e
ラーニングを用いた完全自習型科目「英語基礎演習
III・IV」―
現状と今後の課題について
―On the Current Situation and Future Issues of a Complete Self-Learning-Based Course with E-Learning Entitled "Essential English III・IV"
江村 健介(高等教育推進センター)
高橋 英也(高等教育推進センター)
Abstract
With the development of Internet and computer technology, e-learning has received much attention as an effective way for gaining English language proficiency especially at the level of higher education institutions. This article is an attempt to correctly evaluate and examine the actual effectiveness of an e-learning program in "Essential English III・IV", a computer-based English training course with no face-to-face instruction by teachers. Following a series of studies by Nobuyuki Aoki and Tomoe Watanabe, including Watanabe and Aoki (2011, 2014), we focus on the relationship between the degree of students’ study performance on the e-learning program and the average score gains on the TOEIC L&R test. In total, 429 all second-year students in the 2017 academic year were engaged as participants in this study. The results of data analysis in the Learning Management System show that the effects of e-learning vary significantly and crucially depend on the quality of the participants’ involvement (e.g. the degree of (im)proper study behaviors and/or the average rate of correct answers) rather than the extent of their efforts (e.g.
the number of times they log in to the program and/or the amount of time spent studying for the course). Although many uncertainties and challenges remain, we believe that the present study will contribute to better understanding of the effects of e-learning while facilitating further research on the topic.
キーワード:e ラーニング、完全自習型、TOEIC L&R、(不)適切消化率、教材正解率 1.はじめに
本学では平成 27 年度の英語カリキュラム改変に伴い、平成 28 年度より、全学部 2 年次 生対象の必修科目(半期 1 単位)として、e ラーニングを用いた完全自習型の「英語基礎 演習 III・IV」を導入している。当該科目は、e ラーニングを利用して、受講者の英語の 学習習慣を確立するとともに、基礎学力の向上を図ることに重きを置く点で、生涯英語に 親しみ、大学卒業後も必要に応じて英語を学習していく基盤となる知識・技能・態度を養 うことを目的とした新カリキュラムにおいて、重要な役割を果たしている(あるいは、今 後、果たすことが期待されている)。e ラーニング科目の共通課題として、いかにして受 講者の学習意欲を継続させ、質の高い学習を担保するように学習指導・学習管理するかが
挙げられるが、受講者と対面するという形式をとらない、完全自習型では、とりわけ、受 講者の自主性・自立性が求められる(cf. 青木 2005、青木 他 2011)。では、英語を専門と せず、大多数が、必ずしも優先して英語を勉強するわけではないと思われる本学の学生に 対して、実際に、どの程度、e ラーニングを通して学習習慣を定着させ、基礎学力を向上 させることができるだろうか。
本稿では、開講 2 年目に当たる、平成 29 年度における当該科目の概要について説明し た上で、前・後期の TOEIC Listening & Reading(以下、TOEIC)スコアの結果について、
e ラーニングシステム及びラーニングマネジメントシステムにおける学習記録に基づいて 考察する。具体的には、当該年度の前・後期末に実施した TOEIC において、調査対象者 全体でどの程度スコアの伸びが観察されるかを調査するとともに、そのスコアの伸びの程 度に基づいて、調査対象者を下位分類し、スコアの伸びが大きい群は、スコアの伸びが小 さい群と何が違うのかについて、ログイン回数、学習時間、教材消化率、(不)適切学習率、
教材正解率の観点から検証し、当該科目のよりよい授業運営や学習管理のあり方を模索す ることが本稿の目的である。
2.調査概要 2.1.調査対象
本研究では、通年での e ラーニングの学習、評価方法(単位取得要件)、学習管理方法 が、受講者の TOEIC スコアの伸びに与える影響を明らかにする観点から、平成 29 年度 に初めて当該科目を受講し、前・後期末に、それぞれ TOEIC を受験した計 429 名を調査 対象とした。本学には、人文系の学部は存在せず、調査対象者は、看護学部、社会福祉学 部、ソフトウェア情報学部、総合政策学部のいずれかに所属している。本学の英語の授業 は、他の対面授業も含めて、TOEIC Bridge スコアに基づいて、上級(Advanced)・中級
(Intermediate)・初級(Basic)の 3 つの習熟度クラスで編成されているが、受講者の習 熟度別の内訳は、上級が 76 名、中級が 292 名、初級が 61 名であった。
前期に開講している「英語基礎演習 III」及び後期に開講している「英語基礎演習 IV」は、
いずれも(集中講義扱いの)完全自習型の授業であり、4 月に実施するガイダンス及び前・
後期末に実施する TOEIC を除き、受講者が特定の教室に集まることはない(表 1)1)。学 内外のネットワーク環境のある場所において、受講者が、自身の好きな時間帯に PC やス マートフォン等でプログラムにアクセスし、原則として、いつでも学習できる形態を採用 している2)。
表 1. 平成 29 年度「英語基礎演習 III・IV」のスケジュール 4/7 ガイダンスの実施
4/13 ~ 7/27 前期学習期間
8/10 前期末 TOEIC テスト 10/5 ~ 1/18 後期学習期間
1/31 後期末 TOEIC テスト
2.2.教材
当該科目で採用している e ラーニング教材は、北辰映電株式会社が提供する〈ぎゅっと e〉
と呼ばれるネットワーク型集中英語学習プログラムで、リーディング(及び補助練習教材 のボキャブラリー)、リスニング、文法という 3 分野の問題で構成されている。前・後期で、
各クラスで使用している 3 分野の教材のレベルは、表 2 の通りである。
表 2. 各クラスの教材レベル
習熟度 (クラス) 前期 (教材) 後期 (教材)
上級 中級 上級
中級 初級 中級
初級 初級 中級
上級クラスのみ、前期において、(問題の分野を問わず)中級の教材を使用している が、これは、上級クラスの受講者のみ、1 年次修了時点で、すでに TOEIC における 450
~ 650 点程度の学力、あるいは、英検における準 2 級・2 級程度の学力を有していると判 断したためである3)。また、前・後期に同じレベルの教材・教材量・教材内容を使用し て受講させた場合、後期の TOEIC スコアの伸びが著しく小さくなるという渡辺(2006、
2009)の報告を踏まえて、通年にわたって受講者の学習意欲を喚起し、学習に対する動機 付けを行う観点から、後期では、各クラスにおいて、一つレベルの高い教材で受講させた4)。 2.3.成績評価と学習管理
冒頭触れたように、当該科目は、受講者の英語の学習習慣の定着を目指すとともに、基 礎学力の底上げ(TOEIC スコアを一定程度伸ばすこと)に主眼を置いているため、前・
後期ともに、(i)それぞれの教材を 70% 以上消化していること、(ii)学期末の TOEIC に おいて、各クラスで指定されたノルマ以上のスコアを取得することを単位認定の最低条件 としている。(ii)について、具体的には、前・後期ともに、上級クラスは 400 点以上、中 級クラスは 300 点以上、初級クラスは 250 点以上のスコア取得をノルマとしているが、こ れらの値は、1 年次に調査対象者が受験した TOEIC Bridge のスコアの平均値に基づいて 算出したものである5)。
また、渡辺・青木(2011)、Watanabe and Aoki(2014)、池上(2015)によれば、eラー ニングの学習を通して TOEIC スコアを一定程度伸ばすには、様々な点での「学習の質」
が重要であり、質の高い学習を担保するには、きめ細かな学習管理が不可欠である6)。こ れを踏まえ、学習を管理するにあたり、前・後期ともに、1週間毎に各教材に消化ノルマ を設け、指定ノルマまで消化できない場合及び不適切学習が著しく見られる場合は、学習 を進めないように一時的にアカウントを停止し、アカウントが停止した受講者については、
警告のメールを送信した上で、学習面談・学習指導を行い、その後、学習再開を許可する こととした。不適切学習とは、受講者が適切なやり方で回答したとは考えにくい速さで回 答した場合の学習行動のことを指す7)。
表 3 は、平成 29 年度の「英語基礎演習 III・IV」の実施概要を簡略化したものであり、
表 4 は、成績評価の際に、(i)教材消化率と、(ii)TOEIC スコアに基づいて、それぞれ 付与される得点を示したものである。
表 3.実施概要
学習期間 学習期限 成績評価の方法
前期 15 週間 1 週間毎 教材消化率に基づく得点 + TOEIC スコアに基づく得点 後期 15 週間 1 週間毎 教材消化率に基づく得点 + TOEIC スコアに基づく得点
表 4.成績評価の方法
教材消化率に基づく得点 TOEIC スコアに基づく得点
前期
70 ~ 79% = 55 点 250 ~ 299 = 5 点 300 ~ 349 = 10 点 80 ~ 89% = 60 点 350 ~ 399 = 15 点 400 ~ 449 = 20 点 90 ~ 99% = 65 点 450 ~ 499 = 25 点 500 ~ 549 = 30 点 100% 以上 = 70 点 550 以上 = 35 点
後期
70 ~ 79% = 55 点 300 ~ 349 = 5 点 350 ~ 399 = 10 点 80 ~ 89% = 60 点 400 ~ 449 = 15 点 450 ~ 499 = 20 点 90 ~ 99% = 65 点 500 ~ 549 = 25 点 550 ~ 599 = 30 点 100% 以上 = 70 点 600 以上 = 35 点
教材消化率と TOEIC スコアに基づいて成績評価を行う場合、重きの置き方については、
複数の選択肢が考えられるが、本学には、語学系の学部が存在せず、大半の受講者には、
英語の学習習慣が定着していないと推察されること及び学期末の TOEIC で、必ずしも望 ましいスコアが取得できるとは限らないことに鑑み、表 4 に示したように、まずは受講者 全体の学習習慣の定着を目指す意味において、前・後期ともに教材消化率に重きを置く
(最大で 70% 分)こととした。また、「後期では、前期と比べて、受講者の(ログイン回 数、消化率、正解率などの)パフォーマンスが全体的に落ちる傾向があり、それが、後期 の TOEIC スコアの伸び幅に否定的な影響を与える要因となりえる」という、青木(2005)、
渡辺(2006) の分析を踏まえて、後期では、TOEIC スコアに基づいて付与される素点の 基準を前期よりも高く設定し、この点について、年度初めのガイダンスや、シラバス、学 習面談等で強調することとした。具体的には、表 4 に下線で示したように、前期では、(習 熟度を問わず) 成績評価の素点として、「TOEIC スコア 250 ~ 299 = 5 点」としたが、後 期では、基準を全体的に 50 点高く設定し、「TOEIC スコア 300 ~ 349 = 5 点」とした。
3.調査結果
調査結果については、(i)調査対象者全体の TOEIC の平均スコアの前・後期間比較、(ii)
前・後期間のスコア伸び率に基づいて分類した下位分類別での TOEIC の平均スコアの前・
後期間比較、(iii)調査対象者全体の学習記録の前・後期間比較(ログイン回数、学習時間、
教材消化率、(不)適切消化率、教材正解率)、(iv)下位分類別での学習記録の前・後期 間比較の 4 項目について、順に報告していく。
3.1. TOEIC の結果
平成 29 年度の通年にわたっての学習効果を把握する上で、まずは調査対象者全体の TOEIC の結果について見る。表 5 は、前・後期における調査対象者全体の TOEIC の結 果である(以下の各表の括弧内の数値は、標準偏差を表す)8)。
表 5. 平成 29 年度 前・後期の TOEIC スコアの平均 (n=429)
前期平均 後期平均 伸び平均 有意確率
総合 374.9 387.8 12.9 .000***
(85.7) (92.7) (66.5)
リスニング 221.2 223.3 2.1 .340
(48.8) (55.5) (45.4)
リーディング 153.7 164.5 10.8 .000***
(47.5) (48.1) (40.6)
***p<.001
後期では、前期に比べて総合スコアで 12.9 点、リスニングスコアで 2.1 点、リーディン グスコアで 10.8 点の伸びが見られ、対応のある t 検定の結果、総合スコアとリーディン グスコアの伸びがそれぞれ有意であった。図 1 ~図 3 は、横軸が前期のスコア、縦軸が後 期のスコアを取った散布図であり、それぞれ、総合スコア、リスニングスコア、リーディ ングスコアを示している。
図 1. 総合スコアの散布図 図 2. リスニングスコアの散布図
図 3. リーディングスコアの散布図
各図から分かるように、後期では、前期と比べて、全体的にプラスの傾向が見受けられ るものの、TOEIC スコアの観点では学習効果が認められなかった受講者も相当程度いた ことが分かる。前・後期の間には、言うまでもなく夏期休暇があり、夏期休暇中、大半の 調査対象者の英語の学習が、皆無に等しいものだったと推察すると、後期開始時点で、夏 期休暇直前の英語処理能力に比べて、すでに一定程度落ちている可能性が十分考えられる。
そのようなシナリオが想定されるにもかかわらず、前期末に比べて、後期末の総合スコア とリーディングスコアが有意に高いという今回の結果は、後期の教材のレベルを上げたこ と、成績評価の際に、後期では、TOEIC スコアに基づいて付与される素点の基準を前期 よりも高く設定しことが、結果として、有意なプラスの効果をもたらしたということが言 えるだろう。
次に、前・後期間の TOEIC の総合スコアの伸び率に基づいて分類した、下位分類別で の結果について見る(表 6)。調査対象者を、伸び上位群(平均点 +1 標準偏差以上)、伸 び中位群(平均点± 1 標準偏差以内)、伸び下位群(平均点-1 標準偏差以下)の 3 群に 分類したところ、伸び上位群は 65 名、伸び中位群は 295 名、伸び下位群は 69 名だった9)。
表 6.伸び上位群、伸び中位群、伸び下位群の TOEIC スコア平均の比較
スコアの種類 前期平均 後期平均 伸び平均 有意確率 総合 488.5 541.8 53.4 .000
(85.7) (92.7) (57.8)
伸び上位群 リスニング 275.5 305.3 29.8 .000
(n=65) (42.3) (27.1) (38.2)
リーディング 213.0 236.5 23.5 .000
(43.3) (38.4) (39.4)
総合 367.2 384.5 17.3 .000
(68.2) (50.4) (61.3)
伸び中位群 リスニング 219.0 223.2 4.1 .096
(n=295) (41.4) (35.5) (42.4)
リーディング 148.2 161.3 13.2 .000
(40.0) (32.3) (40.6)
総合 300.9 257.1 - 43.8 .000
(57.0) (31.0) (59.8)
伸び下位群 リスニング 179.5 146.8 - 32.7 .000***
(n=69) (36.7) (30.2) (43.0)
リーディング 121.4 110.3 - 11.2 .008**
(32.0) (26.4) (33.7)
**p<.01, ***p<.001
上位群は、相対的に総合スコアの伸び幅が大きく、リスニング・リーディングのいずれ もバランスよく伸びている。中位群は、総合スコアでは、前・後期間で、約 17 点伸びて いるが、リスニングは統計結果こそ有意であるものの、前・後期間で約 4 点しか伸びてお らず、伸びの偏りは、リーディングが占めている。下位群は、前・後期間の伸びが約-44 となっており、全く学習効果が見られないことが分かる。スコアの伸びの偏りは、リーディ ングが約-11 であるのに対し、リスニングが約-33 となっており、中位群と同様、リス ニングが占める結果となっている。以上の結果から、上位群は、リスニング・リーディン グともにバランスよくスコアが伸びているものの、中位群及び下位群は、リーディングに 比べて、リスニングでスコアを上げきれていない、あるいはスコアを著しく下げており、
これが、総合スコアとリーディングスコアにおいてのみ、有意な伸びが観察されるという、
調査対象者全体の傾向を形作っていると言えるだろう。
3.2.学習記録
前節で概観した TOEIC の結果を踏まえて、本節では学習記録を見ていく。表 7・図 4 及び表 8・図 5 は、それぞれ、調査対象者全体のログイン回数と学習時間をまとめたもの である。
表 7.ログイン回数の推移 (単位 : 回)
全体 1 週 2 週 3 週 4 週 5 週 6 週 7 週 8 週 9 週 10週 11週 12週 13週 14週 15週 有意確率
前期 100.8 10.2 8.0 5.4 6.5 6.5 6.4 6.4 6.1 5.2 5.4 5.7 6.7 6.8 9.4 8.8
.000***
(42.4)(6.5)(5.1)(4.6)(4.1)(4.2)(4.5)(4.9)(4.1)(4.1)(3.7) (4.0)(4.7)(5.9)(8.3)(5.1)
後期 82.4 4.8 5.4 5.4 5.7 5.6 5.2 4.9 5.0 5.0 5.2 5.1 3.1 3.1 7.2 11.7
(96.8)(3.7)(4.1)(4.4)(5.0)(4.8)(5.1)(6.4)(6.5)(8.9)(5.0) (8.0)(4.7)(4.0)(11.9)(39.7)
***p<.001
図 4. ログイン回数の推移 (単位 : 回)
表 8. 学習時間の推移 (単位 : h)
全体 1 週 2 週 3 週 4 週 5 週 6 週 7 週 8 週 9 週 10 週 11 週 12 週 13 週 14 週 15 週 有意確率 前期 37.7 3.3 2.6 1.7 2.7 2.3 2.3 2.2 2.1 1.9 2.1 2.3 2.4 2.7 2.8 4.2
.000***
(12.7)(1.5)(1.2)(1.3)(1.6)(1.4)(1.3)(1.4)(1.4)(1.2)(1.4)(1.7)(1.8)(2.2)(2.5)(3.8)
後期 32.0 1.9 1.8 2.0 2.1 2.1 2.0 1.8 1.9 1.7 1.9 1.7 1.3 1.4 3.4 5.0
(13.0)(1.4)(1.5)(1.5)(1.4)(1.5)(1.7)(1.5)(1.5)(1.3)(1.6)(1.2)(2.1)(2.2)(2.9)(4.5)
*** p<.001
図 5. 学習時間の推移 (単位 : h)
まず、ログイン回数から見ていく(表 7・図 4)。前期の回数の方が、後期よりも有意に 多くなっており、また、各週の回数についても、後期が前期を上回っているのは 15 週目 のみであった。これは、「後期におけるパフォーマンスの質は、概して低くなる」という 青木 (2005)、渡辺(2006)の観察と同じ結果と言える。また、前・後期ともに、ゴール デンウイークや年末年始など、ノルマ未達成に伴う学習停止措置をしない週については、
ログイン回数が著しく下がっていることが分かる。また、各学期末の消化期限ぎりぎりに なって大量に消化する、いわゆる駆け込み消化がはっきりと見て取れる。次に、学習時間 に目を向けると、ログイン回数と概ね同じ傾向が見られる(表 8・図 5)。つまり、後期の 方が、前期に比べて総学習時間が有意に少なくなる(約 5 時間)と同時に、毎週、原則と
02 46 108 12
前期 後期
0 1 2 3 4 5 6
前期 後期
して消化期限があるため、最低限の学習はしているものの、学習停止措置をしない週につ いては、前・後期ともに学習時間が著しく減っていること及び各学期末については、駆け 込み消化に費やした時間が顕著に多く示されている。
次に、表 9 は、教材消化率、適切消化率、教材正解率について、教材全体、リーディン グ、リスニング、文法別に示したものである10)。
表 9. 平成 29 年度 前・後期の教材消化率、適切消化率、教材正解率 (%)
前期平均 後期平均 有意確率
教材消化率
全体 92.4(11.0) 93.4(10.9) .012*
リーディング 92.0(12.0) 93.9(11.3) .001**
リスニング 90.8(12.6) 92.4(11.8) .008**
文法 94.3(11.6) 93.8(10.9) .405 全体 89.3(16.0) 87.9(14.8) .012*
リーディング 89.4(15.5) 90.1(15.1) .250 適切消化率 リスニング 87.8(18.6) 85.6(19.5) .005**
文法 90.9(17.4) 88.1(15.9) .000***
全体 49.7(10.9) 42.9(11.5) .000***
リーディング 45.4(15.4) 39.8(19.8) .000***
教材正解率 リスニング 54.0(13.8) 43.5(12.5) .000***
文法 49.6(10.1) 45.3(12.7) .000***
適切消化率 : 教材消化率 × (1 – 不適切学習率), *p<.05, **p<.01, ***p<.001
まず、教材消化率について見ると、全体の平均が前・後期ともに90%以上となっている。
完全自習型の学習環境且つ英語を専門とする学部に所属しない受講者を対象とした場合で も、学習指導及び学習管理次第で、大半の課題の消化へ導くこと自体は可能なことが分か る。教材消化率の前・後期間比較では、文法を除いて、有意差が観察され、後期の消化率 が、概して前期を上回っている。これは、後期の成績評価において、TOEICスコアに基 づいて付与される素点の基準を前期よりも高く設定したことが主要な理由と考えられる。
次に、適切消化率について見ると、興味深いことに、教材消化率とは逆の傾向が見られる。
つまり、表層的な教材消化率は、後期の方が高いものの、適切消化率は、前期の方が、概 して後期を上回っており、統計的にも、リーディングを除いて有意差が観察された。これは、
「後期におけるパフォーマンスの質は、概して低くなる」という青木(2005)、渡辺(2006)
の観察の一例と考えられる。つまり、後期の成績評価では、TOEICスコアに基づいて付 与される素点の基準を高く設定したため、前期に比べて、教材をより多く消化しなければ ならないという受講者心理が全体的に働いたと推察される一方、後期では、ログイン回数 や学習時間が有意に低くなっていることからも示唆されるように、学習意欲などの情意的 側面を維持することが困難であったものと考えられる。最後に、教材正解率については、
前期の正解率が、すべての項目で後期を有意に上回っており、全体で、7%程度の差が見 られた。適切消化率などの結果については、後期の方がまじめに学習しなかったことの反
映として解釈するのが自然と思われる一方、教材正解率の結果は、(それと矛盾しないに しろ)表2の通り、後期で使用する教材のレベルを一律に上げたことが、直接的な要因と 解釈するのが妥当であろう。
次に、前・後期間の TOEIC の総合スコアの伸び率に基づいて分類した、下位分類別で の学習記録の比較に移る。表 10 ~ 12 及び表 13 ~ 15 は、それぞれ、ログイン回数と学習 時間をまとめたものである。
表 10.ログイン回数の推移 (単位 : 回)
全体 1 週 2 週 3 週 4 週 5 週 6 週 7 週 8 週 9 週 10 週 11 週 12 週 13 週 14 週 15 週 有意確率 上位群 前期 96.8 9.8 7.9 5.5 6.6 6.1 6.0 5.6 5.4 4.4 5.3 6.4 5.5 6.6 6.9 8.8
.000***
後期 79.1 4.4 5.8 5.6 5.2 5.6 4.6 4.8 4.6 4.5 6.0 4.9 2.4 3.4 7.0 10.3 中位群 前期 100.8 10.2 7.9 5.3 6.3 6.3 6.3 6.5 6.3 5.4 5.4 5.6 6.3 6.8 6.8 9.7
.008**
後期 83.9 4.7 5.2 5.3 5.9 5.7 5.2 5.0 5.2 5.2 5.0 5.2 3.3 3.1 7.6 12.4 下位群 前期 104.6 10.9 8.9 6.1 7.4 7.7 6.8 6.7 6.1 5.4 5.6 5.5 5.4 6.4 6.8 8.9
.000***
後期 79.2 5.7 5.8 5.7 5.5 5.3 5.8 4.3 4.7 4.6 5.3 5.1 2.9 2.7 6.1 9.8 上位群 = 伸び上位群 , 中位群 = 伸び中位群 , 下位群 = 伸び下位群 , **p<.01, ***p<.001
表 11.多重比較表 (前期 ログイン回数) 表 12.多重比較表 (後期 ログイン回数)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .479 中位群 .740
下位群 .294 .510 下位群 .986 .739
表 13.学習時間の推移 (単位 : h)
全体 1週 2週 3週 4週 5週 6週 7週 8週 9週 10週 11週 12週 13週 14週 15週 有意確率 上位群 前期 35.3 3.3 2.3 1.7 2.7 2.1 2.2 2.0 1.7 1.6 1.9 2.3 2.1 2.4 2.7 4.4
.000***
後期 31.2 1.5 2.0 2.1 1.8 2.0 1.8 1.9 1.8 1.6 2.0 1.8 0.9 1.4 3.3 5.3 中位群 前期 37.7 3.3 2.6 1.8 2.7 2.2 2.3 2.3 2.2 1.8 2.1 2.3 2.5 2.7 2.7 4.2
.000***
後期 31.5 1.9 1.7 1.9 2.1 2.1 2.0 1.7 1.9 1.7 1.9 1.6 1.3 1.4 3.4 4.8 下位群 前期 39.8 3.5 2.8 1.5 2.9 2.9 2.5 2.4 2.0 2.1 2.3 2.4 2.5 2.9 3.0 4.0
.000***
後期 35.4 2.5 2.1 2.4 2.4 2.3 2.3 1.8 2.0 1.8 2.1 2.1 1.5 1.1 3.3 5.5 **p<.01, ***p<.001
表 14.多重比較表 (前期 学習時間) 表 15.多重比較表 (後期 学習時間)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .243 中位群 .871
下位群 .070 .204 下位群 .10 .020*
*p<.05
ログイン回数・学習時間ともに、調査対象者全体の結果と同じ傾向が観察され、どの群
も、前期の全体平均回数や全体平均学習時間が、後期を有意に上回っている。また、各週 の結果においても、概して、前期の平均回数や平均学習時間が、後期を上回っている。表 11 及び表 12、表 14 及び表 15 は、それぞれ、前・後期におけるログイン回数と学習時間 について、各群を多重比較したものであるが、有意差が観察されたのは、後期の学習時間 における中位群と下位群の間のみである。これらの結果は、ログイン回数や学習時間が、
TOEIC スコアの伸びに、顕著な影響を与えていないことを示唆する11)。
次に、表 16 は、教材消化率について、下位分類別に示したものであり、表 17 ~ 24 は、
各項目について、各群の間で多重比較したものである。
表 16.教材消化率 (%)
前期平均 後期平均 有意確率
伸び上位群
全体 94.2 (9.9) 93.8 (10.1) .783 リーディング 93.2 (11.0) 94.4 (10.0) .414 リスニング 93.6 (11.6) 93.0 (11.5) .664 文法 95.6 (9.4) 94.1 (10.5) .235 伸び中位群
全体 92.3 (10.6) 93.8 (10.1) .013*
リーディング 92.0 (11.8) 94.2 (11.1) .002**
リスニング 90.9 (12.4) 92.8 (11.4) .002**
文法 94.0 (10.8) 94.4 (10.3) .577 伸び下位群
全体 89.6 (12.1) 91.6 (11.5) .069 リーディング 90.1 (12.5) 92.4 (11.7) .065
リスニング 87.3 (13.4) 90.7 (12.6) .008**
文法 91.4 (12.8) 91.7 (11.7) .791
*p<.05, **p<.01
表 17.多重比較表 (前期 全体) 表 18.多重比較表 (後期 全体)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .204 中位群 .984
下位群 .019* .063 下位群 .244 .118
*p<.05
表 19.多重比較表 (前期 リーディング) 表 20.多重比較表 (後期 リーディング)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .456 中位群 .913
下位群 .128 .228 下位群 .310 .241
表 21.多重比較表 (前期 リスニング) 表 22.多重比較表 (後期 リスニング)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .107 中位群 .915
下位群 .004** .034* 下位群 .278 .178
*p<.05, **p<.01
表 23.多重比較表 (前期 文法) 表 24.多重比較表 (後期 文法)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .275 中位群 .863
下位群 .032* .078 下位群 .216 .063
*p<.05
まず、各群の前・後期間比較においては、中位群の全体、リーディング、リスニングで 有意差が見られ、調査対象者全体の結果と同様、いずれも後期の消化率の方が高くなっ ている。教材消化率の観点からすると、調査対象者の大半(約 69%)を占める中位群が、
後期に意識的により多くの教材を消化している様子が伺える。他方で、上位群及び下位群 については、下位群のリスニングを除き、前・後期間で有意差は観察されなかった。次に、
表 17 ~ 24 に見られる各群の間の比較に目を向けると、前期では、上位群及び中位群のリ スニング・文法の消化率が、下位群よりも有意に高い傾向がある一方、後期では、上位群 及び中位群と下位群の間には、いずれの項目でも有意差は観察されなかった。以上のこと から、各群の間の比較では、問題量が多く、消化に時間がかかるリスニングと文法で、消 化率の有意差が出やすい一方、成績評価における TOEIC スコアの基準が高くなる後期で は、下位群の消化率が(有意差はリスニングにしかないにせよ)前期に比べて全体的に上 がるため、有意差が出にくいことが分かった。
次に、表 25 は、適切消化率について、下位分類別に示したものであり、表 26 ~ 33 は、
各項目について、各群の間で多重比較したものである。
表 25.適切消化率 (%)
前期平均 後期平均 有意確率
伸び上位群
全体 92.2 (12.5) 88.6 (15.4) .018*
リーディング 89.7 (14.1) 87.4 (16.9) .234 リスニング 93.3 (13.1) 86.6 (16.1) .006**
文法 94.7 (10.3) 91.7 (12.3) .024*
伸び中位群
全体 89.9 (13.4) 88.9 (15.9) .126 リーディング 89.9 (13.1) 91.1 (14.0) .109
リスニング 88.3 (14.5) 86.7 (18.5) .088 文法 91.6 (12.7) 88.9 (15.2) .000***
伸び下位群
全体 84.7 (17.2) 83.2 (20.8) .480 リーディング 86.7 (15.5) 88.3 (17.8) .342
リスニング 81.3 (18.6) 79.8 (24.6) .434 文法 84.6 (17.4) 81.6 (20.1) .162
*p<.05, **p<.01, ***p<.001
表 26.多重比較表 (前期 全体) 表 27.多重比較表 (後期 全体)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .153 中位群 .064
下位群 .001** .000*** 下位群 .055 .005**
**p<.01, ***p<.001 **p<.01
表 28.多重比較表 (前期 リーディング) 表 29.多重比較表 (後期 リーディング)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .880 中位群 .064
下位群 .252 .077 下位群 .778 .148
表 30.多重比較表 (前期 リスニング) 表 31.多重比較表 (後期 リスニング)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .039* 中位群 .986
下位群 .000*** .000*** 下位群 .066 .009**
*p<.05, ***p<.001 **p<.01
表 32.多重比較表 (前期 文法) 表 33.多重比較表 (後期 文法)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .061 中位群 .153
下位群 .000*** .000*** 下位群 .000*** .000***
***p<.001 ***p<.001
まず、各群の前・後期間比較においては、調査対象者全体の結果と同様、前期の方が、
概して後期を上回っており、上位群の全体、リスニング、文法及び中位群の文法で、有意 差が見られた。後期における上位群の適切消化率が、リーディングを除いて前期よりも有 意に下がっているという結果は、TOEIC スコアの伸び率の観点からすると予想外であっ た。前期に比べて有意に下がっているとはいえ、後期の教材全体の適切消化率は 88.6% で あり、一定の水準を保っていれば、上位群の受講者については、教材のレベル等を前・後 期で変えることによって、スコアの伸びを期待できるのかもしれない。中位群及び下位群 の適切消化率については、前・後期間で概して有意差は観察されず、共に 1% 程度の差に なっている。英語が必ずしも得意ではない、あるいは学習意識が必ずしも高くない中位群 及び下位群の受講者については、後期の成績評価の基準を高く設定することで、後期の教 材消化率の上昇を促し、導きながらも、適切学習率の変動を一定の範囲内に収めることが できるのかもしれない。
表 26 ~ 33 に示される各群の間の比較に移ると、前期では、教材全体の適切消化率が、
教材消化率の場合と同様、上位群、中位群、下位群の順に高くなっており、上位群及び中 位群と下位群の間には、有意差が観察された。渡辺・青木(2011)、Watanabe and Aoki(2014)
が指摘するように、見かけ上の消化率に大きな差がないように見えても、不適切学習を考 慮すると、実質的な学習効果に顕著な差が生じていると考えられる。後期における上位群 及び中位群の教材全体の適切消化率は、約 89% でほぼ同じであるが、中位群と下位群の 間にのみ、前期と同様に有意差が見られた。各教材の比較については、前期では教材消化 率の場合と同様、リスニングと文法において、上位群及び中位群と下位群の間に、それぞ れ有意差が見られる。他方、後期では教材消化率の場合と異なり、前期に引き続き、リス ニングと文法において、上位群及び中位群と下位群の間に有意差が見られる傾向があった。
注目すべきは、下位群のリスニングと文法における、平均教材消化率と平均適切消化率の 違いである。上位群と伸び中位群の場合、例えばリスニングでは、両群の前・後期の平 均教材消化率は、それぞれ 93.3% と 91.9%、前・後期の平均適切消化率は、それぞれ 90%
と 87.5% であり、両者の差は 3 ~ 4% 程度である。これに対し、下位群の場合、前・後期 の平均教材消化率が 89%、平均適切消化率が 80.6% であり、両者の差は約 9% に及び、上 位群及び中位群の倍以上になっている。このことが、下位群の TOEIC スコアの伸びに、
顕著な否定的な影響を与えたものと推察される。
次に、教材正解率について検討する。表 34 は、教材正解率について、下位分類別に示 したものであり、表 35 ~ 42 は、各項目について、各群の間で多重比較したものである。
表 34.教材正解率 (%)
前期平均 後期平均 有意確率
伸び上位群
全体 60.9 (7.2) 51.6 (9.5) .000***
リーディング 53.2 (12.4) 47.2 (19.8) .000***
リスニング 70.5 (8.1) 50.3 (11.2) .000***
文法 58.8 (7.2) 57.2 (9.0) .013*
伸び中位群
全体 49.7 (9.5) 42.9 (10.8) .000***
リーディング 46.0 (13.9) 39.7 (19.5) .000***
リスニング 53.4 (11.8) 44.1 (12.0) .000***
文法 49.6 (9.0) 45.0 (11.6) .000***
伸び下位群
全体 39.2 (8.4) 34.5 (9.9) .000***
リーディング 35.8 (15.8) 33.4 (19.1) .159 リスニング 41.1 (10.4) 34.6 (10.5) .000***
文法 40.6 (9.1) 35.7 (11.0) .000***
*p<.05, ***p<.001
表 35. 多重比較表 (前期 全体) 表 36. 多重比較表 (後期 全体)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .000*** 中位群 .000***
下位群 .000*** .000*** 下位群 .000*** .015*
***p<.001 *p<.05, ***p<.001
表 37. 多重比較表 (前期 リーディング) 表 38. 多重比較表 (後期 リーディング)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .000*** 中位群 .006**
下位群 .000*** .000*** 下位群 .000*** .015*
***p<.001 *p<.05, **p<.01, ***p<.001
表 39.多重比較表 (前期 リスニング) 表 40.多重比較表 (後期 リスニング)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .000*** 中位群 .000***
下位群 .000*** .000*** 下位群 .000*** .000***
***p<.001 ***p<.001
表 41.多重比較表 (前期 文法) 表 42.多重比較表 (後期 文法)
上位群 中位群 下位群 上位群 中位群 下位群
上位群 上位群
中位群 .000*** 中位群 .000***
下位群 .000*** .000*** 下位群 .000*** .000***
***p<.001 ***p<.001
まず、各群の前・後期間比較においては、調査対象者全体の結果と同様、前期の正解率 が、下位群のリーディングを除くすべての項目で、後期を有意に上回っている。表 2 の通 り、後期で使用する教材レベルを一律に上げたため、これは予測通りであった。次に、表 35 ~ 42 に示される各群の間の比較を見ると、いずれの間においても、有意差が見られ、前・
後期を問わず、上位群、中位群、下位群の順で、正解率が高くなっている。上位群と下位 群の間には、教材全体で、前期では 20% 以上、後期でも 17% 以上の差がある。教材全体 の前・後期間比較では、低下幅こそ、上位群が最も大きくなっているが(約 9%)、上位 群 65 名のうち、42 名(約 65%)は上級クラスの受講者であり、前・後期のそれぞれにお いて、教材レベルが、中位群及び下位群の大半を占める、中級クラス及び初級クラスの受 講者よりも一つ高くなっている。これを考慮すると、実質的な正解率の差は、もっと大き かったものと推察できる。
4.全体的考察
平成 29 年度の「英語基礎演習 III・IV」における、TOEIC の結果について比較したところ、
後期では、調査対象者全体の総合スコアで約 13 点の伸びが見られた。また、TOEIC の伸 び率に基づいて分類した各群の結果から、上位群は、リスニング・リーディングともにバ ランスよく伸びているのに対し、中位群及び下位群は、スコアの伸びが限定であるか、マ イナスとなっており、特に、リスニングでこの傾向が明瞭であることが示された。
これらの要因を探るため、前・後期の学習記録を比較したところ、各群ともに、ログイ ン回数や学習時間など、ほとんどの項目で、後期のパフォーマンスが前期を統計的に有意 に下回っていた。それにもかかわらず、調査対象者全体として、後期のスコアで有意な伸 びが見られたということは、前・後期において、成績評価の基準や用いる教材レベルを変 えたこと、1 週間毎の消化期限を通年にわたって設けたことなどが、後期のスコアの伸び に、複合的に寄与したものと考えられる。本学のように、語学系以外の学部の学生を受講 対象とし、且つ、受講者の学習に対する内的動機付けに介入しにくい完全自習型の環境で、
前・後期で連続受講させつつ学習効果を上げるには、このような複合的なアプローチが有 効ということが言えるのかもしれない。
各群の比較を通して、ログイン回数や学習時間よりも、教材消化率や適切消化率、教材 正解率が、TOEIC スコアの伸びに関係していることが示された。その中で、教材消化率 を比較した場合、リスニングで、前期においてのみ、上位群と下位群、中位群と下位群の 間に有意差が見られる程度であったが、適切消化率を比較した場合、リスニング(及び文法)
で、後期においても、上位群と下位群、中位群と下位群の間に、有意差がある傾向が見ら れた。成績評価の基準を高く設定した後期では、中位群及び下位群が、前期よりも教材を 意識的に消化している様子が伺えるが、適切消化率に着目することで、後期の消化率の上 昇が、必ずしも、質を伴った真面目な学習姿勢を反映しているわけではないことが明らか になった。渡辺・青木(2011)が指摘するように、不適切学習は、前・後期ともに、問題 数が多く且つ難易度が高いリスニングで多い傾向があり、これが、各群のリスニングスコ アに少なからず影響したものと考えられる12)。後期において、特に、下位群の受講者に ついては、「教材を消化すること自体が目的化してしまった」とも言える。完全自習型の 環境において、学習意欲を維持させることは容易なことではないが、〈ぎゅっと e〉の掲
示板を利用して、受講者全体に、各クラスの進捗状況や、過去にスコアの伸び率が大きかっ た受講者の学習記録を定期的に伝えたり、学習の取り組み方をより具体的に指示し、それ を平常点の一部として、成績評価に組み込むなどの対策が有効であろう(cf. 池上 2009)。
同様に、教材正解率についても、各群の間で、ほぼ、すべての比較で、有意差が観察さ れた。上位群の大半を占める上級クラスの受講者は、使用教材のレベルが、中位群及び下 位群の大半の受講者よりも一つ高いにもかかわらず、前・後期ともに、中位群、下位群の 正解率を大幅に上回っていることが示されている。上位群の受講者は、普段から高い意欲 を持って学習に取り組んでおり、たとえ総学習時間で、中位群と下位群の受講者と顕著な 差がなくても、内容理解を伴った質の高い学習を着実に実践していることが窺える。
5.今後の課題
本調査を通して、TOEIC スコアが伸びている受講者は、伸びていない受講者に比べて、
適切消化率と教材正解率という点から、質の高い学習を継続していることが明らかになっ た。最後に、適切消化率及び教材正解率に加えて、TOEIC スコアの伸びに有意に相関す る「第三の要因」が存在する可能性の追究を、今後の課題として指摘したい。
上位群の質の高い学習を示唆する記録として、各群の受講者が、問題に解答した後に、
どの程度、解説を確認したか(以下、解説確認率)について、TOEIC スコアの伸び率に 顕著な差が見られたリスニングに絞って検討する。〈ぎゅっと e〉の特徴の一つとして、
各問題に解答した後に、和訳と詳細な解説、リスニングについては音声のスクリプトが付 いていることが挙げられるが、表 43 は、リスニングの解説確認率を下位分類別に示した ものであり、表 44 ~ 45 は、各群の間で多重比較したものである。
表 43. リスニング解説確認 (%)
前期平均 後期平均 有意確率
伸び上位群 29.7 (23.4) 21.3 (21.5) .002**
伸び中位群 34.1 (28.0) 20.9 (25.8) .000***
伸び下位群 24.7 (27.4) 15.5 (26.5) .000***
**p<.01, ***p<.001
表 44. 多重比較表
(前期 リスニング解説確認率)
上位群 中位群 下位群
上位群
中位群 .167
下位群 .340 .015*
*p<.05
(後期 リスニング解説確認率)
上位群 中位群 下位群
上位群
中位群 .908
下位群 .163 .116
表 43 に示すように、前・後期間比較では、いずれの群も、後期において、前期の解説 確認率を有意に下回っている。前期については、中位群が約 34% で最も高く、後期につ いては、上位群及び中位群が約 21% で同程度になっているが、これに、表 34 に示したリ スニングの正解率をそれぞれ加算すると、前・後期ともに、上位群が最も高く、特に、前 期では、約 100% となっている。対照的に、下位群は、前・後期ともに、解説確認率が最 も低くなっており、特に、後期では、教材正解率を加算しても、約 50% にとどまっている。
逐一解説を確認する行為の頻度は、受講者の英語力というより、学習意欲や集中力を反映 していると考えられ、表層的な学習行動を支える内的要因の現れと見ることができるかも しれない(cf. 池上 2015)。適切消化率、教材正解率、そして解説確認率という三つの要 因による複合的な関係性が、どのように TOEIC スコアの伸びの差異に影響を与えるかに ついては、今後の課題としたい。
付 記
「英語基礎演習 III・IV」のカリキュラムへの円滑な導入や授業運営、データ分析などの 様々な場面において、広島市立大学教授 青木信之氏、渡辺智恵氏及び北辰映電株式会社 庄司勝己氏、久保田理笑氏から貴重な助言をいただいた。特に、2 名の査読者からいただ いた貴重な示唆や助言がなければ、本稿の執筆は完遂するに至ることはできなかった。こ こに改めて厚く御礼を申し上げたい。本稿における全ての不備や誤りの責任が筆者にある ことは言うまでもない。本研究は科研費(基盤(B)17H02363)の助成を受けている。
注 記
1) e ラーニングを用いた外国語学習は、高等教育機関において年々普及していることが指摘されており、
その導入形態としては、当該科目で採用するような、対面式授業とは趣旨や内容が独立した完全自習 型の他に、1 週間に 1 回(あるいは定期的に)、特定の教室で、受講者全体を一斉に学習指導・管理を しながら実施する対面型、対面授業内で、学習内容の予習・復習等、大量的に行う必要がある項目に 絞って、e ラーニングを用いるブレッディッド・ラーニング型などがある(cf. 野澤・清水 2012)。
2) 学習期間中、毎日、午前 3 時~午前 5 時はメンテナンスを行うため、当該時間帯に、ログイン及び学 習をすることはできない。
3) これは、受講者が 1 年次の後期末に受験した TOEIC Bridge の平均スコアに基づいて判断したもの である。上級クラスの受講者の平均スコアは 157 点であり、国際ビジネスコミュニケーション協会が 提供している『TOEIC Bridge と TOEIC L&R のスコア比較表』に基づくと、この数値は、TOEIC L&R における、約 535 点に相当する。
4) 教材の総問題数は、リーディング(40 の大問)、リスニング(上級 720 問、中級・初級 800 問)、文法
(740 問)であり、リーディングは一つの大問が 10 前後の小問で構成されている。
5) TOEIC スコアに単位認定の条件を設けることには、賛否両論があり得る。当該科目導入初年である 平成 28 年度では、(TOEIC の受験は義務付けたものの)スコアにノルマを設けておらず、それが、(一 定数の受験者が試験中に居眠りをするなど)少なからず TOEIC の受験に対して否定的な影響を与え たと考えられるため、平成 29 年度より、新たに導入することとした。
6) 詳細には立ち入らないが、質の高い学習を担保し、効率的に英語の処理能力を高めていくには、新た な問題を消化するだけでなく、すでに解いた問題の解き直しもまた有効と考えられることから、前・
後期ともに〈ぎゅっと e〉の「一括再挑戦機能」を利用し、受講者には、各分野の問題を一定数消化 した後で、間違えた問題(Reading については、正解率が 70% 未満の大問の場合)については、義務 的に解き直しをさせることとした。
7) 渡辺・青木(2011)、池上(2015)は、e ラーニングを用いた授業における不適切学習の深刻性を指摘 した上で、e ラーニングの学習効果を検証する際に、不適切学習の観点から分析することの重要性に ついて言及している。本稿で採用する以下の不適切学習や適切消化率の定義・算出法は、本学と同じ プログラムを用いて、e ラーニングの学習管理及びその結果分析を報告している、渡辺・青木(2011)
及び池上(2015)に基づいたものである。
(i) リーディング:読解速度が 500wpm 以上での学習
リ ス ニ ン グ:(各問題の)音声開始から 3 秒以内で回答している学習 文 法:各問題が画面上に提示されてから 2 秒内に回答している学習
8) 本学では、受験料の負担や実施機会の確保などの制約上、各学期の e ラーニング学習を開始する前に、
TOEIC を実施することが困難であるため、事前スコアと事後スコアの比較分析をすることはできな い。この意味で、学期内の英語力の変動や学期間の TOEIC スコアの違いを、〈ぎゅっと e〉における 学習記録に基づいて厳密に検証することはできない。1 名の査読者にも指摘いただいたが、前期末に おける TOEIC スコアと後期末における TOEIC スコアの違いが、何を示しているかについては、複 数の解釈が可能である点に注意しなければならない。この点について、青木 他(2019)は、夏期休 暇中に実施した調査に基づいて興味深い報告をしている。具体的には、前期で使用したものと同じ教 材レベルを用いて、夏期休暇中に自身のペースで〈ぎゅっと e〉に取り組ませた群と、〈ぎゅっと e〉
に全く取り組ませなかった群(計 25 名)を対象に行った TOEIC の結果に基づいて、前者の場合、前 期末のスコアと後期開始直前のスコアの間に有意差が観察されないのに対し、後者の場合、有意差が 観察され、後期開始直前のスコアの方が、平均で約 26 点下がっていることを報告している。アンケー ト調査によって、当該年度の受講者の大半は、夏期休暇を含む長期休暇中の英語学習が皆無に等しく なることが明らかになっており、青木 他(2019)の観察がある程度妥当であると仮定すると、後期 の〈ぎゅっと e〉の学習や成績評価の基準は、夏期休暇中の約 26 点分の TOEIC スコアの低下幅を補 完することに加えて、約 13 点(計 約 39 点分)を押し上げる可能性があることを示唆する。しかし、
これが推測の域を出るものではないことは自明のため、更なる検証が必要である。
9) 各群における習熟度別の人数は、以下の通りである。
伸び上位群:上級クラス 42 名、中級クラス 23 名
伸び中位群: 上級クラス 33 名、中級クラス 233 名、初級クラス 29 名 伸び下位群:上級クラス 1 名、中級クラス 37 名、初級クラス 32 名 10) 教材正解率は、1 回目実施時の結果を示している。
11) 調査対象者を、TOEIC スコアの伸び率だけでなく、学習時間も踏まえて下位分類した場合、あるいは、
各調査対象者の総学習時間から、不適切な学習を差し引いて再分析した場合、学習時間が TOEIC ス コアの伸びに寄与している可能性もあるかもしれない(cf. Watanabe and Aoki 2014)。この可能性の 追求については、今後の検討課題としたい。
12) この点に関して、池上(2015)は、本学と同様の e ラーニング科目を受講している学生を対象とし たアンケート調査の結果を通して、リスニングでは、特に、「やる気」に対する主観的評価が、受講 者間でバラツキが見られるという、興味深い報告をしている。
参照文献
青木信之 (2005)「ネットワーク型英語集中プログラムにおける学習パタンの研究 I―教材消化率から―」
Hiroshima Journal of International Studies Volume 11. 156-177.
青木信之・鈴木繁夫・竹井光子・志水俊広・渡辺智恵・能登原祥之・池上真人・寺嶋健史 (2011)「多様 な大学環境における英語 e ラーニング―学習アンケートからみえてくるもの―」第 51 回外国語教育 メディア教育学会 (LET) 公募シンポジウム 2011. 8.7. 発表資料.
青木信之・渡辺智恵・鈴木繁夫・松原緑・池上真人・寺嶋健史・榎田一路・汪曙東・高橋英也・阪上辰也・
江村健介 (2019)「共通教育期間を通じた英語力の維持・向上に向けて (その 2) ―長期休暇中の e ラー ニング活用の可能性―」the seventh International Conference on Foreign Language Education and Technology (FLEAT VII) 2019. 8.7. 発表資料.
池上真人 (2009)「Call を用いた英語学習の効果に関する研究 II―学習環境と実態環境が学習に及ぼす影 響―」『言語文化研究』第 29 号. 第 1 巻. 229-257.
池上真人 (2015)「e ラーニングにおける学習意欲に関する研究―プログラム受講中の学習意欲の変化に 焦点を当てて―」『言語文化研究』第 34 号.第 2 巻.1-20.
野澤健・清水裕子 (2012)「学習アンケートからみる e ラーニングの学習態度と効果」『立命館経済学』
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