カーボンナノチューブ薄膜の 電界放出特性向上のための
活性化処理の検討
平成 25年度
三重大学大学院 工学研究科 博 士 前 期 課 程 電 気 電 子 工 学 専 攻
量子エレクトロニクス研究室
大 原 一 馬
目次
第
1
章 序論 ... 31-1 カーボンナノチューブ(CNT) ... 3
1-1-1 CNT
の発見 ... 31-1-2 CNT
の構造 ... 31-1-3 CNT
の物性 ... 41-2 CNT
の成長方法 ... 61-2-1 アーク放電法 ... 6
1-2-2 レーザー蒸発法 ... 6
1-2-3 化学気相成長(Chemical Vapor Deposition : CVD)法 ... 7
1-3 CNT
の応用... 81-3-1 燃料電池 ... 8
1-3-2 AFM
探針 ... 81-3-3 電界放出を利用した電子エミッタへの応用 ... 9
1-3-3-1 電界放出 ... 9
1-3-3-2 CNT
からの電界放出 ... 101-3-3-3 電界放出ディスプレイ ... 10
1-3-3-4 CNT
のFED
応用 ... 111-4 研究目的 ... 13
第
2
章 理論 ... 152-1 化学気相成長(CVD)法 ... 15
2-1-1 CVD
の原理 ... 152-1-2 CVD
法によるCNT
の成長過程 ... 162-2 電界放出 ... 20
2-2-1 電界放出現象 ... 20
2-2-2 Fowler-Nordheim
則 ... 202-3 電界遮蔽効果... 23
第
3
章 実験方法 ... 253-1 CNT
薄膜の作製 ... 253-1-1 マスク ... 25
3-1-2 触媒金属薄膜の形成 ... 26
3-1-2-1 真空蒸着法 ... 26
3-1-2-2 金属薄膜形成条件 ... 27
3-2 走査型電子顕微鏡(SEM)による評価 ... 32
3-3 電界放出測定装置による電界電子放出特性の評価 ... 33
3-3-1 電流-電圧特性(I-V
特性)の測定... 343-3-2 電界放出特性の面内分布の測定 ... 36
第
4
章 実験結果 ... 394-1 標準条件で処理を行ったサンプルの電界放出特性 ... 39
4-1-1 SEM
観察像 ... 404-1-2 電界放出特性 ... 44
4-2 起毛処理における押圧力依存性 ... 48
4-2-1 SEM
観察像 ... 484-2-2 電界放出特性 ... 49
4-3 水素プラズマ照射時間依存性 ... 53
4-3-1 SEM
観察像 ... 534-3-2 電界放出特性 ... 55
4-4 水素プラズマ印加時の基板バイアス電圧依存性 ... 60
4-4-1 押圧力を 2 N
としたときの電界放出特性 ... 604-4-1-1 SEM
観察像 ... 604-4-1-2 電界放出特性 ... 62
4-4-2 押圧力を 4 N
固定としたときの電界放出特性 ... 664-4-2-1 SEM
観察像 ... 664-4-2-2 電界放出特性 ... 68
4-4-3 押圧力を 6 N
としたときの電界放出特性 ... 724-4-3-1 SEM
観察像 ... 724-4-3-2 電界放出特性 ... 74
4-5 考察 ... 78
4-6 まとめ ... 86
第
5
章 統括 ... 87参考文献 ... 89
謝辞 ... 91
第 1 章 序論
1-1 カーボンナノチューブ(CNT)
1-1-1 CNT
の発見1985
年にフラーレンが発見され,ナノカーボンの研究が盛んに行われるよ うになった。フラーレンの研究が過熱している中で1991
年にカーボンナノチ ューブ(carbon nano tube:CNT)は飯島澄男氏によってアーク放電法でのフ ラーレン合成の際の電極の陰極堆積物の中心部分を電子顕微鏡で詳細に調べる ことによりグラフェンシートを多重に巻いた構造を持つ多層カーボンナノチュ ーブ(Multi-walled carbon nano tubes:MWNTs)が発見された[1-3]。その後,電極に鉄を触媒として混ぜておくことによりアーク放電法で一重に巻いた構造 である単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nano tubes:SWNTs) が発見された[3]。
1-1-2 CNT
の構造CNT
の基本的な骨格は図1-1-1
に示すような炭素原子のみからできたハチの 巣(ハニカム)構造のグラフェンシートが円筒状に丸まったチューブ状の管(チュ ーブ)である。円筒形状を構成するグラフェンシートの枚数によりSWNT
とMWNT
と区別され,その直径は数nm
から数十nm
程度である。中空では真 空であり,高いアスペクト比(縦横比)を持つ細長い形状である。SWNTではグ ラフェンシートの巻き方によりアームチェア型,ジグザグ型,カイラル型の構 造を持つ。図1-1-2
にそれぞれの構造の模式図を示す。また,構造の種類によ って金属ナノチューブと半導体ナノチューブの2
種類が存在する[4]。1-1-3 CNT
の物性CNT
の大きな特徴としては鋼鉄以上の強い引っ張り強度,高い熱伝導性,優れた電界放出特性を有することである。CNTは炭素のみから構成されるた めその比重は
1.3~2.0 g/cm 3
程度と鋼の5
分の1
程度と非常に軽い。SWNT の弾性率は1 TPa,引張強度 13~53 GPa
であり,MWNTでは弾性率が270
~950 GPa,引張強度
11~150 GPa
であり,同じカーボン系の材料として普(a) アームチェア型 (b) ジグザグ型 (c) カイラル型
図
1-1-2 CNT
の構造[5]図
1-1-1 グラフェンシートの模式図
及している炭素繊維(カーボンファイバー)の物性(弾性率
900 GPa,引張強度
6.4 GPa)と比較しても CNT
の方が優れている。1
本のSWNT
からの熱伝導率は1750~5800 W/(m・K)で 1
本のMWNT
では
3000~6000 W/(m・K)と言われており,これは高い熱伝導率を持つ金属で
ある銅(ただし固体としての物性)では
385 W/(m・K)であり,CNT
の熱伝導率 は非常に高い。1-1-2
項より,CNTは金属ナノチューブと半導体ナノチューブがあり,それぞれ異なる性質を与える。金属ナノチューブは電気を流す材料として使われ る。他の金属に比べてキャリアの移動度が大きいと考えられていることから,
高電流を流す材料として期待できる。半導体ナノチューブでは金属電極をつけ ると半導体デバイスとして動作する。金属とナノチューブの接触抵抗が
10 kΩ
以下であれば高速のデバイスとして動作することが期待される[4]。1-2 CNT
の成長方法代表的な
CNT
の成長法としは,グラファイト電極に直流電圧を印加するこ とでCNT
を成長させるアーク放電法,炭素源にレーザー照射をすることで加 熱蒸発によりCNT
を得るレーザー蒸発法,炭素源となるガスをキャリアガス とともに流しCNT
を合成する化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法が使用されている。以下にそれぞれの成長方法の概要を示す。
1-2-1 アーク放電法
アーク放電(arc discharge)とは,気体放電の最も進展したもので,高温度の 陰極から熱電子が放出されることで維持される種類の放電をいう。アーク放電 法はフラーレンの多量合成法である。生成方法は
100 Torr
前後のヘリウムガス で満たされた雰囲気下のガラス容器の中で行い,炭素の蒸発にアーク放電を利 用するもので,2本の先端が先鋭な正負の黒鉛(グラファイト)棒の電極を軽く 接触させ,あるいは1~2 mm
程離した状態でアークを発生させ黒鉛(グラファ イト)を蒸発させることで陽極から蒸発した炭素が陰極に堆積する。この堆積物 中からCNT
を得る方法である。この方法では直径数mm
から30 mm
程度ま でのサイズの黒鉛(グラファイト)棒を蒸発させることができ,大量のCNT
を容 易に生成できる。しかしながら,アーク放電法は結晶性の良く,直線性の高いCNT
が得られるが,炭素系不純物や触媒粒子を多く含み純度が低いことが欠 点である。1-2-2 レーザー蒸発法
電気炉内で上流から高温(約
1200
℃)のガス(主にAr
ガス)を流し,金属触媒 を混合したグラファイトを可視パルスレーザー光により蒸発させ,電気炉の出 口付近に堆積した堆積物の中からCNT
を得る方法である。50%以上の高い収 率で,高純度なSWNT
を合成することができる。成長温度の調整が可能なこ とから,直径の制御がアーク放電法に比べ精密にできる方法である。しかし,レーザー蒸発法は装置のスケールアップが困難であること,高出力のレーザー を必要とすることが欠点である。そのため,SWNTの多量合成よりも少量の高 品質な
SWNT
を得る目的,あるいはCNT
の成長機構を探る目的に適してい る。1-2-3 化学気相成長(Chemical Vapor Deposition : CVD)法
CVD
法化学気相成長方法(CVD法 :chemical vapor deposition )は,薄膜形成の蒸着 法の一つであり,原料ガスとして炭化水素ガス(メタン,アセチレン,エチレ ン)や一酸化炭素などの炭素含有ガスを用いて,これらのガスを分解することに より,薄膜を形成する方法である。成膜が表面における原料ガスの分解反応に 依存するため,どんなに凹凸の激しいところ,深い部分にも,ガスさえ行きわ たれば膜が付着するという特徴を持つ。CVD法は原料ガスを分解させる方法 により種類がいくつかに区別され,熱により原料ガスを分解する熱
CVD
法,プラズマを利用して原料ガスを分解するプラズマ
CVD
法,光子のエネルギー を用いて分解する光CVD
法などが挙げられる。CNT
成長法としてのCVD
法CNT
の成長にCVD
法を用いる場合,原料ガスを分解し,Fe,Ni,Fe-Mo などの触媒の作用によりCNT
が合成される。CNTが合成される温度は炭素源 となるガスの種類に依存するがほとんどの場合600~900
℃の範囲である。触 媒,炭素源の種類,反応温度などの合成条件を制御することによりSWNT,
MWNT
を合成することができる。当初,MWNTへのCVD
法の適用は比較的 容易であったが,SWNTは困難であった。しかし,1998年に金属ナノ粒子を 用いることでCVD
法によるSWNT
の合成が可能となった。CVD法によるCNT
成長のメリットとしては上述の様な特徴を有することから,パターン形 成が容易,大面積化が容易,大量合成が可能といった点が挙げられる。1-3 CNT
の応用CNT
はその多くの特徴から電子放出源,プローブの探針,複合材料等への 様々な分野での応用が期待される材料であり,多くの研究者によって活発に研 究が行われている[1][6]。また,CNTはアスペクト比が非常に大きく,先端が 尖鋭であり,化学的に安定で機械的に強靭であることなど,電界放出のエミッ タ材料として有利な物理化学的性質をもつ。この性質を用いてフィールドエミ ッションディスプレイ(FED)やシート照明向けの電子エミッタ材料への応用研 究が盛んに行われており,1998年には齋藤弥八氏らによりCNT
を用いたFED
素子が世界で初めて試作されている[7]。1-3-1 燃料電池
燃料電池は水素やメタン,アルコール等の水素源と空気などの酸化源を燃料 として電気を取り出す発電機である。近年,燃料電池はクリーンでエネルギー 密度が大きなことから,様々な分野での応用が期待されている。電極の触媒に は反応効率を高めるために触媒ナノ粒子を高分散状態で担持させ,効率的に反 応電子を回収するための導電性担体が必要とされており,現在はカーボンブラ ックが用いられている。しかし,近年ではカーボンブラックを
CNT
に置き換 える研究が注目されている。CNTを用いるメリットとしては結晶性の高さか ら電気化学的に安定であることから高い耐久性の向上,CNTネットワークが 形成するメッシュ状構造により,燃料ガス拡散や排水に有利,強いネットワー ク構造により,バインダーなしでの成型が可能であるという点などが挙げられ る。欠点としてはコストの面で不利ではあるが,CNTの量産によるコスト低 減が進むことにより解決されると考えられている[1]。1-3-2 AFM
探針CNT
の特徴の一つである高いアスペクト比と機械的強度は,AFM探針とし ても期待されている。原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope : AFM)は鋭い 探針で表面の形状をなぞりながらイメージングする仕組みである。探針の先端 の曲率半径が小さいほど分解能が高くなる。通常は探針として四角錘に加工さ れた窒化シリコンが使用されている。しかし,使用し続けると磨耗して曲率が 劣化してしまう。その結果分解能が劣化してしまう。ここで,上記のような特 徴を有するCNT
を使用することで劣化の問題を解決できるメリットがある。図
1-3-1 CNT
を用いたAFM
探針の模式図また,高い弾性率を有することから衝突による探針の破損も低減できると考え られ長寿命の探針として期待されている。また,高アスペクト比な形状から従 来の探針では届かないような凹凸の部分まで探針が入り込むことができるメリ ットもある[1]。CNT付きの
AFM
探針の模式図を図1-3-1
に示す。1-3-3 電界放出を利用した電子エミッタへの応用
1-3-3-1 電界放出
固体表面に強い電界がかかると,固体表面のポテンシャル障壁が低くなり,
固体表面に閉じ込められていた電子がトンネル効果(tunneling effect)により固 体表面から電子が飛び出す。この現象のことを電界放出(field emission)という
[8]。電界放出は熱電子放出や光電子放出,二次電子放出とは機構が異なる。電
界放出を行うには固体表面に10 9 V/m
の非常に強い電界を印加する必要があ る。実際に並行平板電極でこのような強い電界を生じさせるのは困難である。そのため先端が鋭く電界が集中しやすい針状の電極を用いれば,針の先端に電 界が集中するため電界放出が生じやすくなる。針状の電極には通常サブミクロ ン(0.1 µm)の曲率半径のものが使用される。
図
1-3-2 電子源として CNT
を利用した蛍光表示管[17]1-3-3-2 CNT
からの電界放出CNT
は大きなアスペクト比(縦横比),鋭い先端形状,化学的に安定,機械的 に強靭であるという特徴を持つことから,電界放出材料として期待されてお り,CNTからの電界放出に関する研究が数多く行われている[9-14]。Smalley らは1
本のCNT
からの電界放出を1994
年に報告している[15]。しかし,1本 のCNT
からでは放出量に限界がある。de Heerらは多数のMWNT
を用い て,面積が1 mm 2
で平均密度~109 cm -2
のMWNT
フィルムからの電界放出を 報告している[16]。また,1998年には齋藤らにより電界放出顕微鏡(fieldemission microscopy, FEM)による CNT
先端構造および電子放出特性の研究が 行われ,ノリタケ伊勢電子工業との共同開発によりナノチューブ電界放出型電 子源を備えた電子管が試作された[7]。1-3-3-3 電界放出ディスプレイ
電界放出ディスプレイ(field emission display, FED)とは電子の電界放出を利 用したディスプレイである。電子線から発生した電子を蛍光体に照射して電子 線励起発光を行う陰極線管(cathode ray tube, CRT)と同じ発光原理を用いてい る。FEDでは
1
個の電子源から発生する電子線を画面上に順次走査すること で画像を描くCRT
とは異なり,画面の各画素に対応した複数の平面型の電子 源が必要となる。このため,平面基板上に多数の電子放出源を集積する必要が ある。そこで,1970年代前半にC.A.Spindt
らによって考案されたSpindt
型 エミッタが電子源として検討された[18]。Spindt型エミッタは電界が集中し易 い構造を持ち,ガラス基板の使用が可能で,カソード材料・構造による低電圧図
1-3-3 Spindt
型エミッタのSEM
観察像[19]化が可能といった特徴を持つ。この電子源は円錐形状エミッタの周囲にゲート 電極が近接して配置されたアレイ構造を持ち,円錐の頂点に電界がすることで 強電界となり,そこから電子が電界放出されるものである。図
1-3-3
にSpindt
型の電子源のSEM
観察像を示す。FED
では平面形状の電子源を利用することで画素数分の複数電子源を用いて 表示を行う。電子線の走査が不要となるためCRT
のように奥行きが必要なく 薄型となる。FEDは以下に示すような特徴を有する。①画面のひずみがなく,CRTと同品質の発光を有する
②発光効率が高く低消費電力である
③使用可能な温度の範囲が広い
④画像表示が
μ
秒オーダーと高速である⑤広い視野角を有する
1-3-3-4 CNT
のFED
応用CNT
を用いたFED
の構造は背面パネルと前面パネルとこれらを対抗に配置す るフレームとスペーサーから構成されている。背面パネルにはカソード電極と ゲート電極が交差するように配置され,交点の位置にCNT
が設置される。CNT
から放出された電子はR(赤)G(緑)B(青)の蛍光パターンに向けて照射さ
れ,蛍光体が発光することで画像を映し出している。FED
用に用いるCNT
は比較的広い面積への成長が必要で,基板に直接成 長,スプレー塗布,スクリーン印刷などの方法を用いて垂直方向に向いたCNT
先端を電子源として用いている。CNT成長方法としてはアーク放電法と図
1-3-4
三極型フラットパネルの構造[5]まい収束しにくく的確に蛍光体に電子を照射できない問題がある。しかし,近 年ではこの問題を解決すべく,永久磁石を用いるなどして電子の集束性改善の 報告がされている[20]。実際に作製された
FED
では輝度においてはSpindt
型 が500 cd/m 2
で,CNTを用いたFED
では200 cd/m 2
である。また,Spindt型 はその形状から電界の集中がCNT
よりも大きく,理想的な電界集中構造とさ れている[7]。しかし,作製工程が長く,カスタム化した製造設備が必要といっ た課題も挙げられる。CNTエミッタは放出される電子が広がらずに真っ直ぐ に蛍光体へ電子が放出され,電子が集束しやすいメリットを持つ。それに加 え,CNTの持つ化学的に安定,高いアスペクト比といった特徴からもFED
用 電子源として優れていると考えられている。しかしながら,CNTエミッタは 発光の均一性が不十分であり,更なる低印加電圧での動作などの課題も挙げら れる。(a) 低倍像 (b) 高倍像
図1-4-1 CVD
法で成長したCNT
のSEM
像(名古屋大学 齋藤研究室のご協力により撮影)
1-4 研究目的
CNT
の平面型デバイス応用のためには大きな放出電流密度,電界放出の面 内での高い均一性,低印加電圧での動作といった特性が求められる。具体的な 数値としては10 mA/cm 2
相当の電流密度,動作電圧が400 V
程である。均一 性の評価は定量的にはほとんど行われておらず,数値的に示すことが難しいた め本研究では放出電流密度の最大値の10%以上の大きさの電流密度を放出範囲
内で
100%得ることを目標とした。これらの特性を満たす CNT
の作製には基板に直接成長できる
CVD
法が有効であると考えられる。しかし,CVD法では図
1-4-1
に示すような密集成長したCNT
が薄膜状に成長してしまう。このような密集した成長形態は電界の集中を妨げてしまう。この問題の軽減のため
に,図
1-4-2
に示すようなCNT
を孤立したアレイ状に形成する,あるいはCNT
薄膜をパターン上に形成したものを平面陰極として用いる試みが成され てきた。CNTに格子状のパターンに形成した研究例として,L. KillianやD.
H. Kim
らの報告例がある[21][22]。5.0 µm
50 µm
図
1-4-3 アレイ構造を持つ CNT
の断面模式図図
1-4-4 CNT
の分散前後の模式図(a) 分散前 (b) 分散後
本研究室においても,これまで同様の試みで
CNT
平面陰極の電界放出特性 の改善するための研究が実施され,ピラー状にパターニングしたCNT
薄膜か らの電界放出の方パターンのないCNT
薄膜からの電界放出よりも優れている ことが報告されている[23][24]。しかし,本研究室の過去の研究結果からCNT
ピラーを用いた場合においても,面内での高い均一性は得られていない。CNT ピラーを用いることで図1-4-3
のように基板全体として見た場合の密集した成 長状態の軽減は期待できるが,個々のCNT
ピラー内では図1-4-4(a)のような CNT
が密集した成長状態は十分改善されておらず,図1-4-4(b)のように CNT
をさらに分散させた状態にすることが必要であることが示唆された。さらに,CVD
法で成長したCNT
表面には不純物やアモルファスカーボンなどが付着し てしまい,これらが電界放出特性を劣化させる要因となっている。そこで,こ れらの要因を取り除くことで電界放出特性が向上できるのではないかと考え た。そこで本研究では,CNT薄膜のデバイス応用のために,CNT薄膜の電界放 出特性向上を目的として
CNT
薄膜におけるCNT
分散状態の改善法,ならびにCNT
に付着した不純物の除去法を検討した。分散状態改善法としては,成長 後のCNT
薄膜に対し,機械的な手法を適用し強制的にCNT
を起毛させる方法 を試みた。またCNT
への付着不純物除去法として,成長後のCNT
薄膜に水素 プラズマ照射を施す方法を試みた。これらの方法をCNT
薄膜に対して個別に 適合した場合,及び複合的に適用した場合における,CNT薄膜内における 個々のCNT
の形態への影響,ならびにその電界放出特性への影響を調べた。電界放出特性については,印加電圧−放出電流特性(I-V特性)に加え,CNT 薄膜内における電界放出面内分布の定量的測定を行い, 前述の方法を適用し た
CNT
薄膜の平面電子源としての特性評価を行った。CNT
第 2 章 理論
2-1 化学気相成長(CVD)法
2-1-1 CVD
の原理CVD
法は,供給される原料ガスの蒸気圧と,原料ガスの分解により生成され た物質の蒸気圧との違いを利用した薄膜作製方法である。原料として供給され るガスは,高い蒸気圧をもっており,基板上に到達しても原料ガスの形のままで は薄膜として堆積することはない。しかし,この原料ガスが分解され,蒸気圧の 低い金属となると基板上から再蒸発しにくくなり,薄膜として堆積していくこ とになる。熱CVD
法であれば,この分解・堆積の過程は加熱された基板上での み起こり,チャンバー壁などの冷たい壁の上では起こらない。CVD
法は,一般に,化学反応を制御するために供給するエネルギー形態の違 いで分類される。最も基本的なものが熱エネルギーであり,熱CVD
法とよばれ る。熱CVD
時の基板の温度は,原料ガスの解離を行うために必要な温度となる。金属薄膜を堆積する場合には
500~700
℃,炭化物薄膜を堆積する場合には700
~1000 ℃とかなり高温である。そのため,基板に耐熱性がない場合にはこの方 法は使えない。熱
CVD
法においては,反応室全体を均一に加熱するホットウォ ール法とサセプタ部と基板のみを加熱するコールドウォール法のいずれかを使 うかも装置の重要な設計となる。プラズマを活用する
CVD
はプラズマCVD
法とよばれ,熱CVD
法に比べて 低い基板温度で薄膜形成が可能である。しかし,プラズマ発生源にコストがかか ってしまう,気相中の反応により粒子が形成され薄膜中に異物として取り込ま れてしまうといった問題もある。CVD
法における膜形成過程は,以下に列挙する5
つの素過程の一連として捉 えることができる。① 反応ガスの基板表面への輸送
② 基板表面への吸着・表面拡散
③ 表面反応・核形成
④ 反応生成物の脱離
図
2-1-1 CVD
プロセスにおける薄膜形成過程原料供給が速やかかつ十分に行われている場合には,③が律速となり表面反応 律速とよぶ。表面反応では膜堆積となる化学反応だけでなく,原料ガスの濃度や 温度によっては,その逆反応であるエッチング反応が顕在化する場合がある。② および③において,基板および膜表面は,化学反応に対して,物理的・化学的吸 着点を提供し,その触媒作用により反応速度を気相中に比べて格段に高める役 割をしている。したがって,基板および成膜表面の吸着点密度は,膜堆積速度や 堆積形態に大きく影響する。また,均一・均質な膜を実現するためには①や⑤の 拡散過程で,気相反応による粒子発生がないように,形成条件を設定・制御する 必要がある。とりわけ,大面積基板や,極微細かつ高アスペクト比パターン上に 原子層レベルで均一な膜堆積を実現するには,各素過程の高精度な制御が重要 となる[25]。図
2-1-1
にCVD
における5
つのプロセスの一連の流れを示す。2-1-2 CVD
法によるCNT
の成長過程前章で述べたとおり,CVD 法により
CNT
を成長させることが可能である。CVD
によるCNT
成長は,通常の薄膜形成プロセスでは原料ガス分子が基板表 面に吸着,表面拡散をしながら分解し,薄膜が形成されるのに対し,CNT成長 では基板表面へあらかじめ形成した触媒金属微粒子上で原料ガスが分解,炭素 原子が生成され,これによりCNT
の成長が起こる。Baker
らの成長モデルCVD
法を用いたCNT
の成長メカニズムは多くのモデルが議論されている。現在までに存在する成長モデルの多くは
Baker
らにより提案されたモデルを基 にしている。①CVD成長温度まで昇温する間に触媒金属が微粒子化する。
②触媒金属表面で原料となる炭化水素が分解されることで炭素原子が生じる
③炭素原子が金属ナノ粒子中に溶解し,過飽和になる。
④触媒金属微粒子表面に炭素が結晶化して析出し
CNT
が成長する。これらの一連の流れを図
2-1-2
に示す。④のCNT
の成長機構には先端成長と 根元成長とよばれる2
種類の成長機構があり,先端成長では触媒微粒子がCNT
先端に保持されていて,これが成長点となりCNT
が成長する。一方で根元成長 では,触媒微粒子はCNT
の根元に残り,そこが成長点となりCNT
が成長する。触媒微粒子と下地との結合が弱ければ,触媒微粒子は下地から浮き上がり,先端 成長となる。反対に,触媒微粒子が下地にしっかり固定されていれば根元成長の 様式をとると考えられている[3]。それぞれの成長機構の模式図を図
2-1-2
に示 す。Smalley
らの成長モデルCVD
法を用いてのCNT
の生成に関してはSmalley
らが提案したヤムルカモ デルがある[26]。ヤムルカとはユダヤ人男子が礼拝などでかぶる小さな帽子のこ とである。これは,まず金属微粒子の表面での触媒反応で生成した炭素原子が微 粒子の表面を覆うようにグラファイト構造体を作る。もし金属微粒子が大きけ ればヤムルカ構造の下に小さなヤムルカが形成されるが,ヤムルカが小さくな りその湾曲ひずみのエネルギーが大きくなるとヤムルカの縁に炭素が拡散して ナノチューブとして成長するというものである。よって微粒子が小さいと単層CNT
となり,微粒子が大きいと多層CNT
が成長する。このメカニズムの概略 図を図2-1-3
に示す。図
2-1-3 Smalley
らが提案したヤムルカ成長モデル透過電子顕微鏡によるその場観察
CNT
の成長過程を観察することはCNT
の成長メカニズムを明確にする有効 な手法であり,透過電子顕微鏡(TEM)を用いたその場観察が本間らにより報 告されている[27]。図2-1-4
に示すのは金属触媒を用いたCVD
でのMWNT
の 成長プロセスのその場観察結果である。図2-1-4
の各TEM
像の右上には観察時 間が示されており,この方法により,CNTの成長が原子スケールで観察可能と なった。これにより,理論的に考察されることの多かったCNT
成長のメカニズ ム解明が期待される。図
2-1-4 MWNT
の成長プロセスのその場観察TEM
観察像[27]図
2-2-1 外部電界による金属表面のエネルギーポテンシャル
図2-2 電界放出
2-2-1 電界放出現象
固体表面に強電界(~10
9 V/m)を印加することで電子が真空中に放出される
現象を電界放出(または電界放射)と呼ぶ。電界放出は図2-2-1
の電界放出現象 のエネルギーポテンシャル図を用いて説明される。外部から電界を印加するこ とで,フェルミ準位付近の電子に対するポテンシャル障壁が薄くなる。さらに,鏡像ポテンシャルの影響も受けることにより,その幅が薄くなる。その結果,電 子は量子力学的なトンネル効果により外部からの電界により薄くなったポテン シャル障壁を透過して真空中へ放出される。これが電界放出の過程である。
2-2-2 Fowler-Nordheim
則電界放出で生じる電流密度を解析的に求めたのが
Fowler
とNordheim
であ る。彼らは計算を簡単にするために無限金属平面からの電子放出現象を解析し た[28]。固体表面から真空中にトンネルする電流密度j
の(1)式に示す。𝑗 = 𝑒 ∫ 𝑁(𝑊) 0 ∞ 𝐷(𝑊)𝑑𝑊 (1)
ここで
W
は固体内の電子エネルギー,N(W)は固体内の電子分布密度, D(W)は表
面ポテンシャル障壁を電子が透過する確率である。金属内の電子分布(フェルミ分布)と透過確率を計算して求められる電流-電界の関係式は(2)式で与えられ
る。現在
Fowler-Nordheim
式として一般的に使用される(2)式はMurphy
とGoodha
によって報告されたものである。𝑗 = 8𝜋h𝜙𝑡 𝑒 3 𝐸 2 2 (𝑦) exp [ −8𝜋√2𝑚𝜙
3 ⁄ 2
3h𝑒𝐸 𝜐(𝑦)] (2)
ここで
E
は電界強度,φ
は仕事関数,e
は素電荷,h
はプランク定数,m
は電子 の質量である。変数y
は電界による障壁の低下量と仕事関数の比で,t 2 (y)と ν(y)
は鏡像力による補正項であり(3)式で近似できる。𝑦 = √ 4𝜋𝜀 𝑒 3
0 𝐸 1 2
𝜙 (3) 𝑡 2 (𝑦) = 1.1 (4) 𝜈(𝑦) = 0.95 − 𝑦 2 (5)
ここで,式(3)に定数をそれぞれ代入すると
𝑦 = 3.795 × 10 −5 √𝐸 𝜙 (6)
となる。実際の測定電圧
V
と電流I
で(2)式を表現するために放出面積A
と電界係数β
を仮定するとI=Aj,E=βV
であり,各値を代入することで(7)式が得られる。𝐼 = 1.4×10 𝜙 −6 𝐴𝛽 2 exp ( 9.8
𝜙 1 2 ) 𝑉 2 exp ( −
−6.5×109𝜙 3 2 𝛽
𝑉 ) (7)
𝑎 = 1.4×10 𝜙 −6 𝐴𝛽 2 exp ( 9.8
𝜙 1 2
) (8)
𝑏 = −6.5×10 9 𝜙
3 2
𝛽 (9)
となり(10)式が得られる。𝐼 = 𝑎𝑉 2 exp ( −𝑏 𝑉 ) (10) (10)式を変形すると
ln ( 𝑉 𝐼 2 ) = − 𝑏 𝑉 + ln 𝑎 (11)
となる。測定データを(11)式の
ln(I/V 2 )-1/V
でプロットすると直線になることが 分かる。このプロットはF-N
プロットと呼ばれており,電界電子放出特性を示図
2-2-2 CNT
からの電界放出(a) (b)
だけでは式(7),(8)を解いてこれらのパラメータを独立に決定することはできな い。他の評価方法を用いて
3
つのうちのどれか一つを独立に測定することがで きればF-N
プロットの傾きから残りのパラメータを求めることができる[7]。ま た,電界の集中の尺度を表す電界係数β
はCNT
の形状や基板表面の粗さなどに よってβ
の補正を用いている研究も多い[29-31]。それに対し,CNT
の仕事関数 はおよそ4.7~4.8 eV
と言われている[32][33]。また,上記のβ
は図2-2-2(a)に
示すようなCNT
が孤立成長した様な場合を考えており,図2-2-2(b)に示すよう
なパターンニングを行ったCNT
ではマクロに見た場合では平行平板状の電極 として考えられ,β
の考え方が異なることに気をつけなければならない。図2-2-
2(b)で生じるマクロな電界 E,すなわち平行平板電極と考えたときに電極間に生
じる電界は
𝐸 = 𝑉 𝑑 (12)
となる。これをミクロに見た場合では個々の
CNT
に電界が集中していることが 考えられ,ミクロな電界E L
,すなわち電極上に存在するCNT
の最先端におけ る局所的な電界は𝐸 𝐿 = 𝛽𝐸 (13)
となることに注意しなければならない。(13)式の
β
と(7)式のβ
は定義が異なる ことを留意しておく必要がある。2-3 電界遮蔽効果
CNT
の特徴として先端が鋭く,高アスペクト比な形状持つことが挙げられる。孤立成長した
CNT
へ電界を印加した場合,1本のCNT
先端に電界が集中する ため大きな電界が得られる。しかし,CVD で成長させたCNT
のように密集し て成長してしまう場合では個々のCNT
ではなく,1つの薄膜と見なされて電界 が印加されてしまい1
本のCNT
先端への電界の集中は小さくなってしまい,結 果として電界放出特性を劣化させてしまう。このような電界の集中を妨げてし まう効果は電界遮蔽効果とよばれる。本研究では熱CVD
法を用いてCNT
薄膜 を作製するため,この電界遮蔽効果は考慮しなければならない問題である。2000
年にNilsson
らはCNT
をエミッタアレイとした場合の電界放出特性の調査について報告をしている[34]。
Nilsson
らによると,アレイを構成するCNT
の密度が電界放出特性に大きく影響を与えていることを実験的に示している。高密度の
CNT
薄膜の場合,電界遮蔽効果の影響を大きく受け,電界が集中しに くいのに対して,低密度のCNT
薄膜の場合,電界遮蔽効果が軽減され,高密度 の場合よりも電界が集中しやすくなると報告している。1
本のCNT
をアレイと 見なす場合,アレイの間隔がCNT
の高さの2
倍の距離に等しいとき電界遮蔽効 果を最小に抑えることができると報告している。しかし,Nilssonらの報告は1
本の孤立成長したCNT
の場合を仮定しており,本研究で用いるCNT
の形態と は異なるため,そのまま適用することはできないと考えられる。一方,片山らはCNT
ピラーの場合について報告している[35]。片山はCNT
ピラーの間隔R
と ピラーの高さH
の割合(R/H)について調査を行い,R=100 μmの時,R/H=6 で 電界の集中が最も強まると示している。図に片山らが報告したCNT
ピラーアレ イのSEM
観察像を示す。片山らの結果はNilsson
らが報告した結果と異なり,1
本のCNT
と密集したCNT
ピラーの場合では電界遮蔽効果の影響が異なるこ とを示唆している。しかし,片山らの報告しているピラーはR=100 μm
のみの 場合であり,R
が変化し場合に適用できるかは現在不明である。また,R/H
比に より電界放出特性が変化するメカニズムについてはわかっていない。図
2-3-2 孤立成長した CNT
アレイ[36]図
2-3-1 1
本のCNT
からの電界放出[34]図2-3-3 密集成長した
CNT
アレイ[35]第 3 章 実験方法
本研究では,下地層として
Ti
を全面に堆積させ,その上にマスクとしてTEM
用メッシュを使用し触媒を堆積することで,触媒薄膜をパターン形成した。次に 熱CVD
装置を用いてCNT
を成長させた。成長したCNT
は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて評価した。作製した CNT
からの電界放出特性は電界放出測定装置により調査した。以下にその詳細を述べる。
3-1 CNT
薄膜の作製本研究で使用するパターン付き
CNT
薄膜の作製手順を以下に示す。①マスク(TEM用メッシュ)固定
②触媒金属薄膜の形成
③熱
CVD
によるCNT
薄膜の成長④CNTへの水素プラズマ照射
⑤CNTへの起毛処理
以下に,これらの手順の詳細を示す。
3-1-1 マスク
基板上に
CNT
をパターン成長させるために,格子パターン形成用のマスクと してTEM
用のメッシュを用いた。メッシュのサイズを以下の表に示す。メッシ ュにはあDN
メッシュ(Ni 製 応研商事株式会社)を用い,基板上へのメッシュ の固定にはカプトン粘着テープ(寺岡製作所)を用いた。メッシュはピッチサイズが
63 μm,ホールサイズが 30 μm
のものを用いた。メッシュの概略図を図3-1-
1
に示す。図
3-1-1 メッシュ概略図
3-1-2 触媒金属薄膜の形成
熱
CVD
法でCNT
を成長させるためには触媒が必要であり,そこで本研究で はCNT
成長基板上に起毛処理や水素プラズマ照射によるCNT
の剥離を軽減し,CNT
の接着強度向上のために下地層を形成し,その上に触媒薄膜を形成した。以下に具体的な薄膜形成方法を示す。
3-1-2-1 真空蒸着法
真空蒸着とは蒸発,蒸発源から基板への分子あるいは原子の輸送,基板上への 付着・膜形成の
3
つの過程が真空中で行われる薄膜堆積方法である。真空蒸着 装置は成膜する物質を蒸発させるためのヒーター,成膜を行う基板を置く基板 台により構成され,これらが真空チャンバー内に設置されている。高温に加熱さ れる蒸発物質の酸化を防ぎ,また堆積された膜の酸化を防ぐため,真空チャンバ ーは高真空に排気する必要がある。基板台とヒーターの間にはシャッターが取 り付けられており,シャッターの開閉を利用することで膜厚の制御を行う。蒸発 物を加熱するヒーターにはタングステンなどの高融点の金属がフィラメントと して用いられ,フィラメントに取り付けられた蒸発物質はフィラメントに通電 することにより発生するジュール熱により蒸発する(抵抗加熱蒸発法)。抵抗加熱 蒸発法では,比較的簡単な装置構成で成膜を行うことができ,融点が概ね2000
℃以下の物質であればほぼ蒸着が可能である。加熱方法には抵抗加熱以外にも電子線衝突により加熱する方法,アーク放電により加熱する方法,レーザー により加熱する方法などがあり,蒸発物質の加熱温度,導入ガスとの反応の有無
図
3-1-2 真空蒸着装置概略図
などに応じて適切な加熱方法を選択する必要がある。本研究では抵抗加熱蒸着法を用いて蒸着を行った。基板上での薄膜の堆積量 の測定にはチャンバー内に設置された水晶発振式膜厚計を用い,所定の膜厚に 到達した段階でシャッターを閉めることで膜厚の制御を行った。フィラメント 加熱前のチャンバー内圧力が
4.0×10 -4 Pa
以下に到達してから加熱を始めた。図3-1-2
に真空蒸着装置の概略図を示す。3-1-2-2 金属薄膜形成条件
本研究では下地層としてチタン(Ti),触媒層として鉄(Fe)を用いた。図のよう に下地層である
Ti
を5 nm
真空蒸着法によりSi
基板全体に堆積させた後,一度 基板を真空蒸着装置から取り出し,Si
基板上にマスク(TEMメッシュ)をカプ トンテープで固定し,再度真空蒸着法を用いてFe
を2 nm
堆積させ,その後メ ッシュおよびテープを取り除くことで,基板上にメッシュの形状を反映した触 媒の格子状パターンを形成した。本研究で真空蒸着に用いた装置は抵抗加熱型の真空蒸着装置
EB-6
(ULVAC製)である。蒸発源にはタングステンフィラメントに蒸発材料である
Ti
ワイヤー(φ0.1 mm)と Fe
ワイヤー(φ0.1 mm)を巻きつけたものを用い,膜厚は水晶発振式膜厚計で測定した。
図
3-1-3 金属薄膜パターンの形成手順
3-1-3 熱 CVD
法によるCNT
成長本研究の
CNT
成長で使用した熱CVD
装置の概略図を図3-1-4
に示す。この 装置はホットウォール型CVD
装置であり,C 2 H 2
,Ar, H 2
の3
種類が導入可能 なガス導入系,石英管リアクター(Φ40×L700),電気炉,そしてロータリーポン プによる排気系で構成されている。この熱CVD
装置の主な仕様を表に示す。続いて,この装置を用いた
CNT
の成長方法を以下に示す。まず作製したサン プルを石英管リアクター内へ石英ガラスボートに乗せ,試料交換ゲートより導 入する。次に,ロータリーポンプを用いて石英管内を10 Pa
以下の圧力まで排 気し,その後,Arを大気圧まで導入する。この工程を3
回繰り返した後,管内 をAr
雰囲気に置換する。置換後,EXHAUSTバルブを開け,石英管内でのAr
をフローの状態にする。続いて電気炉を用いて石英管内を昇温し,管内が所望のCVD
温度に到達した時点で炭素源となるC 2 H 2
,および還元作用を目的としてH 2
を導入し,CVD
を行う。所望の時間が経過した後,C 2 H 2
とH 2
の導入を止め る。その後,Arを250 sccm
の流量で導入し管内の冷却を行い,管内の温度が100
℃以下になってから石英ボートを回収し,作製した基板を取り出した。図3-1-6
にCNT
成長のためのCVD
プロセスを示す。この方法で作製したCNT
のSEM
観察像を図3-1-6(a),(b)に示す。図 3-1-6(a),(b)からマスクのパターンを
反映したCNT
成長していることが確認できる。表
3-1-1 熱 CVD
装置の主な仕様 図3-1-4 熱 CVD
装置概略図石英管
φ40×L700
管状電気炉 室温~1150℃,φ50 mm,KPO-13K,ISUZU製 温度調節器
SR91,SHIMADEN
製熱電対 アルメル×クロメル
ロータリーポンプ 最高到達真空度 3 Pa,日立製作所製 ピラニ真空計
0.4~2.7 kPa,GP-1S,ULVAC
製 ブルドン真空計-0.1~0.25 MPa,KOFLOC
製 フローメーターKOFLOC
社製導入ガス純度
Ar(99.9995%),C 2 H 2 (99.9995%),H 2 (99.9995%)
石英ボートW20×L70×H11
図
3-1-5 CVD
プロセス図
3-1-6 CVD
法で成長したCNT
のSEM
像(a) (b)
図
3-1-7 マイクロ波プラズマ装置概略図
3-1-4 CNT
への水素プラズマ照射熱
CVD
で成長させたCNT
にマイクロ波プラズマ装置(2.45 GHz, 500 W:ULVAC
製CN-CVD-100)を用いて水素プラズマ照射を行った。プラズマ照射
時のチャンバー内圧力は
1.75 Torr (233 Pa),水素の導入量は 80 sccm
で行った。図
3-1-7
にマイクロ波プラズマ装置の概略図を示す。次に実験手順を示す。まず,チャンバー内に基板を搬入後に
0.05 Torr (6.67
Pa)まで排気を行い,希釈 N 2
を15 SLM
流す。次にマイクロ波電源をON
にしてバイアス電圧を設定する。その後,H
2
を80 sccm
流し,チャンバー内圧力を1.75 Torr (233 Pa)になるように調整を行う。圧力調整後に水素プラズマ照射を
所望の時間と電圧で行う。照射後は水素を流すのを止め,希釈N 2
の流量を0
と する。その後,排気系を停止させ30
分自然冷却を行った後で基板をチャンバー 内から取り出した。図
3-1-8 起毛処理概略図 3-1-5 CNT
への起毛処理熱
CVD
で成長させたCNT
と水素プラズマ照射を行ったCNT
に粘着テープ を用いた起毛処理を行った。図3-1-8
に起毛処理の概略図を示す。粘着テープに はスコッチテープ[粘着力:2.7 N/cm(JIS-Z 0237による:住友3M
製)]を用 いた。この粘着テープを基板全面に水平に貼りつけ,60 秒間押圧し,その後粘 着テープを剥がした。基板への押圧力は電子天秤上で押圧を行うことにより測 定した。3-2 走査型電子顕微鏡(SEM)による評価
熱
CVD
法で作製したCNT
の成長形態の評価は走査型電子顕微鏡 (ScanningElectron Microscope : SEM)
により行った。観察時の加速電圧は25 kV
である。試料台にはアルミ製の試料台を用い,固定にはカーボンテープを用いた。SEM 観察は,試料表面に対して斜め
45°の角度からの方向(鳥瞰像観察)と横方向で
行った。3-3 電界放出測定装置による電界電子放出特性の評価
作製した
CNT
電子エミッタのサンプルからの電界放出特性は,電界放出測定 装置を用いて測定を行った。この電界放出測定装置(CEPS-MW-NH東京カソー ド研究所製)の概略図を図3-3-1
に示す。この装置は冷陰極表面の電界電子放出 特性や電子放出密度分布の解析が可能であり,1.0×10-7 Pa
以下の超高真空下で 測定を行うことが可能である。この装置ではアノード電極と試料台との間に小さな開口(アノードホール
φ20 µm)を持つアノードを冷陰極面に平行な面上で任意な XY
方向に最小移動幅
1 μm
で移動させ,アノードホールを通過した電子をファラデーゲージで捕集 して計測し,その電流値をXY
座標値とともに計算機に取り込む。これと同時に 冷陰極表面全体からの電界放出電流も測定できる。これらの測定データは計算 機で処理され,放出電流‐印加電圧特性(I-V特性)や電界放出電流密度の陰極 面内での2
次元MAP
と3
次元プロファイルが表示できる。これらの測定ではDC EMISSION
測定とPULSE EMISSION
測定が選択可能だが,本研究ではエミッタの破壊を抑制するために,PULSE EMISSION測定を選択した。
サンプルの取り付け手順は,以下の通りである。まず専用の平板試料台上に導 電性の銀ペースト(D-550藤倉化成株式会社)を用いてサンプル基板を水平に固 定した後,電気ヒーターで導電性ペーストを十分乾燥させ,そしてこの試料台を 電子放出プロファイル装置内にセットし測定を行った。
3-3-1 電流-電圧特性(I-V
特性)の測定作製したサンプルからの電界放出電流-印加電圧特性(I-V 特性)の測定条件 は以下のとおりである。測定範囲は
5×5 mm 2
とし,電極間隔は0.1 mm,パル
ス幅
150 μsec,
周波数100 Hz
のパルス電圧を印加することで測定を実施した。印加電圧は最大印加電圧が
500 V
以下のときは10 V step
で1000 V
以下のときには
20 V step
で計測を行った。また,I-V特性の測定はサンプルごとに,面内分布測定までの
3
回と面内分布測定後の計4
回ずつ行い,実験結果には特性が 安定する3
回目の測定結果を用いた。測定したI-V
特性から電流密度-印加電 圧のグラフとF-N
プロットのグラフを作製した。電流密度-印加電圧の例を図3-3-2
に,F-N
プロットのグラフの例を図3-3-3
に示す。図3-3-2,図 3-3-3
にお いて(a)は良好なI-V
特性を示すサンプルであり,(b)は悪いI-V
特性を示すサン プルである。電流密度-印加電圧のグラフ(I-V特性)は縦軸に放出電流を測定範囲の
0.5×0.5 cm 2
で除した値をとり,横軸は印加電圧をとっている。本研究ではこのグラフにおいて,電流密度が
100 μA/cm 2
を得るための電圧をTurn-On
電 圧と定義する。このグラフが低いTurn-On
電圧の値を示すほど,I-V 特性が良 いことを示す。図3-3-2
において(a)はTurn-On
電圧が低く,逆に(b)はTurn-On
電圧が高いことがわかる。F-N プロットのグラフの縦軸には放出電流を印加電 圧の2
乗で除した値に自然対数をとったln(I/V 2)
をとり横軸には印加電圧の逆数1/V
をとっている。このグラフの左側に近づくほど印加電圧が高く,下側にいく ほど放出電流が低いことを示す。このグラフがより上で存在し,傾きがゆるやか なほどI-V
特性が良好であることを示す。図3-3-3
において,Turn-On 電圧が 低い(a)の方が(b)よりも高い位置でなだらかな傾きであることがわかる。また,F-N
プロットから各サンプルの電界増強因子β
を求める際は,2-2
節中の式(10) 中のV
を式(13)のE L
に置き換えて式(14)のようにする。EL
には式(15)の関係が あるため,(14)式中のb
は(16)式と仮定する。𝐼 = 𝑎𝐸 𝐿 2 exp ( −𝑏 𝐸
𝐿 ) (14)
𝐸 𝐿 = 𝛽 V d (15)
𝑏 = −6.5 × 10 9 𝜙 3 2 (16)
これらを用いて