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陳 志 華

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Academic year: 2021

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全文

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チン

氏名(生年月日)

陳 志 華

(1962 年 6 月 27 日)

学 位 の 種 類

博士(教育学)

学 位 記 番 号

文博甲第 126 号

学位授与の日付

2018 年 7 月 27 日

学位授与の要件

中央大学学位規則第 4 条第 1 項

学 位 論 文 題 目

中国文革期における愛国主義教育の展開と特質

―中等教育教科書の分析を通して―

論 文 審 査 委 員 主査

森茂 岳雄

副査

鳥光 美緒子・高木 雅史

一見 真理子(国立教育政策研究所 国際研究・協力部総括研究官)

内容の要旨及び審査の結果の要旨

Ⅰ. 論文の主題

本論文は、中等教育教科書の分析を通して、中国のプロレタリア文化大革命期(以下「文革期」

と略)における愛国主義教育の展開と特質を明らかにするものである。

中国において「愛国主義教育」という用語が使われるようになるのは 1990 年代以降のことである が、近代以降多民族国家中国では、一貫して国民国家創出のための「中国人」としての国民意識の 形成がめざされ、そのために学校においても愛国心の形成が必須の課題とされた。しかし、1966-76 年の文革期における愛国主義教育に関する研究は、中国の内外いずれにおいてもまだ存在しない。

それは、文革終結後、1981 年に中国共産党中央委員会によって「建国以来の党の若干の歴史問題に 関する決議」(以下「歴史決議」と略)が採決され、文革期の体制が全面的に正式に否定されたこ とによる。

この「歴史決議」が、文革期に関する評価に与えた影響は大きい。これまでの文革期の教育に対 する解釈や評価も「歴史決議」の公式解釈に沿って行われてきた。すなわち、文革期の教育が政治 闘争による被害に帰結されたというものであった。このような評価に従って、文革期の教育に関す る先行研究においても、主に中国社会主義革命の一部、特に階級闘争という視点で文革期の教育を 説明・理解してきた。その時期の教育に階級闘争の思想内容が多く含まれたことや、文革による教 育の混乱により教育の質の低下を招いたことから、文革期の教育も全面的に否定された。そのため、

「歴史決議」の公式見解は文革期の教育に関する研究を阻害する主な原因の一つとなり、文革期の教 育に対する多面的な研究が中国国内では積極的に行われにくくなっているのが現状である。

1949 年に社会主義政権が樹立されてから、中国では一貫して思想政治教育という形で愛国主義教 育が行われ、文革期においては思想政治教育が教育の中心的な位置を占めた。その主なねらいは、

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「祖国」「人民」「労働」「毛沢東」「社会主義」「共産党」への賛美と忠誠を植え付けるものであ り、文革期には、思想政治教育は頂点に達した。

以上のような問題意識に立って、文革期における中等教育の教科書の内容分析を通して、文革期 の愛国主義教育の展開過程とその特質を具体的に明らかにすることを本論文の主題としている。

本論文で教科書を研究対象として取り上げる理由は次の点である。中国では、教科書は「教学大 綱」(日本の「学習指導要領」に当たる)に準拠して編集されており、「教学大綱」に示された国 家観念やその教科がめざす理想的な人間像が教科書の中に端的に表れている。また、教科書は生徒 にとって学校で毎日使用される最も身近な教材であり、教科書を通して生徒に必要な知識や技能を 直接与えることによって生徒の人間形成に大きな影響力をもっている。以上の理由から、その時期 に求められる愛国主義教育の理念やそれがめざす人間像が最も具体的に述べられている教科書を研 究対象とした。

また、これまで中国の愛国心(愛国主義)教育に関する先行研究では、主に小学校の教科書を研 究対象としてきたが、本論文では中等教育の教科書を分析対象とする。理由は以下の通りである。

第一に、文革期における中等学校の生徒の増加に伴い、将来中心となって社会主義国家建設を担う 中等教育に在籍する生徒に対する愛国主義教育の必要性が認識されたこと。第二に、中国において は青年期(中等教育段階)が愛国主義教育の内容を含む「社会主義的な自覚の向上や共産主義的な 道徳の形成と科学的な世界観の基礎づくり」にとって重要な時期であると認識されたこと、である。

Ⅱ. 本論文の構成

本論文は、序章と終章を含む全九章によって構成されている。

序 章 研究の目的と方法 第一節 問題設定

第二節 研究の目的と方法 第三節 資料状況

第四節 本論文の構成

第一章 現代中国の愛国主義教育の歴史に関する先行研究の検討 第一節 先行研究の到達点

第二節 先行研究の問題点と本研究の課題 第二章 文革期における教科書の再編と出版

第一節 中国における教科書

第二節 文革期における教育課程の簡素化と教科書の再編 第三節 文革期の新しい教科書の出版

第三章 文革期の教科書における愛国主義教材としての毛沢東 第一節 文革前の教科書における毛沢東思想教育の状況

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第二節 文革期の教科書における毛沢東思想教育の位置づけ 第三節 文革期の教科書の教材となった毛沢東の名作 第四節 毛沢東にとっての「祖国」と「人民」

第四章 語文教科書における愛国主義教育

第一節 語文科教育と教科書制度の転換と語文教科書の概要 第二節 愛国心の創出の強化

第三節 理想的な人間像の提示 第四節 考察

第五章 歴史教科書における愛国主義教育 第一節 文革期の歴史教科書の再編 第二節 分析対象とする教科書の概要 第三節 教科書にみる愛国主義教育の特徴 第四節 考察

第六章 英語教科書における愛国主義教育 第一節 学校秩序の回復と外国語教育 第二節 文革期の英語教科書の概要 第三節 英語教科書による愛国主義教育 第四節 英語教科書の中での理想的な人間像 第五節 考察

第七章 理数系教科書における愛国主義教育

第一節 理数系教科の統廃合と新しい教科書の再編 第二節 理数系教科書の構成と特色

第三節 理数系教科書における愛国主義教育 第四節 考察

終 章 結論―文革期における愛国主義教育の展開と特質―

第一節 文革期における愛国主義教育の展開 第二節 文革期における愛国主義教育の特質

Ⅲ. 本論文の概要

研究の目的と方法を述べた序章に続き、第一章では、教科書に見る現代中国の愛国主義教育の展 開に関する先行研究を建国期と改革開放期に分けて検討し、建国期から現在にいたる愛国主義教育 の歴史的展開とその内容の変化を明らかにした。これまでの先行研究では、文革期における愛国主 義教育に関する研究が欠落しており、文革期における愛国主義教育の究明の必要性を指摘した。本 論文では、これまでの先行研究の空白を埋めるため、文革期における愛国主義教育の展開とその特 質について、中等教育の教科書の分析を通して明らかにすることを研究課題として設定した。また、

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先行研究から得られた「祖国への愛」「人民への愛」「労働への愛」「毛沢東への愛」「社会主義へ の愛」「共産党への愛」という六つの愛を文革期における愛国主義教育の分析視点として抽出した。

第二章では、本論文の研究対象である文革期の教科書の再編と出版状況の検討を通して、当時の 新しい教科書の特徴を明らかにした。文革期には全国的に統一した教科書は作られず、教育部の共 産党指導チームや教育部、各省市・自治区の共産党委員会、各省市・自治区の教育庁、教育局など、

各地方レベルの教科書編集委員会などによって、教科書の編集が組織的にかつ計画的に進められた。

また、文革期の教育改革の大きな特徴の一つとして学制の短縮、教育課程の簡素化と統廃合が行わ れ、それに伴って新しい統合教科の教科書が作成されたことを指摘した。文革期の新しい教科書の 編集は、中共中央と国務院の教育政策に従い、特に 1957 年の毛沢東の社会主義教育方針と 1958 年 の共産党の教育方針を指導思想とした。それらの教育方針に基づいて毛沢東の著作や党の文革に関 する文献などが重要な教材内容として取り入れられ、毛沢東と中国共産党への崇拝心と忠誠心を向 上させるような愛国主義的教材が多く取り入れられたことを明らかにした。

第三章では、文革期の教科書において愛国主義教材として多く掲載された毛沢東の著作関する内 容の検討を通して、教科書による毛沢東崇拝の教育が当時の愛国主義教育の特徴的な一形態となっ たことを明らかにした。文革期に入ると、「毛沢東思想はプロレタリア文化大革命の行動指針であ る」と位置づけられ、各教科の教科書には以前にも増して毛沢東の多くの文章が教材として載せら れ、毛沢東思想教育が強化された。文革期の教科書において愛国主義教育の教材として取り上げら れた毛沢東の著作の内容を分析し、毛沢東の著作に表われた「祖国」と「人民」に対する毛沢東の 認識を明らかにし、その学びを通して教科書に「祖国への愛」「人民への愛」を導く内容が多く含 められたことを指摘した。

第四章では、語文(国語)教科書における愛国主義教育の内容を分析し、その特徴を明らかにし た。文革期には、毛沢東への愛と忠誠を促す教材内容は量的にも頂点に達した。また、当時、ソ連 とアメリカは中国の仮想敵国とされ、ソ連とアメリカを批判する文章と敵国との戦いが描写された 作品が多く掲載された。それにより、領土・主権の意識の喚起による生徒のナショナリズムの高揚 が期待された。さらに、毛沢東思想によって自己形成された「理想的な烈士・軍人像」「理想的な 知識青年像」「理想的な労働者像」の分析を通して、彼らの行動が「祖国への愛」「人民への愛」

を示していることを明らかにした。

第五章では、愛国心の形成という視点で歴史教科書に示された愛国主義的内容を分析した。まず、

文革前と文革期の歴史教科書の再編について取り上げ、文革前と文革期の歴史教科書の関連性や特 徴を明らかにした。次に、教科書に表れた愛国心の形成に関する次のような内容を明らかにした。

①悠久な歴史を有する中国文化の卓越性。②統一された広大な国土と多民族で構成された中華民族 への賛美。③国家存亡の危機の強調。④中国共産党・毛沢東への賛美。これらの内容の学習を通し て、生徒に中国共産党と毛沢東への崇拝と忠誠の念を持たせようとしたことを明らかにした。

第六章では、英語教科書に表われた愛国主義の形成に関する次のような内容を明らかにした。① 英語教科書には、他の教科書には見られない毛沢東・共産党への愛と忠誠に関する独自の教材が掲

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載された。②変貌する祖国の首都や祖国の美しい山河、社会主義体制下での偉大な建設成果が紹介 された。③アメリカの台湾や東南アジアへの侵略や、修正主義に変質したソ連の労働者の労働環境 の悪化を問題視した文章が掲載された。④革命時代の英雄、建国後の兵士、社会主義国家の建設の ために貢献した農民、農村に下放された知識青年、世界的革命家などが理想的な人間として取り上 げられた。これらの分析を通して、英語教科書が愛国主義教育のための道具として使われたことを 明らかにした。

第七章では、理数系(工業・農業を含む)教科書の内容の分析を通して、次のような愛国心の向 上を促す教材が多く掲載されたことを明らかにした。➀工場労働者・農民・革命の知識人などが新 しい国家の主人公と国家建設の主体として位置づけられた。②文革期の教科書は一貫して毛沢東思 想を国家の指導思想とし、理数系教科書においても毛沢東の語録と毛沢東の指示などが多く掲載さ れた。③文革期に強調された六つの愛の他に「科学への愛」が強調された。理数系教科書に独自に みられる「科学への愛」の強調は、技術者を養成するということだけではなく、毛沢東・中国共産 党・社会主義国家に忠誠心をもち、新しい社会主義中国に誇りと使命感をもつ新しい人間を創出し ようとした。

終章では、以上の検討から明らかになったことを踏まえ、文革期の中等教育教科書における愛国 主義教育の展開とその特質をまとめた。文革期の「語文」「歴史」「英語」「理数系」の中等教育 の教科書内容の分析から、「祖国への愛」「人民への愛」「労働への愛」「毛沢東への愛」「社会 主義への愛」「共産党への愛」という六つの愛は文革期における愛国主義教育の主な構成要素とな り、文革期の学校の教育内容として展開された。以上の教科書分析は、文革期における愛国主義教 育には少なくても次の三点の特質があることを明らかにした。すなわち、①「愛国主義教育」とい う表現を使用しない愛国主義教育であったこと、②「毛沢東への愛」に関する教育が強化されたこ と、③「人民への愛」に関する教育が強化されたこと、であった。

Ⅳ. 本論文の評価

本論文は、以下の点において高く評価することができる。

(1) これまでの中国の愛国主義教育の歴史に関する内外の先行研究は、主に 1949 年新中国の成立か ら文革期までと、文革終結後の 1978 年の改革開放以降の時期を対象としたもので文革期を対象と した研究は皆無であり、その意味で本研究はこれまでの先行研究の空白を埋める研究として評価 できる。それにより、近現代から現在までの一貫した愛国主義教育の歴史の中に文革期を位置づ けようとした点は意義深い。

(2) 本研究の分析対象としている教科書は、文革終了後、新しい教科書の編集が開始され、1978 年 に使用が始まったことに加え、先に述べたように、1981 年の「歴史決議」によって文革が全面的 に否定されたため、多くの教科書が廃棄され散逸してしまったこともあり、その収集は大変困難 なものであった。そのような困難の中で、一次資料である文革期の教科書を複数の教科に渡って 時間をかけて収集し、分析したことの意義は大きい。

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(3) 愛国主義の涵養の主要な媒体とみられる「語文」「歴史」教科書の分析は、先行研究によって 指摘された「毛沢東」「社会主義」「共産党」への愛という、社会主義体制への愛を実体として 裏付けることができた。さらに本論文において特筆すべきは、「語文」「歴史」にとどまらず、

「外国語(英語)」や「理数系」教科書をも分析対象としたことである。とりわけ、理数系教科書 の分析は、文革期の教育も、1972 年の教育改革を境に、基礎学力重視の方向に教育内容が変化し、

毛沢東の位置づけもまた変化したことを教科書の内容の分析を通してあとづけ、「労働への愛」

「科学への愛」など、「毛沢東」「社会主義」「共産党」という三位一体の「愛」とは異なる内容 がそこには含まれていることを明らかにした点は興味深い。

本論文は、以上の点でオリジナリティを持つものであるが、以下のような課題も残されている。

(1) 本論文では、分析概念として先行研究から得られた「六つの愛」を設定しているが、それらが どのように抽出されたのか、それらの概念間の関係性はどのようなものかについての説明が十分 なされていない。この点について課題設定部分と結論でより丁寧な記述が必要である。特に、「語 文」「歴史」の教科書については、先行研究においては、この時期の愛国主義教育の特徴として 指摘された「社会主義体制」への愛を分析視点としており、せっかく収集された豊富な資料の活 用を十分に生かすことができなかった可能性があることが、課題として指摘される。また、建国 以降強調された「五愛教育」の中の「科学」と「公共財産」への愛が分析概念から除かれている が、理数系教科書の分析の中では「科学」への愛についても言及されている。以上の点について、

内容に即したさらなる分析が期待される。

(2) 本論文では、文革期の教科書における愛国主義教育的内容の選択・掲載状況を分析しているが、

その特色を描き出すにあたり、それ以前の教科書の内容との対比や、その後との連続性について の記述も十分ではない。また、文革期の教科書の特色である、「毛沢東」への愛(個人崇拝強化)

の内容分析にあたって、背景にある政治路線のダイナミズムとの関連性の分析も十分ではない。

政治路線のダイナミズムを背景とした、文革期以前と以後の愛国主義教育の連続性と断絶性の解 明については今後の課題である。

(3) 本研究は文革期の中等教育教科書を分析対象とした教育内容史に関する研究であるが、それら の教科書を用いて具体的にどのような教育実践(授業)が行われたかといった教育方法史的解明 や、その後の改革開放期の中国の発展を支えた「文革世代」、彼らはまさに文革期に中等教育を これらの教科書で学んだ世代であり、彼らの愛国意識の形成への影響の解明といった人間形成史 的研究については今後の課題としたい。

以上のように、本論文は若干の課題を残しながらも、文革期における愛国主義教育研究の空白を 埋める意欲的な研究として、また後進の研究者に対する参照価値のある研究として高く評価できる。

本審査委員会は、以上の総合的な検討によって、本論文を博士(教育学)の学位を授与するに値 するものと判断した。

参照

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