総合演習 Ⅱ における参加型授業 の意義 と課題
一教職課程の学生 に身につけさせたい コミュニケーシ ョンカ との関連か ら‑
秦 野 玲 子
は じめ に
筆者が平成14年か ら実践 してい る小 ・中 ・ 高教員のための参加型人権研修実施校 は,通算 36校 にのぼ る。研修参加者 の教貞 か ら 「子 ど
もたちの コミュニケーシ ョン能力が落 ちて きて いる」 とい う言葉が聴かれることが年 々多 くな った。 と同時 に,研 修 の 中で も,教 員 自身の
「コミュニケーシ ョン体力」が弱 って きている, つ ま り, コミュニケーシ ョン能力 は持 っていて
ち,そjtを発揮す るための支 えとなる力が落ち ているのではないか と感 じる事象がみ られる。
そ こで,本稿 は,2007年 か ら半期 を受 け持 っ ている 「総合演習
Ⅱ
」 における,授業の実践の ふ りか え りを とお して,教 職 を 目指 す学生 の「コ ミュニケ ー シ ョン能力 」 とそ れ を支 える
「コ ミュニケーシ ョン体力」の育成 にかか る参 加型授業の意義 と課題 を検討す る。
1. 授 業 を とお して身 につ け させ た い力 教員 には,児童生徒及 び,教員 間や保護者 と のコミュニケーシ ョンが大切であることは,改 めて述べ るまで もない。 さらに近年の学校 と地 域 との協働の必要か ら,地域 の方 々 との コミュ ニケーシ ョンも非常 に大切であ り, これ まで以 上 にコミュニケーシ ョン能力が求め られている。
しか し, コミュニケーシ ョン不足 あるいはコ ミュニケーシ ョンの失敗 による問題 も学校 をめ ぐる課題 として多 く発生 している。
本授業では,学生 に参加体験型の授業運営方
法 を学 ばせ ることが 目的ではあるが,児童 ・生 徒 の力 を引 き出 し得 る教員 となるためにも,保 護者や地域 の方たちと,円滑 なコミュニケーシ ョンを取れるようになるために も,基本 となる
「コミュニケーシ ョン能力」 とそれ を支 える周 辺の力 「コミュニケーシ ョン体力」 を,授業 を
とお して身につけさせたい と考 えた。
コミュニケーシ ョン能力 とは能動的な傾聴 と 適切 な自己表現がで き,相手 との関係作 りのプ ロセス をともに作 り, 自他の要求 を満 たせ る解 決方法 を見 出 して実現 させ る能力である。
そのために養いたい具体的な力 は
・自己開示 を恐れず,意見 を述べ られる
・相手の話 を聴 きとることがで きる
・相手 に しっか りと視線 と声 を届 け られる
・沈黙 を恐れない
・感情 を建設的に表現す ることがで きる
・異なる意見の合意に向けて積極 的に関わるこ とがで きる
・要約,適切 な質問をす ることがで きる
・想像力,共感的な理解力,豊かな感性
・自分の意見 を変 えることを恐れない
これ らの力 を支 えるコミュニケーシ ョン体力 は
・省察力
・好 きな もの,得意なことがあること
・様 々な分野‑の関心
・どんな相手 とも共に学ぼ うとす る気持ち
・民主主義の主体 としての公共性
・自分 を表現す る手段がい くつかあること
・色 々な分野 に友 だちがいること
・きちん とした姿勢 を保 てること
・人権感覚 (人権知識 と関心,それを行動,態 度 に表す力)
これ らを総合 した 「コミュニケーシ ョンカ」
を養 うために,互いの人権 を守 りあいなが ら, 折 り合い地点 を見つけ,合意 に導 く力 をつける こと,そ して,体験 を知識 とつな ぎあわせて, 表現で きる力 を身につけることにつ なが る授業 展 開を試みた。
2.授業の概要 と運営 による工夫 (1)授業内容
ワークシ ョップ体験や,学習活動作成演習に よ り参加型学習の手法や課題 を学ぶ とともに, 自らの価値観や,他者 との関わ り方の傾向に気 づ き, コミュニケーシ ョンカ を身につける。
(2)授業計画
表1 授業計画
1
.
「参加型学習」 とは何か(1)参加型学習 を体験 的に学 びなが ら手法 や進め方 を知 る。
・参加型学習 に使 われる手法 Ⅰアイスブ レーク
・参加型学習 に使 われる手法 Ⅱグループ ワーク①
(正解 のない課題)
・参加型学習 に使 われる手法 Ⅲグループ ワーク(∋
(正解のある課題) 2.学習課題 と参加型学習
・人権学習
・問題解決型学習
3.参加型学習 とフアシ リテ‑シ ョン
・参加型 における学習支援 のあ り方
・フアシ リテ‑シ ョン型学習支援の留意
点
4.学習活動作成演習
(1) アイスブレークの作成 と実習 (2)グループワークの作成 と実習 5.参加型学習における課題
(3)授業運営
参加体験型の手法 を用い,講義のみでな く対 話や記述, グループによる討論 などを組み合 わ せ たワークシ ョップによ り進めた。
授業計画は,次の意図の もとに立てた。
導入 の,1.参加 型学習 を体験 的 に学 びなが ら手法や進め方 を知 る単元では,
(Dアイスブ レークとい う手法 を学ぶ と同時に 学生同士が安心 して学 び合 える関係作 りと す る。
②常 にひとつの正解 を求め られることに慣 れ ている学生 に,正解のないグループワーク をさせて, 自己の価値観の認識 と他者の価 値観 の理解 につ な ぐとともに,意見 は多様 で良い ことを体感 させ る。
③互いの持つ情報 を正 しく伝 え,聴 きあい 力 を合 わせ,正解 にた どり着 く課題 をこな す ことで, 自分が意見 をい うことの大切 さ と,協調性,合意 による達成感 をめざす。
2.の学習課題 と参加型学習の単元では
①参加型人権学習の方法 を学ぶ ことをとお し て, 自己の人権意識 を磨 く
②対立関係 を解決す るための手法 を体感す る 3.4について は,教 員が 「こうあ るべ き」 とい う正解 を提示す るのではな く,互いの考 え を寄せ合い,あるべ き姿 を各 自が模索 し,それ を実践す る練習の機会 とす るとともに,互いの 演習 を評価す ることで,課題 に対す る問題意識
を自ら整理す る機会 とする。
(4)授業時の学生の様子 と運営の工夫
参加す る学生の コミュニケーシ ョンカの無 さ として,青年期特有の他者の視線 を過剰 に意識 す るとい う特質 を差 し引いて も,次の様子が特
に気 になった。
・妙 には しゃいだ りお どけた りす るが,肝心 な 意見 は言お うとしない。
・教員の問いかけに反応 をみせ ない。
・教室の端 に座 り,問いかけるまで声 を発 しな
い 。
・教室の中ほどにいて も,声が教卓 まで届かな
い 。
・決め付 けた言い方で意見 を言 う。
・グループの話 し合 いで友人 とだけ話す。
・机 にひ じや上半身を預 けたまま人 と話す。
そこで,授業 の中で以下の工夫 を行 った。
工夫点
授業の初 回のみでな く,学生 と教員,学生 同 士の信頼関係,安心で きうる関係づ くりのため に時間を十分 にかけた。
・学生同士がひ とりひ とりと丹念 に話 し合 える 自己紹介 ワーク
・数種類 のアイスブレーク
・問いかけを多 くし,学生 に考 えさせ,意見 を 引 き出す。その際 には 「ゆっ くり考 えてか ら で良い」 と沈黙 を認める。
・毎 回の授業では,質問に答 える様式のふ りか え りカー ド (*表2)を用 い,何 を学 び,何 に気づ き,次回の どう活かすか を考 えさせ る 機会 を作 った。
・ふ りかえ りカー ドは,毎 回全員分 を無記名で 一覧 に し,次回の授業の始めにそれ を読み合 う時間を設け,互いの受け止め方 を共有で き るように した。
・意見 を述べ ることが苦手 な学生 に対 しては, ふ りかえ りカー ドに記入 してあった言葉 をひ ろい,それを褒めて,全体 に紹介 し, 自分の 意見 に自信 をつけさせ る。
・毎回グループ編成 を変 え,特定の親 しい友人 と同グループにな らない ように配慮 した。そ の際 も,ゲーム性 を持たせたグループづ くり を して,偶然 の出会いの楽 しさを味わえるよ うに した。
・姿勢の悪い学生 には,直接姿勢 を注意せず, 教貞が姿勢 を低 くして向 き合 うようにす るこ とで,学生が 自然 に身体 を起 こす ように した。
・意見 を強 く主張す る学生 に対 しては横 に椅子 を置 いて座 り
,
「他 の考 え方 はないか な。○
○ さん も同 じ考 え ?」 と,意見 を述べに くい 学生 に問いかけ,反対意見が出やす くなるよ
うに した。
表2 ふ りかえ りカー ドの例
・自分 の意見 をきちん と述べ ることがで きま したか
はい いいえ
‑いいえの場合,次回は どの ように した らよい と思いますか ?
・互いの意見 を尊重で きま したか はい いいえ
‑いいえの場合,次回は どの ように した らよい と思いますか ?
この ような働 きかけを繰 り返す ことで,学生 の気 になる様子 は少 しずつ改善 された。
自信がなさそ うに小 さな声でぼそぼそ と話す 学生 も,教室全体 に届 く声で発表がで きるよう にな り,攻撃的な話 し方 を していた学生 も,他 者が意見 を言い終 わるの を待 ち
,
「俺 はこう思 うのだけれ ど,
」 とク ッシ ョンを置いて意見 を 言 う姿が見 られるようになった。学生 の レポー トに も
,
「始 めは,考 えた り意 見 を言 った りしなければならないこの授業が苦 痛でたま りませ んで した。後半 になると少 しず つみんなと話す ことが楽 しくなって きま した。」とい う記述がみ られた。
3.授業 によ り養 われた力
(1)学生 の レポ ー トにみ る身 につ いた力の 自 己分析
最終 レポー トの課題のひとつである, この授 業 を受 けて,あなたが得 た もの,あなたについ た力 は どんな ものですか, とい う問いに対す る
学生の記述 を一部抜粋す る。
・相手の立場 にたって考 える力がついた。
・ひ とつのことを達成す るために, 自分 の意見 をきちん と言い,他人の話 を聞いて 自分の意 見 を変 えた りとい うバ ランスが大切 だ と分か ったことと, 自分の考 えと他人の考 えをうま
く絡めて考 える力がついた。
・障害者や,権利が守 られていない人のことを 知 り, 自分 に関係 ないではな く,様 々なこと に関心 を持つ ようになった。
・自分 の意見 を しっか りと持つ ことがで きるよ うになったこと。そ して伝 え られるようにな ったこと。
・一番 身についたのは,積極性。言葉 に出さな ければ相手に伝 わ らない。 きちんと説明す る ことの大切 さを知 った。 また,障害 を持つひ との立場 を考 えたことで,改めて小 さなマナ ーを守 ることが大切だ と気づいた。
・自分本位で動 くのではな く,他 のひとの こと もちゃんと考 えなが ら,積極 的に関わる力。
また,人権 な どについての広い視野 を持つ ようにな り, 日常 も少 し意識 して行動す るよ うになった。
・思いやるとい うことが大切 だ とい う考 えが身 についた。 また,それ を行動 に移す力 もつい た と思 う。発表 な どで,みんなの前 に立つ こ とに少 し慣れた。
・自分 の意見 を言 え,人の意見 を聴 けるように なった。当た り前の ことだけれ ど,大学生 に なって, こんな風 に考 える機会が少 なかった ので, この授業 を受けてそ う思 った。
・参加型 とい う学習方法 を知 ったこと。小 中学 生の ときにも同 じようなことをしていたが, ただの レクリエーシ ョンの ように思 っていた。
学習のための企画の段取 り,実行す るときの 注意な どが身についた。
・今 まで,積極 的に発言す ることがなかったが, 発言す る力がついた と思 う。 また,みんなの 前で話す ことに も慣れた。反面, 自分の課題
に も気づいたので とて も意義ある時間だった。
・話 し合 うときにどの ような視点か ら考 えれば 理解 しやすいか, どんな注意が必要かなどの コミュニケーシ ョン能力がついた。「話す」
「聴 く
」
「考 える」 とい う3つの力が向上 した と思 う。 また, 自己をふ りかえ り,考 えると いった, これ まであま りしなかった事 を得 る ことがで きた。・協調性。一人では乗 り越 えられない もの,仲 間の大切 さを改めて思い知 った。 もうひ とつ は自己主張力。誰かがや って くれるだろうと い う考 えを しな くなって きた。みんなが 「自 分がや らなければ」 と思 えば自然 とグループ の話 し合い もスムーズにい くことがわか って
きた。
・一番の力 は協調性 だ と思 う。ふ りかえ りシー トを見て も, 自分の意見 を押 し通すだけでな く,人の意見 を聞 き入れて,みんなで考 えな が ら, 自分や班の考 えをまとめ られるように なった。 これは同時に,視野が広がったので はないか と思 う。同 じ年齢や社会人のひ とな ど様 々な人 と話 し合 うことで,知識 も少 し膨 らんだ気がす る。
(2)身につ けさせたい力 との関係
学生が レポー トに身についた力 としてあげた もの と,身につけさせたい力 との関係 は表3の とお りである。
4.今後の課題 と展望
多様 な価値観 に触 れ うるためには,一定の人 数が必要である。 と同時に,学生の様子や小 さ な変化 に気づ き,声 かけをす るためには,多人 数では不可能である。 これ らのことか ら,現在 の20名 とい う枠 は適切 である。 しか し,20名 に達 しない年がある。 また,年 々,基礎 的なコ ミュニケーシ ョン能力が身についていない学生 が増 えて きているため,半期 とい う短期 間で養 い,走着 させ ることので きる力 は限 られる。
これ らの ことか ら今後の本授業内での コミュ
表3
自己分析 に よる力 身 に付 けさせたい力
自分 の意見 を持 つ こ とがで き伝 え られ る力 自己開示 を恐 れず ,意見 を述べ られ る 発言力 .自己主張力
意見 を伝 える力
話す,聴 く,考 える力 相 手 の話 を聴 きとることがで きる省察力自己開示 を恐 れず ,意見 を述べ られ る 相 手 の立場 に立 って考 える力 相 手の話 を聴 きとることがで きる
自分 の意見 を言 い,相 手 の意見 を聴 く力 積極 的 に,異 なる意見の合意 に向けて関 わる こ相手 の話 を聴 きとることがで きるとがで きる 自分本位 で な く他 人 に配慮 しなが ら積極 的 に関 積極 的 に,異 なる意見の合意 に向けて関 わる こ
わ る力 とがで きる
自分 の考 え と他 人 の考 えをうま く絡 めて考 える 力
協調性
み んなの意見 をまとめ る力 相 手の話 を聴 きとることがで きる要約,適切 な質問 をす る ことがで きる
視 野 の広が り 様 々な分野‑ の関心
人権 や様 々なこ とへ の関心 様 々な分野‑ の関心人権感覚 思 いや りを大切 に思 う気持 ち とそれ を行動 に移 人権感覚
す声
ニケ‑シ ョンカ の育成 について は,以下 の点 を 課題 と して挙 げ る。
① 少人数で も多様 な価値観 が 出やす いア クテ ィヴ イテ ィの開発
② 短期 間 に 自己開示 し, コ ミュニケー シ ョン の楽 しさを実感 させ る運営 の さ らなる工夫 さ らに, もうひ とつ大 きな課題 と して,総合 演習 Ⅱの授業 の大 きな 目的であ る,学生が参加 体験型 の授業運営 の方法 を会得す る とい う点 に ついては, まだ不 十分 な点であ る。
筆者 自身が更 なる学 び を重 ね,教 職 を 目指す 学生が力 をつ け られ る授業 となる よう,努力 を 続 け るこ とで, こ う した課題 の解決 につ なげた
い 。
参考
(文部科学省 「人権教育 の指導方法 などに関す る 調査研究会議」第二次 とりまとめ平成18年)