NDC 830. 7
工業高専における英語教育について
A Study of Teaching English to Students of lnstitute of Technology
Hiroo MizuNo
(昭和61年8月30日受付)
In this paper, the writer suggests that the students of institute of technology should start studying English with the materials in the field of their own majors. Textbooks for general English are designed to cover all the purposes that English learners are expected to have, that is, such books are too much for the students who have specitic pur−
poses in learni ng English. CompGnents ef technical English are just the part of general English except for technical terms.
ま え が き
人生の目的は何か,入は何のために生きるのか,という 問題と同じように,英語学習の目的は何かと論じだせばき りがない。すべての人がそれぞれの意見を持っているので,
万人の納得する結論は得られそうにないが,それはそれで いいのである。しかし,工業高専の学生のように,ある特 定の目的を持っている学生に対しては,英語学習の目的は かなり限定されてくると思う。
本論では,対象を工業高専の学生に絞って,彼らにとっ て最良の英語学習はどうあるべきかを考えてみる。
1.工業高専の学生はまず何を学習すべきか
ただ単に英語学習といっても,いろいろな内容を総合的 に含んでいる。それぞれの項目は,互いに全く独立してい るわけではなく,重要性の違いもあるが,一応ここにあげ てみるQ
(1>「英語の」学習(learning of English)
英語という言語そのものを学習することで,この学習 がもっとも基本となり,中心となるものである。この中 核的学習なくしては,他の面の学習はほとんど無意味で ある。
(2)「英語による」学習(learning by English)
母国語の日本語を使った学習と違って,英語が媒介に なっている学習で,日本語の使用を最小限にとどめ,英
語をできるだけ多く使い,何かについて学習する。
(3>「英語について」の学習(learning about English)
英語という言語についての学習で,英語の歴史や,英
語が他の言語と比べてどう違うかなどを学ぶ。
(4>「英語を通して」の学習(learning through English)
英語を通して,外国の文化の違いを学んだり,日本人 であること,国際人であることの認識を高める面の学習
1)o
さて,工業高専の学生は英語の授業の中で,まず何を習 得すべきか。彼らにとって英語学習の目的は,第1に工学 の分野で,専門書や論文が読めるようになること,それか ら英語で論文を書けたり,学会での発表,就職後,外国人 との取引きなどができるようになることなどが考えられ る。とにかく,彼らにとって英語はcommunicationの道 具であり,専門分野の領域内で,いかに英語を道具として 使いこなせるか,が重要な点である。「英語について」の 学習や「英語を通して」の学習は,彼らにとって,当面必 要のないことである。
高等学校の学習指導要領(外国語)を要約すると,次の ようになる。
①外国語を理解し,外国語で表現する能力を養う。
②言語に対する関心を深める。
③外国の人々の生活やものの見方などについての理解を 得させる。
①は外国語の技能学科としての側面を指摘し,②は言語 教育としての意義を強調,③はその教養的価値を付記した ものと理解できる2)。①は前に述べた学習項目の(1)に対応 し,②は(3>,③は(4>に対応している。そして,文部省検定 済の教科書は,これら3つの項目をすべて満足させるよう に作られている。言いかえると,いろいろな目的をもった 学習者の要求をすべて満足させるように作られたものであ
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津山高専紀要第24号(1986)
る。だから,工業高専の学生のように,特定の目的をもっ た学習者にとっては,不必要な項目がかなり含まれている ことは事実である。前にも述べたが,彼らにとって,まず 必要なのは,英語を道具として使えるようになることであ る。彼らに,言語に対する関心を深めさせようとすること も,文化の違いを認識させようとすることも,彼らにとっ て役に立たないことである。さらに,第2章で調べるが,
文部省検定済教科書で教えられる文法項目,構文の中には,
彼らにとって不必要なものがかなりある。もちろん,すべ ての事項を学ぶ必要がないというわけではないが,特定の 目的をもった彼らにとっては,それらの中の重要度の違い がかなりある。検定済教科書は,すべての事項を平等に扱っ ており,彼らにとっては,適切な言語教材とは思えない。
そこで考えられるのは,学生に最初から専門分野につい て書かれた言語教材を用いて学習させることである。そう することが,学生にとっては理想的である。ここで,実際 に電気工学の分野の論文を分析してみて,その特徴と問題 点を考察してみる。
2.工業英語の分析と考察
電気工学の分野のP8承)rmance and Analysis of a Micro−
Gmp Discharge CircuitとV・うタイトルの論文をとり上げ,
単語レベル,文レベル,そして心理言語学的見地からみた 読みの過程,の3つの観点から考えてみた。
2.1単語レベルから
工学の分野に限らず,各専門分野の論文を読む時に,む ずかしく感じる第1の理由は,わからない単語が多く顔を 出してくるからである。この事は,言語使用域が違うから 当然のことであるが,わからない単語といっても2種類あ る。まず,普段使用されない専門用語(technical terms)
(例えばdischarge circuitなど),そして,普段とやや違っ た意味に使われる語(semi−technical terms),(例えば employなど)がある。しかもこの両方の種類の単語に対
して言えることは,このような事実のみを記述しているよ うな文体において,単語の意味を文脈から推測することは 非常に困難であるということである。だから,わからない 単語が多くあると,まず,書かれている内容については理 解できないといっていいであろう。指導的立場からいう と,学生が知らないような専門用語は,その意味を与えて やって全く問題ないと思う。学習したあとに,これは,英 語ではこう言うんだ,ということがわかり,それを覚えれ ばいいことであって,専門用語に関しては,他の単語の指 導のようにできるだけ文脈から推測させようとすること は,実際不可能に近いし,また必要のない事である。
2.2文レベルから
まず,1文の長さを調べてみた。取り上げた論文の1文
の平均語数は21語であった。ちなみに,文部省検定済教科 書の,増進堂Mainstream 」から,記述文だけをとり出し て調べてみると,その平均語数は13語,Mainstream 9は18 語であった。とすると,もし1年次からこのような題材を 使用すると,学生にとっては,少し長く感じられるかもし れない。1文の語数が長くなれば,それだけ読みにくくな るとは必ずしも言えないが,指導的立場からみると,最初 は,やや短めの文で書かれたものを選ぶ必要があろう。
では,なぜこのように1文の長さが長くなるのだろうか 調べてみる。その第1の原因とし℃,修飾語句があげられ る。取.り上げた論文の,名詞,動詞,形容詞,文全体,の 各々の修飾語句を調べてみると,すべての場合において,
前置詞句が1番多かった。(名詞の場合,約33%,動詞の 場合,約70%,形容詞の場合,約66%,文全体の場合,約 75%)第2の原因としては,文の種類から調べてみると,
andで導かれる重文,関係代名詞,関係副詞が用いられて いる複文がほとんどであることである。単文は皆無に等し かった。
文の態に関しては,受動態が非常に多かった。全体の約 57%を占めた。受動態で表現する理由には,次の4つが考
えられる。
(1)行為者が,漠然な場合
(例)French is taught in our schooL (They teach French in our school.)
(2)行為者が,明らかな,または重要でない場合 (例)Soup was served first.
(He served soup first,)
(3).行為者が,不明な場合
(例)Iwas robbed of my wallet.
(Someone robbed me of皿y wallet.)
(4)主題を逆転させる場合
(例) ・Adiamond was stolen by John.
=:As for a diamond, it was stolen by John.
John stole a diarnond.
=As for John, he stole a diamond.
全体の約57%が受動態であった理由は,ほとんど(2)の場 合であった。
では,受動態は学習者にとって難易度はどうであるか。
生成変形文法における,受動態の生成過程をみてみる。
Fig. 1
このtreeを見てもわかるように,学習者にとって決し て難しい構文ではない。
残りの文の文型をISEDに掲げてあるSummary of Verb Patternsに基づいて調べてみても,第1文型S+V,第2 文型S+V+C,第3文型S+V+0の3つの文型に限ら れ,学習者には,容易な文体であるといえる。
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工業高専における英語教育について 水野
2.3心理言語学的見地から 読みの過程は,心理言語学的にみ ると visual informationとnon.
visual informationのやりとりとし て説明することができる3)。visual inlormationとは,眼球に映る情報,
すなわち,文字である。non−visual informationとは,すでに,読者の 頭の中にある情報のことである。た とえば,英語という言語の知識や,
書かれている内容についての知識な どである。英語を全く知らない者が Ilove youという文を見ても,意味 は全然わからないし,内容について の知識が全くない者には,それを理 解することは困難である。そして,
n・n−visual inf・rmationが多ければ 多いほど,visual informationは少 なくてすむが,脳が一定時にとり扱 うことのできるvisual information の量には限界があるのでvisual in−
fomlationが多ければ多いほど,
NP
det N PI
the examiner rns
NPI
S
AUX
T M
Pres must AUX
VP
V NP
l N l
mention it
−u
V NP2
Passive. T. SD. NP i S.C. NP 2
AUX
AUX BE EN
V NP2[il>
VBY NPI output It pres must BE EN mention BY the examiners
Affix. T.
output
morph. T.
SD. ・一一一一一一一一 T.ML BE, EN V ・一一一一一一一一一一〇 S.C. 一一b…・…一・・… MT, BE,VEN
non−visuaHnformationが少なくてすむ,というわけには いかないのである。したがって,教材として工業英語を取
り上げる場合に注意する点は,visual informationを容易 に処理させるために,学習者に,少なくともある程度の non−visual information(題材の内容)を前もって与えて おく必要があると思う。指導的立場からみても,この点は 重要である。なぜなら,学習者に要求されていることは,
ある内容がどのように英語で表現されているか。または,
どのように表現したらよいか,であって,英語を通じて,
その内容を学習するのが目的ではないのである。
3.どの程度の理解が必要か
たとえば,An atomic bomb was dropped.という文があ るとする。言語レベルでみると,この文は,原子爆弾が落 とされた,という意味の受動態過去形の文である。また,
人によって,恐ろしいとか,多くの人が死んだに違いない とかいった事を頭に思い浮かべるかもしれない。さらに atomic bombという語は,核兵器の一種であるとか,爆 発の原理,その構造など,いろいろなものを示す4)。
さて,学生はこの文をみて,何を学べばよいのか。言語 レベルで十分である。彼らは,この文に対する批評をする ことも,原子爆弾についての詳しい知識を得ることも必要
Rl▼R must Pres BE
must beV ;
mention EN
mentioned
Fig.1受動態の生成過程
by the examiners.
by the examiners.…l
ない。ただ,この文が原子爆弾が落とされた,という意味 で,受動態過・去の文である,ということが理解できればよ く,この文を,能動態に書き換えるにはどうしたらよいか,
疑問文,否定文になおせるかどうか,ということが大切な のである。批評は文学の時間に,詳しい専門知識は専門の 時間に学べばよい。
ま と め
以上,工業高専での工業英語を教材とした英語教育につ いて考えてみた。今後も研究を続け,問題点を1つずつ解 決して,実現させていきたい。
参考 文献
1)松畑煕一;生徒と共に歩む英語教育(昭57)pp.75−85 大修館
2)片山嘉雄他編;新・英語科教育の研究(昭60)pp.
51−54大修文
3) Frank Smith; Reading (1978) pp. 12−35. Cam−
bridge Univ. Press.
4) Ogden, C. K and Richards 1. A; The Meaning of Meaning (1930) pp. 1 一23 Kegan Paul, Trench,
Trubner & Co. LTD.
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