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学位論文の要旨 Abstract of Thesis

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Academic year: 2021

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R1:様式甲/Style Kou 2-1

学位論文の要旨

Abstract of Thesis 研究科

School

環境生命科学研究科

専 攻

Division

環境科学専攻

学生番号

Student No.

77429203

氏 名

Name

松本 哲也

学位論文題目 Title of Thesis(学位論文題目が英語の場合は和訳を付記)

Pre-pollination reproductive isolation allowing the species coexistence of the genus Arisaema (Araceae)

( サトイモ科テンナンショウ属複数種の共存を支える受粉前生殖隔離 )

学位論文の要旨 Abstract of Thesis

植物種の多様性は,生態系機能を安定させることで人類に様々な利益 (生態系サービス) をもたら す.その維持機構を理解することは,持続的な生態系サービスの利用を考えるうえできわめて重要であ る.顕花植物では,種間での花粉のやり取り (送粉) が浸透性交雑や繁殖干渉を介して種の存続を脅か す可能性がある.種間送粉で生まれた雑種個体の適応度が両親種と同等である場合,中間形を示す雑種 個体が両親と戻し交雑を繰り返すことで種の境界が消滅する (浸透性交雑).一方で,雑種個体の適応度 が著しく低下する場合,不適応な雑種の生産に両親種の繁殖への投資が浪費されることで個体群の成長 率が悪化する (繁殖干渉).どちらのプロセスも急速に種を絶滅に導き得るため,送粉が生じる範囲内で の近縁複数種の共存は,種間送粉を防止する機構 (受粉前生殖隔離) によって実現する.

受粉前生殖隔離としては,①生育場所の種間差 (生育環境隔離),②開花時期の種間差 (季節的隔離),

③花粉を運搬する動物の種間差 (送粉者隔離) が知られている.顕花植物の大半は送粉を動物に依存す ることから,受粉前生殖隔離を構成する障壁のなかでも,③送粉者隔離は主要な役割を果たすと考えら れる.これまで,ハナバチやスズメガ,ハチドリなどの比較的大型な動物による送粉者隔離が広く注目 を集めてきた.しかし,幾つかの植物群で重要な送粉者とされる微小な昆虫については,野外での訪花 行動の観察や定量評価が困難であるため,送粉者隔離への寄与が充分に検証されてこなかった.

微小な双翅目昆虫が送粉するサトイモ科テンナンショウ属は,トラップ状の特徴的な花序を持ち,簡 単な実験処理によって全ての訪花昆虫を採取可能であるため,微小な昆虫による送粉者隔離の定量評価 に適した材料である.さらに,日本列島に自生するテンナンショウ属 53 種は分布域の各地でさまざま な同属他種と混生するため,豊富な種の組合わせを対象に受粉前生殖隔離を検証・比較できる.本研究 ではこれらの特性に注目し,植物種の共存に対して微小な送粉昆虫が果たす役割を検証することを目的 に,テンナンショウ複数種が混生する3調査地で①生育環境隔離,②季節的隔離,③送粉者隔離を網羅 的に評価した.

まず,種間送粉によって浸透性交雑を起こし得るユキモチソウ–アオテンナンショウ間で生殖隔離を 調べたところ,生育環境に明瞭な種間差は認められなかったが,開花時期が種間で大きく異なっていた (②季節的隔離).さらに,人為的に開花時期を重複させた条件下で訪花昆虫相を比較した結果,ユキモ チソウへ大量の菌食性昆虫 (ショウジョウバエやハネカクシなど) が訪花していた一方で,アオテンナ ンショウへはキノコバエ科の一種のみが選択的に訪花していた (③送粉者隔離).したがって,年ごとの 気象条件の変動などによって種間での開花時期の重複期間が長くなったとしても,対照的な訪花昆虫相

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R1:様式甲/Style Kou 2-2 Name 松本 哲也

による③送粉者隔離が効果的に種間送粉を抑止すると考えられた.

次に,種間送粉によって繁殖干渉を起こし得るハリママムシグサ–ムロウテンナンショウ間で生殖隔 離を検証した.調査地において両種は非常に近接して生育しており,明瞭な①生育環境隔離は存在しな いと考えられた.開花期には若干の種間差が認められたものの (②季節的隔離),各種の開花期間長のお よそ半分が重複していた.2種とも主要な訪花昆虫はキノコバエ科であったが,それぞれの種には特異 的なキノコバエが誘引されていた (③送粉者隔離).したがって,強固な③送粉者隔離が比較的弱い②季 節的隔離を補うことで種間送粉を抑制していると考えられた.

最後に,浸透性交雑もしくは繁殖干渉を起こし得る多様な種の組合わせを含むテンナンショウ5種 (計10組合せ) が混生する場所で生殖隔離を検証した.幾つかの種間では,強力な①生育環境隔離と② 季節的隔離が検出されたものの,種の組合せによってその強度は大幅に変動した.対照的に,テンナン ショウ5種にはそれぞれ異なるキノコバエ類が訪花しており,全ての種間で極めて強固な③送粉者隔離 が存在することが示された.

以上の結果から,本研究で対象とした種の組合わせ 12 組の全てで,強固な③送粉者隔離が存在す ることが明らかになった.このうち 11 組では,微小な双翅目昆虫であるキノコバエ類が種特異的に訪 花することで③送粉者隔離が成立していた.したがって,微小な送粉昆虫による③送粉者隔離が,①生 育環境隔離や②季節的隔離と組み合わさって効果的に種間送粉を抑制することで,テンナンショウ属複 数種の共存が実現していると考えられた.送粉を担う微小昆虫は,キノコバエ類の属する双翅目以外に も鞘翅目や総翅目で知られており,それらに繁殖を依存する植物もきわめて多様である.本研究の結果 は,微小な送粉昆虫が駆動する植物種の共存機構が自然界に広く存在する可能性を示唆している.

参照

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