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犬の膝関節における十字靱帯の機能解剖と関節運動の解析

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(1)

犬の膝関節における十字靱帯の機能解剖と関節運動の解析

日本大学大学院獣医学研究科獣医学専攻

博士課程

(2)

本論文略語表

前十字靱帯(cranial cruciate ligamentCrCL 前内側帯(craniomedial bundleCrMB 後外側帯(caudolateral bundleCdLB

後十字靱帯(caudal cruciate ligamentCaCL 前外側帯(craniolateral bundleCrLB

後内側帯(caudomedial bundleCdMB

前十字靱帯;ヒト(anterior cruciate ligamentACL 前内側帯;ヒト(anteromedial bundleAMB

後外側帯;ヒト(posterolateral bundlePLB

後十字靱帯;ヒト(posterior cruciate ligamentPCL 前外側帯;ヒト(anterolateral bundleALB

後内側帯;ヒト(posteromedial bundlePMB

四次元コンピュータ断層撮影法(four-dimensional computed tomography4D-CT

(3)

目次

... 1

第一章 犬の前十字靱帯の前内側帯および後外側帯の機能解剖 ... 6

1.1. 緒言 ... 7

1.2. 材料および方法 ... 9

1.2.1. 実験手順 1.2.2. CrCLの大腿骨側および脛骨側の付着部領域の形態の観察 1.2.3. CrMBCdLBの付着部の面積および中心点の位置 1.2.4. 膝関節可動時における各帯内の線維束の配列の変化 1.2.5. 膝関節可動時における靱帯線維の張力の変化 1.2.6. 統計学的分析 1.3. 結果 ... 20

(4)

1.4. 考察 ... 30

第二章 犬の後十字靱帯の前外側帯および後内側帯の機能解剖 ... 36

2.1. 緒言 ... 37

2.2. 材料および方法 ... 39

2.2.1. 実験手順 2.2.2. CaCLの大腿骨側および脛骨側の付着部領域の形態の観察 2.2.3. CrLBCdMBの付着部の面積および中心点の位置 2.2.4. 膝関節可動時における各帯内の線維束の配列の変化 2.2.5. 膝関節可動時における靱帯線維の張力の変化 2.2.6. 統計学的分析 2.3. 結果 ... 50

2.3.1. CaCLの大腿骨側および脛骨側の付着部領域の形態の観察 2.3.2. CrLBおよびCdMBの付着部の面積および中心点の位置 2.3.3. 膝関節可動時における各帯内の線維束の配列の変化 2.3.4. 膝関節可動時における各帯と線維束の張力の変化 2.4. 考察 ... 60

第三章 4D-CTによる犬の十字靱帯断裂モデルを用いた膝関節運動の解析 ... 65

3.1. 緒言 ... 66

(5)

3.2. 材料および方法 ... 67 3.2.1. 対象肢と群設定

3.2.2. 4D-CTの撮影方法

3.2.3. 撮影データの解析方法

3.2.4. 膝関節可動時における脛骨の前後方向への変位の評価

3.2.5. 膝関節可動時における脛骨の回旋の評価

3.2.6. 膝関節可動時における脛骨の内反および外反の評価

3.2.7. 統計学的分析

3.3. 結果 ... 78

3.3.1. 膝関節可動時における脛骨の前後方向への変位

3.3.2. 膝関節可動時における脛骨の回旋

3.3.3. 膝関節可動時における脛骨の内反および外反

3.4. 考察 ... 83

(6)

参考文献 ... 93

(7)

(8)

犬 の 十 字 靱 帯 は 、 膝 関 節 内 に お い て 前 十 字 靱 帯 (cranial cruciate ligamentCrCL) と 後 十 字 靱 帯 (caudal cruciate ligamentCaCL) が 交 差 す る 様 に し て 存 在 し 、 膝 関 節 安 定 機 構 の 中 心 的 役 割 を 果 た し て い る

Arnoczky and Marshall, 1977; Singleton, 1957)。CrCL は 、 大 腿 骨 外 側 顆 の 内 側 面 に 起 始 し 、脛 骨 顆 間 領 域 に 終 止 す る(Arnoczky and Marshall, 1977)。犬 の CrCL は 、脛 骨 の 前 方 へ の 変 位 の 制 御 、膝 関 節 の 過 度 の 伸 展 の 防 止 、 脛 骨 の 過 度 な 内 旋 の 制 御 と い っ た 機 能 を 有 し て お り

Johnson and Hulse, 2002)、 前 内 側 帯 (craniomedial bundle: CrMB) と 後 外 側 帯 (caudolateral bundle: CdLB) の 2 つ の 帯 か ら 形 成 さ れ て い る

Heffron and Campbell, 1978)。CrCL は 、 臨 床 的 に も 重 要 な 靱 帯 で あ り 、 そ の 断 裂 は 犬 の 整 形 外 科 疾 患 の 中 で 最 も 遭 遇 す る 機 会 の 多 い 疾 患 と さ れ て い る (Piermattei et al., 2006)。 跛 行 を 呈 し て 来 院 し た 症 例 の 20% に お い て 、CrCL の 断 裂 が 認 め ら れ た と い う 報 告 も あ る (Buote et al., 2009; Piermattei et al., 2006)。

CrCL 断 裂 の 好 発 犬 種 は 、小 型 犬 か ら 大 型 犬 ま で 様 々 だ が 、米 国 で の 疫 学 的 調 査 に よ る と 、 ニ ュ ー フ ァ ン ド ラ ン ド 、 ロ ッ ト ・ ワ イ ラ ー 、 ラ ブ ラ ド ー ル・レ ト リ ー バ ー 、ゴ ー ル デ ン・レ ト リ ー バ ー 、ブ ル ド ッ ク 、 ボ ク サ ー と い っ た 大 型 犬 で の 発 生 が 多 い 傾 向 が あ る (Hayashi et al., 2010)。 英 国 で の 大 規 模 な 疫 学 的 調 査 (n=171,522) に よ る と 、 犬 に お け る CrCL 断 裂 の 発 生 率 は 0.56%で 、ロ ッ ト・ワ イ ラ ー 、ウ ェ ス ト・ハ

(9)

イ ラ ン ド ・ ホ ワ イ ト ・ テ リ ア 、 ヨ ー ク シ ャ ー ・ テ リ ア で 発 生 リ ス ク が 高 い こ と が 示 さ れ て い る (Talor-Brown et al., 2015)。 わ が 国 に お い て は 、 ウ ェ ル シ ュ ・ コ ー ギ ー ・ ペ ン ブ ロ ー ク 、 柴 、 ト イ ・ プ ー ド ル で の 発 症 例 に も し ば し ば 遭 遇 す る 。

犬 の CrCL 断 裂 は 、 ヒ ト と 異 な り 単 純 な 外 傷 に よ る 発 生 は 少 な く 、 靱 帯 線 維 の 加 齢 性 お よ び 変 性 性 変 化 に 外 力 が 加 わ る こ と で 生 じ る と さ れ て い る (Hayashi et al., 2003)。CrCL は 、 加 齢 と と も に コ ラ ー ゲ ン 線 維 が 硝 子 化 し 脆 弱 化 を 来 た す 。体 重 が 15kg 以 上 で 、5 歳 以 上 の 犬 で は 明 ら か に 靱 帯 が 変 性 し 、 強 度 が 低 下 す る こ と が 証 明 さ れ て い る

Vasseur et al., 1985)。

CrCL が 断 裂 し た 犬 で は 、膝 関 節 に 前 方 お よ び 内 旋 方 向 へ の 不 安 定 性 を 生 じ て 、 急 性 お よ び 慢 性 的 な 関 節 炎 に よ り 跛 行 が 継 続 す る

Piermattei et al., 2006)。犬 の CrCL 断 裂 の 治 療 は 、保 存 療 法 と 外 科 療 法 に 大 別 さ れ る 。保 存 療 法 が 選 択 さ れ た 場 合 、治 療 か ら 10 ヵ 月 経 過 し て も 81%に 跛 行 が 残 存 し た と い う 報 告 も あ り(Vasseur, 1984)、一 般 的 に 外 科 手 術 が 選 択 さ れ る こ と が 多 い 。

(10)

ラ ッ プ を 設 置 し 、 膝 関 節 の 安 定 化 を 図 っ た 。 し か し 、 こ の 方 法 は 、 筋 膜 フ ラ ッ プ を 設 置 す る た め の 骨 孔 の 位 置 が 一 定 せ ず 、 必 ず し も 満 足 の い く 成 績 を 得 る こ と が で き な か っ た (Vasseur, 2003)。1979 年 に Arnoczky が 、ヒ ト で Campbell ら が 報 告 し た 術 式 を 参 考 に 、大 腿 筋 膜 と 膝 蓋 靱 帯 を 用 い て 関 節 包 内 で 固 定 す る Over the Top 法 を 考 案 し た

Arnoczky et al., 1979)。 そ れ 以 降 、 犬 の CrCL 断 裂 の 治 療 と し て 、 多 く の 外 科 的 整 復 術 が 行 わ れ る よ う に な っ た 。

CrCL 断 裂 の 整 復 術 に は 、膝 関 節 内 で 安 定 化 を 図 る 関 節 内 再 建 術 、膝 関 節 の 外 で 固 定 す る 関 節 包 外 制 動 術 、 脛 骨 骨 切 り に よ る 膝 関 節 の 機 能 的 安 定 化 術 に 大 別 さ れ る 。 現 在 で は 、 関 節 内 再 建 術 の 術 後 の 満 足 度 が 低 い こ と か ら 、 関 節 包 外 制 動 術 と 脛 骨 骨 切 り に よ る 機 能 的 安 定 化 術 が 中 心 に 行 わ れ て い る (Johnson and Hulse, 2002)。 し か し 、 い ず れ の 手 法 に お い て も 、 断 裂 し た CrCL を 再 建 す る も の で な く 、 犬 に お い て は CrCL の 解 剖 学 的 再 建 術 が 確 立 し て い な い の が 現 状 で あ る 。

現 在 、 ヒ ト で は 、CrCL の 機 能 解 剖 に 関 す る 詳 細 な 情 報 が 蓄 積 さ れ 、 標 準 的 な 外 科 的 治 療 法 と し て 膝 関 節 内 で の 解 剖 学 的 再 建 術 が 実 施 さ れ て い る(Yasuda et al., 2004)。近 年 、犬 に お い て も 、ヒ ト と 同 様 に 、膝 関 節 内 で の CrCL の 解 剖 学 的 再 建 術 の 確 立 を 目 指 し 、 研 究 が 行 わ れ 始 め て い る(Biskup et al., 2017)。し か し 、現 在 の と こ ろ 、ヒ ト と 比 較 し て 、 そ の 新 規 治 療 法 の 基 礎 と な る 犬 の CrCL の 機 能 解 剖 の 研 究 が ほ と

(11)

ん ど 行 わ れ て お ら ず 、 解 剖 学 的 再 建 術 を 実 施 す る た め の 情 報 が 明 ら か に 不 足 し て い る 。 ま た 、 犬 で CrCL の 解 剖 学 的 再 建 術 を 確 立 す る た め に は 、CrCL 断 裂 時 に 残 存 す る CaCL の 機 能 解 剖 や 、各 靱 帯 ま た は そ の 一 部 が 断 裂 し た 際 の 膝 関 節 運 動 に も 精 通 し て お く 必 要 が あ る 。

そ こ で 、 本 研 究 で は 、 犬 の CrCL 断 裂 の 新 規 治 療 法 の 開 発 の 基 礎 と な る 情 報 を 集 積 す る 目 的 で 、CrCL CaCL の 機 能 解 剖 を 詳 細 に 検 討 し た 。 さ ら に 、 各 種 の 十 字 靱 帯 断 裂 モ デ ル を 作 製 し 、 四 次 元 コ ン ピ ュ ー タ ー 断 層 撮 影 法 (four-dimensional computed tomography: 4D-CT) と い う 従 来 に な い 手 法 を 用 い て 、 膝 関 節 運 動 を 客 観 的 に 検 証 し た 。

(12)

第 一 章

犬 の 前 十 字 靱 帯 の 前 内 側 帯 お よ び 後 外 側 帯 の 機 能 解 剖

(13)

1.1. 緒 言

前 十 字 靱 帯 (cranial cruciate ligament: CrCL) 断 裂 は 、 犬 に お い て 後 肢 の 跛 行 の 原 因 と し て 最 も 一 般 的 で あ り (Kowaleski and Boudrieau, 2017)、し ば し ば 外 科 的 介 入 を 必 要 と す る 。近 年 、犬 の CrCL 断 裂 に 対 す る 外 科 的 治 療 法 は 、 術 後 の 機 能 回 復 が 早 い と い う 理 由 か ら 、 脛 骨 高 平 部 水 平 化 骨 切 り 術(tibial plateau leveling osteotomy: TPLO)や 脛 骨 粗 面 前 進 化 術(tibial tuberosity advancement: TTA)と い っ た 脛 骨 骨 切 り に よ る 機 能 的 安 定 化 術 が 主 流 と な っ て い る (Krotscheck et al., 2016)。 最 近 に な っ て 、 膝 関 節 内 で CrCL を 再 建 す る 新 た な 術 式 が い く つ か 報 告 さ れ 、 小 動 物 臨 床 領 域 で 注 目 を 浴 び て い る (Biskup et al., 2017;

Ho-Eckart et al., 2017; Biskup et al., 2015; Cook et al., 2015)。 し か し 、 こ れ ら の 手 法 は 、 い ず れ も 断 裂 し た CrCL を 完 全 に 再 建 す る 術 式 で は な く 、 犬 で CrCL を 解 剖 学 的 に よ り 正 確 な 位 置 で 再 建 す る 術 式 は 未 だ 確 立 し て い な い 。

一 方 で 、 現 在 、 医 学 領 域 に お い て は 、 前 十 字 靱 帯 (anterior cruciate ligament: ACL; ヒ ト ) 断 裂 の 外 科 的 治 療 法 と し て 、 膝 関 節 内 で の 解 剖

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側 帯 (anteromedial bundle: AMB; ヒ ト ) と 後 外 側 帯 (posterolateral bundle: PLB; ヒ ト ) の 両 帯 を と も に 再 建 す る 解 剖 学 的 二 重 束 再 建 術 に 移 行 し て お り 、 実 際 の 臨 床 に お い て も 解 剖 学 的 一 重 束 再 建 術 よ り も 良 好 な 結 果 が 得 ら れ て い る (El-Sherief et al., 2018; Järvelä et al., 2017)。

解 剖 学 的 二 重 束 再 建 術 に お け る 長 期 成 績 の 優 位 性 に 関 し て は 議 論 が あ る も の の 、 そ の 有 効 性 は 様 々 な 機 能 解 剖 学 的 お よ び 生 体 力 学 的 研 究 に よ っ て 強 く 支 持 さ れ て い る (Suruga et al., 2017; Hara et al., 2009;

Edwards et al., 2008; Tsukada et al., 2008)。

犬 の CrCL も 、 ヒ ト と 同 様 に 頭 側 と 尾 側 の 2 つ の 帯 で 構 成 さ れ て い る が 、 各 々 の 帯 の 形 態 と 機 能 に 関 す る 研 究 は ヒ ト と 比 較 し て き わ め て 少 な い の が 現 状 で あ る 。 犬 の CrCL の 大 腿 骨 側 お よ び 脛 骨 側 の 付 着 部 を 主 観 的 に 観 察 し た 報 告 は あ る が (Heffron and Campbell, 1978)、 前 内 側 帯(craniomedial bundle: CrMB)と 後 外 側 帯(caudolateral bundle: CdLB 2 つ の 帯 に 分 け た 検 討 は 未 だ 行 わ れ て い な い 。そ の 他 に 、CrCL は 後 十 字 靱 帯 と 交 差 す る よ う に 走 行 し 、CrCL 自 体 も 捻 転 し て い る と い う 報 告 は あ る が (Stouffer et al., 1983; Heffron and Campbell, 1978; Arnoczky and Marshall, 1977; Singleton, 1957)、 膝 関 節 可 動 時 に お け る CrMB CdLB お よ び 各 帯 内 の 線 維 束 の 配 列 の 変 化 に 関 し て 詳 細 に 観 察 し た 研 究 は 見 当 た ら な い 。ま た 、犬 の CrCL の 強 度 の 測 定 に は 、多 く の 場 合 、 引 張 試 験 が 行 わ れ て い る が 、 膝 関 節 可 動 時 に お け る CrCL の 張 力 を 直

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接 的 に 評 価 し た 報 告 は 存 在 し な い 。

そ こ で 、 本 章 で は 、 犬 の CrCL 断 裂 に 対 す る 外 科 的 治 療 法 と し て 膝 関 節 内 に お け る 解 剖 学 的 二 重 束 再 建 術 を 開 発 す る た め の 基 礎 的 デ ー タ を 取 得 す る た め に 、(1) 犬 の CrCL に お け る CrMB CdLB の 付 着 部 領 域 の 形 態 の 観 察 、(2) 各 帯 の 付 着 部 の 面 積 と 位 置 の 客 観 的 な 測 定 、

3)各 帯 内 の 線 維 束 の 走 行 と 膝 関 節 可 動 時 に お け る 配 列 の 変 化 に 関 す る 主 観 的 な 評 価 、(4) 膝 関 節 可 動 時 に お け る 靱 帯 線 維 の 張 力 の 客 観 的 な 測 定 を 行 っ た 。

1.2. 材 料 お よ び 方 法 1.2.1. 実 験 手 順

本 検 討 は 、 他 の 目 的 の た め に 安 楽 死 さ れ た 健 常 ビ ー グ ル 犬 ( 北 山 ラ ベ ス 、伊 那 市 、長 野 県 )の 左 後 肢 、12 肢 を 使 用 し て 行 っ た( 日 本 大 学 動 物 実 験 委 員 会:承 認 番 号 AP11B0792011 年 )。 本 検 討 で 使 用 し た ビ ー グ ル 犬 は 、全 て 成 犬 で あ り( 平 均:3.8±1.7 歳 )、体 重 は 8.013.9 kg

( 平 均 :11.0±2.0 kg) で 、 雄 と 雌 が 各 々6 頭 で あ っ た 。

(16)

し て 記 録 し た 。 本 検 討 で は 、 性 別 、 年 齢 、 体 重 に 関 係 な く 、 取 得 順 に 最 初 の 6 肢 で CrMB を 評 価 し 、 残 り の 6 肢 で CdLB を 評 価 し た 。

ま ず 、 最 初 の 6 肢 に お い て は 、CdLB の み を 付 着 部 で 切 除 し 、 大 腿 骨 側 と 脛 骨 側 に お け る CdLB の 付 着 部 の 面 積 お よ び 位 置 を 客 観 的 に 測 定 し た 。 次 い で 、 各 々 の 膝 関 節 の 角 度 に お い て 、CrMB の 形 態 学 的 特 徴 を 記 録 し た (n=6)。 そ の 後 、CrMB 4 本 の 線 維 束 に 等 分 割 し 、 膝 関 節 可 動 時 に お け る 各 線 維 束 の 配 列 の 変 化 を 記 録 し た 。 さ ら に 、CrMB 全 体 お よ び 各 線 維 束 の 張 力 を 客 観 的 に 計 測 し た (n=6)。

同 様 に 、 残 り の 6 肢 に お い て は CrMB を 除 去 し 、CrMB の 大 腿 骨 側 と 脛 骨 側 の 付 着 部 の 面 積 と 位 置 を 客 観 的 に 測 定 し た 。 次 い で 、CdLB 4 本 の 線 維 束 に 等 分 割 し 、 膝 関 節 可 動 時 の 各 線 維 束 の 配 列 の 変 化 を 記 録 し た 。 さ ら に 、CdLB 全 体 お よ び 各 線 維 束 の 張 力 を 客 観 的 に 測 定 し た (n=6)。

最 後 に 、残 存 し た CrMB ま た は CdLB を 切 除 し 、各 々 の 付 着 部 の 面 積 と 位 置 を 測 定 し た ( 各 n=6、 合 計 n=12)。 な お 、CrCL 全 体 の 張 力 は 、 CrMB CdLB を 切 除 す る 前 に 測 定 し た 。

1.2.2. CrCL の 大 腿 骨 側 お よ び 脛 骨 側 の 付 着 部 領 域 の 形 態 の 観 察

過 去 に ヒ ト で 報 告 さ れ た 方 法 に し た が っ て (Hara et al., 2009;

Mochizuki et al., 2006)、CrCL の 大 腿 骨 付 着 部 領 域 の 形 態 を 観 察 し た 。

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次 い で 、 ヒ ト で 膝 関 節 を 屈 曲 し た 時 に 出 現 す る 大 腿 骨 付 着 部 近 傍 の 靱 帯 線 維 の 折 り 返 し の 有 無 を 記 録 し た 。 さ ら に 、 ヒ ト に お い て 大 腿 骨 付 着 部 領 域 の 前 方 に 認 め ら れ 、関 節 鏡 視 下 で ACL の 解 剖 学 的 再 建 術 を 行 う 際 の 目 印 と し て 重 要 な resident’s ridge と 呼 ば れ る 骨 隆 起 の 存 在 も 観 察 し た (n=12)(Shino et al., 2010)。

脛 骨 付 着 部 領 域 の 形 態 も 、過 去 の ヒ ト で の 研 究 を 参 考 に し て(Hara et al., 2009)、 観 察 お よ び 記 録 し た (n=12)。

1.2.3. CrMB CdLB の 付 着 部 の 面 積 お よ び 中 心 点 の 位 置

本 検 討 で は 、 過 去 の 犬 で の 報 告 に し た が っ て (Heffron and Campbell, 1978)、CrCL2つ の 帯 に 分 割 し 、 脛 骨 側 に お い て 頭 側 に 付 着 し て い る 帯 をCrMB、 尾 側 に 付 着 し て い る 帯 をCdLBと 定 義 し た ( 図1-1)。CrMB お よ びCdLB以 外 の 帯 が あ れ ば 、 そ の 帯 の 形 態 お よ び 走 行 も 記 録 し た 。

大 腿 骨 側 に お け るCrMBま た はCdLBの 付 着 部 の 面 積 と 中 心 点 の 位 置 を 決 定 す る た め に 、CrMBま た はCdLBの 靱 帯 線 維 を 骨 付 着 部 か ら0.5mm 残 し た 位 置 でNo.11の メ ス を 用 い て 切 除 し た 。 次 い で 、 骨 表 面 に 残 存 し

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を 、 関 節 軟 骨 の 領 域 を 除 い た 大 腿 骨 外 側 顆 内 側 面 の 面 積 で 除 す る こ と に よ っ て 面 積 比 を 算 出 し 、 各 帯 の 面 積 を 比 較 し た ( 図1-2A)。

脛 骨 側 に お い て も 、No.11の メ ス を 用 い てCrMBま た は 、CdLBの 靱 帯 線 維 を 骨 付 着 部 か ら0.5mm残 し た 位 置 で 切 除 し 、残 存 し た 靱 帯 線 維 を カ ラ ー イ ン ク で 染 色 し た 。 次 い で 、 脛 骨 の 近 位 関 節 面 に 垂 直 な 位 置 で 写 真 を 撮 影 し 、Image Jを 用 い て 各 帯 の 付 着 部 の 面 積 を 客 観 的 に 計 測 し た 。 脛 骨 側 で は 、 各 帯 の 付 着 部 の 面 積 を 、 脛 骨 の 内 側 顆 、 脛 骨 粗 面 、 外 側 顆 で 取 り 囲 む 近 位 関 節 面 の 面 積 で 除 す る こ と に よ っ て 面 積 比 を 算 出 し 、 各 帯 の 面 積 を 比 較 し た ( 図1-2B)。

さ ら に 、ヒ ト の 研 究 で 用 い ら れ て い るQuadrant法 を 用 い て(Kawaguchi et al., 2013; Bernard et al., 1997)、大 腿 骨 側 の 各 帯 の 付 着 部 の 中 心 点 の 位 置 を 客 観 的 に 測 定 し た 。 最 初 に 、 前 述 のImage Jを 用 い 、 各 帯 の 付 着 部 の 面 積 を 基 に 中 心 点 を 求 め た 。 次 い で 、 大 腿 骨 外 側 顆 の 内 側 面 に 、 測 定 用 の 格 子 状 グ リ ッ ド を 以 下 の 要 領 で 重 ね 合 わ せ た 。 ま ず は 、 グ リ ッ ド の 近 位 側 を 顆 間 切 痕 の 近 位 端 (Blumensaat’s line) に 重 ね 、 次 い で 、 グ リ ッ ド の 頭 側 、 尾 側 、 遠 位 側 を 大 腿 骨 顆 の 関 節 軟 骨 縁 に 接 す る よ う に 配 置 し た (Reichert et al., 2013)。 さ ら に 、 グ リ ッ ド にX-Y座 標 軸 を 設 置 し 、各 帯 の 中 心 点 の 位 置 を 客 観 的 に 計 測 し た(Kawaguchi et al., 2013;

Bernard et al., 1997)( 図1-3A)。

脛 骨 側 の 各 帯 の 中 心 点 の 位 置 も 、Quadrant法 の 変 法 に 基 づ い て 客 観 的

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に 測 定 し た(Kawaguchi et al., 2013; Tsukada et al., 2008)。ま ず は 、大 腿 骨 側 と 同 様 に 、 脛 骨 側 に お け る 各 帯 の 中 心 点 を 求 め 、 測 定 用 の 格 子 状 グ リ ッ ド を 重 ね 合 わ せ た 。そ の 際 に は 、脛 骨 の 近 位 表 面 の 頭 側 、尾 側 、 内 側 、 外 側 の 骨 端 に 接 す る よ う に グ リ ッ ド を 配 置 し た 。 さ ら に 、 グ リ ッ ド にX-Y座 標 軸 を 設 置 し 、 各 帯 の 中 心 点 の 位 置 を 客 観 的 に 計 測 し た

Kawaguchi et al., 2013)( 図1-3B)。

1.2.4. 膝 関 節 可 動 時 に お け る 各 帯 内 の 線 維 束 の 配 列 の 変 化

最 初 に 、過 去 の ヒ ト で の 報 告 に し た が っ て(Hara et al., 2009)、CrMB お よ び CdLB の 靱 帯 線 維 を 、 頭 側 、 中 央 内 側 、 中 央 外 側 、 尾 側 の 4 部 分 に 等 分 割 し た ( 図 1-4)。 各 帯 の 分 割 は 、 大 腿 骨 と 脛 骨 を 捻 転 さ せ て 各 帯 を 直 線 状 に し て か ら 、 キ ャ リ パ ー を 用 い て 行 っ た 。 次 い で 、 膝 関 節 の 角 度 が 180°135°90°40°の 時 の 各 線 維 束 の 走 行 お よ び 配 列 の 変 化 を 写 真 で 記 録 し た 。 本 検 討 で は 、 大 腿 骨 の 近 位 3 分 の 1 と 遠 位 3 分 の 1 の 位 置 に お け る 骨 幅 の 中 心 点 を 結 ん だ 線 と 、 脛 骨 の 近 位 3 1 と 遠 位 3 分 の 1 の 位 置 に お け る 骨 幅 の 中 心 点 を 結 ん だ 線 が 交 わ っ

(20)

al., 2017; 久 保 ら, 2017)、 荷 重 測 定 器 (ZTS-20N; 株 式 会 社 イ マ ダ 、 豊 橋 市 、 愛 知 県 、 日 本 ) を 使 用 し て 、 靱 帯 線 維 の 張 力 を 客 観 的 に 測 定 し た ( 図 1-5)。 測 定 プ ロ ト コ ー ル は 、 他 の ビ ー グ ル 犬 の 膝 関 節 を 用 い た 予 備 的 検 討 を 基 に 決 定 し た 。 最 初 に 、 大 腿 骨 と 脛 骨 の 角 度 が 180°と な る よ う に 固 定 し た( 図 1-5)。ま ず は 、CrCL の 靱 帯 線 維 に フ ッ ク を か け て 、 垂 直 方 向 に 0.1N で 牽 引 し た 後 に 0 補 正 を行 った。 次 い で 、 垂 直 方 向 に 1 mm 牽 引 し 、CrCL 全 体 、CrMB 全 体 、CdLB 全 体 、 そ れ ぞ れ の 帯 の 各 線 維 束 の 張 力 を 測 定 し た( 図1-5)。さらに、大 腿 骨 と脛 骨 の角 度 が、

135°90°40°となる位 置 においても、同 様 に測 定 を行 った。全 ての測 定 値 は、

大 腿 骨 と脛 骨 の角 度 が 180°における CrCL の張 力 を 100%として、その比 率 を算 出 することで評 価 した。

1.2.6. 統 計 学 的 分 析

本 検 討 で 得 ら れ た デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 と し て 示 し た 。 結 果 の 解 析 に は 、 統 計 分 析 ソ フ ト ウ ェ ア (GraphPad Prism6; GraphPad Software Inc.La Jolla、 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 、 米 国 ) を 使 用 し た 。 得 ら れ た デ ー タ は 、二 元 配 置 分 散 分 析(two-way ANOVA)を 用 い て 比 較 し 、 事 後 検 定 と し て Tukey の 多 重 比 較 を 行 っ た 。CrMB お よ び CdLB の 付 着 部 の 面 積 比 の 平 均 値 は 、 対 応 の な い t 検 定 を 行 っ て 比 較 し た 。本 検 討 では、p <0.05 をもって有 意 差 ありと判 定 した。

(21)

前内側帯

後外側帯

(22)

1-2 各帯の付着部の面積比の算出方法

各帯の付着部の面積比は、大腿骨外側顆の内側面および脛骨の近位関節面に 垂直な位置で写真を撮影し、イメージングソフトウェア(Image J)を用い て客観的に計測した。

A)大腿骨側では、前内側帯(CrMB: 赤色)と後外側帯(CdLB: 青色)の 付着部の面積を、関節軟骨の領域を除いた大腿骨外側顆内側面の面積(青 色の透明領域)で除することによって面積比を算出した。(B)脛骨側では、

前内側帯(CrMB: 赤色)と後外側帯(CdLB: 青色)の付着部の面積を、脛 骨の内側顆、脛骨粗面、外側顆で取り囲む近位関節面の面積(青色の透明 領域)で除することによって面積比を算出した。

前内側帯

前内側帯

後外側帯 後外側帯

A B

(23)

1-3 各帯の付着部における中心点の位置の測定方法

前内側帯(CrMB)と後外側帯(CdLB)の付着部における中心点の位置を

Quadrant法またはその変法を用いて測定した。

(A)大腿骨側の測定方法:測定用の格子状グリッドを顆間切痕の近位端

Blumensaat’s line)、大腿骨顆の頭側、尾側、遠位側の関節軟骨縁に接する

ように配置し、上図の座標軸を用いて測定を行った。(B)脛骨側の測定方 法:脛骨の近位表面の頭側、尾側、内側、外側の骨端に接するようにグリッ ドを配置し、上図の座標軸を用いて測定を行った。

A B

(24)

頭側 尾側

中央内側 中央外側 前内側帯

頭側 尾側

中央内側 中央外側 後外側帯

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1-5 靱帯線維の張力の測定方法

本検討では、荷重測定器(ZTS-20N; 株式会社イマダ)を使用して、前十字 靱帯(CrCL)全体、前内側帯(CrMB)全体、後外側帯(CdLB)全体、両 帯の各線維束の張力を客観的に測定した。

A)実際に測定を行っているところ、(B)模式図。

A B

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1.3. 結 果

1.3.1. CrCL の 大 腿 骨 側 お よ び 脛 骨 側 の 付 着 部 領 域 の 形 態 の 観 察

ヒ ト ACL の 大 腿 骨 側 の 付 着 部 で 認 め ら れ 、 扇 状 に 線 維 が 広 が る fan-like extension fiberMochizuki et al., 2014、犬 では確 認 すること ができず、全 頭 で付 着 部 が特 徴 的 な二 辺 からなる矢 尻 状 の形 態 を呈 してい た( 図 1-6。また、ヒトでは膝 関 節 を屈 曲 させていくと、ACL の付 着 部 の近 傍 に折 り 返 しが認 められるが(Mochizuki et al., 2014; Mochizuki et al., 2006、本 検 討 では全 てで明 確 な折 り 返 しは観 察 できなかった。さらに、ヒ ト で 大 腿 骨 側 の 付 着 部 前 方 に 認 め ら れ 、関 節 鏡 視 下 で ACL の 解 剖 学 的 再 建 術 を 行 う 際 の 目 印 と な る resident’s ridge と 称 さ れ る 骨 隆 起 は

Shino et al., 2010)、 全 て の 犬 に お い て 存 在 せ ず 、 大 腿 骨 外 側 顆 の 内 側 面 は 平 坦 で あ っ た 。

脛 骨 側 に お い て は 、CrMB が 顆 間 領 域 の 頭 側 に 広 く 付 着 し て お り 、 CdLB CrMB の す ぐ 尾 側 に 付 着 し て い た 。 膝 関 節 を 可 動 さ せ て も 、 脛 骨 側 の 付 着 部 に 顕 著 な 形 態 学 的 な 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。

1.3.2. CrMB CdLB の 付 着 部 の 面 積 お よ び 中 心 点 の 位 置

大 腿 骨 側 における、CrMB または CdLB の付 着 部 の面 積 を、関 節 軟 骨 領 域 を 除 い た大 腿 骨 外 側 顆 内 側 面 の面 積 で除 した値 は、各 々18.5±2.0% 16.9±2.7%であった(図 1-7A)。脛 骨 側 で は 、CrMB ま た は CdLB の 付 着

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部 の 面 積 を 、 脛 骨 の 内 側 顆 、 脛 骨 粗 面 、 外 側 顆 で 取 り 囲 む近 位 関 節 面 の 面 積 で除 し た 値 は 、各 々8.5±1.3%お よ び 7.5±2.0%で あ っ た ( 図 1-7B

大 腿 骨 側 における CrMB 付 着 部 の中 心 点 は、大 腿 骨 顆 尾 側 縁 から頭 側 に向 かって 25.7±2.1%、顆 間 切 痕 の 近 位 端(Blumensaat’s line)から遠 位 側 に向 かって 35.8±2.3%の位 置 に存 在 していた(図 1-8A)。一 方 で、CdLB 着 部 の中 心 点 は、大 腿 骨 顆 尾 側 縁 から頭 側 に向 かって 32.3±2.8%顆 間 切 痕 の 近 位 端(Blumensaat’s line)から遠 位 側 に向 かって 52.5±4.2% の位 置 にあり、CrMB 付 着 部 の中 心 点 の位 置 よりもやや頭 遠 位 側 に存 在 していた

( 図 1-8A )

脛 骨 側 におけるCrMB付 着 部 の中 心 点 の位 置 は、脛 骨 の内 側 縁 から外 側 に向 かって 42.6±1.6%、頭 側 縁 から尾 側 に向 かって 53.4±2.8%の位 置 に存 在 していた。一 方 で、CdLB 付 着 部 の中 心 点 は、脛 骨 の内 側 縁 から外 側 に向 かって 42.0±1.5%、頭 側 縁 から尾 側 に向 かって 64.3±2.3%の位 置 にあり、

CrMB 付 着 部 の中 心 点 の位 置 よりもやや尾 側 に存 在 していた(図 1-8B)。

本 検 討 では、12 肢 中 8肢 で CrMBお よ び CdLB 以 外 の第 三 の帯 ともいえ

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1.3.3. 膝 関 節 可 動 時 に お け る 各 帯 内 の 線 維 束 の 配 列 の 変 化

膝 関 節 を 伸 展 位 か ら 屈 曲 さ せ て い く に し た が っ て 、 全 て の CrCL 線 維 束 は 外 旋 し て い っ た 。 膝 関 節 の 角 度 が 180°の 時 に は 、CrMB お よ CdLB 内 の 各 線 維 束 は 平 行 に 走 行 し て い た が 、 膝 関 節 を 屈 曲 さ せ て い く に つ れ て 、CrMB お よ び CdLB 内 の 各 線 維 束 の 配 列 は互 いに交 差 す るように捻 転 していく様 子 が観 察 された( 図 1-10A, B)。膝 関 節 を完 全 に伸 展 させた時 には、CrMB の全 ての線 維 束 が CdLB の線 維 束 よりも頭 側 に位 置 していた。しかし、膝 関 節 を屈 曲 させるにしたがって、大 腿 骨 側 の CrMB CdLB の各 線 維 束 の付 着 部 の位 置 関 係 は逆 転 し、膝 関 節 を完 全 に屈 曲 させ た時 には、CdLB の 方 が CrMB よ り も頭 側 に位 置 していた( 図 1-10C

1.3.4. 膝 関 節 可 動 時 に お け る 靱 帯 線 維 の 張 力 の 変 化

CrCL全 体 と CrMB全 体 の張 力 は、いずれの膝 関 節 の角 度 においても明 ら かな変 化 は認 められなかった。一 方 で、CdLB 全 体 の張 力 は、膝 関 節 が屈 曲 するにつれて有 意 に低 下 していった(p <0.05)( 図 1-11A)。

CrMB 内 の各 線 維 束 の張 力 を比 較 したところ、いずれの関 節 の角 度 に おいても、中 央 部 の 2 つの線 維 束 が、その他 の線 維 束よ り も一 貫 して高 い 数 値 を示 した。一 方 で、頭 側 と尾 側 の線 維 束 の張 力 は、伸 展 位 では有 意 に 低 かったものの(p <0.05)、屈 曲 するにつれて上 昇 し、次 第 に中 央 部 の 2 の線 維 束 の張 力 に近 づいていった( 図 1-11B)。

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CdLB の 各 線 維 束 の 張 力 は 、 膝 関 節 を 屈 曲 す る に し た が っ て 減 少 し て い っ た 。 中 央 外 側 と 尾 側 の 線 維 束 は 、 い ず れ の 角 度 で も 中 央 内 側 と 頭 側 の 線 維 束 に 比 べ 有 意 に 高 い 張 力 を 示 し た (p <0.05)( 図 1-11C)。

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1-6 大腿骨側の付着部領域の形態

(A)犬では、ヒトで認められるfan-like extension fiberは認め られず、二辺からなる矢尻状の特徴的な形態を呈していた

(矢頭)。(B)ヒトで観察されるfan-like extension fiber

(矢頭)の模式図。

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1-7 各帯の付着部の面積

A)大腿骨側における前内側帯(CrMB: 赤色)と後外側帯(CdLB: 青色)

の付着部の面積比。(B)脛骨側における前内側帯(CrMB: 赤色)と後外側

帯(CdLB: 青色)の付着部の面積比。前内側帯(CrMB)の付着部の面積は、

大腿骨側および脛骨側のいずれにおいても、後外側帯(CdLB: 青色)の付 着部の面積より大きい傾向が認められた。

A B

大腿骨側 脛骨側

前内側帯

前内側帯

後外側帯

後外側帯

面積比

前内側帯 18.5±2.0%

後外側帯 16.9±2.7%

面積比

前内側帯 8.5±1.3%

後外側帯 7.5±2.0%

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1-8 大腿骨側および脛骨側における各帯の中心点の位置

(A)大腿骨側:前内側帯(CrMB: 赤色)付着部の中心点の位置は、後外側帯

CdLB: 青色)よりやや尾近位側に存在していた。(B)脛骨側:前内側帯(赤

色)付着部の中心点の位置は、後外側帯(青色)よりも頭側に存在していた。

A B

大腿骨側 脛骨側

前内側帯 後外側帯

前内側帯

後外側帯

外側 内側

内側縁から 頭側縁から 前外側帯 42.6±1.6% 53.4±2.8%

後内側帯 42.0±1.5% 64.3±2.3%

尾側縁から Blumensaat’s lineから 前外側帯 25.7±2.1% 35.8±2.3%

後内側帯 32.3±2.8% 52.5±4.2%

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1-9 前十字靱帯(CrCL)の前内側帯(CrMB)と後外側帯(CdLB)以外に認め られた帯(矢頭)

A)膜状、(B)線維状

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1-10 膝関節可動時における各帯内の線維束の配列の変化

A)前内側帯(CrMB)、(B)後外側帯(CdLB)、(C)各帯内の線維 束の配列の変化を示した模式図 Cでは黄色から赤色の暖色系がCrMB 線維束、紺色から緑色の寒色系がCdLBの線維束。

膝関節を屈曲させていくにつれて、各帯内の線維束の配列は互いに交差す るように捻転していく様子が観察された。また、膝関節を屈曲させるにし たがって、大腿骨側のCrMBCdLB内の各線維束の付着部の位置関係は逆 転し、膝関節を完全に屈曲させた時には、CdLBの方がCrMBよりも頭側に 位置している様子が確認できた。

Cとしてイラストの図を復活させて下さい

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前十字靱帯(CrCL)全体 前内側帯(CrMB)全体 後外側帯(CdLB)全体

尾側 頭側 中央内側 中央外側

尾側 頭側 中央内側 中央外側

膝関節の角度

膝関節の角度

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1.4. 考 察

本 章 で は 、以 下 の 項 目 を 明 ら か に す る こ と が で き た:(1)犬 の CrCL の 付 着 部 領 域 の 解 剖 は 、fan-like extension fiber resident’s ridge が 認 め ら れ な い な ど 、ヒ ト の 付 着 部 領 域 の 形 態 と は 明 ら か に 異 な っ て い た 。

2CrMB の 付 着 部 は 、大 腿 骨 側 に お い て は CdLB の 付 着 部 の 尾 近 位 側 に 位 置 し 、脛 骨 側 に お い て はCdLBの 付 着 部 の 頭 側 に 位 置 し て い た 。

3)膝 関 節 可 動 時 に 、CrMB CdLB の 各 線 維 束 は 複 雑 に 捻 転 し て い っ た 。(4CrMB CdLB の 各 線 維 束 の 張 力 は 、 膝 関 節 の 角 度 に よ っ て 有 意 に 変 化 し て い た (p <0.05)。

犬 に お い て 、CrCL の 付 着 部 領 域 の 形 態 を 詳 細 に 検 討 し た 報 告 は 数 え る 程 し か な い (Reichert et al., 2013; Proffen et al., 2012; Heffron and Campbell, 1978; Arnoczky and Marshall, 1977)。本 検 討 で は 、全 て の 犬 に お い て 、 大 腿 骨 側 の CrCL の 付 着 部 が 、 限 局 さ れ た二 辺 からなる矢 尻 状 の 形 態 を 呈 し て い た 。 ま た 、 い ず れ の 犬 に お い て も 、 ヒ ト で 認 め ら れ fan-like extension fiber や、膝 関 節 屈 曲 時 に 生 じ る 靱 帯付 着 部 近 傍 の 折 り 返 し は 観 察 で き な か っ た 。 さ ら に 、 犬 に お い て は 、 ヒ ト で 関 節 鏡 視 下 に て ACL の 解 剖 学 的 再 建 術 を 行 う 際 の 重 要 な 目 印 と な る resident’s ridge は 存 在 せ ず (Iwahashi et al.,2010; Shino et al., 2010)、

CrCL の 付 着 部 領 域 は 平 坦 な 表 面 を 呈 し て い た 。 こ れ ら の 所 見 に よ り 、 犬 に お い て 解 剖 学 的 再 建 術 を 実 施 す る 際 の CrCL の 付 着 部 の ラ ン ド マ

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ー ク は 、 ヒ ト で 使 用 さ れ る も の と は 異 な る と い う こ と が 実 証 さ れ た 。 最 近 に な り 、 犬 に お い て も 、 い く つ か の 新 た な CrCL 再 建 術 が 報 告 さ れ て い る が (Biskup et al., 2017; Ho-Eckart et al., 2017; Biskup et al., 2015; Snow et al., 2010)、 そ の ほ と ん ど が 一 重 束 再 建 術 で あ り 、 臨 床 例 で は 未 だ 満 足 の い く 結 果 が 得 ら れ て い な い(Biskup et al., 2017)。こ れ ら の 再 建 術 が 効 果 的 で な い 理 由 の ひ と つ と し て 、 犬 の CrMB CdLB の 機 能 解 剖 が 十 分 に 明 ら か に な っ て い な い 点 が 挙 げ ら れ る 。

過 去 に 、 犬 の CrCL 全 体 の フ ッ ト プ リ ン ト に 関 す る 形 態 学 的 研 究 は 行 わ れ て い る が (Bolia et al., 2015; Reichert et al., 2013; Proffen et al., 2012; Arnoczky and Marshall, 1977)、CrMB CdLB 2 つ の 帯 に 分 け て フ ッ ト プ リ ン ト を 客 観 的 に 検 証 し た 報 告 は 存 在 し な い 。本 検 討 で は 、 犬 の 大 腿 骨 側 と 脛 骨 側 に お け る CrMB CdLB の フ ッ ト プ リ ン ト を 初 め て 客 観 的 に 示 す こ と が で き た 。 こ れ ら の 結 果 は 、 犬 に お い て 膝 関 節 内 で の 解 剖 学 的 再 建 術 を 正 確 に 実 施 す る た め の 基 準 に な る と 思 わ れ る 。 し か し 、犬 で 解 剖 学 的 二 重 束 再 建 術 を 実 施 す る た め に は 、CrCL を 構 成 す る 2 帯 の 各 付 着 部 へ 線 維 束 を 正 確 に 設 置 す る 技 術 も 要 求 さ れ る た め 、

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今 回 認 められた帯 の詳 細 を理 解 するためには、さらなる検 討 を重 ねる必 要 が ある。

過 去 の 報 告 にお い て、 犬 の CrCL は、 膝 関 節 が 屈 曲 する に したが っ て、

CrMB CdLB を巻 き込 むように捻 転 することが示 されている(Arnoczky and Marshall, 1977; Singleton et al., 1957)。し か し 、現 在 ま で に 、CrCL を構 成 する各 帯 内 の線 維 束 の配 列 が、膝 関 節 可 動 時 に変 化 するか否 かは明 らか になっていない。本 検 討 では、膝 関 節 可 動 時 に、CrMB CdLBの各 線 維 束 は同 じ配 列 を維 持 しておらず、屈 曲 するにしたがってお互 いが交 差 するように 捻 転 することを犬 で初 めて実 証 した。これらの結 果 は、CrCLの 各 帯 の 機 能 を 理 解 す る の に 重 要 な だ け で な く 、 膝 関 節 内 で 解 剖 学 的 再 建 術 を 実 施 す る 際 の グ ラ フ ト の 設 置 方 法 を 考 慮 す る 上 で も 、 き わ め て 意 義 の あ る 情 報 を 得 る こ と が で き た 。 犬 の CrCL の 各 線 維 束 は 複 雑 に 捻 転 し な が ら 機 能 し て い る こ と か ら 、CrCL の 解 剖 学 的 再 建 術 を 行 う 場 合 、設 置 す る グ ラ フ ト は 二 重 束 で は 十 分 で な い 可 能 性 も 示 唆 さ れ た 。 し た が っ て 、 各 帯 の 機 能 を 詳 細 に 理 解 す る た め に は 、さ ら な る 検 討 が 必 要 で あ ろ う 。

過 去 の 報 告 に お い て 、 犬 の CrCL の 強 度 は 引 張 試 験 に よ っ て 測 定 さ れ る こ と が 多 か っ た が (Comerford et al., 2005)、 最 近 の 生 体 力 学 的 研 究 で は 、 様 々 な 力 を 加 え た 際 の 膝 関 節 の 前 後 方 向 の 安 定 性 を 評 価 し た も の が 増 え て き て い る(Ho-Eckart et al., 2017; Snow et al., 2010)。本 検 討 で は 、 大 腿 骨 と 脛 骨 に 付 着 し て い る CrCL の 靱 帯 線 維 の 張 力 を 、 ヒ

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ト の 研 究 で 用 い ら れ て い る 方 法 に 基 づ い て 、 荷 重 測 定 器 を 使 用 し て 直 接 的 に 測 定 し た (Fujii et al., 2017; 久 保 ら, 2017)。 本 検 討 で は 、 様 々 な 膝 関 節 の 角 度 に お け る CrMB CdLB の 張 力 の 変 化 が 確 認 で き た だ け で は な く 、 各 帯 内 の 張 力 の 差 も 客 観 的 に 把 握 す る こ と が で き た 。 ま た 、 過 去 の 報 告 と 同 様 に 、 膝 関 節 伸 展 時 に は 両 帯 が 緊 張 し 、 屈 曲 時 に は 、CrMB の み が 緊 張 す る こ と を 客 観 的 に 再 現 す る こ と が で き た

Heffron and Campbell, 1978; Arnoczky and Marshall, 1977)。CrMB 全 体 CdLB 全 体 の 張 力 を 比 較 し た と こ ろ 、全 て の 膝 関 節 の 角 度 に お い て 、 一 貫 し て CrMB 全 体 の 方 が 高 い 傾 向 が 認 め ら れ た 。 さ ら に 、 大 腿 骨 側 と 脛 骨 側 の CrMB の 付 着 部 の 面 積 は 、CdLB よ り も 大 き か っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、犬 の CrCL の 張 力 に は 、CrMB が 大 き く 貢 献 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。

膝 関 節 を 可 動 さ せ た 時 に 、CrMB の 中 央 内 側 お よ び 中 央 外 側 の 線 維 束 は 常 に 緊 張 し て い た た め 、 こ れ ら の 線 維 束 が CrMB に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 示 さ れ た 。 一 方 で 、CdLB の 張 力 は 、 中 央 外 側 と 尾 側 の 線 維 束 に よ っ て 緊 張 が 維 持 さ れ て い る こ と が 明 ら か に な

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本 検 討 に は 、 研 究 手 法 に い く つ か の 限 界 が あ る 。 本 検 討 で は 、 健 常 ビ ー グ ル 犬 の み を 使 用 し て お り 、調 査 し た 肢 は 全 て 屍 体 か ら 採 取 し た 。 そ の た め 、 犬 の 品 種 間 で の 差 異 や 、 生 体 と の 違 い も 考 慮 す る 必 要 が あ る 。 本 検 討 で 行 っ た 手 法 は 、 大 腿 骨 内 側 顆 や 軟 部 組 織 が 除 去 さ れ て い る た め 、正 常 な 生 体 内 の CrCLと 生 体 力 学 的 に 相 違 す る 可 能 性 が あ る 。 ま た 、膝 関 節 の 角 度 と し て 、本 検 討 で は 180°で の 計 測 を 行 っ て い る が 、 そ れ は 生 理 学 的 に 膝 関 節 を 完 全 に 伸 展 さ せ た 際 の 角 度 よ り も 大 き い 。 こ れ ら の 理 由 か ら 、 本 検 討 で 測 定 し た 靱 帯 線 維 の 張 力 は 、 本 来 の 生 理 的 な 張 力 と は 異 な る 可 能 性 が あ る 。 本 検 討 で は 、 靱 帯 線 維 の 張 力 を 測 定 す る 際 に 一 部 の 帯 や 線 維 束 を 切 除 し た 状 態 で 計 測 を 行 っ た が 、 そ れ ら が 存 在 し て い た 時 に は 靱 帯 線 維 間 の 相 互 作 用 に よ っ て 計 測 値 が 異 な っ て い た か も し れ な い 。 し か し 、 本 検 討 で は 、 同 じ 条 件 で 靱 帯 張 力 を 測 定 し た た め 、 様 々 な 膝 関 節 の 角 度 で の 各 帯 と 各 線 維 束 の 張 力 を 比 較 す る こ と は 可 能 で あ っ た 。 犬 で CrCL の 解 剖 学 的 再 建 術 を よ り 正 確 に 行 う た め に は 、CrCL の 機 能 解 剖 に 関 す る さ ら な る 研 究 が 必 要 で あ ろ う 。

本 検 討 で は 、 犬 の CrMB CdLB の 付 着 部 位 を 客 観 的 に 示 す こ と が で き た 。ま た 、犬 の CrCL は 伸 展 時 に は 両 帯 が 緊 張 し 、屈 曲 時 に は CrMB の み が 緊 張 す る こ と が 客 観 的 に 再 現 す る こ と が で き た 。さ ら に 、CrMB CdLB の 張 力 の 差 異 や 、 関 節 可 動 に 伴 う 各 線 維 束 の 張 力 の 強 弱 も 確 認 す る こ と が で き 、 新 た な 知 見 を 得 る こ と が で き た 。 本 検 討 は 、 ビ ー

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グ ル 犬 で の 検 証 で は あ る も の の 、 こ れ ら の 結 果 は 犬 に お け る CrCL 生 体 力 学 の 理 解 に 貢 献 す る ば か り で な く 、 膝 関 節 内 で の CrCL の 解 剖 学 的 再 建 術 を 実 施 す る た め の 基 礎 的 な デ ー タ と し て 大 い に 役 立 つ も の と 思 わ れ る 。

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第二章

犬の後十字靱帯の前外側帯および後内側帯の機能解剖

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2.1. 緒 言

犬 の 後 十 字 靱 帯 (caudal cruciate ligamentCaCL) は 、 前 十 字 靱 帯

cranial cruciate ligamentCrCL)よ り も 少 し 太 く 、脛 骨 の 尾 側 へ の 変 位 と 内 旋 を 制 御 し 、膝 関 節 の 過 伸 展 を 防 ぐ と さ れ て い る(Arnoczky and Marshall, 1977)。CaCL の 断 裂 は 、し ば し ば 重 度 の 外 傷 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ 、 一 般 的 に 犬 で は 膝 関 節 の 他 の 靱 帯 損 傷 と 同 時 に 発 生 し 、 複 合 靱 帯 損 傷 と し て 生 じ る こ と が 多 い(Vasseur, 2003; Johnson and Olmstead, 1987)。

過 去 に 、CaCL を 実 験 的 に 切 離 し た と こ ろ 明 ら か な 跛 行 は 生 じ な か っ た と い う 報 告 が あ る が (Johnson and Olmstead, 1987)、 一 般 的 に CaCL を 断 裂 し た 際 に は 後 肢 の 跛 行 が 一 貫 し て 認 め ら れ 、 軽 度 な 跛 行 か ら 完 全 に 体 重 負 重 の で き な い 重 度 な 跛 行 に 至 る ま で 様 々 な 臨 床 徴 候 を 呈 す る (Vasseur, 2003)。 犬 の CaCL 断 裂 の 外 科 的 治 療 法 と し て は 、 膝 関 節 の 安 定 化 を 目 的 と し て 関 節 包 外 制 動 術 が 行 わ れ て き た が (DeCamp et al., 2016; DeAngelis and Betts, 1973)、 現 在 の と こ ろ 満 足 の い く 結 果 は 得 ら れ て い な い(DeCamp et al., 2016; Egger, 1990)。前 章 で も 述 べ た が 、

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の よ う な 背 景 が あ る の に も 関 わ ら ず 、 犬 の CaCL の 機 能 解 剖 に 関 す る 研 究 は ほ と ん ど 行 わ れ て お ら ず 、 そ の 詳 細 を 把 握 で き て い な い の が 現 状 で あ る 。

一 方 で 、 医 学 領 域 に お い て は 、 後 十 字 靱 帯 ( posterior cruciate ligamentPCL;ヒ ト )の 機 能 解 剖 に 関 す る 研 究 が 数 多 く 行 わ れ て い る 。 PCL は 、 前 外 側 帯 (anterolateral bundleALB; ヒ ト ) と 後 内 側 帯

posteromedial bundlePMB;ヒ ト )で 構 成 さ れ て お り(Race and Amis, 1994; Girgis et al.,1975)、 膝 関 節 を 屈 曲 さ せ た 際 に は ALB が 、 伸 展 さ せ た 際 に は PMB が 緊 張 す る こ と が 明 ら か に な っ て い る (Harner et al.,1995)。 さ ら に 、PCL の 内 側 の 靱 帯 線 維 は 脛 骨 の 内 旋 を 、 外 側 の 靱 帯 線 維 は 脛 骨 の 外 旋 を 制 御 し て い る こ と も 実 証 さ れ て い る(Amis et al., 2003)。 そ し て 、PCL の 主 な 安 定 化 機 構 は 、ALB が 担 っ て い る こ と が 確 認 さ れ て い る (Race and Amis, 1994)。

犬 の CaCL も 、ヒ ト と 同 様 に 、前 外 側 帯(craniolateral bundleCrLB と 後 内 側 帯 (caudomedial bundleCdMB) の 2 つ の 帯 で 構 成 さ れ て い る (Arnoczky and Marshall, 1977; Johnson and Hulse, 2002)。 過 去 に 、 大 腿 骨 側 と 脛 骨 側 に お け る CaCL 全 体 の 付 着 部 を 主 観 的 に 評 価 し た 報 告 は あ る が(Arnoczky and Marshall, 1977)、2 つ の 帯 に 分 け て 別 々 に 検 証 を 行 っ た 報 告 は 未 だ 存 在 し な い 。 犬 の CaCL は 、 膝 関 節 を 可 動 さ せ た 際 に 2 つ の 帯 が 互 い に 捻 じ れ 合 い 、 屈 曲 お よ び 伸 展 の 両 方 で 関 節 運 動

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を 支 え て い る こ と が 明 ら か に な っ て い る(Arnoczky and Marshall, 1977)。

し か し 、 膝 関 節 可 動 時 に お け る 各 帯 内 の 線 維 束 の 配 列 の 変 化 を 観 察 し た 報 告 は 見 当 た ら な い 。 現 在 ま で に 、 犬 の CaCL の 張 力 を 主 観 的 に 評 価 し た 研 究 は あ る も の の(Arnoczky and Marshall, 1977)、膝 関 節 可 動 時 に お け る 靱 帯 線 維 の 張 力 を 客 観 的 に 評 価 し た 報 告 は 存 在 し な い 。

そ こ で 、 本 章 で は 、CaCL の 機 能 解 剖 を 詳 細 に 把 握 す る 目 的 で 、(1 犬 の CaCL に お け る CrLB CdMB の 付 着 部 領 域 の 形 態 の 観 察 、(2 各 帯 の 付 着 部 の 面 積 と 位 置 の 客 観 的 な 測 定 、(3) 各 帯 内 の 線 維 束 の 走 行 と 膝 関 節 可 動 時 に お け る 配 列 の 変 化 に 関 す る 主 観 的 な 評 価 、(4) 膝 関 節 可 動 時 に お け る 靱 帯 線 維 の 張 力 の 客 観 的 な 測 定 を 行 っ た 。

2.2. 材 料 お よ び 方 法 2.2.1. 実 験 手 順

本 検 討 は 、 他 の 目 的 の た め に 安 楽 死 さ れ た 健 常 ビ ー グ ル 犬 ( 北 山 ラ ベ ス 、 伊 那 市 、 長 野 県 ) の 左 後 肢 、12 肢 を 使 用 し て 行 っ た ( 日 本 大 学 動 物 実 験 委 員 会:承 認 番 号 AP13B0042013 年 )。 本 検 討 で 使 用 し た ビ

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CaCLの 大 腿 骨 付 着 部 付 近 の 解 剖 学 的 特 徴 を 詳 細 に 観 察 し た(n=12)。

観 察 は 、2 人 の 研 究 者 に よ っ て 行 わ れ 、 そ れ ぞ れ が 解 剖 学 的 特 徴 を 確 認 し て 記 録 し た 。 本 検 討 で は 、 性 別 、 年 齢 、 体 重 に 関 係 な く 、 取 得 順 に 最 初 の 6 肢 で CrLB を 評 価 し 、 残 り の 6 肢 で CdMB を 評 価 し た 。

ま ず 、 最 初 の 6 肢 に お い て は 、CdMB の み を 付 着 部 で 切 除 し 、 大 腿 骨 側 と 脛 骨 側 に お け る CdMB の 付 着 部 の 面 積 お よ び 位 置 を 客 観 的 に 測 定 し た 。次 い で 、各 々 の 膝 関 節 の 角 度 に お い て 、CrLB の 形 態 的 特 徴 を 記 録 し た (n = 6)。 そ の 後 、CrLB 2 本 の 線 維 束 に 等 分 割 し 、 膝 関 節 可 動 時 に お け る 両 線 維 束 の 配 列 の 変 化 を 記 録 し た 。さ ら に 、CrLB 全 体 お よ び 各 線 維 束 の 張 力 を 客 観 的 に 測 定 し た (n=6)。

残 り の 6 肢 に お い て は 、CrLB を 切 除 し 、CrLB の 大 腿 骨 側 と 脛 骨 側 の 付 着 部 の 面 積 と 位 置 を 客 観 的 に 測 定 し た 。 次 い で 、CdMB 4 本 の 線 維 束 に 等 分 割 し 、膝 関 節 可 動 時 の 各 線 維 束 の 配 列 の 変 化 を 記 録 し た 。 さ ら に 、CdMB 全 体 お よ び 各 線 維 束 の 張 力 を 客 観 的 に 測 定 し た(n=6)。

最 後 に 、 残 存 し た CrLB ま た は CdMB を 切 除 し 、 各 々 の 付 着 部 の 面 積 と 位 置 を 測 定 し た( 各 n= 6、合 計 n=12)。な お 、CaCL 全 体 の 張 力 は 、 CrLB CdMB を 切 除 す る 前 に 測 定 し た 。

2.2.2. CaCL の 大 腿 骨 側 お よ び 脛 骨 側 の 付 着 部 領 域 の 形 態 の 観 察 過 去 に ヒ ト で 報 告 さ れ た 方 法 に し た が っ て(Hara et al., 2009)、CaCL

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の 大 腿 骨 付 着 部 領 域 の 形 態 を 観 察 し た 。 次 い で 、 大 腿 骨 内 側 顆 内 側 面 に お い て 、 ヒ ト で 認 め ら れ る medial intercondylar ridge お よ び medial bifurcate ridge と 呼 ば れ る 骨 隆 起 の 存 在 の 有 無 を 確 認 し た (n=12)。 こ れ ら の 骨 隆 起 は 、ヒ ト で 関 節 鏡 視 下 で PCL の 解 剖 学 的 再 建 術 を 行 う 際 の 目 印 と な っ て お り 、medial intercondylar ridge は 大 腿 骨 付 着 領 域 の 近 位 、medial bifurcate ridge CaCL の 前 方 と 後 方 の 付 着 部 を 分 け る 位 置 に 存 在 す る 骨 隆 起 で あ る (Lopes et al., 2008)。

脛 骨 付 着 部 領 域 の 形 態 も 、過 去 の ヒ ト で の 研 究 を 参 考 に し て(Tajima et al., 2009) 観 察 お よ び 記 録 し た (n=12)。

2.2.3. CrLB CdMB の 付 着 部 の 面 積 お よ び 中 心 点 の 位 置

本 検 討 で は 、過 去 の 犬 で の 報 告 に し た が っ て(Heffron and Campbell, 1978)、CaCL 2 つ の 帯 に 分 割 し 、 脛 骨 側 に お い て 頭 側 に 位 置 す る 帯 CrLB、 尾 側 に 付 着 し て い る 帯 を CdMB と 定 義 し た ( 図 2-1)。CrLB お よ び CdMB 以 外 の 帯 が あ れ ば 、 そ の 帯 の 形 態 と 走 行 を 記 録 し た 。

大 腿 骨 側 に お け る CrLB ま た は CdMB の 付 着 部 の 面 積 と 中 心 点 の 位

図  1-2  各帯の付着部の面積比の算出方法    各帯の付着部の面積比は、大腿骨外側顆の内側面および脛骨の近位関節面に 垂直な位置で写真を撮影し、イメージングソフトウェア( Image  J )を用い て客観的に計測した。          ( A )大腿骨側では、前内側帯( CrMB:  赤色)と後外側帯( CdLB:  青色)の 付着部の面積を、関節軟骨の領域を除いた大腿骨外側顆内側面の面積(青 色の透明領域)で除することによって面積比を算出した。( B )脛骨側では、 前内側帯( CrMB:  赤
図  1-3  各帯の付着部における中心点の位置の測定方法    前内側帯( CrMB )と後外側帯( CdLB )の付着部における中心点の位置を Quadrant 法またはその変法を用いて測定した。   ( A )大腿骨側の測定方法:測定用の格子状グリッドを顆間切痕の近位端 ( Blumensaat’s  line )、大腿骨顆の頭側、尾側、遠位側の関節軟骨縁に接する ように配置し、上図の座標軸を用いて測定を行った。( B )脛骨側の測定方 法:脛骨の近位表面の頭側、尾側、内側、外側の骨端に接するようにグ
図  1-5  靱帯線維の張力の測定方法    本検討では、荷重測定器( ZTS-20N;  株式会社イマダ)を使用して、前十字 靱帯( CrCL )全体、前内側帯( CrMB )全体、後外側帯( CdLB )全体、両 帯の各線維束の張力を客観的に測定した。    ( A )実際に測定を行っているところ、( B )模式図。A B
図  1-6  大腿骨側の付着部領域の形態
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参照

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