‑ : I . , 、 て・ lL L . , 育. : I : ・ p ‑ , 守再 汗 軒 十′ ' 吋 、 ㍉ ∵‑ 3 . 他動性 に関す る認知言語学的考察
‑ 文法形式 と意味 との乗離 を巡って‑
田 林 洋 一
1.序
本稿では文法形式 と意味の変化 を通 して,スペ イン語の他動性 に関 して 若干の考察 を加 えることを目的 とする。
2,文法形式 と意味の変化 について
文法形式 (あるいは文法) と意味の関係 についての一つの伝統的な考え 方は,文法形式 は意味 とは完全 に乗離 して存在 しているとい うものである。
Chomsky以前 の構 造言語学 的 なBloom丘eldらの考 え方 で は,文法形式 (狭義の統語論及 び形態論)は語の間の結合,配列,及びそれに準ず る公 式 を規定する一種の約束事であ り,そこで行われる操作 (多分 に変形的) は意味に全 く影響 を与 えない (即 ち,文法形式が変わって も意味は変わ ら ない) とい う存在であった。
伝統的な立場 に立つ と,文法形式が異なる複数の文で も,一定の変形規 則 にさえ従 っていれば,当該文の意味が同 じとい うことになる。 例 えば, 以下の ような文のペアは,文法形式が変わって も意味は同 じである。
(1) a. Cervantesescribi6estanovela.
b. EstanovelafueescritaporCervantes.
(2) a. Visitamoslacatedraldondesecelebr6suboda. b. Visitamoslacatedralenquesecelebr6suboda. C. Visitamoslacatedralenlaqueseceiebr6suboda.
(1) は能動態 と受動態 のペ アであ り,伝統的 な考 え方では 「セルバ ン テスが この小説 を書 いた」と 「この小説 はセルバ ンテス に よって書 か礼 た」 は意味が 同 じと規定 され る。 (2)で は関係詞donde,enque,enla queはそれぞれ 同義 で あ り,「私達 は彼 の結婚 が行 われ た大 聖堂 を訪 ね た」とい うものである。
これ と対立 して,文法形式 と意味は不可分の関係 にあ り,文法形式が変 わると意味が変化す るとい う考 え方が存在す る。 即 ち,文法形式 には意味 的要素が深 く浸透 してお り,文法 レベルの些細 な書 き換 えであって も,必 ず意味の変化 を伴 うとい う考 え方である。
20世紀前半 は伝統 的な考 え方が言語学 の大勢 を占め,Chomskyによる 変形生成文法の考 え方が広 まる と,それに従 った研究が爆発的に盛 んにな った。その後,今 日に至 るまで言語学 は,文法 と意味の乗離 (即ち,文法 形式が変わって も意味は同 じとい う想定) を如何 に打 ち破 るか とい う点で 進展 して きた といって も過言ではない。徐 々に破綻 を見せてい くのを 目の 当 た り に し た 変 形 生 成 文 法 学 者 は, 今 度 は 「泰 層 構 造 (surface structure)」と 「探層構造 (deepstructure)」とい う二つの基準 を設けた。
これは,例 えば能動態 と受動態 は同 じ深層構造か ら派生 した二つの表層構 造であ り,事実上,意味は同 じであるとす る考 え方である。 この考 え方 に よって,変形 とい う操作 は事実上放棄 されるのだが,二つの表層構造 は文 法形式が異 なるだけで,実質的な意味 は同 じとい う,「文法形式 は意味 に 影響 を与 ええない」 とい う基本姿勢 は崩れてはいない。
‑‑:hJ,1970年代後半 にそのアイデアが出現 し,1980年代か ら研究が盛 ん に行われた認知言語学的な立場では,意味 と文法形式 は相互 に影響 しあっ てお り,文法形式が異 なるな らば意味 も異 なる, とい うテーゼを持つ。例
えば,英語 の二重 目的構 文 (3a)と,toを取 る与格構 文 (3b)は伝挽 的な考 え方では意味が同 じであるが,認知言語学的な立場では異 なる。 な ぜ な ら,その命題 をキ ャンセルす るような文 を後続 させ ると,二重 目的語 構 文で は容認 され ない奇妙 な文 となるが,toを取 る与格構 文で は容認 さ
れるか らである(1)。
(1)toを取 る与格構文が容認 され るのは,二重 目的語構文が持つ存在論的 メ タ フ ァーの瞬時性 に因る。 基本的 に,前置詞toはある事物が経路 を通 って移動 してい く方 向性 をマー クす る前置詞であ る。 従 って,toを取 る与格構 文では 問題の行為 (give)が瞬時になされることを合意 しない。 この点で,toを持た ない二重 目的語構文はその行為が瞬時になされる可能性 を秘めているため,紘 果が重視 される。 以下の文 を参照。
(i) a. ?JohngaveabooktoMaryimmediately.
b. JohngaveMaryabookimmediately.
(ia)は副詞immediatelyを付加す ることによって,容認度がやや低 くなる (しか し,受 け渡 しの行為が 目に もとまらぬ速 さで行 わjtた とい う過程 を重視 す る解釈 な らば成立 しうる)。一方,同様の条件である二重 目的語構文の (i b)には特 に有標 的な解釈 は存在 しない。 よって,toを取 る与格構文は過程が 重視 されるとい う性格上,その結果 をキャンセルす ることがで きるのに対 し, 結果 を重視す る二重 目的語構文はその結果 をキャンセルで きない。
また,二重 目的語構文の結果の含意は,二つの 目的語の隣接 関係 に基づ く随 伴関係か ら導 き出されると分析す ることも可能である。 この時,近接性 の関係 は,その ままメ トニ ミ‑的な拡張 による意味 を同時に表す ことになる。近接性 がその まま随伴関係 を表す例 として,以下 を参照。
(ii) a. ghuankii ARTJuanhouse
̀JLIan'shouse'
Langacker(1993:19) b. jakareruguai
crocodile tail
̀crocodile's ta le '
Langacker(2004:35) C. Inepokari‑ne
l house‑PUT
̀Iwillhaveahouse'
Langacker(2004:36) (iia)はパパ ゴ譜 (papagu),(iib)はグアラニ語 (guarani),(iic)はヤ
(3) a. *JohngaveMaryapresent,butshedidn'treceiveit. b. JohngaveapresenttoMary,butshedidn'treceiveit.
単産,伝統的言語学の言 う 「意味が同 じ」 とは 「命題真理値が等価」 と い うだけであ り,その合意 される意味が異 なる場合がある。 例 えば,二重 目的語構文 とtoを取 る与格構文のペ ア も, (3)が示す ように違いが生 じ る(2)。
伝統的な 「文法形式が変わって も意味が同 じ」 とは,文法 は意味 とは独 立 して存在 し,相互 に影響 を与 えることはない とい う考 え方 に適ず る。 即 ち,文法 には意味 とは独立 した書 き換 え規則が存在 し,当該命題 はその書 き換 え規則 を経 て も変化 しない とい うこ とであ る。 従 って,「意 味が 同
キ語 (yaqui)の例であるが, どれ も二つの語の隣接 の解釈がその まま所有関 係 を衷 してい る。 二重 目的語構 文 の更 な る議 論 は山梨 (2009:174‑183), Goldberg (1995:75)他 を参照のこと。
(2) 与格構文 と二重 目的語構文 を,<経路か ら到達点 >‑の焦点 シフ トの認知プ ロセスの違いか ら分析 した研究にLangacker(1986:14)がある。
(i) a. BillsentawalrustoJoyce. b. BillsentJoyceawalrus.
Langackerや山梨 (2009:97)による と,(ia)は被動作主のwalrusが直 接 目的語のラン ドマークとして選択 され,Billか らJoyceへの移行するwalrus の移動経路が焦点化 されている。一方,(ib)はwalrusの移動先の所有領域 が焦点化 されている。従 って,walrusがJoyceに渡 った とい う所有関係 (結 果状態)が合意 される。
また,以下に示す ように与格構文に対応する二重 目的語構文の間接 目的語に は,ある種の制限がある。
(ii) a. IsentawalrustoAntarctica. b. ?IsentAntarcticaawalrus. C. Isentthezooawalrus.
Langacker(1986:18) Antarcticaとい う物理的な場所がwalrusの所有者 になることはで きないの で,(iia)に対応す る二重 目的語構 文 (iib)は容認度が下が る。 しか し, (iic)のように,間接 目的語に出現す る項が場所であって も,その場所の背後 に所有者を含意すると (即 ち,場所 を参照点 として所有者に辿 り着 くような近 接性のメ トニ ミ‑が成立すれば)容認 される。
じ」で も,通常,ある事態 ない しは状況 を複数の表現で描写す ることがで きる, と考 えられる。 即 ち,ある事態 を一つの文法形式 を用いて表現 した ならば 別の文法形式で記述 して も矛盾が起 こらない とい うことである。 この ような意味は真理条件的意味 (truth‑conditionalmeaning)と呼ばれ, 対象 は話 し手か ら独立 した客観的な記述がなされるもの と期待 される。
しか し,文法形式の表す意味が 「客観的な真理条件的意味」のみに限定 され るわけではない。以下の文では全て事象 は変 わ らないが,「主観的意 味」は変化 している。
(4) a. Estecaminoestaunacuestabajada. b. Estecaminoestaunacuestasubida.
(5) a. Lafarmaciaestaalaizquierdadelacafeterl'a. b. Lacafeteriaestaaladerechadelafarmacia. (6) a. JuansepareceaPedro.
b. PedrosepareceaJuan.
(7) a. Elbarrilsehaquedadomediovacio. b. Elbarrilsehaquedadomediolleno.
(4)〜 (7)のペ アの真理条件的意味は同 じであるが,話 し手の事態 に 対す るとらえ方が違 うために異 なる文法形式 (ない しは語桑)が用い られ ている。 例 えば,(6)のペ アではJuanを知 っている話 し手 は (6a)を, Pedroを知 っている話 し手は (6b)を選択す るであろう。 また,(7)の ペアに見 られるように,話 し手の心的態度が異なる (楽観的か悲観的か)
と,用い られる文法形式や意味が異なることもある。
以上の点か ら,本稿では,近年の認知言語学的視点 (即 ち,文法形式が 変われば意味 も変わる) とい う立場 を取 る。 なお,以下か らは文法形式 を 総称 して 「構 文 (construcciones)」と呼ぶが, これ は狭義 の語 の配列 だ けでな く,統語的 。形態的な語の配列 もそれ 自体で意味を持ちうるとい う
広義の文法形式 を指す。
本稿 で述べ る 「構 文」とは,「全体 は部分の総和 であ る」 とす る合成原 哩 (compositionalityprinciple)とは対極 の概念 をなす と一般 にみ な され る。 しか し,合成原理 には 「強い主張」 と 「弱 い主張」が あ る (Taylor
&瀬戸 (2008:43))。 この うち,本稿 の 「構 文」 は強い合成原理 に反 し, 弱い合成原理 に与す ると考 える。
強い合成原理 は 「複合表現 の意味 は,①部分の意味,②部分の意味の合 成の され方, によって完全 に決定 される」と主張 し,更 に以下の ような原 理の細則 に基づ く。
(8)a。 複合表現の部分 は,当該の言語体系 の中で定 まった意味 を 持つ。
b. 部分が複合表現 に合成 される とき,定 まった合成法がある。
C. 部分の意味は複合表現の中で欠けることな く保存 される。
d. 部分の意味及び合成の され方 によらない 「プラスの意味」
が複合表現 に生 じることはない。
一方,弱い合成原理 は 「合成原理 は部分的に しか成 り立たない」 と主張 す る。 その中には,複合名詞句, メタファー, イデ ィオム, レ 1、リックな どの他 にゲ シュ タル ト知覚や意味の弾性 (semantic負exibility)が含 まれ る。 また,一見 イデ ィオムでない表現 も,合成性 の原理 を破 って聞 き手 に 知覚 される。 以下の文 を参照。
(9) a Elba16nestadebajodelamesa. b. Juanpate61amesa.
(9a)には どの ような状態でボールがテーブルの下 にあるのかの情報 は 記載 されていない。 もしか した ら机が ロープに吊 り下げ られ,その真下 に
ボールがあるのか もしれない し,逆 さまになった机 の下 に押 し潰 されるよ うにボールがある可能性 もある。 しか し,聞 き手 はご く自然 に 「四本の脚 が地面 を支 えた状態で立 っている机 の下 にボールがある」とい う情景 を知 覚す る。 この情報 は各単語の意味 を超 えた,文化的 またはゲ シュタル 1、的
な ものである。
また,(9b)もJuanが (恐 らく足 の甲や側面 を使 って)机 の (恐 らく 脚 ない しは側面 を)蹴 った とい う解釈が導 き出されるが,蹴 るための足や
テーブルの どの部位 を蹴 ったかな どの情報 は語糞項 目内にも,文法形式内 に も存在 しない (patearが 「足 の使用 を前提 とした行為」と語粂項 目に 記載 されている可能性 は高いが,ただ足 だけを使 うのではな く 「体全体 を 使 って蹴 る」 ことも可能である)。 この意味 は,ゲ シュタル ト的な知覚の 他 に,Langacker(1984)の述べ る 「活性領域 (activezone)」の解釈 も 可能である。
更 に,ゲ シュタル 1、知覚 を超 えた語の辞書的知識 と文化 的知識 (百科事 典的知識) も,文の理解 に多大 な影響 を与 える。 これ らの情報 は語桑項 目
に記載 されているわけではな く, また,文法形式か ら導 き出されるもので もない,語用論的な性質 を持つ。
(10) Juanvioundiamanteensudedoanularysuspir6profundamente.
(10)の文 を理解す るには,① ダイヤモ ン ドは指輪 についている宝石の こ とで, た また ま指 の上 に転が ってい るわけではない,② anularとい う 譜 が示す ように,「指輪 のための指」即 ち左 手 の薬指 を指す,③Juanは 左手の薬指 に指輪 をはめているとい うことで 「結婚」を表す文化の中にい る,の三点が想定 されていなければな らない。① は先 に挙げた (9)の解 釈が必要 とされるが,② 及び③ は文化的な知識であ り,結婚 した人間が左 手の薬指 に指輪 をはめない文化圏の人間には理解 で きない性質の ものであ
る。
以上 を総括す ると,ある文 を理解するには,①合成性の原理 に基づ く各 語桑項 目の意味, に加 え,②ゲシュタル ト知覚 によって拡張 された意味,
③文化的 。社会的知識,④ ある限定的なコンテクス ト,が必要 とい うこと である。 実際の言語運用では,①〜④の区別はファジー(fuzzy)なもので, 話 し手は特 に意識 してこれ らの情報 を使い分けているわけではない。
3.他 動性 に関 す る考 察
さて,(3)は二重 目的構文 とtoを取 る与格構文の比較であるが,その 違いは畢蒐文法形式の他動性 (transitividad)に起 因す る。 他動性 とはあ
る対象物 に対 して当該動詞句が どの程度影響 を及ぼすか とい う指標であ り, 同 じ動詞であ りなが ら用い られる構文 (文法形式)によって他動性が変化 することがある。 例 えば,以下の文を参照。
(ll) a. Marysang.
b. Marysangtothebaby.
C. Marykissedthebaby.
d。 Marykissedthebabyawake. e. Marysangthebabytosleep.
池上 (1991:89)
(lュa)のsangは自動詞であ り,他の対象 に影響 を与 えることはな く, 自己完結的である。 一方,(llb)のsangには付加詞tothebabyが与 え られ,影響 を与 える対象 を明示 してはいるが,その効果がthebabyに届 いたか どうかは不明である。 従 って,以下の ように命題 をキャンセルす る ことが可能である。
(12) Marysangtothebaby,buthewasn'tlistening.
(llC)では,Maryのキス した影響 は確実 にthebabyに届いてお り (即 ち,Maryがthebabyにキスをしたことは事実である),他動性 は (lib) よ りも高い。 (lld)で は,Maryがキスを した ことで対象物thebabyに
「起 きる (awake)」とい う変化が生 じてお り,他動性 は最 も高い。 (lle) も (lid) と 同 様 に,Maryが 歌 う こ と に よ っ てthebabyが 「眠 る (sleep)」とい う変化 を起 こしているため,他動性 は高い。
(ll)の観察か ら,構文 自体 にも他動性の強 さを読み取 ることがで きる。
おお よそ,他動性 は,(13a)か ら (13d)に行 くに従 って高 くなる。
(13) a. 主語 +自動詞
b。 主語 +自動詞 +付加詞 C. 主語 +他動詞 +直接 目的語
d. 主語 +他動詞 +直接 目的語 +付加詞
(3) に戻 る と,(3a)の二重 目的語構文ではMaryが 目的語 として機 能 しているため他動性が高 く, よってMaryがプレゼ ン トを受け取 らない とい う解釈 は存在 しない。 しか し, (3b)のtoを取 る与格構 文 で は, Maryがto前置詞句 に導かれて出現 しているため他動性が低 く,命題 の キャンセル (Maryがプ レゼ ン トを受 け取 らない とい う解釈)が可能 とな る。 この ように,他動性 は動詞の種類 だけでな く,表現 されている構 文 (文法形式)によって も決定 される。
また,スペ イン語 には,同 じ動詞で も自動詞 と他動詞の両方の機能を持 つ もの (即 ち,他動性が低い場合 と高い場合 を同 じ動詞で表現すること) が多い。
(14) a. Juancomeenelcomedor.
b. Juancomeunamanzanaenelcomedor. (15) a. Juantrabajaenunafabrica.
b, Juantrabajalatierra.
(14a)ではフアンが食べ るとい う事実が クローズア ップされるのに対 し, (14b)では食べ る対象 (unamanzana)が直接 目的語 として明示 され, 他動性が高 くなる(3)。 (15)のペ ア も同様 に,(15a)で はフア ンが働 いて いることが際立ちを持 ち,(15b)はその対象 (latierra)を明示す ること で,他動性が高 くなる。
更 に,動詞 の意味内容 も直接 目的語 を持つか どうか (即ち他動性 の高 さ)に応 じてわずかなが ら変化す る。 (15a)のtrabajaは単 に 「働 く」と いう意味であ り, フアンが具体的にどの ような働 き方を していたのか とい う様態 に関する情報はない ((15a)では, フアンが工事現場の監督 とい う 解釈 もあれば,事務従事者,工学者 な どの解釈 も可能 であ る)。一方,
(15b)のtrabajaは 目的語latierraの存在 によ り,「畑 を耕す」 とい う動 作の様態が動詞の意味に付与 される。
他動性の高 さは主語や 目的語 など動詞が要求す る項 (argumento)の種 類 によって も異 なる。即ち,他動性 は,被対象物が人間ない しは人間に準 ず るものか どうか,そ して,動作主が被対象物 にどの程度の影響 をもた ら
しているのか という語用論的な尺度によって も変化する。 例 えば,受動構 文で もその対象が変化す ると (即 ち,対応す る能動文 と比較す ると)容認 度に差が出る。
(16) a. Juandesert6elej6rcito.
(3) (14b)のJuanの リンゴの食べ方には 「動詞の限界」 とい う観念が想定 され ている。Juanが食べているリンゴは,食べつ くして しまえばな くなる。 従って, 現在進行形 にすると 「食べ る」行為が線的に解釈 され,「食べ尽 くす」 とい う 結果を想定 した意味は放棄 される (i)。 この時,「〜尽 くす」 を意味する再帰 代名詞 を付与すると容認度が下がる (ii) 0
(i) Juanesはcomiendounamanzana. (ii) ?Juanseestacomiendounamanzana.
b. *Elej6rcitofuedesertadoporJuan.
(17) a。 Todoslo§generalesdesertaronelej6rcito.
b. Elej6rcitofoedesertadoportodoslosgenerates.
(16a)では, フア ンとい う‑兵士が軍隊を脱走 したか らといって,直ち に軍隊が壊滅す る (即 ち,軍隊が甚大な影響 を受ける) ことにはな らない。
従って,影響が及ぼされるelej6rcitoを取 り立てて受動構文の主語にす る と奇妙 な文 となる (16b)。 しか し, (17a)の ように全 ての将校が軍隊 を 脱走 したな らば,軍隊 自体が壊滅す るほどの影響 を蒙ることになる。 従 っ て,影響が及ぼされるelej6rcitoを取 り立てて受動構文の主語に して も容 認 される (17b)。
この傾向は,スペ イン語のみな らず英語で も見 られる。
(18) a. Themoonwasreachedforthe丘rsttimein1969. b. *TokyoStationwasreachedbyPeter.
(19) *AliceisresembledbyTom.
(18a)では,アポロ11号 による初の到達によって,月の存在 には人類 に 対 して心理的に多大かつ有意義な 「変化」が もた らされた と想定 されるた めに受動構文が容認 される。 しか し,(18b)の ように,Peterとい う人間 が東京駅 に着いたか らといって,直ちに駅が聞 き手 に対 して心理的に多大 な 「変化」 をもた らす とは考 えに くい (しか し,Peterが指名手配中の犯 人で,行 く先 々で殺 人を繰 り広 げているような特殊 な文脈では (18b)ち 容認 され うる)o また,(19)ではTomがAliceに対 して余程 「似 るよう
に」働 きかけない限 り,受動構文は容認 されないであろう。
更に,以下のような文脈 を与 えられた場合,前者は適格だが,後者は容 認 しづ らくなる。
(20) a. iQu61ey6Juan?‑Elley61anoveladeCervantes.
b. AQu61ey6Juan?‑#LanoveladeCervantesfueleidapor Juan.
スペ イ ン語では基本的に後 に来る要素が新情報 を担 う。 (20a)は,前文 の問い に適格 に返答 してい るが,(20b)は前文の求 め る答 え (1anovela deCervantes)を既知情報が担 う場所 (即 ち,動詞の前の位置) に提示 し ているため,容認度 は低下す る。
この ように,他動性 は,①動詞の種類, に加 え,(参構文 (文法形式)の 種類,③項が持つ要素の種類,④文脈あるいは情報構造 に代表 される語用 論的要素, によって も異 なるとい うことである。
4L他動性の高低の指標
他動性 の高 さを測 る一つの指標 として, (3)で示 した ように当該命題 をキャンセルす る文 を後続 させ るとい う方法が取 られる。 しか し,キ ャン セルが可能か どうかは, 同 じ動詞であって も日本語や英語,スペ イ ン語 な
ど言語 間によって差異があるようである。
本稿では, まず他動詞ahogarを取 り上 げる。 通常,「溺れ (させ) る」
を和西辞書で引 くとahogarない しはahogarseが出て くるが,ahogar(se) と 「溺れ (させ) る」の他動性 は同 じではない。
(21) a. Juanahog6aCarmen.
b。 フア ンはカルメ ンを溺れ させた。
スペ イ ン語の (21a)ではカルメ ンが死 んだ こ とが含意 され るが,それ に対応す る 日本語の (21b)はそ うではない。従 って, 当該命題 をキ ャン セル させ る と容認度に差が出る。
(22) a. *Juanahog6aCarmen,peroellanomuri6.
b. フア ンはカルメ ンを溺れ させ たが,彼女 は死 ななかった。
(22)のペ アが 意味す る ところは以下 の通 りで あ る。 即 ち,(22a)の ahogarは対象物 が影響 を蒙 った結果,それが どうなったか とい う結果 を 含意す るの に対 し, (22b)の 「溺 れ させ た」には対象物 が影響 を蒙 った 結果の含意が ない。
この ように,行為 (溺れ させ る) とその結果 (死ぬ) との間に強い因果 関係がある場合,一方が他方‑転用 されることがある。 例 えば,dibujoは
「デ ッサ ン」の他 に 「措 くこ と」 とい う行為 も表 す こ とが で きるが, dibujoenlaparedは 「壁 に描かれた もの (作 品)」とい う行為の結果 によ る解釈 しかない。 日本語で も,「あや まる」 には 「誤 る」と 「謝 る」があ るが,語源的にこの二つ は 「誤 りを犯 した結果,迷惑 をかけた人に謝 る」
とい う行為 と結果の因果関係 の近接性か ら来ている(4)。
さて,(22b)をスペ イン語 にす る場合,寧 ろ (23a)の ようにtratarde を伴 って表す方が よい と思 われる。 また,状況 によっては迂言法iraで表 される場合 もある (23C)。
(23) a. Juantrat6deahogaraCarmen,peroellanomuri6.
b. フア ンはカルメンを溺れ させ ようとしたが,彼女 は死 なな
(4) この近接性 の因果関係 は,時 として文法化 (gramaticalizaci6n)を引 き起 こ す ことがある。例 えは 英語の完了の助動詞haveは,所有の意味 を表す本動 詞have(持 っている) に由来す る。Ibavereadabook.は, もともとIhave abookread.の ような構 文か ら派生 している。 後者では
,
「本 を読 んで しまっ てそれを所持 している」 とい う行為の結果 としての状態 に焦点が当て られてい る。 しか し,後 に行為 に言及 しつつ も先行する 「読む」 とい う行為 に重点 を移 してい き,最終的にhaveの所有の意味が弱 ま り助動詞化 した と考 え られる。スペ イ ン語 で も,完 了 を作 る助 動 詞haberは13世紀 にはaverとい う形 で, tenerと共 に 「保持す る
」
「持つ」 とい う意味 を持 っていた。 このこ とは,莱 語の完了形がhaveを用いていることと無関係ではない。かった。
C. Juanibaaahogarseenelrio,per°61nomuri6. a. フア ンは川で溺れかけたが,死 ななか った。
もう一つ,ahogar(se)が 「溺 れ (させ) る」に対応す るのではな く,
「溺死す (させ) る」 とい う複合語 に対応す る とい う考 え方がある。 つ ま り,スペ イ ン語 には 日本語の 「溺れ (させ) る」 に対応す る語が ない とい う見方である。 この考 え方 は,既 に近年の辞書ではかな り取 り入れ られて いるようである。 例 えば, 『ポケ ッ トプログ レッシブ西和 。和酉辞典 (小 学館)』や 『西和 中辞典第1版 (小学館)』には 「溺れ (させ) る」 と併記 して 「溺死す (させ) る」,『現代 スペ イ ン語辞典 (白水社)』や 『西和 中 辞典 第2版 (小学館)』には 「溺 れ (させ ) る」 の表記が な く,「溺死 す (させ) る」 と しか記載 されてい ない (「窒息 (死) させ る」 や 「絞殺 す (させ) る」は省 く)。逆 に, 『プログ レッシブスペ イ ン語辞典第2版 (小 学館)』には,「溺れ (させ) る」の表記 しかない。
酉酉辞典で見 ると,MariaMolinerのDiccionariodeusodelEspan〜olで は,ahogarを "Mataraalguiensumergi6ndoleenaguaoimpidi6ndole respirardecualquiermanera","Moriralguienpornopo°errespirar"ど 説 明 して お り, 結 果 状 態 を 表 す 「殺 す (matar)」な い し は 「死 ぬ
(morir)」が先 に説明 され,その様態 (「殺 し方」ない しは 「死 に方」)は 半 ば補 助 的 に説 明 され る。 また,SGELのGrandiccionariodeusodel espan〜olで も,ahogarを "Quitarlavidaaunapersonaoaunanimal privandoledelarespiraci6n,biensumergi6ndoleenaguaduranteun tiempo,bientapえndolela§viasrespiratoriasoapretandoleenla garganta"と説FDjしてお り,や は り結果状態 を表す 「命 を奪 う (quitarla vida)」を第一義 的 に説 明 してい る。 また,『Larousseスペ イ ン語版百科 事典 (2005年度版)』で も,ahogarを"Causarlamuertedeunapersona ounanimalimpidi6ndolerespirar"と説明 してお り,やは り結果状態 を表
す 「死 を引 き起 こす (causarlamuerte)」を第一義 的 に説 明 してい る。
その他,EspasaのDiccionariodelalenguaespan〜olaparaestudiantesde espan〜olで はahogarを"Mataralguienoalgo(aunapersonaoanimaD impidi6ndolelarespiraci6m"と 説 明 し,RealAcademiaEspa缶olaの Diccionariodelalenguaespan〜ola第22版 (2001)で も,ahogarを"Quitar lavidaaunapersonaoaunanimal,impidi6ndolelaresplraCi6n,yasea apret畠ndolelagarganta,yasumergiendoloenelagua,yadeotromodo"
と説明 している。
以上か ら, スペ イン語 には 日本語の 「溺れ (させ) る」 に相 当す る語句 はな く,ahogar(se)は 「溺死す (させ) る」 と結果状態 を表す複合動詞 で訳 した方が正確 であると言 うことになる。 結論 を急 ぐことはで きないが,
日本語では,結果状態 を複合動詞で表すのに対 し,英語やスペ イ ン語では 無標 の扱 いになっているように見受け られる。 更 に,動詞の様態 は 日本語 では複合動詞が担 うのに対 し,スペ イン語では動詞 に組み込 まれているか, 現在分詞 を用 いて表現す る傾向にあると言 える。
日本語ではキ ャンセルが可能で も,スペ イン語ではキ ャンセルが不可能 な語桑がahogar以外 に もい くつか存在す る。 例 えば,以下の例文 を参照。
(24) a. *Juanlepersuadi6aMariaparaquevinieraala丘esta,
peroellanovino.
b. フア ンはマ リアをパーテ ィに来るように説得 したが,彼女 は来なかった。
(25) a. *Fernandollamaporte16fonoaMargarita,per°ellano estabaen仁asa.
b。 フェルナ ン ドはマルガリー タに電話 したが,彼女は留守だ った。
(26) a. *Juanleayud6aMariaaresolveresteproblema,pero ellanopodiaresolverlo.