低体力レベルにある県の
体力・運動習慣に関する基礎的研究
岩田 大輝
*,是石 直文
**,小澤 治夫
***,
都丸 利幸
****,徐 広孝
*****,加藤 勇之助
******Fundamental study on a low level of the Physical Fitness in a specific prefecture
Daiki Iwata, Naohumi Koreishi, Haruo Ozawa, Toshiyuki Tomaru, Hirotaka Jo, Yunosuke Kato
Abstract:
Recently, the physical fitness of children has been decreasing. It is recognized that it is "exercise frequency" that has caused strong influence to this decline by a survey of Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology. Regarding factors of the decreasing of physical fitness in children, those children can be polarized into children who exercise, and children who do not exercise. This study making clear the practical action of this school, and contribute the physical fitness levels for the A primary, junior, senior high schools to expand this project.
The subjects of the analysis were 43,865 children; 21,878 male and 21,987 female that lived in A Prefecture with the survey.
The results of the analysis of A Prefecture showed that many children joining an athletic club and the sports club in a child of A, but exercise frequency compares it with national average, and there is little it.
KEY WORDS : Physical Fitness,Exercise Habits,Lifestyle Habits 要旨: 近年子どもの体力は低下傾向を示している.文部科学省の調査より,低下傾向に大きな影響を与えているのは運 動頻度であることが判明している.体力低下の要因は,運動する子どもとしない子どもの二極化とされており,運 動しない子どもが増えたことによる体力低下が問題視されている. そこで本研究では、全国でも低体力レベルにある県の体力・運動習慣等調査から、小・中・高校生の実態を把握 することで、低体力の要因を解明することを目的とした。調査対象はA 県の公立学校に通う小・中・高等学校の児 童生徒43,865 名(男子 21,878 名,女子 21,987 名)とした。調査の結果、A 県の子どもは、運動部やスポーツク ラブに加入している子どもは多いが、運動頻度が全国平均と比較して少ないことが明らかとなった。また、生活習 慣の悪化が、体力低下に影響を及ぼしている可能性が示唆された。 キーワード:体力・運動能力,運動習慣,生活習慣
男子(人) 女子(人) 計 (%) 小1 1,655 1,653 3,308 (7.5) 小2 1,659 1,659 3,318 (7.6) 小3 1,670 1,662 3,332 (7.6) 小4 1,666 1,652 3,318 (7.6) 小5 1,671 1,669 3,340 (7.6) 小6 1,661 1,667 3,328 (7.6) 中1 1,850 1,843 3,693 (8.4) 中2 1,848 1,837 3,685 (8.4) 中3 1,852 1,849 3,701 (8.4) 高1 2,019 2,132 4,151 (9.5) 高2 2,093 2,155 4,248 (9.7) 高3 2,096 2,133 4,229 (9.6) 高4 138 76 214 (0.5) 計 21,878 21,987 43,865 (100)
1.はじめに
子どもの体力低下は、新体力テストの実施開始か ら約13 年間で歯止めがかかり、近年の全国平均値は 横ばいまたは向上傾向である。A 県においても子ど もの体力・運動能力は、平成11 年度以降、特定の種 目において向上傾向を示しているが、過去の体力最 高値である昭和61 年度と比較すると、依然低い状況 にある。また、平成22 年度の全国体力・運動能力調 査の結果において、A 県は各学年でのほぼ全ての種 目で全国平均値を下回った。 このような状況に鑑み、A 県では平成 23 年度から 子どもの体力向上に重点的に取組むこととし、子ど もの健康・体力つくり推進計画を進めている。この 取組みは、これまでの体力・運動能力調査の結果か ら、体力は生活習慣と密接な関係にあるとの考えを 基にしている。そのため、これまでの取組みに加え、 運動習慣の確立を目指すとともに毎日朝食を食べる ことや、しっかりと睡眠時間をとることなど、生活 習慣を見直し、改善することにより体力の向上を図 ることを目的としている。 また,県教育委員会は、「児童生徒体力・運動能力 調査報告書」を毎年作成し、低体力である要因を探 求しているが、未だ十分に解明されているとは言い 難い。 そこで本研究では、全国でも低体力レベルにある 県の体力・運動習慣等調査から小・中・高校生の実 態を把握し、低体力の要因を解明するための基礎的 研究を目的とした。2.研究方法
2-1 調査対象 調査対象は、A 県の公立学校に通う小・中・高等学校 の児童生徒43,865 名(男子 21,878 名,女子 21,987 名) とした。なお、調査対象の抽出方法については、無作 為抽出法にて調査校を決め、対象とする児童生徒を 学級単位で抽出した(表1)。 (表1)調査対象内訳 2-2 調査期間 2012 年 4 月から 11 月を調査期間とし、その間に 新体力テストと運動習慣等調査がA 県教育委員会の 管理のもとで行われた。 2-3 調査方法 運動習慣等調査は、記名、選択方式(一部数値記 入あり)の質問紙による調査を行った。内容は、文 部科学省が作成した運動習慣等調査の運動部・スポ ーツクラブの加入状況、運動頻度・時間、朝食喫食 状況、睡眠時間、テレビ・ゲームの視聴時間、体格 (身長、体重、座高)についての9 項目に、A 県独 自に作成した、授業以外の運動頻度・時間、学校以 外の運動頻度・時間、土日の運動頻度・時間につい ての6 項目を加えた全 15 項目からなる質問紙を使用 した。 2-4 分析 運動習慣等調査は、A 県教育委員会管理のもと調 査の実施、回収、集計が行われた後、電子データと して届けられた。本研究ではこれらのデータを中心 に解析を行った。データの入力と整理、及び基本統 計量の算出にはMicrosoft 社の Excel 2003、2010 を 用いて単純集計を行った。 2-5 倫理的配慮について 本研究は、東海大学「人を対象とする研究」に関 する倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号: 11104、承認日:2012 年 3 月 27 日、承認番号:13099、 承認日:2014 年 2 月 28 日)。 * 湘南工科大学附属高校 保健体育科 ** 湘南工科大学 総合文化教育センター *** 東海大学 体育学部 **** 神奈川県立体育センター ***** 筑波大学 大学院 ****** 大阪体育大学体育学部3.結果
3-1 運動部・スポーツクラブの加入状況 図1 と 2 は、運動部・スポーツクラブの加入状況 について、校種ごとの変化を男女別に比較したもの である。その結果、男女ともに運動部・スポーツク ラブに「所属している」割合が中学校でピークとな り、高校になると、男女ともに約半数近くが運動部・ スポーツクラブに「所属していない」割合を示した。 また、小・中・高等学校すべてにおいて、女子よ りも男子の方が運動部・スポーツクラブに「所属し ている」割合が高い数値を示した。 (図1)運動部・スポーツクラブの加入状況 男子 (図2)運動部・スポーツクラブの加入状況 女子 3-2 運動頻度 ①運動頻度 図3 と 4 は、運動頻度について、校種ごとの変化 を男女別に比較したものである。運動頻度では、校 種が上がるにつれて「運動しない」と回答した割合 が増加傾向にある。特に、高等学校の女子において は、頻度が最も高い「週3 回以上」運動すると回答 した子どもと、最も低い「運動しない」と回答した 子どもの割合が共に高く、二極化する傾向がみられ た。 (図3)運動頻度 男子 (図4)運動頻度 女子②休み時間等運動頻度 図5 と 6 は、休み時間等運動頻度について、校種 ごとの変化を男女別に比較したものである。休み時 間等運動頻度では、校種が上がるにつれて「運動し ない」と回答した割合が増加傾向にあった。特に高 等学校の女子においては、「運動しない」との回答が 半数以上を占めた。 また、男女について見ると、小・中・高等学校の すべてにおいて、「週3 日以上」と回答した割合は、 女子よりも男子の方が高い数値を示した。 (図5)休み時間等運動頻度 男子 (図6)休み時間等運動頻度 女子 ③登校前、下校後の運動頻度 図7 と 8 は、登校前、下校後の運動頻度について、 校種ごとの変化を男女別に比較したものである。登 校前、下校後の運動頻度では、校種が上がるにつれ て「運動しない」と回答する割合が増加し、高等学 校では男女ともに半数以上を占める結果となった。 特に女子では、67.5%の子どもが登校前や下校後に 「運動しない」と回答した。 (図7)登校前、下校後の運動頻度 男子 (図8)登校前、下校後の運動頻度 女子
④土日運動頻度 図9 と 10 は、土日運動頻度について、校種ごとの 変化を男女別に比較したものである。土日運動頻度 では、校種が上がるにつれて「0 日」と回答した割合 が増加する傾向にあった。 また、男女について見ると、小・中・高等学校の すべてにおいて「2 日」と回答した割合は、女子より も男子の方が高い数値を示したが、「1 日」及び「0 日」と回答した割合は女子の方が高い数値を示した。 (図9)土日運動頻度 男子 (図10)土日運動頻度 女子 3-3 朝食喫食状況 図11 と 12 は、朝食喫食状況について、校種ごと の変化を男女別に比較したものである。朝食喫食状 況では、男女共に「毎日食べる」と回答する割合が、 小学校において90%に近い数値を示し、校種が上が るにつれて減少傾向となり、「時々欠かす」「まった く食べない」と回答する割合が増加傾向であった。 (図11)朝食摂取状況 男子 (図12)朝食摂取状況 女子
3-4 睡眠時間 図13 と 14 は、睡眠時間について、校種ごとの変 化を男女別に比較したものである。睡眠時間では、 小学校において男女共に「8 時間以上」と回答する割 合は、70%に近い数値となり最高値を示した。中学 校は「6 時間以上 8 時間未満」と回答する割合が 70% に近い数値となり最高値を示した。「6 時間未満」と 回答する割合は、男女共に校種が上がるにつれて増 加傾向にある。 (図13)睡眠時間 男子 (図14)睡眠時間 女子 3-5 テレビ、ゲーム視聴時間 図15 と 16 は、テレビ、ゲーム視聴時間について、 校種ごとの変化を男女別に比較したものである。テ レビ、ゲーム視聴時間では、小・中・高等学校すべ てにおいて、テレビ、ゲーム視聴時間が「1 時間以上 2 時間未満」と回答した割合が男女共に最高値を示し た。 (図15)テレビ、ゲーム視聴時間 男子 (図16)テレビ、ゲーム視聴時間 女子
4.考察
「運動部・スポーツクラブの加入状況」に着目する と、どの校種においても「所属している」割合は女 子の方が低い値を示した。佐久間(2011)は、「運動 部・スポーツクラブの所属や日常の活動量が低体力 児の出現に歯止めをかけている」と報告しており、 「運動頻度」「休み時間等運度頻度」「登校前、下校 後の運動頻度」「土日運動頻度」を見ると、運動頻度 はどの校種においても男子より女子の方が低いこと がわかる。 また中学校においては、全国平均値と比較すると 運動部やスポーツクラブに加入していると回答した 生徒は、A 県が男子 97.5%、女子 92.9%、全国平均 では男子85.7%、女子 61.2%となり、A 県が上回る 結果となった。しかし、運動頻度では毎日運動して いると回答した生徒は、A 県が男子 78.7%、女子 54.8%、全国平均は男子 82.6%、女子 60.2%となり、 全国平均と比較するとA 県の運動頻度が低い結果と なった(文部科学省,2012)。 これらの結果からA 県では、運動部やスポーツク ラブに所属している子どもは多いが、運動頻度が全 国平均と比較して少ないことがわかる。つまり、A 県の子どもは、運動部やスポーツクラブに所属して いる子どもが多いものの、運動頻度は全国平均値よ り少なく、運動習慣が身についていないことが考え られる。また、運動していない子どもの体力低下が 問題視されていること(中央教育審議会,2008)か らも、運動していない子どもがA 県全体の体力低下 を促進している可能性が考えられる。さらに女子は、 運動部・スポーツクラブの加入状況と運動頻度が全 国平均と比較して特に低くなっている。その為、A 県の女子においては、運動に対する意識が低いこと がうかがえる。 運動習慣の定着が体力向上に結びつく大きな要因 のひとつである(中央教育審議会,1999)ことから、 A 県では運動部やスポーツクラブでの運動機会の増 加や身体活動量の向上が課題としてあげられると考 えられる。 また、生活習慣項目に着目すると「朝食摂取状況」 では、校種が上がるにつれて食べない子どもの増加 傾向がみられ、「睡眠時間」では、校種が上がるにつ れて減少傾向にある。小澤(2009)は、朝食を食べ ない理由として「食べたくない」「食べる時間がない」 が圧倒的に多く、「遅寝遅起き、寝不足、朝食抜きに より体調が悪い、集中できない、気力も体力もない」 と報告し、山合(2012)は就床・起床時刻の遅延が 原因で、朝ごはんを「食べる時間がない」ために毎 日食べる子どもが少なくなると報告している。 このことから、就床時間が遅延することにより、 「睡眠時間」が短くなり、それが原因で起床時刻も 遅くなることで「朝食の欠食」がおきていると考え られる。さらに、これらの生活習慣の乱れが、気力 や体力の低下に繋がっていくのではないかと考えら れる。 A 県においても校種が上がるにつれて生活習慣が 乱れていることがうかがえる。したがって中・高校 生では、生活習慣悪化が体力低下に影響を及ぼして いるのではないかと考えられる。5.まとめ
本研究ではA 県公立小・中・高等学校の児童・生 徒を対象として、新体力テストの実施及び質問紙を 用いて運動習慣等の調査を行った。全国47 都道府県 の中でも最下位レベルにあるA 県の体力・運動習慣 等調査から、小・中・高校生の実態を把握し、低体 力の要因を解明するための基礎的研究を目的とした。 男女校種別に単純集計を行い、A 県における実態 を明らかにした。 分析の結果、男子よりも女子の方が運動部・スポ ーツクラブの加入状況が低く、運動頻度も低いこと が明らかとなった。また、全国平均値との比較の結 果、A 県は運動部・スポーツクラブの加入状況は全 国平均値より高いが、運動頻度は全国平均値より低 いことが明らかとなった。このことからA 県では、 運動部やスポーツクラブに所属している子どもが多 いものの、運動頻度は少なく、運動習慣が身につい ていないことが明らかとなった。生活習慣項目にお いては、校種が上がるにつれて朝食摂取状況、睡眠 時間が低下していることから、A 県では校種が上が るにつれて生活習慣が乱れていることが示唆された。6.参考文献
小澤治夫(2006)子どもの体力向上に関する調査研 究報告書 子どもの体力向上のためのアクティ ブライフづくり(平成17 年度報告書),北海道 教育大学「子どもの体力向上研究会」,p.8 加藤勇之介・入江友生・合田浩二(2006)6 か年一 貫教育カリキュラムの構築に向けて(1),筑波大 学付属駒場論集46 集,pp.123加藤勇之介・入江友生・合田浩二(2006)本校で行 われている姿勢授業について‐55 期生からのア ンケート結果から考察する‐,筑波大学付属駒 場論集46,pp.197~201 加藤勇之介・早貸千代子(2013)養護教諭とともに 行う食育実践報告,筑波大学教育学会編『筑波 教育学研究』第11 号,pp.19-40 加藤勇之介(2012)中高一貫校でのからだつくり目 標値,筑波大学附属駒場論集52 集,pp.129-135 財団法人日本学校保健会(2012)平成 22 年度児童生 徒の健康状態サーベイランス事業報告書 鈴木宏哉・西嶋尚彦・鈴木和弘(2010)小学生にお ける体力の向上に関連する基本的生活習慣の改 善:3 年間の追跡調査による検証:発育発達研究 第46 号 pp.27-36 樽谷将志,小林博隆,林正孝,二瓶明紀,中嶋由佳, 小澤治夫,石井好二郎,鈴木和弘,西嶋尚彦 (2007)子どもの体力向上に取り組んだ学校の 特徴発育発達研究Vol.2007 No. Supplement, pp. 71 中央教育審議会(2002)「子どもの体力向上のための 総合的な方針について(答申)」pp.1-40 中央教育審議会,子どもの体力向上のための総合的 な方策について(答申),1999. 文部科学省(2012)子どもの体力向上のための取組 ハンドブック,文部科学省 この研究は笹川スポーツ研究助成を受けて実施した ものです。