博 士 ( 医 学 ) Md Mizanur Rashid
学 位 論 文 題 名
メラノーマ癌細胞転移におけるOsteopontin と Typel コ ラ 、 ー ゲ ン の 協 調 作 用
学位論文内容の要旨
生命 を脅 かす 癌細 胞の 重要 な性 質の ひと つで ある 転 移は 、細 胞の 癌化 と共 に克服すべき 重 要な 課題 とな って いる 。癌 細胞 の転 移は 、癌 細胞 の 細胞 外マ トリ ック スと の接着、基底 膜 蛋白 質の 分解 、血 管外 遊走 、転 移巣 の形 成な ど、 多 くの 過程 を経 て成 立す る。マトリッ ク ス ヌ 夕 口 プ ロ テ ア ー ゼ(MMPs) に 属 す るMMP―2お よ びMMP9(gelatinaseA,Bま た は RゆeWcouagenaseと も 呼 お や は 、 基 底 膜 の 主 要 構 成 蛋 白 質 で あ るnゆeNコ ラ ー ゲ ン や 、 フ ィ プ ロ ネ ク チン 、ラ ミニ ン、1ゝ ゆeIコ ラー ゲン 、プ ロテ オグ リカ ンと いっ た細 胞 外 マト リッ クス 成分 を分 解す るこ とか ら、 癌細 胞の 転 移に おい て最 も重 要な 酵素のひとつ で あ る と 考 え ら れ て い る 。 ま た 、 近 年 で は 、 細 胞 外 基 質 の 分 解 だ け で な く 、MMPsに よ る 癌細 胞増 殖、 血管 新生 、細 胞遊 走な ども 報告 され 、 癌細 胞の 転移 に密 接に 関与すると考 え られ てい る。
オ ス テ オ ポ ン チ ン(OnOは、 酸性 のり ン 酸化 糖蛋 白質 で、 細胞 の形 質転 換に 伴い 発現 誘 導 さ れ る 分 泌 性 の 物 質 と し て 同 定 さ れ た 。OPNは 分 子 内 に 保 存 さ れ た ア ルギ こン ―グ リ シ ン ー ア ス バ ラ ギ ン 酸 (RGD) 配 列 を 介 し てavロ1、avロ3、avロ5、Q8ロ1な ど 種 々 の イ ンテ グリ ン分 子と 結合 する こと が明 らか とさ れて い る。 これ まで に、 これ らの受容体と の 結合 を介 して 、細 胞接 着、遊走、細胞の活性化を引 き起こすことが示されている。また、
OPNはRGD非 依 存 的 に 、a9ロ1、a4ロ1な ど の イ ン テ グ リ ン 分 子 や 、CD44と 結 合 し 、 細 胞 接 着 、 遊 走 、 珊11爪12バ ラ ン ス な ど の 制 御 を 行 う こ と が 明 ら か と さ れて いる 。OPN は 癌 細 胞 転 移 に お い て も 重 要 な 役 割 を 果 た す と 考 え ら れ て お り 、 そ の 機 能 がMMPsの そ れ と 重 複 す る 部 分 が あ る こ と か ら 、 両 者 の 関 係 に 興 味 が 持 た れ る 。 本 研 究 で は 、 癌 細 胞 の 転 移 能 に お け るOPNとMMPs(MMP―2とMMP―9) の 関 係 に つ い て、 転移 能が 低く 、静 脈内 投与 によ って のみ 低い 転 移能 (い わゆ る実 験転 移能)を示す B16−Fl細 胞 、 高 い実 験転 移能 にく わえ , 皮下 接種 にて も遠 隔臓 器に 転移 する (自 然転 移 能 )B16−BL6細 胞 を 用 い て 検 討 し た 。 こ れ ら の 細 胞 株 に お け るOPN、MMP―2、MMP―9
の発 現および 口vロ3の細胞膜上発現について、TypeIコラーゲンの存在下および非存在 下 で 比 較 検 討 し た 。 さ ら に 、OPNおよ びRGDを 欠 失 したOPN変 異体 を 発現 す る 組み 換 え アデ ノ ウ イル ス を作 製 し 、OPNの 発現 誘 導 によるMMP一2、MMP―9の発 現変化お よび転移能の変化について検討した。
B16―BL6お よびB16―Fl細胞 のOPNの産生能 を検討す ると、転 移能の高 いB16ーBL6 細胞 で高い発 現が認められた。さらに、B16−Fl細胞では上清中にMMP一9の活性のみ認 め ら れた が 、 転移 能 の高 いB16―BL6細 胞で はMMP‑9にく わえ、MMP一2の活性が 認め ら れ た。 こ の よう に 、転 移 能 の高 いB16−BL6細胞 ではOPN、MMPsい ずれも高 い産生 を 示 した 。IypeIコラ ーゲン存在 下におけ る、OPNおよ びMMPsの産生 能変化を 検討す る と 、B16―BL6細胞で は、OPN、MMPsの産 生増強が 認められ た。一方 、B16ーFl細胞 では 、TypeIコラー ゲンによ りMMPsの産生 増強が認 められた 。従って、 癌細胞は転移 の過 程で生じ るTypeIコラーゲンとの相互作用により、転移に深く関与する因子の産生 を増 強させる と考えら れた。ア デノウイ ルスベクターを用いてB16―Fl細胞にOPNの発 現を 強く誘導 すると、MMP―2およびMMP―9の発現 増強が認 められた。 同時にB16―Fl 細胞の転移能は増強し、実験転移能が有意に増強しただけでなく、自然転移能が新たに獲 得さ れた。こ のようにOPNは、MMPsの産 生亢進を 介して、 癌細胞の転 移を促進すると 考え られた。 興味深い ことに、OPNのこの作 用は、TypeIコラーゲンの存在下にのみ認 め ら れた 。 さ らに 、RGD欠 失 変 異体 を 用い た 検 討から、OPNの作用に はRGDドメイ ン が重要であることが明らかとなった。さらに、癌細胞の活発な増殖により、増殖局所にお けるpHが酸性に 傾斜する ことが明 らかにさ れている 。B16―BL6およびB16―Fl細胞を 酸性 条件下(pH6.1)で 培養する と、いず れの細胞においてもOPNの産生増強が認められ た。 以上から 、OPNは癌細胞が活発に増殖する局所において、酸性条件によりその産生 が亢 進し、細 胞外マトリックスの主要構成蛋白質であるTypeIコラーゲンと協調して、
RGD依存的にNfMPsの発現を誘導し、癌細胞の転移を引き起こすことが明らかとなった。
B16一Fl細胞 の 転 移に お けるOPNの 機能 が 、RGDを介した ものであ ったこと から、
OPNのRGDド ヌ イ ン に 対 す る最 も 主 要な 受 容体 で あ るavロ3の 発現 を 、FACSに よ り 解析 した。B16−Fl細胞上に はB16―BL6細胞 と異なり、TypeIコラーゲン存在下におい ても 、ロ3イン テグリン の発現は ほとんど 認められず、機能的なavロ3受容体を発現し てい ないと考 えられた 。このよ うに、B16ーFl細胞の転移能増強におけるOPN役割とし て 、 RGD依 存 的 か つ avロ 3非 依 存 的 な 経 路 が 新 た に 明 ら か に な っ た 。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
メラノーマ癌細胞転移におけるOsteopontin と Typel コラーゲンの協調作用
この学位論文では、ヌラノーマ細胞の転移におけるOsteopontin(OPN)と細胞外マトリ ッ クス分解酵素(MMP‑2およびMMP‑9)の関連に着目し、同一のメラノーマ細胞株(B16 細胞)に由来し、転移能の異なる2種類のマウスヌラノーマ細胞株、B16‑BL6およびB16‑Fl 細胞を用いて両者の関連について解析した。B16‑Fl細胞は転移能が低く、静脈内投与に よってのみ低い転移能(いわゆる実験的転移能)を示す。一方、B16‑BL6細胞は高い実験 的転移能にくわえ、皮下接種にても遠隔臓器に転移するという自然転移能を有する。両細 胞 株 に お けるOPNとMMP‑2お よびMMP‑9の発 現能 を、 通常 培養 条件下 で比 較検 討し た結果、B16‑Fl細胞に比べて、転移能の高いB16‑BL6細胞でいずれも高い発現を示した。
癌細胞の転移過程において、細胞が癌細胞塊から遊離し、血管内へ遊走するステップは、
重要な過程のひとつであると考えられる。このようなin vivoの状況下においては、細胞 は、周囲に存在し、主としてTypeIコラーゲンから構成される細胞外マトリックスと活発 に相互作用し、また、癌細胞自身の活発な増殖により酸性に傾斜したpH条件下に存在す ることが予想される。B16‑BL6およびB16‑Fl細胞をTypeIコラーゲン存在下および酸性 条件下(pH6.0)で培養し、OPN、MMP‑2、MMP‑9の発現変化を検討した。Typelコラー ゲ ンの 存在 により 、B16‑BL6細 胞ではOPNおよびMMPの強い産生増強が、B16‑Fl細胞 においては、MMPの産生増強が認められた。一方、酸性条件下では、いずれの細胞にお い てもOPNの強い産生増強が認められた。次に、腫瘍細胞が分泌するOPNの機能を探 る 目的 でOPNおよ びRGDドメ イン を欠失したOPNを発現する組み換えアデノウイルス ベクターを作製し、転移能およびOPN産生能の低いB16‑Fl細胞に遺伝子導入した。そ の結果、MMP‑2、‐9の発現増強にくわえ、実験的転移能、自然転移能の増強が認められ
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た。この効 果は、正 常のOPN導入 時にのみ 認められ 、RGD欠失OPNでは認められなか ったことか ら、RGD依存 的な作用 であると考えられた。B16‑Fl細胞上のOPN受容体を 解析したところ、RGDドメインの主要な受容体と考えられるB3インテグリンの発現が、
B16‑BL6細胞と異なり、ほとんど認められないことが明らかとなった。以上から、ヌラノ ーマ細胞の転移におけるOsteopontin(OPN)の作用機構として、次の特徴を有する経路が 存在することを明らかにした。1)細胞外マトリックス分解酵素(MMP‑2およびMMP‑9)の 発現誘導を介し転移を促進する。2) TypeIコラーゲンと協調して転移を促進する。3)OPN のRGDドメイン が重要で ある。4)OPNは 細胞膜上 のav B3以外の受容体に結合する。
この学位論文の公開発表に対して、まず副査の小林教授から、B16‑Fl細胞にアデノウ イルスベクターを用いて外来性にOPN発現を導入することにより認められるMMP‑2、‐
9の発現増強のメカニズムについて、具体的に直接的な相互作用が認められるのかについ て、 ま た、MMPとOPN両 分 子の 発 現 増強 に関し て生体ではOPNとMMP‑2およびMMP‑9 のいずれが上位に位置すると考えられるかについて質問がなされた。次に、副査の小野江 教授からは、TypeIコラーゲンの受容体は何か、抗体等を用いてその作用を阻害した場合、
OPNの作用も消失するかについて、また、複数存在するOPN受容体の中で、最も高い親 和性でOPNに結 合するも のは何か 、さらに、B3インテグリンを発現するB16‑BL6細胞 に対するOPNの作用が、B16‑Fl細胞同様に83インテグリン非依存的なのかどうかにつ いて質問があった。最後に主査の上出教授から、今回見いだされたMMP‑2、―9発現誘導 を介するOPNの作用が、他の癌細胞にも共通にあてはまるかどうかについて、どのよう な考えを持っているか質問がなされた。これらの質問に対し、申請者は日本語や英語の理 解に多少の問題があったが、自らの実験データや文献を引用しっつ、概ね妥当な答弁をな し得た。
この論文は、OPNが癌細胞の転移を促進させる機序として、T、yl竓Iコラーゲンを必要 とする経路が存在することを初めて明らかにした。今後、nゆeIコラーゲンとOPNの協 調作用の詳細が分子レベルで明らかになれば、癌細胞転移の制御法として新たな可能性が 生まれるものと期待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。
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