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韓国における私教育市場の実態分析 −学習紙市場を中心に−

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韓国における私教育市場の実態分析

−学習紙市場を中心に−

趙 命 来

は じ め に

1 9 8 0年代に日本のマーケティング研究者が「サービス経済化」といわれる 経済現象に,着目しはじめて久しいが,近年改めてサービスに関する議論が高 まりを見せつつある。それは,実践面からはサービスを基軸にした革新への期 待,そして理論面からはサービスを基軸としたマーケティング理論の再構築へ の期待,この両方を反映した議論である。いわゆる「サービス・イノベーショ ン」に関する議論が広範囲で行われている。

たとえば,実践面では,経済産業省編(2 0 0 6,2 0 0 7)における日本のサービ ス産業の生産性に関する議論,藤川・Kay(2 0 0 6)におけるサービス産業の新 たな需要の創造に関する議論,高室(2 0 0 5)における IBM ビジネスのソリュ ーション・ビジネスの展開に代表されるような製造業のサービス化に関する議 論,そして崔(2 0 0 4)における松下電器産業の流通系列店の展開に見られるよ うな流通サービスの本格的展開が論じられている。理論面では,Valgo and

Lusch(2 0 0 4)において「サービス・ドミナント・ロジック」という概念が提

示され,マーケティング理論へのパラダイムが従来の「モノ」を中心とした論 理からサービスが支配的な論理への転換について議論されている。

高室(2 0 0 8)は,このような「サービス概念を基軸とした理論的・実践的革 新」の動きを総じて「サービス・イノベーション」と呼び,サービス・イノベ ーション研究に関する主たる議論を次の3つ,すなわち,第1に,サービス産 業におけるイノベーション,第2に,製造業のサービス化,第3に,サービス

香 川 大 学 経 済 論 叢 第83巻 第3号 20年12月 15−1

(2)

概念を基軸とした理論枠組みの転換の可能性,に整理している。本稿は,これ らの論点のうち,サービス産業におけるイノベーションに関する議論に注目す ることにする。それは,近年のサービスへの着目点は, 「ペティ=クラークの 法則」として知られている「経済の成熟化に従い一国の産業構造においてサー ビス産業が増大する」という傾向に基づく議論ではなく,より積極的な経済成 長のエンジンとしての役割への期待が日本において非常に高いからである。

サービス産業のイノベーションの議論にあたり,日本のサービス産業の生産 性の低さが問題として指摘されている。たとえば,次のようなことが強調され ている。

「サービス産業は生産・雇用の両面で大きな役割を担っているが,その生産性を日米 欧で比較すると,製造業では日本が欧米を上回っている一方,サービス産業において はほとんどの分野で下回っている。これまで我が国経済の生産性上昇を担ってきた製 造業のシェアが縮小し,代わりにサービス産業が拡大する中で,サービス産業の労働 生産性がこのまま低位で推移すると,マクロ経済全体の生産性が伸び悩み,ひいては 我が国経済の競争力が低下し,活力が失われる恐れがある。&

また,経済産業省のもとに発足した「サービス産業のイノベーションと生産 性に関する研究会」は,表1の示している通りに,労働生産性の伸び率を先進 諸国と比較している。表1を見ると,サービス産業の生産性の伸びはいずれの 国においても製造業より低いが,特に日本では,製造業における生産性の伸び 率とサービス産業の伸び率の差が大きいことが指摘されている。こうした指標 に基づきつつ,今後の日本のサービス産業の1つの課題として生産性の向上が 強調されている

'

一方,これまで,特に市場との関わりにおけるイノベーションの問題を取り 扱ってきたのがマーケティング研究であり,マーケティング・マネジメント研

(1) 経済産業省編(26)p.7。

(2) 経済産業省編(26)においては,生産性の向上策として,モジュール化(サービス のマニュアル化),差別化(顧客接点の改善)の2つの方向性が提示されている。具体 的には,!経営理念の提供と十財育成,"ITの利活用,#サービス品質の標準化,$対 日直接投資の拡大,%規制改革が挙げられている。

−106− 香川大学経済論叢

(3)

労働生産性上昇率(15〜23)

ドイツ 3.3% 2.0% 1.7% 4.1%

サービス業 2.3% 1.3% 0.9% 0.8%

表1.製造業とサービス産業の労働生産性上昇率の各国 比較

出所:経済産業省編(27),p.5。

究の領域において,サービス産業を対象として独自に研究蓄積を深めてきた領 域がサービス・マーケティング研究でもある。にもかかわらず,サービス・イ ノベーションの議論の一つとしてサービス生産性の向上に関する課題は,必ず しも既存のマーケティング・マネジメント研究あるいはサービス・マーケティ ング研究と十分に接続されてきたとは言い難い。

そこで,サービス産業の生産性の向上の問題を捉える方向性について,既存 のマーケティング研究のアプローチから,改めて論点を提示することにしよ う。まず,生産の指標をどのように捉えるかについてである。上記の議論でい えば, 「生産性」は「労働生産性」を指している。しかし,経済産業省(2 0 0 6)

が指摘するように,労働コストの低減,すなわち,効率化だけを志向するもの であれば,そこには少なからず留意が必要であろう。つまり,単なる効率の追 求だけではなく,効果の追求をも視野に入れた革新こそがイノベーションには 求められるのである。それは, 「顧客に喜ばれる効果の追求を行い,その効果 的方法に合わせて,経営資源をうまく適応させつつ利益の源泉である効率的対 応に落とし込んでいくやり方」というマーケティング研究から提示された「効 果的効率主義」という概念の考え方である。

次に,先進諸国と日本の労働生産性の伸び率の差における原因の分析にあた り,経済産業省編(2 0 0 7)は日本サービス産業の特徴として小規模や非競争性 を強調する結論を示している。しかしながら,単なる効率的事業運営の是非と 合わせて,実際にその分析から直接示唆されるチェーン化や大規模化という方 向性の是非をどう捉えるのかという判断についても留意が必要である。

韓国における私教育市場の実態分析 −107−

(4)

以上のように,サービス・生産性向上に関する議論は,その効率を問う課題 であると同時に,社会経済レベル・個別企業のレベル両方の面での効果を問う 課題でもある。さらに,国際比較の指標なども含めて効果という概念をいかに 研究に組み込んでいくかが, サービス産業の生産性の是非を問う課題であろう。

このような問題意識を背景に,本稿は,サービス産業のイノベーション研究 の最初の一歩として,韓国における教育サービス市場の実態を明らかにし,今 後の研究の土台を構築することを目的にする。具体的な本稿の構成は以下のと おりである。まず,韓国における私教育市場を対象にマクロ的な視点でその実 態を把握する。次に,私教育の一つのタイプである学習紙の市場に焦点をあて て,マクロ的にその実態を確認する。さらに,学習紙市場における代表的な教 育サービス企業を紹介する。最後に,各企業が直面している問題点をサービ ス・マーケティング研究の視点から検討した後,サービス産業におけるサービ ス・イノベーション研究の今後の課題を明らかにする。

1.韓国における私教育市場

韓国の教育熱は入試制度などの教育政策の全般にわたって大きな影響を与え ながら韓国における教育を特徴づけてきた。このような教育熱は韓国の社会に いろいろな部門で否定的な影響を与えた。たとえば全人教育の失敗,学校教育 の非正常化などが誤った教育熱の結果として現れた。さらに,過剰教育熱は公 教育に満足できないまま私教育の拡大を招くことになった。このような私教育 は韓国社会を理解するに当たって,最も本質的であり,効果的な出発点である と同時に終着点と言っても過言ではない。

このような私教育の問題解決のために多様な対策が実行されたが,未だに十 分な成果が得られたとは言い難い。今までの主要な対策は私教育を直接誘発す ると見なされる制度を行政的,法的に撤廃あるいは禁止してきた。教育政策担 当者は教育政策を樹立するたびに,必ず考慮してきた項目の中の1つは,その 教育政策が私教育費の増減に与える効果についてであった。かつて小学校の教 育が私教育を誘発する原因であると見なされ,政府は中学校の無試験進学制を

−108− 香川大学経済論叢

(5)

導入した。また中学校の教育が私教育を誘発する原因であると見なされ,高校 平準化施策を使用した。ところが,結果的にはより私教育が盛んになってしま う結果をもたらすケースが多かった。

1. 1 私教育の概念

私教育の概念は明確に規定されていない。議論の焦点によって,教育制度に 対する対立概念として規定できる一方,公立学校教育に対する対立概念として も規定できる。つまり,制度が学校教育の効率性にある場合,私教育は個人的 に行う教育として規定することが有用であり,国と地方団体の教育に関する責 任と公立学校の効率性に議論の焦点を置く場合,私教育は私立学校教育として 規定することが有用である

!

本稿では,私教育を「学校授業が終わってから学校に残り,あるいは家や塾 などで学習する活動」としてとらえている。このような私教育の目的にはいく つかある。正規授業に追いつけない学生が個別指導として,音楽,美術,体 育,語学,科学などの特定の能力を身につけるための場合,入学試験に合格す るための個別指導,グループ指導を受ける場合などがある。韓国では最も一般 的でありながら,社会的に問題となっているのは,大学受験のための高校3年 生の,いわゆる過熱課外教育

"

である。過熱課外教育は,激しい入試競争,両親 の教育熱,出世主義的教育の風土,一部富裕層のエゴイズムなどの原因がある と分析されている。課外教育は学生の実力向上と大学受験にはメリットがある が,学校教育の軽視,貧富の格差に対する度外視,思考力低下,自習学習の能 力低下,家計負担の増加,公教育の度外視などの問題点も抱えている。

1. 2 私教育のタイプ

私教育は公教育の画一化とは違って,消費者のニーズによって,いくつかの

(3) 李ドンヒ(13),p.22。

(4) 課外教育は,大学生や課外教育専門教師によって,自宅などで個別,また少人数グル ープ指導を受ける私教育の一つである。

韓国における私教育市場の実態分析 −109−

(6)

タイプに分けることができる。個々人の能力開発及び特技・適性教育を担当す る芸術・体育塾,国語・英語・数学・科学を中心とした入試塾,1対1または 1対少人数グループの課外教育,学習紙などが代表的である。

〈芸術・体育塾〉

芸術・体育塾は大学入試,また芸術中学校,芸術高校の進学に絶対的な影響 を与える実技教育を指導する。学校の芸術・体育教育だけでは上級の学校への 進学準備が十分ではないため,多くの費用を払いながら,有名な私設塾に通っ ている。すでに多くのマスコミを通じてよく知られているが,私設塾の不正行 為,または前・現職大学教員の裏金を通じた不正行為は,現在芸術・体育教育 の問題点を現している。ところが一方,個々人の能力開発及び適性教育という プラス面もあることは否定できない。

〈入試塾〉

入試塾は国語・英語・数学・科学を中心にした,いわゆる私設教育機関の代 表的な形態である。画一化,一般化されている公教育とは違って,徹底的な能 力別授業として学習効果の最大化を追求するメリットがある一方,成績の上位 クラスの学生と下位クラスの学生との格差がますます離れてしまう逆効果も 持っている。学校授業の補助的な役割を担うという本来の趣旨とは異なり,次 に学習する内容を先行学習する役割へと移行することによって,学校授業の正 常化を損なうという指摘を受けている。また私教育費の増加の主犯として注目 されながらも成長が著しい。近年には全国的にチェーン展開する企業も現れて いる。このように入試塾は教育政策の変化に敏感に対応しながらも多くの変則 運営が発覚し,マスコミから非難の対象となっている半面,学校授業に満足で きない多くの学生の発展的な学習の現場であることは否定できない。

〈個人・グループ課外教育〉

課外教育は不足した学習の補充というより,より高い知識を得るために行う

−110− 香川大学経済論叢

(7)

1対1,または1対少人数グループの学習として,学習の成就度は一般的な塾 で教育を受けるより高い。しかし,経済的に裕福な層から始まった高額の課外 教育は他の層の私教育費の過剰な支出を誘発し,経済的な負担を与える。さら に国民経済にも深刻な影響を与え,国民の一体感形成に否定的な影響を与える という指摘もある。

〈学習紙(訪問)教育〉

学習紙の授業は最も低価格であるため,経済的な負担が少ない私教育のタイ プである。既存の学習紙のみ郵送した形態から,週1〜2回教師が派遣される 訪問授業の形態,または通信の発達により,インターネットや電話を通じた補 充学習が可能な形態として変わりつつある。

1. 3 私教育の規模

〈表1〉は,近年統計庁による韓国私教育の規模および参与率を表したもの である。2 0 0 8年の全国小学校,中学校,高校における学生の私教育費の全体 規模は,2 0兆9千億ウォンと推定できる

!

。前年の2 0兆4百億ウォンより4. 3%

増加した。学生1人当たりの月平均の私教育費は2 3万3千ウォンが支出され,

前年の2 0 0 7年より5. 0%増加した一方,私教育の参与率は7 5. 1%で,前年よ り1. 9%減った。さらに月平均私教育費の支出は一般高校が専門高校より高 く,私教育参与率は小学校が最も高い。

〈表2〉は,一般教科の類型別に月平均の私教育費及び参加率を表したもの である。2 0 0 8年の私教育費を見ると,学校級に関係なく一般教科私教育参加 類型の中で,塾に支出される私教育費が最も高い。上級学校に進学するほど,

(5) 統計庁は私教育費を「学習の補充のために支払う費用」として定義している。そこに は主要科目別塾費,個人及びグループ課外教育費,学習紙,インターネット及び通信講 義(EBS教育放送除く),一般教科及び論述科目関連の私教育費,芸術・体育及び趣味・

教養関連の私教育費,就職目的関連の私教育費などの項目が含まれている。さらに,事 業報告書で確認できない塾,課外教育などを含めると35兆ウォンに及ぶという分析も ある。

韓国における私教育市場の実態分析 −111−

(8)

個人課外教育及びグループ課外教育の支出が相対的に高い。小学校は塾,訪問 学習紙,グループ課外教育の順に,中学校は塾,個人課外教育,グループ課外 教育の順に,一般高校は塾,個人課外教育,グループ課外教育の順に支出比率 が高いことが分かる。

総私教育費

(億円,%)

学生1人当たり,月平均 私教育費(万ウォン,%)

私教育参与率

(%)

7年 8年 増減率 27年 8年 増減率 27年 8年 増減 0,0 29, 4. 2. 3. 5. 7. 5. −1. 小 学 校 12,8 14, 2. 2. 4. 6. 8. 7. −0. 中 学 校 6,0 58, 3. 3. 4. 3. 4. 2. −2. 2,1 46,2 10. 9. 0. 4. 5. 3. −1. 一般高校 8,5 42,3 11. 4. 4. 3. 2. 0. −1. 専門高校 3, 3, 4. 6. 6. 3. 3. 0. −3.

7年 8年 小学校 中学校 私教育費 2. 3. 4. 4. 0. 個人課外教育 2. 2. 1. 3. 5. グループ課外教育 1. 1. 1. 1. 2. 0. 2. 1. 6. 9. 訪問学習紙 2. 1. 3. 0. 0. インターネット及び通信 0. 0. 0. 0. 0. 参加率 7. 5. 7. 2. 3. 個人課外教育 9. 0. 7. 1. 6. グループ課外教育 1. 0. 3. 8. 9. 7. 7. 3. 5. 5. 訪問学習紙 5. 2. 9. 1. 2. インターネット及び通信 3. 3. 2. 3. 6.

〈表1〉 私教育の規模及び参与率

出所)統計庁(28),p.26。

〈表2〉 一般教科参加類型別月平均私教育費及び参加率 (単位:万ウォン,%)

出所)統計庁(28),p.37。

−112− 香川大学経済論叢

(9)

次に,私教育参加率を見ると,小・中・高に関係なく塾に参加する比率が最 も高い。上級学校に行くほど,個人課外教育に参加する比率が相対的に高く なっている。小学校は塾,訪問学習紙,グループ課外教育の順に,中学校は 塾,訪問学習紙,個人課外教育の順に,一般高校は塾,個人課外教育,グルー プ課外教育の順に参加している。

上級学校に進学するほど,個人・グループ課外教育の比率が高くなるのは,

大学入試に対応するために,より高い学習効果を求めるからであると考えられ る。一方,訪問学習紙は低学年に人気がある。また,私教育費が増加している 中で,訪問学習紙に対する費用が削減されていることは注目すべき点である。

〈表3〉は,1 9 8 5年から2 0 0 6年までの各年度別教育費の各項目別年間支出 額の推移である

!

。そして,その数値を〈表3〉の最後の列に提示されている各 年度別 GDP で割ると, 〈表4〉のように,教育費の各項目別支出額の GDP 対 比比率ができる。さらにそれを図表化したのが〈図1〉である。 〈図1〉を見 ると,最も特徴的な事実は1 9 8 0年代の後半以降,私教育の比重が急速な比率 で増加している点である

"

。GDP 対比私教育の比率をみると,1 9 8 5年0. 5 4%の 水準であったが,1 9 8 8年以降急激に上昇し,1 9 9 0年には1. 4 5%まで増加し た。5年間に0. 9 1%も増加したのである。これは1 9 8 0年代初から中盤にかけ て,政府の厳しい統制により,塾及び課外教育活動が徐々に緩和された結果と して現れたと考えられる。1 9 9 0年代の場合,GDP 対比私教育の比率は2%を 少し下回る水準で緩い増加を見せている

#

〈表3〉を見れば,その比率は1 9 9 0年の1. 4 5%から2 0 0 0年には1. 8 9%に,

(6) 南奇坤(26)が,統計庁の都市家計年報に基づいて時系列推移を分析したものであ る。納入金とは,学校に納入する諸経費のことである。そこには入学金,授業料,育成 費などが含まれている。

(7)〈図1〉を見ると,私教育費以外に,納入金や文房具GDP対比支出の比率が過去2 年間一定の水準が維持されてきたことが分かる。納入金のGDP対比支出の比率が2 年からやや低くなっている推移を見せているが,それは中学無償教育の実施により,中 学の納入金の比率が大幅に低くなったことに起因すると考えられる。

(8)〈表3〉を見ればわかるように,私教育費の絶対額は10年2.7兆円から20年10. 兆円に4.0倍が増加した一方,この期間のGDPは16.7兆円から58.7兆円に3.1倍 の増加が分かる。

韓国における私教育市場の実態分析 −113−

(10)

1 0年間で0. 3 4%増加したことが分かる。しかし,各年度別の数値を検討して 見ると, GDP 対比の私教育費の比率が1 9 9 0年代中盤までは継続して増加する 傾向を見せたが,1 9 9 8年を起点に大幅に下落したことが分かる。1 9 9 8年以降 韓国経済が IMF 経済危機による深刻な景気沈滞の状況を経験したことを考慮 すれば,私教育費の比率が景気に敏感に反応するという事実が分かる。このよ うな点から1 9 9 0年代を前半と後半に分けて見れば, GDP 対比の私教育比率は

納 入 金 文 房 具 教 材 費 私教育費 GDP 2, 1, 4, 2, 1, 8, 3, 1, 5, 3, 2, 1, 7, 5, 2, 1, 4, 6, 2, 2, 6, 8, 3, 3, 6, 0, 4, 1, 4, 7, 1, 4, 1, 5, 0, 3, 5, 1, 5, 0, 6, 6, 1, 7, 8, 9, 7, 2, 9, 8, 1, 8, 2, 9, 1, 0, 8, 2, 8, 4, 2, 9, 3, 8, 9, 4, 0, 3, 0, 8, 7, 1, 3, 2, 2, 9, 1, 3, 3, 4, 2, 0, 2, 8, 4, 4, 2, 1, 0, 9, 6, 2, 1, 2, 0, 8, 3, 1, 3, 7,

〈表3〉 教育費各項目別1年間支出額推計値と GDP (単位:10億ウォン)

出所)南奇坤(26),p.70。

−114− 香川大学経済論叢

(11)

納入金 文房具 教材費 私教育費 3. 00

(%)

(年度)

2. 50 2. 00 1. 50 1. 00 0. 50 0. 00

1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2006

1 9 9 0年から1 9 9 5年の間に0. 4 6%増加した一方,1 9 9 5年から2 0 0 0年の間では 逆に0. 0 2%下落したのである。

さらに, 〈表4〉をみれば,2 0 0 0年代に入ってから GDP 対比私教育費の比 率が早い速度で増加していることが分かる。この比率は2 0 0 0年の1. 8 9%から 2 0 0 5年には2. 7 7%と5年間で0. 8 8%が増加している。これは1 9 8 0年代後半 の増加率と似た推移となっている。しかし,各年度別の推移を検討してみる と,2 0 0 2年の1. 9 6%から2 0 0 3年2. 5 3%へと1年間に0. 5 7%増加したことが 確 認 で き る。一 方,そ の 期 間 の 教 材 費 の 比 率 は2 0 0 0年0. 3 1%か ら2 0 0 3年 0. 1 7%に0. 1 4%下落した。これは,2 0 0 3年を起点に都市家計調査が家計調査 に変更されるにつれて,各項目別の構成上にも変化が生じたからである。統計 庁によると,2 0 0 2年まで教材費として分類された塾の教材費が2 0 0 3年からは 私教育費に変更された。したがって,この資料に基づいて2 0 0 0年代以降の私 教育費の推移を比較する時には,このような資料上の変化を考慮する必要があ る。

以上,韓国における私教育の推移を検討してきたが,韓国の私教育規模は国 際的にも高い水準だと言われている。時系列で見ると, GDP 対比私教育費の

〈図1〉 GDP 対比教育費の各項目別支出額の比率

出所)南奇坤(26),p.70。

韓国における私教育市場の実態分析 −115−

(12)

支出比率は,1 9 8 0年代中盤以降継続して増加してきた。1 9 8 0年代後半期に私 教育費比率が大幅に増加するが,それは当時塾及び課外教育に対する禁止措置 が緩和された制度的な要因と関連があると考えられる。 IMF 経済危機による私 教育費の比率が大幅に下落したことを除いて,1 9 9 0年代以降現在まで GDP 対 比私教育費の比率は一定に増加している。結局,韓国の私教育費の規模は経済 的な要因による影響を受けることもあるが,経済成長と共に増加する様子を見

教 育 費 納 入 金 文 房 具 教 材 費 私教育費 2. 1. 0. 0. 0. 2. 1. 0. 0. 0. 2. 1. 0. 0. 0. 2. 1. 0. 0. 0. 3. 1. 0. 0. 1. 3. 1. 0. 0. 1. 3. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 1. 3. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 2. 4. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 1. 4. 1. 0. 0. 2. 4. 1. 0. 0. 2. 4. 1. 0. 0. 2. 4. 1. 0. 0. 2.

〈表4〉 GDP 対比教育費の各項目別支出額の比率 (単位:%)

出所)南奇坤(26),p.71。

−116− 香川大学経済論叢

(13)

せてきた。

これまで政府は私教育の規模を減らすためのいろいろな政策を実行してき た。しかし,今までの多くの政策は満足できる成果が得られなかった。これま での結果を見ると,韓国の私教育は経済成長の過程で規模が拡大されてきた。

教育投資による労働市場での補償心理が高いため,所得が高くなれば,子供に 対する投資志向が高くなると考えられる。このようなことからすれば,私教育 部門を人為的に抑制する政策は効果的ではない可能性がある。1 9 8 0年代後半 期に塾や課外教育禁止という人為的な措置が緩和され,私教育費が急激に増加 したという点は私教育の抑制政策の限界を意味している。

このように,韓国における私教育の拡大に従って,教育サービス市場は成長 してきた。すでに述べたように,私教育の各タイプはそれぞれ独自に成長して きた。次節では私教育のタイプの中で,学習紙市場及び学習紙ビジネスについ て述べることにしよう。

2.学習紙市場

2. 1 学習紙の概念

学習紙とは学習者が自律的に学習する,いわゆる自学自習に必要な道具,学 校の正規授業以外に学生に特定科目及び全科目の学力をつけるために提供され る一種の参考書の種類として書店で販売する自習書,また問題集ではなく直接 会社と消費者間に流通する学習媒介物,などとして定義されている。また学習 紙は,学生の学力を高めるための試験紙のような問題集として多くの参考書や 自習書のように書店を通るのではなく,会員制として学習紙の会社から消費者 に週刊,隔週刊,月刊の形で直接供給される流通経路をとるという点で一般の 学習参考書とは区別される。

このような学習紙は次のような特徴を持っている。第1に,学習紙は毎日,

週刊,隔週刊,月刊などの一定的な周期別に発行される。第2に,会社と消費

者間に直接つながる自己管理流通網を持っている。第3に,学習紙は公教育で

はなく,営利を目的とする私教育用である。第4は,学習紙は当科目の学習効

韓国における私教育市場の実態分析 −117−

(14)

学習紙

出版業の兼業企業の学習紙 全科目学習紙 学習紙専門企業の学習紙 科目別学習紙 全科目学習紙

〈表5〉 会社別学習紙のタイプ

出所:鞠善玉(25),p.61。

指導方法

訪問教師を通じた指導 郵便を通じた添削指導 電話を通じた指導

勉強部屋"を通じた指導

その他媒体物を通じた指導(コンピュ ーターなど)

〈表6〉 学習紙の指導形態

出所:鞠善玉(25),p.62。

果増進に伴う学力,また成績を伸ばすという明確な目標を持っている。

2. 2 学習紙の形態

学習紙の形態をまず会社の経営の形態に基づいて区分すると,大きく 〈表5〉

のように出版業を兼業しながら発行する学習紙と学習紙専門会社の学習紙の2 つに分類することができる。学習紙の専門会社の商品はほとんどが科目別形態 の学習紙が多い一方,出版業を兼業する会社の商品は全科目形態の学習紙が多 い

!

学習紙の指導及び会員管理においては,出版社を兼業する学習紙の会社は購 入後の管理がないまま,郵便を通じた配達に依存している。一方学習紙専門会 社は訪問教師を通じた学習紙の配達と学生の学習管理に積極的である。学習紙 の指導方式は〈表6〉のように分類ができる。

(9) 鞠善玉(25)p.1。

(10) 勉強部屋とは,塾とは違って,個人が自分の家や教習所を開き,学生を集めて運営す る方式である。不法的に運営するところもあるが,近年にはフランチャイズを通じて競 争力を持った勉強部屋が多く登場している。このような勉強部屋は従来の塾に対して脅 威の存在となっている。

−118− 香川大学経済論叢

(15)

科目別学習紙専門企業の多くが,教師の訪問を通じて学習紙を渡し,学習管 理を行い,学生のレベル及び進度などを調節する方法を採用していう

!

。郵便を 通じた指導方法は,郵便を通じて学習紙が渡され,学習した一部分を消費者が 学習紙会社に回送し,それに対する評価を再び消費者に返送するという形態と して,月刊,隔週刊で発行される全科目学習の場合が多い。近年には,電話や インターネットを利用して説明する指導方法も増えている。

2. 3 韓国における学習紙市場の成長

初期の学習紙は地域別に小規模で展開されていたが,1 9 7 2年アイテンプル

( Itempool )という会社の参入後,企業型学習紙に転換された。学習紙市場は

1 9 8 0年代に入ってから本格的に成長する。1 9 8 0年に課外教育禁止措置によっ て,中・高生の学習熱が学習紙に向かい始めたのである。この時,政府の集合 式課外教育禁止の措置により,学習紙の企業は教育方式を集合式から個別家庭 の訪問式へと転換した。1 9 8 0年代の前半までは中・高生の入試準備および授 業補充としての教材用の総合紙が主流であり,単に全科目に対する学習紙が週 刊,または月刊単位で各家庭に配達される水準であった。1 9 8 0年代の後半か らは,科目別に主に小・中学生を対象に家庭教師が訪問し,学習と進度を チェックする方式が導入され,本格的に学習紙市場が成長することになった。

1 9 9 0年代初は,英語や数学などの特定科目や特定の分野だけを集中的に攻 略する形態の学習紙企業も登場し始めた。また,父母の高い教育熱が早期教育 に移転され,就学前の幼児と小学生向けの学習紙市場が急成長した。それに 従って,学習紙は入試から基礎教育へとその役割が徐々に変わってきた。学習 方法にも変化が現れ,従来の学習紙以外に電話, FAX , CD などの多様な方法 の学習が導入され,コンピューターの普及に従って,マルチメディアを通じた 立体的な視聴覚教育が実施された。

1 9 9 7年韓国の IMF 経済危機の時にも学習紙の業界はあまり大きな影響を受

(11) また,この指導方法は韓国で独自に発展した形態であり,本稿はこの訪問学習紙市場 を想定して議論をする。

韓国における私教育市場の実態分析 −119−

(16)

けなかった。全体的な消費減少状況であったにもにもかかわらず,消費者の教 育費に対する削減は他のことに比べてそれほど大きくなかった。また,削減さ れた教育費の多くは高額の課外教育と塾であったため,他の私教育に比べ低価 格というメリットがある学習紙の市場は既存の私教育に替わる代替品として需 要が拡大された。消費者保護院によると,学習市場は1 9 9 0年代初には約3 0〜

5 0%の成長率を,1 9 9 0年代中盤から後半には2 0〜3 0%の成長率を見せた。と ころがこのように大きく成長してきた学習紙の市場が2 0 0 3年に入ってからそ の成長にブレーキがかかっている。2 0 0 2年には学習紙の市場全体の5割を占

デ ギ ョ

めいている大橋のヌンノピ,KUMON,ウンジン・ThinkBig,才能教育,いわ ゆる学習紙の Big4の売上高基準成長率は1 3. 4%の高い成長率を記録した一 方,2 0 0 3年には5. 5%しか増加されなかった

!

学習紙の市場はすでに成熟期に入り,また情報技術の発達といった環境変化 と顧客の期待水準が高くなった今は,今までと同様の量的な成長は難しいと言 われている。したがって,学習紙企業の質的成長を通じた競争力の確保が必要 な状況に置かれている。

2. 4 学習紙教育サービスの特性

教師の訪問型学習紙企業の構造は営業本部と本社で構成されている。本社は マーケティング,教材開発,顧客相談センター運営など営業本部を支援するプ ログラムを主に担当している。営業本部は支局といういくつかの事業所に分か れ,個々の支局には教師が配置されている。教師に学生の会員が与えられ,学 習指導を行うのである。

このように,教師の訪問指導を中心に学習サービスを提供する学習紙企業は 教材,指導教師,そして学習支援システムの3つの構成要素を通じて学習サー ビスを提供する。教材は学習を進行するに当たっての物理的な要素であり,訪 問教師が教材を利用し, 会員と直接相互作用を通じて学習サービスを提供する。

(12)『ファイナンシャルニュース』24年1月15日付。

−120− 香川大学経済論叢

(17)

教材

学習支援 システム

訪問教師

学習紙 サービス品質

〈図2〉 学習紙のサービス品質の構成要素

学習支援システムは学習サービスが提供されるすべての方法を決定している システムである。学習支援システムには教師の訪問学習のモデルを含め,指導 方式,相談方式,学力評価などのプロセスが含まれ,訪問教師による学習サー ビスが提供できるようなサポートを行っている。 〈図2〉は訪問学習紙サービ スプロセスの品質を決める要素を表したものである。

サービスは無形という特性を持っているため,顧客にサービスを明確に認識 させることは困難である。訪問学習紙の教育サービスの場合には無形の学習サ ービスを提供するために有形の道具を利用し,サービスを提供する。特に学習 紙を利用し,顧客と直接相互作用を通じて無形の学習サービスを提供する指導 教師の役割は非常に重要である。指導教師は学習紙企業を代表する人でありな がらも,顧客と直接会う「真実の瞬間( Moment of Truth ) 」

!

でサービスを提供 するからである。

(13) ヤン・カールソン(10)によると,真実の瞬間とは,外部顧客が当核プロセスや組 織に関して何らかの印象(肯定的,中立的,否定的のいずれか)を抱くきっかけとなる 出来事,あるいはプロセス内でそのような出来事が生じる時点のことである。スカンジ ナビア航空社長のヤン・カールソンは,顧客と直接接する最前線の従業員の最初の1 秒の接客態度が,その航空会社の印象をきめるとして,サービスの改革を行い,成功を 収めた。

韓国における私教育市場の実態分析 −121−

参照

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