︿研 究ノ ート
信
﹀託 と い う 性 質 決 定 に 向 け て の
( )
覚 書
藤 澤 治 奈
Ⅰ は じ め に
Ⅱ 信託 法の 条文 との 関係
Ⅲ これ まで の学 説
Ⅳ
﹁信 託﹂ とい う性 質決 定に 対す るア プロ ーチ
Ⅴ お わ り に
Ⅰ は じ め に
ઃ 本稿 の課 題
⑴ 背 景 平成 一八 年一 二月 に新 たな 信託 法が 成立 し、 この 法律 は翌 年九 月に 公布 され た︵ 以下 では
、こ れを
﹁新 信託 法﹂ と し、 かつ ての 信託 法を
﹁旧 信託 法﹂ と
( )
呼ぶ
。︶ 今次 の改 正は
、大 正一 一年 の旧 信託 法制 定以 来の 全面 改正 であ り、 条文
が現 代語 化さ れた だけ では なく
、そ の内 容も 抜本 的に 見直 さ
( )
れた
。実 際、 旧信 託法 は、 条文 数が 少な くそ の規 定内 容も シン プル であ った のに 対し て、 新信 託法 では
、規 定も 詳細 にな り、 旧法 下で の問 題点 の多 くが 解決 され たよ う にも 見え る。 しか し、 新法 の登 場に よっ て、 解釈 論の 必要 性が なく なっ たわ けで はな い。 本稿 が扱 う﹁ 信託 とい う 性質 決定
﹂に つい て見 ても
、信 託の 定義 に関 する 規定 が詳 細に なっ たと は言 え、 なお
、解 釈の 必要 性は 少な くな い と考 えら れる
。そ こで
、本 稿に おい ては
、旧 信託 法と 新信 託法 とを 比較 し、 新法 によ って どの よう な改 正が なさ れ たの かを 確認 した 上で
、新 法に 持ち 越さ れた 問題 を明 らか にす る。
⑵ 課 題 設 定 では
、﹁ 信託 とい う性 質決 定﹂ とは
、い かな る問 題を 指す のか
。 抽象 的に 言え ば、 以下 のよ うな 問題 であ る。 当事 者の 行っ た契 約等 が信 託法 上の 信託 であ るの なら ば、 信託 法に 規定 され た法 的効 果が 生じ るこ とに なる はず であ る。 例え ば、 倒産 隔離
、受 託者 の責 任な どを 挙げ るこ とが でき よ う。 こう した 法的 効果 の前 提と なる
﹁信 託で ある
﹂と いう 判断 が、
﹁信 託と いう 性質 決定
﹂で ある
。 具体 的に 言え ば、 以下 のよ うな 場面 が考 えら れる
。S が、 Bを 受益 者と する 信託 を設 定す るた めに
、T にあ る財 産を 譲渡 した とす る。 とこ ろが
、実 際に 当該 財産 のコ ント ロー ルを 握っ てい るの は、 Sの まま であ った
。こ のよ う な状 況下 で、 Sが 倒産 した とし よう
。こ こで
、当 事者 が﹁ 信託 であ る﹂ と主 張す るこ の仕 組み が、 本当 に信 託で あ れば
、詐 害的 な場 合等 を除 き、 信託 され た財 産は
、S の倒 産の 影響 を受 けな いは ずで ある
。こ れに 対し て、 当事 者 が﹁ 信託 であ る﹂ と主 張し てい るに もか かわ らず
、そ れが 信託 では なく
、例 えば
、担 保に 過ぎ ない と評 価さ れれ ば、 当該 財産 は、 Sの 倒産 手続 に組 み込 まれ るこ とに なろ う。 実際
、こ の点 は、 資産 流動 化等 に際 して もク リア さ れる べき 問題 点と して 意識 され て
( )
いる
。こ こで 問題 とな った よう な、 ある 仕組 みが 信託 か否 か、 とい う判 断が
、
﹁信 託と いう 性質 決定
﹂で ある
。 また
、以 下の よう な場 面も 考え られ る。 Sが
、最 終的 には Bに 支払 いを する とい う目 的の もと
、一 定額 の金 銭を Tに 渡し
、そ れを 特別 の銀 行預 金口 座に おい て保 管さ せて いた とす る。 とこ ろが
、当 該金 銭が Bに 支払 われ る前 に、 Tが 倒産 した とし よう
。本 来で あれ ば、 T名 義の 銀行 預金 は、 Tの 破産 財団 に組 み込 まれ
、T の債 権者 等へ の 配当 の原 資と なる はず であ る。 しか し、 この よう な金 銭の 管理 が、 信託 であ ると 評価 され るの であ れば
、信 託財 産 であ ると ころ の当 該預 金は
、T の債 権者 等へ 分配 され るこ とは ない とい うこ とに なる
。実 際、 後述 する 最高 裁判 決 は、 この よう な場 面に おい て、 当事 者が 当初
﹁信 託で ある
﹂と いう 契約 を締 結し てい たわ けで はな かっ たに もか か わら ず、 それ を﹁ 信託 であ る﹂ と判 断し
、銀 行預 金の 破産 管財 人に 対す る払 い戻 しを 否定 した
。こ こで も、
﹁信 託 とい う性 質決 定﹂ が行 われ てい ると 言え よう
。 この よう に、 ある 仕組 みが 信託 と評 価さ れる か否 かは
、一 定の 場面 にお いて は、 当事 者に とっ ては もち ろん
、他 の利 害関 係人 にと って も、 紛争 の帰 結を 左右 する 重要 な問 題と 位置 づけ るこ とが でき よう
。 とこ ろが
、﹁ 信託 とい う性 質決 定﹂ の基 準に 目を 向け ると
、あ る仕 組み がい かな る要 素を 備え てい れば それ が信 託で ある とさ れる のか につ いて の基 準は 未だ はっ きり とは して いな い。 そこ で、 何が 信託 であ るか につ いて の基 準 を明 らか にす る必 要が ある が、 本稿 では
、そ の前 段階 とし て、 その 基準 の定 立に 際し て、 そも そも どの よう なア プ ロー チが あり うる のか を検 討し てみ
( )
たい
。
本稿 の用 語法 上記 の検 討を 行う に際 して は、 以下 に述 べる よう な整 理を 用い る。 信託 とい う性 質決 定、 すな わち
、あ る仕 組み が信 託に 当た るか 否か とい う問 題は
、既 に述 べた 具体 例か らも 明ら
かな よう に、 大き く分 けて 二つ の場 面に おい て生
( )
じる
。一 つは
、当 事者 が﹁ 信託
﹂と の文 言を 用い て契 約等 を行 っ ても
、そ れが 信託 法上 の信 託か どう かに つい て疑 義が 生じ ると いう 場面 であ る。 この よう な場 面で 問題 とな る性 質 決定 を、 本稿 では
﹁消 極的 性質 決定
﹂の 問題 と呼 ぶこ とに する
。も う一 つは
、当 事者 が﹁ 信託
﹂と いう 文言 を用 い てい ない にも かか わら ず、 ある 仕組 みが 信託 法上 の信 託で ある とさ れ得 ると いう 場面 であ る。 この よう な場 面で 問 題と なる 性質 決定 を、
﹁積 極的 性質 決定
﹂と 呼ぶ こと にす る。 もち ろん
、こ れら 二つ の性 質決 定は
、あ る仕 組み が信 託に 当た るか 否か が一 義的 に決 まる こと を前 提と すれ ば、 一つ の問 題の 表裏 に過 ぎな い。 とは いえ
、少 なく とも 裁判 例等 の事 案を 整理 する 際に は有 意義 な区 別で ある ため
、 以下 では
、こ の区 別を 用い て議 論を 進め る。 અ
本稿 の行 論
Ⅱで は、 まず
、﹁ 信託 とい う性 質決 定﹂ が信 託法 の条 文解 釈の 問題 とし てど のよ うに 位置 づけ られ るの かを 確認 する
。そ の上 で、
Ⅲで は、 これ まで の学 説が
、﹁ 信託 とい う性 質決 定﹂ の基 準に 関し てど のよ うな 議論 を行 って き たの かを 紹介 する
。本 来で あれ ば、 判例 の分 析を する こと が重 要で あろ うが
、こ の問 題に 関す る判 例は 数え るほ ど しか 存在 して いな いた め、 学説 の紹 介と 併せ て判 例の 紹介 を行 いた い。 続い て、
Ⅳで は、
﹁信 託と いう 性質 決定
﹂ に対 して は、 どの よう なア プロ ーチ があ りう るの かを 整理 する
。Ⅴ では
、本 稿の まと めを 行い 今後 の課 題を 示す
。
( ) 本稿 は財 団法 人ト ラス ト にお ける
﹁新 信託 法の 理論 と実 務﹂ 研究 会に おけ る報 告原 稿︵ 二〇
〇七 年九 月︶ に加 筆修 正を 加え たも ので あ 60 る。 研究 の機 会を 提供 して 下さ った 財団 法人 トラ スト
、報 告に 際し て様 々な ご指 導を いた だい た道 垣内 弘人 先生 をは じめ とす る研 究会 の先 60 生方 に感 謝申 し上 げる
。 ( ) 立法 の経 緯、 審議 経過 につ いて は、 寺本 昌広 ほか
﹁新 信託 法の 解説
⑴﹂ NB L八 五〇 号一 六頁
、同
﹁新 信託 法の 解説
⑴︱ 金融 実務 に関 連す
る部 分を 中心 に﹂ 金融 法務 事情 一七 九三 号八 頁、 寺本 昌広
﹃逐 条解 説新 しい 信託 法﹄
︵商 事法 務、 二〇
〇七 年︶
︵以 下で は、 寺本
﹇二
〇〇 七﹈ とし て引 用す る︶ 三- 一二 頁等 参照
。 ( ) 改正 のポ イン トは
、第 一に
、当 事者 の私 的自 治を 尊重 する 観点 から の旧 信託 法の 過度 に規 制的 なル ール を見 直し
、第 二に
、受 益者 の権 利行 使に おけ るき め細 やか で合 理的 なル ール の整 備、 第三 に、 多様 な信 託の 利用 形態 に対 応す るた めの 制度 の整 備で ある と説 明さ れて いる
︵別 冊 NB L一
〇四 号﹃ 信託 法改 正要 綱試 案と 解説
﹄二 -三 頁、 寺本
﹇二
〇〇 七﹈ 一三 頁︶
。 ( ) 例え ば、 小林 秀之
﹃資 産流 動化 の仕 組み と実 務︱ 倒産 隔離 と近 時の 立法
﹄︵ 新日 本法 規、 二〇
〇二 年︶ 三頁 以下
、一 九五 頁以 下は
、こ の点 を指 摘す る。 ( ) 信託 とい う性 質決 定の 意義 及び アプ ロー チに 触れ るも のと して
、河 上正 二﹁ 信託 契約 の成 立に つい て︱ 最高 裁平 成一 四年 一月 一七 日判 決を めぐ って
︱﹂
﹃財 団法 人ト ラス ト 創立 二〇 周年 記念 論文 撰集
﹄︵ 財産 法人 トラ スト
、二
〇〇 七年
︶︵ 初出
:早 川眞 一郎 他﹃ 変革 期に おけ る信 60
60 託法
﹄︵ トラ スト
研究 叢書
、二
〇〇 六年
︶︶ 一一 頁が ある
。引 用が 長く なる が、 河上 論文 は、 信託 とい う性 質決 定の 持つ 手段 的な 性格 に触 れ 60 て、 以下 のよ うに 述べ てい る。
﹁法 的性 質決 定の 手段 的性 格は
、そ のこ とか ら帰 納的 に一 定の 法的 性質 を導 こう とす る場 合と
、あ る法 的性 質か ら演 繹的 に一 定の 法的 効果 を導 こう とす る場 合と で解 釈者 の態 度決 定に 差が 出て くる 可能 性の ある こと から も明 らか であ る。 法的 性質 決定 の 議論 の形 は﹃ 帰納 型﹄ であ るこ とが 多い が、 個々 の効 果を 総合 して 帰納 して いっ たと き、 ぴた りと
﹃典 型契 約﹄ の一 つ︵ 例え ば﹃ 信託 契約
﹄︶ にた どり 着く こと は、 むし ろま れで あっ て、 そこ に一 定の 裁量 の幅 が生 じる
。︵ その 当否 はと もか く︶ あら かじ め具 体的 な問 題に 即し た実 質的 利益 衡量 から 効果 を確 定す る作 業が 先行 して いる 以上
、そ のよ うな 効果 にと って 障害 のな い︵ 無難 な︶ 法的 性質 が語 られ れば よい こと にな る。 しか し、 いっ たん ある 効果 を論 理の 上で 正当 化す る以 上、
﹃賃 貸借
﹄や
﹃消 費貸 借﹄
、﹃ 売買
﹄、
﹃信 託﹄ とい った 有名 契約 の規 範群 とそ のロ ジッ クを 借用 して 整合 性を 保た なけ れば なら ない
。逆 に、 有名 契約 に結 びつ けて 法的 性質 決定 をし てい る場 合の 多く は、 解釈 者の 狙っ た︵ ある い は主 要で ある と考 えた
︶特 定の 効果 を演 繹も しく は正 当化 する ため であ って
、全 ての 点で 典型 契約 の効 果を 妥当 させ よう とす るも ので はな い こと もあ ろう
。問 題は
、具 体的 事実 の中 から どの 要素 に着 目す るか
、ど の効 果を 基本 的な もの とみ るか
、ど のよ うな 場面 での 紛争 処理 を念 頭 にお いて 法に 依拠 した 規範 を策 定す るか にあ り、 一般 的な 法的 性質 決定 その もの は、 手段 的、 戦略 的な 事柄 でし かな いと 割り 切っ た方 がよ い のか もし れな い。
﹂と 述べ てい る︵ 二九 頁以 下︶
。 ( ) 例え ば、 道垣 内弘 人﹁ 信託 の設 定ま たは 信託 の存 在認 定﹂
﹃信 託取 引と 民法 法理
﹄所 収︵ 有斐 閣、 二〇
〇三 年︶
︵以 下で は、 道垣 内﹇ 二〇
〇 三﹈ とし て引 用す る︶ は、 この 二つ の問 題の 現代 的意 義を 論文 の問 題提 起と して いる
。
﹁﹃ ハコ
﹄と して の信 託﹂ とい う言 葉に 表れ てい るよ うに
、受 託者 の義 務を 極小 化し た信 託が 登場 して おり
、い かな る場 合に それ が信 託と さ れ、 信託 法に 定め られ た法 的効 果を 享受 しう るの かと いう こと が問 題と なっ てい る。 他方 で、 後述 する 平成 一四 年の 最高 裁判 例は
、当 事者 が
﹁信 託﹂ との 文言 を使 った わけ では ない 一定 の合 意の 中に
、信 託の 存在 を認 め、 信託 法の 定め る法 的効 果を それ に与 えて いる
。こ うし た問 題が 顕在 化し てい る以 上、 信託 の性 質決 定の 問題 を正 面か ら論 じる 必要 性が 高ま って いる とい うの であ る︵ 道垣 内﹇ 二〇
〇三
﹈二 -三 頁︶
。
Ⅱ 信託 法の 条文 との 関係
ઃ 旧信 託法 の規 定
﹁信 託﹂ は、 旧信 託法 一条 に、
﹁本 法ニ 於テ 信託 ト称 スル ハ財 産権 ノ移 転其 ノ他 ノ処 分ヲ 為シ 他人 ヲシ テ一 定ノ 目 的ニ 従ヒ 財産 ノ管 理又 ハ処 分ヲ 為サ シム ルヲ 謂フ
﹂と 定義 され てい た。 この 条文 をい くつ かの 要素 に分 解し て整 理す ると すれ ば、 以下 のよ うに なる
。ま ず、 信託 の対 象と なる のは
、
﹁財 産権
﹂で ある
。次 に、 信託 の成 立の ため には
、① 財産 権の 移転 等、 何ら かの 処分 が行 われ るこ とが 必要 であ る。 また
、② 当該 財産 権に つい て、 他人 をし て一 定の 目的 に従 った 管理 また は処 分を させ るこ とが 必要 であ る。 なお
、旧 信託 法二 条は
、信 託は 遺言 によ って も可 能で ある 旨規 定し てい る。
新信 託法 によ る改 正
⑴ 新信 託法 にお ける 定義 旧信 託法 一条 が規 定す る信 託の 定義 は、 新信 託法 によ って 改正 され た。 新信 託法 二条 一項 は、
﹁こ の法 律に おい て﹃ 信託
﹄と は、 次条 各号 に掲 げる 方法 のい ずれ かに より
、特 定の 者が 一定 の目 的︵ 専ら その 者の 利益 を図 る目 的を 除く
。同 条に おい て同 じ。
︶に 従い 財産 の管 理又 は処 分及 びそ の他 の 当該 目的 の達 成の ため に必 要な 行為 をす べき もの とす るこ とを いう
。﹂ と信 託を 定義 する
。 この 条文 を受 けた 三条 は、 その 一号 で、 信託 は、
﹁特 定の 者と の間 で、 当該 特定 の者 に対 し財 産の 譲渡
、担 保権 の設 定そ の他 の財 産の 処分 をす る旨 並び に当 該特 定の 者が 一定 の目 的に 従い 財産 の管 理又 は処 分及 びそ の他 の当 該
目的 の達 成の ため に必 要な 行為 をす べき 旨の 契約 を締 結す る方 法﹂ によ って 行う こと がで きる と規 定し てい る。 な お、 三条 二号 は、 遺言 信託 につ いて
、三 号は
、自 己信 託に つい て規 定し てい る。
⑵ 新信 託法 によ る改 正点 改正 点は
、大 きく 分け て以 下の 五点 に整 理す るこ とが でき る。 第一 に、 信託 の対 象は
、﹁ 財産 権﹂ から
﹁財 産﹂ へと 変更 され た︵ 新二 条一 項︶
。こ れは
、信 託の 対象 とな るた め には
、﹁
~権
﹂と 呼ば れる ほど 成熟 した 権利 であ る必 要は なく
、金 銭的 価値 に見 積も るこ とが でき る積 極財 産で あ り、 かつ
、委 託者 の財 産か ら分 離す るこ とが 可能 なも ので あれ ばす べて 含ま れる との 趣旨 を明 らか にし たも ので あ ると 説明 され てい る︵ 寺本
﹇二
〇〇 七﹈ 三二 頁︶
。例 えば
、﹁ 特許 を受 ける 権利
﹂等 も信 託の 対象 とな りう るこ とが 明ら かに なっ た点 に改 正の 実益 があ ると され る︵ 別冊 NB L一
〇四 号七 五頁
︶。 第二 に、 信託 の方 法が 整理 され
、ま た、 自己 信託
︵信 託宣 言︶ が認 めら れた
。と いう のは
、新 信託 法三 条は
、一 号で 信託 契約
、二 号で 遺言 によ る信 託、 三号 で自 己信 託︵ 信託 宣言 を︶ 定義 し、 これ らの 方法 によ って 信託 が設 定 され る旨 規定 する
。自 己信 託︵ 信託 宣言
︶に つい ては 従来 から 学説 上多 くの 議論 が存 在し
、新 法が これ を認 めた 点 は、 非常 に重 要で はあ るが
、こ れに つい ては 本稿 では 扱わ ない
。 第三 に、 自己 信託 以外 の信 託に おい て、 旧法 の① の要 件に 対応 し、 信託 の成 立の ため に必 要と され る処 分行 為と は﹁ 財産 の譲 渡、 担保 権の 設定 その 他の 財産 を処 分す る旨
﹂を 約し
、も しく は、 遺言 する こと であ ると 定義 され た
︵新 三条 一号
、二 号︶
。こ の新 たな 定義 にお いて
、従 来と 異な る点 は、 一つ には
、﹁ 担保 権の 設定
﹂と いう 文言 が規 定 に盛 り込 まれ るこ とで
、担 保権 の設 定も 処分 行為 に当 たる こと が明 確に なっ た点 であ る。 この こと の実 益は
、シ ン ジケ ート ロー ン等 に際 して 必要 とさ れる セキ ュリ ティ
・ト ラ
( )
スト が可 能で ある こと を明 確に した 点に ある と説 明さ
れて いる
︵寺 本﹇ 二〇
〇七
﹈三 五頁
︶。 もう 一つ には
、新 法四 条一 項二 項の 効力 発生 時期 の規 定と 併せ て、 信託 に必 要と され る処 分と は、 要物 的な もの では なく
、諾 成的 なも ので ある こと が明 らか にな った 点が
( )
ある
。 第四 に、 旧信 託法 では
、② の要 件に おい て信 託に は﹁ 一定 の目 的﹂ が必 要で ある とさ れて いた が、 その 目的 とは 何か が不 明確 であ った とこ ろ、 新法 では
、﹁
︵専 らそ の者
︹受 託者
︵引 用者 によ る注 記︶ の︺ 利益 を図 る目 的を 除く
︶﹂ との 注記 が付 され るこ とに より
︵新 二条 一項
、︶
﹁一 定の 目的
﹂の 内実 がヨ リ具 体的 に規 定さ れる こと とな った
︵寺 本﹇ 二〇
〇七
﹈三 二頁
︶。 第五 に、 受託 者が なす べき 行為 につ いて
、旧 法は
、﹁ 財産 の管 理又 は処 分﹂ と規 定し てい るの に対 して
、新 法は
、
﹁財 産の 管理 又は 処分 及び その 他の 当該 目的 の達 成の ため に必 要な 行為
﹂と した
︵新 二条 一項
︶。 これ は、 財産 の
﹁管 理又 は処 分﹂ 以外 であ って も信 託目 的に 必要 な行 為は なし うる こと を明 らか にし たも のと さ
( )
れる
。さ らに
、こ の規 定か ら、 いわ ゆる 受動
( )
信託 の一 部も 有効 であ るこ とが 導か れる とい う見 解も 示さ れて いる
︵寺 本﹇ 二〇
〇七
﹈
10
三四 頁︶
。 અ
解釈 論に 残さ れた 部分 以上 のよ うな 改正 によ り、 非常 に抽 象的 であ った 信託 の定 義は ある 程度 具体 化さ れ、 また
、実 務上 必要 とさ れる 取引 の有 効性 が明 確に なっ たと 言え よう
。し かし
、そ れに よっ て信 託の 定義 に関 する 条文 解釈 の必 要性 がな くな っ たわ けで はな い。 むし ろ、 重要 な解 釈上 の論 点が
、新 法に も持 ち越 され てい る。 とい うの は、 こう であ る。 ある 契約 もし くは 遺言 が信 託か 否か を判 断す るに 際し て、 当事 者が
﹁信 託﹂ とい う文 言を 用い たか 否か は、 信託 法上 の条 文を 読む 限り
、決 定的 な要 素で はな い。 そう であ る以 上、 信託 の成 立要 件の 手 がか りは
、信 託法 が規 定す る①
②で ある とい うこ とに なる が、 旧信 託法 の規 定は
、非 常に 抽象 的で
、明 確な 基準 を
示し てい るわ けで はな かっ た。 そこ で、 どの よう な法 律関 係が 信託 に該 当す るか につ いて は解 釈に 委ね られ てい た とこ ろ、 この 点が 最高 裁︵ 最判 平成 一四 年一 月一 七日 民集 五六 巻一 号二
〇頁 で︶ 問題 とさ れる に至 り、 学説 も信 託の 定義 をめ ぐっ て活 発な 議論 を行 った
。こ れを 受け て、 信託 法改 正に 際し ては
、信 託の 定義 を改 正す るこ とも 検討 さ
( )
れた
。し かし
、結 局の とこ ろ、
①② の要 件に 前記 のよ うな 変更 が加 えら れた が、 中心 的な 内容 は変 わる こと はな か っ 11
たの であ る。 新信 託法 によ るい くつ かの 改正 点に もか かわ らず
、信 託の 定義 に関 して は、 実質 上の 変更 はな いと いわ れる 所以 で
( )
ある
。
12
従っ て、 新法 の下 でも
、信 託の 成否 を信 託法 の解 釈と して 決す る際 に手 がか りと なる 条文 上の 文言 は、
①の 要件
︵財 産の 処分
︶及 び② の要 件︵ 一定 の目 的に 従っ た受 託者 の管 理、 処分 等の 義務
︶と いう こと にな ろう
。そ うす ると
、 信託 の性 質決 定に 関し ては
、旧 信託 法下 での 解釈 論の 多く は、 その 意義 を失 って いる わけ では なく
、ま た、 旧信 託 法の 解釈 論に おい て明 らか でな かっ た点 のい くつ かは
、新 信託 法に おい ても 残さ れて いる と考 えら れる
。そ こで
、 以下 では
、旧 信託 法の 条文 の解 釈論 をも 含め て、 学説 の検 討を 行う
。
( ) 新信 託法 とセ キュ リテ ィ・ トラ スト との 関係 につ いて は、 池田 雅則 ほか
﹁セ キュ リテ ィ・ トラ スト 活用 に向 けて の法 的課 題︵ 上︶
︵下
︶﹂ 金 融法 務事 情一 七九 五号 三〇 頁、 一七 九六 号四 二頁
︵二
〇〇 七年
︶︵ 以下 では
、池 田﹇ 二〇
〇七
﹈と して 引用 する
︶、 大野 正文
﹁担 保目 的の 信託
﹂ 金融
・商 事判 例一 二六 一号 一九 八頁
︵二
〇〇 七年
︶︵ 以下 では
、大 野﹇ 二〇
〇七
﹈と して 引用 する
︶に 詳し い。 セキ ュリ ティ
・ト ラス トと は、 債務 者を 委託 者、 担保 権者 を受 託者
、債 権者 を受 益者 とし て担 保権 を設 定す るこ とと され る︵ 別冊 NB L一
〇 四号 七五 頁︶
。担 保付 社債 信託 法に おい ては 認め られ てい たが
、旧 信託 法に は、 この 点に つい ての 規定 がな いた め、 債権 者と 担保 権者 とが ずれ るセ キュ リテ ィ・ トラ スト の有 効性 につ いて は疑 義が 存在 して いた
。他 方、 実務 上は
、シ ンジ ケー トロ ーン など 複数 債権 者に よる 融資 スキ ー ムの 構築 に際 して
、セ キュ リテ ィ・ トラ スト の必 要性 が説 かれ てい た︵ 大野
﹇二
〇〇 七﹈ 一九 九頁
︶。 セキ ュリ ティ
・ト ラス トに よっ て、 複数 の債 権者 が存 在す る場 合の 担保 管理 が容 易に なる 等の メリ ット があ るか らで ある
。新 信託 法は
、信 託の 成立 要件 の一 つに 担保 権の 設定 を加 え るこ とに よっ て、 セキ ュリ ティ
・ト ラス トを 可能 にし たが
、な お担 保権 の随 伴性
︵債 権譲 渡に 際し て担 保権 が随 伴す るわ けで はな いた め、 受 益権 の譲 渡が 行わ れな くて はな らな いと いう 問題
︶、 もし くは
、附 従性
︵一 部の 被担 保債 権の 弁済 があ った 場合
、各 受益 者の 立場 はど うな るか