1.はじめに
日本語教育で扱われている文法項目の中には,学習者にとって習得しやすい項目もあれ ば,習得しにくい項目もあることが第二言語習得研究(以下,習得研究)によって既に明 らかにされており,文法項目の指導は,習得研究を踏まえたうえで行われる必要がある。
従来の習得研究には,分析者の観点から行われた研究が多く,言語使用の当事者,すな わち学習者の観点を導入する必要があるという問題は既に指摘されている(
Firth & Wager
1997,義永2009)。日本語の文法の習得研究も,学習者の観点の不在の問題が存在すると
考える。これまでの日本語文法の習得研究は主として,特定のレベルの一定数の学習者を 調査協力者として,テストなどの客観的な手法によって,学習者が選択・産出した表現形 式のみに基づいて分析を行っている。また,分析の観点として,分析者が設けた基準を満 たしているか否かで習得の成否を判断するものが多い。このような分析者の観点に基づい た研究からは,個々の学習者が特定の文法項目の使用について,どのように捉えて取捨選 択しているかを知ることは困難である。文法項目の使用に関して,学習者自身がどのよう な認識を持っているかという実態が把握されないかぎり,適切に使用できない原因が何な のかは不明である。学習者の認識と問題の所在の究明なしには,学習者の捉え方の実態に 基づいた効果的な指導方法を考案することは難しい。
依頼場面における使役授受表現の使用に関する 日本語学習者の捉え方
―中国大学日本語専攻生に対する調査に基づいて―
王 慧雋
要旨
本研究は,従来の文法の習得研究における学習者の観点の不在を問題視し,学習者の 観点から文法の習得研究を試みることを目的とするものである。調査として,中国の大 学日本語専攻生24名を対象に,許可を依頼する場面における,〜(サ)セテクダサイ を含めた複数の表現形式の使用について,会話の自由記述による空所補充式の自由産出 課題と表現形式の使用に関する意見を尋ねるインタビューを実施した。その結果,以下 のことが分かった。①学習者は敬語形式を使用するなど,人間関係に配慮しつつ表現形 式を選択するという社会言語知識は持っている。②学習者の〜(サ)セテクダサイと〜
(サ)セテイタダキマスの機能や両者の使い分けに関する知識が不十分という問題が存 在する。②の二つの形式の機能に関して学習者はどのように捉えているのか,具体的に どのような知識が不足しているのかを記述することにより,指導で習得を促す必要があ る対象が明確になった。
キーワード:学習者の観点,使役授受表現,〜(サ)セテクダサイ,〜(サ)セテ イタダキマス,中国大学日本語専攻生
本研究は,文法項目の習得状況を把握するうえで,学習者の観点が必要不可欠と考え,
具体的な場面における特定の文法項目の使用に関する学習者の捉え方を調査し,学習者自 身の観点に立ち,分析と記述を試みることを目的とする。文法項目としては,日本語教育 において初級で既に取り上げられている,使役形の〜(サ)セルと授受表現の複合形式の 一つである〜(サ)セテクダサイを取り上げる。具体的には,〜(サ)セテクダサイが使 われうる許可依頼の場面における,〜(サ)セテクダサイを含む複数の表現形式の使用に ついて,学習者がどのような認識を持ち取捨選択しているのかを,自由産出課題およびイ ンタビューで調べ,その結果に基づいて分析する。
2.先行研究
使役は日本語学の分野で受身などと同様に,動詞の形態と文の格との関係を論じる文法 カテゴリーで,ヴォイスの一つとして扱われることが多い(寺村1982,高橋1985など)。
従来の使役に関する研究は,〜(サ)セルが単独で使われる文に焦点が当てられ,分析者 の作例に基づいたことが多い。また,分析の対象は,「お母さんは子どもに嫌いな野菜を 食べさせた」のような「強制」や,「教師は学生に読みたい本を選ばせた」のような「許 容」といった〜(サ)セルが文において表す意味に重点が置かれていた(佐藤1986,森 田1988など)。
近年は,コミュニケーションにおける使役の使用実態へ関心が向けられるようになり,
単独の〜(サ)セルだけでなく,〜(サ)セルとほかの文法形式との複合形式も分析対象 として扱われるようになった。前田(2011)は,ドラマのシナリオから収集した用例を資 料に用いて分析した結果,単文で用いられる使役表現1)が全体の3分の2を占めており,
その内の3分の1が〜(サ)セルと〜テアゲル・〜テモラウ・〜テクレルなどの授受表現 との複合形式(以下,使役授受表現)であることを明らかにした。森(2012)はコーパス を用いて使役表現の使用実態を調べているが,口語体に近いコーパスのデータでは,日本 語教育で最も中心的に取り上げられている「部長はミラーさんをアメリカへ出張させまし た」や「部長はすずきさんを3日間休ませました」のような使役文より,使役授受表現の ほうが出現頻度が高いことが示されている。これらの研究から,実際のコミュニケーショ ンにおいては,単独で使われる〜(サ)セルよりも,使役授受表現のほうがより多く使用 されている形式であり,日本語教育における使役授受表現の指導が重要であることが示唆 されている。
日本語教育において,使役授受表現の指導は既に行われてはいるが,日本語教科書が 扱う使役授受表現の形式にはばらつきがある(高橋・白川2006)。高橋・白川(前掲)は
『みんなの日本語』などの5種類の主な初級の教科書で扱われている使役授受表現を詳細 に調べている。その結果によると,教科書で扱われている使役授受表現は,〜(サ)セテ クダサイと,〜(サ)セテイタダキタイ,〜(サ)セテイタダケマセンカ,〜(サ)セテ イタダク,〜(サ)セテアゲル,〜(サ)セテモラウ,〜(サ)セテクレル,〜(サ)セ テモラエルの計8つの形式がある。複数の教科書で扱われている形式は〜(サ)セテクダ サイと,〜(サ)セテイタダキタイ,〜(サ)セテアゲル,〜(サ)セテモラウ,〜(サ)
セテクレルの5つである。そのうち,〜(サ)セテクダサイのみ3種類の教科書で扱われ ており,ほかの4つの形式はいずれも2種類の教科書で扱われている。ほかの使役授受表 現と比べ,〜(サ)セテクダサイがより多く取り上げられている形式である。
〜(サ)セテクダサイの指導に関して,高橋・白川(前掲)はコミュニケーションで果 たす機能を重視し,〜(サ)セテクダサイを依頼表現として指導するべきだと提言して いる。本研究も,同論文と同様の立場から,〜(サ)セテクダサイを,許可を依頼する場 面で使える形式として捉え,許可を依頼する場面は学習者でも遭遇しうる場面であるた め,〜(サ)セテクダサイは習得する必要性の高い使役授受表現であると考える。高橋・
白川(前掲)の調査結果のとおり,〜(サ)セテクダサイが多くの教科書で取り上げられ ており,指導の必要性が高いと認識されていると言えるが,一方,学習者の〜(サ)セテ クダサイの習得に関して,研究によって解明されていることは極めて少ない。
使役表現に関する習得研究は,馮(1994),田口(2001),小林(2006),川崎(2007)
などがあるが,田口(前掲)と川崎(前掲)はいずれも〜(サ)セルが単独で使われる 使役表現について学習者の産出状況を調べており,使役授受表現は扱われていない。小 林(2006)は使役授受表現を含めた使役表現の使用状況について,それぞれ中国語と韓国 語,英語を母語とする学習者が書いた作文のデータが収録されたコーパスを用いて調べて いる。その結果,母語と関係なく,使役授受表現の使用例はどの学習者にも見られず,適 切な使用には至っていないことが明らかになった。ただ,コーパスのデータのみを分析し ているため,使役授受表現の使用例がなかったのは,単に思いつかなっただけなのか,そ れとも使用を意識的に回避した結果なのかは分からない。また,作文コーパスでは,例え ば,〜(サ)セテクレルが使われる「塾の行き帰りに両親が携帯を持たせてくれました」
のような使役授受表現の使用状況の調査には適しているが,対人場面で使われる〜(サ)
セテクダサイの使用状況は調べられない。そのため,許可を依頼する場面において学習者 は〜(サ)セテクダサイを適切に使用できているか否かは不明である。
〜(サ)セテクダサイを扱っている馮(前掲)では,使役表現が使われている自然,ま たは不自然な文と,使役表現が使われていない自然,または不自然な文と,それらの文の 中国語訳の自然さに関して,それぞれ中国人学習者と日本語学習歴のない中国語母語話者 と日本語母語話者が3段階評価で評定する調査を行っている。31の評定項目のうち,使 役授受表現に関連する評定項目は,〜(サ)セテクダサイが使われている不自然な文の
「彼らを中に入らせて下さい」と「机を外に出て行かせないで下さい」の二つのみである。
この二項目に対する学習者と日本語母語話者の評定平均値を見ると,両者の間に大差はな く,学習者も日本語母語話者と同様に上記の二文をそれぞれやや不自然な文と不自然な文 として評定している。この結果に関して同論文は言及していないが,使役授受表現を使用 すると不自然になる文に関しては,学習者は日本語母語話者に近い判断力を持っていると 考えられる。「机を外に出て行かせないで下さい」に関しては,短期学習者群と比較して,
長期学習者群のほうが不自然と評定できているのに対し,「彼らを中に入らせて下さい」
に関しては,短期学習者群のほうが不自然と評定できている。同論文では,学習者の使役 文の習得には,習熟度にかかわらず,習得上の母語干渉が存在し,学習者が母語の文法を 基準に日本語の使役文の自然さを判断していると分析しているが,〜(サ)セテクダサイ
に関しては上述したように,関連の評定項目が上記の二項目のみであり,習熟度との関係 は不明である。また,馮(前掲)では,評定項目の文が使われる場面を提示したうえで学 習者に評定してもらったわけではないため学習者が〜(サ)セテクダサイの使用と具体的 な場面との関係についてどのように捉えているのか,どのような基準に基づいて評定して いるのかは分からない。
ここまで述べたことをまとめると,〜(サ)セテクダサイは多くの教科書で取り上げら れており,指導が行われているにもかかわらず,その習得に関しては明らかになっている ことが少ない。学習者が作文で使役授受表現を適切に使えていないことは調査によって明 らかにされているが,対人場面における〜(サ)セテクダサイの使用状況はまだ不明で ある。馮(前掲)の文の自然さを評定する調査の結果からは,中国語を母語とする学習者 は〜(サ)セテクダサイをある程度習得できていると考えられる。一方,同論文が使用し た3段階評価の方法では,〜(サ)セテクダサイと具体的な許可依頼の場面との関係につ いて,学習者が具体的にどのような認識を持っているのかを調べることが困難である。
これまで,依頼表現の習得に関して多くの研究がなされてきたが,行動を依頼する場面 が中心的に扱われており,許可を依頼する場面はほとんど扱われていないため,許可依頼 の場面における〜(サ)セテクダサイの使用に関する学習者の捉え方を探ることもできて いない。このように,学習者の認識に不十分な部分があるか否か,あるとしたらどの部分 が不十分なのかはまだ把握されていないため,具体的な許可依頼の場面において〜(サ)
セテクダサイを適切に使えるように,焦点を当てて指導すべき部分も不明のままである。
本研究では,現在,多くの教科書で既に取り上げられている〜(サ)セテクダサイにつ いて,その使用に関する捉え方に着目して,学習者の習得状況を調べる。具体的には,学 習者の観点を取り入れ,許可を依頼する場面における,〜(サ)セテクダサイを含む複数 の表現形式の使用に関する学習者の捉え方を調査する。
3.調査方法
3-1.学習者の捉え方を調べる方法
学習者の捉え方は主観的なものであるうえに,習得途上のため,常に更新されるもので もある。従来の習得研究において,学習者の捉え方を調べる研究が少なかったのも,主観 的なものである捉え方を調べるのは容易なことではないためであろう。本研究では,学習 者の〜(サ)セテクダサイの使用に関する捉え方を調べる試みとして,予め設定した場面 を学習者に提示し,自由産出課題の段取りを踏まえたうえでインタビューを実施した。
学習者の捉え方を調べるために,学習者それぞれに,〜(サ)セテクダサイを使用した 実例を回想してもらい,その使用についてインタビューを行う方法も考えられる。しか し,その方法では,使用の場面などがそれぞれ異なるため,学習者が共通して持っている 知識や知識に不十分なところがあるか,あるとしたらどのようなものなのかを見出すこと は困難である。統制された場面における〜(サ)セテクダサイの使用に関する捉え方を比 較するためには,予め場面を設定することが必要である。そこで,本調査では,〜(サ)
セテクダサイが使用されうる場面を提示し,学習者には提示された場面を理解してもらっ
たうえで,インタビューでその場面における〜(サ)セテクダサイの使用に関して意見を 尋ねる方法をとった。
本調査では,〜(サ)セテクダサイが使われうる場面として,許可を依頼する場面を設 定した。ほかのコミュニケーションの場面と同じように,実際の許可依頼の場面は複雑な ものであり,許可を依頼する対象や,許可を依頼する当然性など,様々な要素が関わって いる。「許可を依頼する」といったおおまかな設定では,学習者に〜(サ)セテクダサイ の使用について意見を尋ねても,「いいと思う/よくないと思う」「使える/使えない」と いった程度の回答しか得られない可能性が高い。そのため,場面を詳細に設定し,学習者 が〜(サ)セテクダサイの使用の適切さについて考える手がかりとなる要素を提示した ほうが,学習者の思考を促し,認識を引き出しやすいと考える。したがって,本調査で は,〜(サ)セテクダサイの使用を想起しやすく,学習者も遭遇しうる許可依頼の場面と して,幹事を担当する許可を上司に依頼する場面を詳細に設定し,調査を実施した。具体 的には【人間関係】【状況】【会話】【質問】の4つの項目を立て場面を設定した2)。詳細 は,次頁の図1で示されたとおりである。
詳細に設定された場面を学習者に正確に理解してもらったうえで認識を調べるために,
図1の設定場面は書面で学習者に提示した。設定場面を理解してもらったあと,学習者 に直接〜(サ)セテクダサイの使用に関する意見を尋ねることも可能である。しかし,直 接,意見を尋ねるより,インタビューの準備として,設定場面で使える適切な表現をまず 学習者に考えてもらったほうが,〜(サ)セテクダサイの使用が適切かどうかを判断する うえでの焦点が定まり,インタビューで意見を語りやすくなるのではないかと考える。し たがって,本調査ではインタビューを実施するにあたり,準備の段階として,自由産出課 題の形式で,学習者に設定場面で使える適切だと思う表現を記入してもらった。
自由産出課題そのものは習得研究において学習者の特定の文法項目の産出状況を調べる ためによく用いられる方法であるが,本調査の目的は学習者の捉え方を調べることであ り,自由産出課題はあくまでも学習者の認識を調べやすくするために設けた段取りであ る。自由産出課題の結果は学習者の許可依頼の場面における〜(サ)セテクダサイの使用 状況を把握するうえで参考になるものが多いであろうが,5節では自由産出課題の結果に ついて整理を行うにとどめ,分析はインタビューの結果に重点を置いて行う。
3-2.〜(サ)セテクダサイと関連する形式との比較
本調査では,〜(サ)セテクダサイの捉え方を調べるにあたり,〜(サ)セテクダサイ と一部の形式が同じで,学習者が〜(サ)セテクダサイの代替表現として使いうる表現形 式も合わせて提示し,それぞれの使用に対する意見を尋ねる。具体的には,〜(サ)セテ クダサイのほかに,〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」との二つの形式も 提示し,それぞれの形式の使用について意見を尋ねる。〜(サ)セテクダサイだけでな く,〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」も取り上げるのには,以下の理由が ある。
まず,〜(サ)セテクダサイと提示されたほかの表現形式を比較することが可能にな り,取捨選択を促せると考えたからである。また,本研究では,〜(サ)セテクダサイの
習得はほかの形式と使い分けられるようになる過程でもあると考える。学習者にとって使 いうる表現形式と比較する方法なら,許可依頼の場面において〜(サ)セテクダサイが使 えるか否かだけでなく,同じ場面における〜(サ)セテクダサイとの使い分けに関する捉 え方も調べられるであろう。
同じ許可依頼の場面でも,学習者が使いうる表現形式は無限にあるものである。インタ ビューですべての表現形式との比較は困難なため,学習者にとって比較しやすいものに絞 る必要がある。本調査で〜(サ)セテクダサイと比較する表現形式を,〜(サ)セテイタ ダキマスと「任せてください」に絞った理由は以下のとおりである。
まず,パイロット調査の自由産出課題の結果を参考にし,学習者が〜(サ)セテクダサ イの代替形式として使いうる表現形式を探った。パイロット調査の結果,〜(サ)セテ イタダキマスが使われた回答と「任せてください」の回答があった。本調査が設定した依 頼場面では,〜(サ)セテイタダキマスが使われた「やらせていただきます」「担当させ ていただきます」は許可を依頼するのではなく宣言する言い方になる。それにもかかわら ず,学習者から回答があったことから考えると,〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイ タダキマスを適切に使い分けられていない可能性がある。許可を依頼する場面では,〜
【人間関係】Wさんは入社1年目の社員です。BさんはWさんの上司です。
【状 况】Wさんが所属する部署では,再来週に忘年会が開かれることになりました。上司 のBさんは忘年会の幹事をやってくれる部下を探しています。Wさんは幹事をやりたいと言 いましたが,BさんはWさんが入社1年目で経験がないのでできないのではないかと心配し ている様子です。Wさんはどうしても幹事をやりたいと思っているので,先輩たちにアドバ イスをもらったうえでやると安心させ,Bさんにお願いしました。
【人物关系】W是刚进公司第1年的职员,B是W的上司。
【情景状况】W所在的部门决定下下周开年终联欢会。上司B在找人负责联欢会事宜。W表示 想做负责联欢会的干事,但B担心W刚进公司1年缺乏经验会做不好。W为了使B打消顾虑表 示会向前辈们讨教,请求B把干事的工作交给自己做。
【上記の状況におけるWさんとBさんの会話】
【W和B的对话】
B 「再来週の忘年会の幹事はだれがやってくれるのかな。」
有谁愿意负责下下周年终联欢会的干事工作吗? W 「あのう,よろしければ,私が…」
那个,如果可以的话,我来……
B 「あ,君,入社1年目じゃないのか? できるのか?」 啊,你不是进公司才第1年么?会做吗?
W 「はい,先輩方のアドバイスを伺ってやりますので,ぜひ, 。」
我会跟前辈们讨教经验的, 无论如何
【質問】あなたがWさんだとします。あなたは,どうしても幹事をやりたいと思っています。
そこで,Bさんにお願いしようとしています。下線のところで,どんな日本語を使いますか? いくつでも構いませんので,あなたが適切だと思う言い方をすべてお書きください。
【问题】假设你是W。你希望B把干事的工作交给你做,你会如何表达 ? 请将所有你认为恰当的 日语表达都填写在下面的虚线上。
図 1 自由産出課題用紙
(サ)セテイタダキマスの使用が不適切であるという知識も,学習者にとっては必要なも のである。また,〜(サ)セテクダサイとは,使役形の〜(サ)セテの部分が同じであ り,比較しやすいと考えられるため,比較する表現形式として取り上げた。「任せてくだ さい」に関しては,使役形の代わりに,許容の意味が含まれている動詞の「任せる」が使 われており,〜(サ)セテクダサイとは,〜テクダサイの部分が同じであるため,比較し やすいと考える。また,自由産出課題の結果から「任せてください」の回答が得られたこ とからも,ある程度習得できていると考えられる。
上述したとおり,本調査では,〜(サ)セテクダサイ,〜(サ)セテイタダキマスと
「任せてください」の3つの形式を取り上げて,それぞれの使用に関する学習者の捉え方 を調べる。無論,〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」は学習者が使いうる複 数の表現形式の一部にすぎない。〜(サ)セテクダサイと比較する過程も,必ずしも実際 の許可依頼の場面における表現形式の取捨選択と同様のものであるとは限らない。許可依 頼の場面で学習者が実際に使用している表現形式と,表現形式の取捨選択の実態を調べる 研究ももちろん必要である。ただ,こうした研究では,学習者が既に習得できている限ら れた表現形式とその捉え方については調べられるが,使役授受表現のような,そもそも学 習者による使用例が観察されにくい文法項目とそれに関する捉え方を調べるのは困難であ る。本研究のパイロット調査の結果から,〜(サ)セテクダサイの使用を想起しやすい許 可依頼の場面を詳細に設定したにも関わらず,それを使用した回答が少ないことが判明し た。この結果から,従来の研究と同様に,学習者が特定の場面おいて実際に使用している 表現形式を調べ,使用の理由を尋ねるという調査方法を用いても,回答が少ない〜(サ)
セテクダサイに関する捉え方や,それに関連する表現形式の取捨選択を調べるのが困難だ と考える。学習者が思いつかない〜(サ)セテクダサイについて調べるためには,調査側 から提示して,学習者が使用の適切さについて考え,取捨選択するように促し,認識を 語ってもらったほうが効率的である。実験的手法に近い方法ではあるが,これまでの学習 者の選択・産出した言語形式を調べる研究手法では調べられなかった,〜(サ)セテクダ サイ,〜(サ)セテイタダキマス,「任せてください」の使用に関する学習者の捉え方の 解明には役立つと考える。
3-3.調査手順
本研究の調査手順は,次のとおりである。
① 調査の趣旨について「日本語の使い方に関する調査」とし,自由産出課題のあと,イ ンタビューを行うという流れについて説明する。
② 自由産出課題の用紙を渡す。回答には正解はなく,協力者それぞれの考えで回答し てもらいたいと説明し,【人間関係】【状況】【会話】【質問】をすべて読んだうえで,
【会話】の空所に入れる適切な言い方を記入してもらう。回答時間の制限はなく,回 答数は複数回答可である。必要に応じて,訳文を参考にすることも辞書を引くことも 可能とする。
③ 自由産出課題の回答を見せてもらう。正解ではなく,あくまで個人の考えについて 尋ねると改めて説明したうえで,〜(サ)セテクダサイおよび〜(サ)セテイタダキ
マス,「任せてください」を提示し,それぞれの使用について意見を尋ねる。〜(サ)
セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスの具体例は,協力者が回答に使用した動詞 に合わせて提示する。回答に動詞「担当する」が使われている場合は「担当させてく ださい」「担当させていただきます」を提示する。動詞「やる」が使われている,ま たは「担当する」「やる」のいずれも使っていない場合は「やらせてください」「やら せていただきます」を提示する。インタビューは調査協力者の母語を使用し,半構造 化の形式で行う。
4.調査協力者
第2節で述べたとおり,〜(サ)セテクダサイの習得に関してはほとんど研究がなされ ておらず,依頼表現の習得研究にも,許可を依頼する場面を扱う研究がほとんど見当た らない。本調査の調査対象者の選定において,先行研究の知見を参考にできるものが少な い。本調査では,〜(サ)セテクダサイの文の不自然さに関して,中国人学習者が日本語 母語話者に近い評定をしているという馮(前掲)の調査結果から,〜(サ)セテクダサイ をある程度習得できている可能性があると考え,中国語を母語とする学習者を調査対象者 にした。また,インタビューを通して学習者の認識を調べるにあたり,学習者にそれぞれ の認識を不自由なく語ってもらえる方法が理想的であるが,調査者と同じく中国語を母語 とする学習者のほうが,認識を正確に把握でき,学習者の負担も少ないと考える。
本調査を実施するにあたり,中国上海
A
大学の日本語専攻学習者24名に協力しても らった。内訳は2年生10名,3年生11名,4年生3名である。全員,大学入学後に日本 語を学びはじめ,調査実施の時点(2012年12月〜2013年1月)で日本滞在経験のない 者である。外国語環境の学習者を優先したのは,外国語環境の学習者のほうが教室で文法 項目の使い方に関する明示的指導を受けることが多いため,文法項目の使用に関する捉え 方を言語化できる可能性が比較的に高いのではないかと考えたからである。また,外国語 環境において教室外で日本語を使う中で場面に相応しい文法項目の使用を学ぶ機会が比較 的に少ないため,教室指導を通して習得を促すことがより重要だと考える。日本語専攻の 学習者に選定したのは,非専攻の学習者と比較して専攻の学習者のほうが,日系企業への 就職を希望する者が多く,仕事関連の場面で日本語を使用しコミュニケッションを行える ように学習するニーズが高い3)ため,調査対象者に適しているからである。馮(前掲)の調査では,中国語を母語とする学習者の場合,〜(サ)セテクダサイの文 の不自然さに関して,長期学習者群は必ずしも短期学習者群より判断できているとは限ら ないという結果が示されている。〜(サ)セテクダサイの習得と習熟度の関係はまだ不明 であり,習熟度が高い学習者でも〜(サ)セテクダサイを習得できていない可能性もある ため,本調査では年次を統制せず,各年次の学習者の捉え方を調べることにした。4年生 の協力者が3名のみで人数が少ないのは,日本滞在経験者を調査対象から除外したためで ある。
調査終了後に協力者に確認した結果,全員授業で〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテ イタダキマスを学習したことがある。授業で使用されている教科書4)を確認したところ,
使役授受表現として,〜(サ)セテクレル,〜(サ)セテモラウ,〜(サ)セテクダサ ル,〜(サ)セテイタダク,〜(サ)セテヤルが取り上げられていた。使役授受表現の基 本的な意味について,「話し手が相手から何かをする許可を得る」という説明があり,〜
(サ)セテクダサルの例文として,「山田先生は週に一回私に絵を描かせてくださいます」
「お先に帰らせてください」が挙げられている。つまり,許可依頼または宣言に使われる〜
(サ)セテクダサイと,状況説明に使われる〜(サ)セテクダサルは区別して扱われてい ない。〜(サ)セテイタダキマスに関しては教科書には例文がないが,一部の協力者が提 供してくれた授業中にとったメモの資料では,「私でよろしければ喜んで教えさせていた だきます」のような教師による補足例文が確認できた。「〜(サ)セテイタダキマスは自 分がやることを宣言するときに使える形式で,謙譲語である」「〜(サ)セテクダサイは 依頼に使える」といった説明も確認できたことから,教室では機能に関する明示的指導が 行われていることが窺える。
5.自由産出課題の結果
自由産出課題の空所に入れる表現として,24名の協力者から39件の回答を得た。39件 の回答のうち,例えば,「私が担当させていただきます」のような,依頼の表現形式が使 われておらず,許可を依頼する意図が伝わりにくいと思われる回答も少なくなかった。た だ,本調査における自由産出課題は協力者の回答に対して正誤判断を行うためのものでは ないため,依頼の表現形式が使われているか否かを基準に,回答を依頼または非依頼の2 種類に整理することにとどめる。本研究では,非依頼の回答に関しても,習得途上のもの として捉えており,誤用とは考えない。依頼の表現形式については山岡他(2010)を参考 にした。
整理の結果,依頼の回答は18件,非依頼の回答は21件であった。詳細は次頁の表1の とおりである。数字は協力者番号で,最初の桁は年次の情報を示す。協力者から複数の回 答があった場合は,協力者番号の後ろにアルファベットをつけて示す。回答に「やせて」
とある303
a
,303c
,305b
に関しては,それぞれの回答者から「やらせて」と書こうとし たことが確認できたため,「やらせて」として整理した。依頼の18件のうちの16件は,山岡他(前掲)で挙げられている〜テクダサイを使う 命令系(204,305
b
,401,303b
など)や,〜タイを使う願望表出系(201c
,203,209,302
b
),〜テイタダケマセンカまたは〜テクダサイマセンカの要求系(206b
,403),〜テ イタダケレバアリガタイの情意表出系(311)に分類できる。命令系の回答は,〜(サ)セテクダサイ以外,動詞の「任せる」を用いる306の「おまかせてください」と310
a
の「任せてください」がある。また,201
d
,207,210のような,〜テクダサイを使っている が,だれが幹事を担当するか,だれにチャンスを与えるのかが分かりにくいものもある。201
a
と205は山岡他(前掲)で挙げられている依頼の表現形式が使われた回答ではない が,「お願いします」と意気込みを示す「頑張ります」が同時に使われており,「許可をお 願いします」という意味で,許可を依頼する表現として受け止めてもらえる可能性がある ため,依頼の回答として整理した。表 1 自由産出課題の回答 204私をやらせてください。お願いいたします。☆◇◯
305b私をやせてください。☆◇◆◯
401やらせてください。☆◇◯
303b私に忘年会の幹事をさせてください。☆◇◯
306頑張ります。おまかせてください。☆◇◯
310a私を任せてください。★◇◯
201dチャンスをくれてください。私は一生懸命にできます。☆◇◯
207私にさせていただいてください。★◆◯
210このチャンスをもらって。お願い。★◇●
命令系
(9)
依 頼
(18)
201c幹事のことをやりたいんです。みんなの望みを失いんです。ぜったい。
☆◇◯
203幹事をやりたいです。★◇◯
209幹事の仕事をやりたいと思っていますから。これからもっと頑張ろう と思っています。どうぞよろしくお願いします。★◇◯
302b私が経験が少ないからこそ,今回の忘年会を通じて自分の経験を積み 重ねて,会社に力を尽くしたいと思っております。★◇●
願望表出系
(4)
206b僕のことを信じられていただきませんか。★◆●
403ぜひ,私にまかせてくださいませんか。☆◆●
要求系
(2)
311私にやらせていただければありがたい。★◆● 情意表出系
(1)
201a一生懸命に頑張ります。お願いします。☆◇◯
205以前,こんな忘年会の経験がありました。入社1年目でも,私は大部 分の同仕より,経験があります。よろしくお願いします。私はいしょけん めい頑張ります。★◇◆◯
その他
(2)
303a私にやせていただきます。お願いします。☆◇◯
308試みにやらせていただきます。☆★◇◯
301a私が担当させていただきます。お願いします。★◇●
301b私に任せていただきます。お願いします。★◇●
310bこのチャンスを与えていただきます。★◇◯
310c私は幹事をやっていただきます。★◇◯
宣言
(18) 非 依 頼
(21)
208自分の才能を生かして,先輩方のアドバイスを伺ってやります。★◇
◆●
309精一杯努力して,忘年会の幹事の仕事をやります。安心してください。
☆◇◯
201b私のことを信じます。お願いします。☆◇◯
402a幹事の仕事を私に任せます。★◇●
202c私を信じて,一度機会をくれます。☆◆◯
307おチャンスをくださいます。☆◇●
305c失望なさらなくて完成します。☆◇◆◯
402b立派にこの仕事を完成します。★◇●
302a今回の忘年会をすばらしくなるようにがんばります。★◇●
305aがんばります。☆◇◆◯
202b私は一生懸命によくします。☆◆◯
206a頑張ろうと思う!★◆●
202a私をやって見てもらいます。☆◆◯
303c私にやせておにいたします。☆◇◯
304この事はまじめに対応して,とんでもこの事をみましょう。☆★◇●
その他(3)
依頼よりも多い非依頼の21件の回答は,意味が推測しにくい202
a
,303c
,304を除い て,〜(サ)セテイタダキマスや〜シマスといった宣言の典型的な表現(蒲谷他1998:157)が使用されているものが特に多い。303
a
と308,301a
のような〜(サ)セテイタダキマスを使った回答は,自分に行動の決定権がなく,相手の許可を求める必要がある依頼 場面では,相手の許可を得ているかのように誤解を招くかもしれない。301
a
のように「お 願いします」を付け加えるとしても,宣言として理解される恐れがある。相手から許可を もらっているかのように伝わってしまう点に関しては,301b
の「私に任せていただきま す」と310b
の「このチャンスを与えていただきます」も同様である。310c
の「私は幹事 をやっていただきます」は相手に幹事を担当してもらうことを決めたかような表現にな り,許可を依頼する表現としては不適切である。208と309のような「やります」の回答 はやることを宣言しているだけで,許可の必要については言及しておらず,許可を依頼す る意図が伝わりにくいと考える。305c
と402b
,302a
,305a
,202b
,206a
は,意気込みを 示すものとして理解できるが,201b
,402a
,202c
,307のように相手の行動について〜シ マスの形式で述べると,命令と誤解される恐れもある。自由産出課題の結果をまとめると,まず,〜(サ)セテクダサイは一部の協力者から回 答があったため,学習者にとって使用しうる形式であることが分かる。また,「任せてく ださい」の回答も得られたため,ある程度習得していると考えられる。一方,許可を得る 必要がある依頼場面にもかかわらず,宣言の表現形式の使用が目立つ5)。特に〜(サ)セ テクダサイと同じく使役形が使われている〜(サ)セテイタダキマスの回答もあった。依 頼場面での使用は適切ではないが,一部の学習者が〜(サ)セテイタダキマスを依頼場面 で使える形式として認識している可能性があると考えられる。6節では,インタビューの 結果に基づき,〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」
の使用に関する学習者の捉え方を述べる。
6.インタビューの結果と考察
〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマス,「任せてください」のそれぞれの使 用に関する意見を尋ねたところ,いずれに関しても,協力者の意見は肯定的なものと否定 的なもの6)に分かれた。3つの形式の使用に関して,協力者がどのような意見を示したか を記号で表1に示す。〜(サ)セテクダサイに関する肯定的な意見と否定的な意見は,そ れぞれ☆と★で示す。〜(サ)セテイタダキマスに関しては,それぞれ◇と◆で,「任せて ください」に関しては◯と●で示す。同じ形式について,協力者が異なる観点から肯定的 な意見と否定的な意見を同時に示している場合は,「☆★」「◇◆」「◯●」のように記す。
以下,それぞれの形式の使用に関する協力者の意見を挙げながら述べる。表1と同様 に,協力者を三桁の番号で示す。日本語訳は筆者によるものである。
6-1.〜(サ)セテクダサイの使用に関する捉え方
〜(サ)セテクダサイの形式の使用について,12名(50
%
)の協力者が肯定的な意見 を示した。・这个可能就是更加能强调 我要做 的这个意思。この形式はやりたいという意味を もっと強調できると思う。(303)
・首先它用的是使役态,然后用了一个 てください 。我感觉更尊敬一点。最初が使役 で,そのあと「てください」がつけられている。この形式のほうがもっと尊敬の気持 ちを表している気がする。(202)
303は自由産出課題でそれぞれ〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスを 使った回答をしているが,インタビューではいずれも使える形式であるが,〜(サ)セテ クダサイのほうがより好ましいという意見を示した。理由は,幹事の仕事をやりたいとい う意欲を示すことができるからである。許可依頼の場面において,願望を述べる〜タイ や〜(サ)セテイタダキタイと比べ,〜(サ)セテクダサイのほうがより幹事の担当を切 望していることを表現できる。この点から考えれば,303が語った〜(サ)セテクダサイ を使用することでより意欲を示せるというのはそのとおりである。202も303と同様に〜
(サ)セテクダサイの使用がより好ましいという意見を示したが,理由はより尊敬の気持 ちを表せるからであった。具体的にどういう意味で「尊敬を表せる」のかを尋ねてみた が,202にとって自分の理解を言語化することが難しいようで,説明できなかった。
一方,14名(58
.
3%
)の協力者から〜(サ)セテクダサイの使用について否定的な意見 が示された。・像这个情况应该是为了给自己争取一个机会,我的意思就是想表达一下 我会努力的, 请你给我一个这样的机会 。この状況では,チャンスをつかまえるために何か言うだ ろう。私は「努力するので,チャンスを与えてください」と言いたいので。(302)
・我想说的是 请相信我一定会做好的 。私は「ちゃんとできます。信じてください」
と言いたい。(304)
・觉得应该是表达我自己的主观意愿,就是说我想去做。如果要说 やらせてください 的话好像也可以。就是觉得万一对方不同意怎么办,所以我就想只是表达自己的意愿。
自分の願望を言い表したい,つまり私はやりたいということを言いたい。「やらせて ください」もいいけど,相手が承知してくれなかったらどうしようと思って。だか ら,願望を伝える言い方にした。(203)
・好直接啊。太直接了。你是下属,这么说好直啊。直接的な言い方だね。直接的すぎ る。部下なのだから,「やらせてください」は直接的すぎるね。(206)
302は幹事の担当が「チャンス」だと考えているため,その考えを伝えられる表現とし て,〜(サ)セテクダサイの使用が最適ではないという意見を示している。304は幹事を 担当できるかどうか心配する上司に,自分を信じてもらいたいということを伝えたいた め,〜(サ)セテクダサイの使用はよい選択ではないと考えている。〜(サ)セテクダサ イを使用しては,学習者がそれぞれ伝えたいことが言い表せないと認識していることが分 かる。203は相手が許可してくれなかった場合のことを考えたうえで,〜タイで願望を述 べるに留めたと語っている。これは206が指摘した〜(サ)セテクダサイが「直接的すぎ
る」というところに通じている。つまり,203は「やらせてください」と言ったにもかか わらず,相手が許可してくれなかった場合,気まずさを感じるなど,不都合が生じる可能 性があると認識しているのである。
以上に挙げた学習者の意見から,自分が伝えたいことに照らし合せて〜(サ)セテクダ サイの使用を取捨選択できていることが分かる。一方,一部の学習者から,〜(サ)セテ クダサイの使用に関する知識が不十分という問題が示唆された意見もあった。
・我不知道这种用法。使役态加 てください ,我不知道。この使い方は知らない。使 役態に「てください」をつける。分からない。(310)
・我觉得对上司不能用 てください ,就是命令人家。你在求人家帮忙,你要对人家尊 敬一点。上司に「てください」を使って命令してはいけない。頼みごとがあるのだか ら,尊敬の気持ちを込めて言わないといけない。(311)
・这个虽说 てください 有点请求的意思,但是有命令的感觉。(略)我觉得和部长这 样说话不好。「てください」はお願いする意味はあるけど,命令の感じがある。(略)
部長にこういう言い方をするのはよくないと思う。(301)
310に〜(サ)セテクダサイに関する意見を尋ねたところ,形式そのものを知らないと 語った。調査終了後に教科書を見せて確認したところ,2年次の授業で使役表現を学習し てから時間が経ったため,忘れたとのことであった。4節でも述べたが,教科書には〜
(サ)セテクダサイの例文はあるものの,〜(サ)セテクダサルと区別して〜(サ)セテ クダサイの形式を取り上げているわけではない。機能に関する指導を行う前に,〜(サ)
セテクダサイの形式を認識できるように指導する必要性が示唆された。
311と301は,上司への尊敬を示せる形式のほうが好ましいと考える一方,〜(サ)セ テクダサイを構成する〜(サ)セテと〜テクダサイを切り離して捉えている。会話の相手 が上司であるといった人間関係への配慮はコミュニケーションを行ううえで必要なもので あるが,「〜テクダサイ=指示・命令」という図式で捉えてしまうと,〜(サ)セテクダ サイの使用を必要以上に回避してしまうであろう。このような,「〜テクダサイ=指示・
命令」と捉えている協力者は,4年次の協力者はいないが,2年次と3年次の協力者で合 計6名(25
%
)いる。6-2.〜(サ)セテイタダキマスの使用に関する捉え方
〜(サ)セテイタダキマスの使用に関して,9名(37
.
5%)の協力者が否定的な意見を 示した。・因为听老师讲的时候 やらせていただけませんか 这种比较多一点。 やらせていた だきます 感觉后面好像缺了一点什么东西。先生の説明ではよく「やらせていただけ ませんか」が出てくるけど,「やらせていただだきます」は何かが足りないような気 がする。(204)
・这个没有请求的语气吧。只是直接说 我来做 。(略)因为他是新人嘛,然后那个是他
的上司吧。所以说即使是用了谦语但是不用 てください 那种委婉的请求也不行吧。 お願いしている感じがないだろう。「私がやります」と言っているだけだ。彼は新人 で,相手は上司だから,謙遜語を使っているのはいいが,「てください」のような婉 曲的なお願いする言い方をしないとだめだろう。(207)
・现在人家还没有允许你做这个事情。上司がまだ許可していない。(311)
〜(サ)セテイタダキマスの〜テイタダキマスの部分について,204は物足りなさを感 じると指摘しているが,具体的な理由を説明するには至らなかった。〜(サ)セテイタダ キマスに関して,依頼ではなく宣言の言い方であるため,許可を得ていない依頼場面では 使えないと指摘できた協力者は207と311の2名のみである。4年次の協力者は指摘でき た者がいなかった。
・这个好像缓和一点了,比那个委婉一点。直接的な感じが薄い。「やらせてください」
より婉曲的な言い方だ。(206)
・这个感觉没什么底,就是求你让我干吧,干好干不好我不知道。自信がないような感じ がする。お願いだからまずはやらせてよ,ちゃんとできるかどうか分からないけどみ たいな言い方。(305)
・这样倒是也可以。因为这边是对方的上司,这样表达自谦更婉转一些,但是这样的话感 觉不能表现出自己急切想得到的心情。それならいい。相手は上司で,謙遜を表す言い 方なら婉曲的になる。でも,許可がほしいという切実さが表せない。(205)
206と205のような,〜(サ)セテクダサイと比べ,〜(サ)セテイタダキマスは「婉 曲的」な言い方であるという意見,または305のような自信や意欲を表せないといった否 定的な意見もあった。今回設定されたような許可依頼の場面ではなく,例えば,上司に幹 事の担当を指示されたような,〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスがいず れも使える場面なら,これらの意見はそのとおりである。しかし,許可を得ていない場面 では〜(サ)セテイタダキマスの使用が不適切であることを認識できないと,知識が不十 分なまま,不適切に使ってしまう恐れがある。
一方,18名(75%)の協力者から〜(サ)セテイタダキマスの使用にについて「使え る」などの肯定的な意見が示された。
・就是想到请求这个句型,请求别人允许自己做某事。依頼の文型,自分が何かをする許 可を人に求めるときに使う文型として思いついて書いた。(301)
・因为平时上课的时候都会说 ご説明させていただきます 。授業でもよく「ご説明さ せていただきます」という言い方をするから。(308)
・可以。我感觉差不多一样,但是因为我授受关系一直概念不是很清楚。いいと思う。
「やらせてください」とほぼ同じような気がする。でも,授受表現についてはよく分 からないからはっきり言えない。(304)
301は〜(サ)セテイタダキマスを依頼の文型として捉え,自由産出課題で「担当させ ていただきます」と回答した。308のように,よく耳にする形式を手がかりに,〜(サ)
セテイタダキマスが使えるかどうかを考えている協力者もいれば,304のように〜(サ)
セテイタダキマスと〜(サ)セテクダサイの違いが分からない協力者もいる。
上記以外の肯定的な意見として,〜(サ)セテイタダキマスと〜(サ)セテクダサイと の違いについて,表現形式の丁寧さに着目した指摘が多かった。
・我觉得这个说法的话好像比我这个要郑重一些,因为它用到了 〜ていただきます 。 やらせて 用使役态,这样的话把主动权交到了上司手里。我觉得还挺好的,就是它 把最后的选择权给上司了。「〜ていただきます」を使っているので,私が書いたもの より丁重な言い方だと思う。「やらせて」の使役を使うことによって主導権を上司に 渡している。最後の決定権を上司に渡したのだから,いいと思う。(201)
・不过是更尊敬嘛,我觉得这个比那个 やらせてください 好一点。もっと尊敬する言 い方になっているだけだけど,「やらせてください」よりはいいと思う。(208)
・因为它用的是敬语。(略)跟上司说话用敬语。敬語を使っているから。上司に対して は敬語を使う。(306)
・放在语境之中,特别是对那个领导说的,所以可能要稍微尊敬一点。この状況では,特 に上司に言ってるのだから,もっと尊敬の気持ちが示せる。(402)
201の場合,〜(サ)セテイタダキマスと〜(サ)セテクダサイが共通して持つ〜(サ)
セテの部分に関しては,許可を与えるか否かの決定権が上司にあることを示すことができ ると指摘できている。その一方,〜(サ)セテイタダキマスは〜テイタダキマスの部分 に丁重さが現れるため,〜(サ)セテイタダキマスのほうががよいと考えている。208,
306,402は,〜(サ)セテイタダキマスが敬語の形式,または上司に対する尊敬の気持
ちを表せる形式だと捉えており,相手が上司であることを意識して,〜(サ)セテイタダ キマスの使用について肯定的に考えている。このようなは協力者は合計8名(33
.
3%)と なっており,4年次の協力者もいた。6-3.「任せてください」の使用に関する捉え方
「任せてください」の使用について,13名(54
.
2%)の協力者から肯定的な意見が示さ れた。・说了 任せてください ,就是 请你交给我吧 ,说明我很有信心。我很有信心才会这 么说。「任せてください」と言ったら,自信があるということだから。自信を持って いるからこういう言い方をする。(205)
・我有点分不清,好像两个都挺好的。只是如果我写的话,我第一感觉就是 やらせてく ださい 会比较好。「やらせてください」と「任せてください」の違いが分からない。
両方ともよさそうだが,自分が書くなら,直感で「やらせてください」を選ぶと思 う。(202)
理由として挙げられたのは主に,205が語ったような,「任せてください」が自信を表 明できるからというものである。202は「任せてください」に関しても肯定的な意見であ る一方,「やらせてください」との違いがはっきり分からないものの,「やらせてくださ い」を優先しようとしている。
「任せてください」について否定的な意見を示した協力者は11名(45
.
8%)いた。・ 任せて 就没有那种请让我来做的意思,就只是交给我吧,我肯定行这种。「任せて」
には「やることを許して」の意味がない。「絶対できるから任せて」の意味しかない。
(204)
・还不如那个 やらせてください 。你是啥身份哪。人家凭什么交给你你应该先陈述一 下。就是想说这句话你就应该先铺陈一下你有什么能力,老板才能看到我有什么什么, 然后最后来一句请放心交给我吧。「やらせてください」のほうがましだ。ものごとが 言える資格というものがあるから,なんで自分に任せられるのかをさきに言っておく べきだ。つまり,「任せてください」と言うなら,自分の能力について先に言ってお かないと,自分が持っているものをボスには見えなくなる。まず自分の能力をアピー ルして,最後に「安心して任せてください」と言うなら問題ない。(206)
・这样说的话,如果我做不好的话没法交代的感觉。そう言ったら,あとできちんとでき ないと弁解が効かないような気がする。(302)
・不是应该已经确定好了以后,知道了给我做了以后才再说一句 任せてください 吗
?
「任せてください」は結果が決まってから,つまり許可をもらってからでないと言え ないだろう。(208)
・ てください 有一种就是那个命令的感觉,所以我不太喜欢。(略)我觉得除了那个 てください ,其他的都可以。「てください」に命令の感じがあるのであまり好きで はない。(略)「てください」を使っていること以外はいいと思う。(210)
204は「任せて」は「やることを許して」という許可を求めている意味が薄いと認識し ている。206は,「任せてください」と言うなら,自分一人で幹事の仕事をこなせる能力 をアピールする必要があるという意見を示している。302は発言の責任という観点から,
「任せてください」と言ったからには成果を出さないといけないということを指摘してい る。208のような,許可を得るまでは「任せてください」が使えないと認識している協力 者と,210のように,「やらせてください」と同様に,「〜テクダサイ=指示・命令」とい う図式で捉えている協力者もいる。
7.まとめと今後の課題
本研究は,学習者の観点に立つ文法の習得研究の試みとして,許可を依頼する場面にお ける〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」との使用に ついて,学習者がどのような認識を持ち,取捨選択しているのかを自由産出課題とインタ ビューを通して調べた。
自由産出課題では,〜(サ)セテクダサイを使用した,または使用しようとしていると 思われる回答をしている協力者は4名(16
.
7%)のみであった。また,〜(サ)セテイタ ダキマスの回答と「任せてください」の回答も3件あった。自由産出課題で〜(サ)セテ クダサイを回答している4名は,インタビューでも〜(サ)セテクダサイの使用について 肯定的な意見を示した。その4名のうち,1名が自由産出課題で許可依頼の場面では使え ない〜(サ)セテイタダキマスも使用しようとしており,ほかの2名もインタビューで〜(サ)セテイタダキマスに関して肯定的な意見を示している。この結果から,学習者の使 用例のみに基づく分析の限界が示されており,自由産出課題のような方法だけでは調べら れない学習者の認識そのものを明らかにすることの重要性を再確認できた。本研究では,
自由産出課題で〜(サ)セテクダサイを回答した者だけでなく,協力者全員の捉え方をイ ンタビューで調べ,〜(サ)セテクダサイも含めて,〜(サ)セテイタダキマスと「任せ てください」に関する学習者の捉え方の実態および認識の問題の所在を探ることができ た。
インタビューの結果,「やりたい」のような願望表出系の形式などと比べ,〜(サ)セ テクダサイを使う「やらせてください」のほうが許可を切望していることをより明確に 伝えられると指摘できている学習者がいた。一方,〜(サ)セテクダサイが既習項目なの にもかかわらず,許可依頼の機能を十分に理解できていない学習者がいることも明らか になった。4分の1の学習者は「〜テクダサイ=指示・命令」という図式で,〜(サ)セ テと〜テクダサイを切り離して,〜(サ)セテクダサイの機能を捉えている。それゆえ に,〜(サ)セテクダサイが全体として依頼の機能を果せるという知識の獲得に至ってお らず,〜(サ)セテクダサイを使うと相手に指示・命令する言い方になると認識してしま うのである。上司に対して命令してはいけない,尊敬の気持ちを示す必要があるといった 意見があることから,学習者は人間関係を意識して表現形式を選択する社会言語知識を 持っていることが分かるが,〜(サ)セテクダサイの機能に関する知識はまだ不十分であ る。このような学習者は2年次の者の外,3年次の者もいることから,高年次の学習者で も必ず〜(サ)セテクダサイの機能の知識を獲得できているとは限らないことが分かる。
指導を通して,知識の不十分さに気づき,〜(サ)セテクダサイの機能を認識できるよう に促す必要がある。
学習者の機能に関する知識の不十分さは,許可を得ていない依頼場面では〜(サ)セテ イタダキマスが使えないことを指摘できた学習者がわずか2名のみというところにも表れ ている。インタビューの結果から,学習者は〜(サ)セテイタダキマスを敬語として捉え ていることが分かる。敬語を使う意識自体が不適切な表現を使用する結果を招くわけで はないが,〜(サ)セテイタダキマスには宣言の機能しかなく,依頼の機能がないという 知識も,その形式を適切に使用するうえでは必要不可欠なものである。インタビューの結 果,3分の1の学習者が,依頼の機能を持つ〜(サ)セテクダサイよりも,依頼の機能を 果たせない〜(サ)セテイタダキマスの使用を優先している。この結果は,学習者は〜
(サ)セテイタダキマスの機能を十分に認識できていないことを示している。〜(サ)セ テイタダキマスの使用を優先する4年次の学習者もいたことから,高年次の学習者でも〜
(サ)セテイタダキマスに依頼の機能がないことに気づかずにいる可能性があると考える。
このように,今回のインタビューで,〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマ スのそれぞれの機能に関する知識が不十分であり,〜(サ)セテクダサイに関しては,知 識の不十分の原因に「〜テクダサイ=指示・命令」といった捉え方があることが分かっ た。使役授受表現の指導の重要性は既に認められているが,上述の結果から,〜(サ)セ ルが授受表現と組み合わさってどのような複合形式で使われるのかだけでなく,複合形式 が一つのまとまりとして機能を果たし,形式によって機能も異なるという認識を促せる指 導の必要性も示唆されている。
「任せてください」に関しては,学習者にとって〜(サ)セテクダサイと「任せてくだ さい」の使い分けは難しいと考えていた。しかし,インタビューの結果,一部の2年次の 学習者は〜(サ)セテクダサイと比較して,「任せてください」のほうがより自信を示せ ること,「任せてください」と言ったからには成果を出さなければならないことを既に指 摘できている。2年次の学習者でも取捨選択の理由を言語化できている者がいた結果から,
習得および教室での指導の可能性があると考えられる。
これまでの習得研究では,文の自然さを評定する調査を通して学習者の使役文の自然さ に関する認識を調べる研究はあったが,学習者の評定結果だけの分析にとどまっており,
評定の理由も不明であった。本研究では,学習者に意見を語ってもらうインタビューを通 して,学習者の〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」
の使用に関する認識を調べることができた。「〜テクダサイ=指示・命令」といった図式 の捉え方や,許可を得ていない依頼場面でも〜(サ)セテイタダキマスのほうがよいと いったような取捨選択の意識があることを記述することにより,使役授受表現の指導にお いて,学習者の認識の不十分さに気づかせる必要がある対象を明確にすることができた。
もちろん,指導の対象が明らかになれば効果的な指導が行えるわけではないが,今回 のインタビューの結果が教室活動を考案する際に参考になれるのではないかと考える。例 えば,〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスの使い分けに焦点を当て,〜
(サ)セテクダサイしか使えない場面を提示し,学習者に〜(サ)セテイタダキマスが使 えるかどうか,そして,なぜ使えないのかについて,人間関係や許可を依頼する必要性な どの要素と結びつけて考えさせるといった教室活動が考えられる。そのような教室活動を 通して,場面に応じた適切な使用が重要といった抽象的な指導にとどまらず,場面にかか わるどの要素に着目して,どのように表現形式を取捨選択したらいいのかを具体例で示し て,学習者の認識を確認しながら知識の獲得を促進する効果的な指導に近づけられると考 える。
言うまでもないが,今回の調査で明らかになった,学習者が既に獲得している知識と不 十分な認識の両方を持ち合わせている状況は,習得途上の一時的なものにすぎない。より 効果的な指導を行うためには,学習者がどのように認識の不十分さに気付き,どのように 知識を獲得していくのかなど,学習者の習得のプロセスについても研究する必要がある。
今回の調査協力者は24名で特に4年次の協力者が少なく,各年次の差異や特徴に関す る詳細な考察には至らなかった。学習者は3つの表現形式の使用について「使える」「使 わないほうがいい」などの意見を示しているものの,理由については言語化できなかった など,調べられる認識に限界もあった。今後は調査方法を改善し,調査協力者を増やして