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博士学位論文審査報告書

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Academic year: 2021

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2016年 1月 6日

博士学位論文審査報告書

大学名 早稲田大学

研究科名 スポーツ科学研究科 申請者氏名 佐藤 隆彦

学位の種類 博士(スポーツ科学)

論文題目 進行方向の転換を伴う走動作における全身の回転運動メカニズム The Whole Body Rotation Mechanism during Running with Change of Traveling Direction

論文審査員 主査 早稲田大学教授 矢内 利政 Ph.D.(University of Iowa)

副査 早稲田大学教授 川上 泰雄 博士(教育学)(東京大学)

副査 早稲田大学教授 彼末 一之 工学博士・医学博士(大阪大学)

本論文は第1章から第5章までの本論と結論および文献から構成されている.

第 1 章 緒論

フィールド・コート競技において頻繁に行われる方向転換走動作は,相手選手をかわす際 や,ボールに素早く反応する際になどに広く用いられる.競技パフォーマンスが高い選手ほ ど方向転換走能力が高いという報告から(Kogh et al., 2003; Reilly et al., 2000),方 向転換走能力の向上は,競技パフォーマンスの向上に繋がると期待される.方向転換走能力 は,「直線走能力」,「脚筋群特性」,「技術」の3つの因子によって規定されており(Brughelli et al., 2008; Young et al., 2002),「直線走能力」および「脚筋群特性」に関する変数 を用いた相関関係について数多く報告されている.一方で,数値化が困難な「技術」と方向 転換走能力との関係性についての研究は少ない.方向転換走能力の向上を目的とした介入研 究においては,方向転換走能力に向上が見られた8件の報告の内6件で方向転換走動作の長期 間に渡る反復練習が行われていた一方で,向上が見られなかった研究では行われていなかっ た.これらの報告から,方向転換走能力の向上は,方向転換走動作の反復練習により運動技 術が習得・精錬されたことで生じたと考えられる.したがって,「技術」を規定する因子を 明らかにする為の運動学的研究を行うことで,方向転換走能力の向上に繋がる知見が得られ ると期待される.Baechle and Earle(2008)は,「方向転換時はスプリントの加速時と同 様の姿勢を,新たな進行方向に向けて取ることが重要である.」と記述している.これは,

水平面における身体重心の進行方向の転換と,身体重心を通る鉛直軸まわりの方位変化から 成る,方向転換走動作における全身運動に着目した先行研究で用いられる分析モデル

(Jindrich et al., 2006)において,後者に相当する.したがって,鉛直軸まわりの方位 変化メカニズムについて知見を体系的に明らかとすることで,方向転換走動作の技術を規定 する因子を抽出し得ると期待される.そこで本学位論文では,実際の試合中に行われる動作 の分類法として確立されているBloomfield Movement Classificationに基づいて,頭体幹の 方位変化の特徴から比較対象となり得る3種の動作を規定した.一つ目は同方向への進行方 向の転換を継続し,進行方向に正対した姿勢を維持する為の頭体幹の方位変化を伴う曲線軌

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道の走動作である曲線走動作,二つ目は走動作から一歩で急激に進行方向を転換し,新たな 進行方向に対して頭体幹を方位変化させ走動作を継続するターン走動作,三つ目は走動作か ら一歩で急激に進行方向を転換するものの,頭体幹の方位変化を伴わず,転換前の進行方向 に正対した姿勢を維持するスワーブ走動作であった.本学位論文では,これらの方向転換走 動作について角運動量を用いた動力学的分析を行うことで,方向転換走動作の技術を規定す る運動学的因子を明らかにすることを目的とした.

第2章 小さな半径の曲線走路における走動作における身体の方位変化メカニズム

健康な成人男性10人が直線走動作と軌道半径5mの曲線走動作を5m/sのスピードで行った.

曲線走動作における疾走方向は上方から見て反時計まわり方向であった.1走周期における 身体重心を通る鉛直軸まわりの各セグメントの角運動量を算出した.また,各接地期および 各空中期における角運動量の平均値を算出した.加えて,全身の角運動量を頭体幹,右下肢,

左下肢,右上肢,左上肢,両下肢,両上肢に分類し,走周期を通しての変化パターンを動作 間で比較した.曲線走動作における角運動量は全ての期において直線走動作よりも大きな周 回方向の値であった.頭体幹の角運動量は,直線走動作では正負の入れ替わる周期変化を示 したのに対して,曲線走動作における周期変化は走周期を通して周回方向の値であった.ま た,曲線走動作において,右下肢の角運動量は直線走動作と同位相の周期変化を示したが,

左下肢の角運動量は逆位相の変化を示した.曲線走動作において,左下肢は水平面上におい て前後方向の運動のみならず,頭体幹の方位変化とは逆方向の反周回方向の円運動を行って いた.この円運動が隣接するセグメントに生じさせる反作用として,頭体幹が走路に正対し 続ける為に十分な角運動量を獲得していたことが明らかとなった.なお,本研究は『体育学 研究』に掲載された(佐藤隆彦,矢内利政 (2015)半径の小さな曲線走動作における身体 の方位変化メカニズム. 体育学研究 60(2)577-601).

第3章 ターン走動作と曲線走動作における身体の方位変化メカニズム

健康な成人男性 10 名に,直線走動作,ターン走動作,曲線走動作を各 3 試行おこなわせ,

ターン走動作と曲線走動作では右下肢接地期において進行方向を左方向に転換させた.各身 体セグメントが有する身体重心を通る鉛直軸まわりの角運動量を算出し,頭体幹,右下肢,

左下肢,右上肢,左上肢,および全身に分類した.各空中期における全身の角運動量は区間 を通しての平均値として算出した.接地直前の空中期における全身の角運動量は,ターン走 動作と曲線走動作が直線走動作と比較して有意に大きく,離地直後の空中期における全身の 角運動量は,曲線走動作が他の 2 動作と比較して有意に大きかった.これらの結果から,新 たな進行方向への頭体幹の方位変化を生み出す角運動量は,ターン走動作および曲線走動作 では接地以前から準備されており,その角運動量はターン走動作では接地期を通して失われ ることが示された.ターン走動作における接地直前の空中期を通して,右下肢が有していた 転換方向の角運動量が急激に減少し,接地期では大きな反転換方向のピーク値を示した.本 研究により,ターン走動作において方向転換後に新たな進行方向へ頭体幹を正対させる為の 方位変化は,接地期に獲得した外力のモーメントではなく,右下肢からの角運動量転移,お よび右下肢の後方へのスイングによる反作用によって生み出されていることが示された.

第4章 ターン走動作とスワーブ走動作における全身回転運動の違い

方向転換時に新たな進行方向への頭体幹の方位変化を伴うターン走動作と,頭体幹の方位 を変化させず進行方向のみを転換するスワーブ走動作における全身回転運動の違いを明ら かにすることを目的とし,10名の健康な成人男性に右足で左方向に進行方向を転換するター ン走動作とスワーブ走動作,および直線走動作を行わせた.進行方向の転換を行う接地期の

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前後の空中期における身体重心まわりの角運動量の鉛直成分を算出した.接地直前の空中期 における角運動量は全動作間に有意差が見られた一方で,離地後の空中期における角運動量 に動作間差は見られなかった.これらの結果からターン走動作およびスワーブ走動作におい て進行方向の転換が行われる接地期よりも前に,全身の回転運動における準備動作が生じて いたことが示された.また,この準備動作の程度は,スワーブ走動作の方がターン走動作と 比較して小さかった.接地直前の空中期における右下肢の角運動量は,ターン走動作および スワーブ走動作ともに直線走動作よりも顕著な減少方向への変化を示した.特にターン走動 作では分析開始時点で大きな転換方向の角運動量を有していたことから,この角運動量を他 のセグメントに転移することで身体の方位変化を開始していたものと考えられる.本研究に より身体の方位変化を伴わないスワーブ走動作では,ターン走動作と比較して右下肢に大き な転換方向の角運動量を準備する必要がない為,より小さな準備動作で進行方向を転換でき ることが明らかとなった.

第5章 総括論議

本学位論文によって,動作様式が異なる方向転換走動作において,それぞれの技術を規定 する因子が明らかとなった.同方向への頭体幹の方位変化が周期的に継続する動作では,大 きな全身の角運動量を維持すること,および,内側下肢の運動によって大きな反作用を生み 出すことが,頭体幹の方位変化が突発的に行われる際は,限られた地面反力から大きな角力 積を獲得すること,および,接地する下肢セグメントの運動により大きな反作用を生み出す ことが,頭体幹の方位変化が生じない際はセグメント間の作用・反作用のみを用いて,進行 方向の転換に要される向心力を獲得しうる姿勢を生み出すことが技術を規定する因子であ ることが明らかとなった.

本論文の評価

本研究は,3つの異なる方向転換走動作のそれぞれについて,身体方位を変化させるため の運動学的な規定因子を明らかにした.方向転換走能力を規定する要因として挙げられてい る「直線走能力」,「脚筋群特性」,「技術」の中で,数値化が困難な「技術」に着目し角 運動量を用いた動力学的分析を行うことで,方向転換走動作の技術を規定する運動学的因子 を明らかにした本研究の意義は高い.方向転換走能力の向上に繋がる基礎的知見が得られた ことで,方向転換走能力の更なる技術解明を進め,パフォーマンスを向上のための理解を深 める大きな原動力になるものと考えられる.

上記のような評価を得て,本審査委員会は佐藤隆彦氏の学位申請論文が博士(スポーツ科 学)の学位を授与するに十分値するものと認める.

学術論文

○ 佐藤隆彦,矢内利政 (2015)半径の小さな曲線走動作における身体の方位変化メカ ニズム. 体育学研究 60(2)577-601.

以上

参照

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