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(1)

枕詞はいかに成立しいかなる変化の過程を経たのか : 柿本人麻呂に至るまでの〈枕詞〉の歴史的過程

著者 藤川 雅志

出版者 法政大学大学院

雑誌名 大学院紀要 = Bulletin of graduate studies

巻 84

ページ 150‑131

発行年 2020‑03‑31

URL http://doi.org/10.15002/00023137

(2)

枕 枕 詞 詞 は は い い か か に に 成 成 立 立 し し い い か か な な る る 変 変 化 化 の の 過 過 程 程 を を 経 経 た た の の か か

――

柿 柿 本 本 人 人 麻 麻 呂 呂 に に 至 至 る る ま ま で で の の 〈

〈 枕 枕 詞 詞 〉

〉 の の 歴 歴 史 史 的 的 過 過 程 程 ――

人文 科 学 研 究 科 日 本 文 学 専 攻

博士 後 期 課 程 三 年

藤 川 雅 志

はじ め に( 梗 概) 上代

文 学、 とり わけ 歌 謡・ 和歌 等を 解 明す る 上で

、枕 詞の 問 題は 避け て 通る こと は で きな い

。本

『紀 要

』前 号( 八三 号

)で は

、柿 本人 麻呂 が 枕詞 を文 芸 的な 技 法と して 見 事 に使 いこ な した 事例 と して

、彼 の宮 廷歌 人 とし て の活 動中 後 期の 作品 と いえ る明 日 香 皇女 挽 歌に つい て 取り 上げ た とこ ろで あ るが

、本 論で は始 め に人 麻呂 と 枕詞 の 強 い係 わり が 実感 でき る よう

、宮 廷歌 人 とし て比 較 的初 期の 作 品と いえ る 軽皇 子が 安 騎 野に 宿 った 時に 作 った とさ れ る歌

( 長 歌部 分) を 提 示し てみ る こと にし よ う。

(枕 詞 と考 え られ る部 分 に傍 線を 付 す。

) や

す み しし

我 が 大 君 高 照ら す 日 の 皇 子 神な が ら 神 さ び せ すと

太 敷 か す 京 を 置 き て こ も り く の 泊 瀬 の 山 は 真 木 立 つ 荒 き 山 道を

岩 が 根 禁 樹 押 し な べ 坂 鳥 の 朝 越 え ま し て 玉 か ぎ る 夕 さ り 来 れ ば み 雪 降 る 安 騎の 大 野に

は た すす き 篠 を押 し なべ

草 枕 旅 宿り せ す 古思 ひ て

( 四 五 番歌

人麻 呂 は長 歌を 中 心に

、こ の よう に 多く の枕 詞を 使 用し て いる

。こ の 枕詞 につ い て、 岩 波 広辞 苑 など を 見 ると

、「 昔の 歌 文に 見 られ る 修 辞法 の 一。 特 定の 語 の 上に か かっ て 修 飾ま た は口 調を 整 える の に用 いる こ とば

。( 以下 略)

な どと 説明 さ れて い る。 た だ正 直 なと ころ

、こ う した 説明 は 現存 資料 に 見ら れる 枕 詞を 現象 的 に機 能 面か ら説 明 す るも ので は あっ ても

、そ の 本質 に つい て、 成立 の 謎か ら、 それ が 歌謡 等 にお ける 修 辞 と し て 頻 繁 に 利 用さ れ る に 至 る ま で の過 程 を ト ー タ ル に 説 明す る も の で は な い ので ある

。そ の た め、 長 い時 間 をか けて 生 成し 定 着し てき た 多種 多様 な 枕詞 を全 体 と して 把 握す る場 合 も、 ま た 次に それ ぞ れの 作品 に おけ る問 題 とし て 個別 に説 い てい こ うと す る際 にも

、し ばし ば それ をど う 理解 す れば いい の かと 難し い 判断 に見 舞 われ る こ とも 少な く なか った の であ る。 こう し たこ とも あ り、 近 代に お ける 上代 文 学研 究 の歩 みを み ると

、こ の 枕詞 と は何 か とい う こと に関 し て問 題 とさ れる 機 会が 多く 存 在し たの で ある

。こ の研 究 史に 見ら れ る 問題 意 識 とい え ば、 大 きく は 次の 二 点 に収 斂 され る ので は ない か と 考え ら れる

。 一 つは そ もそ も 枕詞 なる も のは いか な る存 在で あ り、 そ れ が文 字 のな い時 代 も含 めど の よ うに 成立 し

、そ れが いか に その 後も 継 続的 に使 用 され 続け て いっ たの か とい う 点 であ る。 そし て もう 一点 は

、文 字の 時 代に 入り 歌 人た ちが

、歴 史 的に 形成 さ れて き た 枕詞 を かな り自 由 に作 品中 に 駆使 する よ うに な り、 中 には 自 ら新 た に創 造し た 枕詞 を

(3)

使 う人 麻 呂の よう な 文芸 的実 践 まで 現れ る よう に なる が、 こう した 歌 人た ちの 取 り組 み を通 し て枕 詞と い うも の の持 つ意 味 を、 明 ら かに しよ う とす るも の であ っ たと いえ る

。 すな わ ち前 者は

、枕 詞 の 本質 が何 で ある か を明 らか に する ため に

、そ の 発生 か ら定 着 へと 至 る、 そ のプ ロ セス につ い て究 明し よ うと する も ので あ り、 後 者は その 最 盛期 と もい え る歌 人 たち の実 践 の成 果を 通 して

、枕 詞の 本 質を 明ら か にし よう と いう もの で あ ると い える であ ろ う。 本 論は 一連 の 本『 紀 要』 誌 での 論考 に 続き

、基 本 的に は 人 麻呂 にお け る文 芸表 現 につ いて の 究明 を 目指 すも の であ るが

、今 回は そ のた めに も 避 けて 通 るこ との で きな い枕 詞 の問 題、 とり わけ そ の歴 史的 な 展開 の 跡を たど る 中で 枕 詞に 関 する 本質 的 な解 明 と、 こ の枕 詞 の問 題 を通 じて 日 本の 和歌 や 歌謡 史中 に おい て 人 麻呂 が行 っ た文 芸的 な 実践 の意 味 等に つ いて 迫っ て みた いと 考 える

。こ うし た視 点 か ら、 以 下、 第一

枕詞 はこ れ まで にど こ まで 究明 さ れて きた の か 第二

枕詞 発生 の 原理 とそ れ が定 着へ と 至る 過程 第三

枕詞 は成 立 した 後に い かな る変 化 を遂 げた の か 第四

人麻 呂に よ る枕 詞を 文 芸作 品に 生 かす 実践 の 意味 と いう 四 点の 項目 に つい て順 序 立て て論 じ てい く こと によ り

、枕 詞 と は何 かの 本 質的 な 把 握の う えに

、「 枕詞 は いか に 成 立し

、 いか な る変 化 の過 程 を 経た の か」 と いう 点 に つい て 明ら かに し てい きた い

第 一 枕 詞 は こ れ ま で に ど こ ま で 究 明 さ れ て き た の か

一 枕 詞 の発 生 から 定着 ま で

( 一) 枕 詞研 究の 枠 組み と して の折 口 信夫 の論 近代 に 入っ てか ら

、種 々 の枕 詞 研究 に先 鞭 をつ け たの は折 口 信夫 であ っ たが

、そ の 主 張 は今 なお 枕 詞研 究の 基 礎的 な枠 組 みと して 生 きて い ると も考 え られ るの で

、ま ず は『 古 代研 究( 国文 学篇

)』 にお け る折 口 の基 本的 な 認識 の紹 介 から 始め て みた い。

折口 は 枕詞 の発 生(

①と す る) に 関 して は、

「枕 詞の 成 立に は色 々 ある が、 古い 枕詞 は ある 音 を起 こす 為 のも の であ る。 其か らあ る 意味 を持 つ たも のと し ての 語 に係 る様 に な つて 来る

」と した う えで

、「 枕 詞が 日常 対話 に 用ゐ ら れた こと は

、考 へ ら れな い。 託 宣 の詞 に 限つ てあ る こと であ つ た」 と、 非日 常 的な もの と して 託 宣起 源説 を 唱え た。 その う えで

、枕 詞が 定着 す るプ ロセ ス(

②と す る) に 関し て

、「 固定 した 枕 詞が 出来 る まで に は、 か なり 年 代を 経て 居 るの で

、今 の 合理 感に は 這つ て 来な いの も 道理 であ る

」と

、枕 詞 が文 字記 録 の存 在し な い長 い 時間 的経 過 を経 るこ と によ って 成 立に 至っ たも ので あ ると する の であ る。 そし て

、枕 詞 が成 立 した 後(

③ と する

)は

、「 其が

、叙 事詩

・寿 詞 に 結び つい て 伝誦 せ ら れ、 民 謡・ 創 作 詩の 時 代に な つて も

、修 辞 部 分と し て重 ん ぜら れ て ゐた

」 こと

「 枕詞 の 使用 久し く して

、其 を う ける 語と の 結合 が 密接 にな り きつ てし ま ふと

、枕 詞 が 実 質の 内 容 を持 つ こと

」 や、

「 其 が内 容 と関 連 す る様 に なる と

、譬 喩 に 一歩 踏み 入 る 事に な る」 と、 歴史 的 な経 過に 伴 って 枕詞 の 使用 され る 範囲 が 広が ると と もに

、枕 詞 自 体が 枕詞 の かか る対 象( 被 枕詞

)と 同 じ内 容を 意 味す る もの とな った り

、ま た枕 詞 が 対象 を譬

( 比) 喩 する 形 で用 いら れ るよ う にな るな ど

、そ の 性質 面で も 変化

・ 発 展が みら れ るこ とを 明 らか にし た ので ある

。 こ うし た 折口 の 主 張は

、〈 論

〉 と して 扱 うに は 余り に も荒 削 り な内 容 であ り

、そ の 後 の論 者 たち が様 々 な形 でそ の 間隙 を 埋め てい く こと にな る わけ であ る が、 し か し折 口 の示 し た、

①枕 詞 の発 生、

② 枕詞 が定 着 する プロ セ ス、

③枕 詞成 立 後の 展開 や 変化 と い った ポイ ン トに つ いて は、 こ の問 題 を扱 う うえ で核 心 とも いえ る 論点 であ り

、そ の意 味で 折 口が 果た し た役 割は 大 きな もの が あっ た とい える で あろ う。

(4)

ただ 折 口の 場合 に は、 こ れら の 主張 が、 枕 詞が 文 字の ない 口 承段 階に 発 生し 定 着に 至 った も のだ とい う 前提 のう え で、 そこ を強 く 意識 しな が ら展 開さ れ てい るの に 対し

、 折 口 以降 の土 橋 寛ら の研 究 者の 多く は

、文 字 と なっ た 文献 資料 の 解読 の中 か ら枕 詞の 謎 を 探 ろう と して い るた め

、文 字 化 され た 枕詞 に 対す る 考 察は 厚 みを 持 った 半 面で

、 折 口 が強 く意 識 した 文 字化 以前 の 枕詞 の発 生 や、 そ れ が定 着し て いく プロ セ スに つい ての 考察 は

、そ れほ ど の進 展を み てい ない と いう の が実 情な の でる

( 二) 折 口説 の間 隙 を論 じる 土 橋、 西郷

、 吉本

、 古橋 らの 見 解 以上 を 押さ えた う えで

、次 に折 口論 の 間隙 を埋 め る役 割 を担 うこ と にな った そ の後 の 研究 成 果に つい て も目 を向 け てみ る こと にし よ う。 まず は

、① の 枕詞 の発 生 に関 し てで ある が

、折 口 に続 いて 枕 詞の 問題 に 大き く 着目 し

、 具体 的 に文 字 資料 の 検 討に 尽 力し た 土橋 は

、「 枕 詞 が歌 謡 や 和歌 に 用い ら れて い る こと は いう まで も ない が、 私は そ の外 にも う 一つ

、神 の託 宣 にお い て、 きわ めて し ば しば 用 いら れて い る事 実を 指 摘し た い」 と する

(『 古代 歌 謡論

)。 も ちろ ん 文献 と して 残 る資 料の 解 読に 力を 注 ぐ土 橋は

、こ の点 を 文字 のな か った 時 代の 枕詞 の 発生 の 問題 に 結び 付け て いる わ けで はな い が、 こ の 指摘 が折 口 の枕 詞起 源 論を 間 接的 に支 援 す るも のと な って いる こ とは い うま でも な いで あろ う

。そ のう えで 彼 は「 神名

・地 名 に 枕詞 の 原初 形態 が 認め られ る こと

、そ し て 神名 また は その 枕詞 と

、地 名 の枕 詞 と の間 には 意 味・ 機能 上 及び 構 造上 相通 ず るも のが あ る」 とも 述 べて いる

〈 参 考事 例〉

( 土橋 の 指摘 する 地 名・ 神名 に 冠す る 枕詞 の例

〇地 名「 さ さ浪 の 志 賀( 大津

)」

「神 風の

伊勢

」な ど

〇神 名「 宇 麻志

阿 斯 訶備 比古 遅 神」

「 天照

大 日 孁尊

」 など また 西 郷信 綱は

、折 口 論を 受け て「 枕 詞が 呪 的起 源の も ので ある こ とは

、ほ ぼ明 ら か に なっ て いる

」 とし た うえ で

、「 土 地 な り物 な りの 上 に、 一 定の た た えこ と ばを 冠 ら せる と

、そ の 詞章 の呪 力 によ っ て土 地な り物 な りが 祝 福さ れ、 生 命が 旺 んに な ると

信 じ られ て いた のだ ろ う」 と

、よ り一 歩 進め た 見解 を 披歴 す る(

『 詩の 発 生』

)。

う した 枕 詞の 起源

、そ の発 生に 関 する 注目 す べき 見 解は 実際 に はこ こま で であ り、 九 十 年 以 上 も 前 の 折口 説 が 基 本 的 に は 現 在で も 生 き て い る 状 態と い っ て も よ い と いえ る の であ る。 次に

、② の 枕詞 が 定着 する ま での プロ セ スに 関し て いえ ば

、折 口が その 間 には

「か な りの 年 代を 経 てい る」 と 時間 軸 を主 張し た のに 対 し、 土橋 は「 枕 詞 の特 長 は、 被修 飾 語 と の結 合 関係 の 慣習 性

・固 定 性 にあ る ので あ って

( 中 略)

、 枕詞 の 固 有性 と いう こ と は

、他 面 から い えば 社 会性 と い うこ と であ る

。( 中 略

)そ れ が社 会 化 して 誰 もが 慣 習 的に 用い る よう にな っ て固 定 関係 が生 ずる の であ る から

、枕 詞が 完全 な 枕詞 とな る た めに は 社会 化と い うこ とが 条 件に なる

」と す るの であ る

然こ れ は、 折 口の い うよ う な時 間軸 を 経た う えで 枕詞 の 社会 化が 生 じて

、結 果 と して それ が 定着 し、 成 立 す るこ とに な ると いう こ とで あ ろう

。 こ の枕 詞 の社 会 化 とい う 点に 関 し、 枕 詞の 文 芸 的な 意 味つ い て論 じ た吉 本 隆 明は

、 そ の 成立 時 にあ っ て「 枕 詞が 枕 詞 とし て 独立 す るた め に は( 中 略)

、 あ る地 域 的な 共 同 体の 内 部で

、枕 詞 自 体が 共同 幻 想の 象徴

( 名 所、 名 物、 信 仰に 関 わる もの

、市 で あ る こと 等

)に なり 得 なけ れば な らな い

」と する

(『 初 期 歌謡 論』

)。

ま た古 橋信 孝 は、 枕 詞は

「〈 共 同性

〉を 象 徴 する

、凝 縮 さ れた 表 現」 で あり

、「 枕 詞の つい た地 名 は、 そ の 土 地を 讃め た こと にな る とい う 構造

」を 持 ち

、「 そ れ は〈 共 同 性〉 の 表現 で あっ たと い う こと に なる

」と す る(

『 万葉 歌の 成 立』

) ので あ る。

この 吉 本、 古橋 両 氏の 見解 は

、厳 密に は論 点 はや や異 な るが

、い ず れも 土橋 の いう 枕 詞の

「 社会 化」 が、 結果 とし て 共同 体内 で「 共 同幻 想」 や「

〈共 同 体〉 の 表 現」 とい う 形の 意 味あ る表 現 とし て 定着 して い く点 を捉 え たも ので あ り、 論 理 的に は それ らの 見 解 に大 きな 違 いが ある も のと は いえ ない で あろ う。 し たが っ て、 以 上の 四 者の 見解 が

、枕 詞が 枕詞 と して 定着 し てい く プロ セス に 関し て、 現 時 点で の到 着 点と もい え る もの であ る

(5)

〈 参 考事 例〉

( 吉本 及 び古 橋の 指 摘す る枕 詞 の例

〇吉 本「 お して るや

難波 の埼 よ

」「 蘆 が散 る 難 波に 年は

」 など

〇古 橋「 早 雨 くた み の山

」「 妹 が紐

結八 河内

( ゆふ や かふ ち) を

」な ど

( 三) 発 生か ら定 着 段階 の枕 詞 につ いて の 留意 点 詳細 に つい ては 後 で論 じる こ とに して

、こ こ で簡 単 に、 この

①枕 詞 の発 生と

、② そ の 定着 ま での プロ セ スに つい て コメ ン トし てお く こと にし た い。 ま ず、 口 承レ ベ ルの 言 語( 言葉

)の 活 動が 繰 り広 げら れ てい た 過程 の中 で

、〝 枕 詞的 な るも の〟 が 発生 し、 そ れ が固 定 した 枕詞 と して 定着 す るま でに は「 かな りの 年 代を 経」 た のは 間 違い の な いこ とで あ ろう

。そ の た めに は〝 枕 詞的 なる も の〟 が次 第 に社 会 化し

、や が てそ れ が 日本 語 に おけ る 一つ の

〈語 の 形〉 と し て定 着 して い った も のと 考 え る必 要 があ ろ う。 そし て その ため の 要件 とし て は、 同じ 言語

・社 会 に生 き てい る人 々 の空 間、 すな わ ち そ の 共同 体 と いう も の を 視 野 に 入れ な け れ ば な ら な いこ と は 当 然 の こ と で ある と い え よう

。つ まり 枕詞 の 成立 は、 あ る 日突 然に 天 から 降っ て 成立 した よ うな もの で はな く

、折 口の 言 う通 り共 同 体の 中で 長 い時 間を か けて 形成 さ れた も ので ある と いう こと で あ る。 この 点 に関 し ては

、全 く 異論 のな い とこ ろで あ る。 しか し なが ら、 枕詞 の 発生 に関 し て、 託宣 に 由来 する

、あ る いは 呪的 起 源を 持つ と い われ て も、 そ もそ も 当時 それ ら の実 像が 具 体的 には い かな る もの であ っ たの か、 ま た「 呪的

」な 起源 とは い かな る事 態 を指 して い るの かの イ メー ジ が余 りに も 希薄 であ り

、そ うし た古 代 社会 にお け る宗 教的 な るも の と、 言 葉の 問題 で ある 枕詞 以 前の

〝枕 詞的 なる も の〟 とが ど のよ うに 関 係し てい た のか

、ま たそ れら に おい て

〝枕 詞的 な る もの

〟 がい かに し て固 定化 と いう 形で 質 的転 化を 遂 げて いっ た のか

、さ らに は その 過 程が

、社 会す なわ ち 共同 体と ど のよ うな 関 係性 の中 で 進ん で いっ たの か 等、 そ のプ ロ セ スに つ いて 不鮮 明 な点 が多 す ぎる とい う べき で あろ う。 もち ろ んこ うし た 点に 関し て は、 そ れ は文 字の な かっ た時 代 のこ と だか ら今 さ ら具

体 化 は難 しい と いう 釈明 も あり 得 ない わけ では な いが

、文 字の な い時 代で あ るこ とを 前 提 に右 の 諸見 解が な され てい る 以上

、そ の 考 察を さら に もう 一歩 緻 密に

、か つ 論 理 的に 組み 立 てて いく 余 地は 十分 に ある は ずな ので あ る。 二

枕詞 の発 展 と衰 退

( 一) 文 字と して 残 され た 枕詞 の分 析

(土 橋寛

) 右に 比 べる と、

③ の 枕詞 が成 立 した 後の 段 階に 関 して は、 実 際の 文 献資 料 を基 本と し な がら の考 察 が可 能で あ る分

、よ り多 角的 な 分析 や 検討 が行 わ れる よう に なっ てい る と いえ る であ ろう

。先 に 折 口に つ いて は、 枕 詞が 定 着し 成 立し た後 は叙 事 詩や 寿 詞 に、 そし て民 謡・ 創 作詞 の 修飾 部分 に まで 広が っ てい った こ と、 そし て 枕詞 と被 枕 詞 との 結 合が 密接 に なる と、 枕詞 が実 質 の内 容を も 意味 する も のと な った りも す るこ と、 ま た 枕 詞と そ の 内容 と の 結 び つ き が 進む こ と に よ っ て 譬 喩的 表 現 に も な り 得 るこ と 等

、そ の 変化

・ 発展 につ い て論 じて い るこ とを 指 摘し たと こ ろで あ る。 主に 文 字文 献を 中 心に 分 析を 進め た 土橋 にあ っ ては

、枕 詞が 成立 し た後 の 段階 にお け る こう した

「 変化 と 発展 の過 程

」に つ いて は、 こ と さら 注目 す るも ので は ない

。し か し なが ら 土橋 なり の 立場 で、 この 過 程に も当 然 関わ る「 枕 詞の 特徴 は

、被 修飾 語 と の結 合関 係 の慣 習性

・固 定 性 にあ る

」と いう 視 点か ら

、こ の 関係 の分 析 を進 め、 枕 詞 を固 有 名詞

( 地名

・人 名又 は 神名

)に 冠 す る枕 詞、 普通 名詞 に 冠す る枕 詞

、用 言( 形 容詞

・動 詞・ 副 詞を 含め て

)に 冠す る枕 詞 に分 類し

、具 体 的な 分析 を 進め る ので ある

そ の結 果

、「 歌 謡

・和 歌 以外 の 散 文資 料

(記 紀

・風 土 記な ど の 神道 的 内容 を 持つ 本 文

)で は

、殆 ど全 部 が地 名・ 神 名に 冠す る もの

」で

、「 記 紀 歌謡 にお い ても 固有 名 詞に 冠 する も のが 半 数以 上を 占 め、 普 通名 詞 に冠 する も のが これ に次 ぎ

、用 言 に冠 す るも の は極 め て少 ない

」こ と

、こ れに 対 し「 万葉 集 にな ると 三 種の 枕詞 の 数的 比 率の 関係

(6)

が 崩れ て 普通 名詞 に 冠す るも の が著 しく 進 出し

、用 言に 冠す る もの も 多く なっ て くる こ と」 を 指摘 する の であ る

。 この 土 橋の 視点 を

、別 の角 度よ り 捉え 直す な らば

、土 橋 のい う散 文 資料 と、 歌謡 や 和 歌に 使 用さ れる 枕 詞の 違い は

、枕 詞の 成立 やそ の 性質 の 違い を考 え るた めの 重 要な 情 報と し て捉 え るこ とが 可 能で あろ う

。ま た

、記 紀 歌謡 と 万葉 集 にお ける 枕 詞と の違 い に つい ては

、口 承文 芸時 代 の側 面を 色 濃く 残 す前 者と

、文 字 化 され てよ り 芸術 化さ れた 文芸 と なっ た和 歌 との 間の 変 化や 発 展の 跡を 考 える うえ で

、貴 重 な 示唆 を与 え て くれ る 指摘 で あ ると い えよ う

。こ れ らに つ い て詳 し くは

、 後ほ ど 論じ る こ とに な る。

〈 参考 事 例〉

( 土橋 の 指摘 する 普 通名 詞・ 用 言に 冠 する 枕詞 の 例)

〇普 通名 詞

「白 妙の

袖」

「 いす くは し 鯨

」「 若 草の

妻」 な ど

〇用 言「 朝 日の

咲 み 栄え 来て

」「 刈 薦 の 乱れ ば 乱れ

」 など

( 二) 文 芸作 品の 中 で展 開さ れ た枕 詞へ の 視点

(西 郷 信綱

) また も う一 人、 枕詞 の成 立 後の 文字 文 芸化 され た 枕詞 への 考 察を 熱 心に 進め た のが 西 郷信 綱 であ る。 西 郷は 記 紀歌 謡、 万 葉 集に おけ る 枕詞 を「 詩 学」 と いう 観 点か ら論 じ

、「 大 和」 に か かる

「 あ きづ 島」

「そ ら みつ

」「 しき し まの

」の 三つ の 枕詞 や、

「出 雲

」 に か かる

「 八雲 立 つ」 と「 やつ め さす

」の 枕 詞を 例 に、 こ うし た 事例 から み ると 枕詞 と被 枕詞 と の関 係は 決 して 固定 的 なも の では なく 複 数あ り、 それ らが 状 況に 応じ て 選 択的 に 使用 され て いる こと

。ま た

、祝 詞 に は枕 詞が 用 いら れず

「 枕詞 は

、た ん にオ ー ラル な 律文 一般 に では な く、

(中 略

)特 定の 韻 律単 位を 有 する も のに 固有 な 修辞 技法

」 で あり

、「 枕詞 の 使用 が 歌謡 に お いて い ちじ る しい の も、 も と より そ の持 つ 韻律 単 位 と関 連 する

」と

、そ の 成立 の問 題 とは 別に

、そ れ が次 第 に言 葉に よ る文 芸作 品 であ る 歌 謡の 中で 特 化し てゆ き

、そ の 中 でそ の 韻律 を支 え るも のと し て発 展し て いっ たこ と を 指摘 す るの であ る

(『 古 代の 声』

)。

そし て その うえ で

、古 事 記上 巻 にお ける 八 千矛 神を め ぐる 一連 の 歌を 例に

、そ こで

は 枕 詞が 比( 譬

)喩 と して 使 われ てお り「 伝 統 的な 枕詞 の 枠を や やは み出 す もの

」と な り

、そ こ で は「 す でに 枕 詞の 新 たな 分化 や 変化 がき ざ しつ つ」 あっ て、

「演 劇的 な

、 また 芸術 化 の進 んだ 作

」と なっ て いる とす る ので ある

。こ う した 見解 は

、折 口の い う 枕詞 が やが て譬 喩的 表 現に な って いく と 述べ てい る こと を

、よ り 具体 的 な事 例 を通 し て論 じ てみ せて く れた もの で ある と いえ よう

。ま た 同 時に そ れは

、具 体 的な 枕 詞と 被 枕 詞の 関係 性 の問 題に つ いて 考察 し た先 の土 橋 の分 析 結果

、す なわ ち土 橋 のい う散 文 資 料、 記 紀歌 謡

、万 葉 集に お ける 枕詞 の 違い に関 す る指 摘を あ たか も基 礎 的な デ ータ と して 生 かし なが ら

、そ の 違い に つい て西 郷 なり に、 枕 詞 にみ る文 芸

=言 葉の 芸 術化 へ の歩 み とい う 点か ら解 釈 を加 え、 その 意味 を 捉え 返し た もの と いう こと も でき るわ けで あ る

。 西郷 は

、さ らに

「芸 術 化に とも な うこ うし た 分化 や変 化 をさ ら にお し進 め

、枕 詞の 歴 史 を決 定的 に 書き かえ た のが 柿本 人 麿で あっ た

」と し、 人麻 呂 は「 文字 以 前の オー ラ ル な言 語の 落 とし 子 とし て伝 承 され てき た 枕詞 を、 文字 によ る 創作 歌に ふ さわ しい もの へと 作 りか えて 再 生し よう と 試み

(中 略

)、 彼 にお ける 枕 詞の

「独 創 性」 や「 芸 術 性」 も そこ に由 来 する

」と す る

。そ の うえ で「 口 承言 語 の母 斑を も つ枕 詞 を文 字の 芸 術と し て再 生し よ うと する こ とが

、す で に 一つ の自 家 撞着 で あり

、枕 詞 の扼 殺 であ り うる

」 と、 そ の衰 退に つ いて まで 触 れる ので あ る。 この 枕 詞の 衰退

④と する

)と 人 麻呂 との 関 係に つい て は、 土橋 も 人麻 呂は 伝 統的 な「 社 会 化さ れた 枕 詞も 用い る が、 自ら 新 しい 枕詞 を 作っ ても い るの であ っ て、 一個 人 が 枕詞 を作 る とい う こと は、 枕詞 の 歴史 から い えば

、枕 詞 の伝 統の 破 壊で ある

」と いっ てい る

。も ち ろん

、そ れ は「 他 面か ら いえ ば 枕詞 の革 命

」で もあ ると 補 って もい る ので は ある が

こう し た枕 詞の 歴 史に お ける 人麻 呂 の作 歌の 意 味や

、そ の後 枕 詞が 次第 に 衰退 へと 向 か って いっ た プロ セス に つい ては

、大 きな 内容 を 含ん でお り

、後 で 具体 的 に論 じる こ と にし たい

(7)

第 二 枕 詞 発 生 の 原 理 と そ れ が 定 着 へ と 至 る 過 程

前項 で はこ れま で の研 究事 例 をふ まえ な がら

、① 枕 詞 の発 生か ら

、② 枕 詞と し て定 着 して い くプ ロセ ス

、そ し て③ 枕 詞成 立以 降 の展 開や 変 化に つ いて

、さ ら に人 麻 呂の 段 階で 枕 詞の 歴 史上 の隆 盛 期を 迎え た うえ で

、④ 枕 詞の 衰退

、に 至る 一連 の プロ セス に つ いて 整理 を 試み て きた

。そ し てそ の 整理 の 結果 とし て

、こ れ まで とも す れば バラ バラ に見 え てい た先 学 たち の考 察 が、 同 じ 思考 の 線上 に並 んで き たこ と が実 感さ れ る ので あ る。 し たが って こ こか らは 以 上を 前提 に

、途 中 でコ メ ント を差 し 挟ん だ 箇所 な どの 未 だ解 明が 足 りず

、従 来の 研究 だ けで はと て も論 理 的な 説明 と はい えな い よう な

、 その

〈 間隙

〉 をさ らに 埋 める べく 考 察を 進め て みる こ とに しよ う

。 一

枕 詞 とは 何 か まず

、以 上 ま とめ た中 で 土橋 がこ だ わっ て いた よう に

、枕 詞 なる も のは それ 自 体で 意 味を 持 つも ので は なく

、必 ず被 枕 詞と の関 係 性の 中で 機 能す るも ので あ ると いう 点 に つい て 述べ てい こ う。 す なわ ち

、枕 詞 はそ れ 自体 が単 独で は 枕詞 で はあ りえ な いも の なの で ある

。も ち ろ ん、 折 口の い うよ うに 枕 詞が 完全 に 確立 して 頻 繁に 使 われ るよ う に なっ て以 降 は、 たと えば

「 たら ちね

」と い えば それ 自 体が 実 質の 意味 を 担う よう に な る例 も ない とは い えな いが

、そ れ は「 たら ち ね= 母」 と枕 詞 が名 詞化 し てし ま っ たこ とを 意 味し

、本 来 の枕 詞の あ り方 から は 変化

・発 展し た 後の 姿 であ ると い えよ う。 すな わ ち、 枕 詞は 本来 は 被枕 詞と 合 わせ て 意味 を持 つ もの であ り

、そ の 内実 を 問う な らば

、〈 語

〉と

〈 語〉 が 結び つい て 一つ の意 味 を成 すも の であ り、 枕 詞が 枕詞 と して 定 着す る とい う こと は、 そ の〈 語

〉と

〈語

〉の 結び つき が 繰り 返し 使 用さ れる こ とに

よっ て、 そ れが 一 つの

〈 形〉 と して 認知 さ れ、 定 着し たも の であ る とい うこ と が出 来 る。 そ の 意味 で枕 詞 は、 被 枕詞 と の結 び つき

、す な わ ち枕 詞と い う〈 語

〉と

、被 枕 詞 とし て の〈 語

〉と が結 びつ く 形、 そ の〈 語 の 形= 語型

〉を 指す もの と して 把握 し なけ れ ばな ら ない と いう こと に なる わけ で ある

。つ ま り

、そ れ は 単に

〈 語〉 と

〈語

〉が 結 び つ けば よい も ので は なく

、そ の 関係 性 が一 つの

〈 語の 形

=語 型〉 と して 定 着し

、認 知さ れた も のを 枕詞 と して 称す る もの な ので ある

。 念の た めに 付け 加 えて お くな らば

、枕 詞 は 後年

、文 字 化 され た文 芸 作品 の中 で 修辞 の 技 法と して 活 躍す るこ と にな るが

、そ の こ と( 結 果) と

、こ う した 枕詞 の 発生 の原 理 と は別 の 問題 であ り

、わ れわ れは ま ずは こと の〈 本 質〉 的な 把 握か ら成 さ ねば なら ない こと は いう まで も ない

。枕 詞 を 後年 の発 展 した 形態 か ら一 面的 に 解釈 し て、 文 芸 作品 の 修辞 の技 法 など と安 易 に結 論づ け てし まう と

、そ れ が 託宣 や呪 的 起源 に 始ま っ たも の か否 かな ど とい う 発生 の問 題 や、 枕 詞と いう 形 で現 れる

〈 語型

〉が 固 定 化・ 社 会 化す るこ と の意 味、 そ のこ と が共 同性

( 体) の 問題 と どう 関わ る のか な ど、 発生 か ら 定着

、及 び成 立へ と 至る プロ セ スの 問題 な どが

、考 察 の 対象 から 除 外さ れる と いう こ と にも なり か ねな いの で ある

。 二

枕詞 発生 の 原理 に つい て

( 一) 口 承的 言語 と

〈語 型

〉と して の 枕詞 との 深 いつ なが り 本題 に 戻ろ う。 そこ でま ず は、 枕 詞と い う〈 語

〉と 被枕 詞と な る〈 語

〉と がつ なが る 形

、す な わち こう し た〈 語 型〉 と いう もの が どの よ うに 形成 さ れる のか

、そ の 発 生 の 原 理に つ いて 考え て みる こと に しよ う。 まず

、「 口 承 的言 語と の 関係 をぬ き にし ては 枕 詞の 特質 は とら え られ ぬ」

( 西郷

)こ と

、し か し「 枕 詞が 日常 対 話に 用ゐ ら れた こと は

、考 へら れ ない

」( 折 口) と いう 見方 を 是 認し つつ も

、だ から と いっ て、 そ こか ら枕 詞の 発 生の 論 理に つい て 考察 しな い で、

(8)

直 ちに

「 呪 的起 源の も の」

( 西 郷)

、「 託 宣の 詞に 限 つて ある こ と」

( 折 口) な ど と、 簡 単 に結 論 づけ てし ま った だ けで は、 決し て説 明 した こと に はな らな い とい う べき であ ろ う

。そ れ は単 なる 現 象面 レ ベル から の 解釈 でし か なく

、し か も 実際 的に は 文字 記録 の な かっ た 時代 のこ と を単 に推 測 して いる に すぎ ない の であ る

。仮 に その 推 測が 確 か であ った と して も

、そ れで は枕 詞 のよ うな

〈語 型

〉が なぜ そ こに 発生 し たの かと い う 問い に

、何 らの 回 答を 与え る もの にも な り得 て いな いの だ とい えよ う

。 この よ うに 述 べ ると

、「 そも そ も文 字 のな い 時 代の こ とな ど 推測 す る以 外 な いで は な いか

」と い う 反論 も聞 こ えそ うで あ るが

、こ こ は 決し てそ う では ない と いっ て おこ う

。こ う した 過 去に 具体 的 に立 ち 現れ た現 象を

、も はや 歴史 的 な〈 事 実〉 と して 把握 す るこ と が困 難 な事 柄を 考 察す る場 合 には

、そ こを 単な る 推測 で はな くそ の 事柄 が持 つ 意 味( その 性 質) を考 え、 そ れを 媒介 とし つ つ論 理的 に考 察 を進 める こ とが 何よ り も 肝要 な ので ある

。す なわ ちこ の 場合 で いえ ば、 枕 詞 発生 の 原理

、す な わ ちあ る〈 語〉 と〈 語〉 が 特 定の つな が り方 を持 ち

、そ れ が次 第 に定 着し て 一つ の〈 語 の 形〉 と して 成 立 して いく 過 程を

、言 語( 言葉

)の 性 質、 そ の本 質 から 捉え て いく とい う こと に他 な ら ない の であ る。

「 呪 的起 源」 や「 託宣

」等 々の 問題 は その 後に

、こ の言 語( 言 葉) の本 質と の 関わ りの 中 で、 考察 す べき 事項 な ので あ る。 とは い うも のの

、こ こ で は本 格的 な 言語 論( 日 本語 論

)を 行 う予 定は な いの で

、あ く まで も 枕詞 とは 何 かの 解 明に つな が る形 で、 枕詞 的な る もの はい か なる も ので あり

、 そ れ が次 第に 一 つの

〈語 型〉 と して 定着 し てい くプ ロ セス につ い て、 なる べ く平 易な 形 で 考察 し てみ るこ と にし よう

。そ の際

、今 さ ら古 代 社会 にお け る口 承言 語 の実 際 が どの よ うな も ので あ っ たか に つい て は、 具 体 的に は 再現 し よう も ない こ と でも あ り、 ここ では 古 代の 言語 と は現 象的 には 違い は ある とは い え、 同 じ 日本 語と し てわ れ われ が 最も 熟 知し てい る 現代 日本 語 を例 に

、枕 詞と いう も のが 言語

(言 葉

)と して い かな る 原理 の 上に 成り 立 って い るも ので あ るか につ い て、 論 理 的に 思考 を 進め て みる こと に し たい

( 二) 現 代日 本語 を 通し て 枕詞 の持 つ 言語 的な 意 味を 考え る 古代 に 生成 した

〝 枕詞

〟 は、 す で に実 用レ ベ ルの 問題 と して は 消滅 して し まっ た現 在 で はあ るが

、実 際 に は〝 枕詞 的 なる もの

〟 は、 言 語( 言 葉) の 性質 に直 接 かか わる あ り 方と し て、 現 在で もあ ち らこ ちら に みら れ る現 象で し かな いの で ある

。こ こ を 分 かり 易い 事 例を 通し て 考え てみ る こと に しよ う。 例え ば

、誰 か が「 ふじ

」と か「 ぶ じ

」と か

、大 きな 声 を出 して い たと しよ う

。当 然 声 を出 し てい る 当人 の頭 の 中に は、 その 言葉 の 持つ 明確 な イメ ー ジが 存在 し てい るこ と は いう まで も ない

。し か し、 彼以 外の 人 間に は、 彼 のイ メー ジ する もの が 何で ある かと いう こ とは

、直 ち に 正確 につ か める と い うも ので は ない の であ る。 文 字化 さ れな い 話し 言 葉の 世 界で は、 こ うし た 現象 は 日常 茶飯 に 起き てい る こと であ り

、そ れ が話 し 言 葉( 口承 的 言語

) とい うも の の持 つ性 質 なの であ る

。 こう し た場 合、 実 際に は「 ふ じと は

?」 とか

、「 ぶ じと は

?」 とか 聞 き返 えさ れ る、 す なわ ち 話者 の 頭の 中の イ メー ジが 何 であ るの か

、問 い 直 され る こと にな る ので ある

。 す る と

、「 そ れ は富 士 山の

〝ふ じ

〟の こ と です

」 とか

、「 藤の 花 の、

〝 ふじ

〟 で す」 と か いう こと に もな るし

、ま た「 友 人が 事 故に あっ た けれ ど 無事 で、

〝ぶ じ

〟を 喜ん でい ます

」 とな る場 合 もあ るわ け であ る。 また

、彼 のい う「 ふじ

」が 仮 に 富士 山で あ った と して も、 彼 の 頭の 中に は「 ふ」 と

「 じ

」と いう 音、 その 言 葉だ けが 踊 って い るわ けで は 決し てな く

、そ の言 葉 の背 後に は 当 然彼 の具 体 的な イ メー ジが

、そ し て それ に 伴う 感情 が 必ず 存在 し

、そ れ らが そ の 言葉 と分 か ちが たく 結 びつ いて い るわ け であ る。 なに しろ 大き な声 を 出し たく な るほ ど の感 情 がそ の背 後 には 控 えて いる の であ る。 その た め、

「あ なた の いう

( その 言 葉の

)富 士と はど ん な富 士で す か」 と 改め て 問う な らば

、「 甲 斐の 富士 は 本当 にす ば らし い

」と い った 返 事が 返っ て きた り、 また

「 駿河 の 富 士こ そ日 本 一で す

」と いう こと に なる かも 知 れな いの で ある

。こ れ 以外 にも

、今 年初 めて 雪 を頂 いた

「 真 白き 富士

」、 青空 に輝 く「 晴天 の富 士

」、 赤 く 輝く

「 夕日 の 富

(9)

」と い う場 合 など もあ る であ ろう

。も ち ろ んこ れ以 外 にも

、「 噴 煙 の富 士

」「 神 聖な 富 士」

「溶 岩の 富 士」

「樹 海に 覆 われ た富 士

」等 々 と、 た く さん の「 富士

」に ま つ わる イ メ ージ があ り 得る わけ で ある

。 こう し た場 合、 た と えば

「 甲斐 の 富士

」を 例に とる と

、甲 斐 とい う〈 語〉 と 富 士と い う〈 語〉 と が 結び つ くこ とに よ って

、一 つの 具体 的 なイ メー ジ が形 成さ れ

、ま た「 神 聖 な富 士

」の 場 合 でも 同様 に

、神 聖 な とい う〈 語

〉と 富士 と いう

〈 語〉 と が 結び つく こ と によ って

、よ り具 体的 な 一つ のイ メ ージ が 形づ くら れる わ けで あ る。 す なわ ちこ のよ うに

、こ の 話 し手 の 頭の 中に あ るイ メー ジ を表 すと い う点 では

、こ の二 つの 言 葉

(語

)は 切 り分 けら れ ない つな が りで あり

、こ の つな がり に よっ て

、そ れが あた か も 一つ の 言葉 であ る かの ごと く 機能 し てい るの で ある

。こ う し た〈 語

〉と

〈 語

〉の 結 合 は、 言 葉( 言 語) そ のも の が持 つ、 話 者の 頭 の中 に ある イメ ー ジを 表現 す る基 本的 な 性 質と い える もの で ある

。 もち ろ ん、 右 にあ げた よ うな 諸事 例 は、 言 葉の 面 から は直 ち に枕 詞と い える も ので は ない の では ある が

、〝 枕詞 的 なる もの

〟 その 意味

(論 理 性) を考 え るう えで は 大き な ヒン ト とな る もの であ る

。折 口は

「古 い 枕詞 はあ る 音を 起 こす 為の もの で ある

。其 か ら ある 意味 を 持つ た もの とし て の語 に係 る 様に なつ て 来る

」と い っ てい るが

、現 代 でも

「 富士 山 の〝 ふ じ〟

」の よ う に同 じ音 を 持つ 語を 繰 り返 し たり

、「 甲斐 の富 士

」と 地名 を 重ね た り

、「 神 聖 な富 士

」と 感 性的 な イ メー ジ を被 せ たり 等 々と

、 折 口の 指 摘 と同 じ よう な 展開 が 言 葉( 言 語) の 世界 に 起 きて い るこ と は、 そ もそ も 言 葉( 言 語) 自身 に〝 枕 詞的

な〟

〈語

〉と そ れに 関係 す る〈 語〉 の結 びつ き を生 み出 す とい う 基盤

、 そう し た性 質が あ るか らこ そ なの であ る

。 した が って

、言 葉( 言 語

)の 持 つこ う した 基本 的 な性 質の う えに

、あ る 一定 の 条件 の 下で

、〝 枕詞 的な る もの

〟が 生 成し

、そ こ か ら枕 詞と して の 定着 へと 質 的に 変化 し て いく 可 能性 が生 じ たの だと 考 える べき な ので あ る。 こ うし たあ り 方は

、現 在 だ けで な く本 質 的に は古 代 社会 の 言葉 にあ っ ても 全く 同 様で ある と いえ るの で ある

。そ のう

え で 枕詞 が 現代 にお い て発 達す る こと なく

、古 代に は成 立 した 以上

、な ぜ古 代社 会 に おい て は、 こ うし た

〝 枕詞 的 なる も の〟 が 本 物の 枕 詞と い える ま でに 転 化 した の か、 その 社会 に 存在 して い た特 殊な 条 件に つ いて

、具 体的 に考 え てみ る必 要 があ ると い う こと に なる わけ で ある

。 三

枕詞 の成 立 に向 け た条 件

( 一) 枕 詞が

〈語 型

〉と し て定 着す る のに 必要 な 繰り 返し の 意味 そこ で 次に

、こ う し た〈 語

〉と

〈 語〉 と の結 びつ き が、

〝 枕詞 的 なる もの

〟と し て、 そ して や がて は 枕詞 とし て 定着 して い くた めに は

、ど の よ うな 条 件が 必要 で あっ たか

、 そ の 点に さら に 的を 絞 って 論じ る こと にし よ う。 この 点 を考 える う えで 忘 れて はな ら ない 視点 と して

、ま ず は 折口 が「 固 定し た 枕詞 が 出来 る まで には

、か なり 年代 を 経て 居る

」と 述べ

、ま た 土 橋が

「 枕詞 の 特徴 は、 被 修 飾 語と の 結合 関 係 の慣 習 性・ 固 定性 に あ」 り

、「 枕詞 が 完全 な 枕詞 と なる た め には 社 会化 と いう こ とが 条件 に なる

」と い っ てい る点 に 改め て注 目 した い。 こ こ でい う「 か な り の年 代」 と は 当然

、日 本 列島 に やま と言 葉 が成 立 して 以来 の 言葉 によ る 実践 の結 果と し て、

「 固 定し た 枕詞

」 が出 来 上 がっ た と考 え るべ き で あろ う から

、 やは り そこ に は そ れ な り に 長 い 時間 的 経 過 を 想 定 し てお か な け れ ば な ら な いこ と は い う ま で も ない

。そ の う えで

、こ の 間に や まと 言葉 を 取り 巻 く世 界に ど のよ うな 状 況が 生じ た の かに つ いて

、考 え てみ るこ と が必 要に な るの で ある

。 単純 に 考え てみ て も、 あ る特 定 の〈 語

〉と

〈語

〉の 特 殊 な結 びつ き が固 定し た 関係 性 とし て 定着 す るた めに は

、特 別 な命 令 でも ない 限 りは

、そ の 結 びつ いた 状 態が 繰り 返 し 使わ れる こ とを 通 して

、そ の結 び方 そ のも のが そ うい うも の とし て人 々 に認 知さ れ るこ と

、そ し てそ の 社会

(共 同 体) の 内部 で、 そ れ が一 つの 言 語規 範と し て定 着へ の 道 を歩 んで ゆ くこ とが 条 件と な って くる わけ で ある

。あ く まで もそ れ が単 独 の〈 語〉

(10)

で はな く

、〈 語〉 と〈 語

〉と が 結び つい た

、そ の一 定 の結 びつ く 形が 繰り 返 され る こと を 通し て

、そ れが 一 つの

〈語 の形

= 語型

〉と して 定 着化 して ゆ くこ と が必 要な の であ る

。 先に

、「 富士 山

」と い う現 代 の話 し 言葉 に関 連さ せ て、

〈語

〉と

〈語

〉が 結び つ くこ と によ っ て、 そ れが 話 し手 の具 体 的な 一つ の イメ ー ジを 伝え る もの であ る こと

、そ し て こ うし たい わ ば枕 詞的 な〈 語〉 と〈 語

〉の 結び つき は

、言 葉

(言 語) に と って 基本 的 性 質 であ る こと を 論じ た

。し か し

、そ の

〈語

〉 と〈 語

〉 が結 び つく と いう こ とと

、 そ の 結び つき が 繰り 返 され

、社 会的 に 人々 の間 で 認知 され

、そ れ が一 つの

〈 語の 形= 語型

〉と し て定 着 して ゆく こ との 間に は

、か な り大 き な〈 質〉 の 違い が ある こ とに 気 付か な けれ ばな ら ない ので あ る。 つ まり

、枕 詞 と して 定着 し てい くか ど うか と いう 問 題は

、そ れ が その 社会

( 共同 体

)に お いて 繰り 返 し使 用 され るこ と

、そ し てそ のこ と を通 し て枕 詞 とし て定 着 する こと

、そ の 意味 での 質 的な 転化 が 図ら れな け れば な らな い とい う こと なの で ある

。 こう し た点 から い って

、折 口が

「枕 詞 が日 常 対話 に用 ゐ られ たこ と は、 考へ られ な い

」 と、 枕 詞を 日 常会 話 か ら排 除 した こ とは

、 納得 の い く推 論 であ っ たと い えよ う

。 な ぜな ら

、先 に 現代 日 本語 の例 で みた よう に

、日 常 的な 会 話と いう も のに も枕 詞 的な

〈 語〉 と〈 語〉 と の結 びつ き が見 ら れる が、 こ うし た 日常 会話 の 場合 には 自 由に 言葉 を 操 るこ とが で きる た め、 そ こで 語ろ う とし てい る 対象 につ い て、 そ の場 や 相手 に応 じて 融通 無 碍に 補い な がら 表現 す るこ とが 可 能で あ るか らで あ る。 同 じ 富士 につ い て 語る と はい って も

、時

、場 所、 そ の言 葉を 使 う人 物

、会 話 の相 手が 変 われ ば

、そ の 内 容が 変 わる のは 当 然な ので あ る。 すな わ ちこ うし た 日常 的な 会 話の 場合 は

、〈 語

〉と

〈語

〉と の 結び つ きを

、そ の 場そ の 時に 応 じて いか よ うに でも 選 択、 変 更す る こと が可 能 な一 回 性の もの で あり

、あ る

〈 語〉 と〈 語

〉と の 結 びつ き が、 特 定 の〈 語 の形

= 語型

〉と して 繰 り返 され

、そ の共 同 体の 内 部で 確か な もの とし て 定着 す るこ とな ど 考え られ な いか らで あ る。

( 二) 託 宣、 初期 歌 謡等 は 共同 体の 財 産と して 繰 り返 し表 現 され た した が って

、こ れ に 対し ては 古 代社 会の 口 承言 語 の段 階に あ って

、こ う した 日 常会 話 の レベ ルで は ない 言葉

( 言語

)を 想 定 する 必 要が ある わけ で ある

。そ の 意 味で

、折 口 が その 起 源を

「託 宣の 詞

」と した こと は 理由 の ない こと で はな かっ た とい える

。折 口は それ が 次の 時代 に

、叙 事 詩や 寿 詞に 引き 継 がれ たと す るの で ある が、 こ のあ た り は当 然 の こと と はい え 確た る 事実 的 な 押さ え がな く 論証 す るこ と も 不可 能 であ る が、 日常 会 話と は異 な ると いう 次 元で いえ ば

、託 宣 だけ で はな く宗 教 的な もの も 含め

、そ の共 同 体に とっ て 重要 な 初期 の歌 謡 等の

〈 表現

〉な ど も 当然 想定 し てお くべ き では な い かと 考え ら れる であ ろ う。 この 口 承段 階に お ける 託 宣や 初期 の 歌謡 等に お いて

、〝 枕詞 的な る もの

〟が 枕 詞と し て定 着 して い くこ とに な るプ ロセ ス でと くに 重 要な 意味 と は、 端的 にい っ てそ れら の 世 界は 日常 的 な会 話 のレ ベル と は違 って

、そ の社 会が 生み 出 した

〈 文 化遺 産と して の表 現〉 で ある と いう こと で ある

。つ ま り、 そ れら は その 社 会内 部で の 文化 遺産

、す なわ ち 文化 的な 意味 で の共 同 財産 であ る がゆ えに

、そ の〈 表 現〉 が機 会 に応 じ て幾 度 とな く 繰り 返さ れ る( たと えば 共 同体 レ ベル の儀 式

、祭 礼、 葬送 等の 機 会を 通 じて 繰 り返 し 再生 産 され る) も ので あ った と いう こと が 重要 なの で ある

。そ れ が

〝枕 詞的 な る もの

〟が

、枕 詞と し て定 着し て いく た めの 大き な 条件 であ っ たこ とは い うま でも な い な 。 お

、今 共 同体 と か、 その 共同 財 産と いう こ とに つい て 触れ た つい でに

、少 し だけ 回 り道 を して お けば

、長 い歴 史 の中 には

、当 然 異な っ た地 域、 離れ た 別の 共 同体 も存 在 し

、言 葉( 言 語

)も 地 理感 覚等 々 も異 なっ て おり

、そ れ ら の間 で枕 詞 とい って も す べ て一 様 であ った な どと い うこ とは と ても 考え ら れな いこ と であ る。 す な わち

、甲 斐 か ら 見る 富士 山 と、 駿 河で 見る 富 士山 と が違 うよ う に、 地 域に よ って 異な っ た〝 枕詞 的 な るも の〟 が 生じ て いた であ ろ うこ とは 想 像に 難く な いの で ある

。 また

、現 時点 の 文献 資 料で 把握 す るこ との で きる もの 以 外の 枕 詞も あっ た であ ろう

(11)

、枕 詞 的な

〈 語型

〉の 中 から 現 在わ れ われ が知 っ てい るの は

、あ く まで も文 字 記録 と して 残 って いる も のだ け であ って

、記 録 に は残 っ てい ない も の、 長 い時 間の 推 移の 中 で 消滅 して し まっ たも の も多 数存 在 して いた で あろ う と考 えら れ る。 今 で は意 味の 分 か らな い 枕詞 が少 な くな いの も

、こ う した 長 い歴 史的 経 過を 考え れ ば、 別 に不 思 議 なこ とで は ない とい え よう

。 この よ うに 考え る と、 現 に 文献 上に 残 る枕 詞だ け を対 象 とし て枕 詞 とは 何か と いう 問 題を 考 える こと は

、学 問 的な 考 察と いう 点 から は、 い か にも 心も と ない こと で もあ る わけ で ある

。し た が って

、こ こ こそ は 対象 を〈 論 理的

〉に 捉 え てい く 以外 ない の で あ る

。す な わち

、わ れわ れが 行 うべ き考 察 とは 現存 す る枕 詞の 個 々の 意味 を 考え る こ と以 上 に、

「 枕 詞と は 何か

」 とい う こ とを 究 明す る こと で あ り、 そ れら が なぜ 発 生し 定着 をみ た のか を含 め

、対 象 の 本質 を論 理 的に 捉 える べく 考察 を 進め る 以外 にな い の であ る

。 四

初 期 段階 に おい てど の よう な言 葉 が枕 詞と な った のか 以上

を 踏ま えた う えで

、も う 一 度本 題に 戻 ると する が

、枕 詞 成立 の 必然 性を 説 明す る た めに は

、さ ら に次 の よ うな 疑 問に 応 える こ と が求 め られ る であ ろ う。 す な わち

、 託 宣 や 歌 謡 等 の言 葉 は す べ て 枕 詞 で 成り 立 っ て い る の か とい え ば 決 し て そ う では な く

、あ る特 定の

〈語

〉と

〈 語

〉の 結 びつ き だけ が、 様々 な〈 語〉 の つ なが り の中 から 選 択 され て枕 詞 とし ての

〈語 型

〉を 形成 し てい る事 実 を、 どの よう に 考え れ ばい いの か と いう 問 いで ある

。 この 点 に関 し、 端 的に 述 べる なら ば

、〝 枕 詞的 なる も の〟 で ある

〈語

〉と そ れ が係 り 被枕 詞 とな る〈 語

〉と の関 係性 が 意味 す るも のは

、そ れ が枕 詞と し て定 着 しつ つあ っ た 初め の段 階 にお いて は

、そ の〈 語 型〉 が 意味 す るも のは

、そ の社 会( 共同 体) に と っ て極 め て大 切で 重 要視 すべ き もの であ っ たと いう こ とで あ ろう

。す な わ ち先 に 述

べた よ うに

、〝 枕 詞 なる もの

〟は 決 して 日 常会 話 レベ ル で定 着す る もの で はな く、 そ の 社会

、共 同体 の文 化 遺産 とし て の〈 表 現〉 の 中に 立ち 現 れる もの で ある

。そ れ だ け に そ の〝 枕詞 的 なる も の〟 は、 その 共同 体 にと って 重 要な 言葉 と して 何度 も 繰り 返さ れ、 結 果 とし てそ の〈 語〉 と〈 語

〉と の結 びつ き が定 着し て

、〈 語型

〉と も呼 べる ま で に質 的に 転 化し てい っ たも のな の であ る

。 土橋 は「 神 名・ 地 名 に枕 詞の 原 初形 態 が認 めら れ る」 い うが

、そ れ はす な わち 地名 や 神 名( 支 配者 の人 名 等も 含む

)は

、単 にそ の 時か ぎり の 一回 性の も ので は なく

、そ の 共 同体 の 中で 長く 語 り続 けて ゆ くべ きも の であ り、 世代 を超 え て繰 り返 さ れる も の であ った か らに 他な ら ない

。こ うし た 固有 名詞 は まさ にそ の 共同 体に と って 最も 重 要 なも の であ り、 それ こそ が 繰り 返し て 使用 され る とい う枕 詞 を成 立 させ る条 件 を具 備 する も ので あっ た ので あ る。 さら に 加え るな ら ば、 そう し た特 定の 固 有名 詞に は

、そ の共 同 体と して

、共 同 体な り に 望ま し いあ る べ きイ メ ージ が

、当 然 のこ と と して 存 在し て いる も のな の で ある

。 枕 詞的 な〈 語

〉の つな が りで あれ ば 何で も良 か った わけ で はな く、 そ の共 同体 と して の ある べ きイ メ ージ を伝 え るた めの 言 葉、 そ のた め の〈 語

〉と

〈語

〉の 関 係性 が 必要 だ っ たの であ る

。神 の託 宣 や、 共同 体と し て詠 じら れ る歌 謡 など は、 こう し た望 まし いイ メー ジ が喚 起さ れ るよ うに な され る〈 表 現〉 であ り

、そ のた めに 枕 詞は 大変 に 有 効な 手段 で もあ った の であ る

。そ れが

、た と えば

「神 風 の伊 勢

」や

、「 そ らみ つ大 和

」 のよ う な、 い わ ゆる 国誉 め とい われ る よう な枕 詞 が生 ま れた ゆえ ん であ った と いえ よ う。 先の 例 でい えば

、甲 斐 に 位置 す る共 同体 で あれ ば「 甲 斐の 富 士」 で あり

、そ れ は決 し て「 駿 河の 富士

」と は なら ない の であ り

、ま た富 士山 の 神々 しい 姿 を眼 前 にす る共 同 体 に とっ て は、

「 神 聖な 富 士」 こ そ が共 同 体と し ての 表 現と し て はふ さ わし い ので あ り

、「 溶岩 の富 士」 とか

「 樹海 に 覆わ れた 富 士」 は 日常 会話 レ ベル の 話と して は あり 得 ても

、共 同 体と し ての 財産 と して の〈 表現

〉の 中 身と は なり 難い も のと いう べ きで

参照

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