Kyushu University Institutional Repository
波動下での底泥輸送に関する基礎的研究
山西, 博幸
https://doi.org/10.11501/3147919
出版情報:Kyushu University, 1998, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
波動下での底泥輸送 に関する基礎的研究
平成1 0年9月
山 西 博 幸
目次
第1
:章 序論.…... 11 - 1 河口沿岸部でのシルテーション問題と底泥輸送に関する従来の研究経緯.…....・H・-……-…・…・………1
1 - 2 シルテーションがもたらす国内外の実例.……・…・……・...2
1・3 底泥・浮泥・懸濁物質の輸送過程の特性…・・…-…...6
1 - 4 本研究 の目的と意義…H・H・...……・・…..8
参考文献....・H・....・H・-……・…H・H・..…………一...10
第2章 底泥・浮泥の特性 ... . .. . . .. .
.... . . . ... . ... .. . .. . .. . .. ...
.. . . ... . ... . . .. .
.. . .. .
..
.. .. . . .. . ..
132 - 1 底泥の性質.…...13
2 - 2 底泥のレオロジ一的特性について…・...15
2 - 2 - 1 ベーン努断試験・…...15
2 - 2 - 2 回転粘度計....・H・-……H・H・-…-……...・H・...16
2 - 2 - 3 スランプ試験....・H・...17
2 - 3 浮泥の性質....・H・...22
参考文献...・H・-…..…・…H・H・-…H・H・..…...23
第3章 波動下における底泥の巻き上げ...27
3 - 1 緒論...27
3 - 2 波動下における底面努断応力の算定.……-・……・…・・……・・…...28
3 - 3 巻き上げフラックスの算出方法…・…...・H・-……・・…・・…...30
3 - 4 男子;濁物質の鉛直方向輸送に関する理論解析…・...31
3 - 4 - 1 基礎方程式..……...・H・-…H・H・..…・・……ー・・…...・H・..……・... …...・H・...31
3 - 4 - 2 解法…H・H・...・H・...…...・H・-…一一…...32
(
1 ) 定常解 一……...・H・-…H・H・..…・・・……H・H・-…・・・・…ー… ・…・…H・H・... …・・…・・・・…・・……・・・ …・・… ・・……-…...・H・....・H・.32(
2 ) 非定常解 .…・一……H・H・-…H・H・...・H・-…H・H・- …・・ …・・…H・H・...…・・H・H・...・H・...・H・ …H・H・..…・・・ ・…・・ ・・……..…..333 - 5 波動下における底泥の巻き上げ実験....・H・-……...34
3 - 5 - 1 実験装置及び方法.…・・・…...・H・...・H・-…...・H・-…・…...34
3 - 5 - 2 実験結果及び考察.…・…H・H・..…・…H・H・...…...34
(
1 )底泥含水比鉛直分布の経時変化と底泥表面形状の特異性...・H・...38(
2 )波高の影響...・H・-…H・H・-…H・H・...……H・H・-…H・H・-…H・H・-…H・H・...・H・-…H・H・...40(
3 )周期の影響 …・・…・・...41(
4 )底泥含水比の影響 ...・H・..…...・H・...413 - 5 -3 巻き上げ平衡濃度について.…....・H・-…・…・…...45
(
1 )鉛直方向の濃度分布 ..……H・H・...・H・...……H・H・...……H・H・..…...45(
2 )巻き上げ量の経時変化.・……H・H・-…...453 - 6 波作用下における底泥の巻き上げ速度算定式の検討 .…....・H・....・H・....・H・…-……・…………...・H・...・H・...・H・.48 3 - 6 - 1 実験装置及び方法.…・...49
3 - 6 - 2 実験結果及び考察...・H・-…H・H・-・…・…H・H・...・H・...……-・…...49
(
1 )最大底面努断応力と巻き上げ速度 .…-…H・H・-…一...49(
2 )巻き上げ限界底面努断応力について ....・H・-…・…H・H・...53(
3 )巻き上げ速度算定式の検討..…ー……H・H・..…...・H・-…H・H・...533 - 7 結論..……H・H・-…H・H・-…・・…・・・…・-…...54
-1 •
第4章 撹乱・不撹乱底泥の巻き上げ特性…・……・…・………・………57
4 - 1 卒者論…………...・H・-…H・H・-… …・…………一……… ……… 一 ……一...・H・...・H・- … … ……一 一57 4 - 2 実験方法と試料.…・ー……・…一一……・… 一…・…...57
4 - 3 撹乱・ 不撹乱底泥の巻き上げへの量的影響.……・……… …………・ ………61
4 - 3 - 1 波動下における巻き上げ(熊本泥)……ー………....・H・-……・・・・H・H・...……・-…-……….61
4 - 3 - 2 一方向流下における巻き上げ(牛津泥)… …-…・……… ……・...・H・....・H・-……… .65
4 - 4 初期巻き上げ速度の算定……・…・………...・H・-………一 …………・………一一…………・……68
4 ・ 4 - 1 巻き上げ限界底面努断応力 一……・・…・…・ー……・… …・……… …一…….68
4 - 4 - 2 初期巻き上げ速度の評価…..………...・H・....……… …………H・H・-………-・ ・・………...一-….69 4 - 5 結論.……-…-……・…・………H・H・...…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …..73
参考文献.…・… …・・……・...73
第5章 振動流下における高濃度浮泥層の形成と懸濁物質の沈降特性…・・…-………・….75
5 - 1 緒論....・H・-…・…...75
5 - 2 振動流下における高濃度浮泥層の形成とその特性 ...75
5 - 2 - 1 実験装置及び方法 …・・…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・...・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・…・ ・…・…・……75
5 - 2 - 2 高濃度浮泥層の特性とその挙動 ...77
( 1 )高濃度浮泥層厚δと層内濃度Cö........ .. . . ... … ・ … ー ・・ ・ ・ ・・… ...77
( 2 )高濃度浮泥層界面付近の挙動 …・・……・・...77
( 3 ) 沈降限界底面努断応力 %について………・…・・…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …………...・H・...・H・.79 ( 4 )沈降フラックスF,j ・ … … ・ ・・ …・・ 屯 81 5 - 3 振動流下における沈降速度と高濃度浮泥層の形成過程 …・・…...84
5 - 3 - 1 実験方法と試料...・H・-……H・H・-…・・…一一……一一……一....・H・-一…...84
5 - 3 - 2 実験結果及び考察.…・…-…・…一…H・H・...・H・-…..…...85
( 1 )高濃度浮泥層の形成過程と鉛直濃度分布の構造 .………一...85
( 2 )微細粒子群の沈降特性と高濃度浮泥層形成に関する一考察 …・…-…・……・・…・………...・H・-……….85
5 - 4 結論...89
参考文献…・・……・……・...89
第6章 振動流下における高濃度浮泥層の流動特性とその保持機構………・………. 91
6 - 1 緒論………H・H・...91
6 - 2 高濃度浮泥層内の流動とその保持に関する一考察.…-…...91
6 - 2 - 1 はじめに……・・……・…・・……・・……・...91
6 - 2 - 2 実験方法 …・・……・・…・...91
6 - 2 - 3 実験結果及び考察…一…・…・・・…...92
( 1 ) 高濃度浮泥層の形成 …・…・…....・H・-…H・H・-……H・H・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ….,….. 92
( 2 )水槽内圧力分布と層内流動...・H・...……...・…...92
( 3 )高濃度浮泥層の浮上・保持機構に関する一考察…・…・...95
a ) 努断流場内での混合によ る効果一……・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …・・・……・…………..98
b )高濃度浮泥層内に及ぼす努断力や圧力勾配の効果…・・…・・H・H・-………H・H・" …...・H・H・H・...・H・-…98 c )有効応力の影響…・・…H・H・...…・・…・…・…H・H・...99
6 - 3 高濃度浮泥層の流動特性(1 ) ...・H・..…………・… ...100
6 - 3 - 1 はじめに…・...ω0 6 - 3 - 2 高濃度浮泥層内の流動モデル ..……-…...・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …・…・・……・・・…… 100
ー11・
( 1 ) 基礎式……H・H・… ... 一…・・ … …一...・H・-……...・H・-…………・………….100
( 2 ) 境界条件…一...・H・..…...…一…・…・・一…・…...・H・-……… …一…………H・H・-……101
( 3 ) 解析解………一一……一一………H・H・-…....・H・...…… ・・……H・H・...…...・H・..…-……・ …一一…ー………102
6 -3 - 3 振動流下における高濃度浮泥 の流動実験………'"・H・.. …・… …・…・………103
( 1 ) 実験方法…一…一……ー………H・H・...… …-…・・…...…H・H・-…・・ー……・・・….103
( 2 ) 実験結果及び考察.…・…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …・・… ・…・・…・…・・…・…・・…一一…… …ー …-…… 103
a )浮泥層内の流速分布と位相差について.………… …・…・……-…-………・…一………一… ・………103
b )層内の流動に関わる外力について…... …・・……・・………105
c )層内の動粘性係数について.…...108
6 - 4 高濃度浮泥層の流動特性( 2 )…・・… ...…………110
6 - 4 - 1 はじめに・…...110
6 - 4 - 2 高濃度層の挙動のモデlレイヒ・…・…・…・……・……-……… …………...・H・-………110
( 1 )基礎式……・…ー………・…...110
( 2 ) 境界条件...・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …一…一一……H・...111
( 3 ) 計算法… ...… 一 - …・… … …一…一一… ・ ー…・ … ー …ー・・ ・ ・ …・・ ・…・・… ・ ・ ー ・ … ・ ・・…・…・・...・H・.112 6 - 4 -3 実験方法…・...113
6 - 4 - 4 実験結果及び考察.……...・H・-…...113
( 1 )高濃度層内の流体運動シミュレーション....・H・-…・………… ...113
( 2 )高濃度層の 保持機構について.…...115
6 - 5 結論…・…・・……・...116
参考文献一…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・-・・・・・・・・・・・・ …...…....……・・…・・…・・・・118
第7章 浮泥層界面における連行現象…・...121
7 - 1 緒論…・...121
7 - 2 浮泥界面における連行量の定式化...121
7 - 2 - 1 はじめに…...121
7 - 2 - 2 懸濁物質の質量保存式…...・H・-……・・…....・H・-……・・……・…...123
7 - 2 - 3 乱れエネルギ一方程式...125
7 - 3 実験方法 υ ・・ …・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…・・…・・・…・…一…一一…...・H・-一…….127
7 - 4 実験結果及び理論の適用…・…・…H・H・-…H・H・....・H・-…...127
7 - 4 - 1 鉛直方向濃度分布.…...127
7 - 4 - 2 連行量の算出....・H・...129
7 - 4・3 連行係数Esについて………-………...・H・....・H・-…・・………...・H・-……・…...・H・-…...・H・.129 7 - 5 結論.……..…...132
参考文献..…・…・・…...132
第8章 波による傾斜底泥面からの洗掘.…...133
8 - 1 緒論.……・・…-…....・H・....・H・-…...133
8 - 2 傾斜面上に作用する衝撃砕波圧の検討…・・……・…・...133
8 - 3 固定傾斜面を用いた砕波実験と砕波圧倒j定.…....・H・-……・・……・...136
8・3 - 1 砕波波高Hbの算定-…...136
8 -3 - 2 砕波水深hbの算定...・H・...137
8 -3 -3 衝撃砕波圧の算定...137
8 - 4 現地底泥(ガタ土) の土質力学的特性.…...144
8 - 5 現地底泥を用いた室内j先掘実験…...145
8 - 6 航跡波による現地底泥i先掘実験.…・・・……・…...・H・…一…・・・H・H・....・H・-…..,…....・H・-………...・H・....・H・..….149
ー111-
8 - 6 -2 航跡波の現地観測結果'4."・H・...150
8 - 6 - 3 衝撃砕波圧と現地底泥j先掘量との関係…・...151
8 - 7 結論 ....・H・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …・・…・…・………154
参考文献…H・H・..…...155
第9章 結語…・…・・…...157
記号表・…... ……… -…164
第2章...164
第3章一..…・・……-…...164
第4章…H・H・-…..………...………...166
第5章.…...167
第6章.…...168
第7章.…...170
第8章…...171
謝 辞 ...174
ーlV -
第i章 序論1
第1章 序論
1・1 河口沿岸部でのシルテーション問題と底泥輸送に関する従来の研究経緯
水域には常に陸域から多くの懸濁物質が河川を通じて流入している. 輸送される懸濁粒子群は, 水中の 汚濁物質を吸脱着させながら水域に滞留したり, あるいは静桔域において底面に沈積する. このように底 泥から巻き上げられた微細粒子群が静穏域において沈降・堆積する現象を一般にシルテーション(siltation) と呼ぶが, シルテーションは立場の違いによってその評価が異なる.
物理学的な見方をすれば シルテーションは航路. ì白地の埋没, 河口閉塞, i可道断面の狭小化といった 港湾-河川の維持管理問題をもたらす. 入江ら (1991) によれば, シルテーション問題の多くは, 海上交 通の拠点となっている東南アジアや中南米などの開発途上国において深刻であり 大水深による港湾の近 代化は, シルテーションによって大きく阻まれ, 港湾管理維持費の多くが航路埋没対策費に充てられてい る現状を報告している. 一方で, 化学・生物学的見方をすれば, 浮遊懸濁物質が底面に沈積するというこ とは, 水中の懸濁物質が除去されるために水質学的には浄化される. 砂質表層部3cm程度及び底泥表層部 からlcm程度では好気状態を保っており(楠田, 1994),有機物の分解が活発に行われる生物活性の高い部 分となっている. このようにシルテーションによって 生物活性が高い底質へ水中の有機物を供給し, 底 質表層及び内部においてそれら供給物質の質変換をもたらしている.また,谷本ら(1990)は、 底面上に 形成される高濃度の浮泥層が巻き上げと沈降を繰り返す過程で, そこに存在する有機物の50%---- 80%が分解されると報告している. すなわち 内湾浅海域に堆積した凝集性底質 いわゆる底泥の巻 き上げや沈降が水質や生態系に及ぼす影響は物理的・化学的・生物学的なそれぞれの見地から重要な因子 であり, 湾内の水質モデルの構築からも欠かすことのできないプロセスである.
このように, 粘着性を有する底泥の輸送機構に関する研究のきっかけは,河口沿岸域での人間活動の活 発化にともなう陸水境界域での開発が盛んとなってきたことによるものである. これにより,水路,河道,
港内といった場所での凝集性底質の巻き上げ・沈降・堆積 波の浅水変形 そして生態学的影響を受けや すいエスチャリーでの底質汚染の制御手法を理解する必要性が生じた.
従来,底質輸送に関する研究の多くは,非凝集性底質に対してなされてきた. 1950, 60年代にはカリフォ ルニア大学パークレー校のProf. Einsteinのもとで,非凝集性の底質輸送に関する多くの研究が行われた.例 えば, 砂ゃれきを対象とした掃流砂の移動現象を確率過程として捉えたEinstein (1950)の掃流砂関数は,
非凝集性底質の輸送での一般化された理論として有名である. このような非凝集性の底質輸送に関する研 究は, 凝集性底質の力学に関する基礎となっている. 1960 年代初期になって,Einstein に師事したRayB.
Krone とEmmanuel Partheniades により凝集性底質の輸送機構に関する基礎的研究がはじまった. Krone
(1962, 1963)は位子の凝集と沈降のメカニズムに関する研究を行った. また, サンフランシスコ湾内の港 湾基地や航路内の沈降現象に関連した多くの工学的調査を実施し, 同湾での基礎的な沈降プロセスに関す る成果をまとめた(Krone,1979). Partheniades (1962, 1965)は, サンフランシスコ湾底泥の巻き上げ実験 を実験水路内で行った. この中で,彼は開水路内における凝集性底質の巻き上げ速度に関して,努断応力・
浮遊懸濁物質濃度・底泥努断強度の影響を求めた. また, 異なる流速で、の微細粒子の沈降について検討を 行った. 実験結果から, 巻き上げ速度は底泥の努断強度や浮遊懸濁物質濃度とは独立であるが, 努断応力 に依存することを明らかにした. さらに,巻き上げ限界努断応力を超えることで急速に増加することを指 摘するとともに,巻き上げ速度と底面第断応力との関係式を初めて定式化した. この関係式の特色は底泥 の巻き上げ抵抗を支配している粒子問,電気化学的引力を特徴づけている物理化学的要素の重要性を示し たことにある. その後 Partheniades(1971, 1977) はカリフオルニア大パークレー校での巻き上げ研究を,
マサチューセッツ工科大学で そして後にフロリダ大学において実施し, 底泥の巻き上げと沈降に関する 実験的研究に数多くの寄与をなした. イギリスの英国国立水理研究所(HRS) のOwen and Odd (1972)は,
2層モデルによって底泥の輸送現象をモデル化し, Thames エスチャリーに対して数値計算を実施した. ま た, 英国海洋研究所 (IOS) のParker and Kirby (1977) は, 底面付近に存在する高濃度の浮遊泥である浮 泥(fluid mud)の挙動について現地調査を行った. 彼らは底泥から巻き上げられた微細粒子の鉛直方向濃 度分布の経時変化から,浮泥の形成及び再浮遊についての知見を得た. なお,ì疑集性底質に関する初期の 研究成果はPartheniades (1970) によって概述されている.
1970, 80年代からは,底泥に作用する外力として流れによるものとともに波によるものが取り扱われる ようになった(例えば, Anderson, 1972; Tubman and Suhayda, 1976; Wells, 1983). 波による水粒子の周
期的な楕円軌道運動は, 上層水中の懸濁物質の分散・混合を引き起こす. また, 波による圧力変動は底泥 内部の努断抵抗に影響を及ぼす. フロリダ大学のMehtaand Maa (1986)は, 波作用下における底泥の巻き 上げに関するモデルの構築および実験的検討(Maaand Mehta, 1987) を行った. その中で, 波による底泥 の巻き上げによって形成された浮泥の挙動の重要性について指摘した. 日本でも柴山ら(1987), 楠田ら (1988) ,鶴谷ら(1988), 三村ら(1989) が波による底泥の巻き上げ・沈降および質量輸送に関する研究を 開始した. しかしながら,波動下における底泥の巻き上げ・沈降及び浮泥の挙動に関する知見は一方向流 場での研究成果と比較して未だ十分とはいえず,したがってこれらを統一的にとりまとめるまでには至つ ていない.
1・2 シルテーションがもたらす国内外の実例
欧米では古くからこのシルテーション問題に取り組んでいる. イギリスのエスチュアリーにおけるシル
第i章 j芋論 3 テーションに関しては, 英国国立水理研究所(HRS)の研究が最も進んでおり, 同研究所においてなされ たシルテーションの研究紹介は小笹(1980)によって詳細に報告されている. HRSが行った Thamesエス チャリーの現地調査報告の中で, シルテーションを引き起こす要因として, 元来, 浮遊懸濁液濃度の高し 水塊が, 水路水深健保のための水路断面形状の変化による流速の減少などの水理学的要素が変更されたこ とを挙げている. また, 僕型実験を通して, シルテーションが生じるメカニズムの解明を試みた. この実 験でシルトを多く含んだ底層流の存在を見いだしている. さらに, 浮遊懸濁物質の濃度に関する現地調査
からも底面ごく近傍に非常に高濃度の浮泥 (f1uid mud)層を確認した.
Kendrick ( 1984)はThames川をイギリスにおけるエスチュアリーの代表的なもののlつとして位置づけ,
河道内に設置された一連の構造物 (突堤など)による影響について実例を掲げて示した. また, それらが 一連の堆積や巻き上げの効果を生み出し,その結果を予測するのに有用な方法を示し,その原因を検証し,
さらに, エスチユアリー内で生じる変化による効果に対する処方についても述べている. 最終的には, 新 しい構造物を水理学的考慮なしに建設した場合の失敗例を示し その警告を与えている.
阿部ら (1991)は国際協力事業団を通じてインドネシア政府の要請に応じ, 1988年より 1991年にかけ,
インドネシアの南カリマンタン州のパリトJ 11のエスチュアリーに位置するパンジャルマシン港の調査を行 なった. 航路開削後, 浮泥の存在が確認され, 浮泥による航路埋没が観測されている. 図ト1は,航路の横
断方向にとった音深記録である(ただし, 周波数は通常, 用いられている210kHzと33kHz の2種類のもの で音波探査を行なっている). 明らかに, 高濃度の浮泥が航路内に流入している状況が見られる.
一方, 日本の多くの沿岸域が砂浜海岸であることから, その対象は砂ゃれきといった比較的粒径サイズ の大きなものが取り扱われ, 漂砂にともなう地形変化に関する研究は多いものの 微細粒子群からなる底
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10二 Spot No. 5,000 Time: 13:53, May 12,1990 図1・1 浮泥による航路埋没状況(阿部ら、 1991 )
泥を対象としたシルテーション問題を取り扱う研究はほとんどなされていない状況であった. しかしなが ら, 九州の有明海に面した熊本新港の建設をきっかけに, シルテーシヨンに関する研究がなされるように なった. 熊本新港は軟弱な底泥が広く堆積する有明海に面した場所のやや沖側に位置する出島方式の港で ある. 熊本新港が建設された有明海沿岸域は, 国内有数の粘土ーシルト質から成る広大な干潟を有してい る. その干満差は非常に大きく, 有明海湾奥部では最大で6m にも及び, 干潮時には数km先にまで干潟が 現れる. まさに, シルテーションの研究対象として最適なフィールドとなるに至った. ただし, 前述のよ うに, 日本では粘着性底質を有する場での建設技術および設計指針等が皆無であったため, これらに関す る基礎データの収集が急務となった. 運輸省第四港湾建設局八代工事事務所(1987)は この港の建設段 階において埋没実験用トレンチを掘り, トレンチ内中央部での長期的な埋没量の経時変化を得ている. 図 1・2は, 熊本新港完成図である. 図中には,埋没実験用トレンチ①(水深4mの位置), ②, ①(水深 2m の位置)及び鉛直方向 ss分布や潮位を調べるための観測塔(水深4m)が示されている. なお, トレンチ
①と②は水深差による埋没土量の差異を検討するためのものであり, また, トレンチ③は, その周囲に高 さ1mのi替堤を設置することによって,(替堤を設置していないトレンチ②との比較検討を行うために,それ ぞれ設置されたものである(トレンチの形状を図1- 3に示す). 図1 - 4は, 1986年 12 月--- 1987年3月 までに3つのトレンチ内中央部に堆積した泥の堆積状況を経時的に示したものである(これは, 運輸省第 四港湾建設局の報告書(1987)からデータを拾い出し, 新たに図化したものである). 図中の矢印は, 観測 期間中に生じた荒天後を示している. 2月の大きな時化で,トレンチ①とトレンチ②は急激な埋没が生じて おり,その埋没高さは60cm以上であったものの, 1替堤を設置したトレンチ③はほとんど埋没が生じていな い. これは, 時化時に発生した高濃度浮泥層の流動による トレンチ内への流入を阻止したものと考えら れる. しかしながら, 潜堤の外側には顕著な泥の堆積状況は見られないことから 潜堤は浮泥の流動によ るトレンチ内への流動を阻止する働きとともに, l替堤設置による周辺部の流況変化を生じさせ, 泥粒子の
逸散を起こしているものとも考えられる.
i替堤周辺の底泥の挙動に関しては, 鶴谷ら(1991)が実験的検討を行ない 潜堤の有効性や問題点につ いてまとめている. また, これらは底泥面上を流動する高濃度の浮泥の存在を示唆するものであり, 貴重 なデータとなっている. さらに彼らは, これらの現地観測データをもとに, 鉛直方向の濃度分布を考慮し た多層モデルを用いて数値計算を行った. この計算では,まず流れ場の計算を行う. この計算には移流・拡 散や底泥の巻き上げ, 沈降, 堆積の計算も含まれている. 次に波の場の計算と粘性流体多層モデルによる 波の減衰や質量輸送量の計算を行い, 最後に上記2つの結果から得られる一次堆積量の分布と質量輸送量 から堆積量を求めている. この計算によって得られた埋没量予測値は その一次近似量としては比較的一 致している. しかしながら 泥の沈降特性 高濃度浮泥層の特性 底泥の圧密現象といった力学的特性を
1-1
第1章 序論3
図1・2 熊本港完成図(運輸省第四港湾建設局司 1987)
地点 ① 地 点 ② 地 点 ③
1・2 2-2 3・2 元H�
ト3 2-1 2-3 3-1 3-3
3-4
図1 - 3 熊本港埋没実験用トレンチ(運輸省第四港湾建設局電 1987)
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図1・4 トレンチ内の堆積状況(運輸省第四港湾建設局(1987)をもとに新たに作成したもの)
ほとんど考慮していないなどの問題点もある.
最近では小野田港における泊地埋没の現地観測が油谷ら(1995)によって報告されている. 彼らによる と高波浪時に沖側の巻き上げによって形成された浮泥が, 岸側へ流動する様子が観測された. また, 泊地 の埋没土砂は, 浮遊状態で供給される量よりも浮泥によって輸送される量の方が多いとも述べている.
1・3 底泥・浮泥・懸濁物質の輸送過程の特性
柔らかい底泥が広く堆積した河口沿岸域や河道側面部において, ある水理条件下, 底泥の巻き上げが生 じ, 巻き上げられた懸濁物質が分散・輸送され, フロック形成に続き沈降が可能な静穏な水域あるいはそ のような条件のときに沈澱する. 底面近くまで沈降してきた粒子は, そのまま底面に沈降・堆積して底泥 となることもあれば, 底面近くに存在する高濃度の浮泥となって, 容易に水底を移動し, そこで沈積する こともある. 底泥・浮泥・懸濁物質問の輸送プロセスは,図1- 5のようにまとめられる. この図に示して いるように、 底泥(muds)が巻き上げられて移動する形態には, 大きく分けて二つある. 一つは, 底泥面 から巻き上げられた微細粒子が水と混合した懸濁液(suspension, suspended solids)で, これは水中内に浮 遊している状態にある. これらは水中で混合された状態にあり, 移流によって水塊内を輸送される. もう 一つは,懸濁液の沈降あるいは底泥面からの巻き上げによって底泥面上にある層厚をなして浮遊しつつも 高濃度で非常に流動性に富んだ, いわゆる浮泥(f1uidmud)の状態である. この層内ではその高粘性のた め乱れは抑制され, 急激な速度変化をもたらす. 図1 - 6は,比較的高濃度の懸濁液を有したエスチャリー での典型的な濃度分布と流速分布である(Ross and Mehta, 1 989). このような底泥の形態変化について,彼 らは, 濃度Cによって次のように分類した. すなわち, C<lg!lに対してはImobile suspensionJ, c> 1 Og!lに 対してはlf1uid mudJとした. Fluid mud はさらに mobile f1uid mudと stationary f1uid mudに分けている. F1uid
mudの下層には cohesive bedが存在し, これと f1uid mudとの境界は, 土粒子構造の発達と有効応力の発現 の有無によるとしている. また, 懸濁物質の底泥化には, 必ず浮泥化というプロセスを考えに入れなけれ ばならない. この浮泥化の過程, すなわち高濃度浮泥層の形成, 流動および消滅は, ここ数年の研究成果 からシルテーションにかかわる重要な要因として注目されている(例えば, Smith and Kirby, 1989). さら に, 図1・6の鉛直濃度分布から, 濃度勾配が急変する領域(lutoclines)が見られる. エスチュアリーにお ける lutolines の生成, 安定及び消滅はそのまま, 高濃度浮泥層のそれと関わることになる.
Lutoclinesから上層水への巻き上げ, すなわち連行現象もこの浮泥層形成に影響を及ぼす. 浮泥層界面か らの連行と底泥からの巻き上げは,界面での応力の伝達や界面を挟んだ上下相の違いなどからそのメカニ スムは異なる. 浮泥層の形成には上層水からの懸濁粒子群の沈降による供給が必要である. 現地での懸濁 粒子の沈降は, 静水状態で行われることはほとんどなく, 常に流れや波の影響を受けつつなされているた
序論 7
第i章
懸濁液 Suspension
Erosion Settling
Entrainment
0 n
4l ω
E』 VE Consolidation
底 泥
底泥・浮泥・懸濁物質の輸送プロセス 図1
-
510 3 CONCENTAATION, C (gl-')
102 10'
100 101
{E)凶UJHLZコω〉〉O」凶図工←a凶口
2一一一一一一一一ー
St8tlonary "Fluld"し 一一一一一
Mud一一一一一一一一- T 一一一一一一
Coheslve 8ed 8
1.25 1.00
0.75 0.25
。
1989)
VELOCITY, u (ms-1) 図1・6 高濃度懸濁液を有するエスチャリーでの
典型的な濃度分布と流速分布(Rossand Mehta司
め, このような娠動流場での評価が必要となる. また, 航路埋没の原因のーっと考えられる浮泥の流動時 の層厚がどのくらいになるかを定めることは, そのままシルテーションの定量化へと直f妥結びつく. すな わち, 底泥からの巻き上げと浮泥層界面からの連行, そして上層水からの懸濁粒子群の沈降を評価するこ とが必要となってくる.
1 - 4 本研究の目的と意義
凝集性底質は, 粒子相互間の粘着力が卓越することから, 非凝集性底質と輸送機構が異なる. したがっ て, 底泥輸送の現象把握には, まず底泥物性の理解が必要である. また, 底泥の巻き上げに伴う水域の富 栄養化や水質汚濁を量的に精度よく予測するには巻き上げ‘られる底泥から上層水層への輸送量や底泥面上 に形成される高濃度浮泥層による輸送量を把握し, 対象とする水域における移流拡散方程式中のソース項 を求めなければならない. これらは, 底泥面上に作用する流体力などに関連づけて定式化する必要がある.
さらに, これらのモデルを検証するためには現地観測データとの比較検討が必要である. 本研究は, 流れ による従来の研究成果を踏まえながら, 波よる底泥の巻き上げ・沈降,浮泥の形成・流動に着目しつつ,こ れらに関する諸特性とその輸送機構を明らかにするものである.
本研究の各章の内容は次の通りである.
まず, 第2章では底泥・浮泥の特性について検討する. 特に, 底泥のレオロジー的特性については従来 の研究成果をもとにまとめた. また, 底泥の挙動とともにシルテーション問題の重要な一要素である浮泥 の挙動について既往の現地調査を含めてまとめた.
第3章では, 波動下における底泥の巻き上げについて検討する. シルテーションの定量的評価は, 流体 運動条件(一方向流であるか,あるいは振動流であるか)により大きく異なる. 一方向流でのシルテーショ ンの輸送機構や定量的評価は, 底泥物性が既知である場合においで ほぼ説明可能なレベルに到達してい る. しかしながら, 波動(振動流) 下での研究はそこまで至っていない. 本章では 試料底泥としてカオ リンを用いて巻き上げ実験を実施した. 試料底泥の調整にはレオロジー特性を表し得る一つの手法である スランプテストを採用した.一連の巻き上げ実験を通して,(1)巻き上げ時の底泥表面形状の特異性,(2)限界 巻き上げ努断応力や巻き上げ速度と波高,周期,底泥含水比の関係, (3)上層水層における巻き上げられた粒 子の濃度分布,(4)一方向流の場合と異なり,巻き上げと沈降が同時に生じるか否か,について実験的,解析 的に検討を加えた.
第4章では, 実海域における底泥輸送の議論のために 現地で直接採取した不撹乱底泥を用いた巻き上 げ実験について検討した. ここでは 撹乱・不撹乱底泥による差異, 波動下と一方向流下での巻き上げ特 性の関連といった点に着目し,(1)波動下における撹乱・不撹乱底泥の巻き上げの量的影響,(2)波動下・一方
第i章 J芋論 9
向流下での努断応力の作用形態の差異による巻き上げ特性への影響. (3)波動下・一方向流下での巻き上げ算 定式聞の関連の明確化と算定式中の係数や指数の換算方法の確立, を目的とする.
第5章では, 振動流下における高濃度浮泥層の形成と懸濁物質の沈降について検討する. 波動下におい て形成された浮泥層とそれよりも上層に存在する低濃度懸濁液層の輸送を議論する際には, 二層構造内の 下層部に位置する高濃度浮泥層の挙動が重要であり, これが懸濁物質の輸送総量を決定づける支配要因の ーっとなってくる. したがって, この底泥直上部に形成される高濃度浮泥層の挙動を研究することは, シ ルテーションの定量的な評価を行うという観点から, 極めて実用的かつ重要な課題である. また, この層 がどのような条件で生成, 安定, 消滅するのか, あるいは, 安定した状態で沈積してしまわずに流動する のかを解明することは, シルテーションの定量的評価にとって極めて重要である. ここでは, 種々の往復 流の発生が可能なU字型振動流水槽を用いた. 試料には海水と混合させた現地泥を使用した. 実験結果か ら. (1)振動流下における懸濁物質の沈降形態の把握,(2)高濃度層の形成過程とその特性,(3)沈降フラックス,
底面努断応力, 粒子凝集特性, 槽内平均濃度などと高濃度浮泥層の挙動との関係について明らかにする.
第6章では, 高濃度浮泥層の流動特性について検討する. 第5章では浮泥層形成過程やその特性につい てまとめた. ここでは底泥面上に存在する高濃度浮泥層の流動と層内庄力分布等の計測結果を踏まえ, そ のモデlレ化を行う.これより, (1)浮泥層内の流動及び保持に関わる影響因子, (2)底面近傍に形成される高濃 度層の流動機構,(3)振動流下における高濃度層内の勇断状況を理解するための流体運動のシミュレーション,
を行う. これらの結果をもとに, 振動流下における高濃度層の形成及び保持機構の解明を行うことを目的 とする.
第7章では, 浮泥層界面における連行現象について検討する. 底泥輸送にとって, 第3章での底泥の巻 き上げ‘とともに, 浮泥層界面からの連行も, その形成・消滅といった観点から重要である. また, 沈降性 粒子を多量に含んだ高濃度浮泥層界面での連行量式は, 従来から用いられている密度流現象での連行量式 とは異なり, 再検討が必要であると思われる. すなわち, 浮泥層界面での連行現象は 底泥からの巻き上 げ現象とはその機構を異にすることが予想される. ここでは 振動流下で形成された浮泥層から上層水層 への連行現象 (質量輸送)について 実験結果と理論展開によってこれらを解明する.
第8章では, 河川環境及びその管理に着目し, 特に河道断面確保の立場から河岸に堆積した底泥(ガタ 土)除去の一手法として, 波による洗掘効果を室内実験 ・現地観測を通してまとめる. ここではまず, 実 河岸を想定した傾斜底泥面に波を作用させたときに生じる衝撃砕波圧の算定手法について理論的・実験的 に検討する. ついで 現地底泥の土質力学的特性について検討する. さらに, 現地底泥を用いた波による 室内洗掘実験を行う. この結果から, 先に定めた波の特性と衝撃砕波圧との関係をもとに, 与えられた波 とそのときの洗掘土量との関係を導く. このとき 衝撃砕波圧とともに現地底泥の強度を考慮して定量的
に評価する. 最後に, 現地河道側面に堆積した底泥に航跡波を作用させ, 得られた結果をもとに, 衝撃砕 波圧と洗招量との 関係について検討する. 以上から,航跡波による現地河岸堆積泥の除去の可能性につい て考察する.
第9章では, 上記第2章から9章までをとりまとめ 本論文の結論とする.
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第2章 底i尼. ,.芋泥の特性 13
第2章 底泥・ 浮泥の特性
2・1 底泥の性質
「底泥」という言葉は, r底質J, r汚泥Jあるいは「ヘドロ」と呼ばれることも ある. 茂庭(1993) によ れば,1980年代 から は「底質Jよりも「底泥」を使う研究者が多く な ってきたようである. r汚泥」は, 産 業廃水や生活雑排水 など によって汚染されたものというイメージが強い. また, rヘドロ」は,1970年代の 我国の産業の急速な発展過程で生じた,いわゆる公害がクローズアップされる中で頻繁に使用されてきた.
建設省の報告書(1973) では, 有機物, 水分, 粘土含有率の特に高い底泥をヘドロと定義している. 同様 に, 底泥の定義も, 各研究者 によってまちまち であり, 明確に統ーされて はいない. 一般には, r海域, 河 口, 湖沼, 湾奥の底に堆積する軟弱な 泥jのことを指すことが多い. その他にも, r緩やか な河川, 運河,
港湾などの水底に存在する柔ら か な汚泥J(内田,1978), r自然的・人工的要因によって発生した微細粒子 が, 水底表層 上に浮遊堆積したものJ(嘉門,1978), r粘土やシルトの大きさの粒子が多数凝集した状態の 粘着性混合物J(Mehta and Maa, 1986), あるいはもう少し狭い意味で定義する ならば二渡(1993) が述べ たように, r水中に浮遊した懸濁物質が, 底面に沈積し, 流体のように変形しない」ものといった定義も な されている.
この底泥の輸送を論じるときに 上層水中に巻き上げられた浮遊懸濁物質の総量や底泥 面から底泥粒子が 上層水 層内へ取り込まれる速度を定式化すること は, 底泥輸送のシミュレーションでのsource項に寄与し ている. 流れによる底泥の巻き上げや沈降に関するフラックスの 表示式は,1980年代までに多くの研究者 によって一応の成果がと りまとめられている(例えば, Mehta et al., 1982 ; i毎回, しかしながら,
底泥粒子が微細 な粘土,シルト粒子群で構成されているため に,砂粒のようにその流体力と重力のみの作用
変形
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図2 - 1 レオロジ一的分類図(森司 1957)
では処理できず, 凝集力や粘着力といった粒子相互間での作用を考慮する必要が生じる. 粒子聞の粘着力 に起因するものとしては, それぞれの底泥を構成する粘土の種類や粒径 粒子間構造, 塩分濃度, 吸着陽 イオン, 有機物質等の様々な要因が挙げられる. このことが非凝集性粒子からなる底質輸送と比べて, 凝 集性粒子からなる底泥の輸送問題を複雑にしている重大な要因となっている.
また,底泥の性質を土質工学的分野から眺めると,その性質の表現方法として,塑性限界, i夜性限界,塑 性指数, 鋭敏比, 間隙比,含水比,粘度,密度, 粒度分布などが挙げられる. そして, これらの指標は底 泥の性質を表現する重要な要素として採用される.
さらに, 底泥はその流動変形の特性からレオロジ一的観点のアプローチも, 底泥輸送のモデル化を構築 する際に必要である. 図2噌lはレオロジー的性質の分類図である(森 1957) . 図より, 応力の作用とと もに流体は連続的に変形を増し, 一定の応力が働く限り変形が時間に比例し さらには応力を取り去って も変形がまったく回復しないとき,これを粘性流体と呼ぶ.この場合の応力σと歪み速度シ(yは勇断歪みで,
シ= dy /dtである)との関係は σ=F(シ)=η(十)シ であり, ここでη(シ)は粘性率と呼ばれるもので, 物質の流 動性を特徴付けるものである. 理想的な粘性流体はニュートン流体と呼ばれ, 応力一歪速度, 時間-歪が 原点を通る直線であるものをいう. しかし, 一般に底泥や浮泥の流動を考えるときには 応力と歪み速度 が比例するニュートン流体ではなく, 応力と歪み速度の関係が非線形であったり 外力を除去しても回復 が生じたりするような非ニュートン流体, 応力と歪み速度が原点を通らず 一定応力以下では流動しない ピンガム流体などとして考えることが多い. 実際,底泥から粒子が巻き上げられる場合には,ある応力,す なわち,ある状況下における底泥の降伏値を越えなければ, その底泥からは巻き上げが生じない(例えば,
Dunn, 1959; Smerdon and Beasley, 1961; Partheniades, 1965; Migniot, 1968;大坪, 1983;海田ら, 1988
など). また,底泥の含水比などの物性や作用する歪み速度の大きさなどによっては 実際の底泥流動と合 致するよう別途モデル化しなければならない.
本研究では底泥の物性を表示するための指標として, 含水比, スランプ値,努断強度, 粒度分布, 粘性,
密度, 強熱減量などをその代表値として用いているが, 底泥の粒度分布が同じでも, 含水比が異なると底 泥の巻き上げ速度や巻き上げ限界第断応力に影響を及ぼす. 底泥の巻き上げに関わる物性値としては, 水 温, 塩分, 塑性指数, 陽イオン交換容量(CEC)等が用いられ(Smerdon and Beasley, 1961; Raudkivi and Hutchinson, 1974; Ariathurai and Arulanandan, 1978),底泥の巻き上げ限界努断応力に関しては,掃流限界,
破壊限界, 降伏値などが使用されている(Migniot, 1968;大坪, 1983). i毎回(1988)は, すでに提案され ている粘性係数(例えば 瀧・岡, 1984)や底泥降伏値(例えば, Migniot, 1968;大坪, 1983)といった 底泥物性値の指標にとって代わるものとして初めてスランプ値を採用し,底泥の流動特性や巻き上げ速度 式中のパラメータとして取り入れている. また, 最近では, このスランプ値を用いた解析や実験的検討も
第2章 底i足. r字泥の特性15
なされている(中野ら, 1989;鶴谷ら, 1989). 瀧(1992)は, 次元解析に基づいて流れ場における底泥の 巻き上げ量予測式として4つの無次元量からなる関係式を導いた. この中で 底泥の物性を表すパラメー タとして, 燕次元底泥粘度を定義している. ただし, 取り扱う底泥含水比が比較的高い(カオリナイト:
150-350%, ベントナイト: 303 - 550, 650 - 1052 %)ものを対象にしていることから やや一般性に欠け るところがある. このよっに, 著者の知る限り,現時点までに底泥の巻き上げに関わる物性値との関係に ついて統一的にまとめられたものは未だ燕いのが現状である.
2 - 2 底泥のレオロジー的特性について
本論文では底泥に作用する外的要因として波の作用に着目しているが, 波と底泥の相互干渉に関する理
論はすでに多く提案されている. Gade (1958)やDalyrmple and Liu (1978)は底泥を粘性流体と仮定し, 波 と底泥との相互干渉を底泥内部の摩擦損失と絡めて論じた. その他, MacPherson (1980) は粘弾性モデル (Yoigtモデル), Maa and Mehta (1988)は底泥を層状にした粘弾性モデル, Yamamoto and Takahashi (1985)
は多孔性弾性体モデル, Liu and Mei (1987)はピンガム塑性体モデルとした. また, 中野ら(1987)のピ
ンガム流体を仮定した粘性流体多層モデル, 柴山ら(1989)の粘弾塑性体多層モデルなども提案されてい る. このように底泥の挙動を知る上で, これをどのような形でモデルに組み込むか, すなわち底泥の構成 則をいかに表示するかが最も重要である. さらに,これら底泥のレオロジー的特性を表す代表値として粘 性係数や降伏値をいかに与えるかも実際の計算を行う上で必要なことである.
これらの測定に際し, 古くから多くの種類のものが考案されており, 帯型粘度計, 毛細管式粘度計, 円 錐-平板粘度計, 落球粘度計といったもの(中川, 1978)から, ベーン努断試験, 回転粘度計, スランプ試 験によるものがある. ここでは底泥のレオロジー測定で近年よく利用される試験法について若干の整理を 行い, それぞれの特徴を述べる.
2・2- 1 べーン努断試験
ベーン努断試験は室内実験でも行えるとともに, 土質力学の分野では原位置非排水試験として土の努断 強さを求めるのに簡便な方法であるとみなされている. 試験は, 十字ベーンと呼ばれる4枚翼を試料底泥 内部に挿入し, 一定の角速度で回転させて行う. すなわち, ベーン上下面と円筒面上で試料を勇断しよう とするものである. いま, べーン上下面と円筒面上に作用する努断力Tが等しいとすれば,最大ねじり(回 転)モーメントMは次式となる (山内, 1982).