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176鶴田真紀

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176

鶴田真紀

北澤毅・古賀正義 編著

『質的調査法を学ぶ人のために』

世界思想社 2008 年 四六判 280 頁 ¥2310(税込)

 質的調査法は,社会調査法としての市民権を獲 得し「身近に利用可能な」手法となった一方で, 「い かなる意味で〈質的〉であるのか」がこれまで以 上に問われている。このような質的調査法をめぐ る現在の状況こそが,初学者に「データ収集の容 易さと分析の困難」(p.257)をもたらしているよ うに思われる。

本書は,初学者が抱えるこのような困難を解 決する導きの糸を提示するものである。しかしな がら,質的データを手に入れさえすればそれを論 文化するための方

ノウハウ

法を教えてくれる,いわゆる「ハ ウツー本」としての役割を本書に期待してはなら ない。本書が提示するのは,各執筆者が本書に込 めた「導きの糸」をまさにそれとして読み解くこ とのできる力,すなわち質的調査法を実践するた めの方法的意識であり,思考であり,態度なので ある。卒業論文や修士論文で質的調査法を実践し たいと思っている初学者から,本書は「『質的調 査法を(これから)学ぶ人のために』ではなく,

『(ある程度)学んだ人のために』では」と評され ることがあると聞くが,その理由はこのような点 にあるのかもしれない。だが,本書における〈質 的〉研究とはいかなるものであるのかを読者とし て探求することこそが,質的調査法を実践する近 道なのではないだろうか。

本書の構成は次のとおりである。

第Ⅰ部「質的調査の目的と方法」では,第 1 章で質的調査の歴史的経緯が,第 2 章で質的調査 の思考法として,とくに問題関心と方法論的関心 や調査手法とが分かちがたく結びついていること が,第 3 章では質的調査の各手法おけるデータの 特質が論じられる。

本書は質的調査法の優れた「実践書」でもあ

り,第Ⅱ部(第4章─第9章)では質的調査法の 多様な応用と展開が提示される。しかしながら紙 幅の都合上,本書の編者でもある本学科北澤毅教 授の執筆した第7章についてのみ言及することに したい。 「少年非行の研究法」と題された本章では,

「少年非行が凶悪化している」根拠として利用さ れる公式統計は,はたして「客観的現実の反映」

であるのだろうかと問われる。それは初学者にと っては衝撃的な問いであるにちがいない。という のも,統計データから「凶悪化」を認め,その原 因と対策を提案する研究手法では前提とされ, 「問 い」として成立することすら閉ざされていたこと こそを問うのである。読者は本章を通して上記の 問いがもつ意味とその可能性(それは社会構築主 義的な実証研究の可能性でもある)を知ることに なるだろう。

第Ⅲ部では,心理学,社会学,教育社会学の 研究者による座談会を通して質的調査について 議論される。このような試みは,本書の「前作」

ともいえる『〈社会〉を読み解く技法―質的調査 法への招待』(北澤毅・古賀正義編,福村出版,

1997 年)においても実施されていた(ただし前 作では教育社会学者らによる座談である)。座談 会の実施に限らず,本書は前作の重要な流れを受 け継いでいる。最後にその点について述べること にしたい。

それは第 1 には, 〈教育〉を,さらには〈社会〉

を読み解くための技法として質的調査法の習得を めざしている点であり,第 2 には,社会構築主義 とエスノメソドロジーという明確な立場に基づい て質的なデータへの接近を試みている点である。

もちろん,それら二つの立場に基づく研究のみが 質的調査法の「すべて」ではない。しかし,その ような明確さは,質的調査法を網羅しようとする 発想それ自体の不毛さと同時に「あなたの問題関 心にとって必然的に

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要請される調査手法は何か」

を一貫して読者に問い続けているように感じられ

るのである(cf: 本書「あとがき」)。本書は「質

的調査法を学び続けるすべての人ために」ある。

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