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国 際 金 融 資 本 市 場 の グ ロ ー バ ル化 と短 期 資 本 移 動

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〈論 説 〉

国 際 金 融 資 本 市 場 の グ ロ ー バ ル化 と短 期 資 本 移 動

岡 田 義 昭*

目 次

1は じめ に

2経 済 の グ ロ ー バ ル 化 と そ の 影 響 3短 期 資 本 移 動 の モ デ ル 分 析

aモ デ ル

b通 貨 投 機 の 発 生 メ カ ニ ズ ム 4自 己 実 現 的 予 想

a群 衆 行 動 b伝 染 ・波 及 5結 び

1は じ め に

1971年8月,米 国 政 府 は 金 交 換 停 止 を含 む 新 経 済 政 策 を 発 表 し,戦 後 の 国 際 通 貨 制 度 を 支 え て き た ブ レ ト ン ・ウ ッ ズ体 制 は こ こ に 崩 壊 した 。 そ の 後,ス

ミソ ニ ア ン合 意 に よ っ て,再 度 米 ドル で の セ ン トラ ル ・レー ト制 に よ る 相 場 の 固 定 化 を は か る試 み が な さ れ た。 しか しな が ら,も は や,金 の 裏 付 け を持 た ず 価 値 の 不 安 定 な 米 国 の 国 内 通 貨 を か つ て の 平 価 の ご と く 国 際 的 に も 使 用 さ せ る こ と に は 所 詮 無 理 が あ り,結 局 ドル ド落 を 見 越 した 投 機 圧 力 に抗 う こ とが 出 来 な か っ た か ら,1973年2‑3月 に は 主要 通 貨 は 全 て 変 動 相 場 制 に 移 行 した 。 そ れ 以 降,1976年 の キ ン グ ス ト ン合 意 や1978年4月 のIMF第2次 改 正 協 定 を

(2)

2商 経 論 叢 第35巻 第3号 (27;i)

経 て,世 界 の 外 国 為 替 相 場 制 度 は,今 日次 の よ う な 固 定 相 場 制 や 変 動 相 場 制 な い しは そ の 折 衷 の 形 を採 っ て い る ω 。

(1)固 定 相 場 制(米 ドル等 特 定通 貨,SDR,通 貨 バ ス ケ ッ トな どにペ ッグ) (2)カ レ ン シ ー ・ボ ー ド制(為 替 ペ ッグ制 を採 る ・方,国 内 通 貨 流 通 量 に 見 合

うだ け の 外 貨 準 備 を通 貨 委 員 会 に保 有 させ る 制度)

(3)共 通 通 貨 制 ・通 貨 同 盟 制(他 国 の 法 定 通 貨 を 自国 内 で も流 通 させ る か,あ るい は 同 盟 加 盟国 が 統 一樋 貨 を流 通 させ る制 慶2り

㈲ 変 動 幅 固 定 制(通 貨 当局 が 中 心 レー トとそ の ヒ ドー一定 の 変 動 幅 を 固 定 して お り,そ の幅 の 中で 外 為 市場 にお い てrl山 に取 引 され るが,変 動 幅 を超 え そ

うな場 合 や,そ うで ない場 合 で も政 策 的 に通 貨 当局が 為 替 介 入 を行 う制 度) (5}ク ロ ー リ ン グ ・ペ ッ グ 制(例 え ば 内 外 イ ン フ レ率 な ど特 定 の 指 標 を 基 準

に,段 階 的 且つ 小 刻 み に平 価 を変 更 させ る制 度)

樹 ク ロー リ ン グ ・バ ン ド制(特 定 の 指標 を基 準 に,段 階 的 且つ 小 刻 み に 変動 幅 の 中心 レー トを変 更 させ る制 度)

(7)管 理 フ ロ ー ト制(通 貨 当 局 が 事 前 の ア ナ ン スや コ ミッ トメ ン トな く外 為 市 場 に積 極 的 に 介 入す る こ とで 為 替 レー トの 動 き を管 理 す る もの)

(8)完 全 フ ロ ー ト制(原 則 市 場 の 需 給 の み に よ っ て 決 定 され るが,大 幅 な 変 動 を抑 制 した り乱 高 下を スム ー ズ な もの に す る た め の 当局 の 裁 量的 な 為 替 介 入 は 認 め られ る)

1999年1月1日 現 在 のIMF加 盟 国185か 国 の 内 訳 は,同 日 か らの 欧 州 の 経 済 通 貨 同 盟(EMU)の 発 足 に 伴 い,固 定 相 場 制 が39か 国,カ レ ン シ ー ・ボ ー ド制 が8か 国,共 通 通 貨 制 ・通 貨 同 盟 制 が37か 国,変 動 幅 固 定 制 が12か 国, ク ロ ー リ ン グ ・ペ ッ グ 制 が6か 国,ク ロ ー リ ン グ ・バ ン ド制 が10か 国,管 理 フ ロ ー一ト制 が26か 国,完 全 フ ロ ー ト制 が47か 国 と な っ て い る。

こ う し た 中 で,国 際 金 融 資 本 市場 の リ ン ケ ー ジが 高 ま り,大 量 の 外 国 為 替 取 引 や デ リバ テ ィブ 取 引 な どが 地 球 的 規 模 で 瞬 時 に 行 わ れ る よ う に な る と,種 々 問 題 が 生 じて 来 た 。 例 え ば,変 動 相 場 制 ドで の 大 幅 な 資 本 フ ロ ー は,為 替 レー

トの 乱 高 ドや 過 剰 反 応,バ ブ ル,ミ ス ア ラ イ ン メ ン トな ど を もた ら し易 く,こ

(3)

(272) 国際 金融 資 本 市場 の グロ ー バ ル化 と短 期 資 本移 動3

の こ と は,経 営 リ ス ク を 高 め た りs経 済 の 最 適 資 源 配 分 を損 な っ た りす る 。 し か しな が ら,一 ・方 で,変 動 相 場 制 は 外 生 的 な撹 乱 か ら生 ず る圧 力 を こ う した 為 替 レ ー トの 変 動 で 絶 え ず 吸 収 ・発 散 さ せ る 「柔 構 造 」 と も言 え る 。 こ れ に 対 し,固 定 相 場 制 はs為 替 レー トは 安 定 す る が,い わ ば 「硬 い構 造 」 で,外 的 撹 乱 か ら生 ず る圧 力 を シ ス テ ム 内 に 強 引 に 閉 じ込 め て お こ う とす る もの で あ る か ら,ひ と た び 公 定 平 価 の 調 整 が 行 わ れ そ う に な る と,巨 大 な投 機 資 金 の 流 れ が 生 ま れ,多 大 の ダ メ ー ジ を実 体 経 済 に 与 え る こ と も あ り得 る(3)。1992年 か ら 93年 に か け て の 欧 州 通 貨 制 度(EMS),1994年 末 か ら95年 初 め の メ キ シ コ,1997年 半 ば か ら98年 前 半 の 東 ア ジ ア,1998年8月 の ロ シ ア,1999年 年 初 の ブ ラ ジ ル な ど に 見 られ た 世 界 経 済 を震 憾 させ た 一連 の 出 来 事 は,こ の こ と を 端 的 に 例 証 して い る 。

そ こ で,本 稿 で は,国 際 金 融 資 本 市 場 の グ ロー バ ル 化 の 進 展 に伴 う資 本 移 動 と い う枢 要 な 問 題 に 対 して,理 論 モ デ ル を基 に 検 討 を加 え て み る 。 そ し て,そ こか ら,政 策 命 題 を 試 論 的 に 導 き,国 際 通 貨 ア0キ テ クチ ャ ー 造 りの …助 とな る こ と を志 向 す る(4)。

{1)IMF(1999),InternationalFinancialStatistics,MayIssue,pp.2‑‑30

(2)IMF(1999)前 掲 文 献 で は 必 ず し もmonetaryunionとcurrencyunionと を 明 確 に は 区 別 し て い な い が,本 来 は 両 者 は 峻 別 さ れ る も の で あ ろ う 。 す な わ ち,前 者 で は 同 盟 国 内 で そ れ ぞ れ の 通 貨 が 固 定 相 場 で 自 由 に 変 換 さ れ る も の で あ り,他 方, 後 者 のcurrencyunionで は 同 盟 国 が 統 一通 貨 を 持 ち 且 つ そ の 管 理 に 共 同 で 責 任 を 持 つ も の で あ る(島 崎 久 彌(1987)「 ヨ ー ロ ッ パ 通 貨 統 合 の 展 開 』 日 本 経 済 評 論 社,pp.18‑19,同(1997)『 欧 州 通 貨 統 合 の 政 治 経 済 学 』 日 本 経 済 評 論 社,pp.81

‑82} 0

(3)浜 田 宏 一(1996)『 国 際 金 融 』 岩 波 書 店ip,240。

(4)変 動 相 場 制 の 「射 程 距 離 」 を 測 る 試 み に つ い て は,筆 者 は 既 に 別 の 機 会 に 論 じ て い る 。 こ れ に つ い て は,以 下 文 献 を 参 照 。[1]岡 田 義 昭(1997a)『 国 際 金 融 研 究 』‑f.̲̲"房 出 版,[2]同(1997b)「 変 動 相 場 制 と 政 策 協 調 」 「岐 阜 経 済 大 学 論 集 』 第31巻 ・2"3号,[3]同(1998)「 変 動 相 場 制 理 論 の ミ ク ロ 的 基 礎 」 「岐 阜 経 済 大 学 論 集 』 第31巻 ・第4号,[4]1司(1999)「 変 動 相 場 制 理 論 の 理 論 的 分 析 」

『岐 阜 経 済 大 学 論 集 』 第32巻 ・第4号

(4)

4商 経 論 叢 第35巻 第3号 (271)

2経 済 の グ ロー バ ル化 とそ の影 響

今 日,交 通 ・通 信 情 ≡報技 術 の 発 達 に よ り,経 済 活 動 は 国 境 の 壁 を超 え 地 球 的 規 模 で 展 開 され る よ う に な っ た 。 そ れ 故,各 国 の 政 治 ・経 済 ・社 会 ・文 化 ・歴 史 ・伝 統 ・慣 習 な どの 他 国 と の 結 合 度 は,飛 躍 的 に 緊 密 化 を 増 し た 。 と こ ろ で,こ う し た 地 球(globe)を 一 体 とす る 認 識 は,こ れ ま で の 国 を 基 本 単 位 と した フ レー ム ワ ー ク や 仕 組 み を 超 越 す る も の で あ る 。 し た が っ て,経 済 の グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 進 展 は,坦 界 の 富 や 力 の 配 分 に 影 響 を 及 ぼ す と 同 時 に,20世 紀 に我 々 が 慣 れ 親 しん だ 国 民 国 家(nationstate)と い う も の の 意 味 合 い を根 底 か ら問 い 直 す 必 要 性 を 迫 っ て い る(D。 例 え ば,近 代 の 国 民 国 家 とは, 政 治 的 支 配 の 領 域 と=.litTp11・文 化 の 領 域 と を 激 させ る こ と に 全 力 を注 ぐ もの で あ り,更 に 言語 と 文化 を 同 じ くす る の が 民 族 だ とす れ ば,近 代 国 民 国 家 の 理 想 と は ・民 族 に よ る …国 家 の 実 現 とい う こ とで あ っ た(7),し か し な が ら,国 境 を 超 え た 経 済 の グ ロ ー バ ル 化 は,国 民 国 家 と して の 纏 ま りの メ リ ッ トを 減 じ さ せ,そ の 分 「エ ス ニ ー」 や 「地 域 」 と い う国 家 よ り ド位 の 単 位 な い しは 「統 合

圏 」 とい う上 位 の 単 位 へ の 両 極 化 を 誘 発 した 。 か く して,経 済 の グ ロ ー バ ル化 に 伴 う国 民 国 家 のLド 分 解 は,一 方 でEUやNAF'1'Aの よ う な 超 国 家 的 な 広 域 秩 序 の 樹 立 を 促 す と 同 時 に,他 方 で 地 域 主 義/re£ionalism)的 な 多 元 的 経 済 化 を も 層 進 展 させ ざ る を得 な くな っ て い る 、Jそ して,こ の こ とは,国 家 ← →法 定 通 貨(legaltender)← →国 際 通 貨 体 制 とい う従 来 か ら の 枠 組 み の 問 い 直 し を も迫 っ て い る ㈲。

こ う した 状 況 下 で,と りわ け マ ネー の グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンの も た らす 影 響 は 極 め て 大 きい ㈹ 。 す な わ ち,通 信 情 報 技 術(IT)の 革 命 的 進 歩 に よ り,各 国 金 融 資 本 市場 の 規 制 緩 和 や 内 外 資 本 取 引 の 自 由 化 と柑 侯 っ て,各 国 市場 間 の リ ン ケ ー ジ は 高 ま り,外 国 為 替 取 引 や デ リバ テ ィブ 取 引 は 地 球 的 規 模 で 瞬 時 に 行 わ れ る よ う に な っ た(5)。 例 え ば,国 際 決 済 銀 行 の 最 近 の 統 計(6)に よ れ ば,1998 年4月 の1日 当 り 平均 外 国 為 替 取 引 高 は1.5兆 ドル("1)で,こ れ は 世 界 の 貿 易 総 額 の 約70倍 に 達 し(8>,し か も第1図 に 見 られ る ご と く年 々急 増 して い る 。

(5)

(270) 国際 金 融 資 本 市場 の グロー バ ル化 と短 期 資本 移 動5

こ の よ う な 国 際 的 な 通 貨 取 引 の 増 殖 は,… 方 で 為 替 レー トの 短 期 的 な 乱 高 下 (volatility)や 過 剰 反 応(overshooting),バ ブ ル(フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズ と は 無 関 係 な 為 替 レー トの 一方 向 的 ・累積 的 な動 き),あ る い は 中 長 期 的 な ミ ス ア ラ イ ン メ ン ト(国 内 ・国外 均 衡 と整 合 的 な 実 質 為 替 レー トか らの 乖 離)な ど を も た らす と 同 時 に,他 方 で,今 や 数 百億 ドル 単 位 の 外 貨 準 備 しか 持 た な い 新 興 国 に 大 き な 脅 威 を 与 え る こ と と な っ た 。 も ち ろ ん,マ ー ケ ッ トが 市 場 原 理 に 則 っ て 動 い て 行 く限 り暴 走 す る こ と は な い 。 しか し な が ら,R.マ ッ キ ノ ンの 言 う金 融 自 由 化 の 手 順(sequence)を 間 違 え た り(9},あ る い は 経 済 の フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズ が 不 健 全 で あ る とか,為 替 政 策 が 必 ず し も適 切 で な い と か す る と,ヘ ッ ジ ・ フ ァ ン ドを 含 む 大量 の ス ペ キ ュ レー シ ョ ン を 時 と して 浴 び る こ と も あ り得 る 。

した が っ て,そ う した 場 合 に は そ れ ら国 々 は 自 国 の 外 貨 準 備 だ け で は もは や 対 応 出 来 ず,経 済 的 に も 政 治 的 に も破 壊 的 な 打 撃 を 被 る こ と に な る。1994年 か ら1999年 に か け て の メ キ シ コqo),東 ア ジ ア 諸 国(11),ロ シ ア,ブ ラ ジ ル な ど に 見 ら れ た 一連 の 通 貨 危 機q2)の 事 例 が}端 的 に そ れ ら を例 証 して い よ う。

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第1図 世界外 国為替1日 当た り平 均取 引高

資 料:BIS調 査報 告書 各年版 よ り作 成

(6)

6商 経 論 叢 第35巻 第3号 (269)

も ち ろ ん,他 方 で マ ネ.̲̲.のグ ロ ー バ ル 化 に 様 々 な 利 点 の あ る こ とが 理 論 的 に も実 証 的 に も 明 らか に さ れ て い る(13)例 え ば,個 々 の 投 資 家 に と っ て は,① 国 内 市 場 だ け に 隈 定 さ れ る よ り も高 い 期 待 投 資 収 益 の 機 会 が 確 保 出 来 る,② 各 市 場 間 の 収 益 率 に 係 る 共分 散 を 低 め 得 る か ら,投 資 リ ス クの 有 効 な 分 散 化 を は か る こ とが 可 能 と な り,国 内 市 場 だ け に 限 定 され る よ り も ポ ー トフ ォ リ オ全 体 の リ ス ク を ミニ マ イ ズ 出 来 る{14),③ ポ ー トフ ォ リ オ の 満 期 構 成 の 変 換 が 容 易 と な る,な どで あ る 。 ま た,マ ク ロ経 済 的 に 見 て も,④ フ ァ ン ダ メ ン タル ズ に 照 ら して 不 健 全 ・不 適 切 な 経 済 政 策 は,即 座 に大 量 の 資 本 流 出 入 や 金 利 の 急 騰 落 を招 こ うか ら,政 策 当 局 に 政 策 の 節 度 を 強 い る,⑤ 経 常 収 支 の 黒 字 ・赤 字 を 通 じた 異 時 点 間 の 最 適 資 源 配 分 達 成 を,資 本 の グ ロ ー バ ル な 移 動 に よ っ て 可能 な ら しめ,し た が っ て 国 内 市 場 だ け に 限 定 さ れ た 場 合 よ り も経 済 厚 生 を 高 め 得 るq5),⑥ 限 界 生 産 力 に 国 際 的 差 異 の あ る 時,グ ロ ー バ ル な 資 本 移 動 に よ り,

層 崖 産 性 の 高 い 用 途 に 資 源 が 配 分 さ れ る こ と で 全 体 の 生 産 性 を 高 め得 る,⑦ 金 融 シ ス テ ム の 規 制 緩 和 ・自 由 化 を促 す こ と に よ りeレ ン ト(自 由 な競 争 か ら

生 み 出 され る以Lの 収 益)の 発 生 を抑 制 す る の で,資 源 配 分 の 非 効 率 性 や 所 得 分 配 の 不 公 正 性 を 是 正 し,汚 職 ・腐 敗 ・ク ロ ニ.̲̲̲ビジ ネ ス の 基 と な る 不 正 利 益 を排 除 し得 る,な ど の メ リ ッ トの 享 受 が 考 え ら れ る 。

そ こ で,次 に,こ う した 国 際 金 融 資 本 市 場 の グ ロ ー バ ル化 の 進 展 に 伴 う短 期 資 本 移 動 の メ カニ ズ ム を,固 定 相 場 制 との 関 連 で 理 論 モ デ ル を 基 に 考 察 して み よ う。 最 近 の グ ロ ー バ ル 化 の 高 ま りの 流 れ の 中 で,最 も大 き く国 際 的 に 移 動 す る の は 短 期 性 の 資 金 で あ り,そ して ま た,そ う した 短 期 資 本 が 実 体 経 済 に 最 も 大 き な 影 響 を 与 え る の も,変 動 相 場 制 よ りは む しろ 固 定 相 場 制 で あ る か らで あ る。

(1)例 え ば,[1]ジ ャ ン ー マ リ ・ゲ ー ノ(1994)(舛 添 要 訳)『 民 主{モ 義 の 終 わ り 』 講 談 社,[2]デ ビ ッ ト ・ コ ー テ ン(1998)(西 川 潤 訳)「 グ ロ ー バ ル 資 本 主 義 が 人 類 を 貧 困 化 さ せ る 」 『世 界 』1998.8,[3]ジ ョ ー ジ ・ ソ ロ ス(1999)(大 原 進 訳)『 グ ロ ー バ ル 資 本 主 義 の 危 機 』 日 本 経 済 新 聞 社,[4]寺 島 実 郎(1998)『 国 家

(7)

(268) 国際金融資本 市場 の グmバ ル化 と短期 資本移動7

の 論 理 と 企 業 の 論 理 』 中 央 公 論 社,[5]野 田 宣 雄(1998)『 二 十 世 紀 を ど う 見 る か 』 文 芸 春 秋,[6]武 者 小 路 公 秀 他(1998)「 グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン と 民 主 主 義 の 危 機 」 『世 界 』1998.11を 参 照 。

(2)野 田(1998)前 掲 文 献,p.56。 但 し,現 実 に は 今 日 世 界 の 人[1の 約40%が そ の 発 祥 を 遠 く16批 紀 の 宗 教 改 革 に も1朔り得 る 「連 邦 型 」 の 国 家 形 態 を 選 択 し て お り,残 りの3分 の1も 何 ら か の 形 で 連 邦 制 に 類 す る よ う な 国 家 形 態 の ドで 共 存 し て い る 事 実 は 重 要 で あ る 。 こ の 点 島 崎 博f=よ り ご 教 示 頂 い た 。 こ こ に 重 ね て 感 謝 の 意 を 表 し た い 。

(3)島 崎 博 七 は,国 家 の ヒ位 ・ ド位 単 位 へ の 分 極 化 に 伴 う ア ジ ア ・太 平 洋 地 域,欧 州t中 東,ア フ リ カ,ラ テ ン ・ア メ リ カ の 各 地 域 に お け る 政 治 経 済 的 ・通 貨 金 融 的 統 合 の 意 味 合 い と そ の 問 題 点 を 詳 細 に 分 析 し て い る(島 崎 久 彌(1987)

(1997/前 掲 文 献,同(1996a)『 大 欧 州 圏 の 形 成 』 白 桃 書 房,同(1996b)「 ラ テ ン ・ア メ リ カ の 経 済 統 合 と 決 済 ・信 用 取 決 め 」 『商 経 論 叢 』 第31巻 ・第4号,同 (1996c)「 ア ジ ア ・太 平 洋 地 域 の 経 済 ・通 貨 協 力 」 『商 経 論 叢 』 第32巻 ・第2 号,同(1998a)「 ア フ リ カ の 地 域 的 経 済 協 力 と 統 合 」 『商 経 論 叢 』 第33巻 ・第3 号,同(1998b)「 広 域 中 東 圏 の 経 済 協 力 と 統 合 」 『商 経 論 叢i』第33巻 ・第4号, 同(1999a)「 ス ー パ ー ・リ ー ジ ョ ナ リ ズ ム の 台 頭 」 『商 経 論 叢 』 第34巻 ・第4

号)。 ま た,B・ ア イ ケ ン グ リ ー ン は,国 際 通 貨 制 度 に つ い て,同 じ く 国 家 の ヒ ド 単 位 へ の 分 極 化 の ドで は,こ れ ま で の 固 定 相 場 制,ア ジ ャ ス タ ブ ル ・ペ ッ グ 制, ク ロ ー リ ン グ ・ペ ッ グ 制,目 標 相 場 圏,参 考 相 場 幅 制 な ど は い ず れ も も は や 持 続 出 来 ず,選 択 は 「完 全 変 動 相 場 制 」 か 「通 貨 同 盟 」 の い ず れ か で あ る と1張 し て い る(ベ リ ー ・ア イ ケ ン グ リ ー ン(1997)(藤 井 良 広 訳)『211仕 紀 の 通 貨 制 度 』

岩 波 書 店)、,

(4)金 融 ・資 本 移 動 の 自 由 化 に 関 す る 歴 史 的 経 緯 の 考 察 に つ い て は,島 崎 久 彌 (1999b)「 国 際 短 期 資 本 移 動 と 新 興 市 場 の 通 貨 危 機 」 『商 経 論 叢 』 第34巻 ・第3 号,PP・57‑77参 照 。

(5)J.バ グ ワ テ ィ は,東 西 冷 戦 終 結 後 の 新 た な 金 融 覇 権 の 確 立 と い う 観 点 か ら ・

「ウ ォ ー ル 街=米 国 財 務 省=国 際 通 貨 基 金 複 合 体 」 が こ う し た 国 際 的 な 通 貨 取 引 増 殖 の 端 を 担 っ た とi三 張 し て い る(Bhagwati,」.(1998),"TheCapitalMyth,"

ForeignAffairs,Vol.77,No.3,May/JunX998)

C6)BankforInternationalSettlement(1999),CentralBankSurveyofForeignEx‑

changeandDerivativesMarketActivity,p.2.

(7)こ の1.5兆 ド ル と い う 数 字 は,市 場 参 加 者 が 自 己 の ポ ジ シ ョ ン 限 度 内 で 繰 り 返 す 売 買 双 方 向 の 総 計 で あ る か ら,仮 に 全 て の 市 場 参 加 者 が 一・時 点 で 同 方 向 の ポ ジ シ ョ ン を 持 っ た と し て も,も ち ろ ん そ の 金 額 は1.5兆 ド ル よ り は る か に 小 さ

(8)

8商 経 論 叢 第35巻 第3暑 (267)

い こ と は 言 う ま で も な い 。

(8)iMF(1999),InternationalFinancialStatistics(AprilIssue),pp.62‑63に れ ば,1998年 の 年 間 世 界 輸 入 額(輸 出 額)は5兆3603億 ド ル(5兆3486億 ル)で あ る か ら,1日 当 り 外 国 為 替 取 引 額1.5兆 ド ル に250営 業 日 を 掛 け て こ れ を 年 間 取 引 高 に 引 き 直 せ ば,約70倍 と い う 数 字 を 得 る 。

(9)McKinnon,R.f1991),TheOrderofEconomicLiberalization:FinancialCon‑

trotin孟 加TransitiontoaMarketEconomy,TheJoh皿sHopkinsU.P.,p.113.

(10)[1]CenterforInternationalEconomicsoftheUniversityofMaryland(1996),

"S

ymposiumonMexico,"JournalofInternationalEconomics,Voi.41,No.34,

「2]伊 藤 隆 敏(1997)「 資 本 移 動 と 新 興 市 場 一 メ キ シ コ 危 機 の 教 訓 一 一」 「経 済 研 究 」 第48巻 ・第4号 参 照c,

(11)[1]岡 田 義 昭(1998a)「 東 ア ジ ア の 通 貨 動 揺 に 関 す る 理 論 的 ・実 証 的 考 察 (1}一 タ イ ・バ ー ツ の 事 例 を 中 心 に 一 」 『岐 阜 経 済 大 学 論 集 』 第32巻 ・第1号, [2]同(1998b)「 東 ア ジ ア の 通 貨 動 揺 に 関 す る 理 論 的 ・実 証 的 考 察(2)一 イ ン

ド ネ シ ア ・ ル ピ ア の 事 例 を 中 心 に … 」 『岐 阜 経 済 大 学 論 集 』 第32巻 ・第2号, [3]同(1998c)「 東 ア ジ ア の 通 貨 動 揺 に 関 す る 理 論 的 ・実 証 的 考 察(3)・ 完 一 マ ク ロ 経 済 モ デ ル に よ る 検 証 を 中 心 に 一 」 「岐 阜 経 済 大 学 論 集 』 第32巻 ・第3号 参 照 。

(12)島 崎 博 一は,金 融 現 象 と し て の 危 機 を ① 通 貨 危 機,② 銀 行 危 機,③ 金 融 危 機,

④ 対 外 債 務 危 機 に 分 類 し,そ れ ぞ れ を 定 義 付 け た 後,そ う し た 危 機 の 原 因 と 波 及 の 過 程 に つ い て 考 察 を 与 え て い る(島 崎(1999b),前 掲 論 文,pp.48‑57)。 た,同 論 文 で 特 に メ キ シ コ と 東 ア ジ ア の 通 貨 危 機 を 取 りLげ て,更 に そ の 実 態 と 背 景 と を 精 査 し て い る(島 崎(1999b),前 掲 論 文,pp.84‑140)、

(13)国 際 貿 易 分 野 で は,自 由 貿 易 ・保 護 貿 易 の 「規 範 分 析 」 に 関 す る 多 く の 研 究 集 積 が あ る が,国 際 金 融 分 野 は そ れ に 比 べ て そ れ 程 多 く は な いC+例 え ば,次 の よ う

な 文 献 を 参 照 。[1]AEAq998),"SymposiaonGlobalizationinPerspec廿ve,"

TheJournalofEconomicPerspectives,Vol.12,No.4,C2]Frankel,J.A.

(1993),0"ExchangeRates,TheMITPress,Chap.2,「3]Kenen,P.B.

q995),UnderstandingInterdependence,PrincetonU.P.,Chap.6,[4]

Obstfeld,M.andK.Rogoff(1996),FoundationofInternationalMacroeconom‑

ics,TheMITPress,Chap.5,[5]青 木 昌 彦 他(白 鳥 監 訳)(1997)『 東 ア ジ ア の 経 済 発 展 と 政 府 の 役 割 』 日 本 経 済 新 聞 社,第6章,[6]河 合 正 弘(1994)『 国 際 金 融 論 』 東 京 大 学 出 版 会,第2章,[7]河 合 正 弘 ・QUICK総 合 研 究 所 ア ジ ア 金 融 研 究 会(1996>『 ア ジ ア の 金 融 ・資 本 市 場 』 日 本 経 済 新 聞 社 。

(14)し か し な が ら,最 近 で は.米 国 の 株 価 変 動 が 東 ア ジ ア 諸 国 の 株 価 変 動 へ 統 計 的

(9)

{266} 国際金融資本市場 の グローバ ル化 と短期資本移動9

に 有 意 に 波 及 して い る こ と が 観 測 さ れ て い る((注13)文 献[7]第8章 参 照)。

(15)岡 田(1998b)前 掲 論 文,pp.26‑29。

3短 期 資 本 移 動 の モデ ル 分 析(1)

a.モ デ ル

先 ず,2期 間(炉0,1,2)の 対 外 債 務 モ デ ル を 設 定 す る 。 為 替 レー トsに 関 して は,購 買 力 平 価 と金 利 平 価 が 成 り立 っ て い る と仮 定 す る。 外 国 の 物 価 水 準 Pを 一 定 と して 且つ1に 基 準 化 さ れ て い る とす れ ば,購 買 力 平 価 は

(1)St==Pt

で 表 されi金 利 平 価 は,内 外 金 融 資 産 が 完 全 代 替 で あ る と して,自 国 ・外 国 名 目利 子 率 を そ れ ぞ れi,.*1と す れ ば,

(2)It.*=it+(E(St+1)‑St)/St

で 表 さ れ る 。 但 し,E(・)は 期 待 値 オペ レ ー タで あ る 。

次 に,政 府 は 第0期 末 に 借 り入 れ て 第1期 末 に 返 済 す る 自 国 通 貨 建 表 示 な ら び に 外 国 通 貨 建 表 示 の 短 期 対 外 債 務 と,第0期 末 に借 り入 れ て 第2期 末 に返 済 す る 自国 通 貨 建 表 示 な らび に 外 国 通 貨 建 表 示 の 長 期 対 外 債 務 と を 負 っ て い る も の とす る。 ま た,同 様 に 第0期 末 に貸 し付 け て 第1期 末 に 返 済 され る 自 国 通 貨 建 表 示 な らび に 外 国 通 貨 建 表 示 の 短 期 対 外 債 権 と,第0期 末 に 貸 し付 け て 第2 期 末 に 返 済 さ れ る 自 国 通 貨 建 表 示 な ら び に 外 国 通 貨 建 表 示 の 長 期 対 外 債 権 と を 有 す る もの とす る 。 し た が っ て 債 務 か ら債 権 を差 し引 い た もの を純 債 務 とす れ ば,tD、 、を 自 国 通 貨 建 実 質 純 債 務(u>t&D>0;t期 末 に 借 り入 れu期 末 に 返 済fD<0;t期 末 に貸 し出 しu期 末 に 返 済),tE、 を 外 国 通 貨 建 実 質 純 債 務(u>t

&F>0;t期 末 に借 り入 れu期 末 に返 済,F<0;t期 末 に貸 し出 しu期 末 に 返 済) と して,そ れ ぞ れ 名 目 表 示 で

(10)

10商 経 論 叢 第35巻 第3号

po・aDi:

So・oFl:

Po・oD2:

S̀)・O正 羊2:

自国通貨建短期対外純債務 外国通貨建短期対外純債務 自国通貨建長期対外純債務 外国通貨建長期対外純債務

(265)

と な る 。

更 に 政 府 は 第1期 に はGlの,そ し て 第2期 にG2の 実 質 政 府 支 出 を 歳 出 し,他 方,歳 入 と して,マ ネ ー サ プ ラ イ を増 加 させ る か あ る い は 第2期 に 一 括 税 率Gump‑sumtaxrate)ω で 国 民 所 得Yに 課 税 す る か い ず れ に依 る もの と す る 。 ま た,簡 単化 の た め に,第0期 か ら第1期 に か け て の マ ネ ー サ プ ラ イ は 不 変 と し(i.e。Mo=M1),そ れ ゆ え 自国 の 物 価 水 準 に は 変 化 が な い も の とす る(i.e.Po=Pl)。 外 国 名 目利 子率 に 関 して は,第0期 と 第1期 とに 於 て 共 に i*と 一定 と し,し た が っ て,第0期 の 自 国 名 目利'率 は 外 国 名 目利 予率 に 等 し くな り(1.E.1{1=1*},ま た 第1期 の 自 国 名 目 利r率 は 外 国 名 目 利r率 に 予 想 為 替 レー ト変 化 率 を加 え た も の に 等 し くな る,,

か く して,第1期 ・第2期 に 於 け る 政 府 の 名 目表 示 の 予 算 制 約 式 は,次0)ご と く 表 さ れ る(2)。

(3>Pド1D3+s1・1F2

=plG1+(1+iのpo・oDl+(1+i*)so・ 〔IFl

(4)ωp2Y+MrM2

霜p2G2+(1+il)pl・1D'L+(1+io)2po・oD2

+(1+.*)s1・IF2+(1+i*)2so・oF2

(3)式の 左 辺 は,第1期 末 の ロ ー ル オ ー バ ー な い しは 新 規 の 短 期 対 外 純 債 務 で あ り,右 辺 は,第1期 の 政 府 支 出 額 と,第1期 末 に 支 払 い な い しは 受 け 取 る 短 期 対 外 純 債 務 の 元 利 合 計 額 とで あ る 。(4)式 の 左 辺 は,税 収 入 と マ ネー サ プ ラ イ

(11)

(264)国 際金融資本市場のグローバル化と短期資本移動11

の 増 分 とで あ り,右 辺 は,第2期 の 政 府 支 出 額 と,第2期 末 に 支 払 い な い し は 受 け 取 る短 期 ・長 期 の 対 外 純 債 務 の 元 利 合 計 額 とで あ る 。

こ こ で 貨 幣 需 要 は 名 目国 民 所 得 の …定 比 率kで あ る とす れ ば,

(5)Mt=kPtY

で あ る か ら,か く して,(1)式 と(3)〜(5)式 とか ら,第1期 ・第2期 の 実 質 表 示 で の 政 府 の 予 算 制 約 式

(6)ID2+IF2=Gl+(1+.*i)(oDl+oF1)

  C'ロ

(7)ωY+slkY=G2+(1+i*+sl‑sl)lD2

+(1+i*‑Sl)1F2+(1+iつ(1+i*‑51)(oD2+oF2)

し61≡ ≡(SJ‑‑Sl)/S2 S1≡ …(E(s2)‑sl)Sl

を 得 る(3)。 更 に(6)・(7)式 を 纏 め る とf

(8>Ao+(1+i*)LA1

  f'

=ωY・+slkY+slA'Ls1・1D2

し,Ao=Gl(1+.*1)+G2 Al=oD1+oFl+oD2+oF2

A2=G1+A](1+i*)

な る2期 間 の 政 府 の 予 算 制 約 式 を得 る ≪)。

こ こ で,第1期 末 の 短 期 対 外 純 債 務 の 更新 に 関 す る 自 国 通 貨 建 と外 国 通 貨 建 の 割 合(i.e.ID2:1F2)が 所 与 とす れ ば,・ 括 所 得 税 率 ω と為 替 レー ト変 化

(12)

12商 経 論 叢 第35巻 第3号 (263)

率61を 除 く全 て の 変 数 は先 決 変 数 とな るか ら,し た が って,政 府 は(8)式の制 約 の下 で ω とS1と を決 定 す る もの と考 え得 る。 そ こで 次 に政 府 の 政 策 目標 を 明示 的 に導 入 し,更 に 固定 相場 制 の 下 で通 貨投 機 を発 生 させ る メ カニ ズム を検 討 す る。

b.通 貨 投 機 発 生 の メ カ ニ ズ ム

政 府 は,政 府 支 出 と 第0期 末 か ら持 ち 越 し て い る 対 外 純 債 務 の 元 利 合 計 と を,一 話 所 得 税 か イ ン フ レ税 に よ っ て 賄 わ な け れ ば な ら な い が,そ う した 租 税 の 国 民 負 担 を で き る だ け 最 小 に した い と考 え る もの とす る 。 ま た ,政 府 は 固 定 相 場 制 の 堅 持 を 内 外 に 表 明 して い る こ と か ら,仮 に 当 該 国 が 公 定 平 価 の 変 更 を 行 う と,有 形 ・無 形 の 様 々 な政 治 的 ・経 済 的 ダ メ ー ジ を 被 る た め,平 価 の 変 更 に は … 定 の コ ス トcを 要 す る もの とす る 。 した が っ て,政 策 の 実 施 に 当 た っ て 政 府 は 次 の よ う な 社 会 的 損 失 関 数 Ψ を 想 定 し て お り,更 に 内 外 の 民 間 経 済 主 体 はr政 府 が そ う した 損 失 関 数 を想 定 して い る と い う こ と を 知 っ て い る もの と す る 。

(9>Ψ(ω,S2,Z)

需(1/2)(ω 一而)2+(e/2)((sz‑‑S1)/s2)2+cz

ze1,ifs≠0

{

z=oferwtse

但 し,e(>0)は … 括 所 得 税 に 対 す る イ ン フ レ税 の 相 対 的 政 策 目標 ウエ イ トで あ りaま た 而 は 日標 所 得 税 率 で あ る 。

こ こ で 簡 単 化 の た め に 而繍0と 置 き, 記 号 を用 い れ ば,(9)式 は

また 為 替 レー トの変 化 率 に 関 して先 の

(10)V(ω,Sl,z)ニ(1/2)ω2+(θ/2)s21+CZ

(13)

(262)国 際 金融資 本市場の グローバル化 と短期資本移動13

と 書 き 換 え ら れ る 。

そ こ で,先 ず 政 府 が 通 貨 調 整 を 行 う 場 合(i.e.zニ1)を 考 え る 。 こ の 時 の 社 会 的 損 失 関 数 は,

コヨ

(11)Vz1(CIJ,51)=(1/2)ω2+(0'2)s1+c

で 表 さ れ る か ら,先 の2期 間 の 政 府 の 予 算 制 約 式(8)式 の 条 件 の 下 で,(11)式 を 最 小 化 す る よ う な 最 適 政 策(ω,自Pを 政 府 は 決 定 す る で あ ろ う 。 し た が っ て,最 小 化 の 必 要 条 件 は,ラ グ ラ ン ジ ュ 関 数Lを

L(ω,S1,λ)一(1/2)ω2+(0//2)S1+c

+λ(Ao+(1+i*)2ArωY‑61kY‑SIA2+St'1・ID2)

と 置 い て,

(12)ω/Yeλ

(13)(es1)/(kY+A2)部 λ

(14)A{}+(1+i*)2Al

二 ωY+SlkY+SIA2‑s】 e ・1D2

で 示 す こ と が で き る 。 更 に02)〜(14)式 を 用 い れ ば,(11)式

0(Ao+(1+i*)2Al+SE',・lD2)2 (15)VZ1‑・+c

2eY2+(kY+A2)2

と な る が,こ れ は,政 府 が 通 貨 調 整 を 行 っ た 場 合 に,最 適 な 一 括 所 得 税 率 ω

(14)

14商 経 論 叢 第35巻 第3号(26D

と最 適 な 公 定 平 価 調 整6を 採 用 した 時 の 社 会 的 損 失 額 で あ る。

次 に,政 府 が 固 定 相 場 制 を 維 持 す る ケ ー ス(i.e.z翼0)を 考 え る 。(10}式よ り,公 定 平 価 を 維 持(i£.so)し た 場 合 の 社 会 的 損 失 関 数 は,

(16)vzo(ω)=(1/2)ω2

で 表 せ るが,こ の 時,政 府 の 予 算 制 約 式(8)式 は

(17)Ao+(1+iつ2Al=ωY‑Se1・ID2

とな る か ら,働 式 を ω につ い て 解 い てtls)式に 代 入 す れ ば,

(18)Vzo=(1/2Y2)(Ao+(1+i*)2A1+sC'・ID2)2

を得 る。(18)式は政 府 が 固 定相 場 制 を維 持 した時 の社 会 的損 失額 を示 して い る。

こ こで}通 貨 調整 が 行 わ れ る場 合 の 社 会 的 損 失 額vllと,固 定 相 場 制 が 堅 持 され る場 合 の 損 失額Vj{'と を比 較 して み よ う。 も し,固 定 相 場 制 の 下で 公 定 平価 を維 持 す る場 合 の 社 会 的損 失 額 が,通 貨 調整 を行 う場 合 の損 失 額 をr 回 っ て い る な らばf政 府 は公 定 平価 の維 持 を放 棄す る こ との 方を選択 す るで あ ろ う。 したが って,

(19)Vzo‑Vzl=(1/2)(Ao+(1+i*)2Al+SE'・1D2)t

×(1/Y2一 θ.・(eY2+(kY+A2)2)‑c>0

が 通 貨 調 整 の 条 件 で あ る 。 ⑯ 式 か ら 次 の イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン が 導 け る 。

[1]政 府 支 出Gの 増 大 は,Aoな ら び にA2を 増 加 さ せ る か ら,vzo‑VZIを 正 とす る可 能 性 を 高 め る ゆ え,通 貨 調 整 を もた ら し易 くす る 。

(15)

(260) 国 際 金 融 資 本 市場 の グロ ーバ ル化 と短期 資 本移 動15

[2]対 外 純 債 務 総 額 の 増 大 は,A1な ら び にA2を 増 加 させ る か ら,同 様 に 通 貨 調 整 を もた ら し易 くす る。

[3]た と え 対 外 純 債 務 総 額 は 不 変 で あ っ て も,短 期 対 外 純 債 務 の 割 合 が 増 大 す る と,ID2を 増 加 させ る か ら,通 貨 調 整 の 可 能 性 を 高 め る 。

14]外 国 利 子 率i*が 上 昇 す る と,vzo‑VZIをIEと す る 可 能 性 を 高 め る ゆ え,同 じ く通 貨 調 整 の 可 能 性 は 高 くな るO

[5]イ ン フ レ税 よ り も所 得 税 に 政 策 目標 の ウ エ イ ト を 置 く と(i.e.θ の ド 落),同 様 の 理 由 か ら通 貨 調 整 の 可 能 性 を増 大 させ る 。

[6]通 貨 調 整 コ ス トcが 小 さ い と,通 貨 調 整 の 可 能 性 は 高 ま る 。

[7」 と こ ろ で,ヒ 述 の 条 件 が 全 て 不 変 で あ っ て も,ひ と た び民 間経 済 主 体 が

公 定 平 価 切 ドげ の 予 想 を持 つ や(i£.51のL昇),そ れ だ け で 通 貨 調 整 の 可 能 性 を 高 め る こ と に な り,こ こ に 「自 己 実 現 的 」 通 貨 投 機 を 発 生 さ せ

る 。

(1)本 節 の 議 論 は,[1]Barro,RJ.&D.B.Gordon(1983),"APositiveTheoryof

MonetaryPolicyinaNaturalRateModel,ワ ∂π7ηα」げP∂ 砺cαJEω η伽y,Vo1.91,No.

4,[2]Krugman,P.(1996),"AreCurrencyCrisesSelf‐fulfilling?"i'Macro‑

economicsAnnual1996,「3]Obst飴ld,M.(1994),"TheLogicofCurrencyCrises,"

CahiersEconomiquesetMonetaires,No.43,BanquedeFrance,[4]{1996),

"M

odelsofCurrencyCriseswithSelf‐fulfillingFeatures,"EuropeanEconomicRe‑

view,Vol.40,No.3/5,[5]{1997),"DestabilizingEffectsofExchangeRate

EscapeClause,"JournaloflnternationalEconomics,Vol.43,No.1/2,[6]岡 田 義i 昭(1998)「 東 ア ジ ア の 通 貨 動 揺 に 関 す る 理 論 的 ・実 証 的 考 察(3ト マ ク ロ 経 済 モ デ

ル に よ る 検 証 を 中 心 に 一 」 「岐 阜 経 済 大 学 論 集 』 第32巻 ・ 第3号,PP.70‑77,

[71小 川 英 治(1998)『 国 際 通 貨 シ ス テ ム の 安 定 性 』 東 洋 経 済 新 報 社,第7章 に 負

う 。

}90

!11

借 入金利 と貸出 金利 は簡 単化 の ため に同 ・と仮定す る。

え ば,

(1+il)Pl「PL・=(1+il)s

=(1十il)(1‑(s2‑si)

̲(1十it)(1‐si)

S2

sz)

(16)

16商 経 論 叢 第35巻 第3腎

(259)

ロeの

(1+it‑一 一一st)=(1+i"+si‐st)o 以 臼 司様 に し て 求 め ら れ る 。

(4)(8)式 の 左 辺 は 政 府 の 財 政 支 出 と 第0期 末 か ら の 対 外 純 債 務 総 額 の 元 利 合 計 を 表 し,右 辺 第1項 は 所 得 税 を,第2項 〜 第4項 は 為 替 レ ー ト 変 化 に 伴 う イ ン フ レ 税 を 表 し て い る 、,

4自 己実現 的予想

前 節 の 理 論 モ デ ル分 析 に お い て,政 府 の 財 政 支 出 増,対 外 純 債 務 額 の 増 加 , 短 期 性 資 本 流 人 の 増 加,外 国 利 子 率 の 上 昇,所 得 税 増 税 な ど は ,民 間 経 済}{体 の 将 来 の 野想 形 成 に 影 響 を 与 え る こ と,そ して 仮 に そ れ ら要 因 が 全 て 不 変 で あ っ て も,ひ と た び 当 該 通 貨 に 対 す る 信 認 が 変 化 す る や,そ れ だ け で 民 間 資 本 フ ロ ー の 急 激 な 流 出 入 を も た ら し,「 自 己 実 現 的 」 に ス ペ キ ュ レー シ ョ ン を 発 生 させ る メ カ ニ ズ ム を 見 た(1)。 す な わ ちfフ ァ ン ダ メ ン タ ル ズの 悪 化 は 単 な る きっ か け に 過 ぎず,市 場 参 加 者 の 「情 報 」 へ の 反 応 そ れ 自体 が そ う した 動 き を 増 幅 させ,自 己実 現 的 に 通 貨投 機 を 発 生 させ た り,あ る い は,き っ か け と して の フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズ の 悪 化 さ え も も は や 前 提 とせ ず ,き っ か け は な ん で あ れ い か な る 任 意 の 情 報 も,市 場 参 加 者 が ひ とた び そ れ が 通 貨 投 機 を 惹 き起 こす と 推 測 す れ ば 通 貨 投 機 が 発 生 す る と い う,い わ ゆ る 「サ ン ・スポ ッ ト均 衡 」 的 考 えが そ れ で あ る(2)。 と こ ろ で,こ う した ロ ジ ッ ク の 中 心 を な す 市 場 で の 情 報 の 伝 播 や 反 応 の 仕 方 に 対 して,我 々 は ど う 考 え た ら良 い で あ ろ うか 。 こ こで 主 要

な 議 論 を 整 理 して み よ う。

a群 衆 行 動(herding)(3〕

先 ず,フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズ の 悪 化 も し くは そ れ 以 外 の 原 因 が き っ か け で ,あ た か も 「群 れ 」 を なす か の ご と く通 貨 の 売 りが 売 りを 招 き,最 終 的 に 当 該 通 貨 の 大 幅 な ド落 を 惹 き起 こ す 動 きが 考 え られ よ う,、こ れ に 対 して ,以 ドの よ う な 説 明 付 け が な され 得 る 。

(Dバ ン ドワ ゴ ン効 果

市場 参 加 者 は,皆 が 共 有 す る情 報 の 他 に 「私 的 」 情 報 を 持 っ て い る と仮 定 す

(17)

{258} 国際 金 融 資 本 市場 の グロ ー バ ル化 と短 期 資 本移 動17

る。 す る と,① も し投 資 家1が,マ イ ナ ス と評 価 す る よ う な市 場 の 私 的 情 報 を 入 手 す る と,当 然 の こ と な が ら 当 該 通 貨 を 売 る,② 投 資 家2は 投 資 家1が 通 貨 を 売 っ た こ と を市 場 で 知 る と,仮 に 彼 の 私 的情 報 の 示 唆 す る と こ ろ は 中 立 的 な い し は 若 干 プ ラ ス で あ っ て も,投 資 家1の 私 的 情 報 の 中 身 が 分 ら な い と こ ろか ら,投 資 家1は 売 りを 招 く よ う な 決 定 的 な 悪 い 材 料 を 入 手 した で あ ろ う と推 測 して,と りあ え ず 売 ろ う とす る,③ 投 資 家3は,た と え彼 の 私 的 情 報 は プ ラ ス を 示 唆 して い た と して も,投 資 家1・2が 売 っ た とい う事 実 か ら,何 か 売 りを 招 く よ う な 決 定 的 な 私 的 情 報 を 彼 等 は 得 た の で は あ る まい か と推 測 して,投 資 家3も 売 ろ う とす る,… 。 か く して,私 的 情 報 の 存 在 を仮 定 す る と,他 者 の 有 す る 私 的情 報 の 内容 は,市 場 で 顕 示 化 さ れ た 先 行 者 の 行 動 に よ っ て しか 推 測 し 得 な い か ら}情 報 の 「連 鎖 」(informationcascade)な い しは 「継 起 的 」 情 報

(informationinsequence)が 生 ま れ,こ こ に バ ン ドワ ゴ ン効 果 が も た ら さ れ る こ と に な る で あ ろ う。

(2)プ リ ン シ パ ル ・エ ー ジ ェ ン ト関 係

一・般 に 新 興 国 の 投 資 関 連 情 報 は 相 対 的 に 不 足 しが ち で あ る 。 した が っ て,こ の 場 合,顧 客 は プ リ ン シパ ル ・エ ー ジ ェ ン ト関 係 に 基 づ き,新 興 市 場 へ の モ ニ タ リ ン グ を含 む投 資 を 専 門 的 フ ァ ン ド ・マ ネ ジ ャ ー(エ ー ジ ェ ン ト)に 委 託 す る と考 え る。 しか も,多 くの 場 合 に,そ う した フ ァ ン ド ・マ ネ ジ ャー の 運 用 成 績 は他 の フ ァ ン ド ・マ ネ ジ ャ ー との 比 較 に お い て 評 価 さ れ る こ とが 多 い か ら・

彼 等 に は 彼 等 自 身 の マ ー ケ ッ ト判 断 とは 独 立 的 に他 の フ ァ ン ド ・マ ネ ジ ャ ー の 投 資 行 動 に 追 随 した 行 動 を 取 ろ う と す る イ ンセ ン テ ィ ブ が 働 く。 こ う して, エ ー ジ ェ ン ト同 士 の 「内 部 的 競 争 」 や 個 々 の エ ー ジ ェ ン トの 市場 で の 「名 声 ・ 評 判 」 が 群 衆 行 動 を も た らす と考 え られ る で あ ろ う。

(3)ヘ ッ ジ ・フ ァ ン ドの 存 在

あ る 通 貨 が 何 ら か の 理 由 で 例 え ば 売 り 投 機 に 晒 さ れ そ う な 状 況 に 陥 る と, ヘ ッ ジ ・フ ァ ン ドの よ うな 大 量 の 資 金 を扱 う投 資 家 に と っ て は 絶 好 の 収 益 機 会

が 発 生 した と看 倣 す で あ ろ う と市 場 は 推 測 し,実 際 に ヘ ッ ジ ・フ ァ ン ドが そ う 動 く こ と とは 無 関 係 に 市 場 は 同 様 の 行 動 に 走 ろ う とす る と想 定 す る こ とが 出 来

(18)

18商 経 論 叢 第35巻 第3琴

(Z,a7) る 。 した が っ て,ヘ ッ ジ ・フ ァ ン ドの スペ キ ュ レー シ ョ ン と い う よ りも

,む し ろ ヘ ッ ジ ・フ ァ ン ドの 「存 在 」 そ れ 自体 が 市場 の 大 量 の 売 り投 機 を誘 発 す る で あ ろ う。

(4)情 報 コ ス ト

情 報 の 収 集 ・処 理 に は … 定 の 費 用 と時 間 が か か る か ら,そ う した コ ス トと情 報 か ら得 られ る期 待 効 用 と の 対 比 に お い て 投 資 家 の 情 報 量 は 決 ま っ て 来 る と 考 え られ る 。 した が っ て,個 々 の 投 資 家 は ,そ れ ぞ れ の 効 用 関 数 の 相 違 に よ り当 然 の こ と なが ら各 々 の 持 つ 情 報 量 は 異 な っ て くる こ とか ら,市 場 の 「風 評 」 に 感 応 的 と な っ た り,他 者 の 投 資 行 動 に 追 随 しが ち に な る。

b伝 染(contagion)・ 波 及(spillover)(4)

・国 の 通 貨 危 機 は

,市 場 に対 して 同 様 の 危 機 発 生 の ロ∫能 性 を 示 唆 す る 「シ グ ナ ル 」 を 送 っ て い る。 こ の 時,市 場 が 類 似 の あ る い は 共 通 した マ ク ロ 経 済 的 フ ァ ン ダ メ ン タル ズ環 境 を持 っ た 国 々 な い しは 貿 易 の 結 合 度 が 高 い 国 々 に 危 機 発 生 の 可 能 性 あ り と解 釈 す る場 合 は 「波 及」 と称 さ れ る 。 他 方 f経 済 フ ァ ン ダ

メ ン タル ズ の 類 似 性 ・共 通 性 ・結 合 性 で は 必 ず し も説 明 で き な い が

,し か し な が らfrラ テ ン気 闘 等,明 確 に は 特 定 化 し得 な い に せ よ ,あ る 何 ら か の 共 通 要 素 を持 っ た もの と して 一一一括 りで きる 国 々 に 危 機 発 生 のIIT能 性 あ り と 市場 が 読 み 取 る場 合 は 「伝 染 」 と称 され る。 こ う した 伝 染 ・波 及 に 対 して,以 ドの よ う な 説 明 付 け が 考 え られ よ う。

(1)フ ァ ン ダ メ ン タル ズの 類 似 性

あ る 国 の マ ク ロ経 済 的 フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズの 悪 化 な い しは 財 政 ・金 融 政 策 の 不 整 合 性 か らtそ の 国 の 通 貨 に 対 す る市 場 の 信 認 が 揺 ら ぎ通 貨 投 機 が 発 生 す る と,類 似 の あ る い は 共 通 した マ ク ロ経 済 的 フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズ を 有 す る 国 々 に 対 し て も フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズ の 悪 化 な い し は 政 策 の 不 整 合 の 町 能 性 を 類 推 し て,市 場 は そ れ ら国 々 の 通 貨 に 対 して 同 様 の 反 応 を示 す とい う もの で あ るE5/。

(2)貿 易 結 合 度

あ る 国 の 通 貨 切 下げ は,貿 易 の 結 合 度 の 高 い 国 々 の 価 格 競 争 力 を 失 わ せ る か

(19)

{256) 国 際 金 融 資本 市場 の グ ロー バ ル化 と短 期 資 本 移 動19

ら,市 場 は,そ う した 貿 易 結 合 度 の 高 い 国 々 の 通 貨 は 同 様 に切 下 げ 圧 力 を受 け や す く な る で あ ろ う と推 測 す る と考 え る の で あ る ⑥。

(3)コ ミ ッ トメ ン ト

互 い に 対 立 す る 政 策 目標 の 優 先 順 位 が 必 ず し も 明確 で な い な ど,政 府 の 公 定 平 価 維 持 の コ ミッ トメ ン トの メ ッセ ー ジが 市 場 に は っ き り伝 わ っ て い な い と, 一一国 の 平 価 切 下 げ は,類 似 の あ る い は 共 通 した マ ク ロ経 済 環 境 を持 つ 他 の 国 々

も平 価 維 持 を放 棄 す る で あ ろ う との 憶 測 を 容 易 に 市 場 に与 え よ う。

(4)ク ラ ブ ・メ ンバ ー

各 国 が あ る 種 の ク ラ ブ(例 え ば 欧 州 通 貨 制 度)へ の 参 加 に あ た っ て,他 の ど う い う国 々が そ の ク ラ ブ の メ ンバ ー に な る か に よ っ て,ク ラ ブ そ の もの の 価 値 を 評 価 す る も の と し,そ の 価 値 と 参 加 条 件(例 え ば パ リ テ ィ ・グ リ ッ ドの 堅 持)と の 兼 ね 合 い で 参 加 ・不 参 加 を 決 定 す る もの とす る。 そ の 時,あ る 国 の 固 定 レー ト維 持 の コ ミ ッ トメ ン トが 弱 い とそ の 国 の 参 加 の 可 能 性 が 低 ま る か ら, そ れ を 見 て 他 の ク ラ ブ 参 加 予 定 国 も参 加 意 思 が 鈍 り,し た が っ て そ れ ら国 々 の

固 定 レ ー ト維 持 の コ ミッ トメ ン トが 弱 くな る で あ ろ う と市 場 は推 測 し・ こ こ に 通 貨 投 機 が 発 生 し得 る と考 え る 。

(1)こ う し た 理 論 的 イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン の 現 実 的 妥 当 性 に つ い て は,例 え ば,[1]

Cole,H.L.andT.」.Kehoe(1996),"ASelf‐FulfillingModelofMexico's1994‐

95DebtCrisis,StaffReport,No.210,FederalReserveBankofMinneapolis,[2]

Corsetti,G.,P.PesentiandN.Roubini(1998),"WhatCausedtheAsianCurrency andFinancialCrisis?"mimeo,C3]Radelet,S.andJ.Sachs(1998a),"TheOnset oftheFastAsianFinancialCrisis,"NBERConferencePapaer,[4]and

(1998b),"TheEastAsianFinancialCrisis:Diagnosis,Remedies,Prospect,"

mimeo,[5]外 国 為 替 審 議 会 ・ ア ジ ア 金 融 資 本 市 場 専 門 部 会(1998)『 ア ジ ア 通 貨

危 機 に 学 ぶ 短 期 資 金 移 動 の リ ス ク と21世 紀 型 通 貨 危 機 一 』 参 照 。 (2)サ ン ・ ス ポ ッ ト 均 衡 に 関 し て は,口]Blanchard,0.J.andS・Fisher(1989)・

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(1996),AdvancedMacroeconomics,TheMcGraw‑HillCo,,p.296,[3]翁 邦 雄

(1985)『 期 待 と 投 機 の 経 済 分 析 』 東 洋 経 済 新 報 社,第10章 を 参 照 。 (3)[11Calvo,G.A.andE.G.Mendoza(X998),"RationalHerdBehaviorandthe

(20)

20商 経 論 叢 第35巻 第3号

(255)

G1・balizati・n・fSecuritiesMarkets,"mime・ ,[2]K,rugman,P.(1997),℃urrency Crises,"mimeo,「3〕Shiller ,R,J(1995),"Conversation,Infoaramation,andHerdBe.

havior,'"AmericrxnEconomicReview ,Vo1.85,No.2参 照 。 {4)Drawn,A.(1995,"PoliticalContagioninCurrencyCrises

,"NBERConference Paper,Krugman(1997),op,cit.参 照 。

(5)1994年 末 に メ キ シ コ ・ペ ソ が 切 りFが っ た 際}ア ル ゼ ン チ ン,ブ ラ ジ ル,フ リ ピ ン な ど の 新 興 国 は 「テ キ ー ラ 効 果 」 を 被 っ た が,方 で,チ リ,コ ロ ン ビ ァ な ど の 近 隣 新 興 国 は 必 ず し も 影 響 を 受 け な か っ た 。 そ こ で ,J.サ ッ ク ス 他 は,テ キ ー ラ 効 果 を20か 国 の 新 興 国 の デ ー タ を ベ ー ス に 通 常 の 回 帰 式 で 計 測 し

,ど う い う フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズ の 類 似 性 が 影 響 を 受 け 易 い か を 分 析 し た 。 そ の 結 果

,実 為 替 レ ー ト の 過 大 評 価,外 貨 準 備 不 足,国 内 の 過 剰 融 資 が あ る 場 合,通 貨 投 機 の 波 及 は 免 れ な か っ た こ と,そ し て,経 常 収 支 赤 字 ,資 本 流 入 の 規 模,財 政 政 策 の

ス タ ン ス な ど は 統 計 的 に 有 意 な 要 因 で な か っ た こ と な ど を 明 ら か に し た(Sachs , J.,A.TornellandA..Velasco(1996),"FinancialCrisesinEmergingMarkets:The

Lessonsfrom1.995,"NBERWorkingPaper5576)

(6)B・ ア イ ケ ン グ リ ー ン 他 は,30年 に わ た る20か 国 の パ ネ ル ・デ ー タ に プ ロ ビ ッ ト ・モ デ ル を 適 用 し て,通 貨 危 機 の 他 国 へ の 波 及 ・伝 染 を 計 測 し た

。 そ の 結 果,一 一般 に 類 似 の マ ク ロ 経 済 構 造 を 持 つ 国 々 よ り も,国 際 貿 易 の 結 合 度 の 高 い 国 々 の ほ う が 通 貨 危 機 の 影 響 を 受 け や す い こ と を 検 証 し た(Eichengreen ,B.,AK.

RoseandC.Wypolesz(1996),"ContagiousCurrencyCrises

,"NBERWorkingPa‑

P2r5681)。 と こ ろ でs}之 述 し たJ・ サ ッ ク ス 他 や こ れ らB・ ア イ ケ ン グ リ ー ン 他 の 研 究 と は 別 に,ど う い う 要 因 が 通 貨 投 機 を 発 生 さ せ る か と い う 実 証 研 究 に 関 し て は,今 日 枚 挙 に 暇 が な い 。 例 え ば,ク ル ー グ マ ン 罵 フ ル ドeガ ー バ ー ・ タ イ プ の フ ァ ン ダ メ ン タ ル ズ ・モ デ ル に 立 脚 す る に せ よ,あ る い は オ ブ ズ フ ェ ル ド ・ タ イ プ の 自 己 実 現 的 予 想 モ デ ル に 立 脚 す る に せ よ,い ず れ に し て も 逓 貨 投 機 が 発 生 し た 国 の 対 外 取 引 要 因,国 内 金 融 要 因,財 政1,マ ク ロ 実 物 要 因,政 治 要 因, 波 及 ・伝 染 要 因 な ど を 説 明 変 数 と し て,こ れ に 時 系 列 デ ー タ を 当 て は め て 計 測 し た りfあ る い は パ ネ ル ・デ ー タ を 用 い た ク ロ ス ・セ ク シ ョ ン 分 析 に よ っ て 複 数 国

を 比 較 す る こ と で,更 に そ れ ら 要 因 の 理 論 的 ・統 計 的 解 釈 を 深 め た り し て 来 て い る 。 そ う し た 中 で 興 味 の 持 た れ る 研 究 の … つ は,最 近 のIMF論 文 誌 に 発 表 さ れ た G・ カ ミ ン ス キ ー 他 の 通 貨 危 機 に 関 す る 先 行 指 標 を 用 い た 早 期 警 報 シ ス テ ム の 確 立 で あ ろ う(Kaminsky,G.,S.Lizondo,C.M.Rejnhart(1998) ,"LeadingIndicators ofCurrencyCrises,"∬1VIFStaffPaper,VoL45 ,No.1)。 彼 等 は,こ れ ま で の 多 く

の 通 貨 危 機 発 生 要 因 の 研 究 成 果 を 踏 ま え ,通 貨 危 機 の 発 生 に 先 行 し て 兆 候 を 示 す よ う な 多 数 の 統 計 指 標 を 統 計 的 に 吟 味 し,24か 月 以 内 に70%の 確 率 を も っ て 通 貨

(21)

(254) 国際 金 融 資 本 市場 の グロ ーバ ル化 と短期 資 本移 動21

危機 の発生 を 予報す る警報 システ ムを開発 した。

5結 び

経 済 活 動 の グ ロー バ リゼ ー シ ョ ン,な か んず く金 融 資 本 取 引 の グ ロー バ ル 化 の 進 展 に 伴 い,大 量 の 外 国 為 替 や デ リバ テ ィ ブ な どが 瞬 時 に 地 球 的 規 模 で 取 引 され る よ う に な る と,度 び 市 場 参 加 者 の 当 該 通 貨 に 対 す る信 認 が な ん らか の き っ か け で 変 化 す る や,群 衆 行 動 や 伝 染 ・波 及 に よ っ て そ の 変 化 は増 幅 さ れ, 民 間 資 本 フ ロ ー の 急 激 な流 出 入 を 時 と して もた ら し,こ こ に 自 己 実 現 的 な 為 替 投 機 が 発 生 す る メ カ ニ ズ ム を,我 々 は 第3節 ・第4節 で 検 討 した 。 そ こ で 最 後 に,こ う した 理 論 的 検 討 結 果 を 踏 ま え て,市 場 原 理 か ら逸 脱 して 暴 走 す る マ ネ ー を押 し止 ど め る べ く ど う懐 柔 し コ ン トロ ー ル して い くべ きか,そ の 具 体 的 な 対 応 策 を 特 に 相 対 的 に脆 弱 な新 興 市場 の ケ ー ス につ い て 考 え て み た い(1)。

(1>フ ァ ン ダ メ ン タ ル ス

投 資 家 の 通 貨 に対 す る信 認 を 維 持 す る た め に も,マ ク ロ 経 済 の 健 全 な 運 営, 経 常 収 支 赤 字 ・対 外 債 務 の 適 切 な 管 理,節 度 の あ る 経 済 政 策,政 府 の タ イ ム

リー な 情 報 公 開 が 求 め ら れ る。

(2)金 融 セ ク タ ー

適 切 な 順 序 付 け(sequencing)を 踏 ま え た 金 融 自 由 化,株 式 ・公 社 債 市 場 の 整 備,金 融 機 関 の 財 務 体 質 の 強 化 や リ ス ク管 理 の 徹 底,金 融 監 督 の 強 化 な どが

重要 で あ る。

(3)為 替 ・資 本

通 貨 の 過 大 ・過 少 評 価 を 避 け る べ く,貿 易競 争 力 を 考 慮 し た ウエ イ ト付 け 通 貨 バ ス ケ ッ トへ の リ ン ク な ど,弾 力 的 な 為 替 制 度 が 望 ま れ る 。 ま た,短 期 資 本 移 動 が 巨 額 の 場 合 は,モ ニ タ リ ン グ の 強 化 と 共 に,価 格 メ カ ニ ズ ム を 活 用 した marketfriendlyな 策,例 え ば 預 金 準 備 率 の 引 上 げ や 中 央 銀 行 へ の ・部 無 利r強 制 預 託,流 入 資 本 へ の 源 泉 徴 収 税 等 の 課 税 を含 む 予防 的 規 制(prudentialregu‑

lation)が 正 当 化 され るべ きで あ ろ う。

(4)国 際 機 関

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22商 論 叢 第35巻 第31‑17 (253)

IMFのSDDS(特 別 デ ー タ公 表基 準)強 化 や コ ン デ ィ シ ョナ リ テ ィ ー の 柔 軟 な 対 応,早 期 警 報 シ ス テ ム の 精 度 向 上,IMFを 補 完 す る 地 域 的 支 援 体 制 の 創 設 な どで あ る 。

(1)こ の 点 に 関 す る よ り 詳 細 な 検 討 に つ い て は,岡 田 義 昭(1999)「 国 際 通 貨 制 度 の 変 容 と 評 価 」 『岐 阜 経 済 大 学 論 集 』 第33巻 ・第3FIJa参 照 。

参 考 文 献

*筆 者 は 大 学 院 博1 .n果程 で 理 論 経 済 学 ・計 量 経 済 学 を 専 攻 後,1980年 か ら2年 間 の 英 国LSE大 学 院 留 学 を 契 機 に,当 時 国 際 金 融 論 の ニ ュ ー ・パ ラ ダ イ ム を 築 き つ つ あ っ たDornbush ,Mussa,Kenen,Kouri,Buiter,Cabo,Branson,Bilson,Sachs,

Franke1等 俊 英 の パ イ オ ニ ア リ ン グ ・ワ ー ク に 深 く 魅rさ れ,研 究 の 対 象 軸 を

「新 」 国 際 金 融 論 に シ フ トさ せ て い た 。 そ の 時,「 本 来 の 」 国 際 金 融 論 に お け る 研 究 葬法 ・体 系,文 献 資 料,歴 史 ・制 度 解 釈 な ど を ご 指 導 頂 い た の が 島 崎 博Lで あ る 。 博Lの ご 指 導 で,幸 い に も 枝 葉 の 議 論 を 幹 に 繋 げ る こ とが 出 来 た 。 そ れ か ら 今 日 ま で の 約 四 判iヒ紀 に 亙 り,鳥 兎 忽 忽 研 究 成 果 の 芳 し く な い 筆 者 を た だ ひ た す ら 「寛 容 」 の こ文 字 を も っ て 指 導 く だ っ さ た 博 十 の 「学 恩 」 と,更 に ま たY日 ・英 ・ア ジ ア ・米 を 筆 者 と 共 に 行 き 来 し て 書 斎 の 書 架 か ら 筆 者 を 絶 え ず 叱 咤 奨 励 さ れ た 博 士 の こ 著,垂}:に対 し て,こ こ に 改 め て 深 謝 申 しLげ る 次 第 で あ る,,

参照

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