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平成27年11月20日
豚レンサ球菌(血清型 2 型)による トキシックショック様症候群の 1 例
宮崎県立宮崎病院内科
山中 篤志 白濱 知広 西村 直矢 上田 尚靖 姫路 大輔 川口 剛 上田 章
(平成 27 年 4 月 24 日受付)
(平成 27 年 7 月 15 日受理)
Key words : Streptococcus suis, toxic shock like syndrome(TSLS)
序 文
豚レンサ球菌感染症はStreptococcus suisによる人獣 共通感染症である.以前からブタにおける家畜感染症 として重要であったが,近年アジアを中心としてヒト での感染症例の報告が増加し,また,大規模なヒト集 団感染例の報告などから重要な感染症として世界的に 注目されている.ヒトにおいては細菌性髄膜炎が多く を占め,他には敗血症,感染性心内膜炎などの報告が あり,特に敗血症の中でもトキシックショック様症候 群の診断基準を満たす症例では死亡率が高いとされて いる.国内における症例報告数は 20 症例程度と少な く,主にブタと関連した職業関連感染症である.今回,
救命し得た豚レンサ球菌(血清型 2 型)によるトキシッ クショック様症候群の 1 例を経験したので報告する.
症 例
【患者】71 歳男性.
【主訴】発熱,乏尿.
【既往歴】高血圧症.
【現病歴】日中は庭作業を行うなど特に問題なく生 活していたが,同日就寝後に 40℃ 台の発熱が出現し たため近医救急外来を受診し補液を受け帰宅した.翌 日,かかりつけ病院を受診し,高熱が持続し乏尿を認 めたために熱中症の診断で当院へ救急搬送された.
【内服歴】アムロジピン,オルメサルタン,ドキサ ゾシン.
【社会歴】飲酒:焼酎 2 杯!日,喫煙:なし,職業:
養豚業,渡航歴:なし,ペット飼育:なし,野外活動:
山林や河川へは行っていない,シックコンタクト:な し.
【入院時現症】血圧 82!59mmHg,脈拍 98 回!分,体 温 36.2℃(NSAIDs 内服),呼吸数 27 回!分,SpO286%
(室内気).意識清明.眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜 に黄疸あり.鼻尖部に紫斑あり(Fig. 1A).口腔内異 常なし.頸部異常なし.項部硬直なし.心音および呼 吸音ともに異常なし.腹部に異常なし.四肢の皮膚に 散在する紫斑(Fig. 1B),趾間部に白癬を認めた.
【入院時検査所見】Table 1に示した.
【入院時胸部レントゲン,体幹部 CT】特記所見な し.
【入院後経過(Fig. 2)】搬入時はショックバイタル で,SIRS 基準を満たし DIC を伴う敗血症性ショック と診断し,尿培養および血液培養を採取後にタゾバク タム・ピペラシリン(4.5g×3!日)の投与を開始した.
1 週間前に虫に刺され部位に点状紅斑を認めたが,同 部位に黒色痂皮形成は認めなかった.ツツガムシ病や 日本紅斑熱を鑑別に挙げミノサイクリン点滴(100 mg×2!日)およびレボフロキサシン点滴(500mg×1!
日)を追加した.第 3 病日には血液培養より双球菌を 主体とした連鎖状グラム陽性球菌を検出した.趾間部 に白癬を認め,診断基準も満たすことから溶血性レン サ球菌によるトキシックショック様症候群(strepto- coccal toxic shock-like syndrome,以下 TSLS)を疑っ た.アンピシリン(2g×4!日)とクリンダマイシン
(600mg×3!日)の点滴静注投与に加え,起炎菌とし て双球菌が主体の塗抹であったため市中感染ではあっ たが腸球菌(Enterococcus faecium)なども鑑別に挙げ 同定まではダプトマイシン(350mg×1!日)を追加し た.第 6 病日に同定検査キットにて口腔内レンサ球菌 であるStreptococcus sanguinis(以下S. sanguinis)と 同定されたため薬剤感受性結果を確認後,アンピシリ 症 例
別刷請求先:(〒880―8510)宮崎県宮崎市北高松町 5 番 30 号
宮崎県立宮崎病院内科 山中 篤志
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感染症学雑誌 第89巻 第 6 号 Table 1 Laboratory data on admission
WBC 2,940 /μL TP 5.5 g/dL
Neut 89.9 % Alb 2.8 g/dL
Lymph 7.1 % T-Bil 3.48 mg/dL
Eosin 1.0 % D-Bil 1.6 mg/dL
Baso 1.3 % AST 656 IU/L
Hb 12.8 g/dL ALT 195 IU/L
Plt 3.4×104/μL LDH 710 IU/L
ALP 287 IU/L
PT 14.8 sec. S-Amy 34 IU/L
APTT 38.4 sec. UA 8.2 mg/dL
Fbg 299.0 mg/dL CK 406 IU/L
FDP 82.0 mg/dL BUN 38.6 mg/dL
D-dimer 35.57μg/mL Cre 2.9 mg/dL Na 137 mmol/L
CRP 11.32 mg/dL K 3.98 mmol/L
PCT 83.1 ng/mL Cl 103 mmol/L
Ca 8.0 mg/dL
Fig. 1 Subcutaneous hemorrhage (purpura)
Physical examination revealed subcutaneous hemorrhage in the tip of his nose (A) and ex- tremities (B).
ン単剤の投与へ変更した(Table 2).同定結果は口腔 内レンサ球菌であったが,同定のスコアが低く,症状 は急速かつ重篤で感染性心内膜炎も否定的であり,起 炎菌と臨床像が乖離している印象を受けた.養豚業で もあったことからStreptococcus suis(以下S. suis)を 起炎菌の鑑別に挙げ,第 7 病日に宮崎大学医学部付属 病院検査部へ質量分析器(BRUKER 社 MALDI Bio- typer)による検査を依頼したところS. suisと同定
(Score Value:2.322)され,後日,国 立 感 染 症 研 究 所で血清型 2 型と同定された.抗菌薬治療開始後も連 日 39℃ を越える発熱が持続し,心不全の所見は認め なかったが呼吸不全が進行した.意識は清明で髄膜炎 症状は認めなかったが抗菌薬はセフトリアキソン(2
g×2!日)へ変更し,TSLS の症例定義を満たしたた めにクリンダマイシン併用も再開した.その後は解熱 傾向となり,第 10 病日より呼吸不全は改善傾向へ転 じた.入院 12 日目にはクリンダマイシン投与を終了 し,第 16 病日より発熱の再燃を認めセフトリアキソ ンによる薬剤熱を疑い,抗菌薬治療を終了したところ 速やかに解熱を認めた.第 29 病日に後遺症なく独歩 にて退院となった.
考 察
S. suisは通性嫌気性のグラム陽性レンサ状球菌で,
短連鎖,双球菌状を呈することが多く,通常はヒツジ 血液寒天培地上ではα溶血を示す.莢膜多糖体によ り少なくとも 33 の血清型が存在し,2 型がブタ,ヒ トで最も一般的であり,病原性も高く,本症例も血清 型 2 型であった1).S. suisは主に豚の扁桃腺,上気道 などに存在し,国内のブタの 30% 以上が保菌し,そ の一部で発症するとされ,ブタにおいてはワクチンも 市販されているなど畜産分野では重要な感染症であ る1)2).ヒトにおける感染症は 1968 年に 1 例目が報告 されてから 2012 年までに 1,600 例程度報告されてい る3).2005 年に中国で 200 名を越えるアウトブレイク が報告されてからはアジアを中心に年々報告数が増加 し,人獣共通感染症として近年世界的に注目されつつ ある4).国内においては症例報告として 20 例程度と少 なく,主に本症例と同じく養豚業をはじめとした精肉 業,飲食業などブタを扱う職業と関係している報告が 多い1).養豚業は他職種と比べて 1,500 倍の罹患リス クとされているが,国内でもバーベキュー時の感染事 例の報告もあり,日常生活でも多少なりブタの生肉と
豚レンサ球菌によるトキシックショック様症候群の 1 例 743
平成27年11月20日
Table 2 Antimicrobial suscep- tibilities of Streptococcus suis isolated from blood culture
Antibiotics MICs (μg/mL)
PCG ≦0.03
ABPC ≦0.06
CTM ≦0.5
CTX ≦0.06
CTRX ≦0.12
CFPM ≦0.5
MEPM ≦0.12
EM >1
CLDM >1
LVFX ≦0.25
VCM 0.25
SBT/ABPC ≦0.25
TC >4
Fig. 2 Clinical course of the patient
ABPC: ampicillin, CLDM: clindamycin, CTRX: ceftriaxone, DAP: daptomycin L: levofloxacin, M: minocycline, T: tazobactam/piperacillin
NAd: noradrenaline, PC: platelet concentrate, rTM: recombinant thrombomodulin
の接触機会はあり職業に関わらずブタおよびブタ生肉 との接触歴の問診は診断にとって非常に重要であ る1)5).微生物検査において,今回当院で使用している レンサ球菌同定キット(S. suisは項目に含まれず)で は口腔内レンサ球菌であるS. sanguinisと同定された が,後日,質量分析器にてS. suisの同定に至った.S.
suisは表現型としてS. sanguinisなどの口腔内レンサ 球菌と類似し,従来の生化学的検査や診断キットでは 同定に至らないことも多く,国によっては 20%〜70%
で口腔内レンサ球菌と誤同定されているとの報告もあ る.したがって,国内でも実際の症例数は報告数より も多い可能性が考えられる3)6).S. suis感染による臨床 症状としては髄膜炎が最も多く 7 割程度を占め,次い で TSLS 含む敗血症が 2 割程度である7).髄膜炎症例
では初期から聴覚障害を合併することが多く,治癒後 も高率(54〜68.8%)に難聴を残す8).本症例は髄膜 炎症状なく経過し幸い難聴もなく治癒したが,S. suis と診断した場合は経過中に一度は髄液検査を施行すべ きであったと考える.敗血症症例ではS. suisはα溶 血性レンサ球菌であるにも関わらず,TSLS の症例定 義を満たす,いわゆる劇症型敗血症の経過を示す症例 の報告も多い.TSLS は本来 A 群溶血性レンサ球菌 の症例定義であり,S. suisにも応用されているが,A 群溶血性レンサ球菌では感染巣として皮膚軟部組織感 染症が一般的であるのに対して,S. suisでは感染巣が 明らかでないとされる9).検索した限りではS. suisに よる蜂窩織炎や壊死性筋膜炎などの皮膚軟部組織感染 症の報告をみつけることはできず,本症例も皮膚軟部 組織感染の所見は認めなかった.S. suisによる TSLS の症例での特徴的な臨床像として紫斑の出現が挙げら れ 9 割程度で出現するとされ,電撃性紫斑病へ至った 症例もある8).本症例も鼻尖部,四肢末梢側に紫斑を 認め,入院当初は急性感染性電撃性紫斑病を鑑別に挙 げたが,その後紫斑の拡大および四肢末梢の虚血性病 変の出現なく経過した.死亡率は全体で 12.8% で,敗 血症で高く髄膜炎で低い.特に TSLS の症例では死 亡率 62.8% と高い報告もある3)10).本症例は TSLS で あったが幸い治癒し独歩で退院に至った.S. suisの薬 剤感受性検査ではテトラサイクリン系,マクロライド 系に耐性を示すことが多く,治療として通常はペニシ リン系,セフェム系抗菌薬が第一選択薬となる.髄膜 炎の合併が多いためセフトリアキソンを使用すること が多い8).本症例ではアンピシリンで治療を開始し,高 熱が持続し呼吸不全も進行したためセフトリアキソン
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感染症学雑誌 第89巻 第 6 号 高用量(4g!日)に変更し,TSLS の診断基準を満た
すためクリンダマイシンの併用を行った.今回,豚レ ンサ球菌(S. suis serotype 2)による TSLS の症例を 呈示した.報告された起炎菌と臨床像の乖離,および 問診による職業歴から本症を疑い診断に至ることがで きた.一般的な細菌検査過程では当院のように自施設
でS. suisの同定まで至らない可能性があるので,豚
レンサ球菌感染症の診断には職業歴や動物接触歴など の詳細な問診および細菌検査室との連携が重要である と考える.
謝辞:診断に際して多大なるご助言ご協力を頂きま した宮崎大学医学部附属病院検査部佐伯裕二先生,国 立感染症研究所細菌第一部常 彬先生に深謝申し上げ ます.
本論文の要旨は,第 89 回日本感染症学会学術講演 会(2015 年 4 月)にて発表した.
利益相反自己申告:申告すべきものなし.
文 献
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Streptococcal Toxic Shock-like Syndrome due toStreptococcus suisSerotype 2 in a Japanese Pig Farmer Atsushi YAMANAKA, Tomohiro SHIRAHAMA, Naoya NISHIMURA, Naoyasu UEDA,
Daisuke HIMEJI, Takeshi KAWAGUCHI & Akira UEDA Department of Internal Medicine, Miyazaki Prefectural Miyazaki Hospital
Streptococcus suis is a major swine pathogen. It has recently been recognized as an emerging zoonosis that causes mainly meningitis and sepsis in human. In particular, toxic shock-like syndrome (TSLS) caused by this pathogen has a high mortality rate. However, misidentification ofS. suisby conventional biochemical and commercial identification tests is not rare. The patient was a 71-year-old man who worked as a pig farmer who was admitted for fever, oliguria and subcutaneous hemorrhage. He was diagnosed as having septic shock and blood culture was positive for Gram-positive cocci, mainly diplococcus. This pathogen was identified with S. suis with using MALDI-TOF MS analysis, though a commercial Gram-Positive bacteria identification kit revealed viridans streptococci. His clinical features met the diagnostic criteria of TSLS, and ceftriaxone and clindamycin were administered. On admission day 28, he was discharged in good condition.
〔J.J.A. Inf. D. 89:741〜744, 2015〕