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米国の医療事故賠償責任の状況と保険 マーケットの変化

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(1)

米国の医療事故賠償責任の状況と保険 マーケットの変化

鴻 上 喜 芳

■アブストラクト

米国の医療事故訴訟にかかるコストは1970年代以降ほぼ一貫して上昇し,

かつこの間に三度保険危機があったために,医師・病院が医療事故賠償責任 保険にアクセスし難くなり,防衛的な医療となったり患者の受診機会が阻害 されたりする問題となっている。これに対し,州・連邦は不法行為制度改革 を中心とする取組みを行ってきたが,近年は法改正を伴わない新たな取組み も出現してきている。これらの効果もあり,2005年からは医療事故訴訟コス ト,医療事故賠償責任保険引受成績とも落着きを見せている。一方,保険危 機により,保険マーケットには大きな変化が生じている。株式会社形態保険 者がシェアを減らし,代わって

RRG

が躍進してきた。また,引受約款はオ カレンスからクレームズメイドに移行してきている。米国の状況を参考にし,

日本の保険者においては,医師賠償責任保険の安定的な保険運営,医師賠償 責任保険へのロングテール導入,ならびに医師と患者の良好な関係を維持す る新たな無過失補償保険の開発の検討が期待される。

■キーワード

医師賠償責任保険,クレームズメイド,RRG

 

/平成23年7月27日原稿受領。

(2)

1.はじめに

米国の医療事故賠償責任保険 には,過去三度の危機があった。第一次保 険危機は1970年代半ばであり,医療訴訟の増加と保険料率の低さのために複 数の保険会社が市場から撤退したことによって,医師および病院は,医療事 故賠償責任保険の入手困難問題(availability  problem),価格高騰問題

(affordability problem)に直面したのである。第一次保険危機においては,

製造物賠償責任(Product Liability,以下

PL

)も危機的状況となり,

PL

保険が入手できないメーカーが廃業を余儀なくされるなどした。第二次 保険危機は1980年代半ばであり,医療事故訴訟の頻度・強度が再び高まり医 療事故賠償責任保険の保険料が高騰したために,医師および病院は,産婦人 科等リスクの高い診療を停止したり,廃業したりする事態となった。第二次 保険危機は,第一次の医療事故賠償責任および

PLにとどまらず,賠償責任

全般の保険危機となり,タイム誌が

Sorry, America, Your Policy Is Canceled

という見出しで特集を組むほどの社会的混乱が生じたのである。

 

その後

PLをはじめとする賠償責任保険全体には大きな保険危機は生じてい

ないが,医療事故賠償責任保険は第三次保険危機を経験する。第三次保険危 機は2000年代前半であり,医療事故賠償責任保険の保険料は三たび急上昇し 多くの州で診療にアクセスし難くなる事態となったのである 。このような 危機を経たことにより,米国では,新たな保険者の登場や保険証券の変更な ど,医療事故賠償責任保険マーケットに変化が生じてきた。

本稿では,米国の医療事故訴訟および医療事故賠償責任保険の最新の状況 ならびにそれに伴う保険マーケットの変化を明らかにし,その上で米国の状 況が日本の保険者にどのような示唆を与えているのかについて考察すること

1)

Medical Malpractice Liability Insurance

。直訳は医療過誤賠償責任保険 であるが,本稿では医療事故賠償責任保険を用いる。なお,同種の保険の日本 での名称は,医師賠償責任保険である。

2) 鴻上(2005

b

),pp.34‑36を参照されたい。

(3)

とする。

2.米国の医療事故賠償責任の状況

⑴ 医療事故訴訟

図表1は,1975年から2009年までの医療事故訴訟コスト の推移である

(インフレ率調整前)。ほぼ一貫して増加してきているが,2005年からその上 昇率は緩やかになり,2008年にはほとんど初めてともいえる減少を示してい る。医療事故訴訟コストが上昇を続けてきたことについて,Insurance In-

formation Institute

(以下

III

)は,理由は明らかでないとしつつも,① 過去に比べ人々がより訴訟好きになっていること,②1970年代の保険危機が 訴訟提起による損害回復の可能性をより意識させるようになってきているこ と,③家族,医師,専門証人の親密な関係が損なわれてきていること,が要 因として指摘されていると解説している。そして2005年以降医療事故訴訟コ

3) 医療事故訴訟における損害賠償金,防御費用,管理費用(保険会社や自家保 険組織に生じるもの)の合計(Towers Watson)。

(出典:Towers Watsonをもとに作成。)

図表1 医療事故訴訟コストの推移

(4)

ストの上昇率が緩やかになっていることについて,IIIは,①公判にまで至 るケースでは医師・病院側の勝訴率が高いこと,②公判費用がかさむことか ら弁護士が提訴件数を減らしていること,③陪審員の態度に変化があること,

④訴訟提起数のサイクルの揺り戻しがでていること,をあげている 。 図表2は,2002年から2008年までの医療事故訴訟の評決平均額の推移であ る。2000年代に入ってからはほぼ横ばいで推移している。

⑵ 医療事故賠償責任保険

図表3は,1985年から2009年までの各年に支払いを完了した医療事故賠償 責任保険の支払保険金のうち損害賠償金の支払額中央値と平均値の推移を示 したものである(インフレ率修正後)。25年間で,支払額中央値は60,000ド ルから200,000ドルへ,平均値は170,000ドルから320,000ドルへ上昇してい る。

(出典:III(2008))

図表2 医療事故訴訟評決平均額

4)

III

(2011)。

(5)

図表4は,1985年から2009年までの各年に支払いが完了した医療事故賠償 責任保険の支払保険金のうち損害賠償金について,その支払額を5分類(10 万ドル未満,10万ドル〜25万ドル,25万ドル〜50万ドル,50万ドル〜100万 ドル,100ドル以上)し,それらの割合の推移をみたものである(インフレ 率修正後)。25年間で,100万ドル以上の支払は3.51%から8.82%に上昇し,

10万ドル未満の支払は62.67%から31.55%に減少しているが,2005年以降は 支払額の高額化には歯止めがかかり,むしろ低額化の傾向を示していること がわかる。

図表5は,医療事故賠償責任保険引受会社全社の1990年から2009年までの コンバインドレシオの推移である。第三次保険危機の2001年には154.7%ま で悪化していたが,2006年以降は100%を切り,現在医療事故賠償責任保険 は収益をあげている。

(出典:PIAA,

“ Claim  Trend  Analysis”

2010をもとに作成。)

図表3 医療事故賠償責任保険支払保険金(損害賠償金)の推移

(6)

(出典:PIAA,

“ Claim  Trend  Analysis”

2010をもとに作成。)

図表4 医療事故賠償責任保険支払保険金(損害賠償金)支払額別割合の 推移

(出典:A. M. Bestʼ

s, “ Bestʼ s Aggregates & Averages-Property

/

Casualty”

各 年号をもとに作成。)

図表5 医療事故賠償責任保険コンバインドレシオの推移

(7)

⑶ 医療事故補償改革の取組み

医療事故補償改革の取組みは,これまでは州の不法行為制度改革 (

T o r t Reform)がその中心的なものであったが,連邦においても連邦全体の不法  

行為制度改革を目指して精力的な取組みがなされている。さらに近年では,

医療事故補償コストを下げることを目的とした不法行為制度改革以外の取組 みが登場してきており,加えてそれらの取組みを州が推進することに対して 連邦が交付金を出す動きもみられる。

a.不法行為制度改革

⒜ 州の不法行為制度改革

2000年以前に非経済的損害 に上限額を設けていた州は,13州(カリフォ ルニア,コロラド,ハワイ,インディアナ,カンザス,ルイジアナ,マサチ ューセッツ,ミシガン,モンタナ,ネブラスカ,ニューメキシコ,ノースダ コタ,サウスダコタ)である 。American Medical Association(米国医 療協会,以下

AMA

)が2000年代の第三次保険危機において危機にあると した州(クライシス州)は,22州(アーカンソー,コネティカット,フロリ ダ,ジョージア,イリノイ,ケンタッキー,マサチューセッツ,ミシシッピ ー,ミズーリ,ネバダ,ニュージャージー,ニューヨーク,ノースカロライ ナ,オハイオ,オレゴン,ペンシルベニア,ロードアイランド,テネシー,

テキサス,ワシントン,ウェストバージニア,ワイオミング)であるが,

2000年以前に非経済的損害に上限額を設けていた州でクライシス州に指定さ れているのは,わずかにマサチューセッツのみである。

マサチューセッツは,1986年に改革法を立法しているが,上限額が50万ド

5) 治療費,逸失利益等の経済的損害以外の損害であり,例として身体的・精神 的な痛み,伴侶を失った悲しい気持ち,信用の低下などがあげられる。

6) 2000年以前の早い時期になされた州の不法行為制度改革の中では,1975年に 立法された,カリフォルニア州の医療被害補償改革法(Medical Injury Com-

pensation Reform  Act:以下 MICRA

)が医療事故賠償責任保険料と評決 額の上昇を穏やかなものとするのに最も効果のあった改革であると評価されて いる(III(2011))。

(8)

ルと比較的高額であるうえに,上限額適用が原告の補償機会を奪うものとな る状況が認められれば上限を適用しないなど例外を多く設けたいわゆるソフ トキャップである ことが,改革効果をもたらさなかったものと考えられる。

2000年以降に不法行為制度改革法を立法して非経済的損害に上限額を設けた 州は,17州(アラスカ,コネティカット,フロリダ,ジョージア,アイダホ,

イリノイ,メリーランド,ミシシッピー,ミズーリ,ネバダ,オハイオ,オ クラホマ,サウスカロライナ,テキサス,ユタ,ウェストバージニア,ウィ スコンシン)である 。残りの21州(アラバマ,アリゾナ,アーカンソー,

コネティカット,デラウェア,D. C.,アイオワ,ケンタッキー,メイン,

ミネソタ,ニューハンプシャー,ニュージャージー,ニューヨーク,ノース カロライナ,オレゴン,ペンシルベニア,テネシー,バーモント,バージニ ア,ワシントン,ワイオミング)は2011年現在非経済的損害に上限額を設け ていない。クライシス州22州のうちテキサスなど9州は2000年以降に改革を 行ったが,ニューヨークなど12州は現在も非経済的損害に上限額を設けてい ない 。

⒝ 連邦不法行為制度改革

連邦議会では,毎回医療事故にかかる不法行為制度改革法案が提出され審 議されている。2007年に始まった第110議会では,S.243,S.244,S.1481,

H. R.

2419が,2009年に始まった第111議会では,H. R.1086,H. R.1745,

7) ハードキャップの代表例は,MICRAであり,25万ドルの非経済的損失の上 限額に適用除外がなく,上限額不変で,被告・原告の数にかかわらず上限額が 適用されるが,多数の適用除外があったり,上限額がインフレ調整等で変動し たり,被告・原告1人ずつに上限額が適用されたりするものはソフトキャップ と呼ばれている(AMA,

“Medical Liability Reform  NOW!”

)。

8) テキサス州は,2003年に医療事故の非経済的損害賠償額を250,000ドルに制 限するプロポジション12を可決したが,州医療協会によれば,上限適用以降州 の医療事故賠償責任保険会社は,最大10

%の保険料引下げを実施し,2010年1

月までにはクレーム数,提訴数は半減し,州内医師の約半数は2001年よりも低 い保険料となったとしている(III(2011))。

9)

AMA, “ State Laws Chart : Liability Reforms”

(9)

H. R.

5690が提出されたが,成立には至っていない。2011年に始まった第 112議会には,2011年1月24日に医療事故訴訟コストを制限する法案

H. R.

5

(Help Efficient, Accessible, Low-cost, Timely Healthcare Act of 2011(HEALTH))が下院に上程されている。これは,カリフォルニア州

MICRA

に類似の改革を目指すものであり,図表6のような内容となって

いる。その他,S.197

, H. R.

816も提出されている。

図表6 HEALTH法案(H. R. 5)の概要

主な項目 内容 条文

出訴期限 障害発現から3年間または請求者が障害を発見してから1

年間 SEC.3

非経済的損害

の上限額 250,000ドル SEC.4 ⒝

責任額 各主体の責任割合によって直接割り当てられた損害額に対

してのみ責任を負う SEC.4 ⒟

弁護士報酬の 制限

原告弁護士の成功報酬は,次の額に制限される。

⑴ 最初の50,000ドルについては,その40%

⑵ 次の50,000ドルについては,その33%

⑶ 次の500,000ドルについては,その25%

⑷ 600,000ドルを超える部分については,その15%

SEC.5

コラテラルソ ース

コラテラルソースの内容および給付額の照会の認容,提供 者が障害および不法死亡について医療訴訟の賠償額で給付 額の回復を得ることの禁止

SEC.6

懲罰的損害賠 償額の制限

次の場合に限り認められる。⑴悪意の意図をもって請求者 に障害を与えたこと,または請求者が受けるべき不必要な 障害を回避することを怠ったこと,が証拠により明らかに 証明されている場合,かつ⑵補償的損害賠償額が判定され ている場合。懲罰的損害賠償額は,経済的損害賠償額の2 倍または250,000ドルのいずれか大きい額に制限される。

懲罰的損害賠償額は,製造物がFDAによって承認されて いる場合およびFDAの基準を遵守しているとみなされる 場合には,適用されない。

SEC.7

(10)

b.不法行為制度改革以外の取組み

伝統的な取組みである不法行為制度改革に加え,近年では医療事故賠償コ ストを下げて危機を改善することを目的とした新たな取組みが登場している。

医療法廷,早期補償プログラム,セーフハーバープログラム等がそれで,

2009年からは連邦政府の交付金を用いて,これらの改善策の導入を試験的に 実施している州がある 。また,民間の保険会社が取り組んでいるユニーク なものとして,3

Rsプログラムがある。

⒜ 医療法廷

医療法廷(health court)は,陪審員を置かずに医療に習熟した専門家が 管理する医療訴訟専門の法廷である。医療訴訟の早期解決とともにいわゆる ばかげた訴訟(frivolous lawsuits)を制限することが期待されている 。

⒝ 早期補償プログラム

早期補償プログラム(early disclosure and compensation program)

は,医療機関の迅速な調査で治療が不適切であったと判断される場合に,不 法行為訴訟で対象となる損害すべてについて早期に和解額を提示するもので ある。この和解金受領に同意した患者は提訴権を放棄することとなる。この 取組みは,University of M ichigan Health System(以下

UM HS

)に よって開発されたものであり,UMHSは取組原則として,①不合理な治療 で障害が生じた場合には,迅速かつ公正な補償を行う,②積極的な医療を守 る,③患者の経験を学習することによって事故を減らす,を掲げている 。

⒞ セーフハーバープログラム

セーフハーバープログラム(safe harbors program)は,電子診療記録 を使用するなど,証拠に基づいた医療(evidence-based  medicine(以下

EBM

))ガイドラインに従った最良の医療(best clinical practices)を

10) デモンストレーション交付金5州,プランニング交付金9州,双方の交付金 2州(AMA

“Medical Liability Reform  NOW!”

)。

11)

AMA, “Medical Liability Reform  NOW!”

。 12)

Ibid.

(11)

行う医師を防御しようとするものであり,1990年代にいくつかの州が導入し たものであるが,なかでもメイン州のものが最も充実しており,近年のセー フハーバーの取組みの土台となっている。AMAは,2009年に

EBM

を実施 する医師のセーフハーバーに関する方針を採択している 。

⒟ 3

Rsプログラム(弁済モデル)

コロラド州デンバーに本社を置く

Copic Insurance Company

(以下

Copic

)が2000年10月に取扱いを始めた保険プログラムである。このプロ グラムの目的は, 医師とのコミュニケーションを促進し,不慮の医療事故 により追加支出を余儀なくされた患者を支援し,医師と患者の良好な関係を 保つこと とされており,弁済モデル(reimbursement model)の代表例 とされている 。保険の仕組みとしては,被保険者である医師は3

Rsに同意

して3

Rs医師として登録をし, recognize

(有害事象を認める),

respond

(即座に対応する),resolve(解決に努める)の3

Rsに努めることを求めら

れる。保険の補償内容は,医療事故による追加医療に関し,医師の過失にか かわらず,1日100ドル(5,000ドル限度),追加医療費について最高25,000 ドルが支払われるというものである。患者は,当該弁済を受けることによっ て賠償請求,訴訟提起を妨げられるものではないが,賠償請求,訴訟提起を した場合は,以降3

Rsプログラムからの補償は受けられなくなる。早期和解

プログラムとの違いは,提訴権を失うわけではないことと,弁済の内容が1 日当たりの弁済を行うなど不法行為訴訟で対象となる損害と必ずしも一致し ているわけではないことがあげられよう。このプログラムには,2000年から 2008年までの間に3,927名の医師が参加し,その間の弁済件数は1,444件,平 均弁済額は5,140ドルであるという 。

13)

Ibid.

14) 取締役に医師を起用する民間保険会社であり,営業州は,コロラド,ネブラ スカ,アイオワの3州である。

15)

Mello, Gallagher

(2010)。

16)

Copic

ウェブサイト。

(12)

3.保険マーケットの変化

Doherty

(1991)は,第一次・第二次保険危機への保険マーケットの対応 は,リスクに応じ調整可能な保険料設計を具現化する組織革新,契約革新で あり,具体的には相互形態類似組織 とクレームズメイド約款(Claims-

made Policy

,以下

CM

約款 ) の出現であって,それは医療事故賠償分 野と環境汚染事故賠償分野において顕著であると指摘する。保険危機後もリ スクを引き受けられるのは,リスクに応じ調整可能な保険料(Random  Pre-

mium

)を備えた引受け手であり,その手法としてあり得るのが,相互形態 類似組織による引受けか,CM約款による引受けであるというのである。医 療事故賠償分野におけるその後の動向をみると,この指摘は核心をついてお り,第三次保険危機を経てますますその傾向は明らかになってきている。

⑴ 相互形態類似組織への移行 a.マーケットシェアの変化

図表7は組織形態別の医療事故賠償責任保険マーケットシェアの推移であ

17)

Dohertyは,株式会社形態から相互会社,グループキャプティブ,産業プー

ルおよびレシプロカルへの契約移行が顕著であるとしており,RRGの名称は 使用していないが,

Dohertyのいうグループキャプティブの代表例として RRG

があげられる。

18) 損害賠償請求が保険期間中にあれば保険金を支払う旨を定めた約款。

19) 米国特有の保険者形態であり,会員(subscriber)が保険者となり会員のリ 図表7 組織形態別マーケットシェアの推移

株式会社 相互会社 レシプロカル

RRG

その他 1992年 58.73% 23.63% 15.87% 1.69% 0.07%

1998年 60.74% 23.10% 13.56% 1.62% 0.99%

2005年 50.27% 29.16% 13.57% 6.64% 0.35%

(出典:Born/

Boyer

(2011)をもとに作成。)

(13)

る。Dohertyは株式会社形態から相互形態類似組織へのシフトを指摘してい たが,その後の推移をみると,そのシフトは確かにあり,その中でも相互会 社と

Risk Retention Group

(リスク保有団体,以下

RRG

)へのシフト が目覚ましいことがわかる。

b.RRGの躍進

RRG

は,そのグループメンバーが有する賠償責任リスクを引き受けるこ とを主な業務として設立された法人その他の有限責任組織であり,グループ キャプティブの一種である。医療事故賠償分野に関しては,医師や病院が

RRG

を設立してメンバーの医療事故賠償リスクを移転するものであり,

1986年の賠償責任リスク保有法によってその設立が可能となっている 。

Dohertyの指摘通り,医療事故賠償分野においてグループキャプティブであ

RRG

は大躍進を遂げている。医療事故賠償責任保険を引受ける

RRG

の 数は,1992年10,1998年16,2005年90,2010年151と急増している 。2009 年の

RRG

の医療事故賠償責任保険元受リトンベーシス保険料は1,057,040 千ドルに達し,医療事故賠償責任保険全体の元受リトンベーシス保険料 9,869,348千ドルに対するマーケットシェアは10.7%となった (図表8)。

なお,図表8においては,2003年以前の

RRG

の保険料は0となっている が,こ れ は デ ー タ 元 で あ る

BESTʼ S AGGREGATES & AVERAGES- PROPERTY/ CASUALTY

の集計において2003年以前は

RRG

の内訳がな いことによるものである。詳細の数字は明ら か で な い も の の,Born ╱

Boyer

(2008)によれば1992年から1999年まではシェア3%程度で推移した 後2000年から急速にシェアを伸ばし,2006年には既に10%程度に達している。

スクを引き受ける相互形態組織である。相互会社に類似であるが,相互会社は 法人化されているのに対し,レシプロカルは法人化されておらず,事務代理人

(attorney-in-fact)が事務を取り仕切る。

20)

RRG

の詳細は,鴻上(2005

a

)を参照されたい。

21)

RRG

全体の数は2010年で265である(Insurance Communications(2011))。

22)

RRG

全体の元受リトンベーシス保険料は2010年で2,480,000千ドルである

(Insurance Communications(2011))。

(14)

これは,第三次保険危機により多くの株式会社形態保険者が市場から撤退し た影響と考えられ,2000年以降は

RRG

への契約移行がますます顕著になっ ているといえる。

⑵ CM 約款への移行

図 表 9 は ア ー ン ド ベ ー シ ス 保 険 料 に よ る

CM

約 款,オ カ レ ン ス 約 款

(Occurrence Policy,以下

OCC

約款 ) 比率の推移を示している。医療 事故賠償責任保険における

CM

約款比率は,第二次保険危機の後の1990年 には既に70.2%と高い水準となっており,その後も徐々にその比率を高め,

2005年には76.1%に達している。

図表10は保険種類別の

CM

約款比率の推移を示している。医療事故賠償 責任保険は,PL保険やその他賠償責任保険に比し,はるかに高い

CM

約款

(出典:A. M. Bestʼ

s, “ Bestʼ s Aggregates & Averages-Property

/

Casualty”各年

号をもとに作成。)

図表8 医療事故賠償責任保険元受保険料

23) 事故発生が保険期間中にあれば保険金を支払う旨を定めた約款。CM約款登 場前は,医療事故賠償責任保険もこのタイプの約款で引き受けられていた。

(15)

比率となっていることがわかる。

(出典:Born/

Boyer

(2011)をもとに作成。)

図表9 医療事故賠償責任保険 CM,OCC 約款比率の推移

(出典:A.M. Bestʼ

s, “ Bestʼ s Aggregates & Averages-Property

/

Casualty”

各 年 号 をもとに作成。)

図表10 保険種類別 CM 約款比率の推移

(16)

⑶ RRG と CM 約款の関係

図表11は組織形態別,約款別の医療事故賠償責任保険マーケットシェアの 推移である。株式会社は,全体でシェアを下げ,低下の幅は

CM

で大きく

OCC

では小さい。相互会社は,全体,CM,OCCともシェアを上げている が,シェアは

C M

より

O C C

で高くなっている。レシプロカルは,全体,

CM

でシェアを下げているが,OCCではシェアを守っている。RRGは,全 体,CM,OCCともシェアを上げているが,OCCのシェアは微々たるもの であり,RRGの躍進はほとんど

CM

約款によるものであるといえる。

4.米国の状況が日本の保険者に示唆するもの

米国の医療事故賠償責任保険が辿ってきた途は,日本の株式会社形態保険 者に重要な示唆を与えている。米国においては,株式会社形態保険者の保険 カバー提供が不可能となったために,医師・病院はやむなく自家保険組織で ある

RRG

を設立しなんとか保険カバーを確保したのであり,既存保険者の

図表11 組織形態別,約款別マーケットシェアの推移

(出典:Born/

Boyer

(2011)をもとに作成。)

(17)

安定的な保険カバー提供が維持されていれば,そのような必要はなかった。

日本において米国のような状況に陥らないようにするために,日本の医師賠 償責任保険者が努力するべき点は,次のようなものであると考える。

⑴ 医師賠償責任保険の安定的な運営

米国においては,1970年代以降医療事故訴訟コスト,医療事故訴訟評決額,

医療事故賠償責任保険金が,ほぼ一貫して上昇してきたが,2005年以降よう やくこれらが減少に転じたようである。要因としては,医療事故訴訟提起に よる勝訴期待が飽和状態に達したということもあろうが,各州の不法行為制 度改革や早期和解プログラム等新たな取組みが実を結びつつあるともいえる。

なお,米国の医療危機には保険会社の経営が大きな悪作用を与えたことも指 摘しておかなければならない。一貫して上昇していく医療事故訴訟コストと 対照的に医療事故賠償責任保険のコンバインドレシオは大きな振幅を示して いることからもわかるとおり,悪化する環境に応じた保険料引き上げが遅れ るためにある時点で事業成績悪化が決定的になり,事業撤退や大幅な保険料 引き上げといった極端な対応が一気になされることによって保険危機を生じ させ,医師・病院の事業継続困難,患者の医療アクセス不能といった社会混 乱に至らしめたのである。その結果既存の株式会社形態保険者はシェアを減 らし,キャプティブ形態の

RRG

がシェアを伸ばしてきた。

日本においては,保険危機は起きておらず,保険者が安定的な保険提供を 行っているために,米国で起こっているような自家保険化(米国においては

RRG

の設立)のニーズは医師・病院において今のところはないものと思われ る。安定的な保険提供を維持するためには,保険成績を十分に管理し,保険 料改定の必要がある時には時期を遅らせることなく実施することが必要であ ろう 。

24) 鴻上(2005

a

),p.144。

(18)

⑵ CM 約款でのロングテール提供

米国においては,賠償責任保険の中で

CM

約款化が最も進んでいるのは 医療事故賠償責任保険であることがわかった。

日本においては,日本医師会医師賠償責任保険は

CM

約款で,その他病 院や勤務医が加入する一般の医師賠償責任保険は発見ベース(OCC約款の 一種)で引き受けられてきたが,発見ベース約款には 誰による発見か明記 されていない ために保険事故の時点が不明確であるという問題が認識さ れ ,一般の医師賠償責任保険でも損害賠償請求ベース特約を付し

CM

約 款として引き受けることも多くなってきている。つまり,今後は

CM

約款 による契約が増えると思われるのであるが,現在の日本の医師賠償責任保険

CM

約款には,解約・非更改時にカバーギャップ(補償接続問題)が生じる ことがある 。これは,現在の日本の医師賠償責任保険

CM

約款はショート テール のみが備えられ,ロングテール を提供していないことによる。

ロングテール提供のための約款改定が望まれるところである 。

⑶ 医師と患者の良好な関係を維持する無過失補償保険の開発

米国においては,Copicが 3

Rsプログラムというユニークな医療事故賠償

無過失補償保険を提供していることを紹介した。確かに,医師が 3

Rs

(有害

25) 大羽(2004),pp.119‑122。

26)

CM

約款の保険期間中に医療事故が発生したものの,被保険者である医師が 損害賠償請求されるおそれがあるとは思っておらず保険者に何ら通知をしてい なかった場合で,かつ

CM

約款を解約・非更改または

OCC約款に切替えた場

合には,CM約款の保険期間終了後になされた損害賠償請求による損害は,ど の約款でも補償対象とならない。

27)

CM

約款において,保険期間内に賠償請求のおそれがあることの通知がなさ れたことを条件に,保険期間終了後たとえば5年間になされた損害賠償請求に ついて補償を行うもの。

28)

CM

約款が解約・非更改の場合に,保険期間中に発生した事故について保険 期間終了後になされた損害賠償請求について補償を行うもの。期間無期限であ り,ショートテールと異なり,保険期間終了前のおそれの通知も不要である。

29) 鴻上(2011)を参照されたい。

(19)

事象を認識,即時対応,解決努力)の姿勢を示してくれ,かつ追加医療に関 しての補償が受けられるとすれば,医師・病院に対する患者・遺族からの損 害賠償請求は減少するのではないかと思われる。日本においても,医療事故 訴訟提起の大きな動機は,医師・病院への不信と事実解明であると考えられ るからである。

日本においては,事故の多い産婦人科医療を守るために,2009年に産科医 療補償保険制度が創設されて重度脳性麻痺に関しては無過失補償がなされる こととなり,保険会社もその一翼を担っている 。今後も医療事故に関する 無過失補償はその範囲を広げることが検討されていくものと考えられる 。 こういった取組みに対し日本の保険者が適切にその役割を果たしていくこと が重要であるが,米国の事例は,保険者がもう一歩進んで医師と患者の良好 な関係を維持する方策を備えた独自の補償を提供することで,医療事故賠償 の状況改善に貢献できることを示唆している。そして,こうした独自の無過 失補償保険が機能すれば,既存の医師賠償責任保険の保険成績悪化の歯止め にもなるであろう。日本の保険者の今後の取組みを期待したい。

(筆者は大分大学経済学部教授)

参考 献

・大羽宏一(2004) 医療に従事する専門職業人を対象とする賠償責任保険の保険 事故について 損害保険研究 第65巻第3・4号合併号。

・鴻上喜芳(2005

a

) リスク・リテンション・グループの台頭⎜日本の損害保険 事業はいかに備えるべきか⎜ 保険学雑誌 第588号。

・鴻上喜芳(2005

b

) 第三の保険危機⎜米国の医療過誤賠償責任保険マーケット の実態⎜ 損保総研レポート 第71号。

・鴻上喜芳(2011) 損害賠償請求ベース約款におけるテールカバー・遡及カバー

30) 日本医療機能評価機構ウェブサイト。

31) 規制・制度改革に係る方針 が2011年4月8日に閣議決定され,その中で 医療行為の無過失補償制度の導入 について2011年度から検討が開始される こととなっている(内閣府ウェブサイト)。

(20)

のあり方 日本保険学会九州支部例会報告,2011年7月23日(保険学雑誌投稿 中)。

・A. M. Bestʼ

s, “ Bestʼ s Aggregates & Averages-Property

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Casualty”各年号。

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・American Medical Association,

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・Insurance Communications(2011)

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Reseach Symposium  on Insurance Markets and  Regulation.

・Patricia Born, M. Martin Boyer(2011)

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・Physician Insurers Association of America(2010)

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2010

Edition

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・Towers Watson,

“ 2010  Update in U.S. Tort Cost Trend”

参照

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