要 旨
小学校の「総合的な学習の時間」「生活科」における障害理解についての指導法は,これまでも体験や活動 をすることが中心になってしまい,本来の目的である障害理解につながらない場合があるという指摘がある.
そこで,このような課題が生まれる理由を明らかにし,指導法の改善策を考察する.次に,障害者福祉に関 する研究成果から,小学校の子どもにつかませたい事柄を明確にし,それに基づき「総合的な学習の時間」
「生活科」において障害理解について学習するカリキュラムを作成する.
1 はじめに
2017(平成29)年度告示の学習指導要領1)によれば「総 合的な学習の時間」では,「探究的な見方 ・ 考え方を働 かせ,横断的 ・ 総合的な学習を行うことを通して,よ りよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくため の資質 ・ 能力を次のとおり育成することを目指す」と し「⑴探究的な学習の過程において,課題の解決に必 要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形 成し,探究的な学習のよさを理解する.⑵実社会や実 生活の中から問いを見出し,自分で課題を立て,情報 を集め,整理 ・ 分析して,まとめ ・ 表現することがで きるようにする.⑶探究的な学習に主体的 ・ 協働的に 取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,積極 的に社会に参画しようとする態度を養う」ことが求め られている.そして,探究課題の例として「国際理解,
情報,環境,福祉(下線筆者)・ 健康などの現代の諸課 題に対応する横断的 ・ 総合的な課題,地域の人々の暮 らし,伝統や文化など地域や学校の特色の応じた課題,
児童の興味 ・ 関心に基づく課題などを踏まえて設定す ること」とされている.つまり,詳しい内容の指示が ない「総合的な学習の時間」においても,「福祉」に関
する課題が例示されている.また,指導計画の作成と 内容の取扱い⑹に「障害のある児童などについては,
学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容 や指導方法の工夫を計画的 ・ 組織的に行うこと」と示 し,学校や学年単位の活動も想定した障害のある児童 への配慮を示している.
生活科においては,直接福祉について扱う内容はな いが,教科書の中では車いすなどの障害者に関する絵 が扱われている.さらに,学習指導要領の指導計画の 作成と内容の取扱い⑸に「総合的な学習の時間」と同 様に「障害のある児童などについては,学習活動を行 う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の 工夫を計画的 ・ 組織的に行うこと2)」と障害のある児童 への配慮を示している.
このように,「福祉」と言う課題が例示されていた り,子どもの目を障害児 ・ 者に向ける試みがされてい たり,学校内における障害児への配慮などについて示 されたりしている.しかし,小学校における障害理解 に関する指導法については,これまで多くの研究者か らその形骸化が指摘されている.
原田正樹(20023))は「障害の疑似体験だけで障害者 を理解しようというプログラム,「慰問」と言った施設
小学校の障害理解に関する指導法
―「総合的な学習の時間」「生活科」の学習を通して―
石 橋 昌 雄*
*立正大学社会福祉学部
キーワード:総合的な学習の時間,生活科,障害理解,指導法,カリキュラム
訪問,全校一斉の(強制的な)ボランティア活動,形 ばかりの手話や点字の学習等」について疑問を投げか け,「目的やねらいを十分吟味しておかないと,かえっ て「貧困的な福祉観」を再生産することにつながりま す」と述べている.
野尻(20104))は,「『福祉』教育を狭義に捉えて福祉 教育が行われた場合,福祉実践の形骸化が起こってい る.たとえば,障害者=弱者,高齢者=何もできない 人,というような,貧困的な福祉観が再生産される恐 れもある」と述べている.
これらの指摘から得られることは,障害理解に関す る指導法が,体験や活動をすることが中心になってし まい,何のためにその体験や活動をする必然性が子ど もに理解されておらず,本来の目的である障害理解に つながらない場合が少なくないことである.
そこで本研究では「総合的な学習の時間」「生活科」
において,障害理解を進めるうえで効果的な指導法に ついて検討し提案することを目的とする.
初めに,先行研究を分析し「総合的な学習の時間」
「生活科」におけるこれまでの障害理解に関する指導法 の課題を明確にする.次に「総合的な学習の時間」「生 活科」におけるこれまでの指導法の改善策について指 摘する.そしてこれまでの障害理解に関する研究成果 から,小学校の子どもにつかませたい障害者福祉に関 する事柄をいくつかに分類して提起する.さらに,そ れに基づき「総合的な学習の時間」「生活科」において 障害理解について学習するカリキュラムを開発する.
本論文の仮説は「障害理解に関して,『総合的な学習 の時間』『生活科』におけるこれまでの指導法を見直 し,新たな指導法を工夫したカリキュラムを開発すれ ば,より適切な障害理解を深め実践的に行動できる資 質 ・ 能力を身に付けることができる」とする.
なお,総合学習という言葉は様々な使い方がある.
加藤(19975))は,一つの教科や単元あるいは題材の一 部を加えた形の「教科」総合学習,二つ以上の教科,
道徳,特活の単元あるいは題材の一部を加えた形の「教 科,道徳,特活」総合学習,二つ以上の教科あるいは 題材を完全に全部取り込んで単元あるいは題材に仕立 てる「合科的」総合学習,三つ以上の教科や単元ある いは題材を完全に全部取り込んで,別の新しい単元あ るいは題材に仕立てる「学際的」総合学習があると述 べている.
しかし,本稿では,複数の教科 ・ 領域の単元目標は
別々のまま,関連した内容を扱うものは「合科(学 習)」とし,国語,算数,社会,理科,道徳,特活など 複数の教科 ・ 領域の単元目標を一つにして行う場合を
「総合(学習)」とする.一方,国語,算数,社会,理 科,道徳,特活などの既存の教科 ・ 領域と並行して,
文部科学省が現在学習指導要領において別途総合的な 学習を試みる時間を設定しているものを「総合的な学 習の時間」として区別する.
また,本研究は「障害理解」を目的としたものであ り「障害者福祉理解」を目的としたものではない.
2 「総合的な学習の時間」「生活科」に おけるこれまでの指導法の課題
文部科学省(20116))によれば,「総合的な学習の時 間」では「問題解決的な活動が発展的に繰り返される 探究的な学習をすること,他者と協同して課題を解決 する協同的な学習をすることが重要である.加えて体 験活動を重視するとともに,思考力 ・ 判断力 ・ 表現力 等をはぐくむ言語活動の充実を図ることが欠かせない」
と指摘している.そして,探究的な学習では「①課題 の設定 ②情報の収集 ③整理 ・ 分析 ④まとめ ・ 表 現」という学習活動が想定されている.また,協同的 学習では「①多様な情報を活用して協同的に学ぶ ② 異なる視点から考え協同的に学ぶ ③力を合わせたり 交流したりして協同的に学ぶ」という場面や児童の姿 が想定されている.これに対して,体験的活動では,
具体的な場面は示されていない.
また,文部科学省(20117))で学習課題の例として「福 祉」で示されている学習事項では「身の回りの高齢者 とその暮らし」「地域による福祉の現状と問題」「福祉 問題の解決やよりよい福祉を創造するための取組など」
である.この例の「高齢者」を「障害者」と読み替え た場合には,突然体験をする学習は,総合的な学習の 時間の探究的な学習とは言えない.つまり,「身の回り の障害者とその暮らしについて調べる→地域による障害 者福祉の現状と問題について調べる→障害者福祉問題 の解決やよりよい福祉を創造するための取組などについ て,自分たちの考えをまとめる」と言った活動の中で必 要に応じて,体験活動を取り入れていくことが大切であ り,最初に体験活動ありきではないことがわかる.
原田信之(20098))は,体験活動の課題として「第1 に,学びなき体験といわれるように,体験活動をその 場限りの活動で終わらせていた例も見られた.第2に,
事前に体験活動のねらいや意義を子どもに十分に理解 させないままに行っていた.主体なき体験といわれる ものも散在していた」と述べている.障害理解に関す る指導法でも,この点は留意すべきである.
水野智美(20089))は生活科の教科書分析を試みて「障 害児 ・ 者及び障害者用施設 ・ 設備等が掲載されている が,自らの体験や活動を通して社会の人々とかかわり をもつこと,自分の身のまわりの施設 ・ 設備等への関 心を高めること等を目的とした生活科の性質上,障害 に関する説明はほとんどない.また,障害児 ・ 者や障 害者用施設 ・ 設備が背景(主題とは関係のない通行人,
施設等)として挿絵の中で描かれていることが多い.
このように生活科は,障害に関する事項を系統的に扱 う教科ではないこと,知識を子どもたちにもたせる教 科ではないことを考慮し分析対象外」としている.
しかし,筆者は,日常の風景の中に障害者やそれに 関係する障害者用施設 ・ 設備が背景として描かれてい るまちの様子を,低学年の児童のうちから自然な形で 展開していくことこそが重要であり,ユニバーサルデ ザインに代表される障害理解に通じるものと考える.
水野(201610))は,別の論文では「幼児期の子どもは 徐々に自分と他人の違いに気づくようになっており,
街の中で自分とは違う特徴のある人を見たときに,違 和感をもったり,疑問を感じたりするようになること が背景にある.この際に,視覚的に障害者を見慣れる ことによって,ファミリアリティ(親しみ)が高まり 違和感がなくなるのである」と述べている.
つまり,低学年のうちから障害者がまちの中で共存 している姿に慣れさせておくことに意味がある.言い かえるならば中 ・ 高学年になってから知識として,子 どもに障害理解をさせることの土台として,障害者を 包含した日常の風景を抵抗感が少なく,感性豊かな低 学年のうちに取り込んでおくことこそ,違和感のない 障害理解につながるものとして位置付けたい.
また,生活科のまちたんけんのコースに,障害者福 祉施設の位置や名称も取り入れておくと,その後の総 合的な学習の時間での探究課題の布石にもなる.さら に,子どもが障害者福祉施設で開催される運動会やバ ザーなどのイベントにも参加した体験があると障害理 解の第一歩ともなりうる.
このように「総合的な学習の時間」「生活科」におけ る障害理解に関する指導法については,これまでも多 くの批判や改善の提言がなされている.しかし,依然
として教育現場では,課題を受け止めた実践としての 積み上げや検討がされておらず,同じような実践が毎 年繰り返されている点が課題である.以下,6点にわ たって課題を整理する.
1 )形骸化した体験
小学校の「総合的な学習の時間」「生活科」などで行 われている障害理解の実践で,一番多いのは「車いす 体験」「アイマスクによる手引き体験(ブラインド ・ ウォーク)」などである.また数は少ないが,固定具体 験,手を使わずに食べる,筆をくわえて絵を書くなど の体験もある.子どもたちは,教師の指導計画に従い,
障害者の日々のくらしや,障害理解に関する前知識は ほとんどなしに,これらの体験をする場合が多い.す ると感想は当然のように「障害者は大変だ」「大変なの にがんばっているのはすばらしい」となる.
原田正樹(200011))は,「単に『障害者は不自由だ,大 変だ』で終わってしまう疑似体験だけでは,ノーマラ イゼーションを具現化していくことにはならないので ある.さらに付け加えるならば,これからの福祉教育 では『何ができないかではなく,何ができるか』に着 目し,個人の持つ可能性や生き方の多様性を伝えてい く必要がある」と述べている.
西舘(200512))は「障害のシミュレーション体験の時 間はまちまちですが『できないこと』を学習者が体験 したところで終了となるような短時間の学習が多いの です.このような体験では,結果的に学習者の多くが
『視覚障害者は暗闇の世界にいて怖くて不安な思いをし ている』といった感想をもつだけで終わることになり ます.体験する時間を長くすれば,できないことの体 験だけではなく,できることの体験,どのような援助 が必要であるかを考えることができる体験,上手に援 助されたときの嬉しさ,下手に援助されたときのとま どいなどを感じることができます」と指摘している.
つまり,短時間の体験では障害者ができないことしか 気付かないこと.体験はある程度長時間行わないと効 果が薄いこと.障害者は適切なサポートがあれば,健 常者と同じ生活ができることの体験が必要であるとい うことである.
徳田(200513))は「体験そのものが目的化しないよう にすることです』と述べ「体験知を材料に『考え』『態 度形成』につなげ,いかに『実践的行動』に結びつけ ていくかが重要です.そのためには十分な事前と事後 の指導が必要になります」と指摘している.
水野(201614))は「車いす体験では段差などのバリア の発見が目的になりがちである.(中略)重要なのは,
それをどうすれば解消できるか(物理的な面と人によ る支援の面から),自分は何ができるかについて,それ ぞれに考えさせることである」と述べている.
これらの指摘のように,短時間で障害者の形だけ真 似る体験は,障害者は大変なことばかりだという誤解 や,それを乗り越えて生きている姿が素晴らしいとい うような誇張した理解を進める危険性がある.
また,あまり指摘されていないことであるが,障害 者には,知的障害者や精神障害者,発達障害者など様々 な障害者がいるが,小学校では身体障害者ばかりがイ メージされ,他の障害者が忘れられがちである点も問 題である15).
2 )一方的に聞く障害者の苦労話
次に多い活動として,障害者を招いて体験談を聞く という活動がある.例えば補助犬16)と生活している人を 招き,お話を聞くという体験などである.つまり,多 くは障害者が困っていることや努力していることを話 してもらうというものである.この学習をした子ども たちは,障害者の大変さや苦労話に感動はするが,や やもすると必要以上に障害者をすごい存在と感じてし まうことがないわけではない.
水野(200517))は,障害者を招いて話をしてもらう時 に気を付けることとして,「どのような内容を子どもた ちに伝える必要があるのかについて,障害者と十分に 打ち合わせをしておかなければなりません.ともする と障害者の苦労話をして終わってしまい,子どもたち は障害者を『困難に負けずに頑張っている人』とだけ 認識してしまったり,自分の生活とかけ離れた人と感 じてしまったりすることにもなりかねません」と指摘 している.
西舘(200518))「障害者の苦労話はマスコミなどを通じ て広く伝えられており,『障害者は苦労している』とい うステレオタイプが世の中に作り上げられています.
障害者は障害があるために,一般の人たちがしないよ うな苦労をし,一生懸命に努力した結果,小さな幸せ を手にするといった『障害者の苦労の方程式』が多く の人の心のなかにあるのです.障害者の苦労話が受け 入れられる背景として,障害者に関係する話には『こ んなに苦労している障害者に比べたら自分は恵まれて いる』と実感させる栄養ドリンク剤のような役割があ ることを意識しておかなくてはなりません」と指摘し
ている.また,マスコミが作る美談仕立てのストーリー に対しても批判している.
補助犬使用者の話を聞いたり補助犬に触れたりする 活動もよく行われている.しかし,石上(200519))は,
「多くの場合は使用者の話を聞き,盲導犬にさわって終 わりなのです.また,盲導犬使用者は教育のプロでは ないために適切な話ができず,子どもたちには『障害 のある人の話はよくわからなかったけど,盲導犬はか わいかった』という印象しか残らない場合があります」
と指摘している.
これらの指摘と教育現場の実践から言えることは,
視覚障害者の多くは補助犬(盲導犬)ではなく「白杖」
や「眼鏡」を使っているということである.まずは,
そのような事実から理解していかないと,障害理解で はなく,補助犬の役割を理解する教育になってしまう.
あらかじめ,指導者が障害の実態や,障害者の日々の 生活について聞き取り学び疑問点について明らかにし ておくことが大切である.そして,障害者に子どもた ちの前で話して欲しいことについて打ち合わせておき,
毎日の普通の生活の様子についても話してもらう必要 がある.
3 )何のために手話や点字を学ぶのかが不明確な活動 手話や点字を学んだりする活動もある.しかし,こ の場合も外国語を学ぶような感覚で手話や点字をマス ターしたことや,障害者と手話や点字で会話できたこ とを喜ぶだけで終わっては何もならない.大切なのは 手話や点字を学ぶ目的である.
水野(201620))は,視覚障害者の約7割は弱視で,白 杖や盲導犬,手引き者にガイドされて歩くことは少な いことや,「聴覚障害者のコミュニケーションの手段に は,①手話,②口話(相手の口の動きを読んで,話し ている内容を理解する方法),③筆談(紙などに書いて 伝える方法)④ジェスチャーの4種類がある」と指摘 している.
つまり,すべての障害者が,点字や手話をできるわ けでもなく,その必要もない.目的は手話や点字を通 して会話することではなく,点字や手話などの手段を 通して日常の会話をしたり,障害者の気持ちや伝えた いことを理解したりすることである.さらに,点字や 手話を使っての意思疎通は,単に身体障害者と健常者 との間だけの会話だけではなく,障害者どうしの間に も求められることであることも気付かせたい.
4 )半強制的なボランティア活動
ボランティア活動は,本来は自主的 ・ 自発的な活動 のはずである.しかし,小学校で行われている福祉に 関するボランティア活動の多くは,教師や保護者が子 どもたちに勧めて奉仕活動のように半強制的に行わせ ている場合が少なくない.毎年決まった時期に年中行 事のように行われる募金も同様である.小学校と言う 発達段階を考えると,教師や保護者がボランティア活 動や募金を先導するのもやむをえない面もあるが,本 来は子どもが障害者について調べていく中で,自分た ちにもできることについて考えた中で,あくまで手段 の一つとしてボランティア活動や募金が出て来るのが 望ましい姿である.
5 )表面だけの施設見学
心身障害者施設の見学もよく行われる活動である.
しかし,小学生にとっては,教師の働きかけによるも のが大部分である.小学生にとっては,全く未知の経 験であり,その環境の中にいきなり入ったときには違 和感をもつのは当然である.
小野(200521))は,「小学生が重度の知的障害者を短い 時間の見学のみで理解することは不可能と言えます.
障害について始めて学ぶ小学生には,車いすや点字,
手話,補助犬のような具体性の高いテーマの方が理解 しやすいのです」と述べている.施設見学が悪いわけ ではないが,子どもの発達段階や理解度,見られてい る障害者の気持ちも考え慎重に計画する必要がある.
また,見学に行く場合は慰問という形ではなく,異な る環境で生活している人を理解する,健常者と同様に 友達になるという姿勢で臨むことが大切である.
6 )安易な交流
障害者施設に行き,子どもと障害者が直接交流する 活動もある.しかし,その多くが限られた日の限られ た時間内だけの交流であり日常的なものではない.ま た,施設訪問型であり対面型である.つまり子どもた ちが障害者施設に出向いて障害者の方々に向かって,
あらかじめ準備した出し物をしたり歌をうたったりす る.混合型の場合でも,一方的にしてあげたり質問し たりすることもあり,互いに何をしていいかわからず,
必ずしも効果的な場合ばかりではない.
真城(200322))は「『障害児との交流』あるいは『高校 生との交流』という位置づけを前面に出した『形式的 交流』では,同年齢の子ども同士の関わりではなく,
『障害者』と『そうでない人』との交流というゆがんだ形
に陥ってしまう危険性があるのです」と指摘している.
阪田(200323))は「初対面の時には相手の視覚障害や 肢体不自由が大きく目についたとしても,個人的な接 触を通じて,やがてその存在を忘れるくらいに障害そ のものは小さくなり,実感として障害をもたない他の 友達と変わらないと思うようになった経験はよく聞か れる」「人は障害者との関わりのなかで,その人がもっ ている障害者観が変えられていくということがある」
と述べている.
つまり,交流の目的は,交流前にあらかじめ異なる 世界の人間と意識させるのではなく,たとえ最初は違 和感があっても同じ人間として違いをあまり意識せず に交流できるようにすることである.大切なことは,
成果を急ぐのではなく交流を積み重ねていく中で,次 第に自然と友達になれるようにすることである.そし て,一番大切なことは障害者の人権を尊重する姿勢を 中心とした交流,互いに理解し合えるための交流でな ければならないということである.
3 「総合的な学習の時間」「生活科」に おける指導法の改善について
以上のような現状を踏まえて,指導法の改善方向に ついて,以下考察する.
それでは,どのように指導法の改善を図ればよいか について以下考察する.
1 )教師のステレオタイプな障害理解を是正する 身体障害者というと生活科の教科書などで描かれて いる絵では「介護式(介助式)車いす24)」が多い.しか し,実際は障害者自身が動かすことのできる「自走式 の車いす」が多く普及しており,「電動タイプ」の車い すもある.また最近,子どもたちは「車いすバスケッ ト」「車いすテニス」などのスポーツをテレビ等で目に することもある.
視覚障害者に対してもすぐに「補助犬(盲導犬)」や
「点字」「点字ブロック」をイメージするが,実際には
「白杖」や「眼鏡」を使っている障害者が多い.また小 学校では,「拡大絵本」や「拡大教科書」「音声で読み 上げる本」なども利用されることもある.このような 子どもに身近なものから気付かせていくことも効果的 である.
聴覚障害者に対する福祉用具としては「手話」を取 り上げることが多いが,実際には「口話」と言い相手 の音声言語を「読話」によって理解し,自らも「発話」
により音声言語を用いて意思伝達を行うことも行われ ている.また「補聴器」や「筆談」「ジェスチャー」な ども使われている.また,映像の「字幕」や,テレビ による「字幕放送(文字放送)」なども使われており,
子どもが目にすることも多い.
これらの例でもわかるとおり,大人が考える子ども たちの目につきやすい典型的な福祉用具の絵や写真を 中心とした理解でとどまるのではなく,多数の障害者 が使っていたり,子どもが身近にふれられたりする福 祉用具や手法があることをまずは教師が理解したい.
2 )体験する前に,障害者の日常の生活や,体験の意 義,安全について学ぶ
向後(200525))は,「障害理解の深化につながる計画的 接触では,事前に目的とその目的を達成するための適 切な方法を選択する必要があります.また,事後には,
目的の達成度について検討し,場合によってはもっと 詳しい情報を伝えていかなければならないのです」と 述べている.
高野(200026))は,車いすの扱い方やブラインド ・ ウォークについて,あらかじめ手引きを作成し十分指 導した後で体験をさせる実践を行っている.
これらの指摘のように,形骸化した体験に終始しな いためには,まずは,身の回りの障害者とその暮らし について調べる.その上で体験の前に体験の意義につ いて,児童に十分時間をかけ説明することが大切であ る.さらに,車いすの扱い方やガイドヘルプの注意点 など,安全に配慮した体験の仕方についての解説が必 要である.その上で,「障害者の立場に立って考えてみ よう」という課題を設定して探究させる.このように,
体験する子ども自身がその意義を理解して初めて障害 理解へとつながることになる.
3 )体験した後にどのような条件を整備すれば障害で なくなるか考え合う
また,車いすやガイドヘルプなどの体験の後では,
介護される人,介護する人それぞれを体験する前と後 の様子を比較し,友達とその様子の違いや考えたこと,
感じたことについて話し合う.手助けしてほしい時と,
見守ってほしい時を体験的につかむことも大切である.
これらの一連の活動があって初めて有意義な体験とな る.
また,一歩進めて,単に障害への適切な対応ばかり ではなく,「どのような条件を整備すれば障害でなくな るか考えよう」という課題を設定して,探究させたい.
このような学習の積み重ねがユニバーサルデザインを 考えていく時の布石となる.障害は,社会的な要因に よって生み出されている場合もあることについて考え させたい.
4 )多様な障害者に目を向ける
子どもが体験してわかりやすい障害者は,身体障害 者である.これに対して,知的障害者や精神障害者に 目が向かない理由については,①外見的に子どもに見 えにくい.②奇声を上げるなど理解できない行動をと る.迷惑ととれる行為などをするため,最初から否定 的なイメージをもってしまう.③いじめや偏見など人 権上の理由から卑近な例は扱いにくい.などが考えら れる.
知的障害者や精神障害者の様子をそのまま体験する ことは無理としても,これらの障害者が日常感じてい ることを疑似体験できるものもある.例えば,「障害者 はどのように社会が見えているのだろう」という課題 を設定して絵や写真を使って疑似体験させる方法もあ る.最近では,映像で自閉症の人の模擬体験をする動 画も公開されている27).これらを用いると自閉症の人の 感覚過敏から生まれる焦燥感やストレスを感じること ができる.小学生に必ずしもこの動画を見せる必要性 はないが,知的障害者や精神障害者の視点から見える 世界を理解させる方法の一つとして選択肢に入れるこ とはできる.
5 )障害者やその家族や支援者にインタビューする 障害者の苦労話を一方的に聞くことも悪くはないが,
それでは子どもたちの探究的な学習につながらない.
子どもの側から日ごろ疑問に思っていることをインタ ビューさせたい.子どもたちは,年月を経たり,努力 を積み重ねたりすると今までできなかったことができ るようになる生活を毎日している.そのために年月を 重ねたり,努力を積み重ねたりしても改善することが 難しい障害者に対する理解は容易ではない.「障害者は どのようなことができ,どのようなことができにくい のか」という課題を設定してインタビューを通して探 究させる.すると,障害者が障害とどのように折り合 いをつけて暮らしているのかが理解できる.子どもが 主体的に考えた素朴な質問をぶつけ,それに答えてい ただくことによってこそ本音の障害理解が図られる.
高野(200028))は,「障害児の親や家族の思いを聞く」
という実践を行っている.このように,障害児 ・ 者だ けに話を聞くのではなく,障害児 ・ 者と日ごろ接して
いる親や家族,さらにはヘルパーや介護している人の 話も聞きとることも意義ある学習となる.なぜなら,
介護している人こそ健常者の目から客観的に見た障害 児 ・ 者の日常の姿や問題について語られることが多い からである.
6 )障害者と意思疎通したいという強い願いを喚起し て手話や点字を学ぶ
教師の計画に従い,突然手話や点字を学ぶのではな く,「障害者と会話してみよう」という課題を設定し て,障害者と意思疎通するにはどんな方法があるか考 えさせたい.つまり,必ずしも手話や点字を会得しな ければならないというものではない.実際に,障害者 と意思疎通をする場合には「口話」「読話」も行われて いる.また,筆談やジェスチャーもふまえて意思疎通 を図ってみて,いよいよ必然性が生まれた時に,手話 や点字を学びたいという意欲が喚起されることが望ま しい.また,手話や点字で障害者とどんな話をしたの か,学級のみんなと協働的に学び合い共有する時間を 設定することも大切である.この場合でも,障害のこ とや苦労ばかりを質問するのではなく,日常生活の様 子や楽しみなども会話できるようにすることが望まし い.要するに,障害者の日常を理解するための会話の 手段の一つとして手話や点字を学ばせたい.
7 )障害者からの要請に基づいてボランティアの支援 をする
先回って,障害者にとって良いと思うことをしてお 助けするのではなく,まして半強制的に大人に言われ てボランティアをするのでもない.「障害者はどんなこ とをしてほしいと思っているのだろう」という課題を 設定して,探究させたい.本来ボランティアのあるべ き姿は,障害者の要請があったら支援してほしいこと を支援する.または,自分たちがこれは必要だと強く 感じて自主的にボランティア活動をするのが本来の姿 である.その際には,かえって邪魔になることがない ように,あらかじめボランティアの役割や仕方を調べ て学習させる.また,あらかじめ安全や人権に対する 配慮も十分にしておくことも大切である.せっかくボ ランティアをしたのに,障害者から怒鳴られたのでは,
ボランティアをする意欲が減退してしまう.
水野(201629))は,「障害者の要求に応じないのはヒュー マニズムに欠ける行為であるという考え方が世の中に ある.しかし,障害のためにできないこと,できにく いことに対しては支援を行い,障害に関係ないことに
はほかの人と同様に対応する(できることは障害者自 身が行う)ことが重要であることを,肝に銘じておか ねばならない.また同時に,障害者自身もそのことに ついて考えておくべきである」と指摘している.つま り,障害者ができることまでも「してあげる」ことが ヒューマニズムではなく,障害者ができることはあえ て手伝わないことが,障害者にとって自尊心や自信を もたせるために大切な時もあるということである.
8 )予測される人権課題について事前に指導する 小学校の子どもは感じたことをすぐに口に出す.そ のため,悪気はなくても入所者や障害者に対して失礼 な言動をしかねない.したがって,障害者に接する前 に,「障害者について疑問に思うことを調べよう」「障 害者には聞きにくいことについて話し合おう」という 課題を事前に出させて正しい理解を進めておくことも 大切である.その中では,「何か怖いなどとは言わな い」「じろじろ見ない」などという禁止事項ばかり並べ 立てるのではなく,施設見学に行ったときに,施設や 入所者の日常や気持ちを自ら観察しながら推し量り,
相手が不快になるような言動を自然に慎むことができ るようにしたい.そして相手の立場に立って,見学す ることを指導したい.つまり,見慣れない各種の障害 の状況についてあらかじめ調べさせたり,見学で予測 される子どもたちが口にしたりするかもしれない人権 上の疑問にあらかじめ客観的な事実をもって答えてお くことが大切である.
9 )地域に住む同じ住民として日常的・継続的な交流 をする
ある日突然障害者施設を訪問して,出し物を披露し たり話をしたりする交流ではなく,「年間を通した交流 計画を立てよう」という課題を設定して,学校単位で 交流するなどの日常的 ・ 継続的な交流が求められる.
鳴門市坂東小学校(199730))では,生活科の時間を活 用し低学年を中心とした,近隣の高齢者施設や障害者 施設との交流を進めると共に,それを地域の主任児童 委員の働きや学校の児童会による活動へも広げ全校的 なレベルでの取り組みを行っている.さらに,この例 では施設職員と学校教職員との合同研修会や PTA 活 動の家庭教育学級での保護者の研修会へと大人同士の 交流へと広まっていった.このように,障害者や障害 者福祉施設との交流を一過性のイベントとして終わら せるのではなく,生活科や「総合的な学習の時間」か ら広げて,次第に全校,そして同じ地域に住む住民と
して交流へと広めていった実践として評価できる.大 切なことは,まさに,地域の中にいる障害者や,地域 の中にある障害者福祉施設との交流を日常化すること であり,継続的なものにしていくことである.
10)子どもが具体的に行動できるようにする
徳田(200531))は「親や教育者は「目が見えない人が 困っていたら声をかけてあげよう」ということを子ど もに教えることができても,どのような状態が困って いる状態であるのか,声をかけた後でどのようにすれ ばよいのか,困っていないときに声をかけられると迷 惑に思う人もいるのではないか,などの具体的な内容 について,あまりよく分かっていないことが多いので す」と述べている.そして「『科学的な認識を学ばせ,
同時に体験を行い,それを知識と体験知を材料に考え ていくことによって,結果的に思いやりや福祉の心が 育っていく』と考え,具体的な内容を題材に教えてい くことが大切です」と述べている.
そのためには,身障者が困っている場面を想定した 絵や写真などを使って,「障害者が困っている場合には どのような声掛けをするとよいでしょうか」という課 題を設定し,友達とシミュレーションをするような探 究的な学習も効果的である.
また,健常者と障害者を突然出合わせるのではなく,
両者を結び付けコーディネートする人の手配や役割も 重要である.コーディネートの基本的な姿勢は,まず は障害者である前に人間として一緒にしたいことを考 え,それをするための工夫について交流しながらみん なで考え合う活動などが考えられる.
11)拙速に教師の言葉でまとめずに,子どもの本音の 言葉でまとめる
障害者に対する教師の見方 ・ 考え方は,子どもに対 して大きな影響を与える.せっかく有意義な体験や活 動をして子どもなりに実感をもって様々なことの気付 いても,教師が抽象的な言葉できれいにまとめてしま うと,見方 ・ 考え方が狭められたり,偏って方向づけ られたりすることも少なくない.
西舘(200532))は,ある中学校の教師の言葉として
「『障害者をかわいそうと思ってはいけない』『障害は個 性である』といったことばは,障害について考えるこ とをやめさせてしまうことばであると感じます」と指 摘している.また「障害者も健常者もみんな同じ」と いう言葉も違いについて考えることを否定してしまう ことにつながるとして「子どもたちに違いの意味を教
えていかなければなりません」と述べている.
さらに水野(201633))では「教師や親が障害のことを 子どもからマスキングしてしまうと,子どもはネガティ ブな本音を隠して,社会的に望ましい発言だけをする ようになる.社会的に望ましい発言は教師や親からほ められるので,ますます強化されていく.本音では障 害者のことをかわいそうだと感じながら,いっぽうで
『障害者はかわいそうな存在ではなく,私たちと一緒に この社会をつくっていく対等な立場の人です.』と発言 する.子どもがこのような意識になってしまうことを,
障害観の二重構造化と呼ぶ」と批判している.
つまり,きれいな言葉でまとめて表皮的で安易な理 解をめざすのではなく,じっくりと時間をかけて,障 害者のおかれている生活の様子や悩み,喜び,違い,
同じところなどをどのように子どもが受け止め,障害 者はどのようにしたいと思っているのかを十分調べた り考えたりする学習こそが大切である.拙速に,教師 が簡単な言葉でまとめるのではなく,子どもが感じた ままの言葉を子どもに考えさせまとめさせたい.
12)将来の社会参画につながる活動をする
障害理解の目的について,水野(201634))は,「障害理 解とは,障害者に優しく接することではなく,適切に 接することなのである」と述べている.つまり,実社 会の生活環境を調査して,障害者にとっても住みやす いまちになっているかを検討する活動も有意義である.
このような活動は政治と結びつく可能性が高いため,
小学校では社会科で扱うことが多いが,「総合的な学習 の時間」「生活科」でも探究課題の解決のひとつの方法 として扱うことも考えられる.
高野(200035))は,20年間に6回,都内の中学校の生 徒に町を実際に車いすで歩いて他の市と比較したり,
身体障害児 ・ 者に対する意識調査をしたりして,福祉 のまちとしての変化が見られたかどうか調査している.
このような実践を通して,まちの福祉に関する環境を よりよくしていく提言などをまとめる活動も期待され る.
北山(200336))は,障害者が働くということの意味に ついて,4年生の子どもたちと授産施設を見学して,
作業の様子や働く人へのインタビューなどを通して考 えさせる実践をしている.この中で,子どもたちが「障 害者の人たちは作るのが楽しいじゃなくて,みんなで 作るのが楽しいとはすごいなあと思いました」と気付 かせたり,「しょうがい者にとってはものすごくまじめ
にしんちょうにはたらくより,みんなで楽しく仕事を した方がずっといいんじゃあないかな」などの感想を 引き出したりしている.そして「障害者のめんどうを みている人はどんな勉強をしたらなれるのか」などの 探究意欲を引き出している.
このような実践を通して,保護する対象としての障 害者への関わり方から,自立する障害者への関わり方 や,よりよい福祉につながるように子どもの意識を高 めていくことが大切である.
以上のような,指導法の改善については「総合的な 学習の時間」「生活科」の授業だけで扱うことには限界 もある.つまり,社会の中では,必ず一定の割合で障 害者はいるのが普通でありそれらの人とも一緒に生活 していくためにはどうするかということを,家庭科 ・ 社会科 ・ 道徳 ・ 国語科など全ての教科 ・ 領域の学習の 中で考えさせたい.
また,身近な障害者とのインクルージョンとして,
特別支援学校 特別支援学級 特別支援教室などに在 籍する児童との協働や,在籍校訪問なども含めたカリ キュラムマネジメントについても検討したい.さらに 将来的には,パラリンピック競技として採用されてい るような障害者スポーツ,とりわけ車いす競技などに ついても,安全に十分配慮した上で,障害児と健常児 が同じ条件で一緒に競争し,楽しめる環境ができるこ とが望まれる.
4 障害理解のカリキュラムの作成
1 )これまでの障害理解のカリキュラムについて 小学校の障害理解のカリキュラムに関しては,水野 ・ 西舘(201637))らの例がある.身体障害に対しては「見 えていなくてもわかることがたくさんある」「補助犬 ・ 手話 ・ 車いすとその使用者」「音声に頼らず情報を得る ための方法」「車いす使用者は障害物や段差に困る.」
など,具体的な体験や場面に応じての教材や指導法を 提言している.また,発達障害や知的障害についても
「ゆっくり成長する人がいる」「どうすれば相手に伝わ るかな?」「注意や集中することが苦手な子ども」な ど,具体的な不適応の場面ごとに考えさせる教材や指 導法を提言している.これらのカリキュラムは,①障 害理解の理論に裏付けられて,気づき→知識化→情緒 的理解→態度形成→受容的行動という流れを発達段階 も踏まえて展開されている.②それぞれの障害毎に活 動や体験が位置付けられている.③具体的な活動や体
験をもとに考えさせるカリキュラムとなっている.な ど優れた工夫がなされている.しかし,次のような疑 問も残る.①学年発達段階に応じて,気づき→知識化
→情緒的理解→態度形成→受容的行動という流れで分 けられるかどうか.低学年でも受容的行動もとれるし,
中学生でないと理解できない知識もある.②配当時間 が明示されていない.もし一時間を想定した指導案と すると,小学校では道徳以外の授業の多くが小単元で 行われており内容が過多のものもある.③いきなり活 動や体験,スキルから入る授業があり,何のためにそ の体験や活動をしたりスキルを身に付けたりするのか が子どもにとって今一つ明確ではないものもある.④ 特に高学年では,子どもに考えさせるというより,教 師が説明するものが多く,子どもが実感として理解で きたかどうかはわからないものもある.
2 )障害理解を進めるための 8 つの視点
筆者は,先に「障害者福祉の立場から社会科教育を 見直す8つの視点」を定めて社会科の教科書分析を行っ た38).ここでは,その視点も参考にして「総合的な学習 の時間及び生活科において障害理解を進めるための8 つの視点」について検討する(表1参照).
まず,これらの指導法を検討する前に,先にも述べ たように教師のステレオタイプな障害理解を是正する 必要がある.そのためには,障害者の基本的知識の再 認識が欠かせない.車いすの種類と区別,補助犬がで きることできないこと,白杖の使い方,口話の技術な どを調べるとともに,障害理解に関する考え方の変化 についても理解が必要である.
李木(201439))は「障がいのある人が社会生活を送る うえで直面する多くの問題は,障がいのある人その人 自身の問題であるというよりは,環境との関係で生じ た問題であり,その認識にたち,障害者福祉について 考えなければならないといえる」と述べている.つま り,個人の問題として扱うのではなく,地域の包括的 支援や社会的な制度で支えるというのが基本的なスタ ンスである.したがって,将来共に社会の一員である 子どもたちにも障害理解が必要なのである.
① わたしたちの周りには心身に様々な障害がある人 がいる【存在】
障害については,子どもはもちろん大人でも正しい 理解ができているとは言い難い.つまり,障害者を特 別な人と見るのではなく,普通の人と同じように生活 している人であることをとらえさせることである.そ
して,その生活の様子を探究的に調べようとすること である.社会には,外見からその様子が見えやすい身 体障害者だけではなく,知的障害者,精神障害者など もいる.そして,これらの人は何ができて何ができな いか.毎日の生活はどのようにしてくらしているか.
施設にいるのか在宅なのかなど障害の基礎的知識を学 ばせたい.できるだけ障害者やその介護者 ・ 家族など にインタビューしたい.
② 障害者に対する受け止め方は社会と共に変化し,
今ではノーマライゼーションやリハビリテーショ ンの考え方が主流になっている【変化】
障害と折り合いをつけて日常生活の困難を軽減する ための訓練をするリハビリテーションが行われている.
ここで大切なことは,障害者は,障害と折り合いをつ けながら生活していることを,障害者自身や家族や介 護者へのインタビューや模擬体験などを通してとらえ させることである.生活していく上で社会的な障害が ある場面をシミュレーションして,子どもたちに支援 策を考える学習もしたい.
③ 障害者も住みよいまちをめざして法律や条例の整 備や,建物のバリアフリーやユニバーサルデザイ ンの推進などが図られている【政治】
ここで大切なことは,障害者に優遇的な配慮をする ことではない.健常者と同じ生活でできるような合理 的な配慮をすることである.つまり,普通の生活をす るのに際してのバリアとなるものを取り除くことであ る.そのための法律や条例にはどのようなものがある か社会科とも連携しながら探究させたい.また,買い
物 ・ 習いもの ・ 遊びに行く時のシミュレーションをす るとともに,具体的に町の中がユニバーサルデザイン を満たすものになっているか調べたり考えさせたりす る活動についても工夫したい.
④ 合理的配慮に基づいて障害者を支えるために様々 な施設や設備が作られている【施設 ・ 設備】
合理的配慮に基づいた障害者のための施設や設備が 必要である.施設 ・ 整備の改善の計画を立案する模擬 プロジェクトを立ち上げ,具体的な提案をする.この 時に大切なのは,特定の障害者にだけ配慮するのでは なく,様々な障害者とのバランスも考えて配慮するこ とである.具体的には点字ブロックが障害者全般にとっ て良いのではなく,視覚障害者にとっては良いが,車 いすの障害者にとってはバリアとなることなどに気付 かせることである.施設や設備については,よくなっ た例を取り上げることが大部分であるが,かえって不 便になった例や,さらなる改善について考えさせるよ うな活動も大切である.
⑤ 障害者の要望に沿って様々な福祉用具が開発され ている【福祉用具】
子どもに福祉用具の体験をさせる場合には,その体 験の意義と共に,あらかじめ福祉用具の仕様と安全な 使い方について理解させる.具体的には身体障害者に 対する,①義足 ・ 義手 ②補聴器 ③拡大教科書 ・ 拡 大鏡など.聴覚障害者に対する補聴器などである.し かし,中には精神障害者に対する,①薬のように体験 してはいけないものや,②セラピィー(アロマ ・ 音楽 ・ 絵画など)のように体験が難しいものもある.知的障 表 1 総合的な学習の時間及び生活科において障害理解を進めるための 8 つの視点
① わたしたちの周りには心身に様々な障害がある人がいる【存在】
② 障害者に対する受け止め方は社会と共に変化し,今ではノーマライゼーションやリハビリテーションの考え 方が主流になっている【変化】
③ 障害者も住みよいまちをめざして法律や条例の整備や,建物のバリアフリーやユニバーサルデザインの推進 などが図られている【政治】
④ 合理的配慮に基づいて障害者を支えるために様々な施設や設備が作られている【施設・設備】
⑤ 障害者の要望に沿って様々な福祉用具が開発されている【福祉用具】
⑥ 合理的配慮や生活の質の向上を図るために障害者を介護する人が必要である【人】
⑦ 障害者の人権を守り,自立をしていけるような社会の仕組みを作り,同じ社会の一員として障害者をとらえ ることができる【価値】
⑧ インクルージョンの精神から障害者と市民が社会の中で協働して,住みよいまちにしていくことが大切であ る【協働】
害者に対する,①絵カード ②文字カードなどは,学 校教育の場でも体験することができる.
⑥ 合理的配慮や生活の質の向上を図るために障害者 を介護する人が必要である【人】
福祉に従事する人の仕事の様子や支援の基本姿勢な どについて学ぶ.できるだけ一人の人物を取り上げて,
探究的な学習を通してその一日や具体的な仕事につい てとらえさせたい.障害者が求める支援について具体 的に聞き取り,自分だったら何ができるかを考えたり,
実際にボランティアをしたりする学習も考えられる.
⑦ 障害者の人権を守り,自立をしていけるような社 会の仕組みを作り,同じ社会の一員として障害者 をとらえることができる【価値】
障害者の人権を守るためには,活動の前に予想され る人権課題について人権教育とも連動させて指導する 必要がある.疑問に思うことや,失礼にあたることな どを子ども自身に考えさせたい.そのポイントは,も し自分がその立場だったらと考えさせることである.
その上で,例えば討論会を障害者と行い,障害者,介 護者,町の人などの立場に立って意見を戦わせる.そ して具体的にどうするかを考え合うようにする.また,
互いが意思疎通するためには,どんな方法があるか子 どもたちに考えさせたい.突然,手話や点字をするの ではなく,筆談やボディーランゲジなどもっと平易な
意思疎通の方法から考えていきたい.また,障害者に 対する見方 ・ 考え方については教師が拙速にまとめる のではなく,子どもの言葉で表現させたい.
⑧ インクルージョンの精神から障害者と市民が社会 の中で協働して,住みよいまちにしていくことが 大切である【協働】
健常者や障害者という区別なく,誰にとってもより くらしやすいまちについて,障害理解の成果を生かし て考えさせたい.そのためには,イベントとしての交 流ではなく,日常的 ・ 継続的な交流を計画することが 大切である.さらに,障害者が困っているときにどの ように手助けすればよいか,あらかじめロールプレー するなどの実践的な態度へもつなげる活動もさせたい.
3 )障害理解を進めるための指導法
以上のような「総合的な学習の時間及び生活科にお いて障害理解を進めるための8つの視点」を念頭に置 いて,発達段階や総合的な学習の時間や生活科の教科 特性も踏まえて,「総合的な学習の時間及び生活科の障 害理解カリキュラム」を作成する.
ここでは,これまでの研究成果も整理して,次のよ うな指導法を組み合わせることにする(表2参照).な おこれらの指導法を使う前提として,指導者の障害理 解をあらかじめ深めておくことが不可欠である.
表 2 総合的な学習の時間及び生活科において障害理解を進めるための指導法
指導法 具体例
ア 知識 障害理解 ①障害に関する基礎的な知識を身に付ける 安全 ②各種体験の安全に関する知識を身に付ける
イ 体験 障害者体験 ③障害者自身の模擬体験(車椅子体験,ブラインドウォーク体験など)
介護者体験 ④介護者の模擬体験(手引き体験,車椅子介護者体験など)
ウ 対話 聞き取り ⑤障害者や家族・介護者などの話を聞く インタビュー ⑥障害者や家族や介護者へのインタビューする
エ シミュレーション ⑦障害者が遭遇する困難場面を解消する模擬実験をする オ ロールプレー ⑧障害者を介護するための場面を役割演技する
カ 事例研究 ⑨介護の仕方の事例について適否を考える キ ボランティア ⑩自主的な無償の奉仕をする
ク 施設訪問・交流 ⑪施設を訪問して障害者と関わる ケ 見学・調査 ⑫まちやまちの福祉施設・設備を調べる コ 討論・議論 ⑬立場を変えて討論する
サ 広報・啓発・参画 ⑭新聞・ポスターなどによる広報したり募金したりする