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(1)

株主総会の特別決議を経た新株の有利発行が著しく 不公正な方法によるものとして差止が認められた事

著者 来住野 究

雑誌名 法と経営学研究所年報 = Annual Report of

Institute for Business and Law

巻 2

ページ 21‑30

発行年 2020‑11‑16

その他のタイトル Case Study on Corporation Law:Decision of Kyoto District Court, Mar. 28th, 2018

URL http://hdl.handle.net/10723/00004029

(2)

株主総会の特別決議を経た新株の有利発行が 著しく不公正な方法によるものとして

差止が認められた事例

来住野   究

    京都地裁平成30年3月28日決定

    平成30年(ヨ)第90号新株発行差止仮処分命令申立事件     金判1541号51頁

〔事 実〕

 Y会社(債務者)は、産業廃棄物の再資源化、リサイクルを行う子会社の支配、管理等を主た る事業とする発行済株式総数116万9424株の株式会社であり、東証JASDAQに上場している。Y 会社の代表取締役Aは、同社の発行済株式総数の約32%を有する株主でもある。X会社(債権者)

は、産業廃棄物の収集、運搬及び処分を主たる業とする公開会社でない株式会社である。

 Y会社は、従前から、シリコンウェハーの製造事業者である株式会社Bから、シリコンウェハー 製造過程で発生するシリコン廃液の処理を受注してきたところ、平成29年7月、B会社から、シ リコンウェハーの製造設備の増強に伴って、Y会社において受注量を増加させることが可能か打 診を受けた。Y会社は、連結子会社が有する北九州資源製造所に、新たに廃液処理を目的とした 処理機械設備及びそれに付随する建屋(本件設備)を購入、設置する案の検討を開始し、同月26 日の取締役会において、本件設備投資に係る事業収支計画を策定した。

 X会社は、事業規模の拡大を目指して平成22年頃から同業者とのM&Aを推進し、Y会社との 業務提携にも関心を抱くようになって交渉を行ってきたが、不調に終わっていた。他方で、X会 社は、Y会社の株式の買増しを進め、平成30年3月2日時点で約25%を保有するに至った。

 Y会社は、平成30年2月26日、取締役会において、同年3月27日開催予定の定時株主総会(本 件株主総会)において承認可決されることを条件として、取引先等を割当先とする第三者割当の 方法により、普通株式17万7800株、1株あたりの払込金額1130円(総額2億0091万4000円)、払 込期日を同年4月2日とする新株発行(本件新株発行)をすることを決議した。

 本件新株発行の払込金額は、本件新株発行に係る取締役会決議日の6か月前の営業日である平 成29年8月28日から同年12月5日の終値の平均価額から10%ディスカウントした金額に相当し、

上記取締役会決議日の直前営業日(平成30年2月23日)の終値2693円から58.04%を、同日まで の6か月間の終値の平均値1815円から37.72%を、それぞれディスカウントした金額である。

 本件新株発行が行われた場合、X会社の持株比率は約25%から約22%に低下する。

 X会社は、プレスリリースによって本件新株発行の事実を知り、平成30年3月2日付けの書面

(3)

により、本件新株発行による資金調達を行うことは、X会社を含む全株主の利益を著しく害する ものであるから反対する旨表明するとともに、Y会社にプレスリリース記載の資金調達の必要が あるのであれば、直近の市場株価で、本件新株発行の発行総額に相当するY会社株式を引き受け る旨提案した。

 X会社は、Y会社に対し、本件新株発行は、①会社法210条2号が定める「著しく不公正な方法」

による株式発行であり、②同条1号が定める法令違反の株式発行でもあるとして、本件新株発行 の差止の仮処分命令を申し立てた。

 X会社は、本件新株発行は、真に財務体質改善等を目的とするものではなく、X会社の影響力 を低下させて現経営陣の支配権を維持する目的でなされるものであり、本件新株発行を承認する 株主総会の特別決議がされるとしても、不公正性は阻却されないと主張した。

 これに対し、Y会社は、本件新株発行をせずともY会社側で過半数の議決権を有しており支配 権争いの実態は存在せず、X会社提案を拒絶することには、Y会社の企業価値に照らし合理的な 理由があり、払込金額はY会社の企業価値を公正に反映したものであり、本件新株発行は、支配 権維持を目的としたものではなく、資金調達を目的としたものであるほか、予備的に、株主総会 の特別決議を経ることが条件であることも不公正性を否定する要素であると主張した。

〔決定要旨〕  申立認容

⑴ 本件新株発行の不公正性について

 「株式会社においてその支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼ すような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株発行が特定の株 主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものである ときは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合にあたるというべきである。」

 「以上の事実によれば、本件新株発行はY会社株式の時価を著しく下回る払込金額で第三者に 割り当てるものといえる。本件新株発行によって、Y会社は払込金額総額約2億円に対して著し く大量の株式を発行することになり、X会社の株式は大きく希釈化され、X会社の持株比率に重 大な影響があるものと考えられる。

 以上によれば、本件新株発行は、X会社とY会社の現経営陣の間で会社の支配をめぐって争い がある状況において、X会社の株式を大きく希釈化するものであり、Y会社の現経営陣の支配権 を維持する目的でなされるものであることが推認される。」

⑵ 本件新株発行が本件設備投資のための資金を調達する目的で行われたかについて

 「上記の本件設備投資のため、本件新株発行に係る払込金額総額について資金調達の必要があ り、その調達方法として、自己資金でなく新規に資金を調達すること、その方法として第三者に 対する割当増資を選択すること自体には、前記の本件設備投資に要する予算規模やY会社の財務 状況に鑑みれば、一定の合理性がある。

 しかし、前記のとおり、本件新株発行の払込金額は、時価よりも廉価であり、株式の希釈化を

生じさせるものである。一件記録上、本件新株発行に係る取締役会決議当時、そのような価額で

なければ払込金額総額について資金調達が困難になることを窺わせる事情は、見当たらない。取

(4)

締役会後になされたX会社提案について、少なくとも株式の希釈化という点においては明らかに 株主に有利な内容であったにもかかわらず、Y会社がこれを拒絶したことは、Y会社において、

X会社の株式を希釈化し、その影響力を減殺する目的を有していたことを推認させるといえる。」

⑶ 本件株主総会における特別決議の意義について

 「取締役は、有利発行の場合には、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由 について株主に対して説明する義務を負い(会社法199条3項)、上記説明すべき内容については、

株主総会参考書類の提案の理由として記載しなければならない(会社法施行規則73条1項2号)。

 本件では、本件新株発行が公表された直後、X会社から、直近の市場株価で払込金額総額分の 株式を引き受けるという提案(X会社提案)が行われており、Y会社としては、資金調達方法と して、X会社提案と本件新株発行と2つの選択肢を有することになるところ、X会社提案の方が、

株式の希釈化という点においては、株主にとって有利な内容である。以上のような本件事案を前 提とすれば、Y会社の取締役は、本件新株発行に係る議案について、なぜ当該払込金額としたか についての説明の一環として、より高い払込金額であり株式の希釈化の程度が低い増資の選択肢 があること、にもかかわらず本件新株発行を選択する理由について、説明する義務があるという べきである。

 しかし、前記のとおり、X会社提案を受けた後にY会社が株主に対して配布した本件株主総会 の参考書類と参考書類と同封で配布されたQ&A書面には、本件新株発行について、第三者割当 増資が最善の資金調達方法であると判断するに至った理由や、募集株式の内容や本件割当先を選 定した理由、払込金額を1130円とした経緯、理由に関する記載はあるものの、有利発行に当たる と判断される可能性があることを自認しつつも、X会社提案の内容やこれを受け入れない理由に 関する記載はない。

 なお、前記のとおり、Y会社は、本件申立書を受領した後である平成30年3月16日、株主に対 し、Y会社説明書面を配布し、同書面において、本件新株発行の払込金額が適正な価格であるこ と、Y会社はX会社提案に従ってX会社に増資を行うことは適切ではなく、本件新株発行を実行 した上で、Y会社の企業価値の向上に努めていくことが、将来的な株主の利益の最大化につなが る最善の策と考えていること等を説明している。

 しかしながら、株主総会の開催に当たっては、当該払込金額でその者の募集をすることを必要 とする理由を記載した参考書類を添付した招集通知を株主総会の日の2週間前までに発送しなけ ればならないところ、Y会社は、平成30年3月16日にY会社説明書面を発送したものであり、上 記期限を途

〔 マ マ 〕

過している。

 また、Y会社は、本件申立書を受領し、さらに、X会社が株主に対してX会社委任状勧誘書面 を送付し……、同書面において株主に対してX会社提案の事実を明らかにしたことを知った後、

初めてY会社説明書面を配布するに至ったものであり、仮に本件申立てがなければ、Y会社は株

主に対してX会社提案の存在を説明することはなかったものとみられ、本件新株発行の議案につ

いて承認可決を得るべく殊更に必要な情報を提供しなかった意図があったという疑いを否定でき

ないところである。このような本件の経緯に鑑みれば、Y会社説明書面の配布をもって事後的に

上記説明の瑕疵を治癒しうると解するのは相当でない。

(5)

 そうすると、本件株主総会において、株主は、取締役から、当該払込金額でその者の募集をす ることを必要とする理由について説明を受けたとはいえないから、たとえ本件新株発行に係る議 案について特別決議が承認可決されたとしても、株主が議決権行使するにあたってその判断の正 当性を失わせるような瑕疵があったといわざるを得ず、Y会社の支配権維持の目的による不公正 性を阻却することにはならないというべきである。」

⑷ 差止請求権の成立について

 「以上によれば、本件新株発行の主要な目的は、Y会社の現経営陣がその支配権を維持するた めというべきであるから、本件新株発行は著しく不公正な方法によるものであるといえる。本件 の事案を考慮すれば、本件新株発行を承認する株主総会の特別決議があったとしても、その不公 正性は、阻却されない。そして、本件新株発行によって、X会社を始めとする株主の持株比率が 低下し、株主が不利益を受けることは明らかであるから、会社法210条2号に該当し、X会社は Y会社に対して同号に基づく本件新株発行の差止請求権を有すると認められる。」

〔研 究〕

 決定要旨に反対する。

1 本決定は、新株発行の差止原因である著しく不公正な方法による場合にあたるかについて、

いわゆる主要目的ルールが適用された一事例であるが、理論的には、会社支配権の維持を主要な 目的とする新株発行は、有利発行に関する株主総会の特別決議を経ても、著しく不公正な方法に よる新株発行として差し止められうることを示した点で重要な意義を有する。

 公開会社では、授権資本制度に基づき原則として取締役会決議のみをもって新株を発行するこ とができ(会201条1項)、第三者に対して特に有利な払込金額で発行する場合(会199条3項)

と支配株主の異動を伴う一定の場合(会206条の2)に限り、株主総会決議を要するにすぎない。

他方で、新株発行により支配的不利益(持株比率の低下・少数株主権行使の不能化)・経済的不 利益(株価の下落)を被るおそれのある株主の事前の対抗措置として、法令・定款に違反する場 合または著しく不公正な方法による場合には新株発行差止請求権が認められる(会210条)。従来 は、取締役が敵対する一部の株主の持株比率を低下させるために第三者割当増資の方法で新株が 発行される場合において差止の可否が争われるのが一般的であったが、本件のように株主総会決 議を経た場合のほか、公募増資の場合に差止の可否を争う判例も現れており(東京高決平成29年 7月19日金判1532号57頁:出光興産事件)、新株発行の差止をめぐる判例は新たな展開を見せて いる。

2 著しく不公正な方法による新株発行にあたるか否かについては、判例(東京地決平成元年7

月25日判時1317号28頁:秀和対忠実屋・いなげや事件、東京高決平成16年8月4日金判1201号4

頁:ベルシステム24事件など)・多数説は、新株発行の主要な目的が資金調達にあるか支配権争

奪にあるかを基準として判断する(主要目的ルール)。授権資本制度においては、新株発行の資

金調達としての側面が重視され、それを機動的・弾力的になしうるようにするため、その権限を

取締役会に与えた以上、資金調達の機動性は既存株主の支配的利益に優越し、新株発行が合理的

な資金調達の必要性に基づいてなされた場合に限り、既存株主の支配的利益を犠牲にすることが

(6)

正当化されるのである。判例では、具体的な資金需要さえあれば、資金調達方法や調達先の選択 については取締役会の判断を尊重する傾向があり、差止を認めないことが多かった。しかし、資 金調達が必要であるとの体裁はどのようにでも整えることができ、かかる基準では株主の新株発 行差止請求の実効性が乏しくなるため、最近ではより厳格に審査されるようになってきた。主要 目的の判断枠組みとしては、①会社支配権をめぐる争いの有無、②新株発行が会社支配権をめぐ る争いに及ぼす影響の大小、③資金調達のために新株発行を必要とする会社の主張の説得力を考 慮要素として総合的に判断されるが

1)

、②については、少数株主権行使への影響や新株発行直後 の株主総会決議への影響(会社法124条4項に基づき、基準日後の新株主に議決権を与えるか否か)

なども考慮され、③については、資金使途計画の具体性・実現性にまで踏み込んで資金調達目的 が審査される傾向にある(東京地決平成20年6月23日金判1296号10頁:クオンツ事件など)。

 本決定は、会社支配権をめぐる争いの有無、払込金額算定の合理性

2)

、資金計画の合理性、割 当先選定の妥当性について詳細に検討した結果、資金計画の合理性は認めつつ、本件新株発行の 資金調達方法としての合理性は否定しているため、かかる傾向を踏襲していると評価することが できる。ただし、本決定においては、X会社が資金調達方法としては本件新株発行よりも有利な 条件を提案したにもかかわらず、Y会社がこれを拒否したということが、本件新株発行が支配権 維持目的でなされたとの裁判官の心証を形成することについて決定的な役割を果たしたと推測さ れる

3)

3 次に、本件新株発行が支配権維持を主要目的としてなされたとしても、株主総会決議を経て いることが差止の可否にどのような影響を及ぼすかが問題となる。

 株主総会決議に基づく新株発行であっても不公正発行として差止が認められる場合があるとす れば、以下の判例との関係が問題となりうる。

 第一に、最判平成6年7月14日判時1512号178頁では、著しく不公正な方法による場合は新株 発行の無効原因とならないと解されている点である

4)

。この点は、不公正発行により不利益を受 けた既存株主が新株発行無効の訴えによって救済されないからこそ、広く差止を認めるべきであ るという論拠となる一方、株主総会決議をもってしても新株発行の不公正性が阻却されないとす れば、新株発行の公正性は強行法的性質を有する会社法上の公序であり、著しく不公正な方法に よる場合は当然に無効原因となるはずであるから、本決定はこの最高裁判例と整合性を欠くおそ れがある。

 第二に、最決平成19年8月7日民集61巻5号2215頁(ブルドックソース事件)では、株主に対 する無償割当の方法(会277条)により差別的な行使条件・取得条項付の新株予約権を発行する ことについて、専ら経営を担当している取締役またはこれを支持する特定の株主の経営支配権を 維持するためになされたものであれば、不公正発行にあたるとしつつ、株主総会決議に基づき、

会社の企業価値の毀損を防ぎ、会社の利益ひいては株主共同の利益を維持するためになされたも

のであれば、不公正発行にはあたらないとされた点である。この判例によれば、同じく株主総会

決議に基づき特定の株主の持株比率を低下させる目的でなされた新株発行であっても、それが企

業防衛のためになされたものか、取締役の保身・多数派株主の支配権維持のためになされたもの

かという動機が不公正発行にあたるかの判断基準となる。ただし、この判例では、会社の利益ひ

(7)

いては株主共同の利益が害されるか否かについては株主の判断が可及的に尊重されているため、

株主総会が会社の利益のために企業防衛として特定の株主の持株比率を低下させる新株発行を承 認したのであれば、企業防衛の客観的な必要性の有無にかかわらず、不公正発行にはあたらない と解する余地がある。

 株主総会決議を経ても不公正発行として新株発行を差し止めることができるかについては、学 説上議論されてこなかったが、これを否定する見解がある

5)

。これに対して、本決定に対する学 説の評価は概ね好意的である

6)

 確かに、会社法210条の文言上は、株主総会決議を経た場合が差止の対象から除外されるわけ ではない

7)

。しかし、株主の差止請求は、株主が対象となる行為の決定に関与できないからこそ 認められるはずである。不当な組織再編行為に対して株主の差止請求が認められるのも、株主総 会決議が省略される略式組織再編の場合である(会784条の2第2号・796条の2第2号)。株主 総会決議を要する行為については、その当否は株主の判断に委ねられており、株主はそれに反対 する議決権行使によりその行為を阻止できるのであるから、株主総会決議に瑕疵がない限り、株 主の権利として差止請求を認める必要はない。また、株主の新株発行差止請求権は取締役会の新 株発行権限の濫用を抑制するものであるし、会社支配権の維持・争奪を目的とした不公正発行の 差止が認められる根拠が、下位の機関構成員たる取締役が上位の機関構成員たる株主を選ぶこと は許されないという機関権限分配秩序論に求められるのであれば、株主自らが株主構成のあり方 を判断することは許されることになる

8)

。したがって、新株発行差止請求においても、株主総会 決議を経た場合は差止の対象として想定されていないと解するのが自然である。

 しかも、私法上の行為における当不当・公正不公正は、違法とは評価できない次元の瑕疵であ るから、その判断は本来私的自治に委ねられるべきものであって、当事者がそれを容認した以上、

司法は介入すべきではないように思われる。第三者に対する新株発行により既存株主は一律に持 株比率が低下する以上、既存株主の利益は同質であるから、それによって不利益を被るおそれの ある株主の多数がそれを容認した以上、その公正不公正は不問とされるべきではないか。新株の 割当先が特定の株主である場合にはその株主は特別利害関係人にあたり、その議決権行使によっ て著しく不当な決議がなされた場合には、取消原因のある決議に基づく新株発行として差止を認 める余地がある(会831条1項3号)。

 ただし、有利発行規制は、既存株主の経済的利益を保護するものであるから、有利発行に関す

る株主総会決議は株主が経済的不利益を甘受するにすぎず、支配的不利益を甘受して会社支配権

の維持・変動を容認するものではないと評価する余地もある

9)

。しかし、有利発行における株主

総会決議においても、割当先と発行株式数が示される以上、支配的不利益の甘受も含まれている

といわざるをえない

10)

。むしろ、新株発行における払込金額の決定は資金調達上の経営判断に

属するものであり、本来株主がその当否を判断することに適したものではないから

11)

、第三者

に対する特に有利な払込金額による新株発行について株主総会の特別決議を要するのは、新株引

受人は他の株主よりも低額で多くの株式を取得できることにより、容易に株主の支配関係を左右

しうることに鑑み、株主による牽制を期待したものであり、そこには既存株主の支配的利益に対

する配慮も当然に含まれていると評価することもできる

12)

(8)

 株主総会決議を経た新株発行であっても不公正発行として差し止めうると解するためには、会 社支配権の維持・奪取自体を目的とする新株発行は株主総会決議をもってしても許されないとい う命題を論証することが不可欠である。その理由としては、既存株主の保護を強調するほかはあ るまい

13)

。確かに、株主総会の特別決議が成立する見込みさえあれば、取締役があえて株主総 会に付議することにより、少数株主は一方的に持株比率の低下を強いられ、株式買取請求権によ る救済もない。しかし、平成26年会社法改正により、支配株主の異動をもたらす新株発行も株主 総会決議による承認を受ければなしうることが認められたことからも明らかなように、株主総会 決議をもって会社支配権の帰趨を操作することが許されないわけではない。したがって、既存株 主の持株比率に関する利益保護の要否は新株発行の目的次第ということになるが、その判断基準 はもはや主要目的ルールに求めることはできない。なぜなら、株主総会決議を要する場合、手続 的には資金調達としての機動性・迅速性を犠牲にするし、単に資金調達方法としての当否を超え て株主構成のあり方(会社支配権の行方)についても株主の判断が求められていると考えられる からである。ブルドックソース事件決定によれば、企業防衛のためであれば例外的に不公正発行 にあたらないが、企業防衛としての新株発行については資金調達目的との比較衡量は無意味であ る。そこでは専ら新株発行の目的(動機)の当否が問われる。資本提携・事業再生のためであれ ば、正当な目的があるといえようが、敵対的買収者の台頭に対する漠然たる危惧や現経営陣によ る体制の支持という程度では、正当な目的たりえないことになろう。そして、新株の不公正発行 の差止は株主総会による私的自治の制約としても機能する以上、ブルドックソース事件決定のよ うに企業防衛発動の要否に関する株主の判断を尊重することはできず、新株発行の目的の当否は 客観的に判断されなければならないことになる。しかし、株主総会決議を要するのは株主の重大 な利害に関わるからであり、株主総会において株主は自己の利益のために議決権を行使できるに もかかわらず、新株発行については、株主は会社ひいては株主全体の利益に配慮して決議しなけ ればならず、そうでない決議は尊重されず、差し止められうるというのは大いに疑問である。

4 本決定の理由づけについて検討するに、本決定は専ら不公正発行にあたることをもって差止 原因としている。有利発行を承認する株主総会決議において取締役は有利発行の理由を説明する ことを要するところ(会199条3項)、本件新株発行を選択する必要性の説明は不十分であったこ とが認定されているが、それが株主総会決議の取消原因となり、新株発行手続の法令違反をもた らすとして、差止原因を認めたわけではない

14)

。他方で、「本件の事案を考慮すれば、本件新株 発行を承認する株主総会の特別決議があったとしても、その不公正性は、阻却されない。」とい う判示は、本来であれば、新株発行について株主総会決議を経れば不公正性は阻却されることを 意味していると読み解くこともできる

15)

。すなわち、不公正発行にあたれば原則として新株発 行は差し止められるべき反面、株主総会決議を経れば例外的に不公正性が阻却されるところ、本 件では、有効な株主総会決議を経ているものの、その例外にはあたらないという流れとなる。

 しかし、有効な株主総会決議を経ていながら、その決議が法的に尊重されない理論的根拠は明

らかではない。説明が十分であれば決議は成立しなかったかもしれないというのであれば、決議

に取消原因があることを認定しなければならないはずである。議案の提案理由は株主総会参考書

類に記載しなければならないところ(会施規73条1項2号)、本件では、有利発行すべき理由は

(9)

招集通知の添付書類で説明されているし、X会社提案が株主に開示されなかったわけでもなく、

Y会社が本件申立書を受領した後に、X会社提案を受け入れるべきではない旨を説明した書面(Y 会社説明書面)を株主に配布しており、それが招集通知発送の期限を徒過していたにすぎないた め、これを決議取消原因となる瑕疵と評価するとしても、かかる瑕疵は、決議に影響を及ぼさな い軽微な瑕疵として裁量棄却される可能性が十分にあるものである(会831条2項)。むしろ、Y 会社説明書面が本件申立書受領後に配布されたという事実は、Y会社がX会社提案を株主に秘匿 したまま株主総会決議を得ようとしたという疑念と結びつけられているため、これは主要目的 ルールにおける支配権維持目的を推認させる事情として捉えているようである。その結果、本決 定は、主要目的ルールのあてはめに終始し、株主総会決議を経れば不公正発行にはならないとい うYの主張については実質的に何ら回答せずに一蹴したに等しい

16)

 他方で、本決定はブルドックソース事件決定の影響を受けているのではないかと推測される。

前掲最決平成19年8月7日は、「特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値が き損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終 的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ、株主総 会の手続が適正を欠くものであったとか、判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり、

虚偽であったなど、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り、当該判断が尊 重されるべきである。」と判示しているため、本件における説明不足は株主の判断が尊重されな い場合にあたることになるのであろう。しかし、本決定がブルドックソース事件決定の考え方を 踏襲しているのであれば、支配権維持を目的としながら例外的に不公正発行とならないのは企業 防衛の場合である。そうであれば、不公正性阻却の可否をめぐって本件株主総会決議について問 われるのは、企業防衛発動に関する株主の判断を尊重できるかである。企業防衛のための新株発 行を肯定する以上、それは資金調達目的を不問とすることを意味するから、本件新株発行が企業 防衛としての意味合いを有する限り、資金調達としての不合理性は本件新株発行を否定する理由 にはならない。また、「判断の正当性を失わせるような瑕疵」とはいかなる瑕疵なのかも明らか ではない。決議取消原因にはならないが、株主の判断の正当性を失わせる瑕疵などありうるので あろうか。十分な情報提供に基づき長時間にわたる慎重な審議に基づいてなされた真摯な決議で あっても、十分な情報提供と審議を経ずに取締役の提案を単に追認するにすぎないような惰性の 決議であっても、決議の効力に対する法的評価は同等であるから、後者の決議は尊重できないな どという議論は感情論の域を出ない。

1) 神田秀樹編『会社法コンメンタール5』(2013年・商事法務)121頁[洲崎博史執筆]。

2) 本件では、Y会社は払込金額は公正なものであると主張しているため、株主総会決議は有利発行に あたることを危惧して予備的に得たようである(松尾健一「本件判批」法学教室456号(2018年)

160頁)。本件における払込金額の当否は、有利発行規制の適用があるかではなく、既存株主の持株 比率に対する影響との関連で問題となっているのであるから、払込金額を引き下げてより多くの新 株を発行する必要があったのかという点が争点となるが、本決定はその点が明らかではない。

3) 島田志帆「本件判批」私法判例リマークス58号(2019年)84頁・85頁、堀井拓也「本件判批」法学

(10)

研究(慶應義塾大学)93巻2号(2020年)111頁。

4) もっとも、この判例は、「新株発行は、株式会社の組織に関するものであるとはいえ、会社の業務執 行に準じて取り扱われるものであるから、右会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以 上、たとい、新株発行に関する有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行が有効であ」り、「こ の理は、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、異なるところがないものと いうべきである。」と判示するにすぎず、代表取締役が新株を発行したことと著しく不公正な方法に よる新株発行が有効であることが理論的にどう結びつくのか理解に苦しむ。一方、学説上は、支配 的不利益を被る既存株主の救済を重視して、少なくとも新株が当初の引受人または悪意の譲受人に とどまっている場合には、著しく不公正な方法による新株発行も無効原因となると解するのが現在 の多数説といえよう(新株主の主観的態様に応じて効力を区別する折衷説として、鈴木竹雄=竹内 昭夫『会社法〔第3版〕』(1994年・有斐閣)428頁、洲崎博史「不公正な新株発行とその規制(2・

完)」民商法雑誌94巻6号(1986年)740頁、𠮷本健一『会社法〔第2版〕』(2015年・中央経済社)

306頁、高橋英治『会社法概説〔第4版〕』(2020年・中央経済社)221頁など。純然たる無効説として、

山本爲三郎「新株発行の効力に関する一考察」田中誠二先生追悼論文集『企業の社会的役割と商事法』

(1995年・経済法令研究会)377頁、草間秀樹「新株発行の無効原因」法律論叢80巻2=3号(2008年)

96頁、弥永真生『リーガルマインド会社法〔第14版〕』(2015年・有斐閣)337頁など)。

5) 神田編・前掲注1)128頁[洲崎執筆]。松井秀征「新株有利発行規制に関する一考察」落合誠一先生 還暦記念『商事法への提言』(2004年・商事法務)391頁は、いかなる事情であれ適法に株主総会特 別決議が成立した以上、取締役はこれを遵守する義務を負っているから、もはや差止は認められな いという方向も認めつつ、株主の合理的無関心の問題が生じた結果として決議が成立してしまった 場合には帰責性のない株主の権利を制限する合理的な理由を見出すことは難しいため、取締役会が 非合理的な新株発行を行っている以上、善管注意義務に違反しているものとして、差止を認める可 能性を示唆する。

6) 森本滋「新株の不公正発行問題の新たな展開」商事法務2174号(2018年)15頁、中曽根玲子「本件 判批」新・判例解説Watch 24号(2019年)128頁、島田・前掲注3)85頁、三浦治「本件判批」金融・

商事判例1565号(2019年)6頁、小菅成一「本件判批」嘉悦大学研究論集62巻1号(2019号)59頁、

三原秀哲「本件判批」ジュリスト1541号(2020年)110頁。

7) 森本・前掲注6)12頁、島田・前掲注3)83~84頁、鳥山恭一「本件判批」法律のひろば72巻3号(2019 年)65頁、三浦・前掲注6)6頁。

8) 神田編・前掲注1)128頁[洲崎執筆]、三浦・前掲注6)6頁。松尾・前掲注2)160頁も、「会社支配 の公正という観点からは発行を認めても問題がないとも解される。」とする。

9) 島田・前掲注3)85頁、福島洋尚「本件判批」ジュリスト1531号〔平成30年度重要判例解説〕(2019年)

94頁。

10) 鳥山・前掲注7)69頁。

11) 松井・前掲注5)377頁・396頁、笠原武朗「株主総会決議と募集株式の発行等の無効原因」岩原紳作 ほか編『会社・金融・法〔上巻〕』(2013年・商事法務)479頁参照。

12) 非公開会社では新株発行には株主総会の特別決議を要し、公開会社でも定款の定めにより新株発行 を株主総会の決議事項とすることもできる。非公開会社では、定款による株式譲渡制限に基づき、

株主総会決議による株主(株式譲受人)の選別が可能である以上、株主総会決議を経れば会社支配

権の維持・変動を目的とする新株発行も一般的に可能であると解される。公開会社において定款の

定めにより新株発行に株主総会決議を要するとした場合も、新株発行に関する利益の処分を株主の

判断に委ねた以上、同様に解される。

(11)

13) 島田・前掲注3)85頁、三浦・前掲注6)6頁。

14) 弥永真生「本件判批」ジュリスト1523号(2018年)3頁、島田・前掲注3)85頁、福島・前掲注9)

94頁。

15) 中曽根・前掲注6)128頁。

16) 島田・前掲注3)85頁は、「本決定がX提案の内容についての理由説明及び事前開示義務を持ち出し

たのは、株主総会の特別決議を経たから不公正性は阻却されるとするYの主張に配慮して、説明に

瑕疵ありとするためのロジックとしてこれを採用したに過ぎないと見ることもできる」と述べる。

参照

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