【本研究グループの背景と目的】
企業は、法的に法人格を有する一つの単位として 規制されてきたが、これまで認識されているように、
現代の企業は、むしろグループを形成して活動を行っ ているのが現状である。したがって、そのための法 規制も要請され、たとえば会社法では、監査役もし くは監査委員会の子会社調査権、多重代表訴訟(会 社法381条3項、405条2項、847条の2第1項)の ように、部分的ではあるが、法人格を超えた親子会 社間の規制が行われるとともに、金融商品取引法で は連結財務諸表制度が採用されている。しかしなが ら、前述のように、現在の法規制はもともと単体の 企業を対象とすることから、必然的にグループを形 成している企業の法規制のあり方も問題となり、そ のための研究が要求されるところである。少なくと もドイツ法のような企業グループに対する包括的な 法規制が存在しない現状では、研究の余地が残され ているといわざるをえない。そこで、本研究グルー プでは、このような趣旨に鑑みて、多角的な観点か ら企業グループを検討すべきではないかとの認識に いたった次第である。
本研究グループは、当初、研究代表者である久保 寛展のほか、屋宮憲夫、佐野誠、砂田太士、畠田公 明、森淳二朗、李黎明、前越俊之、安井英俊、堀江 亜以子、芳賀真一の計11名で構成し、それぞれの専 門分野から多角的研究を実施することにした。この 目的は、企業一つを取り上げても、そこにはさまざ まな法規制が絡み合っているのが現状であるので、
それぞれのメンバーがそれぞれの研究上の立場から 考察した方が効率的ではないかとの配慮からである。
もっとも、森淳二朗および堀江亜以子は、退職のた
め平成26年3月31日付で脱退したほか、所浩代が新 たに平成26年4月1日から加入した。
【研究成果の総括】
まず、商法(主として会社法、金融商品取引法)
の観点から、研究代表者である久保寛展のほか、畠 田公明、砂田太士、前越俊之がグループ企業法制の 諸問題を研究した。とりわけ久保は、企業結合関係 と倒産法の交錯領域について比較法的観点からの検 討を行うとともに、畠田は、会社の目的と取締役の 義務および責任の観点から考察し、また砂田は、非 公開会社の問題を取り上げて、一人会社法制の研究 を行った。さらに、保険法の観点から、佐野は、傷 害保険に関連する問題を扱うとともに、民事手続法 の観点から、安井は、電力会社が運用する原子力発 電所をめぐる訴訟の主張立証問題を取り上げた。こ れに対して、芳賀は、税法の観点から適格組織再編 に対する課税繰延べの問題を扱うとともに、所は、
障害者雇用促進法の改正に係る諸問題、李は、本 テーマから逸れるとはいえ、中国における女性法学 研究の現状および課題を扱った。
これらの研究成果によって、グループ企業法制を 前提とする、企業ないし企業グループに生起するさ まざまな問題の一端を解明できた点に意義があるよ うに思われる。3年という短い期間ではあったが、
各研究員が得意とする研究領域に特化させて研究に 従事したことで、全体的に一応の成果を公表できた ものと考えている。各研究員のその他の具体的な業 績は、下記に掲げることとするが、一時的な成果に 終わることなく、さらに発展させるためにも、今回 の成果を基礎に、今後の研究につなげていきたい。
― ―28 研究チーム報告
【社会科学研究部】
グループ企業に対する法規制と会社法改正
グループ企業法制(課題番号:124002)
研究期間:平成24年4月1日~平成27年3月31日
研究代表者:久保寛展 研究員:屋宮憲夫、砂田太士、畠田公明、佐野 誠、前越俊之、安井英俊、芳賀真一、李 黎明、
所 浩代(平成26年4月1日加入)、森淳二朗(平成26年3月31日脱退)、 堀江亜以子(平成26年3月31日脱退)
【研究業績】
本研究グループの成果として、以下、各研究員の 業績を掲げる。なお、研究に際しては、各研究員が それぞれ専門とする研究の個性が強い側面があるこ とを否定できない。そのため、各業績は、グループ 企業法制を念頭に置きながらも、間接的であれ、本 研究グループの目的に合致するものであると考えて いる。もっとも、以下の各研究員の業績は、代表的 なものを掲げているにすぎないので、研究員によっ てはさらなる成果を残した者がいるだけでなく、現 在も継続して本研究テーマに従事している者もいる ことを付言しておく。
①久保寛展:「企業結合関係における倒産処理―ド イツにおける企業結合倒産法(Konzerninsolvenzrecht) の制定に向けた近年の軌跡」福岡大学法学論叢58 巻4号941頁以下(2014)、「ドイツ企業再建法に おける企業再建手法としてのデット・エクイティ・
スワップ」福岡大学法学論叢58巻1号255頁以下
(2013)、「ヨーロッパ模範会社法プロジェクトの 基本構想」福岡大学法学論叢57巻1号1頁以下
(2012)
②砂田太士:岩原紳作編『会社法コンメンタール 第9巻 機関』(商事法務・2014)1633頁、117 121頁、195205頁、酒巻俊雄・尾崎安央ほか『会
社法重要判例』(成文堂・2013)8486頁、「一人 会社である非公開会社における問題―最近の判例 を中心に」法と政治(関西学院大学)63巻1号303 頁以下(2012)
③畠田公明:『会社の目的と取締役の義務・責任-CSR をめぐる法的考察』(中央経済社・2014)、「企業 買収の際の企業価値基準による取締役の義務・責 任―募集株式・新株予約権の不正発行を中心とし て」福岡大学法学論叢58巻2号319頁以下(2013)、
「社会的利益を追求する営利会社―アメリカの社 会的営利会社(Benefit Corporation)を中心として」
福岡大学法学論叢57巻4号533頁以下(2013)
④佐野 誠:「米国同時多発テロ後の国際航空保険 市場の動向とAviation Insurance Clauses Group の設 立」空法55号25頁以下(2014)、「人身傷害補償保 険の法的性質と商品性」損害保険研究75巻3号59 頁以下(2013)、「傷害保険における外来性問題―
約款解釈と判例動向」賠償科学39号26頁以下(2013)
⑤前越俊之:西山芳喜(編)『アクチュアル企業法』
(法律文化社・2013)96108頁
⑥安井英俊:「父子関係訴訟における検証協力義務 について」福岡大学法学論叢58巻4号887頁以下
(2014)、「原発訴訟における『主張立証の必要』
について」福岡大学法学論叢57巻4号613頁以下
(2013)
⑦芳賀真一:「適格組織再編に対する課税繰延べは 税制を中立にするか:少ない負担で多くの税収を 得るための条件」福岡大学法学論叢59巻2号247 頁以下(2014)、「企業組織再編成税制における線 引きの問題についての中立性の観点からの試論」
税研162号82頁以下(2012)
⑧所 浩代:「障害者雇用促進法の改正」日本労働 法学会誌124号211頁以下(2014)
⑨李 黎明:馬憶南・李黎明=任学哲(訳)「中国 における女性法学研究の現状および課題」ジェン ダーと法10号25頁以下(2013)
― ―29
【研究成果】
本専門委員会では、財務会計(池田・太田・長束・
中村・渡辺)・管理会計(井上・篠原・飛田)・税務 会計(山内・渡邉)の三領域に分かれて、IFRS時代 の会計に関する諸問題について各研究者が下記の研 究を行った。
池田健一
「IFRSが財務会計に及ぼす影響」という課題につ いて、IFRS6号を中心にいくつかの会計基準の検討 を行った。2013年時点で日本の会計基準にはIFRS6 号のように原油や鉱物資源の採掘業を対象とした会 計基準は存在していない。また、IFRSとのコンバー ジェンスを進める計画もない状況にある。しかしIFRS 6号は暫定的な会計基準として位置づけられており、
今後、フェーズⅡで包括基準化に向けて取り組むこ とが予定されている。そこで、現行のIFRS6号の概 要と課題について検討を行い、続いて、包括基準化 に向けた取り組みの第1歩であるディスカッション・
ペーパー「採掘活動」の概要と課題について検討を 行った。
研究成果は「鉱物資源の探査及び評価に関する一 考察」『福岡大学商学論叢』第58巻第3号(2014年 12月)、「収益認識会計基準に関する一考察」『福岡 大学商学論叢』第59巻第4号(2015年3月)に反映 されている。
太田正博
1.包括利益の表示と計算構造
包括利益計算の構造は財産法的計算構造と損益法 的計算構造に分けることができるが、IFRSをはじめ 世界の会計基準では損益法的計算構造をとっている
ことを明らかにするとともに、その他包括利益と関 わりの深い公正価値測定の論理と技法を追究した。
また、包括利益計算の複式簿記的計算の仕組みを解 明した。
2.リース会計基準の課題と新たな展開
今日の IFRS および我が国会計基準ではリース取 引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・
リース取引に二区分して、ファイナンス・リース取 引にかかる資産および負債のオンバランス化を行っ ている。この方法の問題点を解決すべく、IASBと FASBは共同プロジェクトを立ち上げて、リース会 計基準の改正を計画している。筆者はIASBとFASB の共同プロジェクトの成果である公開草案に検討を 加え、リース会計基準の方向性を明らかにした。
研究成果は「IASB、FASB 公開草案リースの検討」、
『福岡大学商学論叢』第59巻第4号(2015年3月)
に反映されている。
篠原巨司馬
IFRS 時代の会計に関する研究の一環として、IT 企業の管理会計実践に関する研究を行った。具体的 には文献研究と国内 IT 企業への聞き取り調査によ る実態調査を行った。その研究成果の一部として、
2014年9月12日に開催された日本管理会計学会2014 年度全国大会で「ソフトウェア業界における管理会 計の役割」というタイトルで報告を行った。この研 究はソフトウェア業界という国際化された経済社会 ならではの問題に直面する業界であるソフトウェア 業界に焦点を当て、その管理会計システムがどう変 わるかを検討したものである。また、文献研究の成 果として、『福岡大学商学論叢』に「組織における創 造と管理会計の役割―理論的検討とレビュー―」を
― ―30 研究チーム報告
【社会科学研究部】
IFRS 時代における会計に関する研究
IFRS時代の会計に関する研究(課題番号:124006)
研究期間:平成24年4月1日~平成27年3月31日
研究代表者:池田健一(平成24年4月1日~平成26年8月31日)、中村信博(平成26年9月1日~平成27年3月31日)
研究員:井上教之、池田健一、太田正博、篠原巨司馬、飛田 努、長束 航、中村信博、山内 進、渡辺 剛、渡邉宏美
発表した。この研究は、上記のような組織における課 題の一つとして創造性と組織の関係を位置づけ、管 理会計分野における先行研究を検討したものである。
飛田 努
上場企業を中心に IFRS の導入が進む中で、中小 企業には IFRS に準拠した会計基準だけでなく、中 小企業独自の会計基準が作成された。すなわち、中 小企業を対象とした財務報告基準・会計基準は多様 な選択肢が存在するということになる。
そうした中で、中小企業における管理会計実践の 研究として、アンケート調査に基づく中小企業にお ける管理会計情報の利用に関する研究(「中小企業 におけるマネジメント・コントロール・システムの 利用に関する実証分析企業規模と利用状況の関係 性を中心に」『福岡大学商学論叢』59/4,445 471,2015年3月)、あるいは、中小企業の管理会計・
財務管理研究の現状と課題(「中小企業の管理会計・
財務管理研究の現状と課題」『年報財務管理研究』
26,154160,2015年5月)の2編の論文を執筆し た。
とりわけ前者では、従業員数を組織規模の代理変 数として取り扱い、管理会計情報の利用、行動規範 等の明文化された社内ルールの遵守状況、経営理念 の浸透等に差が生まれるかについて実証分析を行っ た。結果として、経営理念の浸透には統計的に有意 な差が見られなかった一方で、会計情報や社内ルー ルの遵守については統計的に有意な差が見られた。
このことは、企業規模に応じて会社組織を管理する ために利用される公式的な情報の利用や受容状況に 相違があることを示唆している。
長束 航
IFRS時代の会計について、特に負債会計のあり方 についての研究を行った。具体的には、まず IFRS 時代の会計においてはそのフレームワークである財 務報告がどのように変化するのかを考察し、「財務 報告の改善」(広瀬義州・藤井秀樹責任編集『体系 現代会計学第6巻 財務報告のフロンティア』中央 経済社、2012年9月、第12章)として出版した。ま た、そのような変化の下で負債の概念または測定が どのように変化していくべきなのかを研究し、前者
の成果として「負債概念と会計情報―概念フレー ムワークの再検討―」(国際会計研究学会第3回西 日本部会(愛知学院大学、2013年3月9日、統一論 題「IFRSの新概念フレームワークと会計情報」)お よび「会計における法的形式と経済的実質―リー ス契約を中心として」(アカウンティング・ワーク ショップ21(早稲田大学、2014年1月11日))とい う2回の研究報告を行うとともに、後者の成果とし て「負債の公正価値測定とゴーイング・コンサーン 監査」(『産業経理』(産業経理協会)、第72巻第4号
(2013年1月))という論文を公表した。
中村信博
「IFRSがキャッシュフロー計算書に及ぼす影響」
という課題について、IASBが、FASB と2004年から 共同体制を立ち上げている MOU(Memorandum of
Understanding)で示された「財務諸表の表示再検討
プロジェクト」に基づいて、IAS 第1号「財務諸表 の表示」の内容見直しに関する具体的検討を行った。
さらに、2008年10月に公表された討議資料(DP)
「財務諸表の表示に関する予備的見解」および2010 年7月1日に両審議会により公表された「財務諸表 の表示に関する新基準の公開草案(ED)」スタッフ・
ドラフトの概要と課題について検討を行った。
キャッシュ・フロー計算書に関しては、純利益を 正味営業キャッシュ・フローに調整する「間接法」
に対して、営業活動に関する現金収支の主なカテゴ リー別に区分する「直接法」の優位性を明らかにし、
具体的研究成果を下記に反映させた。
「資金計算書の変遷に関する再考察」『福岡大学商 学論叢』第59巻第4号(2015年3月)
山内 進
平成24年4月1日から平成27年3月31日の期間に おいて、IFRSの導入が税務会計にどのような影響を もたらすかについての研究を継続してきた。
IFRSは2000年以降、急速に世界に広がり、わが国 の会計基準がその影響を受けるばかりか、付随して 税務も IFRS 時代の到来により、大きな影響を受け ると思われる。そもそも、わが国の税務会計(法人 税法)は、確定決算主義に基づいて、会計で算出さ れた当期純利益に、税務と会計の違いがある部分を
― ―31
加算、減算して計算されている。
これはドイツでも同様である。これは公正妥当な 会計処理の基準に基づいて、税法の所得金額が計算 されるため、公正処理基準と一般にいわれている。
IFRSの導入により、売上計上時期、借入費用の取 得価額への算入、減価償却方法、リース契約、研究 開発費の処理、引当金の債務性、有価証券の分類と 評価が日本の会計に影響を与えると、それに伴い税 務も確定決算主義のもとでは大きな影響を与えると 予想される。
以上の研究成果を、下記著作に反映させた。
山内 進『法人税法要説』税務経理協会、2013 山内 進『相続税法要説』税務経理協会、2014
渡辺 剛
本研究テーマに基づき、特にセグメント会計を中 心に3年間の研究を行った。主な論点は、わが国の セグメント会計基準は IFRS とのコンバージェンス の結果、IFRSのセグメント会計基準とほとんど同じ 基準となったが、はたしてその結果、有用なセグメ ント情報が開示されることになったのか否かである。
研究の結果、わが国においては、IFRSセグメント会 計基準の特徴であるマネジメント・アプローチが有 効に機能していないとの結論を得た。また、それに 関連してわが国におけるセグメント会計の課題を明 らかにした。
研究業績
「わが国におけるセグメント情報開示の現状と課 題」『福岡大学商学論叢』、第59巻第4号(2015年3 月)、375397頁。
「セグメント会計基準の実施後レビューの概要と 課題」『福岡大学商学論叢』、第58巻第4号(2014年 3月)、441468頁。
「わが国におけるセグメント情報開示の実態と課 題」『福岡大学商学論叢』、第58巻第3号(2013年12 月)、363391頁。
渡宏美
2002年から2014年までの IASBとFASB の共同に よる収益認識プロジェクトが日本の収益認識にどの ような影響を与えるか、を明らかにすることが研究 の目的である。そのため、同プロジェクトの動向と
日本の対応を追いながら、日本基準との異同点及び 実務に与える影響を考察した。その結果、IFRS 15 は 財又はサービスの支配を移転する時に収益を認識す ると規定しており、見積の利用がより増すことが見 込まれるため、日本では特に税法との関係で問題が 生じうることがわかった。
第71回日本会計研究学会(2012年9月1日)で 自由論題報告(テーマ:「組織再編における“non- recognition”に関する一考察」)、第93回日本会計研 究学会九州部会(2014年3月29日)で研究報告(テー マ:「収益認識プロジェクトにみる意思決定有用性 の意義」)を行い、研究成果を下記に反映させた。
「金融取引税の予備的考察」『福岡大学商学論叢』
第58巻第4号(2014年3月)
「現物配当の論点整理」『福岡大学商学論叢』第59 巻第4号(2015年3月)
― ―32
序
遷移元素以外の典型元素を用いた有機化学反応は 数多くあるが、本研究においては各元素の特性を活 かした研究を志向している。硫黄、リン、窒素、セ レン、亜鉛などの典型元素を用いた反応や現象につ いて検討した。研究期間内に各研究者が典型元素の それぞれの働きの一部を利用し、研究を進めた。
1.ヒト赤血球膜と12族元素との相互作用 12族元素(Zn,Cd,Hg)のうち、Zn2+ は酵素や 転写因子の活性発現や構造安定化に重要である。一 方、Cd2+やHg2+は生体系に有害である。しかし、
生体膜への12族金属イオンの作用についてはあまり 知られていない。そこで、ヒト赤血球膜とこれら金 属イオンとの相互作用について検討した。Zn2+は赤 血球の凝集を引き起こした。赤血球のプロテアーゼ 処理から、Zn2+がバンド3のループ領域に含まれる ヒスチジンに結合して、凝集を生じていることが判 明した。Cd2+は膜を通過し、スペクトリンからなる 細胞骨格構造を壊した。また、Hg2+はwaterチャン ネルであるアクアポリンに結合し、水の輸送を阻害 することで、加圧による溶血を著しく増大すること がわかった。このように、12族元素はヒト赤血球膜 に対して特異的に作用することが明らかになった。
2.15族元素を用いた反応とその機能
窒素を含む化合物は複素環化合物の中でも生理作 用をもつものが多く、インドールやキノリン誘導体 の研究が盛んに行われている。我々も以前、インドー ル及びキノリン類の簡便な合成法を開発した。その 延長として、ジヒドロキノリン類の合成を検討した。
アセトフェノン類とオルトアセトアミノベンズア ルデヒトとの反応を塩基存在下で行うと1,2ジヒド
ロキノリン誘導体が良い収率で得られた。これをル イス酸存在下で処理するとジベンゾナフチリジン誘 導体が得られた。この化合物をメチル化するとDNA にインターカレーションをし、蛍光が変化すること を確認した。ジヒドロキノリン類は塩化亜鉛などと 反応して、金属錯体も生成する。
パラコート(PQ)はピリジン環を含むビピリジニ ウム塩である。両親媒性アスコルビン酸誘導体6-O- hexanoylascorbic acid(HEA)の NG108 細胞内への 取り込みはアスコルビン酸(AsA)より少ないにも 関わらず、HEA はパラコート(PQ)の細胞毒性に 対しAsAと同程度の抑制作用を示した。PQによる 細胞毒性は細胞内の鉄濃度が影響する。AsAは細胞 内への鉄の取り込みを促進する作用が有る。HEA とAsAの抑制作用の違いは、細胞内の鉄濃度の違い によると考え、細胞に鉄を添加後、細胞内鉄濃度を 測定した。その結果、AsAでは細胞内鉄上昇を確認 できたが、HEAでは確認できなかった。さらに、PQ ラジカルはフェリチンからの鉄の遊離を起こし、細 胞毒性を促進する。HEAはPQラジカル消去におい てAsAより効果的であった。これらのことが、HEA とAsAによるPQ毒性抑制作用の違いではないかと 考えられる。
3.16族元素(硫黄、セレン、テルル)を用い た有機反応
フェンコンの酸素を硫黄で置き換えたチオフェン コンを出発物質として塩化硫黄との反応を行った。
ワーグナーメアワイン転移が進行し分子内で環化し たポリスルフィドが得られた。チオカンファーと塩 化硫黄との反応では同様に反応し分子内ポリスル フィドであるテトラチインが主に生成した。この化 合物を過安息香酸を用いて酸化するとαジスルフィ
― ―33 研究チーム報告
【理工学研究部】
典型元素を用いた機能性物質の創生
典型元素化学研究(課題番号:125003)
研究期間:平成24年4月1日~平成27年3月31日
研究代表者:大熊健太郎 研究員:山口武夫、塩路幸生、田中英彦
ンが立体選択的に得られた。
フェンコンヒドラゾンと臭化セレンとの反応にお いては分子内で環化したポリセレニドは得られず、
2分子で反応したジセレニドが得られる。これは従 来セレノケトンのみが生成したという結果と大きく 異なるものである。フェンコンヒドラゾンと塩化テ ルルとの反応ではジテルリドが主に得られた。この 化合物は高分子反応のラジカル開始剤としても有用 であることが分かった。
4.17族元素を利用した芳香族化合物の合成 オルトトリメチルシリルフェニルトリフレート とフッ素アニオンを用いたベンザインの生成は温和 な条件で進むために多くの研究者が利用している。
我々もこの反応を2001年以来追及してきたが、本研 究においては2ナフトール誘導体とイソクマリンの 合成を行った。トリフレートとフッ化セシウムを用 いてβジケトンと還流下反応させると主生成物とし て4置換2ナフトールが良い収率で得られた。β ジケトンの炭素炭素単結合にベンザインが挿入し て反応が進行する。分子内アルドール反応に引き続 き脱水反応が起こるために一段階で4置換2ナフトー ルが得られる。この化合物を触媒存在下、酸化すれ ば容易にビナフトールが得られた。一方トリフルオ ロメチル基を含むβジケトンを用いて反応を行うと イソクマリンが良い収率で得られた。この反応はβ ジケトンの炭素-炭素単結合にベンザインが挿入し、
分子内環化反応のときにトリフルオロメチル基側の カルボニルに攻撃し、トリフルオロメチルアニオン が脱離して生成することが明らかとなった。
以上のように、典型元素を用いてその化学作用の 一端を検討することができた。典型元素を用いた有 機および生物化学は、多くの研究者が行っているが、
今後もその研究を進め典型元素の新しい機能や作用 を調べていきたい。
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― ―34
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Shioji,Heterocycles,2014, 89, 473-480.
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Nishijima, D. Motomatsu, K. Shioji, K. Okuma, Eur.
J. Org. Chem.2014, 1423-1430.
― ―35
1.はじめに
股関節の治療における寛骨臼回転骨切り術では、
術前後の骨格形態や骨格安定性の評価が不可欠であ る。通常は簡単かつ直接的であるため、単純レント ゲン像を用いたCE 角による評価が多く行われてい る。CE 角による評価は、三次元的な手術を二次元 で計測していることに加え、術前後における骨頭中 心の移動を無視している。また、人為的な作業を含 むので、精度の高い計測が困難である。これらの課 題を改善するとともに、術後の寛骨臼の変位および 回転を求めるため、三次元画像の重ね合わせを自動 で行い、三次元術後評価の可能性を検討するととも に臨床画像の解析を試みた。
2.方 法
CT の撮影条件を一定として、股関節の術前およ び術後約1ケ月の三次元画像を撮影した。三次元画 像は対象となる股関節領域を抽出した後、骨の CT 値で二値化した。2つの画像において、三次元的な 状態を表現するためには、骨の3方向の位置および 3つの回転角が必要となる。本報告における三次元 画像の重ね合わせの原理は、術後の三次元画像に対 して全6変数をそれぞれに変化させ、術前画像に重 ね合わせを行う全検索法である。
実際の解析において、全ての状態に対して臨床評 価に要求される小さなピッチで座標変換を行うこと は、計算時間から困難である。そこで、検索ピッチ を4 mm、4°から開始し、ピッチを半減することで、
0.125mm、0.125°まで検索した。術後の寛骨臼とそれ 以外の股関節部分の位置が術前と異なるので、患側 の寛骨臼部分(以後B部)、B部と大腿骨を除く骨 盤部分(以後A部)の2つの部位に分割して、A部 およびB部に対して重ね合わせを行った。
座標系を設定するために、左右上前腸骨棘と恥骨 結節の重心点を求め、その重心点と左右の大坐骨切 痕の3点を結んだ平面を求めた。座標系は、左右の 大坐骨切痕の中点と重心点を結んだ線をy軸とし、
求めた平面上でy軸に対して垂直下向きの線をz軸、
y軸とz軸に対して垂直内側をx軸とした。また、
臨床で得られたCE 角と比較しやすくするために、
骨頭形状を球と仮定して、骨頭表面の座標から骨頭 中心を求め、原点とした。なお、3変数による姿勢 表現としてロール角φ・ピッチ角θ・ヨウ角Ψを用 いた。
三次元CT 画像による評価は、寛骨臼の変位と回 転の6変数および骨頭中心移動の3変数の計9変数 で行った。また、術前後のCE 角の差と三次元画像 から得られた結果の比較を行った。
3.結果および考察
重ね合わせ処理を行う前のCT 画像においては、
術前後の画像には重なっていない部分が多く見られ る。この重なっていない状態から自動で重ね合わせ を行うことで評価を行う。
術前画像に術後画像を重ね合わせることにより、
骨切り術により寛骨臼B部が移動・回転していた。
特に、術前のB部の位置から、y軸周りに大きく回 転していることが確認された。θは正面像における 骨頭中心回りの回転であり、術前後のCE 角の差に 相当すると考えられる。θは平均で14.4°回転して いることが確認でき、三次元画像から得られた結果 と一致した。
術前後のCE 角の差とCT 画像を用いて得られた 三次元評価の比較では、術前後のCE 角の差と三次 元から得られた値は数度の差が見られた。その原因 として、レントゲン像は術前後で同じ姿勢での撮影
― ―36 研究チーム報告
【理工学研究部】
股関節における三次元術後評価法の開発
股関節三次元術後評価(課題番号:125006)
研究期間:平成24年4月1日~平成27年3月31日
研究代表者:金 孝鎮 研究員:森山茂章、前山 彰、大澤恭子(平成26年4月1日から)、中村好成(平成26年3月31日まで)
が困難であるとともに、手術時の骨頭の移動を考慮 していないためであると考えられる。
骨頭の移動について、本報告の寛骨臼回転骨切り 術では、骨頭を内側方向に移動させることを意図し ているが、全例で骨頭が内側方向(Xの方向が正)
へ移動していることが確認された。レントゲン像を 用いた計測では骨頭の移動距離を求めることは困難 であるため評価は行われていないが、三次元の計測 では、容易に求めることが可能であった。
以上より、本手法ではCT 画像を重ね合わせるこ とから、手術時に変位した寛骨臼の3方向の移動と 3軸回りの回転角の計測を従来のレントゲン像を使 用した評価より正確に評価できる。また、これらの 処理を自動的に行うことが可能であり、寛骨臼回転 骨切り術の評価の精度を向上できたと考えられる。
4.おわりに
三次元CT 画像を使用した寛骨臼回転骨切り術の 術後評価において、提案した手法は、従来より用い られている術前後のCE 角の差による評価と比較し て、正確な評価が可能であることが確認された。ま た、従来の評価法では求めることが困難であった骨 頭の移動距離も求めることができた。本術式では、
術前後で骨頭中心が移動するため、座標系の設定な ど改善する必要はあるが、本手法は有効な評価法で あると考えられる。
― ―37
本研究の目的は、血圧測定の方法が新人看護師の 技術的能力の成長に及ぼす影響を明らかにして、看 護基礎教育、看護卒後教育での一貫した看護実践力 獲得支援プログラムの構築を図ることにある。本研 究の意義は1.機器を活用して正確な測定によって、
病に立ち向かう人々に寄り添い、ひとの知覚を基盤 とした技術的能力の獲得により、ヒューマンケアリ ングの一員としての新人看護師の成長支援をはかる、
2.看護基礎教育と看護卒後教育との教育の一貫性・
継続性をはかる、である。
上記の課題・目的の下で行った調査・検討の内容 を以下に述べる。
1.臨床看護師の血圧測定行動とヒューマンケ ア行動の関連
臨床看護師の血圧測定行動とヒューマンケア行動 の関連を明らかにするため自記式の質問紙調査を 行った。調査の時期は2012年12月、対象はA大学病 院の看護師785名。調査内容は、基本的属性、血圧 測定に関する質問16項目、血圧測定行動自己評価14 項目、日本版ヒューマンケア行動調査票(竹尾 2005)
29項目の合計59項目とした。基本統計量、t検定、
相関分析により分析した。
結果、回収率は90.2%(708部)、有効回答率は79.5%
(624部)であった。看護基礎教育では水銀血圧計を 91.3%が使用し、臨床では上腕式電子血圧計を86.4%
が使用していた。血圧測定行動の自己評価は、「腕 帯の選択」「腕帯の圧迫の強さ」「巻き方」が高く、
「血圧計の点検」「袖をたくし上げる」「聴診法を併 用」は低かった。ヒューマンケア行動得点では、相
手の人権、意見、人間性を尊重する理解的態度に関 する12項目が高く、相手にとっての意味や価値、ニー ズなど内面的な理解に関する4項目は低かった。
ヒューマンケア行動得点の高群と低群に分けて血 圧測定行動への影響をみた。「患者の状態にあった 血圧計の選択」「測定前に血圧変動因子を取り除く」
「腕帯を心臓と同じ高さに置く」「上腕動脈を均等に 圧迫する」「腕帯を巻く圧迫の強さを考える」「加圧・
減圧は患者に苦痛を与えない」「チェストピースは 掌で温める」の8項目で高群が有意に高かった(p<
0 . 001)。血圧測定行動とヒューマンケア行動の相関
分析では、「測定前に血圧変動因子を取り除く」「上 腕動脈を均等に圧迫する」はヒューマンケア行動の
「自分と同じくらい相手を大切にする」と弱い相関
(r=0.220,r=0.217)が見られた。「加圧・減圧は苦 痛を与えない」は「相手の話を理解する」「相手の 人間性を尊重する」と弱い相関(r=0.236,r=0.213)
が見られた。さらに、「チェストピースを温める」
は「相手にとっての価値・意味を理解する」「相手 を癒す目的で手を当てたり近寄ったりする」と弱い 相関(r=0.215)が見られた。
調査結果から以下のことが推察された。ヒューマ ンケア行動得点の高群は、基本原則に則った血圧測 定を心がけていた。さらに「腕帯の均等な圧迫」な どの基本原則が、相手を大切に思う気持ちと関連し、
「加圧・減圧は苦痛を与えない」など負担を少なく する行為が、相手を尊重する態度や意図的に患者に 触れる行為と関連することが示唆された。看護基礎 教育では、基本原則としての血圧測定技術を修得す る教育内容と、ヒューマンケア行動を加味したプロ
― ―38 研究チーム報告
【生命科学研究部】
新人看護師の看護実践力獲得支援プログラムの構築
看護技術教育研究チーム(課題番号:126007)
研究期間:平成24年4月1日~平成27年3月31日
研究代表者:原田広枝 研究員:中嶋恵美子(平成25年3月31日まで)、吉川千鶴子、須崎しのぶ(平成25年3月31日まで)、 山下千波(平成25年3月31日まで)、宗正みゆき(平成25年4月1日から)、
坂梨左織(平成25年4月1日から)、青木芳恵(平成25年4月1日から)、
田島康子(平成25年4月1日から)、高谷嘉枝(平成25年1月31日~平成26年3月31日まで)
グラムが必要と考えられた。本調査結果は第34回日 本看護科学学会学術集会(吉川他、2014)に発表した。
2.看護基礎教育における血圧測定に関する課題 血圧測定に関する教育プログラム構築に向けて看 護基礎教育における教育上の課題を明らかにするた めにインタビューによる質的記述的調査を行った。
本研究は教育プログラム構築に向けて教育上の課題 を明らかにすることを目指すため、課題を同定する 過程において「医学教育プログラム開発」の問題の 同定から学習者のニーズ評価の過程を参考とした。
調査の時期は2013年9月で、対象はA大学病院に勤 務する新人看護師4名、半構成的質問によるグルー プインタビュー法を行った。分析は、教育上の課題 に関する内容のデータを取り出しその文脈から吟味 し意味を把握した。教育プログラム構築の視点から 教育上の課題と学生が何をどのように学べばよいか について解釈し記述した。複数の看護研究者らと検 討し、データの意味の類似性と相違性から整理して 教育上の課題を命名した。倫理的配慮として、福岡 大学臨床研究審査委員会の承認を受けた。対象者に 研究の趣旨や方法を口頭および文書によって十分説 明し書面で同意を得て行った。
結果、インタビュー所要時間は1時間8分。対象 者全員が外科系の病棟に勤務し、日常的に使用する 血圧計は上腕式電子血圧計3名、水銀血圧計の併用 1名であった。看護基礎教育上の課題には〈血圧に 関する生体機能の理解〉〈バイタルサイン測定の目的 の理解〉〈血圧測定方法の基本的原理の理解〉〈電子血 圧計の原理と特性の理解〉〈血圧測定に関する科学的
判断に基づく援助〉〈血圧測定を受ける患者の心情に 配慮した関わり方〉〈血圧測定時に患者に触れること の意味の理解〉の7つが見出された。
本研究で明らかになった課題は看護基礎教育で修 得すべき内容であり、基礎看護学での講義・演習だけ でなく各臨地実習と連動させながら繰り返し段階的 に教授するなど新たな教育方法の必要性が示された。
また〈血圧測定を受ける患者の心情に配慮した関わ り方〉や〈血圧測定時に患者に触れることの意味の理 解〉は看護者と患者の相互作用によって浮上する課 題である。これに対して教員がリフレクションの価 値を認識するとともに、学生が実習での体験をもとに 人にどう意識を向けどのように関わるかや、その基 盤となる人間存在のとらえ方に気づくことができる 教育の必要性が示唆された。本調査結果は第34回日 本看護科学学会学術集会(坂梨他、2014)に発表した。
3.看護技術教育における血圧測定の教育プロ グラム開発
看護技術教育における血圧測定の教育プログラム 開発を、過去2年間の研究成果を踏まえて、研究者 による討議と文献の検討を行った。メンバーは5名 で看護職経験20年から45年の基礎看護学領域教員で ある。プログラム開発は Kern, D. E. らの「医学教育 プログラム開発 6段階アプローチによる学習と評 価の一体化」を参考にして、血圧測定に関する看護 基礎教育上の教育目的、一般目標、個別目標を設定 するとともに目標達成に向けた教育方略を検討した。
表1に教育目的、一般目標を、表2に個別目標の分 類と方略を示した。
― ―39
表1 バイタルサイン測定(血圧測定技術)の教育目的、一般目標 1)教育目的
卒業時の到達度として血圧測定の原理、原則を理解し、患者の状態に応じて適切な方法で正確に測定する、また、一般状態を把握 することにより、患者の心身の状態を総合的に判断し、適切に対処する能力を養うと同時に、看護実践において必要な基本的態度を 身につける。
2)一般目標
バイタルサインにおける血圧の意義を理解することができる
血圧に関する基本的知識(血圧に関連した生体機能、測定値の正常値・異常値、血圧の変動要因とその根拠)について理解する ことができる
血圧測定の原理、原則を理解することができる
血圧測定の機種の特徴を理解し、適切に用いることができる 血圧測定の原理、原則を踏まえて正確な測定値を得ることができる 測定値に関連して一般状態を把握することができる
血圧測定値と一般状態を総合的に判断し、日常生活上の留意点を把握することができる 科学的判断に基づいて患者の状態に応じた援助方法を選択できる
測定を受ける患者を尊重し、血圧測定を通して患者に触れることの意義を理解し、心身に配慮して関わることができる
バイタルサイン(血圧測定)に関してリフレク ションを通して認識を深め、学生の自己成長を促す 教育方略を、認知領域、精神運動領域、一般目標の の情、意の領域毎の個別目標の到達に向けて、
卒業までの教育プロセスやアウトカムを考慮し教育 方略を検討した(表3)。今後、教育方略に基づい た教育プログラムを作成し、実証研究を行いプログ ラムの精緻化を図ることが課題である。
― ―40
表2 バイタルサイン(血圧測定)の教育に関する個別目標の分類と方略 個 別 目 標 レ ベ ル
個別目標の種類
学 習 者 タキソノミー
①バイタルサイン(体温、呼吸、脈拍、血圧、意識レベル)を把握する上で関連した身体機能を列挙することがで きる
②バイタルサイン測定の血圧の意義、血圧測定の原理、原則、その科学的根拠、生理的影響要因を列挙できる
③血圧測定の機種の特徴、適応、留意点について述べることができる
④対象の体位、体型、障害に応じた測定方法について要点を列挙することができる
⑤発達段階別測定値の正常、異常値、生理的影響要因との関連について分析し、記述できる
⑥事例を活用して測定結果を料学的根拠に基づいて分析し、適切な対処を選択できる 認知領域
(知識・理解
・応用)
学 習 者
①体験を通して看護の対象を知る重要な手段として実感できる
②対象の健康レベルに応じて、血圧測定を意識して用いることができる
③対象の状態に応じて血圧測定の意味づけができる
④測定機種にかかわらず正確な測定値を得るための血圧測定の原理・原則を意識して測定できる
⑤対象者の体位や体型、障害、病状に応じて血圧測定時、対象者の安全・安楽を気遣い、注意を払うことができる
⑥測定時に対象者に触れることの意味付けができる 情意領域
(受容・
価値づけ)
①映像教材や自己チェックリストを用いて、バイタルサイン測定時の原理、原則に従い、様々な測定機種を使って 正確に測定できる
②測定結果に関連して一般状態の観察を実施できる
③測定時、対象者の体調や心情を把握するために五感やコミュニケーション技術を適切に用いることができる
④測定時、対象者の安全・安楽を気遣い、配慮する(言動、しぐさ)ことができる
⑤バイタルサインの技術に関する看護実践能力について強み、弱みを自己評価できる 精神運動領域
(スキル・
コンピテンス)
①バイタルサイン測定を原理・原則に基づいて振り返り、基本技術の正確性を自己チェックすることができる
②想定した患者のバイタルサインの測定及び一般状態の観察の適切性を自己または他者チェックすることができる
③バイタルサイン測定時に対象者の体調や心情を把握するための五感やコミュニケーション技術の適切な用い方に ついて自己および他者評価を受けて修正することができる
④バイタルサインの測定場面において対象者への気遣い、配慮について学生間で評価を受けて態度に変化がみられ るようになる
⑤バイタルサインの技術に関する看護実践能力について自己評価し、弱みを強化し、新たな課題に取り組むことが できる
精神運動領域
(行動・
パフォーマンス)
①実習前にバイタルサインの自己学習
②視聴覚教材、または教員のロールモデルをもとに学生間で測定の原理・原則に基づいて技術チェックを行う
③実習中は実習記録、実習態度を通して学習者の目標達成度を評価
④実習終了後、体験事例を取り上げ、学生一人で振り返り記述する
⑤バイタルサイン測定の場面をグループで振り返り、看護の意味、看護者として望ましい態度についてグループディ スカッションを行う
⑥各自実習レポートで考察し、課題を明確にする
⑦総合実習前に2年次生のバイタルサイン測定の技術指導を行い、 教えあう中で自分なりに技術の意味づけ、 価値 づけ、課題を明確にし、自分なりの目標を設定し、実施する
⑧卒業前に、さまざまな機種を用いて血圧測定を行い、測定の原理・原則、観察の基本、コミュニケーションの基 本、看護におけるケアリングの重要性を各自最終レポートにまとめる
*2年次から4年次まで基礎看護学実習、領域実習、総合実習、卒業前の就職支援に参加し、実習前後のリフレク ションを通してタキソノミー4領域の目標を達成する
プロセス
卒業までに
・バイタルサイン測定の意義、測定の原理・原則を理解し、バイタルサインの測定技術、観察技術、コミュニケー ション技術を活用して情報を収集することができる。その際、対象者を尊重し、療養生活における安全・安楽を 気遣い、配慮することができる。得た情報を総合的、科学的に分析し、最適な対処方法を選択することができる アウトカム
― ―41
表3 バイタルサイン(血圧測定)の個別目標到達のための教育方略 卒 業 時 到 達 目 標
タ キ ソ ノ ミ ー 別 個 人 目 標 達 成 の た め の 教 育 方 法
認 知 領 域
(知識・理解・応用)
〈実習前〉
・視聴覚教材を閲覧
・バイタルサイン測定の目的、原理・原則、基本技術について自己学習・チェックリストの作成
・心臓・肺の構造・機能・体温中枢についての自己学習
・発達段階別測定値の正常・異常、生理的影響要因についての自己学習
・測定機種の特徴、適応、留意点について自己学習
・患者を想定した模擬患者の測定値、生理的要因の関連について各自分析後、グループで討論
・分析に基づいて適切な対処についてグループで討議 〈実習中後〉
・実習記録(看護過程展開の記録)の記述の指導(目標①②③④⑤⑥)
〈総合実習前中後〉
・2年生の技術試験前に技術指導(バイタルサイン測定に関する基礎知識の自己学習)
・実習記録(看護過程展開の記録)の記述の指導(目標①②③④⑤⑥)
・実習での体験事例、困難事例を取り上げてバイタルサインの測定結果と収集した情報を総合的に分析し、 最適な対処について グループディスカッション
〈卒業前〉
・測定機種の特徴、適応、留意点について自己学習
情 意 領 域
(受容・価値づけ)
〈実習前・中〉
・ロールモデルの提示(教員・実習指導者・映像教材)
・自己練習をグループで振り返りディスカッション
・日々の実施記録の中で測定結果のみならず、一般状態の観察結果や関わりに対する反応を捉えることの大切さに気付けるよう に指導
〈実習後〉
・まず、学生個々に実習体験を振り返り、グループでディスカッション
・ディスカッションを踏まえて看護場面を再現し、実演、録画、グループで討論し評価
・レポート提出(バイタルサインの測定場面を通してバイタルサインの意味づけ、 その場の関わりや看護の意味を考えられるよ う指導)
〈総合実習前中後〉
・実習での体験事例、困難事例を取り上げてバイタルサインの測定場面を再現し、対象者の安全・安楽への気遣い、配慮にどれ ほど注意を払っているかをグループで評価
・対象理解においてバイタルサインの測定機会の重要性、対人関係を築く上で、気遣い、配慮の大切さについてグループディス カッション
〈卒業前〉
・様々な測定機種を用いて測定し、測定の原理・原則、関わりや看護の違い、触れることの意義についてグループでディスカッ ション→レポート提出
精 神 運 動 領 域
(スキル・コンピテンス/行動・パフォーマンス)
〈実習前・中〉
・ロールモデルの提示(教員・実習指導者・映像教材)
・患者を想定した模擬体験(ロールプレイ)
・自分のバイタルサイン測定場面を録画し、自己チェック
・実習体験をもとにグループで振り返り、ディスカッション→学生各自で技術の強み、弱みの自己評価
・実習中、バイタルサインの測定結果、一般状態の観察結果や関わりについて対象者の反応から技術の正確性、安全・安楽の自 他評価
〈実習後〉
・学生個々に実習体験を振り返り、グループでディスカッション
・レポート提出(バイタルサインの測定場面、情報収集場面を振り返り、バイタルサインの技術、観察技術、コミュニケーショ ン技術、ケアリング行動を自己評価し、課題を見出せるよう指導)
〈総合実習前中後〉
・2年生のバイタルサインの技術試験前に技術指導
・技術指導を振り返り、自己の技術及び看護者としての態度の課題を見出す。実習に向けて目標を立てて臨む
・実習でのバイタルサインの測定場面を再現し、バイタルサイン技術、観察技術、コミュニケーション技術、対象者の安全・安 楽への気遣い、配慮についてグループで評価
〈卒業前〉
・様々な測定機種を用いて測定し、測定の原理・原則、関わりや看護の違いについてグループでディスカッション→レポート提 出(技術について強み、弱みを自己評価し、課題を見出し、新たな目標設定をする
【研究業績】
1.吉川千鶴子・原田広枝・宗正みゆき・坂梨左織・
青木芳恵・田島康子,血圧測定に関する教育プ ログラム構築に向けた教育上の課題―血圧測 定行動とヒューマンケア行動の関連―,第34回 日本看護科学学会学術集会,2014.
2.坂梨左織・田島康子・青木芳惠・宗正みゆき・
吉川千鶴子・原田広枝,血圧測定に関する教育 プログラム構築に向けた看護基礎教育上の課題 ,第34回日本看護科学学会学術集会,2014.
― ―42
[研究成果]
はじめに
冠動脈疾患の発症・動脈硬化進展にはコレステロー ルの高値や慢性炎症が重要な役割を果たしている。
我々は LDL コレステロール(LDL-C)や炎症マー カーに着目し、冠動脈疾患や動脈硬化に関与する因 子を検討した。
1.炎症マーカー血中ペントラキシン3濃度と冠動 脈不安定プラークとの関連性についての検討1)
【背景】
冠動脈疾患や動脈硬化において、慢性炎症が重要 な役割を果たしており、近年、種々の炎症マーカー を診断・治療に活用する研究がさかんに行われてい る。ペントラキシン3(pentraxin3: PTX3)は炎症マー カーであるC反応性蛋白(C-reactive protein: CRP)
と似た構造を持つ蛋白で、冠動脈疾患の予後やプ ラーク不安定化の新しいマーカーとして注目されて いる。
本研究では冠動脈疾患患者を対象として、血中PTX3 濃度と血管内超音波(Intravascular Ultrasound: IVUS) により評価した冠動脈プラークとの関連性を検討し た。
【方法】
対象は IVUSを使用して冠動脈形成術を受けた118 名の冠動脈疾患患者。
プラーク組織性状を詳細に評価できる IVUSを使 用して、冠動脈非責任病変のプラークを評価した。
不安定プラークの特徴の一つである脂質性プラーク 体積、安定プラークの特徴の一つである繊維性プラー ク体積を計測した。血中PTX3濃度を測定し、冠動 脈プラーク組織性状との関連性を検討した。
【結果】
対象患者全体での検討では、血中PTX3濃度と冠 動脈プラークとの間に有意な相関は認めなかった。
同様に、高感度CRPと冠動脈プラークの関連性は認 めなかった。
しかし、HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)
非投与患者に限ると、血中PTX3 濃度は不安定プラー クの特徴の一つである脂質性プラーク体積と有意な 正相関、安定プラークの特徴の一つである線維性プ ラーク体積と有意な逆相関を認めた(図1)。
【考察】
高感度CRPは心疾患の予後予測因子として数多く の報告があるが、炎症性刺激に反応して主に肝で産 生され、多くの疾患により非特異的に上昇するため、
動脈硬化性疾患の指標としてはやや有用性に劣る。
PTX3 は血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、単球/マク ロファージなどから産生され、より局所の動脈硬化・
炎症を反映している。本研究ではスタチン非投与患 者に限定して検討した結果、血中PTX3濃度は脂質 性プラーク体積と正相関しており、血中PTX3濃度 が高い患者では冠動脈不安定プラークが多く存在す ることが明らかとなった。
― ―43 研究チーム報告
【生命科学研究部】
コレステロール逆転送と動脈硬化
コレステロール逆転送系研究(課題番号:126009)
研究期間:平成24年4月1日~平成27年3月31日
研究代表者:岩田 敦 研究員:河村 彰、瀬川波子、池 周而
図1 血中 PTX3濃度と冠動脈プラークの関連性
なお、スタチンのプラーク安定化作用や抗炎症効 果により、スタチン投与群ではPTX3 と不安定プラー クの関連性が消失したと推測された。
【結論】
血中PTX3濃度は不安定プラークの存在を予測す る有用なバイオマーカーであることが示唆された。
2. 透析患者におけるLDLコレステロール(LDL-C) とPercutaneous Coronary Intervention(PCI)後 の心血管イベントの関連性についての検討2)
【背景】
透析患者に対するPCIは、非透析患者と比較して 主要心血管イベント:Major Adverse Cardiovascular Event(MACE)の発症率が高く、治療成績が不良で ある。
また、透析患者に合併する脂質異常症は中性脂肪
(TG)が上昇し、低比重リポ蛋白コレステロール
(HDL-C)が低下するが、LDL-C は比較的高値を示 さない。スタチンによる LDL-C 低下療法の心血管 イベント抑制効果は確立されているが、透析患者に おける効果は未だ不明である。
そこで本研究では、PCI を受けた透析患者におい
てLDL-Cなどの脂質プロフィールとMACE 発生と
の関連性について検討した。
【方法】
対象は維持透析を受けているPCIを施行された冠 動脈疾患患者142名。PCI 後の MACE 発生の有無お よび各種臨床パラメーターを調査した。追跡期間は 平均300日間、外来及び電話にて心血管イベント発 生の有無などを確認した。
【結果】
MACE(+)群の追跡時のHDL-C、総コレステロー ルはMACE(-)群と比較して有意に低値であった が、LDL-C、TG は両群間で差はなかった。多変量 解析ではBMI、インスリンの使用、冠動脈バイパス 術の既往が MACE 発生に強く関与し、LDL-C は
MACE 発症の独立した予測因子ではなかった(表1)。
【考察】
透析患者におけるスタチンによる脂質低下療法の 心血管イベント抑制効果は確立されていないが、本
研究でもLDL-Cが低い患者とMACE との関連性は
認められなかった。透析患者では LDL-C 値は高値
となりにくい反面、LDL-Cが長時間血中に滞在し、
酸化・変性を受けやすい。つまり動脈硬化惹起性が
強い変性 LDL-C が血中に多く存在している可能性
がある。透析患者においてはスタチンにより LDL- C値を下げるだけではなく、LDL-Cの質を改善する 新たな治療が必要なのかもしれない。
本研究ではインスリンの使用、BMI が MACE 発 症の独立した予測因子であったことから、体重の管 理や糖尿病合併例での治療薬の選択も透析患者の予 後改善のために重要である。また、透析患者では慢 性炎症や酸化ストレスが増大しており、この点に着 目した治療も必要である。
【結論】
透析患者の予後改善のためには、スタチンによる 脂質低下療法だけでは不十分である。体重管理や糖 尿病治療、変性LDL、HDL-C、炎症・酸化ストレス などを標的とした包括的な治療が必要である。
[研究業績]
学術論文
1.Iwata A, Miura S, Tanaka T, Ike A, Sugihara M, Nishikawa H, Kawamura A, Saku K. Plasma pentraxin-3 levels are associated with coronary plaque vulnerability and are decreased by statin. Coron Artery Dis. 2012;23(5):315-21.
2.Nagata I, Ike A, Nishikawa H, Zhang B, Sugihara M, Mori K, Iwata A, Kawamura A, Shirai K, Uehara Y, Ogawa M, Miura S, Saku K. Associations between lipid profiles and MACE in hemodialysis patients with percutaneous coronary intervention: from the FU-Registry. J Cardiol. 2015;65(2):105-11.
― ―44
表1 透析患者のMACE 発症の独立した予測因子 MACE(+)
オッズ比(95%CI) 因 子
0.83(0.69-0.99)* BMI
0.99(0.95-1.03) 左室区出率
0.84(0.63-1.12) 尿 酸
0.99(0.98-1.01) LDL-C
3.54(1.02-13.43)* バイパス術の既往
1.76(0.65-4.81) 心筋梗塞の既往
3.37(1.18-10.25)* インスリンの使用
*P<0.05