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大和古代木材考(第1報)

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

大和古代木材考(第1報)

著者 島倉 巳三郎

雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学

15

2

ページ 55‑60

発行年 1967‑02‑28

その他のタイトル Contribution to the ancient timbers from Yamato province (Nara Prefecture), Japan.

URL http://hdl.handle.net/10105/3317

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奈良教育大(自然)第15巻 昭和42年 Bull. Nara U.Educ. (Nat.), Vol.15, 1967

大 和 古 代 木 材 考(第1報)

(付.図版2) 島 倉 巳 三 郎

(奈良教育大学地学教室) (昭和41年9月30日受韻)

Contribution to the ancient timbers from Yamato province (Nara Prefecture), Japan.

Misaburo SHIMAKURA

(Department of Earth Science, Nara Univ. of Education, Nara, Japan) (Received Sept. 30, 1966)

It is well known that many old tombs, old sites and ruins have been distributed in Yamato Province. Wooden utensils, pillars and timbers have been unearthed from these places. The results of anatomical studies of these woody samples are as following:

Loalities

Nukatabe ‑ Kitsunezuka old tomb, Yamato‑Kori‑

yama City.

The ruins(?) of Iwami, Miyake‑mura, Shiki‑Gun.

The same.

Kamidan old tomb, Tenri City.

Tenjin‑yama old tomb, Tenri City.

Miyayama old tomb, Gose City.

The ruins of Asuka, Asu‑

ka‑mura, Takaichi‑Gun.

old site of Heiio palace, Nara City.

Old site of jikido, KO‑

fukuji‑temple, Nara city.

Materials Wooden‑coffin Timbers

Wooden utensils Wooden coffin

Wooden coffin (?) Wooden coffin Woodelsi pillar Wooden chip (?) Wooden chip?

Name of wood

Sciadopitys verticillata Chamaecyparis obtusa Sciado少itys verticillata Sciadopitys verticillata Sciado♪itys verticillata

Sciado♪itys verticillata

Sciado♪itys verticillata

Chamaecyparis obtusa

Pin〟s {Diploxyloii) sp.

ChamaecypanT obtusa Cryptomeria japonica

近時近畿地方において遺構や古墳の発掘が盛に行われ,土器・金属器その他の出土品にまじっ て木製品・木材等も発見されている.筆者は化石樹の研究をやって居った関係から,これらの木 賃出土品を解剖学的にしらべたい希望を抱いていたが,長い間資料を入手できなかっtz. 1966

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烏 合 巳 三 郎

年,奈良県教育委員会文化財保存課の小島俊次技師および橿原考古学研究所の伊達宗泰研究員よ り若干の試料を恵与されたので,手元にあるものとあわせて,ここに報告する.両氏の御好意に 対し深く感謝する次第である.

1.郡山市額田部狐塚古墳出土棺材

試料は大和郡山市額田部北方町にある狐塚古墳の緊急発掘調査の際発見された木棺の破片3点 で,昭和41年1月末小島技師より送付されたものである.しらべた結果は次の通りである.

材の解剖学的性質

年輪はやや巾狭く,早材より晩材への移行は急激,晩樹はせまく2‑4細胞列,仮導管の放 射壁上の重縁孔紋は楕円形から円形で1‑2列に並び, 2列のときは対生で,サニオ氏線は明 か,切線壁上の重縁孔紋は小さく, 1列に並ぶがやや不規則で疎ら.放射組織は1列式, 1‑20 多くは3‑12細胞高,その水平および切線壁はうすくて平滑,放射縦断面上において仮導管と交 叉する各フィルド上には1個,時として2個の,広楕円形または広眼輸状の単孔紋を有する.樹 脂細胞,樹脂仮導管,樹脂道,放射仮導管等は全く欠いている.

これらの特徴からみてコウヤマキの材と決めることができる.

古墳丘を築成する黒色炭灰様物について

この古墳は説明文によると「南西南面の前方後円墳で,主軸の長さ約50m,前方部の巾約36m 高さ約5.5m,後円部の径約26.5m,高さ約5mの規模をもち後期古墳の典型ともいうべき形態を なしている」 「墳丘は,基底部約2mを周囲の鳶色あるいは黒灰色粘土を主として積み上げ,そ の上部は後円部では褐色土,黄褐色粘土,黒灰色粘土を積み,前方部との接続部辺より前方部へ は炭灰を主に間層として粘土などを使用して積み,前方部には褐色粘土,黒灰色粘土を積み上げ たもので」あるという.この黒灰色粘土・炭灰がどんな植物から構成されているかをしらべてみ た.試料を5%KOHで処理してフミン酸を除き,次にHN03とKOHを用い,荏粉分析の方法 によって残漆を集め検査した.その際認められたものは,

澗英樹型の孔紋導管・綱紋導管・放射柔組織・織維状仮導管・樹皮組織 松柏類型の重縁孔紋を有する仮導管・単列型放射組織

羊歯植物型の階紋導管状仮導管・胞子類

単子葉植物(いね科・かやつりぐさ科)型の気孔を有する表皮,桂観細胞を有する表皮 等であり,これらの組織から推定すると,この黒色灰様土は潤葉樹および針葉樹の材と枝葉を 主とし,スゲ・ススキのような単子葉植物とワラビのような羊歯植物の葉・茎の不完全な燃漆か

ら成るように思われる.

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大 和 古 代 木 材 考(第1報) なおこの古墳は6世紀前半ころのものと考えられている.

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2.磯城郡三宅村石見遺跡出土の木材

1966年春,磯城郡三宅村石見において宅地造成のため失われることになった遺跡( 6世紀ころ) 杏,橿原考古学研究所が調査し,その際いろいろの出土品と共に長大な用材(?)や木製品が得ら れた.そのうちの若干をしらべた結果は次の通りである.試料は数mmx数cmの小片で,腐朽し たものもあり,良好なプレパラートを作れないばあいもあったが,樹種の識別は困難でなかった.

試料番号 樹

N

 

W

^

l

O

 

t

O

 

N

 

O

O

 

O

)

<

N

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c

o

*

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n

 

c

d

 

m O

U

 

0

種 t年輪密度1放禦(細胞数)

備    考

ヒ   ノ   キ

//

コ ウ ヤ マ キ

′′

ヒ   ノ   キ

′′

ヒノキおよびコウヤマキ ヒ   ノ   キ

1′

′′

ヒ   ノ   キ

ヒ   ノ   キ

ヤ マ キ

J′

/′

〃    

〃    

12

1 ‑ 10

2 ‑ 30 1 ‑ 7 1 ‑ 13 2 ‑ 21 1 ‑ 10 1 ‑ 15 1 ‑ 12(18)

2 ‑ 22

J  ‑ IS 2 ‑ 14

材の解剖学的性質

ヒノキ Chamaecyparis obtusa材:

材は仮導管・放射組織・樹脂細胞から成り,樹脂道を欠く.早材から晩材‑の移行はやや急, 時としてやや緩,晩材は巾狭く,ふつう3‑12細胞幅,仮導管の放射壁の重縁孔紋は円形から楕

円形で, 1 列に並び, 2列のときは対生,小孔は小さく円形.切線壁の重縁孔紋は小さく円 形で,疎に1‑2列に並ぶ.放射組織は柔細胞より成り単列式 l‑30細胞高,多くは2‑15 細胞高,その水平壁および切線壁は平滑か,僅かに肥厚する.放射壁のフィルドには両端で2‑

6,内部で1‑3個の半重縁孔紋があり,その形は円く,比較的小さく,開口は狭楕円形から厚 レンズ状で斜立する.樹脂細胞は年輪中にやや切線状に,または散在状に配列する.水平隔壁は 平滑または弱く肥厚する.

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58 島 倉 巳 三 郎

コウヤマキSciadopitys verticillata樹:

材は仮導管と放射組織のみより成る.早材から晩材への移行はやや緩またはやや急,晩材は比 較的巾狭く, 4‑14細胞幅,往々偽年輪やアテ材状のため広く見えることがある.仮導管の放射 壁上の重縁孔紋は円形から楕円形で, 1 列に配列し, 2列のときは対生,サニオ氏線は明 か,小孔は小さく円形,切線壁上の重縁孔紋は円形で小さく,まばらに1‑2列に配列する.放 射組織は柔細胞から成り,単列式で1‑2細胞高,水平壁および切線壁はうすく平滑,放射壁上 のフィルドには1‑2個の長楕円形または広眼輪状の大きな単孔紋がある.

包含層の性質

試料包含層は地表下約1mで,黒褐色の泥およびシルlトより成り,これをKOH液で処理し, 残漆をしらべたところ,荏粉,胞子,羊歯植物の子嚢,シャジクモ類の蔵卵器等が見出された.

3.古墳から出土した棺材 ( 1 )天理市和爾町の上段古墳出土の木棺

樹種はコウヤマキSciadopitys verticillata 材の解剖学的性質

材は仮導管と放射組織より成り,年輪密度14.0,早材より晩材‑の移行は急,腕榔ま極めて狭 く2‑4細胞幅,仮導管の放射壁上の重縁孔紋は楕円形から円形, 1 列.放射組織は栗細胞 から成り単列式, 1‑15細胞高,放射壁上のフィルドには1‑2個の大きな楕円形または広レン ズ状の単孔紋を有し,水平壁および切線壁はうすく平滑.

( 2 )天理市柳本町の天神山古墳出土の木履 樹種はコウヤマキSciadopitys verticillata 材の解剖学的性質

材は仮導管と放射組織から成り,年輪密度は8.0,早材より晩材への移行はやや緩で往々偽年輪 を生ずる.晩柳まやや幅広く6‑12細胞幅.仮導管の放射壁上の重縁孔紋は楕円形で,時に円 形, 1‑2列に並び対生.放射組織は栗細胞より成り単列式で2‑12細胞高,放射壁上のフィル ドには早材で1 ‑2個の大きな広レンズ状または長楕円形の単孔紋を有し,晩材では1個の狭レ ンズ状の斜立した単孔紋を有する.

( 3)御所市室の宮山古墳出土の木棺 樹種はコウヤマキSciadopitys verticillata 材の解剖学的性質

材は仮導管と放射組織より成り,年輪密度は10.0.早材より晩材‑の移行はやや急,晩材は3

‑10細胞帽.仮導管の放射壁上の重縁孔紋は他の試料と同様.放射組織は柔細胞より成り,単列 で1‑14細胞高,放射壁上のフィルドには1‑2個の大きな広レンズ状または楕円形の単孔紋を 弔する.

4.奈良市興福寺旧食堂跡から出土した木片

約10年前興福寺旧食堂跡に宝物館を建てるための基礎工事が行われた.そのとき浅野清教授の 御好意により現場をみる機会を得,地下約1m附近のところから瓦の破片と共に刃物で削った木

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大 和 古 代 木 材 考(第1報) 59 片と焦げ跡のある木片を採集した.これらの樹種は削り片数個はヒノキで,焦げた木片1個はス ギであった.

樹の解剖学的性質

ヒノキ Chamaecyparis obtusa材

前記の試料とほぼ同じ構造を示すものであるから記述を省略する.

スギCry♪tomeria ja♪omca材

樹は仮導管・放射組織・樹脂細胞から成り樹脂道を欠く.晩榔まやや狭いが厚膜,仮導管の放 射壁上の重縁孔紋は円形から楕円形で比較的大きく, 1 列に並び, 2列のときは対生,サニ

オ氏線は明か,切線壁上の重縁孔紋は小さく円形で,まばらに1‑2列に並ぶ.放射組織は柔細 胞より成り単列式で1‑25細胞高,水平壁と切線壁はやや厚く平滑か多少肥厚する.放射壁上の フィルドには1‑2個のやや大きい楕円形の半重縁孔紋があり,その開口は早樹では長楕円形ま たはレンズ状で,その方向は水平またはそれに近く,晩材ではレンズ状で斜立する.樹脂細胞は 散在型,水平隔壁はうすく平滑かやや肥厚する.

5.飛鳥遺跡出土の柱材

1956年ころから奈良県教育委員会・文化財研究所・橿原考古学研究所の手で,高市郡明日香村 にある飛鳥遺跡の調査が行われているが, 1960年に巨大な1本柱の列が発見された.その1本か

ら数mmの小片を戴きしらべてみたが樹種はヒノヰ Chamaecyparis obtusaであった.

材の解剖学的性質

年輪密度は約11,早材より晩材への移行は急,晩材の巾は狭く3‑4細胞幅,仮導管の放射壁 上の重縁孔紋は楕円形から円形, 1‑2列に並び2列のときは対生配列,小孔はやや小さく円形.

切線壁上の重縁孔紋は小さく円形で疎に1‑ 2列に並び,小孔はレンズ状.放射組織は柔細胞よ り成り, l‑10細胞高,水平壁および切線壁は平滑,放射壁上のフィルドには早材で2‑6個, 晩材では1‑2個のやや小形な半重縁孔紋を有し,その開口はレンズ状で斜立する.樹脂細胞は 年輪中に散在し,水平隔壁には弱い肥厚部を有する.

6.平城宮祉出土の一木片

平城宮比では大規模な発掘調査が行われているが, 1965年夏参観の際,出土品整理場で棄て, あった 2cmXIcmXO.4cm くらいの木片を拾い,しらべたところマツ材であることを知った.

二葉松Diploxylonであるが,クロマツかアカマツかば決定できない.

材の解剖学的性質

榔ま仮導管・放射組織・樹脂道から成る.晩材は巾広い.仮導管の放射壁上の重縁孔紋は円形 から楕円形でやや大きく1‑2列に並び,切線壁上の重縁孔紋は小さく頗著でない.放射組織に は単列型と水平樹脂道を含む紡緯型とがあり,単列型は放射仮導管と柔細胞から成り, 1‑15細 胞高で細く,紡錘型は多細胞列で放射仮導管,柔細胞,水平樹脂道から成り,樹脂道のエビセリ

ウムは薄膜型.放射壁上のフィルドには,南側に放射仮導管が1‑3列あり,その水平壁には著 しい録歯状肥厚がある.重縁孔紋は円形で各フィルドに1‑3個,開口は長線状またはレンズ状

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m 島 倉 巳 三 郎

で斜立,放射柔細胞の各フィルドには1個,時に2個の大きな単孔紋がある.垂直樹脂道は大き く,おもに早村中に散在し,エビセリウムは薄膜型,切片ではこわれることが多く,その数は不 覗.正常のばあい樹脂細胞を欠く.

以上調査した古代材をまとめてみると,材の種類は次のようになる.

ヒノキChamaecyparis obtusa 石見遺跡の用材,興福寺食堂跡の木片,飛鳥遺跡の1本柱.

コウヤマキSciadopitys verticillata 石見遺跡の用材および木製品,狐塚古墳,上段古墳,宮 山古墳の棺材,天神山古墳の槽材

スギCryptome‑tia jaタonica興福寺食堂跡の木片 マツPinus (Diploxylon) sp.平城宮政の木片

図  版  説  明

第1 図 版

1‑5 :郡山市額田部狐塚古墳出土棺材,樹種コウヤマキ Sciadopitys verticllata. 1 :横断面 (試料8) ×40;2:放射縦断面(試料8) ×100; 3:切線縦断面(試料8) ×40;4:放

射組織の放射縦断面(試料8) ×280 ; 5 :切線縦断面(試料7) ×140

7‑9 :磯城郡石見遺跡出土の木材,樹種ヒノキChamaecyparis obtusa. 7 :横断面(試料7)

×40; 8 :放射縦断面(試料8) ×100 ; 9 :切線縦断面試料(試料9) ×40.

6,10‑12 :石見遺跡出土の木材・木製品,樹種コウヤマキSciadopitys verticillata. 6 :放射縦断面 (試料15) ×280 ; 10 :横断面(試料15×) 40 ; 11放射縦断面(試料15) ×100 ; 12:放射 縦断面(試料005) ×100

第 2 図 版

13,‑14,16,22 太理市上段古墳出土の棺材,樹種コウヤマキ Sciadopitys verticillata. 13 :横断 面 ×40; 14:放射線断面 ×100; 16:放線組織の放射縦断面 ×280;22:切線縦断面

×40.

15  :天理市天神山古墳出土の値札樹種コウマキSciadspitys verticillata.放射縦断面 × 100.

17. 23 :興福寺食堂跡出土の木片,樹種ヒノキ Chamaecyparis obtusa. 17 :横断面 ×40 : 23.

切線縦断面 ×40.

19.‑20 :同上出土の木片,樹種スギCryptomeriajaクonica. 19 :横断面 ×40 ; 20 :放射組織 故の射縦断面 ×280.

18  :平城宮跡出土の木片,樹種マツPinus {Diploxylon) sp.横断面×40.

21,24‑25 :高市郡飛鳥遺跡出土の1本柱,樹種ヒノキ Chamaecyparis abtusa. 21 :横断面 ×40

24 切線縦断面 ×140 ; 25 :放射組織の放射縦断面 ×280

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