地域 ブラン ド研究 に関する一考察
一 地域 ブ ラ ン ド研 究 の現状 と今後 の課題
‑
沈 潔 如
1.は じ め に
近年,地域ブラン ドに関する議論は盛んに行われている。 日経テ レコン
21
を 用いて新 聞紙 (日経四紙 ・一般紙 ・地方紙) に掲載 された 「地域 ブラン ド」の 関連記事数を調べた ところ,地域 ブラン ドをめ ぐる新聞報道は2002
年か ら急増 し,2007
年 には2, 670
件 となって ピー クに達 した。 2008
年か らは少 々減少気味 であるが,相変わ らず2, 000
件以上の記事がある (図1 )。 このように地域 ブラ ン ドが報道対象 となった記事数の多 きは,各界において地域 ブラン ドに対する 関心の高 さを物語 っている。3000 2500 2000 1 500 1000 500
0
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09
出所 :R経 テ レコンを基 に筆者作 成 図1
新聞報道における 「地域ブランド」の関連記事数の推移〔 2 8
7〕地域 ブ ラン ドへ の期待 の高 さは,政府や地方 自治体が地域 ブラン ドに関す る 政策 を積極 的に行 っている現状 に現れている。例 えば, 中央省庁 による施策 に は,2004年度 に経済産業省中小企業庁が創設 した
「 J APAN
ブ ラ ン ド育成支援 事業」がある。 この育成事業 は,国際競争力のあ る地域 ブラ ン ドの発掘 を 目指 した もので,地域特性 を生か した地場 産業 をコーデ ィネー トして, ブラン ドカ のある製 品開発や新 しい市場 の開拓 を行 うプロジェク トを支援す る ものである (日本商工会議所2006)
。 そ して,地方 レベルでは,地域 の振興や活性化の方 策 として, 自治体が地域 ブ ラン ドを形成す るための取 り組み を積極 的に政策 に 取 り入れ る動 きが 目立 っている。47都 道府県の うち, 7割以上の 自治体が地域 ブ ラン ドに関す るセ クシ ョンを有 し,それ らの施策 目標 は 「産品」,「観光」 な どのブラ ン ド化か ら地域 イメー ジ全体 のブラ ン ド化 まで拡が ってい る (河久津&天野
2007 )0
こうした地域 ブラ ン ドに関す る活発 な動 きは, 日本だけではな く,海外で も 見 られ る。例 えば, シ ンガポールは
「 N
ew As t a‑Si nga po r e
」 とい うコ ンセ プ トで国家 ブ ラ ン ドを考案 し,2003
年 に起 きたSARS
の影響 で低 調気 味の観 光業 を振興す るための国家戦略 を打 ち出 した( 00 1200 4)
。地域 をブ ラ ン ド化 してい く動 きは, この ように国家 レベ ルか ら都市 や地方 レベ ルにお いて も起 こってい る( Ha nki ns o n 2001 )
。 そ して, Ha m ( 2001 )
は この ような状況 に ついて, 「ブ ラ ン ドカ のない国家 (地域) は,経済的,政治的注 目を集 め るこ とが難 しい」 と述べ, 「イメー ジ と評判 を確立す ることは,国家 (地域) の戦 略 にお いて極 めて重要 な部分 にな りつつ あ る」 ( Ha m 200 1 , p. 2‑3)
と明言 し ている。上述 した ように,本来商品や企業 に用い られるブランデ ィングの概念や手法 が実務的 に国や都市 といった地域 に応用 されることは,近年,研 究者の注 目を 集 めてい る。そのために,地域 ブラン ドを対象 とした研 究は,21世紀 に入 って か ら大量 に増 えて い る。 その代表 と して,海外 で は
Jour nalo fBr andMan‑
a ge me nt
の2002年4/5月号 に掲載 されたNa t i o nBr a ndi ng
特集,2002
年 に発行 されたDe s t i nat i o nBr a ndi n g ( Mo r ga ne ta 1 . ,2002)や200 4
年11月 に刊行 され地域ブランド研究に関する一考察
28 9
たPl ac eBr a ndi n g
な どを, 日本では2005年1 2
月 に信州大学 によって刊行 され た 『地域 ブ ラン ド研 究』,2006
年 に 『地域 ブラン ドと産業振興』(関 &及川 2006) や2009年 に発 行 され た 『地域 ブ ラ ン ド ・マ ネ ジ メ ン ト』 (電 通abi cproj ect 2009 )な どを挙 げることがで きる。 これ らの学術誌や書籍 に発表 された様 々な
論文は,地域 ブ ラン ド研 究の更 なる発展 に貢献す る もの となってい る。しか し,地域 ブラ ン ドに関 して多 くの論文が発表 されたに もかか わ らず,実 務家か らの 「地域 ブ ラン ドとは一体何 なのか」 (阿久津 &天野
200
7) とい う疑 問 や,研 究 者 に よ る 「地 域 ブ ラ ン ドの 定 義 は 多 岐 に渡 り不 明 確 で あ る」( Hanki ns on 2001 )
とい う見解 が よ く見受 け られ る。地域 ブ ラ ン ドに関す る 研 究 を進 めてい くためには,様 々な文脈で語 られている地域 ブラン ドの概念 を 整理す ることが きわめて重要であると考 え られる。 したが って,本稿 は現在 ま での地域 ブラン ド研 究の成果 について整理す ることを 目的 とし, まず地域 ブラ ン ド研 究 に影響 を与 える製 品ブ ラン ド論及 び原産国表示効果 に関す る研 究 につ いて述べ,そ して先行研 究 に基づいて地域 ブラン ドの概念 とその主 な論題 に関 す る研 究成果 を整理 し,最後 にそれ らを踏 まえて地域 ブ ラン ド研 究の今後の課 題 について考 えてい く。2.
地 域 ブラ ン ド研 究 に影 響 を与 え る諸研 究 の概 観前節で述べ た ように,地域 ブ ラン ドに関 してその研 究の歴 史はまだ浅い もの であ る。一方, ブ ラ ン ド論 は半世紀以上 に議論 されてお り, 「ブ ラ ン ド・エ ク イティ」,「ブラ ン ド ・アイデ ンテ ィテ ィ」 な どの中心的な論題 について見出さ れた知見の多 くは地域 ブラ ン ド研 究 に援用 されている。 また,地域 ブラン ド研 究 において重要 なキー ワー ドの一つである 「地域 イメー ジ」 については,地域 の範囲は異 なる ものの,原産国表示の効果 に関す る研 究成果が引 き継がれ,也 域 イメー ジが消費者 の購 買行動 に影響 を及 ぼす ことの立論根拠 となっている。
本節では,地域 ブラ ン ド研 究 に影響 を与 えたブラ ン ド論 と原産国表示効果 に関 す る研 究 について概観 してい く。
2. 1
ブラン ド研 究の流 れ地域 に関わるブラン ド議論の狙いは,地域 間の激 しい競争環境 において消費 者,生活者や企業 ・組織か ら支持 され,その地域 に何 らかの形での関わ り (例 えば,購 買,観光,交流,居住や企業 ・組織の拠点など) を持ち続 けて もらう とい うことにある。本節では,地域 ブラン ドに関する議論 を整理す る前 に,地 域 ブラン ド研 究に大 きな影響 を与 えるブラン ド論の研究の流れを大 まか に確認 す る。
ここ数年来,実務家や研究者 はブラン ドに対 して大 きな関心 を寄せ,様 々な 形で活発 な議論 を展 開 している。その議論 は 「ブラン ド ・イメージ」や 「ブラ ン ド ・ロイヤルテ ィ」 といった概念の登場 をきっかけに してお り
,1 95 0
年代 に 遡 ることがで きる (青木2000a)
。初期のブラン ド研 究は確率モデルを用いて 消費者のブラン ド選択行動の記述 と予測 を行 うものであった (長尾2008)
。 し か し,その実践的な有効性が指摘 され,認知面か ら 「ブラン ド・ロイヤルテ ィ」を捉 える議論が提唱 されるようになった。 ここでは消費者の継続的ブラン ド選 択の前提 には心の中でのプロセスがあ り,そのマ イン ド ・シェアに注 目するこ
とで購買予測 を実現で きることが強調 された (和 田
1 98 4)。
その後,1
99 0
年代 に入って 「ブラン ド・エ クイテ ィ」の概念が登場 し,ブラ ン ドとその資産的価値 に関する問題は,広告 ・マーケテ イング領域 における最 もホ ッ トな話題 として実務 と理論の両面か ら取 り上げ られて きた (青木1 997 )
0一方,近年のブラン ド議論の流れは,初期のような単 にブラン ドの財務的 ・ 金銭 的価値の重要性 を説 くだけの ものか ら,「いかに して強いブラン ドを構築 す るか」 とい う具体的な議論, または 「ブラン ドの機能 とは何か」 とい う本質 的な議論へ と,その焦点が大 き く変化 して きてい る。 Aaker (
1 99 6)は強い
ブ ラン ドを構築す るための枠組みや戦略課題 についての議論 を展 開 している が,その議論の中心 も,ブラン ドのエ クイテ ィか ら 「アイデ ンテ ィテ ィ」へ と 移 ってお り,そ こではブラン ド体系の構築 と維持 ・強化,あるいはブラン ド管 理 の組織 とい った全社 的マ ネジメ ン ト ・レベ ルでの話題が取 り上 げ られてい る。そ して彼は,機能的便益,情緒的便益 と自己表現的便益お よびそれ らと相地域ブランド研究に関する一考察
291
対価格 との組 み合 わせ によって構成 され る価値提 案か らなるブ ラ ン ド ・アイデンテ ィテ ィの明確化 こそ,強い ブ ラ ン ドを構築す るための必須条件 であ る とし てい る。
上述 した 「強いブ ラ ン ドの構 築」 の ような具体 的な議論 の ほか に, ブ ラ ン ド の機能 に関す る本質 的な議論 も現 れて きてい る。 池尾
( 1 9 9 7 )
によれば, ブ ラ ン ドの第一 の機能 は 「識別機能」 であ り, 当該商 品 を他 の類似商品か ら識別す るための手段 と しての役割 を果 たす ものであ る。 そ して,第二 の機 能 は 「品質 保証機 能」 で,提 供物 につ いて 品質 を保証 し, 「信 頼 の 印」 と しての役 割 を果 たす ものであ る。最後 に, ブ ラ ン ドの第三 の機能 は 「意味付 け ・象徴 的機能」で, ブ ラ ン ド提供 の対象 に意味 を与 え,それ を象徴 す る とい う役割 を持 つ もの であ る (青木
1 9 9 7 )
。商品 に付加 的な価値 を もた らす根 源 は, この ブ ラ ン ドの 意味付 け ・象徴機能 にあ る と言 える1) 。
ところで, ブ ラ ン ドの資産的価値 に始 ま り, ブ ラ ン ドの構 築お よび本質 を検 討 す る ところに至 った研 究 の流 れは,最近 になって,消 費者 の視点か らブ ラ ン
ドについて議論す る動 きへ と変化 を見せ てい る
。 Ke l l e r ( 1 9 9 8 )
の 「顧 客ベー ス ・ブ ラ ン ド ・エ クイテ ィ」論 は,消 費者 の知識構造 (ブ ラ ン ド知識) をベー ス と して,従 来の消 費者行動研 究の成果 との融合 を図 り, よ り体系 的なブ ラ ン ド管理 の枠組 み を提 示 しよ うと試みてい る。彼 に よれば 「顧 客ベース ・ブ ラ ン ド ・エ クイテ ィ」 とは, 「あ るブ ラ ン ドのマ ーケ テ イングに対応 す る消 費者 の 反応 に, ブ ラ ン ド知識が及 ぼす効果 の違 い」 であ り, この概 念の中心位置 を占 め るブ ラ ン ド知識 の構成次元 を 「ブ ラ ン ド認知」 と 「ブ ラ ン ド ・イメー ジ」 に 大 別す る ことがで きる。 そ して,第一 の構 成次元 であ るブ ラ ン ド認知 は, また「ブ ラ ン ド再認」 と 「ブ ラ ン ド想起」 に区分 されてい る。一方,第二 の構成次 元 であ るブ ラ ン ド ・イメー ジは, 「消 費者 の記憶 内 にあ るブ ラ ン ド連想 の反映
1)一方,消費者の購買行動におけるブラン ド機能が もた らす効果 として,①探索 コ ス トの削減,②知覚 リスクの削減,③情報処理 コス トの削減,㊨アイデ ンティティ の形成,お よび⑤ カテゴ リー知識の形成 な どをあげることがで きる (青木,
200 0b) 。
としての知覚」であ り, このブ ラン ド連想 には,抽象化 レベ ルに応 じて,属性 (製 品関連属性 と非 関連属性),ベ ネフ ィッ ト (機能的,経験 的 と象徴 的ベ ネ フ ィッ ト),お よび態度 とい う
3
つの タイプが存 在す る。 そ して,消費者 の望 ましい反応 を生み出す とい う意味で よ り高いブラ ン ド ・エ クイテ ィを生 じさせ るためには,ブ ラン ド知識 の構造が,(丑よ り強い レベルでのブラン ド認知,お よび②強 く,好 ま しく,かつユ ニー クなブラ ン ド連想 とい う条件 を満た さなけ ればな らない。上述 した消費者の側面 に着眼す る顧客ベース ・ブラン ド ・エ クイテ ィ研 究の ほか に,関係性マーケテ イングに関す る議論の影響 を受 け,消費者 ‑ブラ ン ド 間の関係性 の維持 ・強化 とい う点での重要性 を強調す る研 究 (田中
1 9 9 7
;和 田1 9 9 7 ;2 0 07 )や,消 費 の経験 的側面 を補足 して ブ ラ ン ドの トー タル価 値 を
再規定す ることの必要性 を主張 し,そのマ ネジメ ン トのあ り方 を問い直そ うと す る試み( Schmi t t1 9 9 9 ;2 0 03 )な ど,今後 に向けての新 たな研 究の動 きも出
て きてい る。上述 した ように, ブラン ド ・エ クイテ ィの概念が登場 して以来, ブラン ドは マーケテ イング上の一大研 究テーマ とな り,今 日において もその重要度 は依然 として高い位置 を占めてい る。 そ して,以上の ようなブ ラン ド研 究の流 れで蓄 積 されて きた知見は地域 ブ ラン ドの議論 に も大 き く影響 しているのであ る。
2. 2
原産 国表示の効果 に関 する研 究経済の グローバ ル化 に従 い,商品政策や消費者 ・バ イヤーの購 買行動 の分野 において,原産国表示や生産 国 イメー ジについての研 究が多数行 われて きた
( pa padopo ul os& He s l o p 2 0 0 2 )
。 この ように, イ ンターナ シ ョナル ・マーケ テ イング研 究 において,商品の原産国 ・生産国が重要 とされ るのは,商品 また はブラン ドが生産 される国のイメージが,消費者 の当該商品 またはブラン ドに 対す る連想( Aa ke r1 99 6;Ke l l e r1 9 9 8 )
,商品 またはブ ラ ン ド‑ の評価 及 び 購 買意図や購 買行動 (藤沢2 00 0 )な どに影響 を及 ぼすためであ る。 また,原
産国表示 で語 る国 とは別 に,州 (日本では都 道府 県),地方や市 町村 な どの地地域ブランド研究に関する一考察
293
理的場所 に対するイメージが このような連想や評価 に影響 を与 えることもあ り うる( Ke l l e r1 9 9 8 )
。そのため,原産国表示の効果 に関す る研究の成果は,地 域 ブラン ド研究に援用することがで き,生産地である地域のイメージが消費者 の商品選好 に影響 を及ぼす ことの立論根拠 となる。 したがって, ここでは先行 研 究をレビュー し原産国表示が もた らす効果 について考察す る。原産国表示は通常
,「 Ma
de
‑in…」
とい う表記で商品に付与さ れ ,それが価格, ブラン ド名,店の雰囲気 な どと共に,商品を評価する際の外部的な手がか りと なっている( Lee1 9 9
0)
。 また,「 Made ‑ i n…
」の ラベルを貼 り付 けることのほ か に,原産国や生産地の連想 を喚起す るために,原産国や生産地 を明記 または 何 らかの形で暗示す ることを,い くつかの事例で見ることがで きる。例 えば,「夕 張 メロン」や 「ブリテ ィッシュ ・エアウェイズ」のように,地域名や国名が実 際 に商品/ブラン ド名の中に組み込 まれることがある。あるいは,「ベ イリー ズ ・アイリッシュ ・クリーム」のように何 らかの形で商品/ブラン ド名 と組み 合 わされることもある。または,台湾の 「シンボル ・オフ ・エ クセ レンス」キャ ンペー ンのように,商品/ブラン ド広告 を通 じて原産国や生産地の連想 をさせ る方法 もある( Ke l l e r1 9 9 8 )
。 これ らの表示方法の中で,現在,地域 ブラン ド の多 くは地域名 を商品に組み込み,「地域名 +商品 (またはサー ビス)」のよう な表示の仕方 を採 っている。原産国表示が消費者 に もた らす影響や効果 について
, Lee ( 1 9 9 0 )
の整理 によれば国 と商品カテゴリーか ら先行研究の成果 をまとめることがで きる。国 別では, まず消費者 は 自国の商品を好み,高 く評価 す る傾 向があ る( Ja f f e &
Ne be nza h12 0 06 )
。 これは 自国商品 (またはブラン ド)や地域商品 (またはブ ラン ド)の購 買を促す 「地産地消」 とい う活動の有効性の立論根拠 となる。 ま た,ブラン ドを開発する国の経済発展 レベル (先進国か発展途上国か) は原産 国表示が もた らす効果 に影響す ることがある。特 に,商品またはブラン ドの発 祥国や商品カテゴリーにかかわ らず,消費者は発展途上国で生産 される商品よ り,先進国で生産 される商品を高 く評価する傾向がある( B
ilkey &Ne s1 9 8 2 )
0 グローバ ルなブラン ドが生産 コス トをダウンさせ るために発展途上国で商品を生産するケースは多いが,企業が生産地 を決める際には慎重 に選択 しなければ な らない と言 える。さらに,原産国や生産地のイメージは時間の経過 にしたがっ て変化す ることが指摘 されている
( Ja f f e & Nebe nzah12 0 0 6)
。 これは,国や 地域のイメージに対 して,その構築,維持,及び管理の必要性 を指摘す るものと考えられる。
なお,商品カテゴリー別で原産国表示 について考察す ると,商品 カテゴリー が異なれば原産国表示が もた らす効果 も異 なる。通常,関与度の高い商品,例 えば,車 などの耐久消費財やハ イテク商品について,消費者の評価 は原産国表 示 に影響 されやすい。 また, これ らの商品について,若干高い代価 を支払 って ち,消費者は好 ましいイメージを抱 く生産地の ものを購入 したがるとい う傾向 が,J
oha ns s on & Ne be nz ahl( 1 9 8 6 )
の調査で確認 されている。これはまさに, 原産国表示 または生産地 イメージが もた らす付加価値の存在 を示唆する結果で あ り,同様 に地域 イメージが地域 ブラン ドに付加価値 を もた らす ことを示 して いる。以上の原産国表示の効果 に関する研 究の成果は,企業や政府 ・自治体 によっ て原産国 または生産地 イメージを活用 した商品戦略や地域 ブラン ド政策 に反映 されている。他方,研究者 は原産国表示の効果 に関する議論 を地域 ブランデ ィ ングに取 り込み,地域 ブラン ド研究における重要 な論題である地域 イメージに ついて更 に探究を深めている。
3.
地 域 ブラ ン ドに関 す る基本 的概 念久保田
( 2 00 4)は,地域 ブラン ドのマネジメン トの第一の課題は,地域 ブラ
ン ドの コンセプ トの検討 であ ると述べ,地域 の範 囲を どの ように定めるか に よって,地域の 目指すイメージや地域 アイデ ンテ ィテ ィが変 わって くるとい う ことを示唆 している。 この ような見解か ら,地域 ブラン ドの概念を整理するこ とは,地域 ブラン ド研究 をしてい く上で重要であると考えられる。したがって, 本節ではまず 「地域」 とい う用語が指す範囲を検討する上で地域 ブラン ドの走地域ブランド研究に関する一考察 義 について述べ,最後 に地域 ブ ラン ドの特殊性 を提起す る。
295
3. 1
地域 ブラン ド研究で語 られる 「地域」の範囲日本 において, 「地域 ブ ラ ン ド」 を語 る際の 「地域」 の地理 的範 囲は,一般 的 に都 道府県や市 町村 な どを指す もの と して使用 されて きた (阿久津 &天野
2 0 0 7 )
。確か に,国立情報学研 究所のCi Ni i
を用いて,地域 ブ ラン ドをキー ワー ドとして論文 を検索 した ところ( 2 0 0 9
年1 1
月1 5
日現在),地域 ブ ラ ン ドに関す るケース ・ス タデ ィー研 究 には市町村 を研 究対象 とした論文が最 も多 く,その 次 は都道府県 とした ものであった。 これは, 日本の地域 ブラ ン ドの取組みが, 比較的に小 さなエ リアにおける国内の地域 間競争 とい う枠組みで論 じられてい ることの現れである。 また,地域 ブラ ン ド化の 目的 として居住や人材確保,投 資の獲得 な どが掲 げ られているが,現状 では殆 どの取組みは経済的な活性化 に 焦点 を当ててお り,研 究 もそのための製品開発や外部 に対す るマーケテ イング の視点か らの ものが多い。一方,経済的な視点か らの取組みのほか に, 日本の 地域 ブラ ン ドの取組み においては内部のマ ネジメ ン トを通 じて コ ミュニテ ィを 再構築す るとい う観点が加 え られてい る。 これは,行政や参加す る地域 の人々 が地域 ブ ラン ド形成 のプロセス を通 じて地域へ の愛着が再確認 され ることに強く期待 を しているため と考 え られる (例 えば,渡辺
2 0 0 6 ) 0
一 方, 海 外 にお い て 地 域 ブ ラ ン ドの 対 象 は
「 Count r yBrandi ng
」 や「 Na t i o nBr a nd i ng
」 とい う言葉 に表 され るように,国のブ ラ ン ド化 を対象 と した研 究が 中心 的であ る。例 えば,Ha nna&Ro wl e y ( 2 0 0 8 )
の研 究結果 で 示 された ように, ビジネス とマーケテ イング,及 び観光分野で1 0
種類 もある学 術誌のなか,「 Pl a c eBr a nd
」 に関連す る8 9
件 にお よぶ論文の5 0 %
以上 は,国を 対象 とした ものであ る。 これは,海外 での地域 ブ ラン ドの取組みは国際競争の 枠組みの中で議論が進め られているためである。 また,そのブラン ド化 の 目的 は,国際都市 において如何 に定住者や人材 を確保す るか,投 資の獲得な どであり,その手法 は地域 開発が主流 となっている。
以上の ように,国内外 において地域 ブラン ドの対象 となる地理的な空 間の広
狭 は異 な るが,その範 囲 は行政 の境 界線 に沿 って定め られ る ものが多い。一方, 行政 の境 界線 を越 える地域範 囲でブ ラ ン ド化す る試み もあ る。例 えば, イギ リ スでは複 数都 市が広域 連合 を して 「シェイクス ピアの州」 とい う地域 ブ ラ ン ド で観光客 を引 き寄せ る
( Ha nki ns on 2001 )
。 日本 にお いては,相似性 の持 つ複 数都 道府 県 (例 えば,東北 や北 陸地方)が提携 して,行政 区域 を超 えた 中間ブ ラ ン ド2)であ る地域 ブ ラ ン ドを創 造す る こと も可能 であ る。3. 2
地域 ブラン ドの定義上述 した ように,地域 ブ ラ ン ドは,商品 または企業 ブ ラ ン ドの概 念や手法 を 地域 に応用す る ことによって発展 して きた比較 的新 しい概 念 で,学術 的研 究の 歴 史は浅 いが,次 第 に注 目され るようにな りつつ あ る。 また,地域 ブ ラ ンデ ィ ングにつ いては 「マ ーケテ ィング戦略 を用 いて,地域 を対象 とす るブ ラ ン ド化 の プロセス」 とい う共通 の定義3)が な されてい る ものの,地域 ブ ラ ン ドその も の について定義 を試 み る研 究が少 ない上 に,研 究者 の間では一致 した見解 が存 在 しない。 その 中で注 目すべ き点 は,海外 の地域 ブ ラ ン ドに関す る文献 では, 地域 ブ ラ ン ドの定義 について研 究上 の議論 が ほ とん どされない まま議論 が展 開 されてい ることであ る。地域 ブ ラ ン ドにつ いての明確 な定義 が され なか った理 由 について,阿久津 &天野
( 2007 )は,「
地域 の どの側面 につ いてのマーケテ イ ングお よびブ ラ ン ド化 を考 えるか によって想定 され るブ ラ ン ドが異 なって しま うた め, 地 域 ブ ラ ン ドそ の もの を定 義 す る こ とが 難 しい」 (阿 久 津 &天 野2007 ,p. ll )
と指摘 してい る。2
)内田( 2 0 0 4 )の指摘によれば,地域ブランドには上位地域ブラン ドと下位地域ブ
ランドがあ り,階層構造 を成 している。また,上位地域ブランドはより広域で下 位ブラン ドを包含する。 ここでいう中間ブランドは行政区域 を越 えた もので,そ の上にはまた上位ブラン ドが存在する (例えば,国) と考えられる。3
)例えば, Kavar at zi s
&As hwor t h ( 2 0 0 5 )は 「
地域のブラン ド化は商品のブラ ン ド化理論 を地域 に応用すること」 と指摘 し, Ker r( 2 0 0 6 )
は 「ブラン ド戦略 と マーケテ イング手法や原則をシテ ィ,地方や国の経済的,社会的 ・政治的お よび 文化的発展に応用する」 ことと,地域ブランディングを定義する。地 域 ブ ラ ン ド研 究 に関す る一 考 察 297 本 稿 で は , 先 行 研 究 で 見 られ る地 域 ブ ラ ン ドに 関 す る 一 部 の 定 義 を表
1
の よ う に整 理 した 。 こ れ らの 定 義 は 商 品 や 企 業 ブ ラ ン ド理 論 の 影 響 を受 け な が らな さ れ た もの で あ る と考 え られ , 大 別 して ① 地 域 の 農 林 水 産 品 , 加 工 品 や 特 定 の表
1
地 域 ブ ラ ン ド概 念 の定 義著 者 √⊥一スE. 手二三占篭̲
Ra i ni s t o ( 2003)
企業の傘ブ ラン ドの ような ものであ る( p. 50)
内田
( 200 4)
十,特産品な ど)が,固有の価値があ るもの として,地域 を取 り巻 く様 々それぞれの地域 の持つ イメー ジ (景観, 日然環境 ,歴 史背景,文化 .風 なステー クホル ダーによって広 く認知 された ものであ る( pp. 37‑3 8)
青木( 200 4)
一般於業 における於業 ブラン ドと同 じく,個 々の地域 資源 ブラン ドを束ね導いてい く存在であ る
( p. 1 5)
Bl i c hf e l dt
* あ るエ ンテ ィテ ィ (デ ステ ィネー シ ョン) に関す る,消費者 (観光客)( 2005)
の記憶 にあ る連想 を反映す る知覚 によって構成 される( p. 393)
生 田 ら(2006)
地域 ブ ラン ドとは,屋根 (地域) と柱 (人材 .定住,観光 .交流,地産品販売拡大,投 資促進 .産業振興)の うちの屋根 の部分 を指す
( p. 33)
小池 ら(2006)
あ る地域か ら財 またはサー ビスを識別 し,競争地域のそれか ら差別化 しようとす る特有の名前かつ またはシンボル
( p. 1 29)
阿久津 &天野 地域の活性化 を H的 とした,あ る地域 に関係す る売 り手 (手集団)の,当該地域 と何 らかの関連性 を有す る製品 を識別 し,競合地あるいは売 り
( 200
7) 域 の もの と差別化す ることを意図 した名称,言葉,シンボル,デザ イン,あ るいはその組 み合わせ
( p. 1 5)
佐 々木
( 200
7) や観光客等)が高い評価 を くだ し,それが地域経済の発展 .活性化 につ「地域発の商品 .サー ビス」や 「地域 イメー ジ」 に対 して顧客 (消費者 なが つてい くもの( pー 11 2)
行政 関連文献で見 られ る定義
北海道経済産業 それぞれの地域 イメー ジ (と関連 させ なが ら,製品 .産品,サー ビスの開発 や高付加価値化 に地域景観, 日然,歴史,風十,文化,素材な ど) 局(
200 4)
全体で取 り組 む ことによ り,一種の差別化 された価値 を生み出 し,その価値が広 く認知 され求め られることで形成 される もの
( p. 1 )
知的財産戦略本
那 ( 2005)
地域弟 +商品 (役務)令 (p一 1 5)
lll/ト允業基盤整
備機構
( 2005)
地域 に対す る消費者か らの評価 であ り,地域が有す る無形資産の一つで,地域その もののブラン ドと,地域の特性 を生か した商品のブラン ドか ら*観光地ブ ラン ドについての定義
観光サー ビスな どの個別ブ ラン ドを識別す る もの として,地域 ブラ ン ドを 「地 域名 +商品 (サー ビス)名」 と定義す る考 え方 と,②地域全体 をマ ネジメ ン ト
し,傘 ブ ラン ドの ように個別の地域 ブ ラン ドを束ねる存在 として,地域 ブラン ドを 「地域 イメージその もののブラン ド化」 と定義す る考 え方の
2
つの流れが あ る。以下では, これ らの定義 に含蓄 された意味 を考察 していく 。本来
, Br a nd
(‑ブ ラ ン ド) とい う言葉 には,商品や家畜 な どに押 す 「焼 き印」 とい う意味があ り, Br a nd
を 「商標」 とい う言葉 に訳す ときは, ブ ラ ン ドを 「識別す るための印」 とい う意味 として捉 える。 ブラ ン ドを識別す るた めの商標 として地域 ブラン ドを捉 える見方 は,2006年4月 1日か ら施行 されて
い る改正商標法で確認す ることがで きる。知的財産戦略本部 コンテ ンツ専 門調 査会 日本 ブラン ド ・ワーキ ンググループの提言 によって,地域 ブラ ン ドを保護 す るため に一部改正 された商標法 では, 「地域 ブ ラ ン ド」 は 「地域 団体商標」として見 られ, 「地域 の名称 +商品 または役務 の普通名称 (あ るいは慣用 され てい る名称)」か らなる商標 は 「地域 団体商標」 として登録が認 め られ る (商 標法
7
条の2
第1
項)。実際 に商標法 の規定 によって認 め られてい る地域 ブ ラ ン ドを見てみ る と,登録 されているのは主 に伝統工芸品,農林水産品や加工品 な どの商品で, また温泉 といったサー ビス もある。 したが って, この法 的な見 解 か ら地域 ブラ ン ドを 「地域 +商品 (またはサー ビス)名」 と定義す ることが で き, また, これは一般的 に認識 されている 「地域 ブラ ン ド」であ る。しか し,関&及川
( 2006)が指摘す るように, このモ ノ中心の捉 え方 で定義
され る地域 ブ ラ ン ドは, 「従来的な」地域 ブ ラ ン ドと認識すべ きであ り, これ か らの 「新 たな」地域 ブラ ン ドは 「特 産品」や 「観光」 とい った一つの側面か ら地域資源 を見つめ るのではな く,総合的な視点で地域 を評価す ることが必要 である。 そ こで,現時点での この定義 は,地域 ブ ラン ドの一側面 しか示 してい ない と言 える。一方, 「識別す るための商標」 か ら進 んで,阿久津 &天野
( 2007)
はAMA
によってなされた 「ブラン ド」 の定義 に したが って,地域 ブ ラン ドを 「地域 の 活性化 を 目的 とした,ある地域 に関係す る売 り手 (あるいは売 り手集団)の,地域ブランド研究に関する一考察
29 9
当該地域 と何 らかの関連性 を有 す る製 品 を識別 し,競合地域 の もの と差 別化す る ことを意図 した名称,言葉,シ ンボル,デザ イ ン,あ るいはその組み合 わせ」(阿久津 &天野
2007
.p.15 )
と定義 す る4)。 また,類似 した捉 え方 で,小池 ら( 2006)
は 「あ る地域 か ら財 またはサ ー ビス を識 別 し,競争地域 のそれか ら差 別化 しよ うとす る特 有 の名前かつ また は シ ンボル」 (小 池 ら2006
,p.1 29 )
と, 地域 ブ ラ ン ドを定義 す る。 これ らの定義 で は, 「識 別す る」 とい うこ とか ら発 展 し,競合地域 の もの と 「差別化」す ることを意 図 した もの として地域 ブ ラ ンドを捉 えてい る。顧 客 とその地域 また はその地域 か らの商品やサー ビス に とっ て,地域 ブ ラ ン ドの価値 は この 「差 別化」 に よ り生 じる。
これ までの議論 で は,地域 ブ ラ ン ドの実施 ・管理主体 の視 点か ら地域 ブ ラ ン ドを捉 えて きた。一方
, Bl i chf el dt ( 2005 )
は,顧 客ベ ースの ブ ラ ン ド ・エ ク イテ ィを提 唱 したKel l er ( 1 998)
の, 「ブ ラ ン ドは消 費者 の心 の 中に存 在す る ものであ る」 とい う見解 に したが って,観光地 (地域 ) ブ ラ ン ドを 「あ るエ ン テ ィテ ィ (デステ ィネー シ ョン) に関す る,消費者 (観光客) の記憶 にあ る連 想 を反 映す る知覚 に よって構 成 され る もの」 (Bl i chf el dt2005 ,p. 39 3)
と定義 す る。この ように顧 客 の視 点 を入 れて地域 ブ ラ ン ドを定義す る もの と して,佐 々 木( 2007)
と内田( 2004)
の研 究 を挙 げる ことがで きる。佐 々木( 2007 )
は,「地 域 発 の商 品やサー ビス」に 「地域 イメー ジ」を加 え,これ らの もの に対 して 「顧 客 (消費者や観光客 な ど) が高 い評価 を下 し,それが地域経 済の発展 ・活性化 につ なが って い くもの」 (佐 々木2007 ,p.11 2)
と して地域 ブ ラ ン ドを捉 えて い る。 この定義 は,顧客 の視点 に立 った上 で 自治体が地域 ブ ラ ン ドに託す る期4
)阿久津&天野( 2 0 0
7)の説明によれば,彼 らの定義において地域ブラン ドの実施 ・ 管理主体 を 「ある地域に関係する売 り手」 と規定する理由は,地域 とは無関係の 第三者が地域 ブランドのエクイテ ィを搾取 しようとする目的で不正な事業を行っ ているようなケースを排除するためである。 また,「売 り手」 と呼ばれる実施 ・ 管理の主体 は,民間事業者に限定せず,政府 ・自治体 を含む。 さらに,「当該地 域 と何 らかの関連性 を有する製品」 という記述は,その地域 と文化,歴史, 自然 環境などの側面でつなが りを持つ広義的な製品と指 し,地域 ブランドの付加価値 の源泉がその地域性にあることを明示 したものである。得 を明確 に した もの と言 える。 また,内田
( 2004)
は消費者 の観点 をさらに拡 張 し,地域 ブラ ン ドを 「それぞれの地域 の持つ イメージ (景観, 自然環境,磨 史背景,文化 ・風土,特産品な ど)が,固有の価値があ る もの として,地域 を 取 り巻 く様 々なス テー クホル ダー に よって広 く認知 された もの」 (内田200 4
,pp.37 ‑38)
と定義 す る。 その上 で彼 は,地域 ブ ラ ン ドは 「地域 の価 値」 が地 域 ブラン ドと関わ りのある 「地域 内の消費者,生活者,関連組織 といった (全 ての) ステー クホル ダー達 に理解 されて初 めて構 築 され る もの」 (内田200 4
,p.28)
と指摘 してい る。顧客 またはステー クホル ダーの視点 に立 って地域 ブラン ドを論 じるこれ らの定義 は,売 り手あるいは売 り手集 団が図る差別化 は顧 客 またはステー クホルダーの認知 によって生 じることを示す概念であ り,地域 ブ ラ ン ドの 「内的構 造」5)(青木
2000a)
の一部 を示 した ものであ る と考 え ら れ る。最後 に, Rai
ni s t o ( 2003)は個別 の商 品やサー ビス に焦 点 を当て る視 点 と
は異 な り,地域 その ものの代表性 と統一性 を強調 し,地域 ブ ラン ドを 「企業の 傘 ブラン ドの ような もの」 (Ra i ni s t o2003 ,p.5 0)と例 えている。青木 ( 200 4)
や生 田 ら( 2006)
も同様 に,企業 ブラ ン ドが傘の ように企業 内の商品やサー ビ スのすべ てを覆 ってそれ らを統一す る象徴 であるように,地域 ブラ ン ドを個別 ブ ラ ン ドであ る 「柱」 を覆 う 「屋根」 に擬 え (生 田2006,p.1 5)
,「個 々の地 域 資源ブ ラン ドを束ねる存在」 (青木200 4,p.15 )
として捉 えてい る。前述 した地域 ブラ ン ドを 「地域名 十商品 (サー ビス)名」 として捉 える定義 と比べて, この ように地域 その もののブラン ド化 こそ地域 ブ ラン ドであ ると主 張す る議論 には
,2
つの大 きな特徴がある。一つ は,地域 とかかわ りのある個 別 ブラン ドの構築 よ り,地域 イメージのブラ ン ド化お よび全地域 を挙 げての地 域 ブラン ド ・マ ネジメ ン トの重要性 を強調す ることで,前者 の定義 には無か っ5
)青木( 2 0 0 0 a )によれば,ブランド研究における 「
内的構造」のアプローチとは 個別ブランドの構造条件を重視する視点からのアプローチである。ブランドの内 的構造を探る研究の代表として,消費者が有するブランド知識の構造に焦点を当 てた顧客ベース ・ブランド・エクイティ論を挙げることができる。地域ブランド研究に関する一考察 301 た地域全体の視点で地域 ブ ラン ドを捉 える点であ る。 もう一つは,地域名の付 与 によって生 じるブ ラン ドの識別的機能 に加 え, ブラン ド化 された地域 その も のが傘 ブ ラン ドの ように傘下 にある個別ブラ ン ドに対 してエ ン ドーサー として 作用す る統括 的な存 在 として地域 ブラ ン ドを捉 えることで,地域 ブ ラン ドの保 証 的機能 と象徴 的機能 を明示す る点である。
これ まで,地域 ブ ラン ドの定義 に関 して 「地域名 +商品 (サー ビス)名」の ブ ラン ドと,「地域 その もの」のブ ラン ドの,二者の議論 を別 々に述べて きた。
しか し, この
2
つの定義で語 られる地域 ブラ ン ドは対立す る概念ではな く,む しろ互い に依存 しあ う存在であ る。個 別地域資源のブラ ン ドは地域 ブラン ドの「核」 となって,柱 の ように傘 ブラン ドとしての地域 ブ ラン ドを支 え, また地 域 その もののブ ラン ドは,地域 が提供す る価値総体の 「象徴」 となって傘の よ うに,個 々の地域 資源ブラ ン ドをバ ックア ップす る (青木
200 4)
。両者がスパ イラルの ように作用 を起 こす ことによって,そ こに地域 ブラ ン ドの相乗効果が 生 まれる可能性があ る。3.3
地域 ブラン ドの特殊性前述 した ように,1
9 80
年代か ら活発 に研 究 されて きた製品ない し企業 ブラン ド理論 は,地域 ブラ ン ド研 究 に大 きな影響 を与 えている。特 に,地域 ブラ ン ド の構築やマ ネジメ ン トについて,多 くの実務家や研 究者がブ ランデ ィングやブ ラン ド ・マ ネジメ ン トの概念や手法 を応用 して きた。一方,地域 ブ ラン ドは製 品や企業 ブラン ドよ り複雑 で,マ ネジメ ン トす ることは極 めて困難であ ると指 摘 す る先行研 究 もあ る (Bl i chf el dt2005)
。 ここで は,地域 ブ ラ ン ドの構築 ま たはマ ネジメ ン トの主体,その客体 (ブ ラ ン ド化す る対象), ブ ラ ン ド化 され る地域 の範囲,地域 ブラン ドのマ ネジメ ン トに対す る行政的影響 の4
つの側面 か ら地域 ブラン ドと一般的ブラン ドの異 なる部分 を見てい く。第
1
に,一般のブ ラン ドを構築 しマ ネジメ ン トす る主体 は単一であるのに対 し,地域 のブラ ン ド化の主体 は多数で,不 明確 であることが指摘 で きる。前節 の地域 の定義で述べ て きた ように,地域 ブラ ン ドは農林水産品,加工品や特定表
2
一般商品とブラン ド化の対象としての地域の比較一般商品 地域
実施主体 企業組織 地方自治体 (都道府県 .市町村) 住民 .生産者 .法人 (大学 .財団等) .民間団体
最終 日的 企業利益の増大 地域の活性化
地域への満足感の向上
コミュニ
ケーションの対象 (消費者 .企業)顧客 産品 観光 住みやす さ 投資受け入れ 顧客 (消 費
者 .企業) 旅行者 潜在住民住民 . 企業 .投資家
従業員 生産者など 住民 .観光業者など 工事業者など 銀行など 自治体職員
株主 納税者
出所 :阿久津 &天野
2 0 0 7
,p.1 4
の観光サ ー ビスな どの個別商品やサー ビス に よって構 成 され る融合体 で,それ は多 くの公 共 部 門 と民 間部 門 の 共 同生 産 に よ って創 出 され る
( Hanki ns on
2 007 )
。 しか し,地域 ブ ラ ン ドを構築 し管理 す る とい った経営 的責任 は一体誰 が担 うべ きか とい う問題 には明 らか な答 えが ない ことも多い。地域 をブ ラ ン ド 化 す る際 に,地域 の有志が発起 人 とな る場 合 もあれば 自治体 が先導す る場合 も あ る。 また民 間部 門 と公共部 門が協力 す る場合, どち らが イニ シアチ ブ を とる のかが不 明確 な こと もしば しばあ る (久保 田2 00 4)
。 さ らに,公共部 門 におい て水平 的 にまたは垂 直的 に行政 の管轄 が重複す る とい う問題 も,地域 ブ ラ ン ド の主体 の多様性 と不 明確 さを もた らす。一般 のブ ラ ン ドをマ ネジメ ン トす る主 体 が単一かつ 固定的であ る ことに対 して,地域 ブ ラ ン ドをマ ネジメ ン トす る構 成 メ ンバ ーは流動 的で入れ替 わ ること もしば しばあ る。 固定 的な主体が存 在 し えない こ とは,一般 のブ ラ ン ド ・マ ネジメ ン トにはない,地域 ブ ラ ン ドの特殊 性 であ る。地域ブランド研究に関する一考察
30 3
第2に挙 げる側面 は,地域 ブ ラン ドの客体,す なわちブラ ン ド化 され る対象 が多様である点であ る。 ブ ラン ド化 される地域 は,実際 には景観, 自然環境, 歴 史背景,伝統,文化,風土,産業 といった様 々な地域特性 によって構成 され, それぞれが地域 ブラ ン ドの 「商品」となるのである (内田2 0 0 4 )
。この ように, 一つの地域が多様 な種類の地域 商品を持 ってお り,それ らが 同時 に異 なる 目的 を持つ様 々な顧客 に消費 されてい るのであ る (Ha nki ns o n 2 0 0 7 )
。 また,それ ぞれの顧客 は異 なる便益 の束 を求めるため,地域 ブラン ドのマ‑ケ タ‑ (地域 ブ ラン ド構築やマ ネジメ ン トの主体) は,多性質で多様 な地域商品 をデザ イ ン して創 出 しなければな らない。 また地域 には, これ らの地域 商品を構成す る地 域特性 と共 に,そ こで活動す る組織 (企業 な ど)や生活す る人々 (住民 な ど) も含 まれている。そ して組織 を構成す る人 々や地域 で生活す る人々は, 自分た ちの地域 について様 々な意識 を持 ってい る。 (地域 商品 には多 くのサー ビス経 験 が含 まれるために)異 なる意識 を持つ地域 の人 々と地域商品やサー ビスを消 費す る顧客 とのエ ンカウンターが, さ らに地域商品の多様性 を生み 出 している ことに留意 しなければな らない。 この ように一般 のブラ ン ドと違 って,地域 ブ ラン ドには多 くの人 々の 自律 的な意識が存 在 し, ブラン ド化 される対象が多様 であるとい う特性がある。第
3
の側面 は,ブ ラン ド化の範囲についてであ る。 ブ ラン ド化 される地域 の 範 囲は,通常の製品やサー ビス ・ブラ ン ドと異 な り,あ らか じめ明確 に規定 さ れていない (久保 田2 0 0 4 )
。地域 の境 界線 は行政 区画 によって決め られている が,実際,地域 ブラ ン ドでい う地域 の範囲は何通 りもあ ると考 え られる。 1つ の県 (例 えば,福井県)が単独 に地域 ブラン ドを打 ち出す こともで きる し,近 隣の県 と合 同で よ り広域 の範囲 (例 えば,北陸地方)で地域 ブラン ドを打 ち出 す こともで きる。地域 ブラ ン ドの地理 的範 囲をどの ように定めるか によって, 地域 ブラ ン ドのアイデ ンテ ィテ ィは変 わる。 また,地域 ブラ ン ドの範囲の選択 は,上述 した地域 ブ ラン ドの主体の変化 に も影響 す る。最後 に,ブラ ン ドに対す る行政的影響 について考 える。一般のブ ラン ドの構 築や管理 は,多 くの場合単一企業 によって規定 されるの に対 し, 自治体 レベル
における地域 ブラン ド戟略の策定や推進 には行政的側面か らの影響 を無視で き ない。通常,地域 ブラン ド戦略の多 くは,中央政府の法律や規制の下で,民間 部 門の意見 を統合 しなが ら,地方 自治体 によって策定 され る
( Par ke r s on &
Saunde r s2 005 )
。そのため, 自治体が地域 ブラン ド戦略 を策定す る際 に,下 位 自治体の政策は上位 にある自治体の政策に影響 されやすい。 また,海外では 政治的な影響 も見 られる。例 えば,公共部門である自治体が外部顧客 (観光客 など)や内部顧客 (住民な ど) に対 してサー ビスを提供する施策には,内部の 政治勢力 (すなわち議会)の承認 を要する。 自治体の行政担 当者が,地域の潜 在的能力 を発見で きて も,適切 なブラン ド戦略を実行で きる最終決定は,任期 制限のある政治家 に委ねなければな らない( Ha nki ns o n2 0 07 )
。 したがって, 既定の政策が中止 される可能性があ り, このような政策の不連続性 は地域 ブラ ン ドの長期的な 目標 の構築や達成 に支障を与 えることになって しまう。一方, 既 に指摘 した よ うに,地域 ブ ラ ン ドのマ ネジメ ン トの主体 は個 人や企業,NPO
な どの多数な組織や人々が含 まれてお り,固定的な組織ではない。しか し, 地域 ブラン ドの構築や管理 には長い時間を要するため,主体の中に永続的な組 織 の存在が必要 と考 えられる。そこで,永続的な組織である地方 自治体 は,地 域 ブラン ドの構築や管理 を支える役割 を担 うことにおいては意義がある (電通abi cpr o j e ct2 0 09 )
。行政機関や政治機関の介入は,地域 ブラン ドの構築や管 理 における特殊な一部分である。4.
地域 ブラ ン ド研 究 にお け る主要 な論題前節では,地域 ブラン ドの概念に関する基本的な認識 について,先行研究の 見解 を整理 して きた。本節では,地域 ブラン ド研 究において重要な論題である
「地域ブラン ドの構築」,「地域 ブラン ドのマネジメン ト」 と 「地域 ブラン ドの 評価指標」 について,先行研究 をレビュー してい く。
地域ブランド研究に関する一考察 305
4.
1 地域 ブラン ド構築 の プ ロセス一般 の ブ ラ ン ドと異 な る特徴 を もつ地域 ブ ラ ン ドに関 して, 「いか に地域 ブ ラ ン ドを構築 す るか」 とい う具体 的な議論 は,実務家や研 究者 の関心 の焦点 と な ってい る。例 えば,青木
( 200 4)
は地域 資源の ブ ラ ン ド化 に始 ま り,地域 全 体 をブ ラ ン ド化 し, それ を地域 の活性 化 につ なげてい く上 での基本 的プ ロセス を提示 している (図2)。
この地域 ブ ラ ン ド構築 プ ロセス には
4
つ の段 階があ る。第1
のス テ ップでは, ブ ラ ン ド化可 能 な個 々の地域 資源 を選 び出 し,地域性 を最大 限 に活用 しつつ,・、(+.))・、(.i..)) 農林水産物ブランド 加工品ブランド 核としての「地域性」 商業地ブランド 観光地ブランド
ブ ラ ンデ ィ ン グの 「場 」 と して の地域 性
「(.1)、・
㊨ 「地域性」 を生か した地域資源のブランド化
②地域資源ブラン ドによる地域全体のブラン ド化
③地域 ブラン ドによる地域資源ブラン ドの底上げ
㊨地域資源ブラン ドによる地域 (経済)の活性化
出所 :青木
2 0 0 4 , p. 1 6
図2
地域 ブラン ド構築の基本構図ブ ラン ド化 してい くことになる。地域全体 のブラ ン ド化 において柱 とな りうる 地域資源 には,農林水産物,加工品,商業集積,観光地 とい った ものが挙 げ ら れ るが,農林水産物であれば,「産地的な正 当性 ・独 自性」,観光地であれば 「自 然 ・歴史 ・文化的な差別性」 といった地域 を生か した形 でのブラン ド化が重要
とされている。
次の第
2
のステ ップは,第1
のステ ップで確立 された地域 資源のブラン ドを 柱 としつつ,そ こに共通す る地域性,すなわち,当該地域 の 自然,歴 史,文化, 伝統 に根 ざす 「地域 らしさ」 を一つの核 として,傘 ブラ ン ドとしての地域 ブラ ン ドを構築 してい く段 階である。当該地域 が提供す る価値の総体 を傘 ブラ ン ド としての地域 ブ ラン ドを象徴す ることによって,個 々の地域資源のブラン ドと 全体 としての地域 ブ ラン ドの間に,強い相互補完効果,相乗効果が生 まれる可 能性があ る。第
3
のステ ップは,傘 ブ ラン ドとしての地域 ブ ラン ドによる地域 資源 ブラン ドの強化 と底上 げの段 階である。地域 ブラン ドが象徴す る地域性 と各地域資源 ブ ラン ドに共通す る地域性 との間に一貫性 ・整合性が存在 し,そ して第1
,第2
のステ ップによって当該地域 が提供す る価値の総体が一つの地域 ブラン ドに よって集約 され象徴 されるのであれば,個 々の地域資源 ブラ ン ドは全体 として の地域 ブ ラン ドの後光効果 によって高め られる。最後の第4
のステ ップは,底 上 げされた地域資源 ブラン ドによって,地域が活性化 される段 階である。具体 的 には,農産物や加工品のブラン ドが地域外で売れることや,買い物客や観光 客 の流入 による直接 的な経済効果が期待 される。各地域資源 ブラン ド間の相互 関係が強 ければ,その波及効果 も大 き くな り,地域活性化の効果 も大 きくなると考 え られる。
上述 した青木の地域 ブラ ン ド構築 プロセス と類似 した観点で,生 田 ら
( 2006)
はKel l er ( 1 99 8)
の顧 客ベース ・ブ ラ ン ド ・エ クイテ ィ構 築 の考 え方 を地域 ブ ラン ドに当てはめ,地域 ブラ ン ド構築の施策対象が地域 イメー ジ (知識影響) か個別ブ ラン ド (青木の 「核 とす る地域 資源ブラ ン ド」の こと) とな り,その 効果が地域 イメージか ら個別ブ ラン ドへ, また個別ブラ ン ドか ら地域 イメージ地域ブランド研究に関する一考察
307
へ と影響 しあ うとい う流れ を提示 した。 この考 え方 に基づいて,彼 らは 日本国 内の12
自治体 (都 道府県,政令指定都市)を事例 として,その関連施策 を対象,目的,地域 イメージの違いの観点か ら整理す ることを試みた。その結果,地域 ブ ラン ド構築の施策 は 「地域 イメージ ・個別ブラ ン ド総合型」,「地域 イメージ 施策 ・個別ブラ ン ド波及型」,「個別 ブラン ド施策 ・地域 イメージ波及型」と 「個 別 ブラン ド特化型」 の
4タイプに分類 されている
。地域 ブ ラン ドの構築 に関す る事例研 究 を概観す ると,その多 くは個別 ブラン ドの構築 に焦点 を当て,地域 の特産品である農林水産物 のブ ラン ド化 を取 り上 げている (波積
2 0 0 4
;徐2 0 0 4
;田原 ら2 0 0 8 )
。一方,青木( 2 0 0 4 )
の地域 ブ ラン ド構築のプロセスで見 られ るように,地域 ブ ラン ドの構築 は個別的な地域 の生産物 のブラ ン ド化 に止 まらない。最大 な効果 を求め個別 ブラン ドの確立か ら地域全体のブ ラン ド化‑発展 させ ることは,地域 ブラ ン ド構築 に関わるアク ターの課題 となる。4. 2
地域 ブラン ド ・マネジメン トの課題地域 ブ ラン ドのマ ネジメ ン トに関 しては,久保 田
( 2 0 0 4 )
の研 究があ る。彼 は関係性 の深 さによって地域 ブ ラン ドの構築や管理 と関わ りを持つ地域 の組織 や人 々を,① 中核 メ ンバ ー (自治体や地域 の振 興会な ど),②主要 メ ンバー (特 産品 メー カーや商店主 な ど),③周辺 メ ンバー (一般企業や住民 な ど) の3
つ に分類 している。 中で も,地域 ブラン ドのマ ネジメ ン トを担 う中核 メ ンバーに は3つの課題が与 え られ ることになる (図3)。 第1
の課題 は地域 ブ ラ ン ドの コンセプ トの検討である。 これはその地域 を どうとらえるか とい う問題 で,具 体 的にはブラン ド化 を 目指す地域 の範 囲, ターゲ ッ ト,地域 のブラ ン ド ・アイ デ ンテ ィテ ィの策定が組み込 まれる。 第2
の課題 は地域 内部のマ ネジメ ン トで あ る。 これは地域の組織や人々が,地域 ブラ ン ドのアイデ ンテ ィテ ィを十分 に 共有 し,地域 ブ ラン ドの構築 に肯定的な態度 (好意的 または協力的) な態度 を 抱 いてい る状態 を実現す ることである。 第 3の課題 は地域外部のマ ネジメ ン ト である。 これは地域外部の人々が地域 ブラン ドのアイデ ンテ ィテ ィを十分 に理地域外 部 の意識 地域 の
BI d
の理解 と評価地域 内部 の意識 地域 の
BI d
の共有 と肯定 的態度 の形成
出所 :久保田 2004.p.8 図
3
地域 ブラン ドのマネジメン トの課題解 し,当該地域 に対 して他 の地域 とは異 なる魅力 を感 じてい る状態 を実現す る ことであ る。
久保田