入れて下された決定だからという理由で, ることもできよう。それに対して,後者の「告知 その不当性を主張することも可能である。後者の と聴聞」において求められていることを,サービ 場合においては,手続的公正として求められてい ス割当ての場面において具体化する機能を果たす る要件に違反しているということが,まさにその のが,「行政は決定に際して,受給者の当事者と 主張の根拠とされているのである。 しての地位(the beneficiary s standing in the 第2は,「同様なケースは同じように取り扱わ matter)を承認しなければならない」とする,
れなければならない」とする原則である(公平 第3の原則である。受給者を,発言権も主体性も equityの原則あるいは平等な取り扱いの原則)。 持たない単なるサービスの受手としてではなく,
ある意味では,この原則は,他事考慮を禁じた第 独立した当事者としてサービス割当ての場面にで 1の原則を,別の角度から眺めたものとして理解 きる限り関与できるようにするための環境を用意 することもできる。なぜなら,同様のケースを同 することが,この原則の眼目である。したがって じように取り扱うということを怠る典型的な場合 たとえば,割当てられることになる給付について のひとつとして,状況や条件が基本的に同じであ の必要十分な情報を,潜在的受給者が得られるよ るにもかかわらず,他の者に対してせ考慮されな うにしておかねばならないとか,関連する手続の かった事由が考慮されて異なった取り扱いを受け 下での権利と義務について,潜在的受給者がよく た,といったケースを挙げることができるからで 承知しておくようにしておかねばならないとか,
ある。このように,公平性の原則は第1の原則と 決定の理由を説明しなければならないなどといっ 重なってくる部分があるわけだが,しかしそれだ た要請は,この原則において特に重要となる事項 けではない。他面で公平性の原則は,他事考慮の だと考えられる。
禁止よりも広い範囲の問題をもカバーしている。 さて,以上に紹介した3つの原則に加え,手続 たとえば,同じようなケースを同じように取り扱 的公正に関する原則としてその他に,つぎの2つ わないという事態は,決定権者が意識的に関連性 の条件が取り上げられることもある。ひとつは,
のない事柄を考慮することによってだけではなく, 「決定者が,決定についての正当な権限を有して 決定権者に無意識的なバイアス(unconscious bi いること」という条件である。こうした要請は,
as)がかかっていることによって生じることもあ わざわざ原則化するまでもない,当たり前すぎる る(偏見とか利害関係といった問題の存在形態の ような条件という気もしないではない。しかしサー
ビス割当てに関する行政過程においては,正当な 課すような手続(stigmatising procedures)
権限を有しない者がゲートキーパーとしての役割 ・サービスを提供する側の個人的偏愛(predilec一 を果たす中で,実質的な決定にあたるようなこと tion)
を事実上行っている例が少なからず見られること ・サービスについての無知や理解不足や誤解 を考えると,やはりあらためて確認しておく必要 ・手続の複雑さ
のある原則だと言えよう。 ・アクセスに対する物理的障壁の設定 もうひとつは,「決定権限が,当該決定を基礎 ・他の機関への振り向け(deflection)
づけている一連の諸準則(rules)に照らし合わ ・サービスの水増し(dilution)
せて,適切に行使されること」という条件である。 ・資格要件(eligible conditions)
たとえば,準則上は存在しない手続きを設定して ・抽選(10ttery)
事前のチェックを行い,それを通じて正式な申請 ・順番待ち(queue)
を思いとどまらせるとか(わが国の生活保護行政 ・専門家等による裁量的判断
における申請前手続としての「相談」などは,こ ・費用徴収による利用者の金銭的負担
うした問題をはらむ可能性がある),決定を行う これらの手法のうち, スティグマを課すよう 権限と責任があるにもかかわらず,その責任を果 な手続 サービスを提供する側の個人的偏愛 サー たすことを僻怠し,給付を受けられないという状 ビスについての無知や理解不足や誤解 手続の複 態を結果的にもたらしている(つまり不作為とい 雑さ アクセスに対する物理的障壁の設定 など うかたちでの不適切な権限行使)などは,この原 の手法が,前述した手続的公正に関する諸原則と 則との関係で,手続的公正に反するという評価を 本質的に相容れないものであることは明らかであ 受けることになろう。 ろう。たとえば,スティグマや個人的偏愛の問題 以上が,福祉行政におけるサービス割当ての問 が,「平等な取り扱い」という公正の原則に抵触 題を考える上で重要になると思われる,手続的公 し,無知や手続の複雑さや物理的障壁の問題が,
正に関するいくつかの条件である。そこで次に, 「受給者の当事者としての地位の承認」の原則に これらのことを念頭に置きながら,サービス割当 反するというのは,説明するまでもない明白なご ての手法について具体的に検討を加えていくこと とである。ことに,看板を外に出さないとかアク にしたい。 セスしにくいところに事務所を設けるなどの物理 的な障壁を,仮に意図的に行うことがあるとする なら,それは手続的公正を云々する以前の問題で 皿 福祉給付の割当てと手続的公正による統制 あり,福祉の分野においては論外のやり方と言え よう。いずれにせよ,これらの手法は,たとえ資 1 サービス割当ての手法と手続的公正 源が足りないという制約があったとしても,用い
ることは許されないと考えるべきであろう。
「はじめに」においても紹介したように,資源 次に,手続的公正との関係で微妙な位置にある が必要量に対して不足している状況の下で,サー のが, 他機関への振り向け と サービスの水 ビスを割当てる対象者を絞りこむのに用いられる 増し という手法である。まず他機関への振り向 手法には様々なものがある。イギリスでの議論を けであるが,この手法自体が本質的に手続的公正 参考にしながら,そうした手法をリストアップす と抵触するわけではない。振り向け先の機関が,
るとすれば,次のようなものを挙げることができ 正当な権限を有していれば手続き上の問題はとり よう5)。 あえず生じないし,むしろそうした方が,求めら
・サービスを利用しようとする者にスティグマを れているサービスの性質上より適切であるという
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ことも考えられる。しかし,もしそれが,もっぱ 資格要件を通じての割当てという手法には,後 ら行政の便宜のために「たらい回し」的になされ 述する諸手法とひとつ大きく異なる点がある。そ るものであるならば,話は別である。そのような れは,この手法の場合,資格があるかどうかとい たらい回し的な振り向けは,「決定権限の適切な う問題を通じて,対象者が絞り込まれていくのに 行使」や「受給者の当事者としての地位の承認」 対し,他の手法においては,資格があること自体 などの手続的公正の原則に抵触するからである。 は既に前提にされていて,その上でさらに対象者 もうひとつのサービスの水増しの場合,さらに問 をどう絞り込むかということが問われることにな 題は微妙となる。つまりこの手法の場合,サービ るからである。この点をまず確認したうえで,議 スの内容を薄めてできるだけ広く行き渡らせると 論に入ることにしよう。
いうやり方がとられるため,潜在的受給者の中か さて,資格要件を通じての対象者の絞り込みと ら不公正な仕方でとくに誰かを選ぶとか,あるい いうことを考えた場合にポイントとなる問題は,
は逆にとくに誰かを選ばれにくくするといった問 言うまでもなく要件の内容がどうなっているかと 題を生じさせないですむ。その意味で,水増しと いうことである。たとえば,老人福祉サービスを いう手法は,手続的公正との関係でとりたてて問 受給できる資格要件として,60歳を設定するかま 題があるというわけではない。しかしそうだから たは65歳を設定するかで,対象となる潜在的受給 といって,この手法をサービス割当てのやり方と 者の数は大きく違ってくるのである。このように して,表立って推奨するわけにはいかないだろう。 資格要件は,対象者の数を直接的に大きく左右す 水増しというのは,たとえば具体的には,福祉施 る力を持っており,それだけに要件の設定に際し 設において2人部屋だったものを4人部屋にする ては,サービス目的に合理的関連性のない要件を とか,週3回のホームヘルパーの派遣を1回に減 設けて特定のマイノリティーグループを排除する らすということを意味する。こうした結果をもた といったことのないよう,公正の原理に照らして らす手法には,いくら手続的には問題が出ないと の吟味が強く求められていると言えよう。ただし はいえ,素朴な抵抗感を誰しもが抱くであろう。 ここで指摘しておかねばならないのは,この資格 また水増しの度が過ぎれば,サービスとしての意 要件の内容の問題というのは,実は,本稿の主題 味がなくなり(たとえば,週1回のホームヘルプ である給付過程における手続的公正という文脈と サービスなら来てもらっても意味がないという声 の関連から言うと,ある意味で直接的には論じる をよく耳にする),元も子もなくなるばかりか, ことのできない,いわば射程外の問題であるとい 意味のないサービスをいたずらに消費するという うことである。というのは,そもそも資格要件と ことで,かえって資源の無駄となるおそれさえあ いうのは,法律等であらかじめ定められていて,
る。 個別具体的な事案の処理が問題となる給付過程の こうして,手続的公正の原則との関係で明らか 段階においては,既に所与のものとして存在して に問題があるもの,あるいは微妙な位置にあるも いる性質のものであるため,給付過程における手 のとして以上に取り上げたものを除くと,サービ 続的公正という観点からは,もはや如何(いかん)
ス割当ての手法として残る候補は, 資格要件 ともしがたいという事情があるからである。むし 抽選 順番待ち 裁量的判断 費用徴収 とい うこの問題は,議i論の筋としては,手続的な権利 うことになる。以下順次検討していくことにする。 や公正の問題というよりも,内容的にどの範囲ま でを権利として認めるべきかといった実体的な権 2 割当ての手法の個別的検討 利や公正の問題として,別途論じられなければな
らない性格のものと考えられる。
(1)資格要件 このように,資格要件を通じての対象者の絞り
込みという問題は,基本的には,法律等において チャンスを与えるという点で,割当てにおける手 資格要件の内容がどう設定されるかということを 続的公正のパラダイムとして位置づけることすら めぐって論じられる問題と考えられるわけだが, できるかも知れない。しかしこのような位置を占 実際の福祉行政の実務を見ていると,それとは別 めるにもかかわらず,資格を有する福祉サービス に,資格要件が適用される場面でも(つまり資格 の潜在的受給者の中から,誰にサービスを割当て 認定の過程でも)対象者が絞り込まれることがあ るかという問題に関して,抽選が主たる手法とし るのがわかる。たとえば,資格要件そのものは変 て用いられることは,イギリスにおいてもまた日 わっているわけではなく以前と同じなのだが,公 本においても,むしろ稀なことと言ってよいであ 的扶助費の増大の抑制という観点から,母子世帯 ろう。これには2つの理由が考えられる。第1に,
などある特定のグループの資格認定を厳しくする 抽選では,新たに資格を有することになってやっ とか(とりわけ未婚の母などはそうしたターゲッ て来る潜在的受給者の取り扱いが,困難であると トになりやすいと英米などでは言われている), いう点である。抽選の対象となる人々が固定して 保護率の高い地域の住民については他の地域に比 いるとき,抽選は,それらの人々の順位づけを,
較して厳しい認定を行うなどは,そうした適用場 何の問題もなくやすやすと行うことができるであ 面における絞り込みの例と考えることができよう。 ろう。しかし,対象となる潜在的受給者が,新た そして,こうした適用場面(あるいは認定過程) に次々とやって来るとしたらどうなるか。もし,
における問題に関しては,手続的公正ということ 既に抽選によって順番が決まっていることを理由 がまさに大きな意味をもってくるのである。たと に,新しくやって来た人たちを加えないとするな えば上記の例で言えば,それらは明らかに平等な ら,それらの人たちを不公正に取り扱うことにな 取り扱いを求める公平の原則に反するということ るだろう。しかし,新たにやって来た人たちを加 になろう。また,そもそも資格認定においては, えて抽選をやり直すということになれば,今度は,
その者の有する事情や状態が,法律等で設定され 公正な手続で決まったlll頁番を変更するのは不公正 ている要件に該当しているかどうかによって,判 であると,先に抽選に加わっていた人たちから主 断されるべきものであるということからすれば, 張されることになろう。
公的扶助費の抑制という意図を介在させることは, 抽選が,福祉サービスに対してあまり用いられ 考慮に入れるべきではない外在的な要因を考慮し ないでいる第2の理由は,抽選という手法におい たということになり,手続的公正の原則の一つで ては,資格を有する潜在的受給者の間に存在する ある他事考慮の禁止に反するということにもなろ 必要度の違いを,考慮に入れることができないと う(もっとも,仮に費用の抑制を意図していたと いう点があるからである。上述したように抽選に しても,表向きは「適正化」といったように説明 は,対象となったすべての者を機械的にまったく がなされるのが普通であるから,現実にはそう単 平等に取り扱えるという特徴があるわけだが,こ 純に言い切れないことが多いと思われるが)。 のことは逆に言えば,対象者の違いをそこにはさ み込むことができないということでもある。純粋
(2)抽選による順位づけ に手続的公正ということだけを問題にするなら,
資源が必要量に対して不足している状況の下で, こうした違いを考慮に入れないことがむしろ求め 資源の配分を受ける者を決めなければならないと られるのかも知れない。しかし福祉サービスにお き,手続的にもっとも公正な仕組みとして,多く いては,こうした違いを踏まえることも,権利保 の人がまず最初に思い浮かべるのが抽選による割 障にふさわしい手続的公正のひとつのあり方とし 当てであろう。実際,抽選という手法は,抽選に て必要になってくるのである。たとえば,同じ患 加わったすべての人たちに平等にまったく同一の 者であっても救急の患者を優先的に扱うことを誰
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も不公正と思わないのと同じように,福祉の分野 る」という評価が妥当であるかどうかは,待ち時 においても,介護の必要度の高い痴呆性老人やね 間の価値や意味について,人々の間でどれぐらい たきり老人を,中度や軽度の要介護老人よりも優 の個人的相違があると考えるかによって,大きく 先することを,手続的に不公正なやり方だとは考 変わる可能性があるということである。もし,待 えないであろう。「同様なケースは同じように取 ち時間のもたらす不利益が,個人ごとに大きく異 り扱わなければならない」という手続的公正の原 なるなら,平等なチャンスを保障するための条件 則を,福祉行政において適用するに際しては,何 を順番待ちという手法が満たしているという主張
をもって同様なケースと考えるかが,他の分野以 は,形式的には言えるとしても,実質的には意味 上に重要なポイントになってくるのである。 のないものとなってしまうからである。
なお,抽選には上記のような問題が見られるの 待ち時間の持つ意味の違いという問題について であるが,既に対象者が後述する手法などを通じ は,いくつかの側面から考えることができる。ま て絞り込まれていて,そのような問題が生じる恐 ず,割当てられるサービスの性質によっても違っ れがない場合には,抽選というのは,きわめて有 てくる。たとえば,乳児院や保育所といったサー 力な手法であるということも付け加えておく。 ビスのように,特定のある一定期間だけ必要とな るサービスの場合,「待ちさえすればいつかはサー
(3)順番待ち ビスを得られる」という論理が,通用しないこと 順番待ちは,具体的な仕組みとしては,待機者 も考えられるのである。また,サービスを受け取 リスト(waiting−list)に申し込み順に名前を載 る側の事情による違いということも考えられよう。
せていくというやり方が取られることが多い。ま つまり,抽選のところでも触れたように,資格を たサービス割当ての手法として,イギリスでもっ 有しているという点では同じであっても,必要度 とも広範に利用されているもののひとつである。 や緊急度に違いが見られることもある。そうした 日本でも,老人福祉の分野を中心に,このタイプ 場合,必要度や緊急度の高い人の1ヵ月と相対的 に属すると思われる手法が幅広く利用されている に低い人の1ヵ月とでは,同じ1ヵ月でも意味が
(たとえば特別養護老人ホームの入所に際して用 まるで異なってくるのである。
いられるやり方はこのタイプに属する)。 ところで,抽選においては,こうした必要度の この手法の特徴は,ひとつには,抽選の場合と 違いに対処できないことが一つの弱点であったわ 同じく,資格を有するすべての者に給付を得るチャ けだが,順番待ちの場合そうした必要度の違いを ンスを平等に与えているという点である。つまり, その中に取り込むことが可能である。つまりこの 待つことさえすれば,結局いつかは給付を得られ 手法においては,一定のカテゴリーの潜在的受給 るチャンスを誰もが持てるというのである。むろ 者のグループが有利になるような操作を加えるこ ん,いつ列に並ぶかによって,待ち時間には当然 とが可能なのである。順番待ちという手法の有す 差異が出てくるであろう。しかし,並ぶ時点がい る特徴の2つめは,この点にある。たとえば,子 つになるかというのは,それ自体,平等なチャン どもの数や障害の程度などを基準にしたポイント スという条件を満たすのに十分なほど,ランダム システム(点数制度)を付け加えることにより,
な要因に規定される事柄なのである。しかもこの ポイントの高いグループに属する者については,
手法の場合,抽選において,「新たにやって来た 順番の進み具合を早めたり,あるいは進み具合の 者」との関係で見られた問題で困るというような 早い列(待機者リスト)を別に用意しておき,ポ こともない。ただし,この第1の特徴については, イントの高いグループをそちらに回す,といった 留意しておかねばならないこともある。それは, ことができるのである。もちろん,こうした操作
「順番待ちという手法が平等なチャンスを保障す を行うためには,その前提として操作そのものが
一たとえばポイントシステム自体が一,手続 判断行為と同じようなレベルで,高度の専門性が 的にも実体的にも公正であることが求められるこ 発揮される必要のあるものもあれば,一般の行政 とは言うまでもない。とりわけ,当該グループを 職で対応可能なものもある。
優先して取り扱うことについて,それ以外のグルー さて,以上のことを確認したうえで,裁量的判 プが納得できるような合理的な根拠が存在するこ 断による順位づけの問題の検討に入ることにしよ とは,絶対的な条件である。なお,ポイントシス う。この問題で問われていることは,要するに,
テムによるグループ分けだが,それがある程度以 裁量的判断による優先順位の決定過程をいかに手 上に細かくなされるようになると,「順番待ち」 続的に公正なものとしていくことができるか,と としての実体が薄れ,後述する「優先順位決定基 いうことである。これには,2つの方向での対応 準」による順位づけとほとんど変わらないものと が考えられる。1つは,不適切な裁量が行使され なるであろう。 る余地をできるだけ少なくしていくための取り組
みである(裁量の制度的統制the structuring
(4)裁量的判断による順位づけ of discretion)。そしてもう一つは,個別ケース これは,専門家や行政機関による専門技術的な についての手続的公正の観点からのチェックであ 裁量的判断を通じて,順位づけ(優先順位の決定) る。
を行うというものである。 まず前者の取り組みとしては,「優先順位決定 内容の検討に入る前に,あらかじめいくつか確 基準の設定」ということが考えられる。この種の 認しておきたいことがある。第1に,給付過程に 基準の具体例としては,保育所入所者の決定に際 おける裁量の問題が論ぜられるとき,一般的にわ して,わが国で広く使われているとされている点 が国では,受給資格の認定をめぐって行使される 数制度をあげることができよう。ここでは,かか 裁量が問題にされることが多いと思われるが,こ る点数制度の一例として東京都K市の基準表を掲
こでは,資格が認定された後の段階(サービス割 げておくことにする。この表からも見て取れるよ 当ての段階)における裁量的判断が,問題になっ うに,かなり具体的な内容の基準が設定されてい ているという点である。福祉の権利についての る。しかし,優先順位の決定に関してこのような
「資格論的考え方」になじみの薄い日本において 基準が設定されることは,わが国では非常に稀な は,この点の区別がややもするとつけにくいとこ ことと言ってよい。もちろん,対象となるサービ うがあると思われるので,まず確認しておくこと スの性質上,基準化することが困難な場合という にしたい6)。第2に,受給資格の問題については, のもあるかも知れない。しかし,資源の制約の問 法律や準則(法規性のある規則)において,程度 題が一したがって優先順位の決定の問題が一 の差はあるけれども,充足すべき要件等があらか 現在もっともシリアスな形で問われている老人福
じめ定められているが,ここで問題にしようとし 祉サービスの分野をはじめとして,基準化が可能 ている,資格を有する者の間での優先順位の決定 な領域はたくさん存在するし,むしろ基準化を困 ということについては,法律等に明確な定めのあ 難にする決定的な要因のある場合というのはきわ ることはほとんどない(せいぜいのところ,目的 めて限られてくるのではないかと思われる。いず 規定から一般的・概括的なことを推察することが れにせよ,この種の取り組みを早急に進める必要 できる程度のこと)。この点で,手続的公正の一 があろう。なお設定された基準については,公開 般原則を通じた裁量的判断の統制が,より一層大 されることが必要不可欠であることを強調してお きな意味をもってくるものと言える。第3は,専 きたい。これは,手続的公正の原則(とりわけ 門技術的な裁量的判断行為といっても,その内容 「潜在的受給者の当事者としての地位の承認」)か は決して一様ではないということである。医師の ら要請されることでもあるが,それに加え,そも
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K市の保育園入園措置基準表
番 母の状況(同居の親族その他の者が児童の保育に当ltない場合) 搭置 訓整指数㊥要閃
号 細 目 ①一⑳までを細小項目とする 指数 母子 生保 親子
ハ居
常 勤 ①日中7時間以上の就労を常態 10 1 1 1
儲鵬) ②日中4時間以上7時悶未満の就労を常態 9 1 1 1
外 勤 非 常 勤 ③週3日以上就労し、かつ日中7時m以上の就労を常態 8 1 1 1
1 居宅外労働 ④週3日以上就労し、かつ日中4時間〜7時問の就労を常態 7 1 1 1
そ の 他 ⑤義簸朧ののほか謝の態看兼から明らかに保育に欠け 6 1 1 1
求 職 ⑥求職のため、日中外出を常態 7 1 1 1
中 心 者 ⑦(注D危険なものを扱う業種であり,日中7時間以上就労を常態 10 1 1 1
自 営
(注2》 ⑧上記以外で、日中7時間以上就労を常態 3−9 1 1 1
2 居宅内労働 協 力 者
⑨危険なものを扱う業種であり.日中4時間以上7時間未満の就労を常態 9 1 1 1
⑩上記以外で、日中4時聞以ヒ7時間未満の就労を常態 7〜8 1 1 1
内 職 ⑪日中7時間以上の就労を常態(月聞の平均時間とする) 8 1 1 1
⑫日中4時間以上7時間未満の就労を常態(月間の平均時聞とする》 7 1 1 1
3 不 存 在 ⑬死亡・離別・行方不明・拘禁 10 1 1 1
⑭出 産 8 1 1 1
⑮入 院 10 1 1 1
疾 病 ⑯常時病臥 10 1 1 1
4
出産・疾病 居 宅 内 ⑰鞘神性・感染性 10 1 1 1
身体障害者 ⑱一般療養 7〜9 1 1 1
身体障害者 ⑱1級・2級(3級障害のうち、視力、聴力、体幹機能障害者を含む) 】o 1 1 1
(注3) ⑳3級{⑳の3級障害者を除く) 8 1 1 1
⑳4級 6 1 1 1
⑳病院等付添(障害者等の通学通所付添は、8を基準とする〕 10 1 1 1
5 看護(介護)
⑳自宅療養(重度障害児者の介護一在宅一は8を基準とする〕 6 1 i 1
6 災 害 ⑳火災等による家屋の損傷、その他災害復旧のため保育に当れない場合 10 1 1 1 自営中心者であり
ゥつその業務のた ⑳危険なものを扱う業種であり日中7時間以上の就労を常態 9 1 1 1 当分の問都
めの使用人がいる
鼾 ⑳上記以外で日中7時問以上の就労を常態 7〜8 1 1 1
7 特 例 知事協議の 自営協力者であり
ゥつその業務のた ⑳危険なものを扱う業種であり、日中4時間以上7時問未満の就労を常心 8 1 夏 1 幅知事協謝 必要のない
烽フ
めの使用人がいる
鼾 ⑳上記以外で日中4時間以上7時問未満の就労を常態
6〜7 1 1 1
⑳不就労であるが、就学妓能盟得等のため現に保育に当れない場合 7 1 1 1 都知事協議 前各号に掲げるもののほか、明らかに保育に欠けると認められる場合
調整指数
類 型 父 ・ そ の 他 同 贋 の 親 族 の 状 況 調 整 指 数
求 職 求職のため、日中外出の状態にある場合 一 1
自 営 父を除くその他の同居の親族が協力者となっている場合 一 1
内 職 日中7時間以上の就労を常態 一 1
日中4時間以上7時間未満の就労を常態 一 2
疾 病 一 般療 養 一 1
身体障害者 4 級 で 無 職 一 1
看護(介護) 自宅で病人の看護等に従事 一 1
注1 「危険なものを扱う業種」とは、児童が日常生活をする場所で建設資材、プレス機に類する工作機器などが常時必要な業種。及び、火ないし油 を常時使用する業種であって、兜童がその場所以外に居ることができない場合を含む。
注2 自営中心者とは、課税状況、子どもの状態等が外勤(常勤)と同様の状態と認められる場合に阻る。
注3 身障者で稼働している場合,障害程度と稼働状況の比較で,指数を原則として10相当とみなすことができる。
そも公開されていなければ,裁量の制度的統制と ているかどうかを問題にしていくことになる。以 しての意味を失ってしまうからでもある。また, 下,いくつかポイントになると思われることを指 後述する個別ケースのチェックにおいて基準を援 摘しておくことにしよう。まず他事考慮の禁止に 用するためにも,公開は必要である。 関しては,優先順位の決定にかかわる基準のよう ところで,いま「対象となるサービスの性質上, なものが設定されているかどうかが,大きな意味 基準化することが困難な場合というのもあるかも をもってくることになる。つまり,関連性がある 知れない」と述べたが,これに関してよく出され かどうかを判断する場合に,そうした基準が一応 るのが専門性の問題である。つまり,専門家の高 の目安となるからである。たとえば,先程の保育 度な知識や判断に依拠する必要のある決定という 所の基準表では,生活保護世帯について1ポイン のは,第一次的には当該専門家集団の内部規律の トプラスの調整を行うことになっている。この点 問題と考えるべきであり,外部規律としての基準 を踏まえるなら,生活保護を受けていないが経済 を設定することには困難な面があるのではないか, 的に苦しい状況がある場合に,それを保育所入所 というのである。この点については,次のことを の優先順位の決定にあたって考慮することは,他 指摘しておきたい。まず,専門家にフリーハンド 事考慮にはあたらないのではないかと考えられる。
に近い判断権を認める必要があり,外在的な規律 次に,平等原則の問題については,実際には他事 がまったく馴染まないような問題というのは,ご 考慮の問題と重なって生じる場合が多いと思われ くわずかであって,大半の場合は,程度の違いは る。たとえば,そのケースが議員の紹介だからと あるだろうが,基準化が可能であろうということ か,地域の有力者や有力団体の紹介だからという である。ただし,基準化が困難な場合が存在する ことを考慮して有利な順位づけをしたとか,逆に,
ことも否定できない。また基準化されていても, そのケースの申請者が地域の有力者や有力団体の 基準だけでは対応しきれず,専門家の判断に依拠 意に添わない人物だからということで,不利な順 しなければならない場合も出てくるであろうとい 位づけをしたという場合には,関連性のないこと うことも,想定しておく必要があろう(とりわけ を考慮に入れたという点では他事考慮違反になる 基準があまり具体的でない場合には)。これらの し,他方,決定に不当なバイアスがかかっている 場合については,専門家を含めた判定委員会を設 という点では平等原則違反ということになるので けて対処することが有益であると考えられる。決 ある。さらに,当事者としての地位の承認,とい 定に際して,合議制の決議機関を経由させるとい うこととのかかわりでは,決定についての理由を うのは,決定過程を手続的に公正なものとするう 付与することが,裁量的判断による順位づけの場 えで大きな意味を持つからである。こうした判定 合きわめて重要であるということを強調しておき 委員会の設置も,裁量の制度的統制のための取り たい。それは,先に取り上げた「抽選」や「順番 組みの一つと位置づけることができよう。 待ち」という手法の場合には,システム自体の特 さて次に,個別ケースについての手続的公正の 性として,自分が何故その順位を割当てられてい 観点からのチェック,ということについて見てお るのかということが,とくに説明を受けなくとも
くことにしよう。これは具体的には,さきに取り ある程度判断がつくという面があるわけだが,裁 上げた手続的公正の諸原則,すなわち,「事案に 量的判断による順位づけの場合には,何故そのよ 合理的関連性のない事柄を考慮してはならない」 うな順位になったかについての説明を受けなけれ
(他事考慮の禁止),「同様なケースは同じように ば,まったく判断がつかないからである。その決 取り扱わなければならない」(平等取り扱いの原 定が,手続的に公正な過程を経て下されたかどう 則),「潜在的受給者の当事者としての地位を承認 かを判断するためには,決定の理由を知るという する」などの要請に,反するようなことがなされ ことは必要不可欠な条件なのである。
秋元:福祉行政の給付過程と手続的公正 21
(5)費用徴収 していることは明らかなのだが,その理論的検討 これまで見てきた抽選,順番待ち,裁量的判断 はまだ緒についたばかりというのが実情なのであ という3つの手法は,いずれも潜在的受給者に何 る。そこでここでは,とりあえずこの段階で一般 らかのかたちで順位づけすることにより,サービ 的に論じることができそうなことに絞って,簡単 スを割当てる者を絞り込んでいくというものであ に指摘しておくことにしたい。
るが,こうしたやり方とは別に,資格を有する潜 費用徴収においても,手続的公正とのかかわり 在的受給者に,給付に対する要求を思いとどませ においては,潜在的受給者が平等な取り扱いを受 ることによって,サービス割当ての対象者を絞り けているかどうかが最大のポイントとなるのは,
込んでいくという手法も考えられる。たとえば, 当然である。ここでまず問題となるのは,個人ご 先に手続的公正の諸原則とは本質的に相容れない との支払い能力に違いがあるということであろう。
ものとして位置づけた「スティグマ」などは,そ これについては,次のように説明することもでき うした絞り方をする手法にあたると考えられる。 よう。つまり,個人ごとの違いということであれ このようにこの種の手法の場合,手続的公正との ば,「待ち時間」についても言われていたわけで 関係で問題を有することになることが多いのだが, あり(時間の価値の問題),そのことを踏まえれ このタイプに属しながら,なおかつ手続的公正の ば,支払い能力に違いがあるということ自体が,
要請を一応クリアしていると思われる手法という 手続的公正に抵触する本質的な問題とは言えない のも存在する。それが,費用徴収により利用者に であろう,という説明である8)。しかしながら,
対して金銭的負担を課すという手法である。 「待つ」という対価は誰でも支払えるが,お金の 費用徴収とか利用者負担というのは,イギリス 場合は誰もが支払えるわけではない,という問題 でも日本でも広範に用いられている手法であるが, もある。その意味で,費用徴収というのは,その それをサービス割当てとのかかわりで実際に論じ 手法自体が手続的公正の原則上,本質的に相容れ るとなると,なかなか難しい問題が存在している。 ないものだというわけではないが,徴収額の設定 すなわち,抽選や順番待ちなどこれまで取り上げ いかんによっては,平等な取り扱いという原則を てきた手法は,もっぱらサービス割当ての観点か 破る可能性を持っている手法であると,認識して
ら論じることが可能だったわけだが,費用徴収の おく必要があろう。
場合には,それ以外にもいくつかの重要な観点が なおこのように費用徴収は,手続的公正という 存在している中で,論じていかなければならない 観点から見ると,サービス割当ての手法として必 からである。たとえばイギリスでは,費用徴収や ずしも使いやすいものではないのだが,しかし現 利用者負担に,「歳入の増加」「需要の削減」「優 実には日本でもイギリスでも,近年ますます多用 先順位の変換」「濫用抑制」「象徴効果」などの多 されるようになっており,その比重が高まってき 様な目標ないし観点が混在していることが指摘さ ている。おそらくこれには,「歳入の確保」とか れている7)。このように費用徴収には,様々な要 「受益に応じた負担」といった別の観点にかかわ 素が絡んでくるため,サービス割当てとしての手 る要因が大きく作用しているものと思われる。し 法に直接かかわる部分だけに限定して論ずるとい たがって,サービス割当てという文脈だけでは論 うのは,かなり難しいことなのである。しかもサー じられないところが多分にあるであろう。しかし ビス割当ての手法としての費用徴収という観点は, このことを前提にしたうえでもひとつ言えること そうした様々な観点の中でも比較的新しい問題意 は,それらの別の観点にかかわる要因に対しても,
識であり,それだけに議論の蓄積や調査研究は多 手続的公正の原則が制約原理として機能しうると くない。経験的には費用徴収が,サービス割当て いうことである。たとえば,歳入の確保とか受益 の手法として広範に用いられ,大きな影響を及ぼ に応じた負担といった要因が大きく作用する中で
設定された当該サービスの料金が高額であるため る。 また,複合的に用いられる各手法が相互に に,一部の所得層のサービス利用が排除されたり 関連性を持っているということも,指摘しておき 抑制されたりしていることが明らかな場合には, たい。この点ではまず,ひとつの手法に対する緩 当然,平等な取り扱いという手続的公正の原則を 和策や回避策が及ぼす他の手法への波及効果,と 破るものと判断されることになり,料金を公正の いったことを考えておく必要がある。たとえば受 原則に反しない額に抑えるとか,額の減免や免除 給資格の要件を緩和したとしよう。その場合,資 の措置をとるなど,歳入の確保や受益に応じた負 格を有する潜在的受給者の数が当然増えるので,
担といった観点を制約する方向での手だてを講じ 順番待ちの列(待機者名簿)が一層長くなってこ ることが求められることになろう。 よう。もしそれも回避しようとするなら,利用者 から費用徴収する額を高くしたり,あるいはサー 3 サービス割当ての実際 ビスの水増しなどをしなければならなくなるかも
知れないのである。
(1)手法の複合的用法 さらにまた,あるひとつの手法に他の手法が合 これまで,サービス割当ての手法を個別的に見 わさった場合に生じる効果についても,考えてお てきたわけだが,実際の割当てにおいては,それ く必要があろう。たとえばイギリスでは,「順番 らが単独で用いられるということはほとんどない 待ち」という枠組みの中で,行政の裁量的判断に と考えてよいであろう。実際には,それらの各手 よるある程度の順位の変更が認められているとき,
法がミックスされて実施されるのが一般的である。 順番待ちには「静かに自分の番がくるのを待って たとえば特別養護老人ホームの利用に関して言え いる人が犠牲になって,もっとも長くそして大き ば,まず,法律上定められている資格要件にその な声で叫んでいる人が有利になる」という弊害が 者が該当しているかどうかが判断され(資格要件), 生じる可能性のあることが問題にされている9>。
さらに資格を有するとされた者の中での優先順位 日本でも,利用希望者がたくさんいる中で,在宅 の決定が行政の専門技術的な裁量的判断によって の老人福祉サービスをうまく使うコッ(?)とし 行われ(裁量的判断による順位づけ),そこで入 て,行政に何度も足を運んで窮状を訴えるという 所できた場合には費用徴収が行われ(費用徴収), ことが大切だと言われることがある。確かに熱心 入所できないときは待機者名簿に名前が載せられ に働きかけるのは,それだけ必要性が高いからだ 順番待ちをする(順番待ち),というのが一般的 と見ることもできるし,実際その通りなのかも知 な姿であろう。このように,実際のサービス割当 れない。しかし熱心な働きかけがないからといっ てにおいては,各手法が複合的に用いられるのが て,必要性がそれほど高くないというわけでは決 普通であるが,このことに関連してさらにいくつ してない。むしろ働きかけの余裕すらないほどに か指摘しておきたいことがある。 深刻であるということも考えられる。前述したよ ひとつは,複合的に用いられる可能性があるの うにもともと順番待ちという手法は,「大きな声 は上記のようなフォーマルな一つまりその存在 で叫ぶ」かどうかにかかわりなく,平等にチャン を正式に認知することができるような一手法だ スを与えるということに重要な特徴があった。し けではないということである。先に手続的公正と かし他方で,福祉の分野においては,必要度の違 の関係で問題があるとか微妙な位置にあるものと いという問題にも対処しなければならいという要 して取り上げた様々な手法(スティグマを課す, 請がある。行政の裁量的判断という手法をそこに 無知・理解不足,手続の複雑さ等)が,見た目に 組み込むことは,そうした要請に応えることであ はわからないような形でインフォーマルに介在し り,そのこと自体に問題があるというわけではな てくる可能性も,考えておかねばならないのであ い。しかしそれによって,意図せざる効果が同時