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放射化分析法による須恵器の産地分析
著者 三辻 利一
雑誌名 古文化財教育研究報告
巻 2
ページ 27‑31
発行年 1973‑03
URL http://hdl.handle.net/10105/361
放射化分析法による須恵器の産地分析
辻 利
(奈良教育大学 化学教室)
1.目 的
奈良県下には数多くの須恵器が出土するにもかかわらず、その実址群はあまり見つけられてい
ない。これに反して、大阪南部窯址群、高知県須江窯址群、山口県陶窯址群、岡山県備中陶古 窯址群、開山県邑久業址群、滋賀県近江八幡窯址群、美濃須衛古窯址群等、全国の各地に須恵器
の窯址群が、今日、数多く見つけられている。このことは、須恵怒が全国各地から、古代の政治
の中心地である奈良へ、何らかの形で集められたことを示唆する。ここに、奈良県下に出土する須恵器の産地分析を試みる意味がある。本研究では、化学分析により、その元素組成から須恵器 の産地を知ることを目的としている。その産地分析の結果からは、須恵器の流通を知ることが出 来、さらに、須恵器の流通を適して、古代の政治、社会の機構や状況を理学的に跡ずけることが
出来る。
分析方法としては、放射化分析法がとられた。本法の利点は須恵器の主成分元素を非破壊で迅 速に定量出来るのみならず、近年開発されたGe(Li)検出器に多チャンネル教の波高分析器 を組合わせて使用すれば、産地分析の指擦元素となると思われる微量元素を簡単に定量出来る点
にある。さらに、得られた結果を大型計算器で処理すれば、非常に多くのデータが、迅速に処理出 出来るというメリットがある。以下に、初めて試みられた放射化分析法による須恵器の産地分析の結果を報告する。
2.実 験 方 法
主として、大阪南部窯址群出土の須恵器について分析を試みた。試料一覧表を表1に示してあ る。試料中、G−1、G−2のように数字による区別は、同じ窯址から出土したものであるが、
外観の色が異なり、かつ、Ⅹ線回折′くターンの相違することが報告されているものを表わす1)0
これらの試料を粉畑してのち、ポリエチレンの袋に一定量をつめ、京都大学原子炉で中性子船
射して、放射化した。放射化条件は、甲性子束、〜2×101さn/虎/肥、照射時間は1励であ
った。照射後は直ちに、試料を開封し、5ccのナフタリンとともに、測定管に入れ、よく混和し
た。ナフタリンを使用したのは、粉末試料を均一に混和し、測定の幾何学的条件を一定にするた
である。γ線スペクトルはGe(Li)検出器に4000チ†:/ネル波高分析器を接続して測定 した。データ処理は、京都大学原子炉の大型計算器によって行われた。また、定量分析には、I Cuを慄準物質としたモノスタ/ダード法が用いられた。
8.実 験 結 果
照射直後に観測されたγ線スペクトルを図1に示してある。27Mg(T毎=9・45励)、
鞄1(T毎=2.27励)、52v(T宛=3.76励)、5餌n(T‡≦=2.58hr)、
2如α(T毎=15.Ohr)の5核種の光電ピークが観測された。この試料を約30分冷却して のち、再び観測したγ線スペクトルが図2に示されている。缶半減期の禍鹿、28Al、52vの
光電ピークは既に、減衰してしまっており、長半減期の24Nα、5触hの光電ピークが残存して
おり、減衰したピークの下からは、新たに、42Kの光電ピークが観測された。この結果、これらの光電ピークを使用すれば、Mg、Al、Ⅴ、Mn、Na、Kの6元素が非破壊で分析出来ること
がわかった。次に、これらの元素の定量分析を試みた。はじめに、本法による分析値の正確度を確かめるた
めに、N上iSの轢準試料、ノ紘一99の長石を1分間照射して、非破壊で定量分析した。結果は表
2に示してある。同時に、この標準試料の既知組成より計算した含有量も示してある。実験誤差 の範囲内で、実験値は計算値とよく一致していることがわかった。次に、本法により、非破壊で、
須恵器試料を分析した結果を、表3に示してある。分析値は試料1グあたりの叩数で与えてある。
4.考
察1分間雌射で観測されたγ線スペクトルは、どの須恵器試料についても、殆んど同じであった。
異なっているのは、その蛍度だけであった。若干のエスケープピークを含むγ線スペクトルは完
全に理解された。Ⅴは1.43MeV、Mgは1.01MeV、Mnは1.81MeV、Alは1.70MeV の光電ピークが、各々の元素の定量に使用された。また、Nαは照射直後でも、定量出来るが、
約30分ばかり、冷却してのち、2.75MeVの光電ピークを用いて定量する方が精度は良かっ た。また、Kも約30分冷却後、1.525MeVの光電ピークを用いて定量された。
分析結果の解析には、今回はまだ、測定値が数少ないため、稜々の元素間の相関関係をとって はいないが、分析値のばらつきより、分析値を適当なグループに分撰し、そこへ、各試料をあて はめて、産地分析に関する考察を若干、試みた。表4に、その結果を示してある。この結果によ
ると、G−1、G−2、G−3、また、良一1、良一2、また、M−1、M−2は常に同じグル ープに分属されていることがわかった。つまり、同じ窯址から出土した須恵器は、その元素組成
が、大体似ているということである。このことはNα/K比をとってみても、凡そ、理解出来る0
したがって、これらの組のものは、化学組成が、ほぼ、同じ℃ 外観の色や、鉱物組成(っまり、
Ⅹ繰回析′くターン)が異なっているだけということになり、この違いは、同じ窯の中での焼成温 度の相違に基因すると考えられる。個々の試料こついてみると、香川県カメヤキ谷産のR試料は
アルカリ(NαとK)の含有量が他の須恵器に比べて著しく多く、この点が、この土器の特徴で ある。また、カシハラ下明寺遺跡出土のZ試料はAlの含有量が他のものに比べて少なく、いづ れも、別産地の出土であることを示している。また、大阪南部窯址出土のG、D、E、M試料を
比べてみると、元素組成は少しづつ違っているが、大差はなく、同一地方産の粘土からから出来 ていることを暗示している。以上のように、今回は出土窯の明確な土器のみについて、どの程度、元素組成が異なるかを検討した。その結果は、主成分元素の分析結果の比較にすぎないため、十 分な産地分析は出来ていないが、本来、土器は岩石が、風化、分解して生成した粘土鉱物から出 来ており、その粘土鉱物の元素組成は、その産地に支配されている筈である0そして、その組成
の特色は、粘土の主成分元素よりも、むしろ、微量成分元素にあると推定される。このため、目 下、微量元素の分析を検討中であり、この結果は、稿を改めて報告する予定である。
5.文
献1)高橋誠一:
「古代手工業の歴史地理学的考察」史林 54巻5号79〜125(1971)
表1 須恵器試料一覧表(1)
試 料 番 号 出 土 地 名
製作時抽 和泉市(大ノ池西)和泉市(和泉55号)
堺市(美木多中山)
和泉市(梨本ロ)
香川県(カメヤキ谷)
カシハラ(下明寺遺跡)
Ⅰ期前〜中
Ⅰ期前〜中
Ⅰ期前〜中
Ⅴ 期
G−1、G−2、G−3 D
E
M−1、M−2 R−1、R−2
Z
衰2 NBS標準試料による分析値の正確度(叩/試料1グ)
成 分
定 量 値計 算 値
48.64± 2.96 45.99 45.52±11.32 43.17 Al l12.3 ± 7.65 108.49
表3 須恵器の分析値(mダ/′試料ダ)
G−1 G−2 G−3 D E M−1 M−2 R−1 R−2 Z
5.75 4.35 4.68 2.77 11.30
− 18β0 10.40 1739 11.㊥
973 937 −1672 87β 0.11 0.11 − 0.:お 0.劇 0.11 0.11 − 0.17 0.12 532 − 33.7 247
0.(B3 − 0.α冶 0.鵬1 0.015 以)12 − 0.011 01)13
6.53 3.19
:抑.50 14.24 1001) 82.9 0ユ5 0.(か 0.11 0.12
− 37A
− 0.(X)4
− 0.013
9.18 14.4 3.72 25.加 48.50 19.61 111.0 99.0 749
0.19 0.14 024 0.(裕 0β9 0.10
− 142
− 0.0伽
− 0008
表4 須恵器の産地分析の考察
Nα く9m9 D、Z、G−1、G−2、G−3、M−1、M−2
>9 R−1、R−2、E
K <25mダ G−2、G−3、E、D、M−1、M−2、Z >25 R−1、R−2
Al く80椚ダ Z
>80
D、E、M−1、M−2、R−1、R−2、G−1、G−2 Mn <0.3m9 Gql、G−2、M−1、M−2、Rql、R−2、Z、D>0.3 E
く0.1〝冴 R−1、R−2
Ⅴ 0.11〜0.12 G−1、G−2、E、M−1、山一2、Z
>0.15 上)
0.75MeV 28A戚 DEP O.845MeV 27Mg+88Mn
l.01MeV 27Mg
l.27MeV 28A且 SEP
l.37MeV 24Na
l.43MeV 52v
1.73MeV 2ヰNa DEP l.78MeV 28A且
l.81MeV 58Mn
2.11MeV 58Mn
2.23MeV 21Na● SEP