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『栄花物語考難註』解題と翻刻

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(1)

- 231 -

ノー トルダム清心女子大学附属図書館特殊文庫 ( 黒川文庫) 蔵

『栄花物語考難註』解題と翻刻

桜 井 宏 徳

要旨

大石千引『栄花物語考難註』は、安藤為章『栄花物語考』に逐条ごとに批判を加えつつ、千引自身の所説をも述べたもの

である。

従来、『栄花物語考難註』は、『栄花物語考』の赤染衛門非作者説・全巻同一作者説を否定して、中世以来の赤染衛門作者

説を再び肯定し、正編三十巻と続編十巻とは作者及び成立時期を異にしていることを説くなど、作者論・構成論において今

日の通説の水準にほぼ達している点がもっぱら評価されてきた。しかし、千引の関心は、作者論・構成論よりもむしろ、物

語とはいかなるものかを文章のありようを通じて考えることに向けられている。千引は、現存しないものの『栄花物語』の

初の全注釈であったと目される『栄花物語抄』の著者でもあり、『栄花物語考難註』は千引の『栄花物語』観、ひいては歴史

物語観・物語観を知る上でも貴重である。

本稿は、現在知られる『栄花物語考難註』の唯一の伝本であるノートルダム清心女子大学附属図書館特殊文庫(黒川文庫)

蔵本の翻刻に解題を付して紹介し、近世『栄花物語』研究史及び大石千引の研究に資せんとするものである。

(2)
(3)

- 233 -

解題

『 紫 家 七 論』 『年山 紀 聞』など を著 し、 水戸藩に仕えて 『 大日 本 史 』 『 扶 桑 拾 葉 集 』 の編纂 に も 携 わ っ た 安 藤為章の

『栄花物語考』

(正徳三年〈一七一三〉)

は、出 版 こ そ さ れ な か っ た ものの、近 世 の『栄 花 物 語 』に関する専 著の 中 で は

最も多く書 写 さ れ たら しく 、 現 存する伝本は三十本近く に 及ん で い る。 中 世 以来の赤 染衛門作者説を全面的 に否定し、

『栄花 物 語 』 全四十巻 は 「 堀河院より後の男子の 手」

(二ウ)

によ るもの で あ る と す る 『 栄 花 物語考』 の所説 は 、 現 在

で は ほと んど 支持されて い ないが、 近世 の『栄花 物語 』研究に多大 な影響 を 与え 、近代に 至る ま で なお命脈を保って

いた。

ここ に紹介 する『栄花 物 語考難註』

(文化七年〈一八一〇〉)

は、 『野乃舎随筆』 『 大 鏡 短 観 抄』などで 知 られ る 江 戸の

1)

歌人 ・ 国 学者 大 石 千引

(明和七年〈一七七〇〉―天保五年〈一八三四〉)

の著作 で 、 そ の表 題が 示す と お り、 『 栄 花 物 語考』

の全文 を 引 き 、 逐 条ごと に 批 判 を加え つ つ、 千引み ず から の所説を も述 べたもので あ る。 その概要と体裁につ い て は 、

早く『栄 華 物 語詳解』 に、

首 に 、安 藤為 章栄華 物 語考 と題 し て 、下 に、難註 と記 せり。 即 ち 、 栄華 物語 考を 弁難 した るも の に て 、 一字 下 げ

に、千引 按る にとし て 、一々其可否を弁 じ、巻末に、 文化 七年午三 月 菅 ノ 根ノ長キ春日 ノ 徒 然ナルマヽニ、新 武

蔵国 葛 飾 ノ 里 野乃舎 ニ 於テ 筆ヲ 下ス 、大 石 源 千 引 と あ り。

2)

という解 説が ある。 千 引が一世紀 近 く も 前 の 『栄花 物 語考 』 を あえて 「 難 註 」 の 対 象 とした理由は 明ら か で はな い が 、

叙上のよ うに 広く流布 し て いた『栄花 物 語考』の 影響力の大 き さに 、そ れ に 否定 的な立 場 から 危惧を抱 い て の こ とで

はな かったか と推察され る 。 『 栄 花 物語考難註』は 、 松村博司氏 が 、

(4)

千 引 の 説 は 、 赤 染 作者 説 を 伝 説 の ま ま 尊 重 す べきこ と 、 そ の 成 立は 巻三 十で 上 下 篇に

下 篇 の作者 は 藤原為業 が相 当すると いって い るところ を 評価す べ き で あろ う。

3)

と 述 べ て いるように、従来は もっ ぱら作者論 ・ 構成論の 観点から、今日 の 通説の 水 準に

れ 、 研究史 上 に 位 置づ け ら れ て き た 。 そ のこ とは ひ と まず 首 肯 され るが 、 『 栄花 物 語 考 難

に作 者論・構 成論の立場か ら反論す る こ とのみ を 目的 とし て い る わ け で はな い。む し ろ千

論よりも 、物語とはいかな るものかを主 に文章の あり よう を 通 じ て 考え、それを 踏まえ

書かれて いるのかを 明 らか にする こ とに向けられて い る。

4)

松 村 博司 氏が 詳 述 し て いる よ う に、 一八 世 紀 半 ば ごろま で の近 世『 栄 花 物語』研 究 史

考勘』

(宝永三年〈一七〇六〉以前)

、 土 肥 経 平 『 栄花 物語 目録年立 』

(延享元年〈一七四四〉)

を除い て 、作者・成立・題 名など、テクスト 外の 諸問題をめぐ る議 論に終始 し て い た が、

愚見 』

(寛政六年〈一七九四〉)

、本 居 大 平『 栄 花 物 語 会 読 抄 』

(寛政七年〈一七九五〉ごろ)

あた

ものへの 関 心が高まり 、 語釈 を 中 心と し た 注釈への 志向 も萌 し始 める。 『 栄花 物語考 難 註

中で 著 さ れ た も の と 考 え ら れ る が 、 頻 出 す る 「 物 語 文 ノ 筆 法 」

(一〇ウ)

「物語フミノ ナラヒ」

マ」

(一八オ)

とい っ た 用語から は、 文 学 形態とし て の 物語 とその文章に対す る関 心 の 深

れて いる のかで は なく 、 ど の よ うに 、、 、、、 書 か れて いるの か 、 す な わ ち 物 語内 容よりも 物語言説により強

花 物 語考 難註 』 の あり 方は 、 『 栄花 物 語 』 研 究史 の 中 で も 異彩を 放 って おり 、 二 五丁の小

べき 理由 も 、 そ こ に こ そ存 するもの と思 量され る 。

な お 、 『 大鏡 短観 抄』 巻首 には 「 予 か あ ら は せ る 栄花 物語愚釈 」 と の記述 が あり 、

( 6)

これ

(5)

- 235 -

るものと みら れ る 。 『 栄花 物 語 抄』 は現 存 し ないが 、 四 十 巻

(『

大 石 千 引 之 伝

』 (

あるい は 四 十 一巻

(『野乃舎随筆』『日中行 7)

事略解』巻末広告)

8)

と 伝 えら れ る 巻 数 から推 し て 、 『栄 花物語』 の全注 釈 で あ っ た こ と は疑 いの余 地 がなく、 千 引 は 『 栄

花物 語』の全注 釈 を初め て 試み た人物 で あっ た こ とにな る 。 『 大 鏡 短観抄』 巻首 の自 序に は、 『 栄 花物 語 考 難註』 の 自

跋と同 じ 「 文 化七 年午 のと しや よ ひ 」 と いう年月 の記 載があり 、 『 栄 花 物語抄 』 は 『 栄花 物語 考難 註 』 に先 立って 成 立

し て い た ものと 推 定 さ れる。史上初の『栄 花 物 語 』 の 全注 釈という偉業 を成し 遂 げ た 千引の『栄 花物 語』 観を伝え る

ほぼ唯一の資料 で あるという 点 でも 、 『 栄花物 語 考難註 』 は高い価値を有し て い るの で あ る。

また、 『 大鏡 短観抄 』 が 本 文校訂と語 彙 及 び 歴史的 事 象の考証に 徹 して いるの に 対 し て 、 博引 旁証 という点で は 共通

し て いるものの、 『 栄 花物 語考 難註』はすぐ れ て 批評 的な 書物 で あ り、 『 大 鏡短観抄』 で は ほ と ん ど披 瀝される ことの

ない 千引の物語 観が直截にう かが われる点 でも興味 深 い 。

『栄 花物語考難註』 の 伝 本 は、 ノート ル ダム清 心 女子大 学 附 属 図書館特殊 文 庫

(黒川文庫)

蔵の一本 が 知 られる の み

であ る

(国文学研究資料館蔵マイクロフィルムで全丁の披見が可能。請求記号三三二―一七六―四―一)

。夙 に 『 栄 華 物 語 詳 解 』

に校訂本 文が収められて い るが、 林 諸鳥 『栄花 愚 見』 ・ 岡 本保孝 『 栄花 物語抄附録 』 とと もに 「 以 上三書 、 黒 川 氏蔵 本

なり」と 明記 されて お り、

9)

該本 を 底 本にし て いる ものと見 て 誤 らない で あろう 。 た だ し、 この校 訂 本文 は誤 脱の甚 だ

しい杜撰 なも の で あり 、依 拠するに は多 分に不安 が残 る。 本稿 は、 原本調査 に基づく該本の翻 刻を以下 に掲 載し、 近

世『 栄 花 物 語 』 研 究 史 及 び 大 石 千引の研究 に 資 せん とす る も の で ある 。

最後に、該 本 の書誌を記 し て お く。縦二六 ・ 六㎝ ×横一九 ・ 二 ㎝の袋綴一冊本。表紙は 無 地 鳥 の子色で 、 左 に「 栄

花物 語 考 難註

千引難註

/栄 花物 語 続 世 継 考

信友考

」 と 外題 が 墨 で 直 書き され て い る。 内題 は 「 安藤為章 栄花 物語考

/難 注」

(一オ)

。料紙は楮紙。遊紙な し 。 全四四丁

(丁付あり)

で 、 外 題 が示 すご とく 、伴信友 『栄花 物 語続世継 考』

(6)

と合綴されて おり、 『 栄花物語考難註 』 は二五 丁 オ ま で 。 江 戸時 代末期 写 。

表紙右上 に 「

10)

の右上 に 「ノ ートルダ ム清 心女子大学 図 書之 印」 の朱 長丸 印一 顆、 右下 に 「 黒川 真頼蔵書

印各一顆 と「 黒川真頼 」の 朱丸 印一 顆が 、そ れ ぞ れ 捺 されて い る。 表紙右上 の「 物語」の

と朱で 直 書き されて お り 、 実 際 に朱 の書 き 入 れ が 散見 され るが 、それ ら のほ とん ど は 見

り 、 注記 的 な 書き 入れ はご くわ ず か で あ る。こ の 書き 入れ が黒 川 春 村の 真筆 で あ るか 否か

のの 、 少 なく とも 本文 とは 別筆で あ る由 、 久保木 秀夫 氏 よ りご 教 示 を 賜 った 。 巻 末

(二五

詳 解 』 に も引か れ て いる よう に 、 次のよう な 自 跋が 存する 。

文化 七年午三 月 菅 ノ 根ノ長キ春日 ノ 徒 然ナルマヽニ

新 武 蔵 国 葛飾 ノ里 ノ野乃 舎ニ オイ テ筆 ヲクタ ス

大石 源千 引

なお 、 該 本に は誤 字脱字が や や 多く、 「 定 家 卿 」 とある べ きと ころを 「 定 家 公」

(七オ)

(一七ウ)

としたり 、 『 源氏 物語』の雲居雁を「 内 のおほ と ゝ の 姫宮」

(二一オ)

とした り

えにくい 、知 識の 不足 に起 因すると 思わ れ る 誤り も 散 見され る 。書写者の教 養の 水準は、

よう で あ る

(あるいは親本の問題か)

翻刻 凡例

一、字 体 は漢 字・仮名 とも 通行のも のに 改めた。 ただ し、 「哥 」など 一 部の異体 字はそのま

(7)

- 237 -

一、改行 位置 は底 本ど おり と し た が 、文 字の 大小 ・字配りは必ず し も底本ど おりで は ない。

一、改面 位置 は

(一オ)

のよ う に 示し た。 」

一、 見せ消ち は該当 箇 所に抹消線 を 引 き 、訂正後の文 字 を ルビで 示 し た 。字形が 不明瞭なため 、 見 せ消ち に し て 再度

同じ文字を記 し て いる箇所も同様に処理 し た 。見 せ消ちはすべて朱 の別筆によっ て い る 。

一、 補入さ れて いる文字 は〔 〕 で 示した。補入はすべ て 朱の 別筆 によっ て いる。

一、判読 不能 の文字は □ で 示した。

一、誤植等 で はない こ と を 示すため 、「 ( マ マ) 」 と 傍書 し た 箇所 があ る 。

翻刻

安藤為章 栄 花 物語考

難注 大石 千 引

増鏡の序 に云世継とか 四十 帖の草子 に て 延喜よ

り堀河の 先 帝 ま て ハすこ し こ ま やか なる

上下

為章按る に こ れ い はゆる栄花物語の 事な る を

世継と称 し た まへり此外古き 物 に世 継に 云とある

を考ふるに 皆 此草 子の 文なり

千引按 ル ニ 世 継ト云 ハ 栄 花 ノミヲ云ニアラス大 鏡 ヲモ 云 ヘ リ古書 *[頭 書 (朱) ]

(8)

ニ世継ト 云 ヲ 考ルニ此二ノ 書 ナ リ先 一 ツ 二ツヲ云ヘシ愚管抄ニ貞 春村曰世

信公ノ御子ニテ小野宮 九条 殿 ト テ オ ハス メリ 此事 共ハ 世継ノ鏡 ノ 記録といふ事

巻ニ細々 ト書 タレハト ア リ 是ハ大鏡ノ事ナリ 栄花 ニアラス 栄花 ニ 栄花

小野 宮殿九 条 殿 ノ コト ア レ ト大 鏡ニ猶委シ 又 伊勢貞丈主人云 鏡 ノ る事とおもへ

巻トハ栄花 ノ 月宴 巻 ナ リ月宴 ノ 巻ニハ天子皇 子皇女御兄弟 摂政関 」

(一オ)

なり詳に

白ノ 家ノ 筋目 ノ 事 ヲ多 ク書 ツラネテ 此巻 ハ 一 部ノ 鏡ト スル意ニ テ 漫筆

鏡ノ巻ト モ名 ツケ シニ ヤト 云ヘリ 是 ハ イ タク強言ナリ 然ル 号

何レ

ノ書ニモ 不

見鏡 ノ 巻 ト云 ハ大 鏡 ノ 巻 ノ コト ナ ル ヘシ 疑 ラ ク ハ 世継

ノ 大 鏡ノ 巻ト アリ シ カ 大ノ 字脱セ シ カ但 シ元 ヨリ ワ サ ト 省 キ テ 書

ルニモア ルヘ シ拾 芥抄 ニ世 継 物 語云 萬葉集高 野御 時諸 兄 大 臣奉 之

是ハ 栄花 ノ コ ト 也 大 鏡 ニ 世 続ノ

(マ

名トアル ハ無 論此栄花ナリ 徒

然艸ニ染 トノ ヽ大臣モ 子孫オ ハ セ ヌ ソ ヨ ク侍ル 末 ノオ クレ 玉ヘ ル

ハワロキコト ヽ ソ 世継ノ翁ノ 物 語ニ ハカケルトアルハ 大鏡ノコ ト

也十訓 抄 ニ村 上 帝 ノ 后 安子 女御芳子 ヲ妬ミ玉 ヒシ コト又隆 家中納

言花山法 皇 ヲ 射奉リ シ 事ニ ヨ リ テ流 罪セ ラレ 玉ヒ シ事ヲ 委 ク世 継

ニ見 ユト アリ 是 大 鏡 ニ 安子 后芳 子 女 御ヲ 妬ミ 玉ヒ シ事 アリ 花 山 院

ヲ 隆 家卿 射奉 リ シ事ハ 大鏡 ニオ ロ〳 〵有 テ 栄 花ニ 委シ 然レハ 此 栄花

ト 大 鏡ト ヲ世 継ト 云シコ ト イチ シル シ又 六百番歌 合ノ 詞ニ歌合 ノ歌

(9)

- 239 -

ニハ物語ノ歌ヲハ本歌 ニモ 出シ証歌 ニモ用フマシキト 申ケレト 源

氏世継伊 勢 大 和トテ歌 読ノ 見 ル ヘキ 文ト 承ルト ア リ 此 歌合 ニ 云 ル

世継ハ栄花ノコト ナル ヘシ

栄花といふ題 号ハいつ 比より誰人の 名つ けられた る

といふ こ といまた考へ す作者を赤染衛門 とい ひ つ た」

(一ウ)

へて 誰も うた か は す或 本に 目録 系図 一巻 を そ へ

てそ の 端 に 赤 染 衛 門 記 之 と あ り 今 く は し く 全

書を よみか つ 赤染家集 紫式 部日記な とに 考

合するに決し て赤染 か 撰にあ ら す

爰ニ栄 花 ト云題号ハ何レノ 頃ヨ リ 誰 人 ノ 名ツケラレタルト云 コ トヲ

イマタ考 ヘス トアルハ 甚僻 事 ナ リ 此 物語 第三十六 帖根 合ノ巻ニ 栄

花ノ上ノ 巻ニ ハ 殿 ノ 御 子オ ハ シ マサスト 申タルニ カク サマ〳〵 トメ テ

タク世ノ カタ メトナ ラ セ 玉 フヘキ 一 ノ 人 タチ 出 オ ハ シ マシケル モ

ノヲトアリ爰 ニ栄 花ノ 題号 出タ リ然レハ元ヨ リ栄花物語ト云シコト

明 ケ シ 巻 中 御 堂殿 ノ御栄 花 ヲ書ル物語 ナ レハ也 又 世継ト云 モ帝王

ノ御世々 次第 ニ委細 ナ レハ 世継トモ 異名ヲ 云 シ ナ ラン 此 書 元ハ 四

十帖ニアラス 三十帖 ナ リ 後 人十帖書 加ヘテ四十巻トハナ シタル モ

ノ ナ リ是ハ下 ニ云ヘシ又此物 語 ノ 作者赤 染 右衛門 ト 云コトタシカ

(10)

ナル証 古 書ニ不 見 シ テ 甚

イト

ウタカ ハ シ ケ レト古ヘヨ リ ノ云 伝ヘ ニ

シ テ 是 又 捨ラレヌ 説也延 徳 御 八 講 記 ノ跋ニ源 氏物語 ヲ 紫毫ニアラハ シ

栄 花 物語ヲ赤 染カ 書ケ ン其世ニ生 レ アヒテ見ソメ シ人ノ心 オ シ ハカラレ侍」

(二オ)

イタ ク 後 ノモ ノ ナ レト 豊臣 勝俊 臣 ノ サカ 衣ト 云 ル 書ニ秀吉公ノ

御栄花ヲ 挙テ 栄花物語 ニ一条院ノ御世ノ 事 オ ノ〳 〵中宮女御更

衣 ナ トノ 御アリ サ マヨリ 何 クレノ 御 調度 マテイミ シ ウ アリ カタ キ

ヤウ ニコ ト〳 〵 シ ク書 ナ シ 御堂 殿ノ 法成 寺ヲ 例 ナ ウ 云 タレ トソ レ

ハコ トノ 数ニ モ ア ラス 今ノ メテ タキ ヲ 衛 門ノ カウ ニ見 セ タ ラ マ

シカハイト〳 〵ハチテ 面モ赤染 ナラ ント ホヽ ヱマルト ア リ 是等 古ヨ

リノ 云 伝 ヘニ シテ勝俊 ヌシモ栄花ノ 作者 ヲ赤染ト 心得ラレ シ ナ ル

ヘシ竹取ウツ ホハ源順伊勢 ハ伊勢御 大和ハ花山院 源氏 ハ紫枕草子ハ 清少

納 言 ト作者皆 云 伝 ヘ ノ ミ ナ リ古 ノ物語 書 ヲ作 者ノ 名アラハ ス事ナ

シヨシヤ 作者 赤 染 ナ ラ ス共 其頃 藤家 ニ縁 アルモノ ヽ書 ル 文 ナ リ 其

故ハ巻 中 藤家 ノ 非 ヲ 隠 セリ 彼大鏡ニ ハ安 子后宮芳 子女 御ニカハ ラ

ケノ 破 打 ツ ケ 玉フコ ト 粟田 殿花 山院 ヲス カシ オ ロ シ玉 フコ ト綏 子

頼定卿ト 密通ノコト ナ ト大鏡ニハアラハ ニテ此栄花ニハ省タ リ 是

ヲ 以 テ考 フル ニ藤家随 身ノ モノ ヽ書 ルト ハ 知 ラレ タリ 藤原為業 主

ト云 ハイカヽ

(11)

- 241 -

思ふに堀 河院 より後の 男子 の手に出て ふ る き 実録

またハ赤 染紫 以下諸 才 女の 日記家集 なと より抜

あつめ女の筆 めかし て 作 れ る物とみ ゆその証を」

(二ウ)

左にか ゝ け て 後勘に備ふへ し但し衛 門が 上を しら

され ハ 考 索 あ き ら か な ら す

堀河院ヨリ後ノ男 子 ノ 述作ト云 ハ最僻言ナリ按 ル ニ此物 語 元ハ三

十 巻 ニ テ 鶴 林 巻ニ終 ル 殿 上 ノ花 見巻ヨ リ 紫野 巻 十 巻 ハ 後 人 ノ作リ

ツキタル モノ ナリ 其証 ヲ イ ハ ヽ 月宴ノ 巻 ノ始ニ此国ノ 帝六十余 代

ニナ ラ セ 玉フ ト ア リ 是 ヲ 以 テ 考 フ ル ニ 六 十 余 代ハ 朱 雀 院 村 上 ヽ 冷

泉ヽ 円融ヽ 花 山ヽ一 条 ヽ 三 条ヽ後一条ヽ後 朱 雀ヽ也此九帝六十 一

代ヨ リ 六 十九 代ニ至ル 此九 帝 ノ 中後 一条 院ヲ サシ奉ル 也大鏡四ノ

巻ニ関白 次第又世継名 トアリテ栄花 三十 帖ノ 鶴林巻マテヲ 出 セ リ

此 巻 ハ後一 条 院 ノ 万寿年中ノ事 ヲ載タ リ 四年 ト云十 二 月四日御堂

殿薨去 ナ リ 此 薨去ヲ限リ ニ 書ルハ御 堂殿ノ御栄花 ヲ書 ル 物 語 ナ レ

ハ ナ リ増鏡ニ世継四十 帖ト アルハ前 後 合 セテノ数ナリ 本朝書籍目録

世継四十巻自 宇 多 天皇至堀 河院御宇載君 臣 事藤為業撰トアルハ

彼増鏡ニ 四十 帖トア レ ハ前 篇後篇 ノ 差別 モ ナ ク惣テ為業朝臣 ノ 述

作ト 心得 タルナ ラ ン然 レ ト 後ノ 十巻 ハ 彼 朝 臣 ノ 作 ナ ル ヘ シ 大鏡 ニ

(12)

関白 次第 ト ア ルニ文治 ノ頃 関白九条 ノ兼 実公 マテ ヲ 出 シタルハ 其

頃 マ テモ 栄花 ハ三 十巻 ト見 エ タ リ 金 沢 文 庫ノ 栄花 目録 ニモ 鶴林 マ

テ出タ リ サ レ ハイサヽ カ証トスルニ 拠アリ然ルヲ 其世 ニア リテ見」

(三オ)

タル ヤウ ニ堀 河 院 ヨリ 後ノ 男子ノ 作 ナ リ ト 云 ハ 最 クオ コ カ マ シ

年齢 の 事

赤染家 集 に云中関 白殿の蔵人 の 少将と

聞えし比はら からの許 におはし て 内 の御 物忌に

こ も るなり月の入らぬ 先にと て 出給 ひ に し後にも

月の とか に有 しか ハ つ と め て 奉 れ り しか

(マ

ハりて

入 ぬ とし て 人 のいそ き し 月 かけハ出 ての 後 も 久し

くそみし

やす ら ハ てね な ま し も の を の歌 も

此妹 にか はりて 同 し こ ろ よ める歌 也 公 卿 補 任

道隆公の 尻付を考るに天延 二八蔵人十月

十一日左 少将 貞元二止 少将同三右中 将

(三ウ)

され ハ 此 哥 ハ 円 融 院天 延 二 三 年 貞元 々二 年の

間の哥 也 道隆 の 物 い ひ 給ふ 程の妹 あ りさ る 秀 哥

よむ ほ と の 衛 門 か 齢 な れ ハ 大概 二 十 歳 前 後 な る

へし家集 に又 云大原の 少将 入道うせ 給 ひ しかハ

(13)

- 243 -

命な かさも心ほそくおほえて

いと へと もあまり う

き み の な から へて 人に おく る ゝ 数も つも りぬ 此大 原の

少将入道 ハ土 御門 左大 臣雅 信公の男 時叙 朝臣

なり 此人 ハ花 山院寛 和 二 年 出家

二十三才

後一条院 万寿元 年 卒去

六十

とあ り さ れハ 歌の

意 味と年次 と を思ふに万寿の比 ハ赤 染すて に 」

(四オ)

六十余歳猶 七 十はかり の老 尼としられた り是

よ り 先 三 条 院 長 和 元年に大江匡衡

し て 後いく程もな く 赤 染も尼にな り し こ と家 集に

みえたり家 集 に 又 云成衡 か をの こ う ませたりし

にうふ衣ぬふほとにおほえ し

雲の上にのほらん ま

てもみ て し か な つ る の け こ ろも としふ と な ら は是ハ

後 朱 雀院 長久 三年に大江匡 房卿の生れた る時の

歌也 赤染 この 比 ま で猶 な か らへ て 曽 孫 の 権中納

言ま て な りのほるへ き 讖文 め き たる歌よミたるハ

まこ と に めて た き た め し な る へ しさ れ と 此 物 語 の を ハ り 」

(四ウ)

寛治六年ま て 存生せハ 百二 三十歳な るへ しさる

ほけ人 の 記録せん こ と 疑の巻のう た かは し き 始なる

公室倫子

同母

赤染

(14)

へし 或は又 赤 染 か 撰 ひ 置た る物 語 を 後人の続 な

せる物 か といはんとすれとも初 の巻々もさとみえさる

事お ほし

凡テ此物語ヲ 宇多天皇 ヨ リ 堀河院寛 治六 年マテト 見タルハ上ニ モ

云 如 ク大キ ナ ル誤 ナリ 栄 花 ハ三十帖鶴林巻ニ テ終レリ 然ル ヲ四十

帖ト思フ ヨリ 疑巻 ト

ウタカ ハ シ キ コト共 オ コレ リ此書鶴林 ヲ ト チ

ムルト 知 レハ 作者 モ伝 ヘノ マヽ穏 ナ リ伊 勢貞丈主 人ノ 云栄花 物 語

ハ赤染衛 門 カ 作 リ シ ト 云説 ア リ 是誤 也本朝書籍目 録ニ世継四十

巻自宇多 天皇至堀河院 御宇載君臣事 藤為 業撰トアリ為 業ハ八十 三

代土御門 院之 御宇 ノ 人 也 伊 賀守ニ任ス 後 ニ出家シテ法名寂念ト 号

セ シ 也世 継四 十巻トアルハ 即栄花 物 語四 十巻ノコ ト也 栄花 物語 ハ

五 十 九代宇 多 天皇 ノ御宇 ヨ リ七十 二 代 白 河院応 徳 三年マ テ ノ君臣

ノ事ヲ記セリ 応 徳 三年十一月廿六日 七十 三代堀河 院受禅ア リ シ カ 」

(五オ)

ハ書籍目 録ニ ハ堀河院 ニ至 ルト記セ ル也 此年マテノ事ヲ記セル ハ

為 業 ノ 作ニシテ ハ相応 ナ リ赤染 衛 門ノ作ニシ テ ハ 不 相応也 彼 衛門

ハ六十六 代一条院ノ御 宇 ノ 人ニテ赤 染時用女大 江 匡衡 カ妻ニテソ

有 シ 栄花 物語 ニ記セ ル コ ト 共 衛 門 カ 在世 ヨリ 後百 年ハ カリ 末ノ 代

ノ事見エ タリ 是 ヲ 以テ 衛門 カ作 リ シ ニアラヌ コトヲ 知 ヘシ衛門 カ

(15)

- 245 -

作リ シト 云コ ト ハ 何ノ 書 ニ モ見 エ ヌ

唯云 伝 ヘ シ ノ ミ ニ テ 証 拠モ ナ

キコ トナ リ

此論モ為 章ト 同 意 ニテ 大ヰ

ニ非 ナリ彼 鶴 林巻 ノ終 リ

ニ継々ノ アリ サマトモ 又々 有ヘシ見 聞玉フラン人 モ書 ツケ玉ヘ カ

シト アリ 是 此 巻 ニ トチ メ シ 証 也 是ハ 先 ニ 云如ク 四 十 帖 ト ア ル 増 鏡

ノ序 文書 籍目 録 ナ トヨリ ア ヤマ レリ 書籍目録ハ体 源抄 ニ永 享十 一

年大外記 業忠 依仰注進之

イト 後ノ モノ ナ リ 増鏡 ハ 中 山内府忠

親公ノ作建久 後 ナ リ

宮仕所の 事

紫日記に云 た んはのかミの 北方 をハ 宮殿なとの わ

たりに ハ ま さひら衛門 と そい ひ 侍 る こ と に やむこ と

なき ほ と なら ね と まこ と も ゆ

(マ

ゑ〳 〵しく歌 よ ミ と て 」

(五ウ)

よろ つの こ と に つ けて よミ ち ら さ ね と 聞 え た るか き り ハ は か

なき 折ふ しの こ と も そ れこ そ は つか しき くち つき に

侍る

か哥論してけの哥よミやおほえといひ歌を

今按紫式部ハ上東門

院 に侍り て 宮 殿 なと

の わ たり にハ とよそ〳 〵に書たれハ赤染 は倫子の 御方 に

侍ひ し と 聞 え た り 匡 衡 の 衛 門 と 夫 の 名 を 異名 に

よ ひ たるハ例の女と ち のさかな き口 なるへし 赤染 系 図

紫ほめたり

(16)

に上 東門 院の 侍 女 と侍 るハこ ま か な らぬ 考 に や

但御

母子

され は赤 染 は 倫 子

に侍り或 ハ匡 衡か任国 尾張丹波にい さな ハれ 匡」

(六オ)

衡卒後 尼 になり て 里住に て 有な から 内中宮東

宮斎院或 は一品宮某の 女御 何の御方 ならは

内の事女 房の □

の色あ ひ ま て を此物 語 に 書 たる

やう に い か て 見聞 せ ま し や

源氏例すへ

たと ひ御方

の才 女 た ちの 例 の 日 記 め き たる物 あ りと ても当

時たかひ に秘 め置 侍 る へけれ ハ 許借

本ノ

も心にま かせ かたか

るへし か た〳 〵につ き て 按 るに前にも申 つる や う に

堀河院より後の人 ふるき 才 女 の しるし 置 たる物

を抜あつ めた りとミ ゆ るにや猶 左に 掲る件々を

考ふへし」

(六ウ)

諸 人 ノ 日 記ヲ カ リ テ写 セ シ ニヤ 其世 ニアリ テ 見 聞 セ シ ヲ 其 侭

ニ記セ ル 歟古 ノ 才 女日 記ナ トヲ 秘置 クコ トノ アラ ン今 世ノ頑ナ

ル婦 人 コ ソ秘置 コ トモア ラ メ又衣 ノ 色 ア ヒ ナ ト 見 タ ル マヽ モ

アルヘシ 少シハ筆ノ 進 ミ モ アルヘキナ リ

第一帖

月宴

に云 むかし 高 野 の 女 帝 の 御 代

の間なれハ始倫子ふら後ハ

上東門院へ参りし女

(17)

- 247 -

天平勝宝 五年 に左大臣 橘卿 諸兄諸卿 大夫

等あつま り て 萬葉集を えら はせ 給ふ

拾芥抄に

いま按る に萬 葉の事ハ 此物語の撰 者 に無用

の事な れ とも 古今集の序よりあ やまり始て

代々の先 達の 異論まち 〳 〵 に て 或ハ 文武 天 皇

或ハ聖武 孝謙平城の勅 撰な と一決しかた か」

(七オ)

りし を

西山 梅里 公 か つ て 釈萬 葉 五 十巻 をえ ら

ハせ給 ひ し時万葉二十 巻の う ち を 委 しく 考へ詳

らかに味ひ 決 定まし 〳 〵 て 千古のま と ひ をはる

けさせ給ひ ぬ

委し

にみ

され ハ 此 物語 作 り

し頃ハたゝ 虚 を 吐 た る 説共 なれ ハ 論 す る にたら す

こそ こ れ ハ 筆 の 次 第 に い さ ゝか 記 し 置 侍 り

按ル ニ 此 万 葉 集 高 野天 皇ノ 御 宇 ヨリ 桓武 天 皇 ノ 御 世 マ テ 有 前 篇

後篇一部トナ レリ 此事 別ニ 考ヘアリ

第五帖

浦々のわか

に云内大臣殿 おり させ給 ひ ぬ検 非違

使 と も皆 お り て な ミゐたり み た て ま つ れ ハ 御とし

ハた ゝ 今 廿二 三はかり に て 御かたち のと しのほと 」

(七ウ) 引たる定

紙の説

(18)

ふとり き よけ に て い ろ め き ま こ とに め て たくかの光る

源氏もか くや ありけん と み たて ま つ る

今 按 るにこれ ハ一条院 長 徳 二年に伊 周公 配流の

事也かの 源氏 物語ハ紫 日記 を 考 ふる に長徳 長 保の

比なとや 作りて 寛 弘の 間に う ち 中宮 にも 奉りけん

とみゆるにはやく赤染か手に入 てこゝ も とに引 用 ん

事決 し て 有る へからす紫か 卒 後 に菅 原孝 標か

女の書る さら しなの日 記に 源氏を懇 望せ しには

同し かるへからす此 世 継の 撰 者ハは る か に後とおほ

えて 末の 巻々 にもこ ま か に 引た り」

(八オ)

源氏ハ河 海抄 ニ斉院

(マ

選子内親 王ヨリ上東門 院ニ 珍ラ シキ 草子 ヤア

ルト仰ラレケレハウツ ホ竹 取ヤウノ 古キ 物語ハ目ナレ タレハアラ

タニ作 リ テト 藤式部ニ 命セ ラレケレ ハ式 部石山ニ 篭リ テ作 リケ ル

ヲ権大納言行 成ニ清書 サ セ ラレ テ斉院

(マ

ヘ参ラセ ラレ ケル ニ 法 成寺

関白奥書 ヲ加 ヘラレ シ ト ア リ 又 寛弘 ノ 初 ニ 出 来テ 康和ノ 末 ノ世 ニ

流布

然レ ハ 寛 弘ノ 初 ヨ リ 既 ニ堂上 ニ モ テ ハヤ サレ シ 書 ナ レ ハ

赤染何カ見サラン 殊ニ 其 頃 ノ才 女 同 士 常 ニ歌 ヲモ ヨ ミ カ ハ シ文ヲ

モ書 カハ シテ 互ニ楽ト スレ ハ 頓 テ カ リ 求 テ見 サラ ンコ トヤハア ル且

(19)

- 249 -

其比 流行レル 源 氏 此 書 ニ引用タ ルハ殊ニ 一 興 又往古宇多 ノ 皇 子 敦

慶親 王仁 明皇子是 忠親 王 同 右大臣源光公ナトヲ光 ル源氏ト申シタ

ル ヨ シ古 キ書 ニ見エタレハ 此君タチ ニタ トヘテ伊 周公 ノ 事 ヲ書 ケ

ル カ モ 知 ラレ ス 物語ノ 源氏 ノ 君 モ彼 君タ チ ニ 比 シ テ 作レ ルナ リ 兎

マ レ 角マレ枕 冊子ニモ同時ノ保胤入道極楽寺 ノ願文 ヲ 引出サ レ タ

リ是モ其 比 皆 人 ノ 知タル事ナレハ也

第八帖

初花

に云秋 の けし きに入 た つ ま ゝ に 土 御 門 殿の あり さ ま いはんか た な く お か し

今 按 るにこれ より以下 二十 二三葉に 後一条院御誕 生 」

(八ウ)

の程 の事をしるし たるハ紫 日記を全く 写 し た り但 し

引 用 のあ し き 故に 歌なとも紫とみ え さる所あり又 文

をもや ゝ 書か へ或ハ注を書 くはへた り日 記の末に 当時 内

中宮 より は し め御方々 の 女 房十二三 人の 衣裳容

体をさた し 又 斎院中将 和泉式部清少 納言 なと

の人 からを論 し て よ ろ し く もか ゝ す 赤染ハ匡衡 衛 門

と異 名つきた るよし を さへ しるし其末に紫ミつ か らの

用意なとを書たり是 ミ な 紫 か私に 筆 にまかせう ち 〳〵

しるし て かり そめにも 外見 を ゆ るす ましきものなり

(20)

仮令 紫みま かり たる後に て も 大 弐 三位越後 弁な とい ふ 」

(九オ)

才ある娘 とも のあな れ ハ母 の 人 にく まれ なる日記 を 他 人に

示すへか らす 君

又たと ひ 赤染 その日記 を う つし取

たる 事 有 と も 同時 同輩互に

(二

才を あ ら そふ へ き

女の ひ か める 性に て か くう るはしく 紫 日 記の 文をこゝ

に引用ふ へしや よ く〳 〵思 ふへし

又按るに今の世に 伝ふ る 紫 日記ハ寛 弘五六七年 の

間のミ に て 其 残 篇 とみ ゆ思 ふ に 昔ハ 猶 年 々の記 あ り

てこ の世 継にもとり用ひ た るかとおほ し き所々有

爰ニ 紫式 部日記ノ如ク アルハ同時 ノ 人 見 聞侭ニ筆ヲハ シ ラ スニ同

シ 筋 ニカヽサラン ヤ又紫日記 ヲ カ リ テ其侭ニモシルス ヘシ 今ノ 世

ノ人 コソ 己 ヲ 慢シ テ人

ノ歌 ヲ モ 文 ヲ モ只謗リニ ソ シレ古 ヘ ノ高才

ノ 婦 人歌 ニ文 ニ互ニ取 カハ シ愛タノ シ ムコ ト家集 物 語 書 ニアマ タ 」

(九ウ)

見エタ リ 今ハ哥席 ナトニ臨テモ人 ノ 哥 ヲ ハ悉

フツ

ニ見ル 人 ナ シ イト風

流 心 少シ 当世 ノ薄情ヲ 以テ 往 昔 ノ 厚 情ヲ 論セン コ ト雲 ト泥トノ 違

メア

又云五節 ハ廿 日まゐる侍従 宰相とあ るに内

(マ

大臣の

(21)

- 251 -

子の実成 宰相 なるへし舞姫のさうそくつかハす

今 按 るに紫日 記にハ五節ハ 廿日まゐ る侍 従宰相に舞

姫のさう そく なとつか ハす とあるを 此物 語の撰者 引用 の

時筆をく はへて 内 大臣の子 実成宰相 なるへしと注 し た り

赤染たとひ 紫 日記を う つす とも 当時 此注 ハ書へか らす

これらの所に心 を つくへし第十三帖

ゆふして

の巻の

終にも こ れ に 似たる注 あり そ れ も紫 日記 か他の日 記を 引」

(一〇オ)

用の時の加筆 とみゆ 猶 全部のう ち あ また 所あるへ

し今 ハたゝ 一 二 件 を あ けて おとろ か し置 申 に な

実成宰相ナ ル ヘシト書 ルハ 註ニアラ ス 此 書サマ物語文ノ筆 法 ナ リ

此 例 物 語フ ミニ ア マ タア リ 作 者 ヲ 急度知ラヌ ヤ ウニ ワ サ ト オ ホメ

カ セ テ書コト 伊勢ニ昔 男アリケリ 源 氏ニ イ ツ レノ 御時 ニカア リ ケ

ン ナ トモ 此類 也其外爰 ニハ フキヌ知リタル コ トモ 其処 ニヨ リ 其 ハ

何 ナ ルヘ シ ナ ト書リ為 章物語書ニマタシキ人 ナリ

又云帥宮 の御 車のしり にハ 和泉 をの せさ せたまへ り

中略

小一 条 の 中 の 君 と き こ ゆ る ハ

中略

帥宮にき こ え つけ

給へり し か ハ 南院 に迎 へ 給 へり しか と 年 月 に そへて

(22)

御心 さしあさ うなりもて い きて 和泉守道貞が女 を

お ほ しさわきて」

(一〇ウ)

今 按 るに赤染集を みる に道貞とも和 泉式 部とも

赤染歌の 贈答 有 て よ き あはひ と みえ 和泉か妹に赤

染か子の 挙周 ハ 物 い ひ か つ 和泉か 父 雅致 と赤染か

夫匡衡と同 し く大 江氏 な れ ハかた〳 〵に つ き てむ つま し

き和 泉 か 上 を 赤染 か 筆 に て 公界 へ も 出 へ き此 物 語 に

いかて 口 さか なく和泉守 道 貞か女を おほ しさわき て

とは書へき そ やこれも 他人のしるしたる 物 を 後に 引も

ちひ た る と お ほ し

家々ノ歌集ノ 詞書ヲ見 ルニ 其名ヲ ア ラハ シテ書ル モアリ又省キ テ

書サ ル 集 モアリ家 集ニ名出テ撰 集ニ 省 キ タ ル モアリ必一 定 シカタ

シ其人ノ 心々ナ リ 論ス ルニ タラス又 道貞 カ妻ヲオ ホシ サワキテ ト

アルモ難 アル ヘカラス 勅撰ノ集 ニサ ヘ人ノ 妻 ヲ シ テ獄ニ

ヒトヤ

篭ラ レテ」

(一一オ)

トア ル端書モア リ 又密夫 ヲ 壁 ヲ 破 リ テ 逃 セシ ト云詞 書 モア リカハ〔カ 〕

リノコト 遠 慮 スヘキニ アラス

第十二帖

玉の村菊

に云 ことし春 宮七 に そ な ら せ給 ふ

長和四年とそ 云御文は しめの事有学 士には

(朱点)

(朱点)

(23)

- 253 -

大 江 匡衡か子の一条院の御 時の蔵人つ か うまつ

りし たかちかをそな さ せ給へる

今按るに匡衡ハ赤染か 夫に し て 挙周ハ子 也

さ れ ハ此書さ まも他人の筆 とみゆ 赤 染か ゝ ん にハ

かう ハ有ましくお ほえ侍る

カク 書ス シテ 何ト カク ヘキ ヤ 自 分ノ 子ヲ モ 他 人ノ 書 ル ヤウ ニ カ ク

カ物語フミノナ ラ ヒ ナ リ

又云とよのあかりの夜 あ れ たる宿に月のもりたり け れ は」

(一一ウ)

さ と 人た れ と しら す めつら し き 豊 の明の光には 荒

たる 宿 の う ち さへそ て る

今 按 るにこ れ ハ記者 未 詳の 日記 あるひ ハ 某の家集 なと

をとり 用 ひて 筆 を くはへ た る歟 赤染な ら ハ 同 時 の 哥

を 誰 と不 知と ハ書へか らさ る歟も し しら すハさの ミ 秀

逸ともみ えぬ 哥をハ載 へか らす勅撰の集 によミ 人 不知

とあるにハ例すへから す 猶 かやうの書さ まお ほし

此歌ノ 読 人モ 其頃ハ 知 リ タ ラ ン サレ ト 里 人コ トキ ノ 名 ヲ 出 ス ヘ キ

ニモアラネハワサ ト誰トモ 知 ラ スト書ルナルヘシ是モ 物語ノ書 サ

マノ 例ナ リ 何 カシノ ヨ メ ル ナ ト ア マ タ ア ルコ トナ リ 此 物語 ニ名 ヲ

(24)

カヽ ス共 其頃ノ 人 ハ誰 カ歌 ト知 リ タ ラン 此タクヒ アマ タルコト

ナル ヲカクト カ ム ル ハ 物 語 ニ ク ハシカ ラ ヌ 批 判 ナ リ」

(一二オ)

第十三帖

ゆふして

に云 そ の 比殿 のう へ 八 幡に まう てさ せ 給へりけれ は 中宮よりきこ えさせ給ふ

色々の もみ ちに心うつるとも 都 の 外に長 ゐ すな君

御返あり

今 按 るに 此 哥 の左の注も撰者の筆とミ ゆ るに こ

れと ハ何の記に 有 け んかし

爰モ 物語 ノ書 サマ ナ リ 歌ノ ヨロ シカラ ヌ ハ返シアリ テ モ 出 サヌ

コト ナリ元ヨリ返シ ナ キニヤ是 ヲ註ト心得 ル ハイカヽ

又云 賀茂の行幸ま たなかりけ れ ハ廿 よ か は か りにあるへ

け れ ハ こ の一条殿 の北の御門の前よりそ わたらせ 給 ふ

へかな れ ハ

中略

さて 御 覧 す る に い ミ し う め て た し 大 」

(一二ウ)

宮御輿にた て まつり て 女房 車えな ら すし てわたら せ

給ふ

中略

又の 日 此 君より 大 宮 に きこ え さ せ 給 ふ

みゆ き

せし 賀茂の川波帰る さ に立やとまると待 あ か

しつ ゝ

大宮御返 し

立帰りか もの 河波よそ に て もみし や

ミゆ きのし る し 成 らん

んかし

たるなる

(25)

- 255 -

今 按 るに 初の 歌此物語 に て ハ中宮妍 子の 御作とミ ゆ

るに後 拾 遺集 雑五にい はく 後一条 院 の 御 時賀

茂行幸侍りけ るに 上東門院 御 こ しにのら せ給 ひて

紫野 よ り 帰 ら せ給 ひける 又 のあし た 聞 え さ せ 給 ひ

ける選子 内 親 王 代々勅撰 の 集 にもあ 」

(一三オ)

やまりみえ侍れは此 哥 の御 作 者 もいつ れ に か 依はへ

らんされ と賀 茂の河波 立か へり按る に是ハ集の説 に

心ひ か れ 侍 り 此 集 ハ 白 河 院 の 御 時 通 俊 中 納 言

撰進せられて 中宮斎院 とも に顕貴の 御方 々な

れハ御 哥 をもたし かに覚 え たる人 々 お ほ く侍りけん か し

此物語ハ そ れ より後 堀 河院 寛治の比ま て を書た

れハ撰 者 も又 通 俊 卿よりハ 後の人にて そ 侍らん思 ふ

に斎院の 中将 なと 云才 女も 侍りけれ ハ そ れ ら の 打

聞けるも 有た る を 引用 るとて 此 宮よりと 云 を とり

まき ら ハ し て 中宮 と 心 えた か へ た る にや 侍ら ん」

(一三ウ)

立帰 ノ御 歌後拾遺集ニ斎院ノ御歌ト ア レ ハ 栄花ノ 方 誤ル歟サ レ ト

撰 集 ニモ 読人ノタカヒタル モ題ノ誤レル モア リ撰集ヲ 慥 ナ ル書 ト

思フモイ カヽ愚カマシ堀河 院 寛治ノ 頃 ヨリ 後 ノ 人ノ述 作 ト云 ハ 甚

哥は右に

おなし

(26)

非ナ リ 第十五帖

うたかひ

に云 御 堂 供養 寛仁 三年 七月 十九 日 より

中略

殿の お ま へこゝ ら の 人 の 前 にて 三 昧 の 火 を うた せ 給 ふ

中略

此廿 余 年 いま に消 す そ の 御 願文式 部

大輔 大江 匡 衡 つか うま つれ り お ほ う 書 つ ゝ け たれ と

けし きはかりをしるすはしめ の ありさまも き かまほし

くそ願文の詞 かんなのこ ゝ ろえぬ事共ま しり て あ れ

ハ是に え うつし と らす

今按 る に 是 ハ 寛弘 二年木 幡 の浄 妙寺供 養 の事也 」

(一四オ)

寛仁三年とあ るハ記者 のおほへたか へた る か 又は転写 の

あ や ま れ るか 寛弘二年 より 廿余年ハ 万寿 年中也 今

に消 すと 有ハ その頃の 人の 書た る物か或 は 撰者 の 例 の 加 筆

にや ま な の ま しりて あ れ ハ う つ しと ら す と書 た る も

又同 し

浄妙寺供養ハ 寛弘二年十月 十九日也寛仁 三年七月 十九 日ハ誤也御

堂関白 殿 ノ記 ニ寛弘二 年十 月十九日 浄妙 寺供養

野府記本 朝文

粋元亨釈 書等 皆オナ シ 此事 本文ノ寛 仁 年 中 ノ 件ニ アレ ハ寛弘二 年

十月ト寛 仁三 年ト字形 似タレハ必 転 写ノ 誤也本文ノ 末 ニ此折ハ 道

(朱点)

(27)

- 257 -

長公 左大 臣ニオ ハ シマ ス ト アレ ハ 作 者ノ タ カ ヘタ ル ニ アラス 寛 仁

年中ニハ 道長公御出家 シ タ マ ヘ リ 爰 ニ 寛 弘 二年ヨリ 此廿余年 今 ニ

消ストアルハ 即チ 後一条院ノ万寿年 中ニ 当 レ リ月ノ 宴 ノ巻ニ此国

ノ 帝 六十 余代ニ ナ ラセ 玉フトアルニ合ヘリ 此 書元 ハ三 十巻ニテ 鶴

ノ林 ノ巻 ニ終ル証拠 ナ リ四 十巻ニ初 ヨ リ 作 レ ル物ナラ ハ爰ニ其 火

今八十余 年 消 ストアル ヘキナリ然レ ハ栄花ハ鶴林ノ巻万寿 四年ヲ」

(一四ウ)

限リ ト見

ルヘ キ也

第十六帖

もと

しつ

に云 侍 従 大納 言大 弐辞 し た ま

へ れ は源中納言経房の 君なり給 ひぬ 故源帥

のな かされ 給 ひ し 時童に て 御ともに お は し た り

ける君

今 按 るに 第一帖

月の

安和 二年 高明 公左遷 の

所 童 なる 君の 殿の御ふ と こ ろ は なれ 給は ぬ に なき

のゝ し り て ま とひ 給 へ ば 事 の よ し 奏 して さ は れ そ れ

ハとゆるさせ 給 ふ を同 し御 車に てた にあらす馬に

て そ おは する 十 一 二は かり にそおは しけ ると書た るハ」

(一五オ)

俊賢卿の 事也経房ハ其 年に誕生し給へりこれ

(28)

ハ撰 者の お ほ え た かへ 成 へ し す へ て 一部のう ち 年 月

ある ひ ハ 官位 の任なと あ や ま れ る所 々み ゆめり彰 考

館の 御 本 ハ諸 家の秘 本 と参 考 し 猶 城 所 友 仙

大串元善 なと 他の実録 を 考 へ て 朱を 以 て 傍書 し

侍れ ハか や う のた かひ めも しられて 世 に 類ひ なく そ

侍る

此段為章ノ考 ヘ是 ナリ 此物語実録メ カシテ書ツレ ト任 官叙位ノ 年月

其外ノ 事 ト モ 記録 ニ 違 ヘル 処 々 少 カ ラス 然レ 共 此 文ノ 誤リ ニヤ 又

記録ノ 誤 レル ニヤ

第十七帖

かく

に云 御 堂 供養 治安 三年 七月 十四 日 」

(一五ウ)

と定めさ せ給へ れ ハ

中略

殿かたの布 施 禄なとはも て

つゝ け て お く ら せ 給 ふ す へ て 目 も 心 も 及 は す め つ ら

か に いミ しか りつる日 のあ りさまを 世 中 のた めし に書

つ ゝ くる 人おほかるへ しそかな かにも此ちかくみ聞た る

人ハ よく おほ えて 書 ら ん に 語 り つゝ かゝ すれ は

尼君 た ち

のお も ひ 〳〵に 語 りつ ゝ か ゝ す れはい か なる ひか 事 か あ ら

んとかた はら いた し

今 按 るに根合 の巻煙の 後の 巻なとにもかや う の

(29)

- 259 -

筆さま有 古き 女日記の その ま ゝ に て と る 歟又 撰者

例の 造言 歟」

(一六オ)

是 等 皆例ノ物語 ノ 書サマ ナ リ 誠 ノコ トモ アルヘシ又僻事ア ラ ンモ

知リ カタ ケレ ハ 物 語 一 部ノ 中ノ 云訳 ノ 為 ニ書 ル ニ テ モ アル ヘ シ

第十八

玉の

に 云 阿弥陀堂 にま ゐりたれ ハ お せんほ う

のをりなりけ りあなうれ し とおも ひ て み はしに

のほ りて 仏を み奉れ ハ 無 数 の光 明かゝ や きて 十 方

界に遍 し たま はんとみ え給ふかの往 生要 集の

文を 思ひ い つ

中略

かく て あ かうな ら ぬ先 にと いそ き

まか つ れ ハ経 蔵の東の 方よ り 沓 すりて 人 々くなり

声いとよく て 十方仏土之中以西方為望九品蓮

台之 間雖 下品 応足とい ふ事を常 より も 耳 と

まり て い ひ お き 給 ひ け ん内 記 ひ しり もあ は れ に」

(一六ウ)

おほえた まふ 月のあく ま て すめるも かの たむ岑の 少

将のう ら やま しくとのたまひ け んも けにとみえた り

今按 る に 源 信 僧都 保胤入 道 高 光 少 将 な と ミな これ

より前に卒去せら れたれとも赤染にいく はくの先

達ならす同時の人の詞を こ れ に 引ん 事如 何と

(30)

おほ ゆ往 生要 集 ハ か の 源氏 物語のた くひ に て

この ころ い ま た 赤 染 か 手 に 入 ま し く や

源 信 僧都ノ往 生 要 集ハ編年 集成

帝王編年記(朱)

ニ寛 和元 年四 月頃 源信 僧 都 撰往 生

要集流 布 天下 渡于異朝 後

国人作礼 曰南無大日本 国源信如 来

方仏土中ハ 滋 慶

(マ

保胤入道 ノ 極 楽 寺 ノ願文ナリ 十 方仏土之中以西方

為望 九品 蓮台 之 間 雖下 品 応 足

ウラヤ マ シ ク モハ拾遺集ニ法 師 ニ ナ ラント思 ヒ立侍ケ ルコ ロ月ヲ見 侍リ テ藤原高 光

カクハカ リ ヘ カタクミ ユル 世中ニ ウ ラヤ マシ クモスメ ル月カ ナ ト ナ リ

(マ

高光 出家」

(一七オ)

ノ 事 ハ 其 頃世 中ニ哀ナ ルコ ト ニ ハ申 ト 此 栄花 ニモ アレ ハ 誰 此歌 ヲ

知ラ ヌ人 アラ ン殊 ニ村 上 帝 少将高光 カ出 家 シ テ横 川ニ アルヲ 御 ト

ム ラ ヒ ノ 御歌ナトモアレハ 論ニ 及フヘカラス枕草子ニ筆紙タマハ

リ タ レ ハ 九品 蓮台 中下 呂

ト云トモ ト書テマヰラ セタレハトア リ是

同時 ノ清少 納 言モ此 保 胤 入 道 ノ 極 楽 寺 ノ 願 文 ヲ引タ ル ニ一 条 院 ノ

后定子モ 此願 文 ヲ 知シメサレタル コ ト枕 草子ニ見 ユ又 源 信 ノ往 生

要集モヤ ハク 寛和ノ頃 天下 ニ流布ト アリ 名誉ノ 人 々ノ 文句同時ナ

リ共引 書 ニ 用 ヒサ ランヤ

第十九帖

御裳

に云 宇 治 に て ハ実方 の 中将 の

よ ミ たまへり ける歌 こ そまさりぬへかり け れ と人申けれ

(31)

- 261 -

今 按 るに実方も又赤染 と世を同 しうせし 人

なる事右の源信等に同 し

実方 赤染同時ノ人也 然 ル ヲ 歌 ナ トヲ 省 キ テ此物 語 ニ何ヲ書ヘ キ ヤ

是ハ 心得 ヌ註 トモナ リ

第二十七 帖

衣のたま

に云例ハ 宮々 の前栽 ほ り花 みる」

(一七ウ)

人お ほかれハこ そ お の つか ら お もしろき 事もあ れ あはれ に

て過 も て ゆ け ハよ ミ人し ら す

歌ハ略す

かへし こ れもお ほ

つる

なし

歌略

今按 る に 赤染か撰 な ら ハよミ人 もしる く 返し も 又

おほ つか なか ら さ ら ま し

爰モ前ニ 云 如 ク読人 ノ 知タルヲ隠 ス 事モ アルヘシ又マコトニ知ラ

ヌモアル ヘシ 物語文ノ 書 サ マ ナ リ

第二十九 帖

玉の

かさ

に云此 た ひ の 御仏つくらせたまふ

御かさり の御れ う にハ 大和守や すま さの 朝臣のか り玉

を め しに つか ハし たれ はま ゐらすとて 和 泉そへた り

数ならぬ 涙の 露 を そへてた に玉のか さりをまさん とそ」

(一八オ)

思ふ同 し 御 れ うの 玉 を 権大 夫た めま さかこひ たり け

れハ 赤染

哥ハ略す

(32)

今按 る に 此 巻 ハ此 和 泉 式部か歌 の 詞 に て

名付 たりと ミ ゆるに も し 赤 染か撰ならハ同時 同輩

猶 後 生と みゆ る和泉か 歌 を も て 巻 に名付へし や

かの 作り 物語 なる源氏 にハ 例すへか ら す 又赤 染か 哥の

作者 のか き さ まもミ つ から より はか うハ 有 ま しくこ そ

お ほ え侍れか た〳〵に つ き て 後 人の 撰と みゆるか し

此論甚非ナ リ 物語ノ 巻 ノ 名 ヲ ツクル ニ 後 生 先 生 ニ ヨ ル ヘ カラス 巻

中 ノ 要言ヲ以 テ 号

ナツク(

レハ後生 又ハ貴賤 ヲ嫌フ事ア ラ ンヤ

第三十帖

霍の

はや

云侍従大納言の同し 日 よりあや」

(一八ウ)

しう例ならぬ 風にや 云

中略

四日 のよ さり殿 の お ま

へ の を ハ ら せ 給ひ し を り に こ そ う せ 給ひ に け れ

中略

君義孝の 少将方便品誦 し て 失給 ひて 往生の記に

入た まふ めり

今按 る に 日本往生 極 楽 記 曰 右近 衛少将藤原 義 孝〔

天延二 年 秋病 疱瘡而卒 矣命 終之時剋 誦方便品

気絶之 後 異香 満室

此往 生 記 ハ 保 胤 入 道 寂

心か 撰 也 寂 心 ハ 一 条院 長徳 三 年 に卒 し て 赤 染

同時 の人な り 引 用 ん事い か ゝ

(33)

- 263 -

名ナ タ ヽ ル 道 心者 保 胤 入 道 カ往 生記 在世 ノ 頃 ヨリ 流 布 セ シ ヲ 後 朱 雀

後冷 泉 ヽ

御代ニ 引 シ事何ノイフカシ キコト ア ラン」

(一九オ)

第三十 一 帖

殿上花見

に云入道 殿失 させ給 ひ にしかとも

関白 殿

流布本无(朱

内大臣殿 女院 中宮 あま たの 殿原 おは し

ませハい とめて た しか んの 殿皇太后 宮の おはしま さぬ

こそ ハ く ち を し き ことな れと い か てか はさ の ミ 思ふ さま に

ハお はしまさん ひ かる 源 氏 かく れ 給 ひて な こ りもかく

やとそ さ す か にお ほえけるめ て た き な か らもあ は れにお

ほえさせ給 ふ き

流无(朱

さいの 宮右大臣 殿 薫 大 将な ら

本ノ

(朱

かり

ものし た まふ 程のお ほ えさ せ給ふなりさ すか 末に なり

たる心 ち し て あ は れなり

今 按 るに 是ハ 源氏五十 四帖の本末に いか ゝ

くはし 」

(一九ウ)

き 人 の書 た る 物なり上 の往 生要集往 生記 なとハ僧 の

作れ る 物 なれ は

同時 の人な れ と も 格別にし て赤染 か

引んとい ふも ゆるすか た有 ぬへ し源氏を か う こ ま か に

引事決して 有 へからす

此 三 十一帖ヨリ下十帖ハ後人 ノ 撰 ナ レハ 論ニ 及ハス為 章 同 時ニ四

十帖作 レ ルモノト思フ ヨ リ 作 者 ヲ疑 ヘ リ サ レ ハ是 マテノ三十帖ノ

(34)

文勢文法凡人ノ シ ワ サ ト見 エス是ヨリ下 十 帖ハ作者他 人 ナレハ 文

章モ劣レ リ シ カルヲ四 十帖 一筆ト見 タル 故ニ作者 ノ 年 暦ヲ 不審セ

リ此 下 ニ モ 赤 染カ 歌 輔 親カ歌 ノ ミ 有 テ 他 ノ歌 ヲ省ケ ル ハイ カ ヽ 或

ハ源氏ニ 委シキ人 ノ作 也 ナ ト云ヒテ元ノ 作 者 ヲワ キマ ヘス又赤 染ニ

シテハ倫 子 薨 去ノ 哀傷 少ク 書リナ ト トリ 〳 〵 マト ヘリ 三 十 一帖 ヨリ

終 リ ノ巻 マ テ 他人 ノ作 ナレ ハ論 スル ニタラス

第二十

(マ

二帖

に 云 まこ とや 御賀 の歌 ハ輔親赤 染

出羽弁経 任の 頭弁の母 に て もの し給ふ佐 理の」

(二〇オ)

大弐の む すめ〔そ〕 書 たまひ け る 赤 染正月朔日臨時

客し たる処 かす 〳 〵

にハ うる さき や う なれ ハ 何 かハとて と ゝ めつ

今按 するに 赤 染 家 集に云 鷹 司殿 のうへ の 御 賀

関白殿の せさ せ給へると て 御屛風の 歌め し ゝ に

臨時客

此他のの哥も

あまたあ略之

され ハ 此 比赤 染も 七十

余 歳 の老尼に て里にありしか許 へ 件 のうためし

しとみゆか つ また赤 染 か歌 二首と輔 親 が 歌

二首のミ を あ け て かす〳〵 みるには う るさきや う な れ ハ

何かハ と て と ゝ め つとて か ゝ さ るハ 赤 染 の尼か 本 意成 へから」

(二〇ウ) か歌二首二首

はか今略

(35)

- 265 -

すされ ハ かす〳〵にハ 以下 の詞ハ他 人の 書る歟さ らす ハ

撰 者 例の 省略せる詞な るへ し

かやう処々にみ

第三十六 帖

に云 廿五 日に 后の 宣旨 下り て 七 月十日大 饗あ るへしなとあ る程

中略

院の おハしま

しゝ に も お と ら す い た つ ら な る 屋 な と

かけわたし水の

なかれ も 心ゆき 池 の お もて す み わ た り 松 のミ とり も

けさ やか にみえい ミしうおもし ろく め て たし源 氏 の

三条の宮 おはせ て 後大将 む かしにおとら す内のおほ

との ゝ の 姫 宮

とみ こちて

おハ す る 事と い ひ た る 心ち

(マ

せさせた ま ひ け る」

(二一オ)

今 按 るに また 源氏 物語 藤の うら 葉の すゑ つかたを 引

たり当時の人のか ゝ ん にハ 正しく御現存の女院

彰子

三条の宮の薨後に たとへ奉 る ハ 禁忌なるへし これ らも

後人の筆 なるこ と 知られた り

又云 こと し の 夏 た かつかさ 殿 の う へ 失給 ひた れハ 五

節なとも なにのはへなく て す き ぬ

今 按 るに赤染 ハ曽 て 倫 子に 仕へまゐらせて 尼 に

な り し後も御かへり ミ 有しさまに 家 集なとに もみえ

(36)

たるにその薨し給 ふ を し る す と な ら ハ哀傷のさまを

こま かに か き 或 ハ 自 他 の 歌 な と も 載 へ き を た ゝ 二 三 首 」

(二一ウ)

に書捨て たるハ本意な るへ からすさ しも な き 御方 々の 失給ふ

をさへ長々しく書たるに 合 せ て かくハ心付 侍 る也

思ふにも と倫 子薨後の 古記を 撰 者の 得さ るゆ ゑ

なるへし

又云 々清

(マ

少納言 か いひ た る や う に め て た し

今 按 るに爰にハ枕草子を 引 た る ハ先 輩なれハさも

有へし清紫か書を引 む 事ハ赤染な ら ぬ証 なる

へし

第三十八 帖

松の

しつえ

に云 かくて 二 月廿日天 王寺 に

まう て さ せ給ふ

中略

その時 に 左 衛 門権 佐匡 房まゐ」

(二二オ)

れり色 々 さま〳〵にさ うそきたる中に 赤 きう へのきぬ に

こ と 〳 〵 しく まいりた るい と め つら しく ミ ゆ

今 按 るに匡房 卿ハ赤染か曽 孫に て 前 にも 申如く

後朱雀院 の 長 久二 年に誕 生 白河院延 久 五 年に三

十三歳な り 曽 綜母

(マ

赤染 たと ひ 存 生せりとも百

と せ 余 り の 老尼な る へ け れ ハ 天 王 寺 へ 供 奉し てか

(37)

- 267 -

やう の記書へくもお も ほえ侍 ら す是ハ其比 供 奉せ し

人の書 お き し 物なとを 撰者 引用ひ た るにや

第三十九帖

布引の瀧

に云女院 つゐ に十月三 日失

させ給 ひ ぬ」

(二二ウ)

今 按 るに前にもしるすこ と く赤染ハ 女院 よりも

はるかにまさ り奉たる 年 齢 とお ほ ゆ るにたと ひ

存生を

りともか く こ まや かな る記をん

(マ

こと

(一字空白

つか は し

からすや

又云 承保二年正 月 二日七夜にあ たりた れ ハ後一

条院の御 う ふ 屋 に紫式 部 の い ひ つ ゝ け た る 同 し 事

也まね ひ そ こ な ひ に中 々 な れ ハ なん

今按 る に 紫式 部 の い ひ つ ゝ け た る と ハ 上 に出 せる

第八帖初花の 巻の事也さ れ ハ此物 語 首尾 一手

に出 たるこ と 知りぬへ し 」

(二三オ)

是ハ上ノ 栄花 ニ首 尾ヲ 合 テ ワ

サト 後人 ノツ クレ ル モ ノ 也

第四十帖

に云

か の 源 氏 のか ゝやく日 の宮

の尼になりた まふ願文 よミ あけん心ち し てやん

むら

き野

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