博 士 ( 医 学 ) 張 険 峰
学位論文題名
Cellular requirement for CRMl import and export
(輸送担体CRM1 の核一細胞質問移行に関する細胞因子)
学位論文内容の要旨
核ー細胞質問分子流通の場である核膜孔複合体(nuclear pore complex:NPC)は約125MDaに も及ぶ巨大な超分子構造体である。この複合体が核と細胞質の間の厳密なバリアーとして機能 し、細胞内の多くの蛋白質はこの核膜孔複合体を自由に通過できない。核膜孔を通過する蛋白 質の多くは細胞質から核に局在化するためのシグナル(nuclear localization signal: NLS) や核から細胞質に局在化するためのシグナル(nuclear export signal:NES)を分子内に持つ。
NLSやNESを認識して核膜孔を通過する能カをもつ分子群は輸送担体(transport factor)と 呼ばれる。
現在知られている核ー細胞質問輸送経路をいくっかのクラスに分類することができる。最も 大きなクラスはImportin、Exportinと総称されるImportinロ様輸送担体で担われる輸送経路 である。Importinロは、細胞質でNLSを持っタンパク質、NLS受容体であるimportinaととも に核膜孔ターゲッティング複合体を形成し、核内に移行する。移行した複合体は、GTP結合型 の低分子量GTPase Ranの作用により解離し、運搬されたタンパク質が核内に遊離し、一連の核 内輸送が終結する。一方、Exportinに属するCRM1の場合、核内でNESを持った分子を認識し、
Ranとともに三者複合体を生成する。CRM1の核膜腔タンパク結合活性により三者複合体は核膜 孔を通過して細胞質に出ていく。細胞質でGTP結合型RanがGDP結合型に変換されることが引 き金となって複合体は解離し、輸送は終了する。
Importinロ自身は単独でNPCを双方向に移動する能カを持つ分子であることが分かってきた が、CRM1自身の核内外の移行機構は不明である。本研究では、マイクロインジェクションを利 用したin vivo輸送系とセミインタクト細胞を用いたin vitro輸送再構成系を使用し、CRM1 自身がどのように核膜孔を通過するのか調べた。
まず、我々は、蛍光標識したりコンビナントCRM1をセミインタクト細胞において、氷また は30℃で30分間、反応させた。CRM1は可溶性因子の非存在下ですみやかに核内へと移行し た 。また 、HEL細 胞の細胞質に微量注入したCRM1は、37℃または氷上で30分間反応後、核 内に集積した。さらに、CRM1の核内移行は小麦胚芽レクチンの前処理により阻害された。これ らの結果より、CRM1は温度には関わらずに核膜腔を経由して核内に移行することが示唆された。
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次 に 、CRM1の 核内 移行 に おけ るATPやGTPの加 水分 解よ り生 じ るエ ネル ギー の必 要性を調べ た 。In vitro輸 送 系 に お い て 、ATP再 生 系、ATP analogues (AMP−PNP)とATP加水 分 解酵 素 (apyrase)を 加え たと ころ 、CRM1はい ずれ の条 件 にお いて も同 様に 核 内に 集積 する こ とが 認 め ら れ た 。 ま た、in vivoの 系で 、NaN3,2−deoxyglucoseでATPを 枯 渇さ せた 細胞 質 にCRM1 を注入したところ 、正常時と同様に核内へ移行した。RanGTPase依存性を調べるために、in vitro.
輸 送 系 に 野 生 型のGTP結合 型Ran、 およ びRanの 変 異体 であ るQ69LRanGTPを 添加 した と ころ 、 CRM1は い ず れ のRanを 添加 し ても 、す みや かに 核 内に 集積 した 。し た がっ て、CRM1の 核内 移 行にはエネルギー を必要としないことが分かっ た。
CRM1はimportinロ とよ く 似た 分子 であ る 。両 者が 同じ 経路 で 核膜 孔を 通過 する のかどうか 調ぺ た 。In vitro輸 送系 で 、螢 光標識したCRM1の核内 移行が、非標識したCRM1およ びimportin ロに よ って 競合 的に 阻害 さ れた 。逆 もま た 同じ で,importin口 の核 内集 積がCRM1によって阻 害さ れ た。このことから、CRM1の核膜孔通過経路はimportinPの経路と一致すると考 えられる。
さ ら に 、CRM1が ど の よ う に 核 ― 細 胞 質 問 の シ ャ ト ル す る か を 調 べ る た め に 、HVJ (Hemagglutinating Vir.us of Japan;センダ イ、ウイルス)を用いて、HEL細胞を融合し、多核 細 胞 を 調 製 し た 。 螢 光 標 識 し たCRM1を ー つ の 核 に 注 入 し 、37℃ で、30分 問 反応 させ 、CRM l局 在の 変化 を 観察 した 。反 応後CRM1は融合細胞内の全 ての核内に検出された。す なわち、CRM 1は 核 外 移 行 して から 、再 び 核内 に移 入し た。 次 に、NaN3,2−deoxyglucoseによ りATPを 枯 渇さ せ た融 合細 胞にCRM1を イン ジェ クシ ョ ンし ,そ の細 胞内 局 在を 観察 する とCRM1は注入さ れ た 核 の み に 留 ま っ た 。GTP結 合 型RanやNES−BSA等 をCRM1と 共 注 入 し て も 、CRM1の 核 外 移 行 は 回 復 し なか っ た。 さら に、 単独 のCRM1とCRM1―NES−RanGTP三 者複 合体 を区 別 する た め、NESとの 結 合阻 害剤 であ るレ プ トマ イシ ンB(LMB)で 処理してから、CRM1を注入 した。やは り、CRM1の 核外 移行 が見 ら れな かっ た。 従 って 、核 内移 行と 異 なり 、CRM1自 身の 核外移行に はATPが必要であっ た。
以 下の よう に要 約で き る。CRM1はimportinf3経 路に より 、 単独 で核 内移 行す る能カを持 つ。CRM1の核内移 入にATPは必要ないが核外移 行には必要である。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Cellular requirement for CRMl import and export
(輸送担体CRM1 の核一細胞質問移行に関する細胞因子)
本論 文で はCRM1自 身の 核内 外の 移行 機 構の 解析 を目 的と して 、マ イク ロインジェク ションを利用したin vivo輸送系とセミインタク ト細胞を用いたin vitro輸送再構成系を 使 用し 、CRM1自 身が どのように核膜孔を通過 するのか調べた。in vitro輸送再構成系ま た はめvivo輸送 系に おい て、CRM1核内 移 行に おけ る温 度依 存性 を調 べた 結果、CRM1は 温 度に は関 わら ずに 核膜 腔を 経由 して 核 内に 移行 する こと が示 唆さ れた 。In vitro輸 送 系 で 、CRM1はATP再 生系 、ATP analogues (AMPーPNP)とATP加水 分解 酵素(apyrase) を 加え たい ずれ の条 件においても核内に集積 することが認められた。また、加vivoの系 で 、ATPを 枯 渇さ せた 細胞 質に 注入 され たCRM1が 、正常時と同様に核内に移行した。珈 vitro輸 送 系 に 野 生 型 のGTP結 合 型Ran、 お よ びRanの変 異体 であ るQ69LRanGTPを添 加 し た と こ ろ 、CRM1はい ずれ のRanを添 加し ても 、す みや かに 核内 に集 積し た。 した が っ て 、CRM1の 核 内 移 行 に はATPやGTPの 加 水 分 解よ り生 じる エネ ルギ ーを 必要 とし な い こ と が 分 か っ た 。さ らに 、伽vitro輸送 系で 、螢 光標 識し たCRM1の 核内 移行 が、 非 標 識 し たCRM1お よ びimportinロ に よ っ て 競 合 的に 阻害 され たこ とよ り、CRM1の核 膜 孔 通過 経路 はimportint3の経路と一致すると 考えられた。 さらに、CRM1がどのように 核一細胞質問のシャトルするかを調べるために、HVJ (Hemagglutinating Virus of Japan; セ ンダ イウ イル ス) を用 いて 、多 核細 胞 を調 製し た。 螢光 標識 したCRM1をーつの核に 注 入し 、CRM1局 在の 変化 を観 察し た。CRM1は 複数の核内に移行した。こ の結果は、CRM 1が核 外移 行 して から 、再 び核 内に 移入 した こと を示 して いる 。次 に 、ATPを枯渇させ た 多 核 細 胞 にCRM1を 注 入 し て 局 在 を 観 察 す る と、CRM1は注 入さ れた 核に のみ 留ま っ た 。GTP結 合 型RanやNES―BSA等 をCRM1と 共 注 入 し て も 、CRM1の 核 外 移 行 は 回 復 し な かっ た。 さら に、 単独 のCRM1とCRM1ーNES−RanGTP三者 複合 体を 区 別す るため、NES と の 結 合 阻 害 剤 で ある レプ トマ イシ ンB (LMB)で細 胞を 処理 して から 、CRM1を 注入 し ‑ 661‑
馬 郎
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た。やはり、CRM1 の核外移行が見られなかった。従って、核内移行と異なり、CRM1 自 身の 核外移行 には ATP が必 要である 事が分か った。発表 の後、長 嶋和郎教授から
「 ATP 一 independent な 核 内 移 入 の 例 と 機 構 」 「 核 外 移 行 に お け る ATP 要 求 性 の 理 由 」 に つ い て 質 問 が あ っ た 。 ま た 、 志 田 壽 利 教 授 から「ウイルスの研究における核内外移行の基礎研究の意義」、田中一馬教授から
「 CRM1 単 独、また NES との複合 体のそれ ぞれの場合の核外移行時の ATP 要求性」の 質問 があった 。申請者はImportinB の例やRibbeck とGorlich の 'Selective phase roodel を引用し、かつ自身の考えを交えて答えた。質疑に対する応答は概ね妥当であっ た,
この 論文は,顕微注射を利用したin vivo 輸送系とセミインタクト細胞を用い たin vitro 輸送再構成系を使用し、 CRM1 自身がどのように核膜孔を通過するのか調べた 点が高く評価され, rnv 等の増殖分子機構の解明並びに新たなウイルス治療法に対して 役立っと期待される,
審査員一同は,これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位など も併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した,
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