Bu l l e t i no fFa c ul t yo fEd u c a t i o n,Na g a s a kiUn i v e r s i t y :Cu r r i c u l um an dTe a c hi n g1 9 9 8 ,No.3 0 ,5 3 ‑5 8
磁場測定器 の改良 と地磁気伏角測定 への活用
富 山 哲 之
(平成
9
年1 0
月31
日受理)I mp r o v e me n to na nAp p a r a t u so fMa g n e t i cF i e l dE x p e r i me n t a n di t sUg ff o rMe a s u r i n gt h eDi pAn g l eo fGe o ma g n e t i cF i e l d
Nor i yukiTOMI YAMA
( Re c e i ve dOct .31 ,1 9 97 )
1.は じめ に
地球磁場 は西暦
1 6 0 0
年頃 ギルバ ー トに よって提 唱 された。 当時, この磁 場 の ことを磁 気 性能 圏 と呼 び,初 めて場 の概 念 が生 まれ た ようで あ る。
遠 隔力 としての磁気力 の概念 はそ の後 フ ァラデーの電磁誘 導発見 の切掛 け となってい った ので あ る1)
。現今 で も,方位 や針路 を決 め る基準 としての磁気 コ ンパ スの重 要性 は変 ってい ない ように,人 間 と何 も関係 ない ような地球磁場 が,実 は 日常生活 の中 に も浸 み込 んで い る。この よ うに科学史 的 に大 きな意味 を持 つ地磁気 の存在 について,小 ・中学校理 科 での取 扱 いが軽視 され てい る とい う報告2)が あ る。現行 の学習指導 要領理 科編 3)に よれ ば,地磁 気 の三要素 や地磁気 の原因 な ど, それ らの測定 法 について も行 いなが ら扱 うこ とが望 ま しい
と記述 され てお り,高校地学で初 めて地磁 気 に関 す る学 習指 導が行 われ る。 物理領域 で は, 中学理 科 の電磁誘 導現象 の理解 に始 ま り, 高校物理 の電磁誘 導 の基本法則 として定着 が図
られ る。地磁 気 に関す る興 味 あ る実験 や その応 用 は まず見 当た らない。例 えば地球磁場 の 中でコ イル を動 かす と電 流が誘 導 され る現 象 は理科 の学 習 で は取扱 われ ていない。 この よ
うな微小 な磁場 を測定 の対 象 にす るのが難 しい こ とに もよる。
こうした観 点か ら,筆 者等 は,先 に地球磁 場 を生活 と深 く関わ る もの として捉 え, それ を容易 に検 出で きる磁場検 出装 置 を開発 し,建物 内 の地磁 気 の乱 れ の様子及 び直 流磁場 に 及 ぼす地磁 気 の効 果等 を明 らか に した4・5)。本稿 で は,磁 場検 出装置 の磁場検 出 コイル及 び 駆 動力伝 達系等 を改良 し,地磁 気 の伏 角計測器 としての可能性 につ いて検 討 した結果 を報
告す る。
2
.実験 装置 と測定 方法磁場 測定 法 には様 々 あ るが静磁場 測 定 に有利 な回転 コイル法6)に拠 った。原理 的 な記 述 は既報4)に詳 しい。
図
1
に磁場検 出装 置 の概観 を示す。木製枠 (6×1 0×4 5 c m 3)
の中 に,模 型 用小型 モー タ を取付 け, 回転軸 の支持部 材 として鋼製 の転 が り軸受 け (外径 16mm, 内径 8mm,幅3.8m )図 1 測定 装置の概 観
オシロスコープ (右側),水準器 (中央上部),磁場検出装置,アングル ファインダ及び傾斜台 (中央),全方位分度器及び方位磁針 (中央下 部),ディジタルマルチメータ及び増幅器 (左側前方),乾電池箱 (左側 後方) か ら成 る。
を
2
個所 に固定 した。 モー タや軸受 けか らの漏洩磁 気 の影響 を避 けるた め に, 回転軸 は木 製 シャフ ト (直径 8mm,長 さ35cm) を用 い, その中央部 にコイル を取付 け るス リッ ト (幅1. 5 m m
,長 さ55mm) を開 けた後,軸 受 けに通 した。他 の部分 に磁 性 材料 は一切 用 い て い な い。測定精度 に大 き く影響 す る磁場検 出 (回転 ) コイル は円形 スパ イ ラル状 単 層巻 に した。アク リル樹 脂 円板 (厚0.5mm,直径 55mm)の片面 に両面 テー プ を貼 り, この上 に線径 0.30mm のエナ メル鋼線 を約 100回巻 いた後,他 面 を同 じ寸法 の樹 脂板 で挟 みス リッ トに装填 した。
スパ イ ラル コイル の直 流抵抗 は約
0. 9 0
m で あ った。金 属 ブ ラ シ と回転 子 の作 成 要領 は既 報4)
と同様 で あ る。
木製枠 の前後 の面 は透 明 ア ク リル板 (厚2
mm, 10×45cm2)で覆 った。 回 転軸 の傾 斜 角度 を測 るた めのア ングル フ ァイ ンダ (最小 目盛 1度) を装置前面 に取付 けて い る。
傾斜 角 を変化 で きる木製 の傾斜 台 (厚35mm, 10×50cm2) を 2枚 の板 で作成 し, この 台 の端 に支柱 (1. 2×2. 5
×90cm3) を鉛 直 に取付 けた。磁場検 出装 置 を この台上 に置 き,台 の一端 に紐 を結 び付 け これ を介 して鉛 直上 方 まで静 か に引上 げ る こ とがで きる。
測定 の際は,紐 の片 方 を支柱 の上端 に仮 止 め して回転軸 の傾斜 角 を設定 した。
図
2
に測定系 の構 成 を示 す。磁場検 出装 置本体 ,増幅器,乾電池収 納箱 ,傾 斜 台,全 方 位分度器 (以上 の機器類 は自作 した)及 びデ ィジタル マルチ メー タ, オ シロス コープ,方 位磁針, ア ングル フ ァインダ,水準器 で構 成 され 磁場検出装置 増幅器[l] 増幅器
[ 2]
ディジタルメータが近接 しない野外 の広 い
所 で行 い,一部 の測定 は建物 内及 び その周辺 で行 った。磁場検 出装置本体 は地表面 また は 床面 か ら約70cmの高 さで水平 に保 持 した全 方位 分度器 (直径約30cm)上 に置 く。磁場検 出
tど
i
富山 :磁場測定器の改良 と地磁気伏角測定への活用
55
コイル の誘 導起電 力 は,交流 の ままブラ シを介 し取 出 し,増幅器 (利得約
1 1 0 dBノ J V)
を通 してデ ィジタルマルチ メー タで読 取 る。 コイル の回転 数 は毎分1 5 00,2000,2 50 0,30 00
,35 00
回転 として各場合 の誘 導起電力 を読取 った。周 波数 カ ウ ンタ また はオ シロス コー プでコイルの回転状 態 を常 時監視 した。
3
.実験結果 および考 察‑様 な磁場 の中で, コイル を一定 の角速 度 で 回転 させ る と, コイル の端子 に正 弦波交流 が発生 す る。 この交流 の周波数 は磁場検 出 コイルの回転 速度 に等 しい。以下 の測定値 は交 流電圧 の実効 値 を示 す。
図
3
に磁場検 出 コイル の回転 速 度 を1 0 S 1
か ら80 S 1
の範 囲 で変 えて,増 幅器 の増 幅 度 を98dB
か ら11 0 dB
まで4 dB
毎 に変化 させ た場 合 の電圧 感 度 特性 を示 す。 回転 速 度 また は増 幅度 を上 げ る程感 度 は良 くな るが, 回転速 度60 S 1
以上 で は感度 の上 昇率 は急 に低 下 す る。回転速 度 の上 昇 に伴 って, コイルの リア クタ ンスの変動 は小 さいが,接 点摺動 に伴 う接触 抵 抗 の増大 に よる影響 が現 れて い る。本装 置 に よる誘 導起電力 の測定 はグ ラフの比例部分 において回転 速度 が
20 S 1
か ら6 0 S 1
の範 囲が適合 す る ことが分 か る。以下 の測定 は,この範 囲 の回転 数 にお いて増 幅度1 1 0 dB
の も とで行 った。図
4
に磁 場検 出装置 の回転軸 の向 きを水平面 内で角度3 0
度毎 に変 えて測定 した結果 を示 す。 コイル の回転軸 と磁北 の向 き とが直 交 してい る ときには,起 電力 は最大 にな るが,両 者 の向 きが一致 してい る場 合 は起電 力 は最小 にな る。 コイル の 回転 数 を1 5 00,2 00 0r pm
,‑‑ と順 々 に増加 す る こ とに よって,各 々 に対応 す る起 電力 が増 大 す る ことが分 か る。
[LJ^.Otエ一世噂QP
q r y n 潜 B )
10 20 30 40 50 60 70 8
09 0
回在 速 度 N。〔S L]
図
3
磁 場検 出 コイルの電圧 感度特性S I 〜 E S
回転 コイ ルの 回転軸 の方 向 β[ ■]
図4 広 い グラ ン ドに おけ る地磁 気の 異 方性
図
5
の ように,地磁 気 の全磁 力H o
,伏 角 ¢,水平面 内 に置 いた コイルの回転軸 の磁軸極 方向か らの角度 Cとして, この位置 にお ける磁場H(
e)とす る と,H (
e)
‑H. (1‑c o s2 ¢c o s2 8) 1/ 2
(1) で与 え られ る4)。回転 コイルが一定 の角速度 で回転 す る とき,磁場検 出装置 の電圧感度 をkとすれ ば,地磁気 に よって検 出 され る起電力 の実効値
E
は次式 で計算 され る。E
‑k・ H(
e) (2)長崎 にお ける全磁力 と伏 角値 は,それ ぞれ
H. ‑4. 7 ×1 0‑ 5 T
,¢‑4 60 37. 8 ′7)
で あ る。 これ ら の数値 を式(1)を式(2)に代 入 して得 た起電力 の計算値 と実測値 が測定誤差 内で一致 してい る。コイル を水平面 内で回転 させた ときの最大起電力 は地磁気 の全磁 力 を,最小起電力 はその 鉛直成分 を検 出 してい るので, その比 か ら算 出 した伏 角 の平均値 は46.
4
度 で あ る。
磁場検 出 コイルの回転軸 を水平 に保 ち,起電力が最小 にな る磁北 方 向 に‑致 させ てお き, その後,傾斜台 を使 って回転軸 を磁北 の向 きに傾 ける。 図
6
に水平位置 か ら65
度 まで傾斜 させ5
度毎 に測 った起電力 の測定結果 を示 す。どの回転 数 の場合 も傾斜 角が約45
度 の ときに 起電力 が最小 にな る。
図7
の ように, 回転軸 の傾斜 角が40
か ら5 0
度 の範 囲 は1
度毎 に起電 力 を測定 した。 どの回転数 の場合 も起電力 が最小 にな る角度 は46度 か ら47
度 の範 囲 にあ る ことが分 か る。 回転数 が高 い程起 電力 が最小 にな る傾斜角 の読取 りは容易 で あ る。
この と きが コイル の回転軸 と全磁 力 の向 きとが完全 に一致 す る角度即 ち地磁 気 の伏 角 を表 している。 iiZI
H
v図
5
地磁気の三成 分 とコイルの回転軸 の位 置関係Nm :
磁北 ,H o:
全磁力 ,Hh:
水平成分 ,肋 :
鉛 直成分 ,C:
コイルの回転軸 ,♂:
コイル の回転軸 角, ♂:伏 角00[^]
3 下 押 韻
♯溝回転 コイルの 回転 数 N[rpm]
○: 3500
□ :
3000
△
二2500
● :2000
■ : 1 500
1 0 20 30 40 50 6 0 70
回転 コイルの 回転軸 の傾斜 角¢[ ○]
図
6
磁 場検 出 コイルの回転軸の傾斜 角 と誘 導起電 力の関係1 ■ ▼
富山 :磁場測定器の改良 と地磁気伏角測定への活用
表
1は コイ ル の 回転 数3500 r pm の も とで起電力が最小 になる ときの傾斜角の 測定結果 ( 1
997
年8, 9月測定) を示す。
一地点 で 7回程測定 を繰返 した ときの平 均値 を示す。野外 の広 い所 にお ける測定 で は,長崎市 内で伏 角の平均値 は4
6.5度, 福 岡市 内で4 7
.5度 であっ た 。 これ らの数 値 は文献値 と 比 べて遜色 な い 。 測定誤差 は±0 . 5 % 以 内で あ
る。人為的な埋設物 か ら発生 す る磁気や局所的 な岩石 の残留磁 気 の影響 は受 けていない ようであ る 。 建 物 内部及 びその周辺 の測定 で は,方位磁 針計 の指針 の向 きが磁北 か ら大 き く外れ る場合が多 く,起電力が最小 にな る傾斜 角 は各々の測定点で異 な る結果が得 られ
た 。 木造家屋 内で は45度以下 の値 を示 し, 鉄筋 ・鉄骨 コンク リー ト造 りの建物 内や
その周辺で は50度以上 の値 を示 した。建 物 内の水平面 内にお ける磁場ベ ク ト ルの分布 図4 ) か ら も予 想 され る よ う に,建物 を構成 す る鉄材 や室 内の鉄 製品等 の永久磁気 ・感応磁気 と地磁 気 との合成磁場 の方向 を示す もので あって地磁気 の伏角値 を与 える もの で はない。
磁場測定 中のデ ィジタルマルチメ ー タの電圧 また は周波数計数値 の変 動 は0. 2 %
以下で あ
った。回転軸 の傾 斜角 を変 える際の回転数 の低下や波 形歪 は生 じなか った。 モータ駆動部 と軸受部 か らの漏洩磁気 の影響 は無 視 で きる もの と考 え られ る。増幅器
[^ ]3 只 押 擢 帯 湛 0 0 4 2 1 1 0 0 0 8 1 0 0 0
0. 0 60 0 .0 40
57
回転 コイル の 回転 数
N [ r p m]
○ : 3 50 0
ロ:3 0 0 0
△ : 2 5 00
● : 2 0 00
■ :1 5 0 0
′ ノ
40 41 4 2 4 3 4 4 4 5 4 6 4 7 4 8 49 5 0
回板 コイル の 回転 軸 の傾 斜 角¢[ ○】
図 7 磁場検 出 コイル
の回転軸の傾斜 角 に対 す る誘導起電 力の微小変化
表 1
誘導起 電 力が 最小 にな るときの 回転 軸の 傾斜 角 (平 均値 )測 定 場 所 傾 斜 角
長 崎大学 ( 総合 グ ラ ン ド) 46. 5 ○ / / 教育学部 ( 理科棟 屋上 ) 63. 00 / / 〟 ( 〃 4
階実験室)56. 00
〃 〃 ( / / 1
階実験室)52. 20
〃 ノ / ( 〝 建物横 ) 51. 3 0
長崎市 内 ( 松 山町陸上競技場 ) 46. 5 0
〟 ( 松 山町 ビル デ ィング横 ) 50. 7 0
〟 ( 木造家屋 内) 43. 00 福 岡市 内 ( 大濠公 園) 47. 50
〟
(荒戸1丁目ビルディング横) 52. 80 は低雑音 であって測定値 には影響 は
なか った。従来法4 , 5 ) では ,方形断面 の多層巻 コイル をシャフ トに装着 し滑 り軸受 けで支 え
た。大 きな起電力が得 られ るが コイルの重量が大 き くシャフ トの振動や軸受部 での摩擦,
摩耗 による障害が生 じ易 い こと, コイルが立体 的 な形状 をなすために測定精度が上が らな
い等 の欠点が あった。本装置で用 いた円形 スパ イラル状単層巻 コイル は平面的 な形状 であ
り, コイルの回転軸 と磁場 のなす角度 を精確 に決 め る。転 が り軸受 けを取付 けた ことによ
りシャフ トの振動 と軸受 け,摺動接触部 の摩擦 トル ク と摩耗損失,摺動雑音がかな り低減
し,安定性が向上 した。
4.
おわ りに本装 置 の磁場検 出用 コイル に円形 スパ イ ラル単層巻 方式 を採 った こ とに よ り地磁 気伏 角 の直接測定 が可能 とな った。転 が り軸受 けを使 用 した こ とに よ り安定 した 回転力 が得 られ 水平面 内だ けで な く鉛直 面 内 にお ける磁場測定 が容 易 にな った。測定精度 は測定範 囲 の全 域 において読取値
±0. 5%
以 内で あ る。地磁 気 の強度及 び伏 角測定 は野外 において建物 ,その他 の構造物 が近 接 しない場所 を選 んで行 うのが適 当で あ る
。
伏 角計 の製作 は,磁 針 の重 心 を吊 る方法 で あって も,非常 に困難 で あ る ことが指摘
2)
され てい る。 本 装置 は磁場検 出 コイル と増幅器, デ ィジタルマル チ メー タ を組合 せ た簡単 な も ので あ るが,地磁 気 の強度及 び伏 角 を同時 に観 測 す る こ とがで きる。
地磁 気 の立体 的 な広 が り,空間 の歪 を認識 させ るた め に役立 つ もの と思 われ る。本稿 は, 日本理 科教育学会 九州支部大会
( 1997 年 5
月,鹿児 島大学 ) で, 口頭 発表 した 内容 に加筆 ,修正 を加 えた もので あ る。
参考 文献 1)広重 徹 :電磁 気学史 (小 山書店
,1 9 5 6 )6 .
2
)堂面春雄 :山 口大学教育学部研 究論 草,第3 2
号( 1 9 8 3 )1 2 3 .
3
)高橋景一, 山極 隆,江 田 稔編 :改訂 高等学校学習指導要領 の展 開 (明治 図書,1 9 9 0 )2 7 2 . 4
)富 山哲之, 山本和任,近藤貴 子,谷本光穂 :長崎大学教育学部教科教育学研 究報告,第7
号( 1 9 8 4 )
4 7 .
5)
富 山哲之,谷本光穂 :長崎大 学教 育学部教科教育学研 究報告,第8
号( 1 9 8 5 )6 5 . 6)
電気学会編 :電気測定 法 (オーム社,1 9 8
7)1 6 4 .
7)国立天文台編 :理科年表
7 0
(丸善,1 9 9 6 )7 9 4 .
1