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集合の表現に対する幼児・児童の反応 ― かこみ線 の効果 ―

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

集合の表現に対する幼児・児童の反応 ― かこみ線 の効果 ―

著者 小川 庄太郎, 杉村 健

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

8

ページ 13‑18

発行年 1972‑03‑15

その他のタイトル Children's Responses to Symbolic

Representation of a Set of Objects: Effects of Closed Curves.

URL http://hdl.handle.net/10105/6246

(2)

集合の表現に対する幼児・児童の反応*

      かこみ線の効果

小 川 庄太郎

 (数学教室)

杉 村   健**

(心理学教室)

 小堂校の算数および中学校の数学を通じて,いわゆる数学教育の現代化の動きが世界の大勢となっ ているのは,周知のことである。

 その現代化の1つとして,  集合。の考えの導入があげられる。そしてその場合に,集合を表現す る手段として,ペソ図(Vem_diagram)がしばしば用いられている。算数・数学に関する教材を べ1/図を用いて指導した事例については、これまでに現場教師による多くの実践報告が行なわれてい る。しかしながら,ペソ図における かこみ線。そのものの心理的功果については,現在のところほ とんど研究されていない。

 本研究の目的は,ペソ図に用いられているかこみ線がどのような効果をもっているかを,幼児,小 学1年生,・3年生および5年生について検討することである。そして,われわれが用いているペソ図 やかこみ線に対する幼児・児童の反応に関する基礎的資料を得ることを意図している。

      方       法

 被験者 被験者は表1に示したように,幼稚園(5才)児,小学1年生小学3年生および小 学5年生あわせて794名である。これらの被験者は3つの幼稚園と2つの小学校から選ばれたもので

ある。

妻1 被験者の内訳

幼稚園児 1年生 3年生 5年生 合計

男子  52 117 132 119  420 女子  52  111 102  109  374

合計   104   228   234   228   794

 問  題  幼稚園児39名を用いて予備調査を行ない,その結果にもとづいて問題を作成した。問 題は更級の4分の1の大きさの紙に1つずつ印刷し,冊子にして被験者に与えた。これらの問題は,

* Chi1dren s Respons es to Symbo1i c Representat i on o f a Se t o f Ob j e ct s:

  Effects of C1osed Curves.

舳Shotaro Ogawa(Department of M乞themat i cs,Nara Univers i ty of   Educa t i on Nara)

  Takeshi Sugimura(Department of Psycho1ogy,Nara Univers i ty of   Educat i on Nara)

       ,      一13一

(3)

予備調査の結果にもとづいて,容易なものから困難なものへと配列し,さらに,前の問題の解答に影 響しないように配慮した。実際には,集合に関連する17個の問題を実施したのであるが、ここでは主 として,かこみ線の効果をみるために作成された次の3種の問題を取上げた。順序性に関する問題(a)・

(b)要素の重複に関する問題(a)・(b)および共通集合に関する問題(a)・(b)・(c)・(軌図1はこれら8 個の問題を示したものである。

 手続き 実験は教室で集団的に行なった。問題冊子に氏名などを記入させたあとで,次のよう な教示を与えた。

(a)しろ・くろのおはじきが  (b)しろ・くろのおはじきが あワます。○カ艦のおはじ  あります。○オ娼のおはじ きをどちらかひとつかきい  きをどちらかびとつかきい れなさい。        れなさい。

   ○  _⑳

 物

ψ

順序性に関する問題

(a)1さんかくをム生2だ  (b)ぐるレ地を虹2だ けせんでかこみましエ

う。

2.くろいものをみっつ

雪∵

言 直 蕾一

  目

けせんでかこみまし上う。

     ■  一    I 一 一

言塵言

  国

要素の重複に関する問題

(a)1くろいものをぜんぷ  (d)くろいものをぜんj池   (c)1さんかくをぜん2措   (b)さんかくをぜんぷせん せんでかこみましエう。   んでかこみましょう。

2.さんかくをぜんぷせ んでかこみましょう。

4  底㊧44㊧

△△㌦田4あ囮

△  必⑫4座⑫

△△%囲 △底國

んでかこみましょう。    でかこみましょう。

2.くろいものをぜんぶ せんでかこみましょう。

!㌘⑳

 4必 田

d△㌦圏

 ム砥⑫△舳㌔⑳

△△防⑳国

共通集合に関する問題

図1 順序性,要素の重複,および共通集合に関する問題

  これはテストではありません。他の人のを見ないようにし,自分の思うとおりに書いて下さい。

 問題は1枚に1つずつ書いてあります。私が問題を読んでやワ方を言いますから.すぐ答えを書  いて下さい。答えを書いたら紙をすぐ折り返して,次の問題に移ります。けしゴムを使ってはい  けません。

 教示に続いて,1番の問題から順に,実験者が2,3回くワ返して問題を読み,問魑の意味や答え の書き方を説明しながら,順次すすめていった。なお,教示と説明の仕方や言葉使いは,被験者の年 令に応じて変えられた。質問にさいしては,もう1度その問題の意味や答えの書き方を説明し,そし て 自分の思うとおりに書きなさい、と言うだけで,回答のヒントを与えるようなことはしなかった。

一14一

(4)

回答に要した時間は被験老の年令によって異なるが、1間につき1〜2分程度であった。

       結   果   と   考   察

 順序性に関する問題  表2は順序性に関する問題(a)・(bンこついての正答率を示したものである。

ここで正答と言うのは,白黒の系列の上方に黒を書くか,あるいは下方に白を書くかである。

 まず,問題ごとに学年差の検定をしたところ,問題(a)でばん2(3)=108.41,P<。O1となって1%水 準で有意であり,幼児と1年生,1年生と3年生の間はそれぞれ1%水準で有意差があるが,3年生 と5年生の差は有意ではなかった。問題(b)では〆(3);125.18,P<.01となワ,学年間の有意差検定       表2 順序性に関する問題の正答率(%)

問題 幼児 1年 3年 5年

a b

20,2    53,9     69,7 12.5     5513     68.8

76,8 74.1

毛問題(a)と同様な結果であった。したがって,問題(a)も(b)もともに,学年の上昇につれて正答率が増 加していると言える。なお,これに類似した問題として,知能検査などで具体物を用いた交替系列の

テストがある。その場合には,幼児でもかなワ高い正答率を示している。本実験の正答率が低いのは,

具体物と図形の違い,および 自分の思うところに書きなさい と教示したことによるのかもしれな

い。

 次に,かこみ線の効果について調べてみよう。ここで問題になるのは,かこみ線の存在によって 順序性が無視されてしまい,自丸と黒丸の集まりとみなされる傾向が強くなるかどうかと言うことで ある。そこで,問題(a)の正答者が問題(b)で誤答をした場合について調べてみた。その結果が表3であ る。この表で問題(b)の誤答というのは,かこみ線の内部ではあるが,系列とは無関係の場所に自丸あ

妻3 かこみ線の有無に関する比較

幼児 1年 3年5年

A.問題(a)の正答者数

B.Aのうちの問題(b)の誤答者数 C・BのAに対する割合(%)

21     117     163     175 10      24      29      22 47,0    20,5    17,7    12.6

るいは黒丸を書いた場合である。表3から明らかなように,幼児では問題(a)の正答者のうちの約半数 の者がかこみ線のために誤答をなしているが,1年生から5年生にかけて著しく減少している。この ような結果は,幼児では順序性の概念がまだ確立されていないことを反映するものであるが,別の観 点からみれば 線でかこむことがものの集まワを幼児に認識させることを示唆する。つまワ,幼児は 小学生に比べて順序性が弱く,かこみ線による集まワに引きつけられる傾向があると言えよう。

 要素の重複に関する問題  表4は,要素の重複に関する問題(a)・(b)についての正答率を示したも のである。ここで正答というのは,黒い三角を重複して用いた場合,つまり二重にかこんだ場合のこ

とである。

一15一

(5)

表4 要素の重複に関する問題の正答率佛)

問題 幼児 1年 3年 5年

a b

8,7     17,5     37,6     48,7 12,5    11,0    32,1    46,9

 正答率の発達的変化をみるために〆検定をしたところ,問題(a)でばん2(3)=81.33,P<一㎝となワ,

1年生と3年生および3年生と5年生の間にそれぞれ有意差が認められ,幼児と1年生の間には有意 差がなかつた。問題(b)ではλ2(3〕;88.15,P<・O1となワ,学年間の有意差検定も問題(b)と同様な結 果であった。このように,正答率は幼児から5年生へと著しく増加するのであるが,5年生において すら50%に達していないということは,いったん自分が線でかこんだ要素(問題a),あるいはすで にかこんである要素(問題b〕を,重複して二重に用いることがかなワ困難な仕事であることを意味 する。もちろん,この2つの問題においては,黒い三角を二重に用いなくても問題の要求に応じるこ とができるから,正答率(二重使用)が低下したものと考えられる。この点,次項で述べる共通穿合 に関する問題においては,共通の部分を重複して用いないと解答できないようになっている。

 次に,かこみ線がなくて自分でそれを書く場合(問題a)と,あらかじめ書いてある場合(問題b)

とではどのように異なるかを調べてみよう。そのために妻3と同様に、個人ごとの解答の変化を検討 してみる。表5の上段は問題(a)の正答者を主体にして,下段は問題(b)の正答者を主体にして算出した ものである。CとFの行に示された値を見ると学年上昇につれて減少しているが,これは2つの問題 の両方の正答者が増加していることに対応する。その割合を学年ごとに比較してみると,幼児ではF

妻5 かこみ線の有無に関する比較

幼児 1年3年 5年

A.問題(a)の正答者数

B.Aのうちの問題(b)の誤答者数 C.BのAに対する割合(%)

D.問題(b)の正答者数

E・Dのうちの問題(a)の誤答者数 F.EのDに対する割合侮)

9     40     88     111 5    26    32    28 55,6    65,0    36,4    25.2 13     25     75     107

9    11    19    24 69,2    44,0    25,3    22.4

の方が多いが他はCの方が多くなっている。このことは,幼児では相対的にみて自分でかこんだ場合

(問題a)の方がその要素を二重に使いにくいことを意味する。1年生以上ではその逆に,あらかじ めかこんである問題(b)の方が困難である。ただし,1年生の差(65.0対44.O)のみがCR=2.30,

P<.05で統計的に有意であった・

 共通集合に関する問題  表6は共通集合に関する問題(a)・(b)・(c)・(d)についての正答率を示した ものである。まず,発達差を検定してみると、問題(a)から順に〆の値は167,57,83.50,126,86,

73.02(いずれもd∫=3,P<.O1)となって,すべて1%水準で有意であった。問題(a)・(b)・(c)に ついては各学年間の差が有意であり,問題(d)では1年生と3年生の差だけが有意であったが,どの問

一I6一

(6)

題においても学年上昇にともなって正答率が増加している。そして,問題(b)と(d)では幼児でも6〜7 割の正答者がいることからみて,この種の問題については幼児でもすでに共通集合の理解が可能であ

ることが示唆される。

表6 共通集合に関する問題の正答率侠)

問題幼児I年3年 5年

a     26,9    57,5    81,2    90.4 b     64,4    77,6    91,9    97.4

c      46,2     67,5     88,0     94.3 d     7211    78,1    94,0    97.8

 ところで 問題(a)と(c)および問題(b)と(d)はそれぞれ本質的には同一の問題であるが,低年令の者ほ ど問題(a)よワも問題(c)の方が,また問題(b)よりも問題(d松方がよい成績を示しているのである。すな わち,問題(a)と(c)の差(c−a)は幼児から11膜に,19.3%,1010%,6.8%,および3.9%であワ,問 題(b)と(d)の差(d−b)は同じ順に,7.7%,0.5%,2.1%,およびO−4%であった。これらの差につ いて統計的検定を行なったところ,問題(a)と(c)の差のうち,幼児(CR=3.59),1年生(CR:3.62)

3年生(C R:3.35)jこおいて1%水準で有意差が認められた。問題(a)において停,まず黒いものを かこませるのに対して,問題(C)においては,最初に三角をかこませるのであり,そのあとで三角(問 題a)あるいは黒いもの(問題C)をかこませる。上の結果は,共通集合として黒い三角を理解する さいに,最初に黒いものの集合を作らせた方が困難であることを意味する。特に低学年でその傾向が 強いということは,彼らにとっては形よりも白黒のカが知覚的に目立ちやすく,それ蚊形の集合よ

ワも白黒の集合の方がかこみ線によってよワ強く意識されたものと考えられる。

 次に.かこみ線を自分で書いた場合(問題aと。)と,あらかじめ書いてある場合(問題bとd)

のちがいを調べるために,表5と同様な分析を行なった。表7−aは問題(a)と(b)の結果であり,表7

−bは問題(c)と(d)の結果である。これらの表から明らかなように,問題(a)と(b)および問題(c)と(d)とも

にかこみ線を自分で書いた場合に,その部分を共通集合として用いることが困難である。なお,問題

(a)と(b)の違いは幼児から順にCR=5,95,6−27,4.18,および3.36(いずれもP<.01)であり,ま た問題(c)と(d力差はC R=4.68,4.52,2.91(以上P<.01),および2,02(P<.05)であった。

このように統計的にはすべて有意であるが,標本値でみると年令が低いほど差が大きいことがわかる。

表7−a かこみ線の有無に関する比較

幼児 1年3年5年

A.問題(a)の正答者数

B・Aのうちの問題(b)の誤答者数 C.BのAに対する割合(%)

D.問題(b)の正答者数

E.Dのうちの問題(a)の誤答者数 F.EのDに対する割合(%)

28    131    190    206 2     4     4     2

7.1      3.1      2.1      1.O

67     177     215    222 41     50     29     18 61,2    28,2    13.5     8.1

一17一

(7)

表7−b かこみ線の有無に関する比較

幼児 1年 3年 5年

A.問題(c)の正答者数

B.Aのうちの問題(d)の誤答者数 C.BのAに対する割剖%)

D.問題(d)の正答者数

E.Dのうちの問題(c)の誤答者数 F.EのDに対する割合拓)

48     154     206     215 2     1     3     2

4.2      0,6      1.5      0.9

75    178     220    223 29     25     17     10

38,7     14.0      7.7      4.5

      要         約

 集合の表現(かこみ線)に対する幼児・児童の反応を調べるために,幼児,1年生,3年生,およ び5単生に対して,順序性に関する問題,要素の重複に関する問題、および共通集合に関する問題が 与えられた。主な結果は次のとおりであった。

 (1)幼児の順序性はかこみ線によって弱められるが,小学生はあまり影響を受けない。

 (2〕幼児は自らかこんだ要素を二重に用いることが困難であるが,小学生ではあらかじめかこんで   ある要素を用いる方が困難であった。ただし,統計的には1年生のみが有意であった。

 (3)あらかじめ一方の集合の要素をかこんでおいたときには,幼児でも多くの者が共通集合の要素   として理解することができる。自らかこんで集合を作ったときには,その要素を共通集合の要素   として用いることが困難である。このことは低学年において顕著である。また,形よワも白黒の   方が集合としてまとまワやすい。このことも低学年において目立っている。

(附記) 本研究の資料の蒐集にさいしては,枚岡西小学路五条小学校,東大寺幼稚園,伏見切  稚園・極楽坊保育所 本学付属幼稚園のご協力を得た。また資料の整理にさいしては平田知範  君と小薮笑子さんのお世話になった。心から感謝します。

一18一

参照

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