Ⅰ.はじめに
身体運動における四肢の伸展・屈曲運動は、通常、ヒトの意図的筋活動によって行われ る。しかし、これらの運動には筋の緊張を無意識レベルで制御する緊張性頸反射の影響も 少なからず存在する。
そもそも緊張性頸反射は、四肢の伸展・屈曲に関わる筋群に作用する体位反射であり、
頭部と体幹部の位置関係によって持続的に誘発される。そして、この反射には、対称性頸 反射を誘発する背屈頭位と腹屈頭位、非対称性頸反射を誘発する傾斜頭位、回転頭位の4 種の頭位がある。⁵⁾
先行研究によれば、対称性頸反射は、同じ哺乳動物でもその発現様相が異なり、犬や猫 では頭を下に向け、顎を強く引く(腹屈頭位)と、下肢伸展筋が緊張し、上肢伸展筋は弛 緩する。逆に、頭を後方に傾け顎を上げる(背屈頭位)と、下肢伸展筋が弛緩し、上肢伸 展筋は緊張する。³⁾⁴⁾⁶⁾⁷⁾⁸⁾⁹⁾ しかし、ヒトまたはウサギの場合、顔を上に向ける背屈 頭位においては四肢すべてが伸展し、腹屈頭位においては四肢すべてが屈曲することが知 られている。¹⁾ 一方、傾斜頭位と回転頭位によって誘発される非対称性頸反射の発現様 相はすべての哺乳動物が共通であり、傾斜頭位では、頭部を冠状面に沿って左右どちらか 一方に傾けた位置で固定すると、耳が肩に近付いた側の上下肢は伸展緊張が増し、反対側 においては減ずるため屈曲する。また、回転頭位では、頭部を身体の長軸で回転させると、
鼻先の向いた側の上下肢(顎側肢)の伸展緊張は増加して強く伸展し、反対側の上下肢(後 頭側肢)の伸展緊張が減弱し、そのため屈曲する。
この緊張性頸反射の影響を筋電図によって定性的にみた報告¹º⁾ はあるが、筋の収縮速 度や筋力、筋パワーなどの観点から定量的に捉えた研究は少ない。福田が「優れたスポー ツ選手のフォームには頸反射そのものが合理的に出現している」と指摘するように、頸反 射の影響を運動パフォーマンスの違いから定量的に捉える意味は大きいと思われる。
そこで本研究では、腕伸展運動と脚伸展運動を具体的な運動事例として、上下肢の伸展
動作に及ぼす緊張性頸反射の影響を「伸展速度」、「伸展力」、「伸展パワー」の3つの力学
量から定量的に捉えることにした。実験では、腕伸展運動として、メディシンボールを使
用したプッシュ動作を、また、脚伸展運動については垂直跳びの運動を被験者に課し、背
屈頭位と腹屈頭位によって反射が誘発されたときの力学量の違いをみた。
Ⅱ.実験方法
Ⅱ-1.腕伸展運動について
1.被験者
被験者は、
H大学教育学部学生男子
20名、女子
20名の計
40名とした。被験者の年齢・
体質量・身長の平均±SD はそれぞれ
20.2±1.4歳、
64.5±10.0kg、169.4±8.8 cmである。
2.運動課題
腕伸展運動では、座位姿勢からメディシンボールを全力でプッシュする運動を課した。
運動条件は下記の通りである。
条件
1:両足を接地し、膝関節角度90度の座位姿勢にさせる。
条件2:背筋をまっすぐに伸ばし、対象動作の反対の腕は体側につけるように指示した。
条件
3:腹屈頭位時は足下の印を、背屈頭位時は天井の印を注視するように指示した。条件
4:極力手首のスナップを使わず、ボールを真っ直ぐに押し出すように指示した。条件
5:試技回数は6回(腹屈頭位
3回、背屈頭位
3回)とした。
3.ビデオ撮影
本研究では、プッシュされるボールの動きから腕伸展速度、腕伸展力、腕伸展パワーを 求める。そこで、ボールの動きを追い易くするため、白いボールの中央に直径
20mmの黒 い点を記したメディシンボールを用いた。(撮影速度:300fps) 実験時の撮影配置は図
1に示す。また、腹屈頭位と背屈頭位の撮影画像を図
2、3に示す。
図
1.腕伸展運動実験時の撮影配置図
2.腹屈頭位時のプッシュ動作 図3.背屈頭位時のプッシュ動作4.解析の手順と方法
(1)解析の手順
本研究で行った解析手順は、以下の通りである。(図
4参照)
・
CASIO社製デジタルビデオカメラ(撮影速度:300fps)でプッシュ動作を撮影。
(腹屈頭位
3回、背屈頭位
3回の計
6回の試技を撮影。)
・ 撮影した映像(MOV ファイル)を動画編集ソフト「QTConverter1.3.0」にて
AVIフ ァイルに変換し、コンピュータに動画ファイルとして保存。
・ 変換した分析用
AVIファイルを、汎用運動解析ソフト「Movias Pro 1.62」 (株式会社ナ ックイメージテクノロジー)を用いてボールの座標データを算出。
・ この座標データを、表計算ソフト「Windows Excel」 (マイクロソフト社)に貼り付け、
各試技の腕伸展速度、腕伸展力、腕伸展パワーを求める。
図
4.解析の手順 図5.5点間移動加重平均法
(2)解析の方法
本研究では、腕伸展運動に及ぼす頸反射の影響を「腕伸展速度」・「腕伸展力」・「腕伸展
パワー」の3種の力学量から捉える。その算出方法は次の通りである。
(1)腕伸展速度V
~(x0
,y0)を腕伸展開始時のボールの座標、(x
1,y
1)をリリース時のボールの
座標、K を補正係数、T を力の作用時間とすれば、腕伸展の平均速度V
~は
V~
= [ { ( x1- x0 )^2 + ( y1- y0 ) ^2} ]^0.5 × K / T ・・・・・・・・・・・・・・・・・
①として求まる。
(2)腕伸展力F
~T
を力の作用時間、M をボールの質量、V0 を腕伸展開始時のボールの速度、V1 を リリース時のボールの速度とすれば、運動量の変化は力積に等しく
F~
T
= MV1 - MV0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
②②式において
MV0= 0 なので
F~
T
= MV1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
③となり、腕伸展の力の平均F
~は次式より求まる。
F~
= MV1 / T ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
④(3)腕伸展パワーP
~
伸展パワーの平均P
~は、①、④式より
~P
= V
~× F
~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ⑤
として求まる。
Ⅱ-2.脚伸展運動について 1.被験者および実験場所
被験者は、
H大学教育学部学生男子
20名、女子
20名の計
40名とした。被験者の年齢・
体質量・身長の平均±SD はそれぞれ
20.5±1.4歳、
66.0±11.0kg、169.3±8.6 cmである。
2.運動課題
脚伸展運動では、立位姿勢から垂直跳びの運動を課した。運動条件は下記の通りである。
条件
1:腕は体側につけたまま固定する。(腕の振りを使わない)条件
2:動作開始時の姿勢は、膝関節角度 90°の脚屈曲姿勢を保ち、予備的沈み込みがないように指示をした。
条件
3:腕伸展運動と同様に二種類の姿勢で、6回の試技(各3回)。3.ビデオ撮影
脚伸展運動における力学量の算出は、被験者の身体重心の跳躍高をもとに行う。そのた め、実験の前に予め被験者の重心位置を背屈頭位と腹屈頭位の
2つの姿勢で測定し、その 重心位置をマークしておいた。 (撮影速度:
300fps) 実験の撮影配置は図6に示す。また、
腹屈頭位時と背屈頭位時の撮影画像を図
7、8に示す。
図
6.脚伸展運動実験時の撮影配置
図
7.腹屈頭位時の脚伸展動作図
8.背屈頭位時の脚伸展動作4.解析の手順と方法
(1)解析の手順
解析の手順は、腕伸展運動の解析と同様である。
(図
9参照
)図
9.解析の手順(2)解析の方法
本研究は、脚伸展運動に及ぼす頸反射の影響を「脚伸展速度」・「脚伸展力」・「脚伸展パ ワー」の3種類の力学量から捉える。その算出方法は、次の通りである。
(1)脚伸展速度V
~gを重力加速度、h を跳躍高、K を補正係数とすれば、脚伸展の平均速度V
~は、次 式で求まる。
~V
= ( 2ghK )^0.5/2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑥
(2)脚伸展力F
~T
を力の作用時間、M を被験者の体質量、V1 を跳躍速度とすると、腕伸展運動と 同様に⑦式が導かれる。
~F
= MV1/T ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑦
⑦式において、V1 = ( 2ghK )^0.5 である。
(3)脚伸展パワーP
~
伸展パワーの平均P
~は、⑥、⑦式より
P~
= V
~× F
~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑧
として求まる。
Ⅲ.結果
1. 腕伸展運動における伸展速度・伸展力・伸展パワー 1) プッシュ動作の腕伸展速度
腹屈頭位と背屈頭位時の腕伸展速度を比較すると、腹屈頭位は平均で
1.841±0.254(m/s)
であり、背屈頭位は
1.980±0.308(m/s)だった。(図
10参照) この差は統計的にも1%
水準で有意であり(ウィルコクソンの符号順位和検定)、背屈頭位の方が伸展速度は大きい。
また、背屈頭位の値を
100とした比率でみると腹屈頭位の値は
92.0±4.217%になり、その差は
8.00%となる。(表1参照)
腹屈頭位時および背屈頭位時の腕進展速度(m/s)
1.841 1.980
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
腹屈頭位 背屈頭位
腕伸展速度(m/s)
腹屈頭位 背屈頭位 P<0.01
図
10.腹屈頭位時および背屈頭位時の腕伸展速度2)プッシュ動作の腕伸展力
腹屈頭位と背屈頭位時の腕伸展力を比較すると、腹屈頭位は平均で
24.60±6.178(N)であり、背屈頭位は
26.83±6.633(N)だった。(図
11参照) この差は統計的にも1%
水準で有意であり(ウィルコクソンの符号順位和検定)、背屈頭位の方が伸展力は大きい。
また、背屈頭位の値を
100とした比率でみると腹屈頭位の値は
90.3±7.209%になり、その差は
9.70%となる。(表1参照)腹屈頭位時および背屈頭位時の腕伸展力(N)
24.60 26.83 0.0
5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
腹屈頭位 背屈頭位
腕伸展力(N)
腹屈頭位 背屈頭位 P<0.01
図
11.腹屈頭位時および背屈頭位時の腕伸展力3)プッシュ動作の腕伸展パワー
腹屈頭位と背屈頭位時の腕伸展パワーを比較すると、腹屈頭位は平均で
46.33±17.07(
W)であり、背屈頭位は
54.85±
20.90(
W)だった。(図
12参照)この差は統計的にも 1%水準で有意であり(ウィルコクソンの符号順位和検定)、背屈頭位の方が伸展パワーは 大きい。また、背屈頭位の値を
100とした比率でみると腹屈頭位時の値は
84.3±10.06%になり、その差は
15.7%となる。(表1参照)腹屈頭位時および背屈頭位時の腕伸展パワー
46.33 54.85
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0
腹屈頭位 背屈頭位
腕伸展パワー(W)
腹屈頭位 背屈頭位 P<0.01
図
12.腹屈頭位時および背屈頭位時の腕伸展パワー表1.腹屈頭位および背屈頭位の腕伸展速度・伸展力・伸展パワーの実測値と比率
実測値(m/s) 比率(%) 実測値(N) 比率(%) 実測値(W) 比率(%)
背屈頭位 1.980±0.308 100 26.83±6.633 100 54.85±20.90 100 腹屈頭位 1.841±0.254 92.0±4.217 24.60±6.178 90.3±7.209 46.33±17.07 84.3±10.06
背屈頭位-腹屈頭位(差)0.165±0.100* 8.00 2.700±2.319* 9.70 8.515±8.424* 15.7
*:P<0.01 腕伸展速度
動作姿勢
腕伸展力 腕伸展パワー
2. 脚伸展運動における、伸展速度・伸展力・伸展パワー 1)跳躍動作の脚伸展速度
腹屈頭位と背屈頭位時の腕伸展速度を比較すると、腹屈頭位は平均で
1.185±
0.134(
m/s) であり、背屈頭位は
1.260±0.145(m/s)だった。(図
13参照) この差は統計的にも1%
水準で有意であり(ウィルコクソンの符号順位和検定)、背屈頭位の方が伸展速度は大きい。
また、背屈頭位の値を
100とした比率でみると腹屈頭位の値は
93.4±4.986%になり、その差は
6.63%となる。(表2参照)
腹屈頭位時および背屈頭位時の脚伸展速度(m/s)
1.185 1.260
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
腹屈頭位 背屈頭位
腹屈頭位 背屈頭位 P<0.01
図
13.腹屈頭位時および背屈頭位時の脚伸展速度2)跳躍動作の脚伸展力
腹屈頭位と背屈頭位時の腕伸展力を比較すると、腹屈頭位は平均で
206.5±49.65(N)であり、背屈頭位は
224.5±55.66(N)だった。(図 14参照) この差は統計的にも1%
水準で有意であり(ウィルコクソンの符号順位和検定)、背屈頭位の方が伸展力は大きい。
また、背屈頭位の値を
100とした比率でみると腹屈頭位の値は
92.2±6.229%になり、その差は
7.79%となる。(表2参照)
腹屈頭位時および背屈頭位時の脚伸展力(N)
206.5 224.5
0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0
腹屈頭位 背屈頭位
腹屈頭位 背屈頭位
P<0.01
図
14.腹屈頭位時および背屈頭位時の脚伸展力3)跳躍動作の脚伸展パワー
腹屈頭位と背屈頭位時の腕伸展パワーを比較すると、腹屈頭位は平均で
248.8±75.06(
W)であり、背屈頭位は
289.0±
94.79(
W)だった。(図
15参照) この差は統計的に も1%水準で有意であり(ウィルコクソンの符号順位和検定)、背屈頭位の方が伸展パワー は大きい。また、背屈頭位の値を
100とした比率でみると腹屈頭位の値は
87.3±9.515%になり、その差は
12.7%となる。(表2参照)
腹屈頭位時および背屈頭位時の脚伸展パワー
248.8 289.0
0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 400.0 450.0
腹屈頭位 背屈頭位
腹屈頭位 背屈頭位
P<0.01
図
15.腹屈頭位時および背屈頭位時の脚伸展パワー表
2.背屈頭位と腹屈頭位の脚伸展速度・伸展力・伸展パワーの平均と比率実測値(m/s) 比率(%) 実測値(N) 比率(%) 実測値(W) 比率(%)
背屈頭位 1.260±0.145 100 224.5±55.66 100 289.0±94.79 100
腹屈頭位 1.185±0.134 93.4±4.986 206.5±49.65 92.2±6.229 248.8±75.06 87.3±9.515 背屈頭位-腹屈頭位(差) 0.085±0.068* 6.63 18.42±19.76* 7.79 40.19±42.26* 12.7
*:P<0.01 動作姿勢
脚伸展速度 脚伸展力 脚伸展パワー
Ⅳ.考察
1. 緊張性頸反射が腕伸展速度・腕伸展力・腕伸展パワーに及ぼす影響
本実験の結果から、腕伸展運動における伸展速度、伸展力、伸展パワーはいずれの値も 背屈頭位が腹屈頭位に比べ有意に大きいことが明らかとなった。特に、伸展パワーは、比 率で見ると伸展速度、伸展力に比べ、約
15%の差があり、頸反射の影響を強く受けることがわかった。すなわち、腕伸展運動では、背屈頭位を保つことで伸展運動にプラスの影響 を与える。
具体的な腕伸展の運動例として、陸上競技の砲丸投げややり投げが挙げられる。砲丸投 げの姿勢は、本実験で行ったプッシュ動作に類似する。そのために砲丸を投げる際は、背 屈頭位が基本姿勢と言える。(図
16)
図
16.砲丸投げにおける背屈姿勢(http://www.youtube.com/watch?v=-Im3GSefi_0)さらに腹屈頭位は、腕屈曲に関わる筋群に作用する。これを踏まえて逆の視点から見れ ば、腕屈曲動作時に大きな力やパワーを必要とする懸垂運動などでは、背屈頭位はマイナ スの要因となる。その腹屈頭位を活用する運動例としては、ボート競技が挙げられる。ボ ート競技は、オールを漕ぐ時に伸展していた腕を一気に屈曲し推進力を得る。すなわち、
ボート競技において、腹屈頭位は合理的な姿勢である。(図
17、図18参照)
図
17、図18.ボート競技における腹屈姿勢(http://www.youtube.com/watch?v=j3C5Tou7TOY, http://www.youtube.com/watch?v=Pho4_Z-syWs)
2.緊張性頸反射が脚伸展速度・脚伸展力・脚伸展パワーに及ぼす影響
脚伸展運動における伸展速度、伸展力、伸展パワーはいずれの値も腕伸展と同様に背屈 頭位が有意に大きい。特に、脚伸展パワーにおいては、比率で見ると伸展速度、伸展力に
比べて約
13%の差があり、腕伸展の結果も含めれば、頸反射は四肢の伸展運動に強く影響すると言える。
脚伸展の運動例としては、ノルディックスキーのジャンプ競技の踏切動作やウェイトリ フティングの初期の挙上動作に頸反射の影響が考えられる。ジャンプ競技に関しては、踏 切時に大きな脚伸展パワーを得るために背屈姿勢を保持し、頸反射を誘発している。
(図19参照) また、ウェイトリフティングの初期の挙上動作では、大きな重量を持ち上げる脚伸 展パワーを発揮するために、頸反射を誘発する姿勢をとる。(図
20参照)
図
19.ジャンプ競技の踏切時の背屈頭位 図20.ウェイトリフティングの背屈頭位(http://www.youtube.com/watch?v=Nf3VBU2tGlE&feature=related) (http://www.youtube.com/watch?v=OnhQ46l6Oog)
3.四肢の伸展運動における緊張性頸反射と緊張性迷路反射の関係
頭部位置の変化による姿勢反射には、緊張性頸反射の他に緊張性迷路反射がある。緊張 性迷路反射とは、重力の方向に対する頭部の位置関係によって四肢の伸展・屈曲筋群に発 現する姿勢反射の一つである。空間における頭位の変化はマグナスにより区分されたもの があり、もっとも伸展緊張が増す頭位はプラス
45度で、もっとも減ずるのはマイナス
135度である。⁷⁾(図
21参照)
通常、緊張性頸反射と緊張性迷路反射は連鎖的な関係にあり、本実験でも緊張性迷路反 射は運動パフォーマンスに影響していることが考えられる。
本実験の伸展運動は、頭位がマイナス
135度にあることで緊張性迷路反射が発現し四肢
の伸展が抑えられると同時に、頸反射により上下肢ともに伸展緊張が弱まり、屈筋の緊張
を促したと言える。逆に、頭位がプラス
135度では、四肢の伸展緊張に影響を及ぼさない
が、背屈頭位であることで頸反射が働き、上肢および下肢の伸展緊張が増し伸展を促した
と考えられる。すなわち、腹屈頭位では、頸反射により伸展運動が抑制されていることに
腹屈頭位のように緊張性迷路反射が伸展運動に大きな影響を及ぼす頭位ではなかった。し たがって、本実験における伸展速度、伸展力、伸展パワーの差は、頸反射の他に一部、緊 張性迷路反射の影響も含む値と捉えている。
図
21.マグナスによる緊張性迷路反射4.身体運動における姿勢反射の制御について
身体運動における四肢の伸展・屈曲は、緊張性頸反射を誘発または抑制することで、
円滑に遂行される。福田は、優れたスポーツ選手のフォームには頸反射が合理的に制御さ れていることを見いだし、図
22に示したように、野球選手がボールを見ながら捕球する動 作は反射を誘発している例であり、反射に逆らった難しい動きを習得する場合には、「運動 を反復して練習しなければならない」としている。²⁾
つまり、このことは姿勢反射が個人の意識やイメージによって制御できることを示唆し ている。
図
22.捕球動作に見られる頸反射Ⅴ.まとめ
本研究は、四肢の伸展運動に対する頸反射の影響を数量的にみることを目的とした。
腕伸展運動については、メディシンボールを用いたプッシュ動作を分析の対象とし、脚 伸展運動は垂直跳びを分析の対象とした。実験では、この二つの運動を背屈頭位と腹屈頭 位の姿勢で行わせ、その運動パフォーマンスの違いを三つの力学量から比較検討した。
研究の結果を要約すると、以下の通りである。
1.腕伸展運動における背屈頭位と腹屈頭位の差は、伸展速度で
8.00%、伸展力で9.70%、伸展パワーで
15.7%となり、いずれも背屈頭位が有意に大きかった。2.また、脚伸展運動の背屈頭位と腹屈頭位の差は、伸展速度で
6.63%、伸展力7.79%、伸展パワーは、12.7%となり、腕伸展運動と同様、背屈頭位が有意に大きかった。
3.このことから、四肢の伸展運動が関わる動きを効率よく遂行するためには、背屈頭位の 姿勢を制御することが重要となる。
4.しかし、運動によっては、反射を抑制することでパフォーマンスが向上することもあり、
これは、同じ動作をくり返す「反復練習」によって、可能になる。
反射は、基本的にはヒトの意志とは無関係に脊椎レベルで筋活動を誘発するものであるが、
姿勢反射に関しては、個人の意識やイメージによってコントロールができるものとされてい
る。したがって、身体運動における姿勢反射の制御は運動パフォーマンスの良し悪しに大き
く関係するものと考える。
Ⅵ.引用文献
1)福田精:「姿勢と生活17-運動姿勢と姿勢反射-」
国勢社,
4~
24,
1975年
10月
1日発行
2)麓信義:「運動行動の学習と制御」
杏林書院,47,2006 年
10月
30日発行
3)Hellebrandt,F.A.,S.J.Houtz,M.J.Partridge and C.E. Walters. “Tonic Neck Reflexes in Exercises of Stress in Man,”Amer.J.Phys. Med., 35:144 (June 1956)
4) Hellebrandt,F.A.,M.Schade and M.L. Carns.“Methods of Evoking the Tonic Neck Reflexes in Normal Human Subjects,” Amer.J.Phys. Med., 41:90 (1962)
5)
小林一敏:「スポーツの達人になる方法」
オーム社,135~141,1998 年
10月
25日発行
6) Magnus,R. and A.deKleijn.
“Experimental Physiology of the Labyrinth,”Proc.Roy.Soc Med.,Sec.Otol., 17:6 (1924)
7)Magnus,R. KÖrperstellung.Berlin:Julius Springer,1924.
8)Magnus,R.“On the Cooperation and Interference of Reflexes from Other Sense Organs wite Those of the Labyrinths,”Laryngoscope, 36:701 (1926)
9) Magnus,R.
“
Some Results of Studies in the Physiology of Posture,” Lancet,
104:531(Sept.11,1926);ibid., 104:585(Sept. 18,1926)10)