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郡山地域における「地産地消」の主体

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理論地理学ノート,No.22(2020),1~18

郡山地域における「地産地消」の主体

-生産者と消費者の非対称性-

青 砥 和 希

Ⅰ はじめに

「地産地消」という言葉がある.端的には,「その 地域で生産されたものをその地域で食べるというこ と」という定義を与えることができる(食料白書編

集委員会, 2006, p.1.この言葉は,生産と消費が同

一地域内で完結していることを示すが,その目的・

あり方・影響は多岐にわたっており,一言で説明を 終えることはできない.例えば,「地域」とはどのス ケールの地域を指すのか,生産の原料は地域外に求 めてよいのか,食料はすべて地域内に居住している 人が口にすることが必要なのかなど,検討すべき点 が多く,厳密な定義を「地産地消」に与えることは 困難である.

しかし,そのように曖昧な言葉であるからこそ,

社会において様々な主体が「地産地消」に取り組ん できた.いま社会では,異なる目的・異なる形態で,

異なる主体が「地産地消」に取り組んでいる.それ ゆえ,特定の取り組みを「地産地消」の総体として 扱ってしまっては問題がある.むしろ,多様な「地 産地消」のあり方を列挙し,それらを整理すること で,「地産地消」を巡る現状を正確に捉えることが可 能になると考える.

「地産地消」は「その地域で生産されたものを,

その地域で食べるということ」と定義できると冒頭 で述べた.しかし,野間(2011)が指摘するように,

交通機関の発達する前は,そのような生産と消費の あり方は普遍的であった.また,交通機関の整備後 も,冷蔵冷凍技術が普及するまでは,生産と消費は 現在より狭い範囲で完結していただろう.食料の生 産と消費が一地域内で完結していないことは,現代 の先進国に暮らす人間にとってはふつうである.だ からこそ「地産地消」がスローガン,政策課題,農 業の目的となる.生産と消費が近接する農山漁村で は,「地産地消」を唱える前から,そのむらで生産さ れていたものをそのむらで消費していた1)

しかし,「地産地消」という言葉が用いられるとき,

そのようなむらに戻りましょう,自給自足の生活を 営みましょう,というよりは,市町村や経済圏,都

道府県など一定の規模を持った地域の中で生産と消 費を行ないましょう,というような主張がなされて いる.つまり,単なる生産と消費だけでなく,それ によってもたらされる何かが「地産地消」の目的に はあるということになる.

Ⅱ 国・県・市による「地産地消」

国と県,市はそれぞれ「地産地消」の推進を掲げ ている.それぞれの掲げる「地産地消」はどのよう なもので,何を目的とするのか.

国は,農林水産省が主体となって「地産地消」を 推進している.201012月公布「地域資源を活用 した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の 農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化法

2))では,次のように「地産地消」が定義される.

「地域の農林水産物の利用」とは,(1)国内の地域で 生産された農林水産物(食用)をその生産された地域 内において消費すること(消費者への販売及び食品 加工を含む.)及び(2)供給不足の場合に他の地域で 生産された農林水産物を消費すること

ここで「地域」の定義は不明である.また,2 では,他の地域で生産された農林水産物を消費する こと,とある.「供給不足」も定義されておらず,「地 産地消」の定義自体,無限に広がっていく可能性が ある.その定義に則った基本理念では,以下の8 の規定がある.

(1)生産者と消費者との結びつきの強化

(2)地域の農林漁業及び関連事業の振興による地域 の活性化

(3)消費者の豊かな食生活の実現

(4)食育との一体的な推進

(5)都市と農山漁村の共生・対流との一体的な推進

(6)食料自給率の向上への寄与

(7)環境への負荷の低減への寄与

(8)社会的気運の醸成及び地域における主体的な取 組の促進

8 つの理念は,国と地方公共団体が「実施する責

(2)

務を有」し,「政府は財政上及び金融上の措置を講ず るよう努める」とされる.この法律だけでも「地産 地消」に多面的な理念や目的があることがわかる.

続けて,20083月の福島県「地産地消推進のた めの基本方針3」の基本理念を参照する.そこでは,

以下のように述べられている.

本県は,豊かな風土から生まれた農林水産物や地域 に根ざした地場産品,豊かな自然や景観,文化,歴史 などの地域資源に恵まれており,これらの恵みを享 受して地域社会が形成されてきた.こうした地域社 会を将来にわたって持続し発展させていくためには,

個々の地域資源を見つめ直し,地域自らがそれらの 地域資源に愛着を持って積極的に利活用する地産地 消を推進していくことが重要である.地産地消の進 展は,地域経済の循環の活性化や地域コミュニティ の醸成に大きく貢献することとなる.また,これらの ことを通して個々の地域資源がブランド力を高めた り,その地域自体が魅力を高めることで,地域外(県 外)への訴求力を向上させ,さらなる交流が拡大して いくことが期待できる.一方で,地産地消には,産品 等の移動距離を最小限とし限りある資源やエネルギ ーの節約が図られるといった環境対策に貢献する側 面も有している.このため,地産地消の推進を,地域 経済の循環を活性化し,地域コミュニティを醸成す るとともに環境保全に寄与しながら県民の暮らしを 豊かなものにする本県の重要な施策の一つとして位 置付け,全県的な運動として取り組むこととする.

以上から,「地産地消」が,地域経済の循環活性化,

地域コミュニティの醸成に寄与し,それによる地域 資源のブランド化,地域外との交流,環境保全に貢 献するとの主張が読み取れる.うち,国の六次産業 化法には無く,福島県のみが掲げる目的は,地域資 源のブランド化と県外への訴求力の向上である.一 方,食料自給率という言葉は,法律にはあり,県の 基本理念にはない.同様に,供給不足時の地域外生 産物の消費についても,県は触れてはいない.この

2 点を検討すると,六次産業化法で意識されている のは,「国内での自給」であり,福島県においては「県 内での自給」ということになる.

今回の主な調査対象地である郡山市は,20053 月に「郡山市食と農の基本計画4」を定めた.その 基本計画のうち「地産地消の推進による地元農産物 の消費拡大」の項は,「本市においては(中略)新鮮 で安全,安心な農作物の販売を通じた地産地消の取 り組みが拡大しつつあり」「地域の食文化や現在の 食習慣を今一度見つめ直し,郷土食や地域の特色あ る農産物を改めて認識して地産地消の推進を図る」

としている.「地産地消」の推進にあたっては,「消 費」の側面での取り組みが重要だと考えられている.

基本計画が言うような「飽食」「食料消費の輸入依 存」という国内の食料事情は,消費者が市外・国外 の農作物を選ぶことができる状況を示している.地 域の農作物は選択肢の一つに過ぎない.だからこそ

「地産地消」の推進にはまず,地元農作物の消費促 進が必要だと推測される.さて,基本計画では,基 本施策として次の4つが掲げられている.

学校給食等への地場農産物の利用推進に向けた 運動を展開します.…食農教育と食文化の伝承

地場農産物の学校給食等への安定供給体制の確 立を進めます.

地域内での地場農産物の生産・消費を生産者と消 費者の顔の見える信頼関係のもとで進めます.…

直売所の拡充,地場市場の利用促進.

地場農産物の加工,特産化を図るため,商工業者 との連携により,商品開発や販路拡大に努めます.

国や県と比較すれば,より具体的な目標になって いる.学校給食,直売所拡充,地域市場の利用促進,

商工業者との連携による商品開発と販路拡大が推進 の手段とされている.

国,県,市の基本政策では表現の仕方が異なり,

1 聞き取り調査の対象者一覧

調査日 対象者 聞き取りの場所 対象者の概要

92佐藤孝之氏 あいコープふくしま本部 あいコープふくしま理事長 93石澤智雄氏 郡山市喜久田町のご自宅 有機農業家

95武田博之氏 農産物直売所ベレッシュ 農産物直売所ベレッシュ本部長

95直売所参加農家 ポケットファームおおせ ポケットファームおおせ参加者の皆さま 95~6中村和夫氏・中村喜代氏 郡山市逢瀬町のご自宅 有機農業家・ポケットファームおおせ代表

96森文夫氏 須賀川市仁井田のご自宅 有機農業家

97直売市参加農家 郡山市安積町直売市会場 花・野・果パレット市参加者の皆さま 1110参加者・森文夫氏 須賀川市仁井田公民館 森農園の収穫感謝祭にて

1125安藤裕子氏 郡山市開成の店舗 自然食品「とみや」専務

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また推進する目的,期待する効果にも違いがみられ る.しかし,郡山市での「地産地消」は国の食料自 給率向上に貢献するので,それぞれの政策が矛盾し ているわけではない.政府と地方自治体の間では,

「地産地消」推進に関して協力関係にある一方で,

その推進の力点が異なる.そして,あらゆる理念と 目的,政策が「地産地消」の推進によって設定され ている.これは,「食育」という政策を例に,段階的 にその内容が拡大したことを明らかにした中村

(2007)が指摘するように,「地産地消」においても,

言葉に明確な定義を与えないことによって,常に新 たな課題を取り込むことが可能な構造になっている.

本稿では,実際に「地産地消」に関わる主体は,

どのように「地産地消」について考えているのか,

あるいは実践しているのか,そしてこの多様な側面 を持つ「地産地消」の課題はどこにあるのかを明ら かにしていきたい.なお,本稿の報告は,2013年に 行なった郡山市および須賀川市における聞き取り調 査を中心にしたものである.調査の概要は第1表に 示した.

Ⅲ 郡山地域における直売所・直売市

「地産地消」にあたっては,農家が自家消費する 分を除いて,消費者の購買行動が伴わなければなら ない.農家が大規模市場や卸売業者を介さず,農作 物を消費者に販売する形態,いわゆる直売は,「地産 地消」の中心的な形態であると考えられてきた5 食料白書編集委員会編(2006, p.31)では,従来の大 規模市場や卸売業者を介した広域流通システムが地 元の小規模市場を無視してきたこと,その無視され てきた市場において,地元の需要を開拓しながら地 元の資源を有効に活かすような働きかけが「地産地 消」という形であるとの指摘がなされている.同様 に,一村一品運動で有名な大分県大山町(現日田市)

も,直売を中心とした「地産地消」型農業をめざす

ことで,「新しい地平を切り開いた」(食料白書編集 委員会編, 2006, p.16)とされ,「地産地消」と直売は 密接に関係している.

Ⅲでは郡山地域の直売所・直売市と「地産地消」

との関係を明らかにしたい.直売,と一口に言うが,

その形態・主体はさまざまである.私が聞き取りを 実施したものだけでも,農家による朝市,農家によ る簡易直売所,企業設立による大規模直売所,小売 店内の直売コーナー,と形態は多岐にわたる.ここ では,農作物の直売を主目的とする直売所・直売市 3つ紹介し(第2表),そのあり方を記述する.

1.ポケットファームおおせ

郡山市逢瀬町にあり,農家グループがみずから出 資して建設したビニールハウスで営業している直売 所である(第1図).参加農家20人のうち,2名を 除いて逢瀬町多田野に居住している.来場する消費 者も「顔見知り」が多いとのことだ.観光客などが 来ることは少ないが,付近の温泉施設への往復時に 寄っていく消費者はいるとのことだった.

1 ポケットファームおおせの店内

営業時の責任者は当番制で,持ち回りでレジ業務 を担う.参加者は,出資者の男性ともう1人の男性 2 本報告で紹介する直売所・直売市

直売所・直売市名称 場所 設立主体 販売品

販売形態 価格設定 ポケットファームおおせ 逢瀬町 主に逢瀬町多田野の兼業農家

野菜,民芸品

簡易な店舗(改造ビニールハウス)

値段自由 花・野・果パレット市 安積町 主に郡山市田村地区の専業農家

野菜

駐車場でトラックの荷台などを活用 値段自由

農産物直売所ベレッシュ 喜久田町 株)東日本地所

野菜,米,加工食品,調味料

常設店舗 最低価格70

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を除いて,すべて女性であり,逢瀬町多田野の女性 の労働・コミュニケーションの場になっている.中 心となるのは兼業農家の女性であり,パートタイム 労働の合間に出荷作業を行なう方もいる.営業は週 4 日間だが,これは,兼業農家が多く,農作物の生 産量がそもそも少ないこと,当番の人員不足である ことなどから週4日というサイクルに落ち着いたと いう.

聞き取り調査の際,出荷する農家同士で,農作物 を購入しあう風景が見られた.逢瀬町,特にポケッ トファームおおせのある多田野集落を中心とする生 産と消費の形態がこの直売所では展開していた.集 落の女性が設立の中心であり,コミュニケーション が密に行なわれている様子も見られた.一方で,次 のような意見もある.

基本は,自分ちで野菜を作ってて,親戚とか友達にあ げてたんだけど,それでは自分たちの身入りになら ないから,少しでも収入になったらいいよねって.

(ポケットファームおおせ 若手参加者)

直売所ができたおかげで,物々交換はしづらくなっ た.昔はくっちゃ(筆者注・くれて)当たり前だった.

だから周辺の価値観が変わったということ.(ポケッ トファームおおせ 代表 中村喜代氏)

直売所を設立したことで,コミュニケーションの 場として機能するようになったと同時に,農作物に 対する価値観,農作物を媒介としたコミュニケーシ ョンが変化した.「地産地消」の推進においては,地 域コミュニティの醸成への貢献が利点として挙げら れるが6,既存の地域コミュニティが,「地産地消」

の試みによって変容する可能性があることを,この 事例は示している.

2.花・野・果パレット市

郡山市安積町のヤマダ電機駐車場において,専業 農家有志によるグループが開催している直売市であ る.市内の農家が早朝に集まり,地面や軽トラック の荷台に商品を陳列し,販売する(第2図).それら の農家は,JAや郡山地方市場,他の直売所にも出荷 していることから,パレット市は,出荷の選択肢の うちのひとつである.また,パレット市に出荷する 農家で安積町に農地を保有している方は一人もおら ず,郡山市田村地域の方が多い.その理由として,

安積町は人口が多く,消費者が多いということを挙 げている.ここでは,郡山市内の人口集積地と農作 物生産地との間での「地産地消」が起こっていた.

2 花・野・果パレット市開催風景

3.農産物直売所ベレッシュ

郡山市喜久田町にあり,民間企業が経営する直売 所である(第3図).店舗経営者が農作物を直売する のではなく,農家の委託販売という形式をとる.販 売員は直売所のスタッフで,農家が販売業務等に関 わることはない.当初,販売する農家に対しては,

運営側がオファーを出し,出荷してくれるよう依頼 していた.その後,店舗全体の売り上げが伸び,認 知度が向上したことで,農家の側から出荷したいと いう人がでてきた.ベレッシュで販売するための出 荷者登録をしているのは400人弱程度である.

(他の直売所では,市場に出せないものを直売所で 売っていた5 年ほど前の状況に対して)我々はちゃ んとしたものを売ってお金を得よう,と思っていた.

(農産物直売所ベレッシュ 本部長 武田博之氏)

委託販売は余ってしまうこともある.余ってしまう くらいならJAに出そう,という農家の方が最初はい た.そうではなくて,直売所に出せばもうかるよね,

というようにしたかった.(農産物直売所ベレッシュ 本部長 武田博之氏)

良質な農作物を売ることで利益を出したい,とい う理念をベレッシュ経営陣は持っている.そのため に,ベレッシュは委託販売制度を採用している.出 荷農産物とその価格を農家自身が決め,売れ残りは 農家が引きとる,という点は他の直売と同じである が,販売最低価格70円制度,出店取り消し制度7 POSレジ8と連動した売り上げ状況のメール配信な どによって,「自分で売る分,自分で責任を持つ」と いう姿勢を示している.それによって,農家の手取 りを増やしたいという.

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出店登録者は郡山市内が多いが,市内だけでなく,

福島県全域,さらに山形県まで広がっている.登録 するにあたって居住地等の制限はなく,店舗まで運 搬・運送することができればよい.経営者のコネク ションで,静岡県産のお茶や愛媛県の柑橘類を販売 していることも確認できた.「郡山でとれない」「地 元だと賄いきれない」ものに関して,「お客さんのニ ーズを満たしたい」ために遠隔地のものも販売する のだという.農家自身が店舗に農産物を搬入できな い場合,農家の自己負担で宅配便を用いることにな る.市内と市外の出店登録者数では市内の方が多い が,売り上げは「半々」とのことで,その理由とし て,遠隔地まで直売しようとする農家の方は農作物 の質も平均して高い,という見解を示していた.

3 農産物直売所ベレッシュの駐車場と外観

ベレッシュにおいて,地元の野菜を取り扱うこと は鮮度・価格の点で優位であり,この点で「直売=

地産地消」となる.地元への貢献によって地域経済 の循環を促すという意識も経営側は持っていた.一 方で,良質なもの,地元で収穫できないものに関し ては,行政界や場所にこだわることなく,県内全域 はもとより,県外の農作物も積極的に販売している.

Ⅳ 直売における原発事故の影響

「地産地消」と直売の関係について聞き取りを進 めた結果,2011年の福島第一原子力発電所事故(以 降,原発事故)が直売の経営や取り組みに影響を与 えていたことが明らかになった.Ⅳでは,原発事故 の影響を独立してまとめることとする.

ここで留意しなければならないのは,筆者が福島 県で農業生産・販売に携わる当事者ではない,とい う点だ.開沼(2012)が指摘するように,2011年以

降も,「生産者も消費者も制約が増える中,それぞれ の選択をしながら地元で生活を続けている」のであ って,筆者を含めた非当事者は,人の考えや行動を 断定的に意味づけたり,定義したりするのが不可能 な状況にある.それぞれの人は「無数の選択肢のな か可能な限りベターな選択をしながら生活している」

し,それらの選択は「許されない「もし」が必ず残 り,自己のものとも他者のものとも言い切れない「決 定」」なのである(開沼, 2012, p.190.そうであるか らこそ,筆者は特にこのⅣ,並びに以降の原発事故 関連の記述では不用意な断定を避けたい.事故の影 響がどのようにあり,当事者がそのことをどのよう に考えているのかを記述し,一方的な解釈はできる 限り排除したい.

1.ポケットファームおおせ

ポケットファームおおせでは,震災と震災前で売 り上げが3分の1になってしまったという.売り上 げは原発事故以前には戻っていない.また,農作物 の販売にあたっては放射能測定が義務付けられてい るため,出荷前に測定しなければならない.農家別 の放射能測定結果は,直売所内に自由に閲覧できる ファイル(第4図)として保管されている.

ずっとここに住んでいるけど,放射線のこと気にし ている人は気にしていて,ここの野菜おいしいから,

と郡山市の街中から来ていた人も若い人は来なくな ってしまった.でも,私たちはここに住んでいて,こ このモノを食べている.一応調べてもらって,一応誰 が決めたかは分からないけども安全ですよ,もしく は検出されないものを出しているんだけど,それで もちょっと,という人はいる.でもそういうひとは自 主避難なんかして,いなくなったね.(ポケットファ ームおおせ 若手参加者)

4 ポケットファームおおせ 注)写真に見えるのは,放射能測定結果書閲覧ファイル.

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ポケットファームおおせにあった,「顔の見える」

生産者と消費者の関係は,一部ではあるが,失われ ていた.それまで同一市内での都市部と農村部の間 にあった交流は,原発事故で失われた.それは,農 作物に対する考え方によって,従来の関係性が失わ れる事態だった.

2.花・野・果パレット市

朝市の売り上げは,70%減少したそうだ.参加し ている専業農家の方によれば,一般的な市場への出 荷も,「福島県は補償があるから,買いたたいてもい いよな」と仲買いに言われるなど,「まだ影響が続い ている」というような状況であるという.朝市の売 り上げは下がったが,パレット市の開かれるビック パレットふくしまの近隣には双葉郡からの避難者が 居住しており,その人たちが朝市に来てくれること もある.農作物はすべて出荷前に放射能検査に出す が,検査には一定の重量が必要である.収穫量が少 ない収穫初期に検体を提出するので,これは負担に なっている.

自分のが規制値を出してしまうと迷惑だから,栗な んかはだせない.(花・野・果パレット市 参加専業農 家)

2013年現在では,規制値を超えるような放射能を 持つ農作物は山菜や木の実などに多いという知見が 広がっている.放射能検査で規制値以上の検体が見 つかると,その情報は公開されるため,郡山市の農 作物全体のイメージダウンにつながる.その可能性 を考えるならば,あえて出荷もせず,検査もしない という選択をとることが,合理的な判断になりうる ようだ.また,出荷制限に関して,県・市の発信す る情報を,市役所担当者を介してインターネットで 確認する姿も見られた.

3.農産物直売所ベレッシュ

聞き取りを開始した際,応じてくださった本部長 は震災以降の取材の多さについてコメントをしてい た.2012年までは首都圏のテレビ局も取材によく来 ていたとのことだったが,2013年は東日本大震災の 発生した3月前後のみ取材があったという.また,

その取材のテーマも,「福島の復興」というテーマが 多いとのことである.ベレッシュとしては,復興と いうテーマであってもなくても,取材には応じるこ とを基本としており,取材からイベント参加等につ

ながることもある.2011年以降のイベント・取材を きっかけに東京都八王子市のイチョウ祭りや,愛媛 県の直売所「内子フレッシュパークからり」との交 流が始まり,今年も継続して交流している.

2011年から2012年にかけては,多くの農産物販 売イベントに参加し,「行けば買ってくれる」状態だ ったという.しかし,消費者も「慣れ」があり,売 り上げ規模は徐々に小さくなった.イベント参加の 手間暇・経費を考慮すると,大きな利潤を生むわけ ではない.

通常の農作物出荷の際,福島県内では放射能検査 が行なわれるが,ベレッシュはそれに加えて独自の 検査体制を構築している.新しく収穫した野菜を出 荷する前に,500gの検体を農家に無料で提出9して もらい,店舗に併設されたガラス張りの「ベレッシ ュ放射能分析センター」(第5図)で検査を行なう.

検査の結果,1kgあたり20Bq(ベクレル)の放射能 量であれば販売する規定(第6図)である.これは,

国の基準値が通常の農作物に対して 1kg あたり 100Bqであるのに対し(20139月現在10,農地 ごとのばらつき,農地内のばらつきなどを考慮し,

万が一相対的に放射能の強い農作物があった場合に も,1kgあたり20Bqの基準で検査を行なえば,100Bq の農作物が販売されてしまうことはない,との考え に基づいている.1450万円の放射能測定器が3 台導入11されている.専属の職員が3台を同時に用 いることで,1時間で6品目の検査を行なうことが できる.これらの結果はファイルに保管されている.

また,冒頭に触れたように,分析センターは直売所 に併設され,ガラス張りであるため,検査の様子を 消費者が目にすることができる.ベレッシュは検査 体制の整備の効果もあり,開店した2009年以降,年 間売り上げは続伸している.

5 ベレッシュ放射能分析センターの検査風景

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6 販売規定を確認する農家

Ⅴ 郡山市を中心とする地域生協

あいコープふくしまは,郡山市を中心に活動する 地域生協である.1986 年,「福島県中央生活協同組 合」として発足,近年現在の名称に変更して,活動 してきた.あいコープふくしまは,有機栽培された 地場産の農作物を中心に,共同購入と宅配による食 材の供給(第7図)を行なう.供給エリアは郡山市・

須賀川市・二本松市・福島市・田村市・岩瀬郡・石 川郡・安達郡の一部である12.供給エリア内のみに 食材を配達するので,消費は配達エリア内に限られ る.この点で,生協食材の生産地によっては,「地産 地消」が行なわれることとなる13

食材は,「まんま通信」と「ローカル商品」の2 類の商品ラインナップによって供給されている.ど ちらの商品も,配送の1週間前に組合員から注文を 受けたのち,あいコープふくしまの本部で食材を集 荷,仕入れ,梱包し,組合員まで配送される.「まん ま通信」のものは,提携する宮城県の地域生協・あ いコープみやぎとの産地共有を行なっている食材で ある.「まんま通信」の食材は,仙台市のあいコープ 宮城に集荷され,郡山市安積町のあいコープふくし ま本部へ転送されてから梱包(第8図)される.「ロ ーカル商品」の食材は,本部まで生産者が直接出荷 し,それが梱包される.「まんま通信」「ローカル商 品」ともに,注文後に集荷量が確定されるので,食 材のロスは一般的なスーパーに比べて小ない.生産 者には,前年度実績などを踏まえた栽培計画の提出 を求め,生産量を推計,生産してもらう.実際の注 文が推計した需要より大きくなった場合,組合員に 商品が供給されず,欠品という事態になる.逆に,

推計した需要より実際の注文が少なくなると,生産

余剰となってしまうことがある.ただし,余剰とな る生産量は,組合員からの注文のある出荷1週間前 に確定するため,加工食品に転用するなどの対応が 可能である.

県を境ではなく,1日で繋がることができる3県(南 東北)でやっている.流通がスピード化しているので,

目の前の畑だけが地産地消というのではない.(あい コープふくしま 理事長 佐藤孝之氏)

「地場生産・地場消費」を志向するあいコープに とっても,流通の高速化に伴って,県という地方公 共団体の境界は意味を失っていた.「まんま通信」の 食材に関しては,南東北の3県で生産された農作物 が「地元」産の意味を持っていると理事長は考えて いる.「まんま通信」20139月のカタログを見る と,加工食品も含め南東北3県で生産された食材は 多い.一方で青森県産,茨城県産,高知県産などの 野菜もある.このような商品展開は,気候の違い,

理念との合致(有機栽培や減農薬という説明のつい た商品が多い)の結果であろう.

7 あいコープふくしまの宅配トラック

8 あいコープふくしまの食材梱包作業

(8)

「まんま通信」があいコープみやぎとの共同集荷 品となっているのに対し,「ローカル商品」はあいコ ープふくしまだけの独自の集荷食材である.あいコ ープみやぎとの提携以前は,すべて「ローカル商品」

の形態で食材を供給していたが,コストが大きく赤 字体質であった.理念の共有ができると判断したあ いコープみやぎと「まんま通信」による食材を共同 集荷することで,黒字化が達成されたという.「ロー カル商品」については,あいコープのホームページ に次のような記載がある.

私たちは,出来る限り「地場生産・地場消費」を目指 して,県内・近県の生産者との結び付きを重視してき ました.その一つは輸送距離と時間の短さから,鮮 度・品質の良い商品,コストの低い低価格商品をお届 けするためです.そして何より,生産者と組合員が日 常的に交流し,直に現場を見たり話し合ったりする ことがお互いの信頼関係の土台となるからです.ま た,それは「地域振興」の役割も果たしています.内 容は良くても収穫量・生産量などに問題があるもの,

どうしても物流上の課題があるものを中心に「ロー カル商品」(あるいは「まんま通信」からの「差し替 え商品」)として企画しています.(あいコープふくし http://icoop-fukushima.jp/publics/index/84/,201312 24日閲覧)

この記述からは,「ローカル商品」において,環境 への配慮,食材の鮮度・品質,低コスト,地域経済 の循環,そして生産者と組合員のコミュニケーショ ンが志向されていることが読み取れる.しかしその 一方で,聞き取り調査では,理事長の佐藤氏は次の ようにも表現していた.

ローカル商品は,手間暇がかかる.一括して仙台でや った方が効率はいい.どうしても応援したいものが ローカル商品になる.(あいコープふくしま 理事長 佐藤孝之氏)

必ずしも低コストであるから地元の食材を集荷す るのではなく,「応援」したいものが「ローカル商品」

として成立するという.あいコープふくしまで食材 を注文する際に参照する「ローカル商品」のカタロ グ(201391回号)では,無農薬・減農薬・有 機肥料・化学肥料不使用いずれかの説明がされてい る商品が大部分である.効率性最優先ではなく,あ いコープの理念に沿った農作物を供給することが,

「ローカル商品」の前提である.「ローカル商品」の 説明では,「地元のきゅうり」「地元の小松菜」とい う名称と併せ,生産地を明らかにし,近隣地域で生

産されたことを明示している.また一方で,一部に 千葉県成田市産の農作物も見られる.この点につい て,理事長は次のように語る.

地元に近いのが基本(具体的には郡山市安積町から 半径25km程度)だけども,いまの流通で可能なら.

千葉からも1 日だから.(あいコープふくしま 理事 佐藤孝之氏)

あいコープみやぎと産地共通化するほどの規模は ないが,理念と一致し,供給したい食材を,「ローカ ル商品」として展開しているという.「まんま通信」

の説明時にも強調していたが,流通の高速化が進ん だ結果,1 日で農作物を輸送できる範囲が広がり,

鮮度の確保が容易になった.この事例からも,あい コープふくしまにとっては,「まんま通信」「ローカ ル商品」ふたつのラインナップは,第一の目標が「地 産地消」なのではない.良質な食材を供給すること が第一の目標なのである.

やっぱり安全性に配慮した生産物を手に入れるのが 一番ですよ.それもできるだけ近くの生産地のもの がいいですね.保存料を添加しなくても日持ちしま すから.(あいコープふくしま 理事長 佐藤孝之氏,

須田, 2004年より引用)

前述の聞き取りで,「地元に近いのが基本」とある が,良質な食材を提供するにあたって重要な,鮮度 と保存料無添加という2点を確保できることが,「地 元に近いのが基本」という姿勢に繋がっていること が読み取れる.また,ホームページでは,生産者と 組合員の交流を,地場生産地場消費の目的の一つに 掲げている.

生産者との交流は組合員の「行きたい」という声に応 えて.交流は,地元だとパッとできる.お話,体験が,

多くの人が短い時間でできる.(あいコープふくしま 理事長 佐藤孝之氏)

生産者との交流,コミュニケーションを,あいコ ープふくしまは重要視している.ホームページで紹 介されている「ローカル生産者マップ」(第9図)や,

商品カタログと同時に配布される情報共有通信「ひ まわり」では,実名入りで生産者が紹介され,取り 組み,報告,意見などを知ることができる.単に「顔 の見える」というだけでなく,「顔を見られる」コミ ュニケーションが可能であるという点も,「地元」の 生産物を積極的に供給する理由の一つであると考え られる.

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9 あいコープふくしま 「ローカル生産者マップ」

注)http://icoop-fukushima.jp/publics/download/?file=/files/content_type/type019/3/201302051113146059.pdfから転載した.

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筆者は201311月に,あいコープふくしまに野 菜を出荷する農家のうちの一人,須賀川市の森文夫 氏の収穫感謝祭に参加した.そこには,あいコープ ふくしまの組合員が家族連れで参加していた.秋の 農作物を用いた料理とレクリエーションは,生産者 と消費者がコミュニケーションをする場となってい た.この収穫祭は休日に開催され,郡山市・須賀川 市をはじめ,二本松市からも参加者が集まっていた.

日帰り・家族連れで,安価に交流イベントに参加で きるのは,地元の生産者から生産物を集荷する大き な強みであろう.

コミュニケーションと安全性を重視するあいコー プふくしまの提供する「ローカル生産者マップ」(第 9図)は,生産者の名前,生産物,その産地が示され た独自の地図である.精確な縮尺や方角を記してい る地図ではないが,あいコープふくしまの考える「ロ ーカル」な生産地の姿を示唆するものであると考え られる.比較として,行政界と生産者を記した地図 を第10図で示しておく.

これまで説明してきたように,あいコープふくし まにとって,「地産地消」は,鮮度と保存料無添加と いう2つの好条件があるからこそ意味のあるもので ある.「ローカル商品」にとって重要なことは,郡山

市産や須賀川市産であることではない.生産物の運 送にあたって,鮮度を保つことができるか否か,で ある.

それを反映してか,「ローカル生産者マップ」に,

行政界は書きこまれていない.また,生産地の精確 な位置情報も示されていない.示されているのは,

生産地のおおよその方角と,主要な国道,あいコー プのふくしま本部の位置である.したがって,この 地図からは,あいコープふくしまが,主要国道の交 差する郡山市内にあり,集荷と配送に利便性が高い こと,そして,多くの生産者が福島県中通りの県中 地区にいることを読み取ることができる.鮮度を重 視する立場を,国道を描くことで表明しているとも 言える.また,福島県外4名の生産者も,地図の外 側部分に列記されている.これも,「ローカル」とい う名称を冠しつつも,近接性だけを重視しない,あ いコープふくしまの立場を示すものと言えよう.

Ⅵ 地域生協への原発事故の影響

安心・安全な食品を供給するあいコープふくしま にとっては,原発事故に伴う放射性物質の拡散は,

対応すべき緊急の課題であった.あいコープふくし 10 あいコープふくしま 「ローカル生産者」の分布

注)第9図の「ローカル生産者マップ」から推測できる生産者の位置を,筆者が行政界を記入した地図上にプロットした.生産 者の位置は,市役所・町役場ないし行政区の公民館で示した.

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まとしての方針決定・意思決定の場である「総代会」

の資料を参考に,放射性物質とその身体への被爆対 策について概要を取りまとめてみたい.「総代会」資 料には,あいコープふくしま注文カタログと同時に 配布される週刊の情報共有通信「ひまわり」の記事 が引用されている.この「総代会」資料から,2011 年以降の組合員への情報共有の内容を追うことがで きる.

20113月と4月の通信では,津波・地震被害を 受けた東北地方太平洋側の生産者の現状報告が多い.

5 月の通信では,内部被爆と食品の放射線基準値に 関連する報告,外部被爆と県内教育施設における空 間線量に関する報告がなされ,現状の把握と,放射 能に関する基本的な知識が共有されている.その 5 月中には,「原発事故と放射能汚染を考える!学習と 交流会」が開催されており,積極的に放射能汚染に 関する情報共有が行なわれていることがわかる.6 月の通信では,生産者と理事長の対談が掲載される.

事故前から交流している生産者と理事長の放射能汚 染対策に関する対談は,以前からのコミュニケーシ ョンの延長線上にあるという点で,政府やマスメデ ィアから提供される情報とは異質のものであると言 える.その6月の対談で示されているのは,内部被 爆を可能な限り低減するという姿勢と,放射線量検 査で不検出であれば農作物を出荷するという考え方 である.当時の不検出の農作物には,直接放射性物 質が付着していないハウス栽培のものがあった.そ れらの生産者・検査結果を含めてカタログに掲載,

出荷する旨が明らかにされている.続く6月中の「ひ まわり」には,生協としての当時の具体的な姿勢が 明記される.その内容は以下である.

①ローカル野菜・果物は「不検知」のもの,検出した としても500ベクレルの10分の1以下を目指しま す.

②県外とか近県とかいう線引きでなく,明確な数値 的目標が必要という考えです.農薬たっぷり,では 困るわけです.

③西日本産の安心・安全な野菜セットを企画しまし た.コープ自然派生協(本部・神戸市)の脱原発連 帯の立場からご協力頂きました.72回から企画 します.ぜひ友人・知人にも広めてください.

この2011 6 月の姿勢表明は示唆的だ.Ⅴで紹 介したように,あいコープふくしまの「地場生産・

地場消費」は,「地元」という近場で採られた農作物 に対して価値を認めながらも,農作物供給の優先課 題は農薬や化学肥料,保存料など安全性に関する点

だった.それゆえに「ローカル商品」および「まん ま通信」では,福島県内だけでなく,千葉県産の農 作物も取り扱っていた.そのような事故以前からの 一貫した姿勢があった結果,生協組織として「福島 産だから取り扱わない」というような,産地によっ て安全性を判断するという結論には至らなかったの である.

「地産地消」を志向するにあたり,地域内の経済 循環を第一の目標とする場合,「地元で採れたものを 食べる」ということが至上命題になる.他の諸条件 を無視しても,「地元」で生産された農作物を購入・

消費すれば,その地域内の経済循環は大きくなるか らである.

しかし,それまで「地元」であることで検討して こなかった諸条件を検討する必要に迫られたとき,

それまでの価値判断基準である「地元」は後景に退 く.後景に退くだけであるなら,問題はない.とこ ろが,今回の福島第一原発事故では,「福島」「浜通 り」「飯舘」などの地名とともに,放射能汚染の状 況がメディアで大きく報道された.放射能汚染とい うネガティブな情報が,いわば地名に紐づけされる 状況があった.放射性物質は大気中に拡散し,地表 面に降下した.その汚染された空間・場所を呼称す る術を,われわれは地名以外に有していなかった.

経緯度で地域を指示しても,情報を正確に共有する ことは困難だ.その結果,いわゆる「風評被害」と 呼ばれるような状況が招かれた.それまで地名によ って価値判断を行なってきた,あるいは商品価値の 訴求を行なってきた農作物は,地名自体にネガティ ブなイメージが付与された時,その価値を失ってし まう.それは地名がブランドになっている場合や,

「地元」であることのみに価値が置かれた地産地消 推進運動の場合に顕著だと考えられる.

あいコープふくしまを例にとれば,「鮮度」という 点で,「地元」産のものは保存料を使う必要がなく,

また家庭に配送されてからも鮮度を維持できる期間 が長くなるという点が重要であった.また同時に,

農薬や化学肥料という安全性に関する判断基準に照 らし,理念に合致する農作物のみを事故以前から取 り扱ってきた.だからこそ,原子力発電所が爆発し,

福島県下をはじめとする東日本が放射性物質で汚染 された場合にも,地名で農作物の安全性を判断する ことはなかった.放射能汚染に対して具体的な対策 をしているか,実際に放射線量が低い農作物か,と いう基準を設定し,農作物を集荷し出荷するかどう かを判断することができたのである.この場合,事

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故の前後を通じて,「地名」や「地元」という判断基 準は最も優先すべきことではない.それを示す発言 が「ひまわり」の2011530日の「原発事故と 放射能汚染を考える!学習と交流会」報告に記載さ れている.

水分補給やミネラル補給,免疫力を上げる食生活・家 内外の掃除・洗濯などできることは本当にささやか な事かもしれませんが,今まで気を付けてきた農薬・

添加物・合成洗剤に放射能がひとつ増えただけだと 自分に言い聞かせています.(あいコープふくしま 理事 鶴蒔真理江氏)

しかし一方で,2011年当時は,放射能に対する基 本的な知識のほか,内部被爆に関する知識,農地汚 染の状況,農作物への具体的影響など,あらゆるこ とが不透明であった.福島県下を含む東日本が,ど れだけ,どのように放射能汚染されているのかを判 断する基準が形成されていたとは言い難かった.既 に示した20116 月のあいコープふくしまの姿勢 の③は,そのような状況を示したものである.あい コープふくしまは,具体的な数値目標を掲げ,「でき る限りの被爆を避ける」としているが,まだ福島県 下の農作物をめぐる状況は不確かであって,すべて の組合員が「安心」できる状況にはなかった.それ ゆえ,西日本野菜セットが「ローカル商品」として 展開されることになったのである.実際に20116 27日から,あいコープふくしまでは徳島・熊本野 菜セットが提供開始となった.

西日本のものが食べたい,という要望があった.子ど もを守りたいという不安があって,理論だけでは決 められない.心の問題.(あいコープふくしま 理事長 佐藤孝之氏)

この西日本野菜セットは,20139月現在も提供 され続けている.

あいコープふくしまは,農作物の放射能対策を皮 切りに,様々な放射能汚染対策を実施してきた.高 圧洗浄機並びにブラシによる家庭での除染方法の周 知,家庭菜園へのひまわりの作付けによるセシウム 吸収の報告,「ミニ避難ツアー」として会津地方や山 形県などへのバスツアー,「ローカル生産者交流会」

の主催による放射能汚染対策などである.加えて,

あいコープふくしまが供給する農作物の放射能測定

14,また,20121月からは家庭菜園・贈答品の放 射能測定を,20135月からはホールボディカウン ターによる内部被爆測定を開始した.

このような放射能の汚染対策を含むあいコープふ くしまの取り組みついて,理事長の佐藤氏は次のよ うに語る.

いま,地産地消は表面上は裏目に出ている.ただ,1 ベクレル(1kgあたり)以下にできる,不検出のもの をつくる,という生産者の決意を我々は耳にできる.

だからここで生きていけると決断できる.(あいコー プふくしま 理事長 佐藤孝之氏)

顔が見える,とか,生産者と消費者が相互に生の顔が 見えるということが励みになる.生産者がどういう 意気込みで,どういう生活をしているのか,どういう 人柄の人が作っているのか,どういう家族なのか,本 当にそうやってつくっているのか.消費者が考えて,

それを伝えることも可能になる.(あいコープふくし 理事長 佐藤孝之氏)

あいコープふくしまの「地産地消」においては,

生産者と消費者(組合員)の交流が重視されていた が,それは,原発事故後も継続された.2013年のあ いコープふくしま総代会資料(p.33)では,次のよう に事故後の2年間が中間総括されている.

生産者と生協は,「売り手」と「買い手」であり,そ こに取引関係の「境界線」があるのではなく,3.11 震災と原発事故」という未曽有の被災を受け,生協

(組合員)は生産者の再開,復興を心配し,生産者は 組合員の安心,安全な商品の再開を追求する両者の 気持ちが交流ではっきりしました.これが「協同の心」

であり,私たちの財産になりました.

原発事故が,それまでの生産者と消費者の関係を 切り離すような影響を与えることは,既にⅣで指摘 した.それに対して,あいコープふくしまでは,生 産者と消費者を断絶させようとする力に抗うことが 実践できていたと,生協自身は総括している.

Ⅶ 有機農業家

あいコープふくしまは「地産地消」を実践する組 織であった.その生産側には,安全・安心を追求す る農家が存在する.Ⅶでは,主に有機農業に取り組 む農家の生産のあり方・考えを記述することで,「地 産地消」における有機農業家の役割・意味を明らか にしたい.また,福島第一原子力発電所の事故以降,

大きくその取り組みや出荷の形態が変化した方が多 いため,2011年以前と現在とを比較できるように記 述する.

参照

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