静岡大学教育学部研究報告 (教科教育学篇)第28号 (1997.3)201〜214
現 代 遮、し こ と ば"論
一― その教育的意義 と楽理的検証 一一
Contemporary fushi-kotoba: Analysing their educational significance in the light of musical principles
武 田 道 子
Michiko TAKEDA
(平成8年10月7日 受理
)
I.序 論
陽の旋法 を主軸 とす る日本旋律 は、 日本語 が もつ アクセ ン トや抑揚をそのままに したいわ ゆ る ふ しことば
"の
次元 の ものを母体 として誕生〜進展 した ものであ る。つ ま り、 くず れ る こ とのない強固な基盤 の上 に立 った もの と言 うことがで きる。そ して、 この ふ しことば
"の
発想 は、天衣無縫、闊達 自由の幼少期 において早 くも顕著 で あ り、遊 びの中や生活の中で、時 として呼びかけことばであったり、はや しことばであった り……その他、実 に何 ともかわい らしい多様 な形態 で即興的 に発現す るものであ る。
<事例
>
赤 ちゃん""…
・お人形遊 びでのあや しことば 譜1
間 (先生) 答 (子ど も)
注
)符
頭 を ×印に した子 どもの答 の部分 は、たどたど しく不確か とも思え る即興表現 で も、その気分 の所在を汲んで、教師において階名 に翻訳、採譜 した ものであ る。さて、主題 に迫 るべ く、論証 の枠組 みを、大 まかな流れにおいて次 の様 に構想 したいと思 う。
★
時代性の考察
・ 題材の側面
・ 音楽的要素の側面
③
一
★
教育的意義の考察
・
現代性〜 創造性
"
<0伝
統性>
★
指導に生かす教材 分析
・
音楽学的考察
↓
・
教育学的考察
Ⅱ
応、しことば
"の
実験事例 にみる『 現代性』ふ しことば
"は
、今の世 の中にあ って果 して どうなのか一一 これは、真 っ先 に心配 され る ことである。2つの視点か ら考察を試みたい。1。
題材内容 の側面か ら 譜2すむてまるみえすし てまるみえJる みえJるみえすヘンでするみえ
これ は、教育実習生 が子 どもか ら受 けたすべ り台遊 びでの か らか い ことば"であ る。(平
成6年 6月
於、静岡市
F幼
稚園)今 のいたず らっこの姿 がそのままの素材 であ り、はみ出 した部分 の指導 が残 るの も当然 で あ る。但 し、 この即興性 に於 て は、 もうこの上 な く素晴 らしい もの と言わねばな らない。
ふ し
ことば
"そ
の ものは健在 である。で は、 この現代 っ子 の傾 向を示す模式的なかわい らしい作例か ら幾つかを取 り上 げてみよう。
譜3
①
「ロケット」
口を 卜錢‐シ
ω留シタ
tr
(特に、後半部分)
②
「手 りけん」
リリリ
注
)男
の子に興味津々の素材③
「 セーラームーン」
セ″:″ムーシ スーノ■ で
lt
受夕 l多注) 人気の「 セーラームーン」〜奇数小節の自由な変則 フレーズ
④
「かいじゅうごっこ」
″
.
注
)愉
快 で奇抜 な擬音・ 態表現¢
︶ レ ン
↓
︶
いむで°望ψ
″`もヽめ
'3ち
=
注
)か
わいらしい おみず こうげき"の
発想現代 ふ しこと
│や
論⑤
「パルちゃん」
Etatbti<( rg {!x
注
)パ
ルちゃん はエスパ ルスのマス コッ ト人形〜なお、数多 い事例を題材 その ものを視点 にみる限 り、
の は当然 の ことである。
例 えば、次 のよ うな例 がある。
「 か くれんぼ」・ 「 おばけ」0「買 い もの ごっこ」0 0「たなばた」0「カルタとり」等 々
大好 き
"
今 も昔 も変 らない共通部分 が出て くる
みビbtソ〈
r
夢ノンス「 ままごと」・「雨」0「ひなまつり」
しか し又、 ここにおいて も、素材的 には同 じ様であ って も、今の ものは昔 の ものに比 べて、
その姿態 を大 き く変 えて いることに も気づ くのである。
譜 4
① 昔の ふ しことば
"
今の ふ しことば
"
tふ しことば
"
Lふ しことば
"
さて、以上 にお いて は、次項「音楽的要素 の側面か ら」での指摘事項 (特に リズ ム、速度 、 強弱の観点)に深 くかかわ りをもつ ものと考え られる。全 くのところ いちぬけた
にぬけた"・
まま ごと しま しょう
"の
時世 とは隔絶 の感があるのである。2.音楽的要素 の側面 か ら
ふ しことば
"に
み る現代性 の反映 は、構成要素 の リズム、表現要素 の速度・ 強弱 に於 て極 めて顕著である。教育現場 に一般的 な分類の別 に考察を試み ると、結果の要点 を概略次 の よ う にまとめることがで きる。☆
音楽 の構成要素 の面か ら
*
リズム……現代的、 しゃれた リズム表現 の片影を抽 出す ることがで きる。*
旋律 …… この側面 は、やは り伝統性 の本質部分(「
Ⅲ ふ しことば"を
起点 とす る音楽指導 の意義」の「 1民族音楽 と しての伝統性尊重 の立場か ら」に関連
)そ
の もので あ っ て、現代性 が云 々の域 には至 っていない。DurOMollの 世界 との調和・ 融和 の ことは、 もうしば らく先 の ことになろ う。 この こ の
の 土日 今 F I I I L
②
にァ むし了・む´げギじで° ど
とは、今後大 きな論議を呼ぶ もの として、極 めて興味深 い問題 であ る。
*
和声…・:・
特記事項 な し。★
音楽 の表現要素 の面か ら
*
速度 ……現代 の遊 びや生活内容 のはやいテ ンポを見事 に実写 している傾向が強 い。♪いちぬけた
にぬけた♪の時世で はないということである。
*
強弱……感情・ 気分の表現を強弱 に委 ねた側面 が色濃 くでて いる。*
音色……今回の場合、主題 の考察 には全 く関係のない要素 である。以上、時代 の変遷 に伴 な う子 どもたちの遊 びの変容が、 ふ しことば
"を
かわ い ら しく変貌 させた もの と思惟 され るのである。その要素 の側面での影響 は、 リズム・ 速度・ 強弱の3者
に 集約 され ると言 えよ う。本節考察への作例資料 に例 えば次の様 な ものがあ った。
譜5
①
リズム
「先生のおさいふ」 注)シ ンコペ ー シ ョ
ンの リズム
「 サ ッカー」 注
) 3連
符の リズム、シンコペーショ ンの リズム「つみき」
あ ―わ こわれ
,ヤ
っ た「 かい じゅうごっこ」 譜3の④……注
) 3連
符の リズム②
旋律 (調性)
事例 は100%と言 ってよい位に陽旋 (応用
)の
ものが圧倒的で、ものは、歌遊 びの中に現われた次の 1例 だけであった。
譜
6
「 うさぎ」(みんなで)
(ひとりで)
注
)半
終止音 シでの歌 い終わ りである。強弱
「 うりやさん」
♪いらっしゃい
いらっしゃい
③
注)ア ウフ タク トの
歌 い出 し、3連符 の リズ ム
昔 に変 らな い。陰旋 の
だ に み で
いらっしゃ―い♪
注
)強
い調子現代 ふ しこと
1潔
論④
速度
「なめくじ」
注
)は
やいテ ンポ、ア ッチ ュ レラン ドの要素Ⅲ
応、しことば
"を
起点 とする音楽指導の意義1。
民族音楽 としての伝統性尊重の立場か らふ し
"と
も解 され、同時 に当然 ことば"で
もある ふ しことば"こ
そは、強靭 な民族性に根 ざ した誇 り高 い伝統的文化財 の前芽であ り、 この意味で実 に貴重 な地歩 を占め る ものであ ると思 われ る。
このあた りの態様 を、幼児期〜児童期前半 の発達過程 の中で押 さえてみ ると、模式的 に次 の 様 に眺 め ることがで きる。
以上 において、その考察を次のようにまとめることができる。
: 歌唱0創作の表現活動、及び鑑賞活動 において、応用陽旋のものが圧倒的に主流である。
: 正格陽旋のものは、鑑賞活動 に於て多少の扱いがある。
: 陰旋法 は、歌唱0鑑賞活動において扱われる。
以上、日本伝統の音楽を長い歴史の研磨による素晴 らしい光茫の宝石であるとすれば、今回 の ふ しことば
"こ
そがその原石 !… …の意義づけとなるであろう。極言すれば、「 ふ しことば
"は
、日本旋律 (陽)に
同体である。」と言えよう。2。
創造性を指向す る立場か らふ しことば
"の
次元のものは、紛れ もな く生れるべ くして生れたものであって、決 して考 え込んで作 られたものではない。そこで、この夏、爽やかな志賀高原の山歩 きで拾 った筆者の気に行 った微笑ま しい情景〜 そ
し お
Jけレ おニリレお
.ι30じ おι お
Jノじお
用陽旋 (わらべ うた)
作者 は東京学芸大学付属小金井小学校3年児童 筆者による実験授業研究 (文部省実験学校資料作 成
)の
中で採譜 したもの‑1963年卜 らお メさ
j
ま ′(あ した
本
旋
法 ふ し
こ と
ば
正格陽旋 (民謡)
実写 をひ とつ置 いてみ る。
は じゃぎまわ る小 さい子 ども達3人と、まだ若 い夫婦 の軽装の家族づれが、私 たちの後 に 続 いている。
山歩 きを励 ま し合 うみんなの掛 け声が聞 こえて くる。アクセ ン ト・ 抑揚 の きいたちゃん と した2拍子 の リズム唱だ。
譜 8
お母 さんが仲間入 りを した。お父さん も参加 した。そ して、みんな入 り乱れての賑やかな 即興の応酬である。(途切れると、また♪がんばれ
がんばれ……♪に戻 る。)
.譜10子 ど も
1
子 ど も3= H 障
〔ゴ率
ニル
︶
2 4
懸 暉 挙 ll‐
4を写 ・ 誉 〔 イ
腱
みん な.
麒 鰊 び雄 形︶ 移姑 び
y む
′ J l
挙1畝 導麻
t
ヽ
: ま もな く家族づれは私 たちを追 い越 していった。
以上 であ る。
私 は、心 か ら羨 ま しい気持 にな った。
そ して、考 えた。……「即興 こそ大切 !〜 ふ しことば
"こ
そダイャの原石 !〜 それを研磨 す るのが私 たち教育者 !」す なわち、即興的 自己表現 こそは、創造性を指向す るに、方法・ 手段 として核的な視点 と し て 目され る ものであ り、現代的意義への最優先のテーマと言 って過言で はない。
そ して、笑 いに満 ちたのびのびと した遊 びの場 こそが、明 るい ふ しことば
"遊
びを保証 す る決定的なステー ジであると言えよ う。子 ど も
3と り′Vい るよ
現代 ふ しこと
│や
論①
②
③
純真無垢の即興的自己表現
創造性への指 向
↓
意欲満々の創造的自己表現
↓
ふ くよかな創作活動 (児童期後半以降)
以上 を念頭 に して、子 どもの輝 く眼、はずんだ胸か らの発信〜 ふ しことば
"の
成長 に絶 大 の期待 を寄せたいと思 うのである。Ⅳ
現代 応、しことば
"(事
例)の
楽理的検証 にみる教育的視点1。
事例 にみ る模式的基本構造 の検証A
エ ンゲメロデ ィー型――核音を 1つ だけ持つ もの言彗11
a類
……2音列b類
……3音列 C類……4音
列ヾろべ・ ろヾ ―
②……発唱 ド、
ア
「 ロケット」
ロク トし‐ン
(ン)モ デじむ
3b〜
①……発唱 レ、終止 レ ア「 サ ッカー」(※
)
②……発唱 ド、終止 レ ア
「 おやつ」
1.
奇彗12
a〜
①……発唱 レ、終止 レ ア「 あかんべ」
べ・ろべ・ろヽ・―
終止 レ
「つみき」(※)
あ ″`ル ベ・
│ザ
・しどう「べろべろベー」 「 どん ぐリケーキ」
「 おみせやさん」
「みみず」(※
)
おそつた ゛ ぞ゛
「ネテばけ」
お
̀・
りだンて
ぞた‐ C〜①……発唱 レ、ア
「えんそく」
終止 レ
き むた き む ゼズヒ
,そ
き まった②……発唱ソ、終止 レ ア
「時計」
さん げた"よ
「 グットバイ」(※)
テ トラコー ド型一一伝統の核音程〜完全4度の枠の中に、中間音を 1つ だけ持つ もの
P
なB
譜 13 a類……3音列 b類……4音列 (その1) C類……4音列 (その2)
譜14
a〜
①……発唱 レ、終止 ラ ア「 いたず ら」
あ
らよ あ ら
②……発唱 ド、
終止 ラア 「なめくじ」
③……発唱 レ、終止 レ ア
「 なかよし」
す、、″ヽた
"
ど トバ・
イ ツ
「パルちゃん」
iiru UiD< ( 夏
'電
レ スをビ °
口りくてコ豚
「 忍法手 りけん」
「 セーラームー ン」
現代 ふ しことば'論
④……発唱ラ、終止 レ ア
「 サッカー」
b〜
①……発唱 レ、終止 ラ ア「か らすの赤ちゃん」
②……発唱 レ、終止 レ ア
「ねん土ざいく」(※)
ろ
︶ 汚
︶
てい
きた ぞ で。 き入
で。 さ rs‐
そ
き″
=
〜①……発唱 レ、終止 ラ ア 「かいじゅうごっこ」
②……発唱 レ、終止 レ
ア
「 かあさんの耳
̀6'み
たい」υ
ttρ
み う 々 み た い注
) *
以上 にみ る ふ しことば"の
模式的基本構造 の捉え方――その手法 は、参考文献203および4に負 うところが大 きい。
*
譜11・ 譜13に現われた全音符 は、それぞれ核音 を示す。*
ふ しことば"の
事例 は、幼児 の遊 びか ら、または実験保育 の中で蒐集 された全291 例 (平成6年 5月 〜平成7年12月、於静岡市 0東京都・ その他)か
らの抜粋 であ る。但 し、※の もの は、1994年 5月 の 日本保育学会 に於 いて発表 され た ものか らの抜粋 であ る。
2。
事例 にみ る教育的視点 の検証前項 で検証 の楽理的基本構造 の内容 に対 して、25事例 の個 々につ いて教育的視点か らこれを 検証〜 その要点 の指摘 を置 くと次 のよ うになる。
Aエ
ンゲ メロデ ィー型*
「 あかんべ」(a〜
①〜 ア)む げ い ζり ″ゝ
「 のりものごっこ」
・
ふ しことば
"に
大変多 くみる にくまれことば"の
ひとつである。・
何が何や ら全 くに意味不明一一 これは即 ふ しことば
"に
よ く見 る特有の 1つ の側面 で もある。「 ずいずいず っころば し」に対比 して考えると興味深 い。・
第3小節に時代の匂いを汲み取 ることができる。 リズムを楽 しんでいる愛 らしい情景 が何 とも言えない。
・
a類
① タイプのこの様な作例 は、その頻数が際立 って多 く、指導上第1階梯の もの と の考察が成 り立つ。*
「 つみき」(a〜
①〜イ)※
・
これ も ふ しことば
"に
多い つぶやきことば"の
例である。がっか りしたかわい ら しい表情が日の前に浮んで くる。・
発唱の リズムが実に素晴 らしい。 ものす ごい創作力
!"の
評価 はオーバ ーに過 ぎる かな?*
「 べろべろベー」(a〜
①〜 ウ)0
これ も「 あかんべ」に似たようなもの。くや しがって追いかけて くる友だちへの逃 げ 回 りなが らの か らかいことば"で
ある。・
地域によって、いろいろな表現をはじゃぎ回る遊びの中で観察することができる。
・
音組織的にはもちろん、旋律法的にみて も、最 も単純な構成である。
*
「 どん ぐリケーキ」(a〜
①〜工)0 泥ん こまん じゅうの上にどん ぐりをちょんとのせて、どん ぐリケーキの出来上が り。
さあ! いくつ出来たかな……微笑ましい仕草である。
・
かわいい素材、気持のいい リズム……そ して、楽 しい かぞえ歌遊び"。
0 変則的な3小節 フレーズであることを頭に置 く。
*
「 ロケ ット」(a〜
②〜 ア)。
ことばのアクセ ントの条件か ら導かれる ドの発唱の ものは、①の場合に次 いで子 ど も か ら表出の頻度が高い。このことは、指導上重要な留意点 として銘記 しなければな らな い。(次例「 おみせやさん」 も同 じ。)
0
♪(ン )ニ ョニ ョニ ョニ ョー♪・…"天衣無縫のこの表現力 こそは脱帽 ものである。*
「 おみせやさん」(a〜
②〜イ)・
女の子 らしい優 しさに溢れていて本当にかわいらしい。
0
おつ り"の
アクセント表現、 こまったわ"の
リズム表現など満点の出来栄えである。*
「 サ ッカー」(b〜
①〜 ア)※
・
ことばのテクセ ン トや抑揚が、全 くにそのままの実写〜速写 と言 っていい程の もので ある。男の子のサ ッカーヘの意気込みが伺える。
・
長2度十長2度のごく一般的なthree‐tone melody① 型である。(次例「 みみず」 も同 じ)
0
ここでは、極 く模式的なものとして、94年度 日本保育学会で紹介の ものか ら登載 した。(次例「 みみず」 も同 じ。)
*
「 みみず」(b〜
①〜イ)※
・
みみずをあげる
"の
発想が実にかわいらしい。・
「 サ ッカー」の場合に同 じく、遊びの中で自然にとびだ した 呼びかけことば
"(b
現代 ふ しことば"論
〜①型
)で
ある。*
「 おやつ」(b〜
②〜 ア)・
保育園でのおやつの時間〜眼をまん丸 くして小躍 りす る男の子の姿が手にとるように 見えて くる。喜 びの声が即座に ふ しことば
"に
なっている。・
長2度十長2度のごく一般的なthree―tone melodyの ②型である。(次例「おばけ」 も 同 じ)
*
「 おばけ」(b〜
②〜イ)・
茶 目っ気に溢れた男の子の顔つきが見たいものである。
。
かわいらしさの源泉 は、主 として後半部分の リズム的要素である。
*
「 えんそ く」(C〜
①〜 ア)・
待 ちどお しい待 ちどお しい遠足……それが、夢にまでみていたディズニーランドに決 っ たのである。思わず とびだ した はや しことば
"で
ある。・
短3度
+長
2度+長
2度の一般的なfOur̲tone melodyの ①型である。*
「 時計」(C〜
②〜 ア)0
擬音を捉えての ふ しことば"化
…… もう完全な作曲である。異色のものと言えよう。0 短3度
+長
2度+長
2度の一般的なfOur¨tone melodyの ②型である。(次例「 グッ ト バイ」 も同 じ)*
「 グッ トバイ」(C〜
②〜イ)※
・
今度 は、お帰 りのご挨拶で、英語の ふ しことば
"化
である。時代を感 じさせる。・
実例の極めて少ない短3度
+長
2度の3音旋律の、更に長2度下に ド(G音
)が附加 されて、4音
旋律②型 としてまとまったものである。(前例「 時計」 も同 じ)0
ここでは、模式性の高い94年度 日本保育学会で発表のものを採 った。B
テ トラ コ ー ド型*
「 いたず ら」(a〜
①〜ア)
0 子 どもたちお得意の か らかいことば
"で
ある。0 順次進行だけで成 り立ち、中の♪レ〜 ド〜 ラ♪の進行 は、民族色豊かな語法であ る。
つまり、半終止的 0属 音的機能を持つ「 ラ」音への進行がか もしだす特徴的な情趣が それである。
*
「パルちゃん」(a〜
①〜イ)・
エスパルスのマスコット パルちゃん
"の
ぬりえ遊 びでとびだ した声援の ふ しこと ば"で
ある。0
中に含まれるレ→ ラの跳躍音程の中間音 ドーー これが前 もって 先埋め"さ
れている日旋 に特徴的な旋律法にも注意を払 いたい。
*
「 なめ くじ」(a〜
②〜 ア)
・
なめ くじに 塩 まけ
"の
取 り合せが面 白い。・
長2度
+短
3度の音構成の中で、2つの基音が作 る伝統性の完全4度
……three‐tone me10dyの第②種である。(次例「忍法手 りけん」 も同 じ)
*
「忍法手 りけん」(a〜
②〜 イ)0
いたず ら盛 りの現代 っ子 に似合いの素材である。・
旋律法的には、前例「 なめ くじ」に全 く同様の手法である。
・
類例 は、「 なめ くじ」を含めた2例の他にもなかなかに多い。
*
「 なかよ し」(a〜
③〜ア)・
♪おまたせ―♪の表現がこの上な くやんちゃで、現代 っ子の面 目が躍如 として達者 な ものである。
つまり、完全終止的機能をもつ基音「 レ」の1音だけを、今の時世の リズムにのせた 処理の効果 と見 ることができる。傑作である。
・
類例 は、a類の中では少ない方である。
*
「 セーラームー ン」(a〜
③〜イ)・
うっか りしていては、ついて行 けない今の子 どもの世界である。今度 は美少女戦士
「 セーラームーン」の登場―一 この子 どもに独 自の領域〜 とび出 して くる題材 に注 目の 要がある。
O
口をついて出る自由奔放な5小節 フレーズ (奇数小節)で
もある。*
「 サ ッカー」(a〜
④〜 ア)・
静岡地方に行なわれる方言の登場である。丸出 しの方言 と ふ しことば
"の
深い深 い因縁〜 これ も重大である。
ふ しことば
"に
は、地でいった方言がぴったりのところが 有 るのである。0
「 ラ」音の発唱、順次的な伝統の上0下行で極めて模式的な旋律である。「 レ」の終止。*
「 のりものごっこ」(a〜
④〜イ)0
自動車のクラクション(擬音)の
ふ しことば"化
を含んでいる。基音「 レ」 の1音 だけによる リズムの表情が無雑作でかわいい。0
このa類④のタイプの作例 もかなりに多い。*
「 か らすの赤ちゃん」(b〜
①〜 ア)・
ことばの抑揚の流れがそっくりそのまま陽旋のルールにのって、順次進行の旋律線 に 写 し出されている。一一 そこで、初めての「 ソ」の音が抵抗な く出現 ということになる。
・
そこに導いた♪かあかあ
か らすの……♪一― ことばに現われた傍点のところの視点 も極 めて重要である。
・
長2度
+短
3度+長
2度のfOur¨tone melodyの bの第①種 で、数少 ない事例 の1つ*
「 ねん土ざい く」である。(b〜
②〜 ア)※
0
♪できたぞできた♪……喜びの声の単なる繰 り返 しであるところに限 りない子 どもら しさを感 じることが出来 る。・
長2度十短3度十長2度の fOur¨tone melodyの bの第②種一―歌 い出 しは レ、歌 い 終わ りもレである。これ も作例は少ない。
・
94年
の実験調査か らの ものである。*
「 かい じゅうごっこ」(C〜
①〜 ア)
・
おみず こうげき
"の
表出が微笑ましい。0
同 じ4音
旋律で も、その作例 は、b類に比べて更に少な くなってきている。特記すべ きことである。(「
かあさんの耳̀6'み
たい」 もまた同 じ)*
「かあさんの耳̀6'み
たい」(C〜
②〜 ア)・
♪かあさんの耳
̀6'み
たい♪……奇抜な着想が思わず笑いを誘 う題材である。ママ現代 ふ しこと
│ま
論が大好 きでたまらない甘 ったれ顔が見えて くる。家庭での 甘えことば
"で
ある。・
類例の少なさは、いわゆる ふ しことば
"へ
の訣別〜 わ らべ うた"へ
の移行0発展の時を迎えたことへの示唆で もあるように思える。これは、今回の命題の為に大切 なポ イ ン トであろうと考え られる。
以上、本節「現代 ふ しことば
"(事
例)の
楽理的検証にみる教育的視点」に於 ける論 旨を まとめると、その骨子 は次のようである。☆
はじめにことばありき"一一 しか し、そこには常に ふ し
"の
要素が同居 している。ふ しことば
"の
意義 はここに存在す るのである。☆
可愛 らしい情動の源泉〜楽 しい遊 び・ 幸せな生活 こそが素晴 らしい表現を生む土壌である。
☆
表出はすべてが即興〜そ して創造的表現へ…… これこそが指導への方法原理である。
☆
実験研究で得た次の資料 は、指導への間違いのない示唆を提供す るものである。
ふ しことば
"の
事例にみる模
式
的
基
本
構
造
事 例 の 現 れ 方
教材性
'94‑'96
Aエンゲ
メロディー型 (核音 1つ)
a 2音列
([二 ]、 ド )
発 終
① レ〜 レ
② ド〜 レ
39%
579イ
41%
599イ
◎
◎
b 3音
列(ミ 、[二]、 ド)
①レ〜レ
②ド〜レ
17 15◎
○
C 4音列
(ソ、 ミ、[]、 ド)
① レ〜 レ
②ソ〜 レ 3
○
△
Bテ トラ コ ー ド型
(核音 2つ)
a 3音列
([二 ]、 ド 、
[三 ])
① レ〜ラ
② ド〜ラ
③ レ〜 レ
④ラ〜 レ
31
43 35
41
◎
◎
○
◎
b 4音列
(匝 亘 ]、 ド 、 [亘]、 ソ )
①レ〜ラ
②レ〜レ
8 4△
△
C 4音列
(ミ 、[二]、 ド、
[三 ])
① レ〜ラ
② レ〜 レ 4 2
△
△
V
結論今回の「現代 ふ しことば
"論
一― その教育的意義 と楽理的検証」で、一応の成果 と して考えたの は、教育 の現代性への本質的な視点・ 最優先 のテーマと して「創造性への指向」 を示 唆 し得 た ことである。そ して、そのためには、 この度浮 き彫 りにされた次 の枠組み〜構想 に明 ら かであ るよ うに、 ふ しことば
"こ
そが、そ こへのかけがえのな い一 つ の足 がか りと して重要 だ とい うことである。★
ことば
"は
、常 に ふ し"と
同居 し、 ふ しことば"と
な る。★
ふ しことば
"は
、子 どもの情動 の原初的な発現〜 自己表現 である。★
その発唱 は、常 に即興 の様式で行 なわれ る。
★
種子 は即興 の ふ しことば"、 そ して発芽か ら見事 な開花への行 き届 いた営 み―一 これが 創造性へ の育 ちを約束す る指導 であ る。素朴 な情動が美的情操 にまで と言 うことであ る。
注
)以
上 を通 じて、常 に ふ しことば"が
秘 めて持つ強靭 な伝統要素 の視点 に留意 の必要 が あ る。さて、時代 は、題材・ 素材を変 えて も、生 きる子 どもの心 の叫び・ 気分 の逆 りであ る ふ し
ことば
"は
依然 として健在 である。そ して、その中には、真 に人間的な音楽 リズムの基礎体 験をみて とることが出来 るのである。
最後 に、陰旋 の関係 につ いてであるが、今回の ところ ふ しことば
"の
形 で は出に くか った よ うである。 しか し、 ふ しことば"の
主流 は、間違 いな く応用陽旋 と断定 で きよ う。Ⅵ
残 された問題
世 は、正 に溢れ るエネルギーに身体がの って くるテ ンポ快調 の時代一一子 どもを囲む環境 の 遷 り変 りも日ま ぐる しい。 この こともあ って、
ふ しことば
"に
関わ る命題 を さ らにさ らに拡げ深 めて、論点 をよ り焦点化 しての継続的な取 り組 みの必要性 を痛感す るものであ る。
課題 と して、次 の様 な ものを考えている。
★
「 ふ しことば
"か
ら わ らべ うた"へ
」――多面的 な考察★
ふ しことば
"と
動 きの リズム" 0
遊 び"と
の相関★
ふ しことば
"を
起点 とす る 創造的"領
域 のカ リキ ュラムの作成★
揺 れ動 く時代 の波が及 ぼす 話 しことば
"〜
ふ しことば"へ
の影響★ Dur、mollの世界 との調性融和 の問題
★
日本旋法 に於 ける伝統性 につ いて
参考文献
1.武田道子、1990、「 幼児 の音楽文化 にみ る伝統性 と現代性 について」八千代 出版
2。
武 田道子、1994、「 ふ しことば"遊
びの教育的再組織」 日本保育学会研究論文集3。
飯 田秀一、1966、「 わ らべ唄・ 民謡 における比較音楽学的基本構造論 の教育的再組織の問題」東京学芸大学紀要第18集第5部門
4.小泉文夫、1958、『 日本伝統音楽 の研究』音楽之友社